2009年02月23日

群青の空を越えて

 三年越しで気になっていたタイトル。やっとまともにプレイできました。

シナリオ(26/30)

 理想的な現実なんて、どこにもない。

 円経済圏理論―――。
 天才経済学者萩野憲二が提唱した、今までの国家という枠組みを超えて、国家の抱えていたシステムを経済圏・軍事圏・政治圏に分割し、アジア全体を網羅した共通経済圏を成立させることで、アメリカ・EUに続く第三の経済圏の確立を目指すとともに、人類が自らの帰属する勢力圏を容易に選択できるようにするという、既に情報圏において国家間の枠が取り除かれようとしている現代における、全く新しい世界の枠組みを構成するための理論、それが円経済圏理論でした。
 それを成立させるためのプロセスとして、政治圏における日本の民族的分割と、それぞれの経済力の均一化というものがありましたが、やがてその机上の空論は利権屋の手によって体よく形を変えられ、首都機能と経済機能を残したままでの関東独立という暴挙の論拠として使われ、そしてそれを提唱した本人は暗殺されてしまいました。そしてその先に待っていたのは、関東と関西に分裂した日本における、血で血を洗う内戦、でした。

 そして内戦が始まってから三年―――。
 その萩野憲二の息子である主人公・萩野社は、父親の理論が戦争を引き起こした責任を取ろうと、関東軍の象徴として君臨するグリペン(戦闘機)のパイロットになろうと、新たに関東に出来た予備生徒システムの中で頭角を現し、首尾よく第一種予備生徒に選抜され、グリペン乗りとしての第一歩を踏み出しました。
 しかし、父親の不始末を片付けると、肩肘怒らせて乗り込んだ戦場には、そんなイデオロギーなど何の意味も持たない世界でした。その、あまりに理想論とかけ離れた暴力性に満ち溢れた現実と、それでも様々なしがらみからそこから逃げ出すことは出来ないという葛藤の狭間で、同じように色々な立場で悩みを抱える同志たちとの交流を通じてその本質を暴き出す、そんな流れのストーリーです。

 基本的なストーリーとしては、どうしても劣勢を覆しえない関東軍の中で、それでも闘っている意義を様々な側面から照射する、ということになります。そのために用意されたヒロインごとに立場や想いに差異があり、主人公がある程度それに引きずられていく中で自分なりの結論を見出していくわけですね。
 
 いずれ死に逝く身に、愛をささやく資格はないという立場から、最終的に愛そのものは受け入れても、「君のためには死ねない」とあくまで大義に殉じようとした若菜ルート。
 かつてグリペンを駆って死んでいった兄の身代わりを主人公がつとめるところから、愛するものを守るために戦うという結論に辿り着く可奈子ルート。
 戦う意義をいつの間にか摩り替えられつつも、過去に囚われた想いに殉じて死ぬことを受け入れているヒロインを、その呪縛から解き放ち新たな意義を受け入れていく美樹ルート。
 
 この、関東軍に属する三人のヒロインを通してのストーリーの中で、戦争に直面したものの死生観や、それでも理想に殉じようとする想いに至るまでの過程が様々なドラマを経つつ描かれていきます。皮肉なのは、出来うる限り戦争を嫌忌しようとしているルートに限って泥沼の結論になる、ということでしょうか。このあたりも、最初に書いた理想と現実のギャップを強調しているかと。
 ちなみにシナリオの出来そのものは若菜ルートが群を抜いています。好き合うまでの流れ、互いの想いを認めるまでの流れ、そしてラストに至っての互いの覚悟に至るまでの流れは、どこを取っても無駄がなく、一級のヒューマンドラマでありながらきちんと戦争の現実も照射しており、まずこの作品の取っ掛かりにするに相応しいシナリオだと思います。
 他2ルートは、イデオロギーの面では若菜ルートより進歩している部分はあるのですが、シナリオの出来はイマイチかも。まあ主人公たちの意気込みや想いと現実が合致しないのがこの2ルートでもあるので、そのあたりの温度差が若菜ルートとは差異となってしまっているかなと。

