決め手はふーりんだけど(笑)、なんとなく雰囲気が良さそうだと注目していた作品。
シナリオ(23/30)
まさしく、一夏の夢。
主人公は記憶喪失。
ある日、この蝶をかたどった妖精が舞う常夏の島の渚に打ち上げられていたところを発見され、命は助かったものの記憶を全て失っており、今は病院関係者であり学園の保険医でもある夢先生の世話で、ひとまず一人暮らしをし、学園に通うという普通の生活が送れるようになりました。
しかし、どこか主人公は疎外感というか、この世界に自分というピースが嵌っていないような印象を常に抱いており、なかなか上手く周りと打ち解けることも出来ず、目標もないままただ漠然と日々を過ごしていました。
そんなこんなで迎えた、島を挙げてのお祝いの日、11月24日、感謝祭。
バレンタインとクリスマスを足して2で割ったような曖昧なイベントながら、学生にとっては一大イベント。そんな様子を対岸の火事で眺めていた主人公ですが、なんとそんな主人公の机の中にお誘いの手紙が。
全く心当たりがないながら、とりあえず指定された場所へ出向く主人公。そこで待っていたのは、暗がりの中で顔を見せてくれない謎の少女。自らを生徒会長・・・みたいなものと名乗り、ある三人の消息調査を依頼されます。詳しい話を聞く前にその場からいなくなってしまった少女、そしてその場には、三人のプロフィールの書かれた用紙と、謎の部活日誌が残されていました。
翌日、まだ半信半疑ながらとりあえず調べてみようと、主人公は生徒会室に向かいます。しかしそこで出会った生徒会長は昨日の少女とは別人でした。いぶかしがる生徒会長、青山つかさに事情を説明すると、こちらも半信半疑ながら、とりあえずその調査を生徒会依頼として進めていいと許諾をくれました。
美浜羊。
老樹真樹。
遠野はるか。
彼女達を見つけることで何かが変わるかもしれない、そんな予感を感じながら、主人公は常夏の島に踏み出すのでした。
導入はこんなところでしょうか。
常夏+妖精なんていう、如何にもファンタジックな舞台設定の中、四人のヒロインと交流を深めていくことで、彼女達が背負う問題を共有し、解決を目指していくのが基本的な流れのひとつで、それにプラスして、常夏の島で一人の問題を解決するたびに主人公の記憶の鍵が解放され、おそらく主人公の過去であるだろう、メインヒロインの七瀬歩シナリオが展開されていくという構成になっています。
まあ単純にいってしまえば、歩以外のヒロイン全員攻略しないと、歩シナリオの一番大切なところまで辿り着けませんよ、って構成ですね。ルート制限がかかっているシナリオは珍しくないですが、こういう風にメインヒロインのシナリオを分割して小出しにするっていうのはあんまりなかったかもしれませんね。
常夏の島での物語と、過去の物語ではほとんど共通する登場人物がおらず、それぞれがいちおう独立した話として確立しています。もちろん最終的には繋がってくるんですけど、そのあたりの経緯はネタバレすぎるので割愛。
とりあえずどちらの世界でもキャラは魅力的だし、部活的なノリでわいわいやっていることが多いので楽しく読み進められます。常夏ワールドでは、ヒロインの個別に入ってしまうとやや他のキャラが出てこなくなる傾向にありますが、まあ許容範囲。
シナリオそのものに関しては、常夏ワールドのヒロインのシナリオはそれで一応完結はしていますが、歩シナリオの伏線として存在するものもあり、ライターが別々なのもあって出来はまちまち。個人的には圧倒的に羊シナリオが好きでした。ファンタジーな設定と現実的な設定の組み合わせ方が上手く、序盤で謎だった部分もきちんと解消されており、何よりラストの主人公の叫びが実にいい。
その他、つかさはやや設定に依存しすぎている感じでイマイチ、はるかは全クリしたあとだと構成の意味がわかるのですが、初回プレイだとあまりのテンポの速さと曖昧な終わり方にちょっとびっくりします。真樹シナリオは完全に歩シナリオの伏線になっている感じで、EDが二つもあるのにどちらにしても悲しい余韻が残る終わり方になっていますね。
そしてメインの歩シナリオ、これはまあ3章くらいで大体オチが読めるといえば読めます。というより、え〜そんな展開だったらやだな〜と予感させるのがそのまま起こる、みたいな。。。元々こっちの世界では歩以外にヒロイン格のキャラはいないし(音々はめっちゃ攻略したかったけどね。。。)、歩の特殊な設定を除けばまあ普通の幼馴染シナリオだと思っておいて間違いはないかと。
んで歩シナリオが終わると最後の解決編シナリオが解放され、そこでここまでの伏線は一気に回収されるという寸法です。ここまでで張り巡られた伏線の巧みさや世界観設定の上手さがはっきり見えて面白いシナリオではありますが、残念ながら純粋なハッピーエンドではありません。それでも、歩の想い、主人公の想いが短い話の中にきれいに織り込まれていて、個人的には好きなタイプの話ですね。
