2009年02月14日

俺たちに翼はない

 まあ、買わないわけにはいかんでしょ。。。

シナリオ(27/30)

 つか、これネタバレなしで感想なんて書けねえよ。。。

 というわけで、最初からぶっちゃけてしまうと、この作品は複数主人公によるオムニバスシナリオと思わせておいて、実は主人公は解離性同一性障害であり、長い時間を経て生活圏の分割を為してきた各個の人格の物語となっています。

 俺たちに翼はない―――。

 幼い頃の心的外傷によって、世界のどこにも繋がっていない空、すなわち自己の深層に基礎人格を閉じ込めてしまった主人公ですが、そんな主人公にはたった一つ、義理の妹の小鳩のことを守らねばならない存在として意識しており、彼女を守るために必要な人格を作り上げました。

 三男の鷹志(タカシ)は、決して傷つかない心を持って生まれ。
 四男の鷲介は、傷を感じるときに逃避するタカシの代替人格として渉外役を自認して生まれ。
 五男の隼人は、言葉で解決できない現実との折り合いの中で力を行使する役として生まれ。
 そして彼らより先に生まれていた次男のカルラは、怒りの炎を胸に秘めつつ奈落の底で刻を待ち。
 長男の鷹志(ヨージ)は、自分に都合のいい妄想と戯れ引き篭もり。
 そして名もない末っ子は、彼らを観察する役目を負って、ただそこに居続けます。

 普段表に出ている人格は、鷹志(タカシ)、鷲介、隼人の三人で、彼らは決してそれぞれの生活圏を脅かすことなく、それなりに安定した生活を送っていました。けれども、彼らにもそれぞれ自我は存在し、周りの人間との生活の中で少しずつ変化していきます。
 その中で、自分たちのことを多重人格だと理解している鷲介と隼人の二人は、いずれ果たされなければならない再統合、“約束の日”まで大過なく過ごすことを意識していますが、しかしそれは周りの人間からのアプローチによって徐々に脅かされていくのでした。

 と、基本的な物語の骨子はこんなところですね。
 もうこの時点で思いっきりネタバレというか、本質的な部分はほぼ全て語ってしまったといっても過言ではないんですが、どうしたってこの作品、ゴールから逆転的に説明しないと説明が意味を成さないんですよね。それに、この作品の真骨頂はプロットそのものではなく、その肉付けに依存する部分が大きいので、まあ許される範囲だと勝手に解釈してます。

 人間誰しも、完全に感情のバランスが取れている、なんてことは有り得ず、そのバランスの差異を個性、と言い換えられたりもしますが、この主人公の場合、恣意的に発生させた人格がほとんどなのでそのバランスが著しく崩れている部分があります。特にタカシにおいてはそれが顕著で、幼い頃のヨージが、小鳩を守るための無欠の強さを持つ人格として構成したため、人との絡みの仲で避け得ない、傷つき傷つける現実と折り合いがつかないときに、自己の構成した完全無欠の妄想に逃避する性質が発生してしまいました。
 それを教訓として生まれたのが鷲介であり、それでも補えない部分を補強して生まれたのが隼人のため、誤解を恐れずに言えば生まれが遅くなるほど人としての構成が複雑になっている印象があります。
 話を戻すと、元々一義的な目的のために構成された人格のため、普通の人間と比べて一部の感情が突出して表装している状態になっており、そしてその各々の性質と上手く噛み合う傷を抱えたヒロインが用意されていて、ヒロインとの交流が深まることで、その突出した部分の人格を肯定してもらうことでより自我が強まり、それが再統合の核になっていく、という流れですね。

 んで、そこに至るまでのシナリオの構成が秀逸なんですね。
 統合のきっかけに至る、各ヒロインによる主人公の性質認識と共感に至るまでの期間にそれが如実に現れており、タカシが完全にシナリオの長さが前半<後半になっているのに対し、鷲介は前半=後半、隼人に至っては前半>後半で、唯一統合以前に恋愛関係を成立させうるほどのフレキシビリティを内包しているわけです。
 時系列的には一貫した流れの中で、それぞれの行動様式まで含めた複雑な条件を、全くの矛盾なしに成立させているプロットの確かさもさることながら、その配置にしっかり思想的な意義まで絡めてくるあたり、本当に良く考えられているなあと感心させられますね。

 その上で、個々のシナリオもとても面白いんですよ。
 表題にあるように、それぞれのテーマは確かにどこにでもあるありふれた物語なんですが、その魅せ方というか、解決に至るまでの波乱万丈さはとてもありふれているとは言い難いもので、まあぶっちゃけてしまえば内容的にはさほどボリュームのないものを、テキストの魔術で何倍にも膨らませた、まさしくこのライター独自の才能が冴えまくっているシナリオとなっています。つか、どうしてここまで頭が悪そうなのにギリギリ下品にも低俗にもなりすぎていないテキストが書けるんでしょうね?
 しかもそれが、人格ごとに内包する性格を上手く社会性に還元して、全く切り口の違う手法で構成されているし、むしろ環境が紡ぎあげる様々な人間性に対する観察が実に秀逸で、まあそりゃ時には大げさになりすぎたりする部分もありますけど、平均してみれば概ね諧謔的でありながらも、リアリズムの枠から逸脱しすぎないように調整されていて(主人公の性質に対する観察も含めて)、要するにシナリオ毎に面白さの性質が違うので、かなりボリュームがあるにも拘らず全く飽きが来ない構成になっています。
 特に個人的には、たまひよシナリオと隼人編でのスラム抗争の部分が好きですね。