 この3ルートが終わると、あらたにサブシナリオが二つ解放されます。従軍記者として戦争を見つめ続ける夕紀シナリオと、父親の愛弟子で理想と現実のギャップを是正しようと必死になっている圭子シナリオですね。
 この二人の視点と過去から、また今までに見られなかった戦争がもたらす様々な影響が垣間見て取れます。この二人のシナリオはかなり尻切れトンボなところで終わっていますが、それは決して、その視点だけでは主人公のイデオロギーを覆せないからであり、自明の結論を繰り返すのを避けたゆえ、と見ました。ですが、グランドルートに繋がっていく過程で、二人の示した視点は重要な部分を締めるので、いわば本筋のために用意されたヒロイン、という形になるでしょうか。故に本人たちのバックボーンなどについては深く語られず、シナリオとしてはかなり中途半端な形になっています。

 そしてここまでの全ルートが終わると、グランドルートが解放されます。
 このルートは、避け得ない事故から今までベールに包まれていた敵対勢力、関西軍の内情に踏み込んでいくところから始まり、その中で父親の恩師との再会を果たし、本来の円経済圏理論を再興させるための活動に主人公が身を呈していく、という流れになります。
 今まで以上に理屈が語られまくりますが、結局大切な部分は戦いの意義に突き詰められます。最後の主人公の演説では、それが語られる瞬間にEDとなっており、実に唐突な雰囲気が否めませんが、結局のところこれは一個人がシステムや歴史観に即して語れるような軽々しいものではないからこその方策だと思えました。主人公の演説と平行して挿入される、戦友たちの様々な想いの形は、取っ掛かりは違えどそれでも結論の時点においては一点に収束しているように見えるからです。

 結局、EDのタイトルにも示されるように、理想的な現実、なんて御伽噺は存在し得ない、ということなんでしょう。システムが人を幸せに“する”のではなく、人は自分は自分であるという自覚を持って幸せに“なる”ものだと提示された時点で、理想は理想であり、それに至るまでの手段のほうが大切であるということです。
 なぜこの作品に戦争、という要素を持ち込んだかといえば、それは結局、理想のために死ねるか、という問いが、人が生きる上で究極の問いだからでしょう。最終的な結論から言えば、人は死んだら終わり、なんですから、理想のために道半ばで死ぬ、なんてのは究極の自己満足に過ぎないということになり、故に何故戦っているかと問われれば、戦いを終わらせるため、というのが一番建設的になってしまう、それでもその結論に至るまでの心情は、決して理想そのものに殉じるものではあってはならない、というのが最後に込められたメッセージだったのかなと思います。

 まあとにかく木っ端難しい話ですね。
 戦争物というよりは、イデオロギー語りのほうに重点が置かれ、それをむき出しにするための装置に戦争が使われたというのが素直な解釈でしょうが、それ故にイデオロギーの部分についてこられないと全く面白くない中途半端な戦争と青春活劇で終わってしまうので注意が必要です。個人的にはこの理論、ものすごく面白いと思いました。もっとも、今のアジア圏の中で、いかに政治統合は発生しないとしても、こうした形の統合が成し遂げられるかといえば、かなり難しいとは思いますが。主に日本人が抱える精神的特徴から類推して、ですがね。
 しかし、これを小説とかではなくわざわざエロゲーという媒体で作ろうとしたのがまず間違っていますね。。。ぶっちゃけさせてもらえば、わざわざエロゲー媒体にしたのはグリペンが飛ぶシーンを見せたいがため、としか思えなかったり(笑)。
 まあ元々私には肌が合うと思っていた作品なのでそれなりに満足しましたが、間違いなく人を選ぶことは強記しておきますね。

キャラ(19/20)

 むしろ登場キャラが多すぎて、それぞれの魅力を掘り下げ切れていないなあと思わなくもないです。メインの若菜や可奈子あたりまではちゃんと書かれていますけどね〜、あと主人公の内面的自己評価と、周りの人間の評価にギャップがありすぎるのがちょっときつかった部分ではあります。
 何はともあれ、それでも若菜は素晴らしいヒロインでした。
 とにかく何が素晴らしいって、その芯の強さが素晴らしいです。常に現実を斜めに見ているような主人公に対して、必要なときには強弁で、そして時には態度で、正しく進む道を示し続けた姿勢は尊敬に値しました。自分ルートで、主人公のイデオロギーに全てを捧げるという我が儘を鷹揚に受け入れて、頼まれもしないのに10年以上も待ち続けてくれていた誇り高さや、可奈子ルートでの壮絶な死に様、グランドルートでの凛々しさ爆発の指揮ぶり、どれをとっても一級でした。
 それでいて普通に女の子らしいところや、面白いところも適宜見せてくれるんですから反則ですよね〜。笑いどころが少ないこの作品の中で、「ゴメン、余んない」は最強の爆笑ポイントでした。。。

