2007年12月07日

明日の君と逢うために

 私とシナリオの相性が悪いことで定評のある紫だったので最初はあまり興味なかったのですが、原画・シナリオともに今までと布陣を変えてきて、かつそれが私の好みの作品(はるおとね)を書いた人でもあったので、とりあえず体験版をやってみたらあまりの面白さに速攻で買い確定しました。。。

シナリオ(21/30)

 名作になりきれなかった良作ですね。
 とりわけ何が問題かと言えば、やっぱり設定の投げっぱなしということが一番に挙げられるのでしょう。あれだけ神隠しを主題に据えているように見せかけておいて、実は個別ルートではあまりそれが問題にならないというか、問題になっても根本的解決はしないというか、ともかく設定にきちんとした決着をつけていないせいで、シナリオの輪郭がとても曖昧な印象を受けました。
 結局のところ、明日香と咲がなぜ大切な人たちを捨ててまで「向こう」の世界に走らなければならなかったのか、ここの理由付けがあまりに曖昧なせいで、話がぼやけているんですよね。二人に共通する点といえば、掛け値なしの天才であって、またそのせいもあって人付き合いに多少の難がある、くらいのところですが、たとえ自分がこの世界で周りに理解を示してくれる人が少なくて住みづらく、また探究心が強くて、神様の住む世界に対する憧憬があったとしても、それだけを動機にされては残された人たちはたまったもんじゃないですしねぇ。
 まあ二人は天才であるが故に、凡人とは違う地平で物を見ていて、そのせいで置いていかれた凡人たちの葛藤と苦悩を描くことがメインだと納得するしかないってことですかね。

 まあこの部分を除けば、ストーリーの構成はどのルートも堅実で、キャラの絡み方も多岐に渡っていて、とても面白かったといえます。まあ確かに、明日香ルート以外での修司が明日香をないがしろにしすぎではないかというのはありますが、そもそもパッケージヒロインなのに実はストーリー上メインというわけでもないという扱いの時点で、きっとこういう運命なんですよ、明日香は(笑)。
 後は、日常テキストの面白さはかなりのものですね。
 キャラごとの特性が際立っていることで会話にメリハリがあるのももちろんですが、それをよりいっそう素晴らしく見せているのが画面の演出。
 基本的にこういう立ち絵のあるADVだと、ヒロイン同士の会話の場合、誰と誰が喋っているかとか、誰が中心になって会話しているかとか、まあ今までは画面のフォーカスをずらしたり、当事者同士の立ち絵を順々に切り替えたりしてアピールしているのですが、こういう平面中心の演出を一歩抜け出した、擬似三次元の演出を見せてくれたのが今作。
 そもそも普通に並んで歩いているシーンからして、画面が縦向きに動いていたりするし、キャラ絵も拡大縮小は当然、歩み寄ってくる動きや飛び退いて逃げ出す動き、更に後ろ向きの立ち絵を駆使しての、ヒロイン同士の向かい合っての会話、あるいは斜め横からの立ち絵での主人公を含めての輪になっての会話、などなど、すごく場面の雰囲気をイメージしやすく出来ていて、しかもその切り替えが超スムーズ。これが楽しくないはずがないですね、ってくらい凝った演出だと思います。
 
 私の攻略順は、リコ→あさひ→舞→明日香→小夜→里佳でしたが、これはまずまず正解だったかな。攻略制限があって、最初はリコか小夜、最後が里佳固定ですけど、最初に小夜をやっていると後が辛い気がするし、リコルートのオチが違和感バリバリになってしまう気がするので。後はキャラとシナリオの絡みの関係で、舞→明日香と小夜→里佳は続けてやったほうが楽しめると思いますね。
 結局どのシナリオも、そこそこ面白いけど突き抜けるものはないレベルで終わっていますが、強いて一番を選ぶなら舞ルートかな。

キャラ(20/20)

