体験版で面白かったのと、タユタマ延期したせいで(笑)。結果的に見て大正解。
シナリオ(24/30)
切なきアウトローの鎮魂歌。
主人公は一目見れば誰もが振り返るような美人で、お嬢様学校として名高い学園でも「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。・・・ただし喋らなければ。」と評される孤高の才人。ですが、主人公には誰にも言えない重大な秘密を抱えていました。それは、やむにやまれぬ事情で常日頃から女装をしている男の子である、と言う事。日に日に鏡に映る姿が女の子らしくなっていくことに挫けそうになりつつも、頑張って生きているのでした。
そんなある日、主人公の元に死んだはずの母からの手紙が届きます。その手紙には、身の回りのことで問題がありそうならば頼れと、一人の人物の名前が記されていました。
しかしながら、主人公が調べてみたところもうその人物はなくなっており、係累も娘が一人いるだけ。それでも何もしないよりマシと、その娘、るいが住んでいるという廃墟ビル(笑)を尋ねるのですが、出会っての自己紹介もそこそこに、ビルが火事になり、隣のビルに飛び移って難を逃れたかと思えば、謎のブラックライダーに原付で襲われてさあ大変、何とか逃げ延びたら今度はるいが腹ペコで昏倒と、次々に事件に巻き込まれていきます。
その日はるいを自分の部屋に泊めて食事を与えることで何とか落ち着いた二人ですが、住処を焼き払われてしまって行く当てのないるいを抱え、とりあえずトラブルの種でありそうな昨夜のブラックライダーを探すことに。幸か不幸かすぐに再会を果たしてしまうのですが、そのブラックライダー花鶏は、るいが大切な本の入った自分のバッグを盗んでいったと思い込んでおり、身に覚えのないるいと真っ向から対立、なんとか主人公が仲裁して当時の様子を思い出してもらい、一人の女の子が二人の接触現場を通りかかったことを思い出すと同時に、正にその子が目の前を通過。。。
三人でその少女、こよりを追い詰めたはいいものの、こよりは何とか逃げ出そうとフェンスからダイブ、しかしその先には高さ3mほどの空間があり、咄嗟に助けようとした主人公とこよりはあえなく転落、そこで怪しげなチャイ二〜ズな方々に囲まれている二人の少女、伊代と茜子を発見、その場にいた男達はるいのフライングアタックで撃破はしたものの、何の因果か全員で夜の街を逃げ出す羽目に。
まあこんな感じで、有り得ないほどの偶然と超展開が六人を結びつけ、そして全員がそれぞれ何らかの難しい問題を抱えていることが判明、そこで主人公は、この色々と呪われた世界を打破するために、利害と責任を分担する同盟を結ぼうと提案するのでした。
色々文句は出ながらも、とりあえずやってみようということになった同盟、その夜花鶏の屋敷の大浴場に会した一堂は、みんながみんな体のどこかに同じ形の痣を持っていることに気づきます。その痣こそが、彼女達の世界が呪われたものであると認識させる記号であり、みんなが抱える問題の原点、呪いの印なのでした。
とまあ、序盤のあらすじにしては長くなりすぎましたがこんな感じの導入ですね。ひたすら強引な展開ではありますが、一応最後のほうで、この出会いが偶然ではなく意図されたものだったことが明らかにはなるので、大人しく流しておいたほうが無難かと。
テキストはかなり癖がありますね。わざと冗長にしているというか、言い回しをわざと無駄に華美にしているというか、ともすると地に足がついていない浮ついた印象を与えかねないのですが、序盤はともかく中盤以降はそれなりに落ち着いてきますし、基本的にキャラの絡みが面白すぎるので私としては気にならない範疇でしたね。主人公の頭の回転が速く、一々小器用に小粋なツッコミを返すのと、茜子の普通のそれの三歩くらい斜め上を行く毒舌が斬新で面白かったです。
また六人それぞれの個性がやたら強いくせに、六人揃ったときには上手く集団として機能しているところがよく出来ているなあと感心しました。ウィットを聞かせたつもりがアイロニー漂う滑り方をしている部分も多々ありますが(笑)、全体としてみれば問題のないレベルではないかと。
シナリオはなかなかいいですね。
呪いのせいでいわゆる一般社会に上手く溶け込むことが出来ない悲壮感を所々にスパイスとして効かせながらも、それでも自分の道を信じて前に進む主人公やヒロイン達のそれぞれの奮闘は、ベタではありますけど物語の土台の設定が上手いことでよく見せることに成功しています。
個人的にこの作品で一番気に入っている部分は、個別ルートに入っても周りとの関係性が全く薄れないところですね。主人公が特定ヒロインに男バレしても、呪いの関係からその事実はおおっぴらにされることはなく、結果として恋人関係は日陰に追いやられるので、シナリオの最後まで同盟のみんなで力を合わせる展開が見られるんですよ。その分イチャイチャにはほとんど期待できませんけど、作風からしてもこれで正解だなと思わせる作りこみですね。
