2008年09月18日

キラークイーン

 再販してたので速攻で購入。

シナリオ(27/30)

 主人公とはかくあるべき。

 主人公はほんの一月前に最愛の恋人を交通事故で失っており、ほとんど生きる屍のように日々を過ごしていましたが、ある日突然目覚めてみると見たこともない部屋に閉じ込められていました。
 その部屋にあったものは粗末な家具と、携帯ゲーム機を模した一枚のPDA、そして首に巻かれた頑丈な首輪でした。一体何の冗談かと考える主人公ですが、PDAのなかにはその首輪に爆薬が仕掛けられていること、そして各人に与えられたルールに乗っ取り行動し、トランプのカードに模して示された各個に振り分けられた目標を完遂しない限り、三日後にはその首輪が爆発することが書かれているのでした。
 とまあこんな感じで、突然動機も意味も全く不明の殺し合いの場に投げ込まれてしまった、多種多様な13人の物語です。
 シナリオは二つあり、最初のキラークイーンシナリオをクリアすると二つ目のシナリオがプレイできる仕様になっていますが、どちらのシナリオでも主人公の基本的スタンスは変わりません。主人公が持っているのはAのカードで、これはQのカードの持ち主を殺すという指令ですが、決して人を殺すことを良しとしない主人公は最初から自分の命を諦めており、逆にこの事件に巻き込まれたか弱い存在、最初のシナリオではかつての恋人と瓜二つの容貌を持つ少女、咲美を守るために、二つ目のシナリオでは同じくかつての恋人と同じ名前を持つ少女、優希を守るために、いわば正しく命を使うことで胸を張って恋人の元へ旅立てると考えるのでした。

 こういうスタンスの主人公と、そして自分の身を守ることさえ十全に出来ない(と思われる)ヒロインとのコンビを中心にしてシナリオは進んでいくので、基本的には出来る限り戦闘を避け、交渉を中心にして事態を打開していこうとする展開が多いですが、参加メンバーの中には極めて好戦的な人物も多く含まれており、また閉じ込められた複数階層を持つ建物には罠が張り巡らされていたり、より過激に戦い合わせるように危険な武器が設置されていたりと、なかなか一筋縄ではいきません。
 また、お互いの持つカードの利害関係が一致しなかったり、あるいはジョーカーのカードの存在のせいで疑心暗鬼に陥ったりして、なかなか共闘関係を築くことが出来ない環境の中で、主人公とメインヒロインはともに絶対の信頼を持ってお互いを守ろうと努力します。その関係によって色々な人間にも影響を与え、やがて物語は少なくない犠牲を孕みながらも佳境に向かっていく、というのが大まかな流れですね。

 最初のシナリオはいわば王道ともいうべきルートで、特筆すべきはヒロインの咲美が持っているカードがQだということです。主人公は自分が生き残るためには咲美を殺さなければならないのですが、最初からその選択肢は放棄しており、逆にどうせ生き残ることが出来ないのだからと全力でその命を咲美を守ることに費やします。そんな主人公に咲美は絶大な信頼を寄せるようになり、やがてそれは恋心にまで昇華していくのですが、主人公が自分に向けている想いが決して咲美自身に対しての感情ではないと見抜き、主人公を死に向かわせる諦観の根源を何とかしたいと考えるようになります。このシナリオはその諦観を咲美が覆すところと、そして本来は二人同時に生き残ることが許されない主人公と咲美が如何にしてハッピーエンドに辿り着くのか、あるいはバッドエンドで終わるのかというところが最大の見所になっています。
 もちろんシナリオに多少の粗や強引さはあるのですが、それでも終盤の展開は特筆物ですね。渚の告白によって舞台裏の一部が明かされ、それによる事態の打開に光明が見えたところでの咲美の啖呵は、タイミングとしては完璧ですし、何よりその内容の凄まじさは最初の頃の咲美からは考えられないほどのもので、月並みながら恋する女の強さをはっきり感じさせる超をつけていい名場面だと思います。ヒロインと主人公の精神性の優位の逆転現象は健速さんの十八番と言ってもいいシナリオ展開ですが、本来もっと長いスパンで起こりうる事象を、極限状態においての吊り橋効果等をうまく利用し、三日という短い期間に無理なく詰め込んだその手腕には脱帽ですね。
 まあ多少オチがサラッとしすぎているかもしれませんが、おそらくこのシナリオの主題はそこまでの部分で書ききられているので問題はないでしょう。文句なしの名シナリオです。

