2008年04月15日

この青空に約束を―――

 これの発売当時、まだ私は丸戸さんを知らなかったので、HPのストーリー紹介だけ見て、「絶対買わないよ、こんなベタっぽいの」とか不届きなことを思っていたのですが、体験版をプレイして一発で趣旨替え。。。と言うわけで、私のまるねこデビュー作。

シナリオ(26/30)

 欠点もあるけど、基本的には名作。
 舞台は羽田から飛行機で一時間かかる、日本最南端という設定の小さな島、ただでさえ過疎が進んでいるこの島では、一年後にこの島に展開する唯一の大企業である出水川重工の撤退が予定されており、更なる過疎化が約束されていました。
 その島の唯一の高校、もはや生徒数100人にも満たない小さな学校ですが、そんな学校にも、様々な理由で自宅から通うことが出来ない子供達を受け入れる寮がまだ存在していました。
 その名を、つぐみ寮。
 利用生徒数の漸減から、来年には閉鎖を余儀なくされている小さな寮、この物語は、その寮で島から出て行くまでの日々を過ごす人たちの、ささやかな、それでも大切な思い出作りがテーマとなっています。

 筋立てとしては、まずはじめに寮長の先生を加えてわずか6人で暮らしていたつぐみ寮に突然の転入生が舞い込んできて、だけどその転入生は人とのコミニュケーションを拒絶しており、その頑なな気持ちを溶かすまでが第一部、そして紆余曲折あり、あらためて7人でのバタバタ騒がしい、イベント盛りだくさんの最後の夏の生活を描くのが第二部、そしてそこまでの選択でヒロイン分岐し、初秋から冬にかけてヒロインごとの問題が発生するのが第三部、と言ったところで、その中に、つぐみ寮の早期取り壊しを狙う学園長の陰謀などが絡んできて、キャラによっては壮大な伏線なども用意されており、ストーリーのどこを切り取ってもつまらないところはない、と言い切れるくらいイベントがぎっしり濃縮された、かなり高レベルのシナリオです。

 個別のシナリオ評価は、海己>>凛奈=沙衣里=奈緒子>(茜)>静>>宮穂と言ったところ。丸戸さんの作品には、パッケージヒロインとは別にシナリオ的なメインヒロインが必ず存在しますが、この作品では海己がラスボス、奈緒子が中ボスの立ち位置でしょうか。中でも海己シナリオは、つぐみ寮という舞台設定そのものが海己のために用意されていて、その重すぎる過去を清算してくれる舞台としての役割を果たすので、出来れば最後に攻略推奨です。
 全員攻略すると、「約束の日」がプレイ可能になります。
 これは明らかに泣かせることを狙い済ましたシナリオですが、それまでのルートで主人公やヒロイン達と同じようにつぐみ寮に愛着を持ってしまったならば、必ず琴線に触れる、ある意味反則的な出来ですね。
 
 丸戸さんのシナリオの真骨頂は「人間くささ」にあると私は個人的には思っているのですが、この作品もご多聞に漏れず、実に人間らしい、ささやかな我が儘と、甘えと、そして前に進む強さで成り立っています。それを一番体現しているのが主人公で、確かに馬鹿でスケベでお調子者ですが、いざと言うときに絶対に何とかしてみせる強さを持ったキャラとして書かれています。主人公もまた特定のヒロインと同様、結構痛々しい過去を背負っているのに、紆余曲折はありつつもそれを他人を守る強さに上手く転換できるので、素直に応援したくなりますね。