シナリオでメインとなるのは、みんなが抱える呪いを最終的には解除することになるのですが、この作品は攻略ルートが決まっていて、呪いに関する事実関係は最終シナリオにならないと明らかになりません。
攻略順は、まず最初はるい固定で、その後が花鶏、こより、伊代(ここは順不同可)、最後が茜子(トゥルーエンド)という形になります。まあ茜子が抱えている呪いを見ればなんとなくわかることではありますが、ともかく最終ルートまでは呪いに関してはヒントが示されるだけで、その問題を途中から棚上げにして各ヒロインルートに入る感じです。
その個別の出来がいいのはるいとこよりですかね。花鶏は本人の性格とも相俟ってイマイチ、というか、このシナリオだけ後々で考えてみるとちょっとした矛盾があったりして、釈然としない部分が多いです。伊代は個別というより、半分トゥルーの前座みたいな形になっているので、面白いは面白いですが消化不良になります。出来ればラス前にプレイ推奨ですね。
んで、実はこの時点まででこの点数を付けることは自分の中で確定していて、後は最終ルートで上積みがあれば名作レベルだなあと思っていたのですが、結論から言うとその期待はやや裏切られました。
話としては上手くまとまってはいますが、どうにも小奇麗にまとめすぎた印象があるんですよね。各ヒロインシナリオでの重要な出来事を上手く組み込みつつ、これまでより一歩早い呪いに対するアプローチを見せて、という展開、面白いんですけどなまじ他のシナリオ見ているせいで先が読める上に、一つ一つのエピソードの肉付けが薄くなってしまっているんですよ。
それでも、最後がよければ問題はなかったんですが、ここが微妙に尻すぼみというか、そもそもなんで何の妨害とかもなくそこに辿り着けるのかが釈然としないんですよね。あれだけ色々と背後関係を煽っておいて、挙句にラスボス臭まで漂わせまくって、それで何にもないというのも肩透かしですよ。折角能力とかあるんだし、るいシナリオクラスの能力戦くらいあってもよさそうな展開だったのに。まあ風呂敷を広げすぎて収拾がつかなくなるよりはよかったのかもしれませんが、加点するほどのインパクトがなかったのも確かです。
あと、個人的にはこの流れと茜子ルートが平行しているのにやや違和感が。まあ確かに、茜子は呪いが解けない限りは攻略できないキャラなのはわかりますが、呪いが解けるからといってくっつく必然性がシナリオの中から見出せなかったです。それこそ、茜子シナリオで悲劇的な展開→ラストでトゥルーシナリオみたいなベタな構図のほうが良かったんじゃないかなと。
でも、全体的に漂わせる退廃的な雰囲気がとても印象的で、その中でのシュールな掛け合いが抜群に面白く、久しぶりにテキストを読み進めるのが楽しい作品でした。このあたりは賛否あるでしょうが、癖はあってもアクはあまりなかったと思うし、こういう独特の言い回しが出来るのも日本語ならではの特色ですから、私は好きですね。その上でシナリオも真っ当でしたし、長さも予想以上でしたので高得点に繋がりました。今年上半期のダークホースでしたね。
キャラ(20/20)
大問題なことに、どのヒロインよりも主人公の智が可愛く見えてしまうんですが。。。
こういう女装ものの主人公って、大概は慣れない女性の格好に四苦八苦していて、どこかしら男っぽさが出てしまうものなんですけど、この主人公は伊達に小さいころから女装し続けてきただけあってか、その所作などは完全に女の子っぽさが表に出ていて、逆に時々男っぽい思考経路が出てきたりすると違和感を感じるほどです。
普段は飄々としていて、口先の魔術師と称されるほどに人の気持ちを丸め込むのが上手く、花鶏曰く「前向きに卑劣」な性格ですが、一つ深い部分ではとても情に厚くて優しさと決断力を秘めており(最後の最後だけヘタレたけど)、自分にもこれ以上ないほどの制約がありながら、前向きに他人の問題にまで取り組んでいく姿勢は好感が持てました。間違いなく上半期ではNO,1の主人公ですね。
ヒロインではこよりが一番好き。つか最近ピンクの髪に弱いな。。。プリステの巴しかり、くるクルのナナカしかり。
小動物系の元気な後輩で、どことなく家族計画の茉利を思い起こさせるキャラですね。見た目通り吹けば飛びそうな感じですが、一度決心をすると芯の強さを見せたりして、変人揃いの同盟の中ではまともに女の子っぽい性格をしています。素直に懐いてくるところはとっても可愛いですし、それでいて結構どのシナリオでもトラブルメーカーだったりして色々な側面を見せてくれます。