 対して二つ目のシナリオは、最初のシナリオで主人公がまず咲美に出会ったのと同様に、今度は優希との出会いから始まり、そしていきなり咲美の死体と遭遇するというショッキングな出来事が起こります。ぶっちゃけ最初のシナリオで咲美にシンクロしていると、ここでのダメージが大きいですね。。。
 シナリオの流れ自体は最初のシナリオとだいたい同じで、やはり穏健派の人たちとパーティーを組んでの、主人公の主に優希を守るための奮闘が書かれるのですが、このシナリオの最大の弱点は、プレイヤーに配られるカードがシャッフルされていないということなんですね。
 最初のシナリオで一言も出番がなく死んでいった人は、優希を含めて三人いるのですが、実はそれ以外の人物についてはそれぞれが何のカードを持っているか既に判明しています。そして、その残りのカードのなかには、最悪といっていい内容の9のカードが含まれているのですね。
 そして、すでに殺されている咲美の存在が一層問題をわかりやすくします。このゲームのルールには最初の六時間の戦闘行為の禁止というものがあり、そのせいでプレイヤー達は目に見えない殺人者の存在を疑うのですが、最初のシナリオでこのゲームの意義を理解している読み手の私達にはそんな存在がいないことは明白であり、どうやって殺したかという謎は残るものの、プレイヤーの誰かが手を下したことは疑いの余地のないところで、そして咲美が持っていたカード、更にはタイトル名などを考え合わせると、おのずとこのシナリオのラスボスは想定できてしまうんですよね。。。
 ですので、最初のシナリオに比べると主人公の頑張りにシンクロできないというか、奥歯に物が挟まったような気持ちで読み進めることになります。しかも結構内容も最初のシナリオに比べると凄惨ですから(優希の境遇のあたりでは、『永遠の仔』が思い起こされますね、奇しくも名前まで同じですし)、面白いのは面白いんですけどラストの後味の悪さが想像できるだけに辛いものはあります。
 このシナリオで主人公が自分の信念を貫くことで教化したものは、とある1つの闇の心とだけ言っておきましょうかね。いくら治外法権とはいっても、あのラストには賛否両論出るのは確かでしょうね。個人的にはアリだと思いますが、これからの二人を思うともの悲しいエンドだなあと。
 そんな感じで、流石に最初のシナリオには劣るものの、それでも展開やトリックには目を見張るものもありましたし、極限状態においても心理描写の上手さは相変わらずですし(まあぶれないことが主人公の存在意義だから、といってしまえばそれまでなんですが)、充分に面白いシナリオでした。

 最後に全体通して言えば、ややボリュームが短くて、せっかく癖のあるキャラが揃っているのに充分に掘り下げられていない部分が多く、また舞台裏の謎とかも投げっぱなしではあるので勿体無いなあと思わないでもないです。でも、健速さんの書く主人公がツボの人には絶対に熱中できるシナリオだと断言できますね。

キャラ(19/20)