 そして、これら表面的三人格の物語を経ることで、いよいよ本質的な再統合、それは今まで三人の話で起こった、ひとつの優位性を保った人格に憑依する形の統合ではなく、完全に全ての人格が等分に統合するシナリオへの基礎が構築されます。
 この作品には観察者としての末っ子の存在が最初から定義されていますが、この末っ子は医学的な用語でISHという、統合を補助する働きをする存在なんですね。そして彼らが本格的に統合するためには、今まで三人が培ってきた社会的関係性に矛盾を起こさないだけの観察データが必要不可欠であり、それが揃った時点で、奈落に存在するヨージ、カルラの人格も含めての統合を補助することが可能になるという流れですね。

 でまあ、この統合人格・ヨージ編でのヒロインが小鳩、ということになります。本質的には小鳩を守るために生まれてきた人格が平均的に統合することで、必然的に各人格が持っていたそれぞれのヒロインに対する思慕は薄まり、逆に小鳩を大切に思う性質は加速する、という形ですね。
 この統合編においては、それぞれの人格が形成してきた人間関係が絡み合うことによる化学反応が面白すぎるのでそれだけでも満足なんですが、やはり最後に問題になるのは、一番最初に人格が分離するきっかけになった心的外傷を克服することになるわけで、それを補佐する立ち位置に居られるのは、やはり今までずっと見守り続けてきた小鳩しか有り得ないわけですね。・・・まあぶっちゃけ、攻略ヒロインにする必要はなかったんじゃないかなとか、もっとぶっちゃけヨージ(幼児)自重しろとか思わなくもないんですが、それを差し置いても実に綺麗な話の締め方であったと思います。

 俺たちに翼はない―――。
 翼はないから、どうしても嫌なことや逃げたいことを一足飛びに回避して生きていくわけには行かない、けれども支えてくれる人や強い意思を持った自分の力を合わせれば、飛び続けることはできずとも飛び越えるくらいの羽ばたきは起こせる、そんな意味合いを皮肉を込めて語った台詞、俺たちに翼はないこともないらしいぞ?が実に奮っていますね。紆余曲折を経ながらも結果的に見事な人間賛歌でオチをつけていて、すごく余韻の残る、印象深い作品に仕上がっていると思います。

 まあ細かい点ではいくつか気にいらない部分もあるので、大絶賛とまではいかないのですが、読むという行為が好きな人種としては実に歯ごたえのあるテキストですし(言葉遊びや寓意のさりげない含ませ方が上手すぎる)、シナリオも土台がしっかり構築されていて安定しているので、これくらいの評価はしていいかなと思います。無論、こういう癖のある作品ですから賛否両論は出るでしょうけど、最後までやって残念に思うような内容ではないことだけは保障できますね。

キャラ(20/20)

 最高のキャラメイクですね〜。誰も彼も魅力溢れていますし、それでいてきっちり自己というものを持っていますから、最後までブレがなく楽しめます。
 単純に可愛さという意味合いでは、るーとたまひよが双璧ですね。
 るーのコミュニケーションにやたら前のめりなところとか、たまひよの外殻一枚剥がれただけで露呈する精神性の幼稚さだとか、ものすごく本人の性格やシナリオと噛み合っていて、抜群の破壊力を見せてくれます。あと個人的に、明日香の「なんだと」っていう物言いは結構萌えると思った。。。
 で、やっぱり一番面白いのはアレキサンダーの面々ですね〜。
 普段からあんなノリなのに、それでも職業意識だけはやたら高い面々が揃っているというだけでも奇跡的な空間ですねぇ。まあ実際にあんなレストランあったら困るけど。。。
 とにかく、登場キャラがやたら多い割にはみんな存在感が強くて、それでもそれぞれの場の空気を壊すようなキャラがほとんどいないので(壊れたときの京除く。。。)、存分に楽しめました。

CG(17/20)

 劣化劣化言われて喧しいですが、個人的には少なくともシャッフルとかリアリアよりは全然マシだと思いましたよ。。。まあ相変わらずボディバランスは安定してませんが、表情の出来には光るものが多々ありました。

 立ち絵は服飾にも表情にもかなりのバリエーションがあって、またそのキャラに見合った独特の表情が多くてイメージに良く合い、全体的にいい出来だったと思います。
 特に好きなのは、明日香の正面向き笑い顔・照れ顔・ドン引き顔、たまひよの困り顔と苦虫を噛み潰している顔、るーのハート顔と突っ込み待ちのしたり顔、小鳩の困り顔(引き顔かも)と半泣き顔、亜衣の真面目顔にアレックス2のコント顔、アリスの拗ね顔あたりですかね。