 可奈子というキャラは、過去の傷によっての厭戦思想と、現実との乖離の中で必死に奮闘する様が魅力的でしたね。守ってあげたい妹キャラというスタンダードな外見と性格ながら、内面に秘めた想いとのギャップが大きく、それを周囲に理解されないという悲しいキャラでもありましたが、そのギャップがシナリオの中で独特の立ち位置を見せてくれる要因でもあったので痛し痒し、ですね。
 
 そしてトシ。お前はもっと幸せになっていい(涙)。

CG(13/20)

 質・量ともにかなり・・・ですねぇ。
 いや、はっきり言いますと、まるで可愛くないし、かっこよくない。。。もちろん作品の雰囲気が雰囲気ですから、無闇に可愛さが露出する見た目では駄目でしょうけど、そういう以前に画力が足りてないかなあと。迫力が微妙に足りないんですよね。

 そんな中、唯一圧倒的に出来がいいと思ったのは、管制室での若菜の横顔を描いた一枚。このCGはいくつかの場面で使いまわされていますけど、どのシーンもすごく盛り上がる場面で、若菜の強さとかっこよさが存分に発揮され、その中でこの絵は、その表情に浮かぶ悲壮感と決意の色がビンビンに伝わってきて、素晴らしく雰囲気を盛り上げる働きをしています。
 その他でも若菜は流石にメインヒロインだけあって、質・量ともに他のキャラとは一線を画した出来にはなっていますが、それでも標準レベルには達していないですし、その他に言うに及ばす、ですね〜。

BGM(19/20)

 主張し過ぎない程度に雰囲気のある楽曲が多くて、すごく作品とマッチしています。
 ・・・とはいえ、ここまで加点できるほどの出来では本当はないんですが、個人的に『アララト』にはすごく思い入れがあるので甘めの採点になっているのをご勘案ください。
 つーわけでボーカル曲は2曲。
 OPの『アララト』は、私が知っているエロゲーの主題歌の中では三指に入る名曲だと思っています。シンプルなイントロやメロディラインながら、語られる物語があまりに作品とシンクロニティを果たしていて、その上で盛り上がるところはきちんと盛り上がる、正に主題歌として完璧な一曲ではないかと。
 EDの『tell me nursery tale』は、残酷ながらも光明のないわけではない、過酷な現実を照射しながら、そこに至るまでに死んでいった人たちに送る挽歌のような切ない響きを感じさせる曲です。まあ曲としてはイマイチですが。。。

 BGMにおいてもアララトの威力は絶大ですね。特にオーケストラバージョンとピアノバージョンの破壊力はとんでもないです。その他では『Level Yellow』『up and downs』『ショック1』などが好きですね。

システム(8/10)

 演出は、グリペンが全てですね。。。
 OPムービー含めて、グリペンの飛行シーンや爆撃シーンなどにはやたらと力が入っていましたが、それ以外の演出にはほとんど気を回していないというか、予算が足りなかったというか・・・。

 システムはまずまず。
 ただ、ボイスカットオフがないのと、それに伴う形でページにまたがる台詞回しのときのレスポンスの不自由さ、そして時々入るオート部分が流れを阻害していました。その他は特には問題なかったと思います。

総合(85/100)

 総プレイ時間、20時間弱くらいでしょうか。
 まあ真面目に考えなくてもそれなりに面白いですが、真面目に考えてキャラの立ち位置や振り分けにそれぞれ必要性がおかれていることを明確に意識しつつ読み進むと更に面白いのは間違いない、そんな作品ですね。ただ、その入り口になるイデオロギー論についていけるかどうかが分水嶺になるでしょう。
 個人的には名作判定出してもいいと思うんですが、まあ一般的に即して言うなら、意欲作、とするのが正しいかもしれませんね。
posted by クローバー at 15:01| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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