後はるいと央輝かなあ。るいは犬っぽいのは可愛いけど、正邪に敏感すぎるのはマイナス。いくら何でも独善的に恨みを抱えすぎですよ。まあそのるいの依怙地な部分が、最後のシナリオでまさか対比に使われているとは意外でしたがね。
央輝は攻略してみたかったなあ・・・、ロリだし(黙れ)。
いちいち伊代につっこむのがすごいツボでした。
茜子はシナリオにデレが食いつぶされすぎ、花鶏は思い込みが激しすぎ、というか実はそういう部分で、るいとは同族嫌悪かもとか思った。伊代のいけてない発言は本気でいけてないのが笑いどころなのかもだけど、やっぱりどうも。自分が常識人だと思っているところが悲しみを誘いますね。
そんな感じで、ヒロインだけなら18点くらいの相場なんだけど、智が可愛すぎたおかげで点パネしましたとさ。
CG(16/20)
癖はあるけど、まあ標準レベルではあるかな、と。
立ち絵はまずバリエーションの多さが一番の魅力ですね。特にデフォルメ顔の多いこよりとかは、感情表現が物凄く的確に出来ていてものっそ可愛かったです。××の顔とか、涙ビャーの顔とかすごく好き。
もちろん普通の表情もそれなりに多いんですが、キャラによっては正面向きの目の形がちょっと微妙だなあと思った。花鶏やるいあたりは安定してるけど、こよりや茜子はたまに別人が。。。
一枚絵は、誰がなんと言おうと智が一番可愛い。。。
るいとのハイタッチとか、こよりのホテル事件&悪霊退散とか、伊代との台所作業とか、パッケージのるいに飛び掛られているところとか、ちょっとびっくりするくらい可愛いですよね。正直、この所々出てくる智の絵がなかったらもう少し点数低いですよ。。。
一枚絵で安定してたのはるいと伊代かな。こよりは立ち絵では抜群に可愛いのに、どうにも一枚絵だけは目の描き方が好きになれなかったです。というか、能力発動のシーンの絵でも、こより一人だけ眼力に違和感がありますしね。まあキャラ的にも一番差異化を計りやすいのでしょうが、微妙に失敗している印象。
BGM(18/20)
基本的にいい曲が揃ってます。イメージとして、社会から一枚膜を貼られた疎外感というか、切なさを含んだ曲が多いですね。
ボーカル曲は2曲。
OPの『絆』は名曲ですね。なんか90年代の若者ドラマチックな、シックな雰囲気とアウトローな雰囲気を併せ持った曲です。サビの部分が盛り上がりすぎずに落ち着いたメロディラインで、すごく作品に合っているなあと思いました。
EDの『宝物』もなかなかいい曲です。単純に宝物といっても、何に価値観を求めるかは人それぞれ、アウトローとして生きる中でも幸せは見つけられるんだという、前向きなのかごまかしなのか微妙な印象がありますが(笑)、やはりこの作品のEDとしては相応しい曲です。
BGMでは『必ず』が特に好きですね。団結を訴えかけるシーンや、前向きに進もうと決意する場面でよく使われている曲ですが、そこに含む一握りの悲しみと怒りが、曲の素晴らしいアクセントになっています。
その他では、『街は今日も平和です』『約束はできないけど』『開幕』『……来るよ!!』『ミッションスタート』『譲れないもの』などが好きです。この他にもなかなかいい曲揃いで、質が高いなと感じました。
システム(9/10)
演出は、平均点はクリアしているかと。
背景的な演出がやや弱いものの、縦横無尽なキャラの動きでそれを相殺して、躍動感を上手く維持しています。一枚絵ももう少し動けはいいなとは思うんですが、まあこんなもんでしょう。OPムービーは影の使い方が印象的で、物凄くかっこよく仕上がっていていいと思います。
システムは優秀。
必須要素に関しては全て平均点をクリアしているし、共通ルートが長いのを踏まえて選択肢ジャンプが前にも後ろにも完備されているのはいい感じです。ぶっちゃけ、ディスク容量がどのように演出やシステムに影響を与えるのかイマイチわかっちゃいないんですけど、このフルインスト容量でこれだけスムーズに動くなら間違いなく合格点でしょう。
総合(87/100)
総プレイ時間20時間くらい。共通が5〜6時間で、個別が一人頭2〜3時間くらいですかね。
確かに言葉遊びのきらいがないではないけど、それで話のテンポまで悪くしているわけでもなく、むしろ展開は独特のリズムで切り替わっていくので、読み進めるのに苦痛というほどではないかと。まあ体験版でどうしても肌に合わなきゃスルーすれば問題なし。
個人的には、かなり面白かったんですけど、もう少しシナリオがよくなる要素が色々見えすぎて、なんとも勿体無いなあと感じる作品でした。それでも間違いなく良作以上の出来ですし、普通のエロゲっぽさとは一線を画した作品ですので、多くの人に手に取って欲しい一作ですね。
2008年07月06日
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