ここからはある程度ネタバレ前提で。
歩の夢の世界に自立した意識を持って入り込める条件はナツユメでわかる通り(意識的か無意識的か、の違いはあれ、リトバスの世界観を彷彿とさせますね)ですが、主人公の立ち位置がそれら自立した意識の想いの集合体、として位置づけられているのは面白いですね。途中プレイしていて、実はこれ主人公違うんじゃないの?っていうEVER17的な展開も予想したりしましたが、まあ当たらずとも遠からず、ってところでした。
形的にはまず、歩以外のヒロインのロビンソン症候群的な問題は、果たして現実世界で解決しているのか、っていう疑問があります。雪の降る世界で関係修復をしているつかさみたいなEDならわかりやすいんですし、おそらくアリアの葛藤も幾分は解消されたのではないかなという印象のある終わり方でしたが、愛する人が存在してくれることそのものが解決の形になっている羊シナリオはどうなんだろと思わなくもありません。常夏世界での記憶がおそらく夢として認識される以上、楽しい夢から醒めて現実に立ち返ったら、余計に寂しくなってないかと。。。
歩の夢の世界に自意識を持って入り込めたのは、第一の条件(歩の体質を知っており、親しい関係にある)を満たす夢と音々、こちらは物語の設定上歩の想いに引きずられるほどの悩みを抱えていないので、この世界を夢の世界として認識しながら活動できるわけですね。
一方、第二の条件(歩の抱えたロビンソン症候群、二律背反的な想いに共鳴)によって夢の世界に引きずり込まれたのは、おそらくですが有里、つかさ、羊、真樹の四人。真樹は両方の条件を備えていますが、より強い想いであるこちらに引きずられたと考えるのが妥当で、羊と有里がその場にいたのも納得できるところですが、つかさはなんでそこにいたんだろ?とは思ってしまいますね。夕実の存在の意味も含めて、つかさの立ち位置だけは明確に出来ないんですが、まあこじつければ納得できなくもないからいいのかな?
そしてこの、第二の条件をもって夢に入り込んだ人たちが抱える想いをも内包して存在するのが主人公であり、故にそれぞれのヒロインと対するときはその想いの欠片がイメージする人格に変化している、ということでしょう。そして、その悩みが解決して夢の世界から解放されたとき、その人格も夢の世界から剥離して、その分渚としての本質的な部分が強くなっていく、そのおかげで記憶も少しずつ取り戻していく、という構成なんですね。実に野心的な構成ではあるけど、すごいわかりにくい。。。
ともあれ、色々とつつけば粗は出るけど(そもそもの歩の超能力設定とかね。。。)、複数ライターを使った割には筋立てに矛盾はないし、最後に謎がすべて収束していくスタイルもまずは成功しているので、予想外にいい作品であったと認めたいところです。もっとも、見た目どおりに普通のキャラゲーを期待してプレイすると肩透かしかもしれませんがね。それなりにイチャラブもありますが、基本的にはシリアス成分の強い作品です。
キャラ(20/20)
基本シナリオゲーなので、所々キャラメイクで割を食っているヒロインとかもいますが、それでも魅力的なヒロインが揃っているなあと思います。
だがしかし、そんな魅力的なヒロインを差し置いて一番好きなのは音々だったりして。。。いや、そりゃ傍若無人だしわがままだし色々欠点はありそうだけど、あの太陽のような笑顔が全部持っていっちゃいます。そもそものキャラデザインが好みってのもあるだろうけど、それ以上に惹かれるものがありますね。とりあえずFD全力で希望。
ヒロインの中ではつかさかな。自分でも予想外だけど(事前の好感度では4番手だったし。。。)プレイしていて圧倒的に好きになりました。特に自分のルートでの、恋人になる直前の愛らしさといったらもう凄まじいです。チャイルドプレイもそれはそれでアリだし。。。普段の頼れるお姉さん的な部分にも、可愛げというオプションが存分に付随しているので好きになれましたし、比較的他ルートでも出番が多いのがいいですね。
羊は最初はなかなかに鬱陶しいキャラでしたが、あのシナリオ見せられちゃうと好きになっちゃいますね〜。あの押しの強ささえ鳴りを潜めれば、キャラデザは好みに入るしなかなかに甲斐甲斐しいし、まあ人気でそうだな〜って感じ。どうでもいいけど、療養中の羊はefの千尋と似てるな〜。
真樹はシナリオに殺された人その1ですね。誰に対しても自然体で飄々とした雰囲気はすごく好きですし、恋心を意識し始めてからのもじもじしたところも好きですし、裏に抱えた本当の想いを見るにつけ実に報われて欲しいキャラなんですが・・・。まあ立ち位置が立ち位置だけに、仕方のない部分はありますね。
