2008年05月19日

ひまわり

 同人作品だけど、ネット上の評判が物凄いので買ってみた。

シナリオ(29/30)

 噂に違わぬ素晴らしい作品でした。
 作品のサブタイが「ロリっ子宇宙人同棲ADV」なんて、甘ったるい空気を醸し出しているくせに、内容は滅茶苦茶シリアスなSFでしたね。これを、キャッチがいいと捕らえるべきか表題詐欺と捕らえるべきか・・・、そもそも万人受けを狙うにもちょっと外れたキャッチですし、コメントしづらいところなんですが。

 舞台は2050年、いまだ有人月旅行の夢半ばで頓挫している地球において、主人公は二年前のスペースブレーンの墜落事故で家族と記憶の全てを失い、部活の先輩かつ部長である雨宮銀河や同級生兼幼馴染の西園寺明香などの友人に支えられながら、それ以来空っぽになった自分の中身を求めて日々を暮らしています。
 そんなある日、いつものように夜空を眺めていた主人公は、宇宙から地表に墜落してくる何かを発見します。墜落現場に駆けつけた主人公は、居合わせた銀河とともにその謎の機体を調べてみると、なんと中には奇妙な服装の女の子が一人眠っているのでした。
 とにもかくにも、と一晩その女の子を自宅で匿うことにした主人公ですが、翌日目を覚ましてみると、その女の子はなんと、アリエスという自分の名前以外は全てを忘れてしまっており、そんな少女を放り出すわけにもいかず、かくして記憶喪失の二人の奇妙な同居生活が始まるのでした。

 そんな感じで、出だしこそやや強引さが目に付きますが、明香の従姉妹に成りすまして、その実アリエスの動向を探りにきたアクアが登場し、話が進んでいくにつれて、アリエスの正体やその目的などが徐々に浮き彫りになってきて、どんどん話に引き込まれていきます。
 ジャンルはと問われれば、SFでもありミステリーでもあり恋愛物でもあり、と答えるしかないほど、無駄なくシナリオに様々な要素が組み込まれており、終盤に向かうに従って驚愕の連続になります。
 ちなみにこの作品は明確に攻略順序が定められており、最初はアリエス→2048年アクア→2050年アクア→明香で固定です。最初のアリエスと最後の明香の話はそれほどでもありませんが、過去と現在のアクアシナリオは珠玉の出来。特に、2048年シナリオの終盤における、絶望に向かっていると読み手が理解させられた上での、更にその上をいくアクアにとってあまりにも重い枷となる展開や、2050年アクアシナリオ終盤の、アリエスシナリオで読者がミスリードさせられた、スペースブレーン墜落事故の真相解明からの展開などは正に鳥肌ものです。自らの考える最上の愛の形に殉じたアリエスの驚嘆する決意、そこで主人公に迫られる選択は、正にこの物語の主題の一つであり、どちらを選ぼうとも明確な正解ではなく、そして明確なハッピーエンドでないところにこのシナリオの凄みを感じます。個人的には、アクアシナリオだけなら満点を付けてもいい出来でした。
 一応の減点の理由は、アクアシナリオでほぼ明らかになった、含み置かれた真相をかなり無視する形で明香シナリオが進行するからですが、これはアクアシナリオが凄すぎたせいで、それと比較しての話で、ここまでが過去の精算の話ならば、明香シナリオは唯一最初から未来だけを見据えている話であって、作品を大枠で考えるならば確かに正しい展開とも思えるのですね。
 しかししかし、過去の真相に触れることなく未来に進んだ代償が、最後の最後でひっそり告知されて終了、というのはやっぱり消化不良ですよねぇ。まああからさまに続編の含みがあるとは思うのですが、そこでまた微妙に解けない謎を放り投げていくあたりが性質が悪いです。こんなの、絶対続編買っちゃうじゃないですか(笑)。
 あと葵のHシーンがなかったのが(黙れ)。。。

 当然のようにあまりネタバレしては面白みがなくなってしまう作品なので、感想で書けるのはこれくらいですが、読み終えた後も色々考察してみたくなるところが沢山あって、すごく後を引く作品です。とにかくアクアシナリオは衝撃的に面白かったですね。

キャラ(20/20)

 おのおのヒロインにせよサブキャラにせよ、物凄くアクの強いメンバーなのですが、そもそもシナリオが物凄く力強いせいで、このくらいでないと逆にシナリオに食われてしまうのでしょう。そういう意味でもよく出来たキャラ造詣だと思います。
 
 どうしてもシナリオを見てしまったらアクアに肩入れせざるを得ないのですが、それでも敢えてNo,1ヒロインには葵を推したいですね。
 パッケージに出てこない、ある意味隠れヒロインではありますが、あまりに癖のありすぎるキャラの中で、かなり普通に女の子している葵はめっちゃ魅力的に映りますね。残念ながら出番は少ないですけど。顔を真っ赤にして照れている立ち絵が凶悪すぎます。
 もちろんアクアも凄く魅力的です。
 元来誰よりも素直な心を持ちながら、幼い頃からの排他的な扱いと、あまりに不憫すぎるくらい報われない想いを背負ってしまったことで、ガチガチに心を凍らせている女の子。とりあえず、アクアの「幸せになりたい・・・」という慟哭をアリエスが真っ向から否定するシーンは、もう心底アクアに同情しますね。もちろんアリエスの言い分もわからないではないですけど、でもやっぱりアリエスの愛に対する考え方は歪んでいると思います。読者的にも、アリエスの本音が最後まで見えにくい以上、感情移入しにくいのではないかなと思いました。そういう意味では、一番報われていないのはアリエスなのかもしれませんね。