 シナリオのところでも書いたように、全体的に短くて掘り下げの足りない良キャラ(渚とか麗華とかかりんとか、男でも高山とかはもっと活躍が見たかった)が多いものの、流石にメインヒロインの二人はしっかりと描写されているので、この二人が好きになれるのであればキャラ面では満足いく出来であると思います。
 とにかく咲美は可愛いんです。可愛くて、そしてかっこいいです。
 何が凄いって、作品の中で凄まじい勢いで成長するんですね。最初は何が起こっても主人公の袖にすがってべそべそしているしか出来ないキャラなのに、徐々に主人公への思慕が強くなっていくのと同時に行動にも芯が入ってきて、中盤から終盤にかけては主人公をも凌駕する強さを発揮します。とりわけ、あのPDAを叩きつけるシーンは、台詞のかっこよさと相俟って鳥肌物ですね。あれだけの覚悟を持って人を好きになれるとは、ある意味ここに閉じ込められたことが咲美にとってだけはいい方向に進んだのではないかと思わせてくれるくらいです。
 優希は難しいキャラですよね。絶対に毀誉褒貶の分かれるところだと思いますが、境遇に同情は出来ますし、根は本当に純良な子なんだろうなあと信じられるかどうかが境目ですかね。私は決して嫌いではないです。そりゃ咲美には負けますけど。

CG(16/20)

 まあ正直かなり出来にばらつきはありますし、質・量ともに素晴らしいとは言い難いんですが、個人的にこのタッチは結構好きなので補正加えてこれくらい。
 立ち絵はちょっと全体的にバリエーションが少ないですね。せめてメインヒロインくらいにはもう少し複雑な表情が欲しかったです。いや、最後の最後でしか出てこない優希の表情はある意味わかっていても衝撃的でしたが。渚の正面向きが一番好きです。
 一枚絵はそれなりの出来かなと。
 グロい絵の迫力はそれなりにありますし、可愛い絵はきちんと可愛く書き分けられているので、及第点は付けられます。咲美の絞殺シーンとか、かりんの首爆破とかは本気で引きましたもん。
 とりあえずヒロイン二人のピロートークのCGはガチで可愛いです。Hシーンも結構出来不出来が激しいですが、優希の入浴と咲美のバックはかなりの出来ですね。
 その他では、真実を語る渚、床に押さえつけられける麗華、談笑する咲美・渚・かりんあたりは好きです。

BGM(17/20)

 作品のボリュームの割には曲数が多いですね。
 ボーカル曲は2曲。
 OPの『トラワレビト』は超名曲。もうイントロでの緊迫感とスピード感がたまりません。曲の繋ぎも息つく間もないように組まれていて、嫌が応にも世界観に飲み込まれていくインパクトがある曲です。
 EDの『桜華想恋』は一転して穏やかで、それまでの事件がそれこそ何もなかったかのように穏やかな日常の始まりを告げる曲です。まあ曲としてはそこそこの出来ではないかと。
 BGMでは『All hard get over』が出色。まあ流れるシーン補正がかかりすぎているのは否めないところではありますが。ただいい曲ではあるんですけど、ワンループが短すぎるのとループのつなぎが中途半端なのだけはいただけないですね。折角の名場面で、これだけ盛り上がる曲を流しておいても、繋ぎで一度音が消えてしまうのは実に興ざめです。シナリオの盛り上がりにも水を差しますし、ここは何とかして欲しかった。
 その他では『Blessing to this meet』『Movement』『Fragment of memories』などが気に入りました。特に『Movement』は束の間の穏やかさを象徴しているような曲で、緊迫した場面の繋ぎにとても効果的でした。

システム(6/10)

 まあこのあたりは同人作品の弱点というべきでしょうかね。
 演出に関してはほとんど何もないといって過言ではないと思いますし、システムも最低限しか完備してないです。まあエクストラがそれなりに充実していただけが良かった点でしょうか。でもOPムービーだけは抜群にかっこよかったですね。

総合(85/100)

 総プレイ時間、8時間くらい。1つのシナリオがだいたい4時間ですね。
 とりあえず致命的なネタバレはしないように書いてきたつもりですけど、勘のいい人ならこれだけでも二つ目のシナリオの犯人わかっちゃうだろうなあ・・・。まあでも、そのあたりを差し引いても名作と読んで差し支えないと思います。・・・まあもちろんいつもの健速主人公ですので、合わない人にはとことん合わないのでしょうけどね。万人に進められないのはもはやこの人のステータスです。。。

 とりあえず、シークレットゲームを買ってくることを心に決めました。。。
posted by クローバー at 07:02| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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