 一枚絵はまあ、どうしたって出来にムラがありますし、構図としてはイマイチなのも多いですが、すごく惹かれる表情もいくつかあって
プラマイゼロ、くらいの印象でしょうか。基本的に目の線の入れ方が太すぎると思うんですが、そのバランスが如実に崩れると駄目になりますね。
 ダントツで一番好きなのは、告白シーンで表情があらわになった瞬間の明日香。あの困ったような照れたような、怒っているような喜んでいるような、とても複雑な感情がギュッとつまった表情は素晴らしい出来だと思いました。
 その他では、サイダー越しの明日香、食い逃げ犯が暴れて主人公の影に隠れるたまひよ、デートで眼鏡洗浄するたまひよ、ツッコミ待ちのるー、ラーメン食べてるるー、猫バックに喜ぶるー、占い館での紀奈子、アリスと小鳩との同衾あたりがお気に入りですかね。

BGM(18/20)

 安定してレベルの高い曲が揃ってますね。
 ボーカル曲は6曲。
 1stOPの『jewelry tears』はとてもかっこいい曲ですね。イントロの走り方と、AメロからBメロへの渡り方がなめらかで気に入ってます。それぞれが個で生きている主人公やヒロインたちの心情に沿った印象の曲ですが、微妙に歌詞が陳腐なのはご愛嬌ということで。。。
 2ndOPの『Sky sanctuary』は打って変わって落ち着いた出だしから、やがて翼を得て高いところへ登っていく、そんなイメージを感じさせる曲ですね。奈落の底から吹く風とイメージをリンクさせているのでしょう。曲としてもそこそこ好きですね。
 EDはそれぞれヒロインごとに用意されていますが、どちらかと言うとヒロインというより主人公の心情に依存した部分が多いような気もします。まあ似たもの同士だからどっちでもいいといえばそうなんでしょうが。
 明日香EDの『Eternal sky』はそんなに印象に残らないんですけど、たまひよEDの『ほほえみジェノサイド』のあまりといえばあまりなそのまんまぶりはかなり好きです。またガラッと雰囲気の変わるるーEDの『NEON sign』は普通にめっちゃかっこいい曲です。一昔前のビジュアル系ロックバンドを彷彿とさせますね。
 そして小鳩EDの『光陰の海原』は、御伽噺のEDのような、寓意性の強い曲調で構成されていて、形は違えど妹を守り続けてきた主人公と、それをずっと見守ってきた小鳩の絆のようなものを印象付ける曲です。

 BGMも各シナリオごとにガラッとイメージを変えてきて、常に新鮮な印象が強いです。
 まず好みなのが主人公のメインテーマ、特に隼人の『main Theme “FALCON”』のアップテンポなノリが大好きですね。正に夜の街を闊歩している印象とぴったりです。
 あと特にお気に入りなのが、鷲介編の『やばいよやばいよ』。ドタバタコメディチックな展開が多い鷲介編の中でも、この曲がかかったときのテンポのよさは圧巻でしたね。
 その他では、『きんきんクールビューティ』『泣いてなんかないやい』『マーべラスハウス』『ギバラ闊歩 in the night』『フェニックスの頌歌』『勇者戦舞曲 Oretsuba MIX』などが気に入りました。

システム(9/10)

 演出は華やかでいいですね〜。
 まずOPから豪華フルアニメーションで力入りまくりですし、出来もかなり印象的でいい感じです。
 そして何より、キャラが動く動く。
 SEも豪華に多用しての入れ替わり立ち替わりの激しさは見ていてものすごく楽しいですし、一人一人でも細かい動きがいちいちちりばめられていて挙動から目を離せません。
 まあ強いて言うなら、一枚絵ともう少し連動した展開があればいいなあと思わないでもないですが、充分合格点の出来です。

 システムもかなり優秀。細かい部分まできっちり設定できるし、デザインもシンプルで使いやすいし、テキストのボリュームに比例するようにスキップが超高速。シーンスキップまで完備しているのでリプレイも苦になりませんし、特に文句をつけるところがなかったですね。

総合(91/100)

 総プレイ時間、32時間くらいでしょうか。共通が12時間くらいで、個別4シナリオがそれぞれ5時間くらいのイメージです。
 見ての通り最近の作品にしては凄まじいボリュームなのですが、決してプレイしていて長く感じないんですよね。それだけテキストが面白いですし、シナリオのところでも書いたように、テキストの面白さだけに依存していないしっかりとしたプロットが感じられ、まあ伊達に膨大な製作期間をかけてきたわけではないな、という出来になっています(笑)。
 もっとも、これだけ書いてもまだ触れられていない部分が沢山あって、あからさまにFD前提のキャラとかもいるんですが、さて果たしてそれが出るのは何年後なんでしょうね?
 シナリオ以外も高いレベルで安定してますし、久しぶりに大作の名に恥じない作品が出てきたな〜と感じました。
posted by クローバー at 11:59| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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