 明香の魅力はその健気さですかね。
 形はアクアたちと違えど、ずっと愛に飢えて生きている明香にとって、主人公の側で暮らす日々は逃避であるように見えつつ、その実は自身が臨む未来への最短距離であったりもして、その心情は複雑なのですが、一つ言えるのは、過去に囚われ続ける主人公を、無理矢理自分の臨む未来へと引きずっていくことなく、自分の想いに追いついてくれるまでずっと側で待っているという選択が、物凄く儚く可愛げにうつるのですよ。

 サブの男キャラも魅力のありすぎる人ばかりですが、強いてあげるなら宗一郎ですかね。アクア曰く、中途半端な善人の成れの果てはあまりに苦渋に満ち溢れていたものでしたが、それでも最後まで自分の信念に殉じて行動したあたり、その内容の是非はおいても、立派に生きた人だなあと感じさせますね。

CG(16/20)

 表題どおり、やや幼い印象が強い絵柄です。
 可愛らしさを前面に押し出しているので、シナリオの内容とも相俟って、恋愛方面に進まないイメージを最初は受けますが、各ヒロインルートに入ると、そのヒロイン限定で新しい立ち絵が解放され、ちゃんと恋愛ものっぽい雰囲気になります。ただし、どのキャラも二つの立ち絵にギャップを感じてしまうのは欠点ですね。二面性、という以前にやや別人に見えますし。。。
 
 一枚絵は、枚数は少ないですが出来は上々。
 この絵師さんは、表情の描き分けが上手いですね。情感がたっぷり滲み出ていて、凄く印象が強いです。個人的に一番好きなのは、明香が情事のあとベランダでタバコを燻らす一枚ですかね。あの絵に込められた明香の何とも言えない充足感が、無条件に見ているほうまで幸せにしてくれます。
 文句があるとすれば、Hシーンの絵が少なすぎるのと、葵の一枚絵がラストのアレしかないということくらいでしょうかね。シナリオの所でも書いたけど、葵のHシーン欲しかったな〜。テキスト上情事そのものはあったことが明確なんだし、タイミングを選べば差し込めないことなかっただろうに。

 あと、背景画がちょっと弱いかな。

BGM(18/20)

 自主制作ではないとのことで、ある程度減点しましたが、音楽の出来そのものは素晴らしいですね。曲数も驚きの70曲、しかも名曲が揃ってます。まあどっかで聞いたことがあるようなのも少なくないですが。。。

 ボーカル曲はなし。
 BGMは神曲がかなりありますね。
 『アゲハ ”MEMO”』は、概ね驚愕の事実が明らかになるシーンで多用された曲です。序盤の緊迫感、そして終盤の哀愁の漂う雰囲気は、正に絶望の事実に直面したときに相応しいです。何回も引き合いに出してますが、アリエスとアクアの対立の場面での印象が一番強いですね。
 『she didn`t cry』も印象に残る曲です。
 柔らかい出だしから、包み込むような旋律が広がって、誰かの胸の中で頭を撫でられている、そんな雰囲気がする曲です。明と大吾の対決シーンの終盤での、真情を吐露するときに流れるのが、本来は救われない場面なのに、何故かそれが許されていくようなイメージを感じさせますね。
 『想いを彼方へ』もかなり好きな曲。
 アクアと大吾がひまわりから飛び立つシーンの曲ですが、ようやくくびきから放たれて、未来へ向けて走り出せる、そんな幸せと、ちょっとした焦燥感がいっぱいに詰まった曲です。この後に訪れる、再度の絶望を鑑みるとすごく皮肉に感じられてしまいますが。。。

 その他でも、『shooting star』『mf−星空の下−』『最期に君がいた』『桜の降る街...short life』『朝凪』『白銀の天空(そら)』『咲けない花』などなど、印象に残る曲が粒揃いです。
 2048年編でのバックミュージックに使われている打ち込み系の中にもいい曲は多いですね。単調な分深みはないですが、宇宙空間のイメージとしてはそんなに間違ってないですし、出だしのインパクトが強くて記憶に残るものも多かったです。特に『piano2_004』『piano2_007』『piano3_001』『piano3_003』などがお気に入りです。

システム(7/10)

 演出は目立った部分はないですね。立ち絵がちょっと動くくらいで。
 基本的にテキストと背景画のインパクトで勝負していて、まあそれ自体はそこそこ成功しているので、問題はないとは思います。

 システムは良好。
 メニュー画面でのカーソル固定は便利なようで不便だったりしますが、その他は特に問題なし。スキップもそこそこ速いし、セーブも使いやすいです。特筆すべきは、バットエンド時に、タイトルに戻る前に選択肢バックが出来ることですかね。意外と即バットの多い作品ながら、この昨日のおかげで無闇にセーブ&ロードを多用しなくて済むので快適でした。

総合(90/100)

 総プレイ時間15時間ほど。
 CVなしということを考えれば、なかなかのボリュームでしたね。つか、この作品に声があったらやばすぎる。。。
 文句なしの傑作です。これが1300円で買えるとは、まだまだ日本も捨てたもんじゃないですね(大袈裟)。
posted by クローバー at 09:39| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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