 ですが、欠点もないわけではなく、ここで一番問題になるのはやはり舞台設定の曖昧さと、その危機管理の甘さ、ということになるでしょうか。
 基本的にこの作品は、主人公たちが約束された別れの日まで、つぐみ寮でささやかに暮らしていきたいと願うのに対して、学園長と教頭が、跡地にリゾートホテルの建設を誘致するために予定より早めにつぐみ寮を潰そうとたくらむ、いわば主人公達と利害で対立する“悪役”として書かれています。
 その企みを、生徒会長の奈緒子を筆頭として色々悪巧みして跳ね返す、というのはシナリオの展開としては面白いのですが、ですが実際問題無理がありすぎるんですよね。。。
 まあ一番の問題は相互の理解と対話の不足に尽きるわけですが、立地条件が問題なだけなら、例えばつぐみ寮を潰す代わりに違う場所に寮を用意するとか、いくらでも穏便に解決する手段がありそうに思えるんですよね。
 それに、学園側としては寮を廃止する名分ならば正当なものを持っているわけだし、問題が複雑化した段階ではともかく、もっと早い時点なら絶対に可能な手段を取らずに、あんな姑息でみみっちい嫌がらせばかりしてくると言うのは、それこそ利権が目当てだけの小者ならともかく、真剣に島の未来を憂いていると明言している人のやり方としては、ぶっちゃけ有り得ないでしょう。
 まあそれは百歩譲るとしても、今度はその企みから寮を守る立場の主人公達の脇の甘さ、これはちょっと目に余ります。ちょっとでも隙を見せたら負け、とか言ってるくせに、堂々と庭で酒盛りする学生がどこにいるというのか。。。学生が酒を飲むことそのものについて重箱の隅をつつくように文句を言うつもりは少しもないですが、シナリオの設定を考える以上、飲酒に限らず学生としてタブー視されることは慎むのが筋のはずですが・・・、まあそのあたりのモラトリアム時代特有の、誘惑に揺れ動く甘さそのものも仕掛けの一つと考えるべきなのでしょうかね。まあ、主人公達の目標が、廃寮まで“楽しく”暮らすことである以上、やりたいことを我慢してまで逼塞して暮らすつもりはない、というのも理解できなくはないんですがね。
 その上、特定のヒロインのルートを除いては、学園長サイドの嫌がらせは後半完全に影を潜めてしまうので、このあたりが引っかかった人にとっては、「約束の日」の台詞が白々しく聞こえるかもしれませんね。

 というわけで、話の大前提に引っかかりはあるものの、そこを深く気にしなければ間違いなく主人公たちと一緒に、笑い、泣き、楽しみ、悲しむことが出来る、素晴らしい作品です。丸戸さんのテキストは、読者を共感させることにおいては右に出るものがいないレベルですからね。

キャラ(20/20)

 海己の献身ぶりが神です。
 普段はべったり主人公に依存しているように見えて、どのシナリオにおいても、主人公をいざというときには影から支えてくれる稀有な幼馴染、しかしてその献身ぶりの理由が自分のルートで明らかになったら、もうとても他のヒロインには浮気できなくなります。。。
 まあ確かに性格的にはかなり「めんどくさい」ですし、万人受けするイメージではないので、メインシナリオを担うヒロインとしてはどうかな?と思わないでもないんですが、少なくとも私個人的には大ヒットでしたので何の問題もありません。普段の日常の喧騒への埋没ぶりも好きですが、奈緒子ルートや静ルートでの活躍は目頭が痛くなりますね。「そんなの、私のせいじゃないもん」は反則的な破壊力です。
 だからこそ、海己ルートでの「嵐の夜」〜「超カミングアウト」の流れは死ぬほど大好きですね。

 宮もかなり好きです。お嬢様のくせにそれを感じさせない言動、でも根っこのところは恐ろしいほど素直で、真っ直ぐ甘えてくるのが可愛すぎます。個人的に、草柳順子さんの最ハマリ役だと思っていますし、おそらくこれからもこの評価が覆ることはないんじゃないかと思います。「だぁ〜って、」とか「あいたぁっ!」とかの、甘ったるい台詞が好きすぎて、つい何回も再生してしまいますね。自分のルートでの、ほぼ告白に等しい構って発言も大好きです。

 その他ヒロインもそれぞれ魅力はありますが、流石に上の二人よりは落ちるかな。あと個人的に静はちょっと苦手。
 それと、結構各所で言われていますけど、やっぱり凛奈と奈緒子の声は微妙ですね。宮は別格、沙衣ちゃんと茜は抜群だと思いますが、海己と静にはやや違和感がなくもない、と、CV的にはややブレがあるかも。

 まあでも、この作品はヒロイン個別で見る以上に、つぐみセブンの仲間としての魅力のほうが強かったりもしますし、主人公もかなりのいいキャラだし、サブキャラもしっかり存在感があるしで、キャラ的には文句の付けようはないラインナップですね。

CG(17/20)

 色々と評価の難しい絵。。。
 いや、基本的には上手い絵だと思うし、特に感情の機微の表現については相当のものだと思うんですけど、いかんせん安定感がイマイチ。これは単純にキャラごとの比較でもあり、同じキャラでも絵によって・・・の比較でもあります。
 立ち絵は基本的には可愛いですが、ヒロイン別に目の形を描き分けているのか、どうも印象が一定化しないんですよね。個人的には丸目に近いほう、ぶっちゃければ海己と茜が好みです。何故か凛奈と静が微妙に感じるんですよね・・・。
 が、一枚絵ではこれと逆の現象がおこり、凛奈は比較的どの絵も安定して可愛く見えるのですが、海己の絵があんまり安定しているように見えないんですよ。ぶっちゃけ立ち絵と印象が違うんですよね。まあそれでも可愛い絵は沢山あるんですが。