 舞と小夜の強気娘二強が鉄板でした。
 巷でよくいるツンデレとは一風違っていて、付き合い始めてからも必要以上にデレデレすることはないのですが、刺々しい言葉の中に徐々にやわらかい愛情がくるまれてくる雰囲気がとても好きです。
 もちろん明日香もリコもあさひも十分以上に可愛いし、みんな性格に全然嫌味なところがないのがなによりです。特に小夜なんか、ツッコミの95%が毒舌でできているというのに、性格に裏表がないからかかえって微笑ましささえ感じてしまいますよ。

CG(19/20)

 かなり癖のある絵だとは思いますが、『ひとゆめ』のときに思わず絵買いを敢行しそうになるくらい、個人的にこの人の絵は好きですね。立ち絵のバリエーションもさることながら、一枚絵になっても立ち絵との違和感が全くないのがすごい。一つだけ気に入らないのが、一枚絵での目をつぶったときの描き方ですけど、まあそれくらいは些細な問題ですね。
 まあ演出に助けられている部分は多々あるとはいえ、立ち絵のあの躍動感はこの独特の絵と表情のバリエーションなくしては成り立ちませんし、これのおかけで何気ない日常シーンでも三割増しで楽しめたと思います。お気に入りは舞と小夜のびっくり顔と、明日香の呆れ顔、あとリコの怒った顔もかなり好き。

BGM(15/20)

 特に可もなく不可もなく。
 神隠しの島という設定なので、BGMも幻想的なものが多かったと思いますが、もちろん雰囲気にはしっかり合っています。けど、話の盛り上がりを助長するクラスの音楽はなかったかな。強いて言えば、「失われた悲しみ」が好きです。まあもっとも、そこまで盛り上げなきゃならないほどのシーンもなかった気もしますが(爆)。

システム(10/10)

 まあこれに満点をつけずに、どこで満点をつけろというのか、という次元での充実したシステムですね。ここは流石に紫。もっとも、今までの作品ではそんな演出力を全てシナリオとテキストが台無しにしていたせいで目立たなかったですが、このくらいのレベルのテキストだと途端に生きてくるから不思議ですね。
 にしても、ほんとに背景のロールとか、人物のスウェー&カットインとか、もはや芸術的なレベルですよね。セーブも使いやすいしスキップも超速だし、文句のつけようがありません。

総合(85/100) 

 総プレイ時間は22〜3時間かな。
 とにかく勿体無いなあというのが最終印象。ほんとシナリオ以外はほとんど完璧なのに。まあライターの狙いが、置いていかれた人達の悲しみと、その過去を振り払って明日へ向かう活力を得ることにおかれていたとしても、この設定の投げっぱなしはなんとも惜しい。少なくとも明日香ルートと小夜ルート、それに里佳ルートは、明日香と咲が「向こう」に行った理由付けをするだけで絶対にもっといいシナリオに出来るはずなのに。
 にしても、キャラとしては舞が一番好きなのは間違いないですが、あの小夜の不幸っぷりを見せられると、どうしてもフラフラっと引き寄せられてしまいますな。小夜が隠し持つ寂しさは、このストーリーの本質を象徴しているといっても過言ではないですしね。
 ・・・まあリコも不幸といえば不幸なんでしょうが、あまりに話が唐突&他ルートでは問題にもならない適当ぶりで少し株を落とすし、明日香はどうしても自業自得じゃない?という思いが抜けないので、感情移入度の高さではぶっちぎりで小夜だったり。そういう意味でも、最初にやると勿体無いかなって思いますよ。まあこれは、二周目でニヤニヤする材料とさせていただきましょう。
 ともあれ、予想通り面白かったけど、決して予想以上ではなかったというのが総括ですね。あまりシリアスに深みはないし、すごい感動とも無縁に近いですが、とにかく雰囲気と演出の出来が素晴らしいので、やってみる価値はあるゲームだと思います。
 しかし、これはシナリオ期待してたので残念といえば残念。この演出力があるのだから、どこかから神ライター引っ張ってこないかなあ、紫は。
posted by クローバー at 18:26| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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