 とまあ、ゴチャゴチャ言いつつも決して苦手なわけではなく、むしろ好きな部類なんですが、いざ言葉にして評価しようと思うとどうにもまとまらない、なんとも微妙な絵柄だと思っている次第。。。大きく減点の余地も加点の余地もないので、印象そのままでこれくらい。

BGM(20/20)

 名曲の宝庫。おそらくエロゲに限定すれば、私がプレイした作品で三指に入ります。ちなみに他二つは車輪ともしらば、次点でかにしのとキラ☆キラあたりですかね。
 ボーカル曲は三曲。
 OPの『alleretto〜そらときみ〜』は、正に夏、というイメージが一瞬で湧き起こる、開放感溢れる爽やかな曲です。まあ抜群ではないですがいい曲。
 EDの『さよならのかわりに』は、曲そのものとしては素朴で簡素なんですけど、やっぱり約束の日の合唱バージョンが反則的。歌詞も、それまでのつぐみ寮での生活を綺麗にトレースしていて、かつ未来への誓いが強く刻まれていて、とてもシンクロ率が高いです。
 で、挿入歌の『pieces』が名曲。
 ずばり“想い出”が強くテーマ性として打ち出され、作品内では主につぐみ寮の存続にまつわるエピソードが語られる場面で使われます。約束の日を除いては海己の見せ場でしか使われないので、私の中の印象は海己のイメージソングですね。想い出を回想してのせつなさと、想い出を背負って前に進む強さの両方を見事に表現した名曲です。

 BGMはもう名曲がありすぎて、どれを取り上げていいやら迷うくらい。
 でもやっぱり群を抜いているのは『もう一つの青空』と『春を待つ少女のように』でしょうか。どちらもシリアス目の場面でかかる曲ですが、単にしっとりしているだけでなく、場面によって表情を色々と変えてみせる、どちらもすごく印象度の強い曲です。
 その他にも、『もつれそうなストライド』『two of us seven of us』『calling you』『約束のブーケ』『陽だまりの散歩道』『fragile』『風のアルペジオ』などなど、どれもこれも名曲で、音楽鑑賞としても充分に楽しめる出来ですね。

システム(10/10)

 演出は、当時としてはかなりの出来・・・のはず。
 ぶっちゃけここ二年くらいのエロゲの趨勢で、最も日進月歩だったのが演出面だと思うのですが(そしてその分、インストール容量が増えるという弊害が付きまとっていますが)、だからこそちょっと古い作品を今の感性で判断するのが最も危険な分野ではないかと思っています。
 なので自分なりに当時の印象を思い出しつつ、同時期の多作品などと擦り合わせて評価を決める必要があると思っているわけですが、少なくともこの作品、今現在のものだとしてもさほど遜色のないくらい、しっかりキャラは動くし、時間帯によっての日の当たり方や色の変化にも気を使っているし、派手ではないもののしっかり作りこまれていると思います。

 そしてシステムは言うに及ばず。
 発売から二年経った今でも、このゲームを超える優良なシステムは、少なくとも私がプレイしてきたゲームの中にはないと断言できます。恐ろしく多岐にわたるコンフィグ設定、もちろん選択肢ジャンプも前後ともに完備、スキップも最速かつ、ホイールプッシュで起動できる便利さ、画面右のツールバーでワンクリックでセーブ&ロード可能、というか、ぶっちゃけマウスのワンクリックオンリーでほとんど全てのことが出来るという万能ぶり。
 そして白眉は、おまけのイベント回想。
 Hシーンのみならず、全てのシーンが回想可能という画期的システムのおかげで、セーブを駆使しなくともお気に入りの場面をすぐ見られると言う便利さ。
 完璧です。

総合(93/100)

 総プレイ時間、24時間くらいかな。
 共通ルートがやや長めですが、スキップ機能が充実しているので、それを多用すればもっと短縮は可能かと。個別はそれほど長くなく、一人当たり2〜3時間と言ったところ。まあ内容はぎゅっと詰まっているので、体感的にはあっという間に終わってしまうこと請け合いです。
 2006年発売のエロゲでは、かにしの、もしらばと並んで三本柱を形成する名作です。同じ丸戸さんの神作であるパルフェと比べるとややシナリオに無理とムラが目立ちますが、それでもあらゆる面で高レベルな作品ですし、何回リプレイしてもなかなか飽きさせない中毒性とキャラクターへの共感度はピカイチですので、一度は手にとって見ることをお勧めしますね。
posted by クローバー at 19:50| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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