はるかもシナリオに殺された人その2。というより、はるかだけは本当に夢の世界の住人だからなぁ・・・。このシナリオのキーになっているのはアリアだし、そのアリアの想いを救う為の立ち位置だから、はるか、という存在に依存する想いが実はシナリオにほとんどないのがねぇ・・・。キャラとしては普通に可愛いんですけどね〜。この子もFDで救済希望。
歩はひくわー言い過ぎでこっちが引くわ。。。
とまあそれは置いておいて、ある意味これは事前予想を悪い意味で覆す駄目っぷりでしたねぇ。まあこれもシナリオに沿った形での性格付けなのは最後までやればよくわかるんですがね。嫌いではないけど、ふーりん補正を加えても積極的に好きになれる材料があまりなかったかなあ・・・。
CG(19/20)
原画家さんが複数の割には統一感はあったし、みんな水準以上のレベルなので満足。
立ち絵は少しバランスが悪いかな〜と思うポーズもなきにしもあらずですし、バリエーションも豊富とは言えないですが、全体的に可愛いですし、いくつかキラーポーズがあったので個人的にはOK。
とりあえず音々が可愛すぎて困ってます。特にこめかみに手を当ててのぶりっ子ポーズが素晴らしい。それでウインクしてかつ水着だったりしたらもう萌え殺されます。。。その他にも普通のポーズでの笑顔も最高ですし、怒っている顔もまた良し。サプキャラなのでバリエーションがより少ないですが、その全てが好きと言っても過言ではない。。。
あと真樹の腰に手を当てている立ち絵もかなり好き。あのポーズが一番真樹らしい雰囲気があるし、それで少し眉を顰めていたりすると本気で可愛い。あ、あと真樹は私服がすごく好み。一見彼女らしからぬ明るい彩色が、上手く髪の色と引き立てあってまばゆく見せていますね。
その他では羊のおねだりポーズとか、はるかの頑張りますっ、みたいなポーズも好きですね。そしてみんな笑顔が眩し過ぎるよ。。。
一枚絵は概ね素晴らしい出来。立ち絵で多少違和感のあった原画さんでも、一枚絵の出来はいいんですよね〜。特に羊とはるか描いている人は上手いですね。こっちでもやっぱり歩が一番イマイチ・・・、メインヒロインなのに。
しかし、一番好きなのはやはり音々なのでした。。。いや、一枚絵ホントに一枚しかないけどさ。肝試し音々可愛いよ〜。
後はキャラ別に。歩は腕組みして歩くシーンと、初Hシーンの二枚目、つかさはハイキックのときのやっちゃった、みたいな表情、喫茶店デート、お風呂遊び、初Hシーンの一枚目と二枚目、子供Hの二枚目、羊はウェイトレス、お姫様抱っこ、汗拭き、路上ライブ、初Hシーン二枚目、サンタコスH一枚目、水着H一枚目、夢から醒める前の添い寝、はるかは部屋で療養、カキ氷を持ってきてくれるシーン、夕暮れの中おんぶ、初Hシーン一枚目、制服Hの一枚目と二枚目、浜辺での最後の抱擁、真樹はテントで添い寝、テント前でコーヒー、テントで寄り添って告白、観覧車、初Hの一枚目、観覧車Hのフェラシーン、仲良し四人組でパフェの食べまわし(当然主に音々)あたりが好きですね。
BGM(17/20)
テンポのいい曲が多いですね。
ボーカル曲は3曲。
OPの『bumpy−jumpy!』は明るくてノリノリの曲なんですけど、こっそり歌詞は切なさ全開だったりして、そのあたりのバランス感が絶妙。また曲としても、序盤のイントロからAメロあたりまではかなり好きです。
通常EDの『夏風の一秒』はかなりのスローバラードで、風に揺れて消えていく思い出を髣髴とさせる切なさ溢れる一曲ですね。雰囲気勝負というか、曲としてはスローすぎてイマイチなんですけど、妙に耳に残る曲ではあります。
グランドEDの『go!go!summer drive』は、辛くても楽しいことはある、前を向いて進もう、ってあからさまにメッセージ性出しすぎていてひくわー(笑)。まあ話の流れとして間違ってはいないんでしょうけどね。曲としてもイマイチ。
BGMはまずまずの出来。全体的にレベル高いですし、幻想的な雰囲気は良く醸しだせていたかなと。
お気に入りは『漂流ペンギン』『dripping』『愛しているといってやる』『君といる夏』あたりですかね。
システム(8/10)
演出はそこそこですね。
取り立てて目新しいものはありませんが、横の動きだけでなくたての動きを効果的に使っていると思います。後はもう少し、幻想的なシーンには力入れても良かったかなあと。OPムービーはちゃきちゃきしていて好きですね、特にイントロでのキャラの差し入れのところとか好み。
システムもまずまず。
起動のたびに画面サイズの警告出るのは何とかして欲しかったけど、全体的に使い勝手は悪くなかったかなと。オートの速度が変えられないくらい?画面サイズは色々設定してより良さそうなの探したけど、どうもしっくりマッチするのがなくて結局初期設定のまま。。。
総合(87/100)
総プレイ時間、20時間くらいかな。プロローグで3時間、歩以外のヒロインが一人3時間、歩関連全部で5時間くらいかなと。
プロローグがそのまま共通になっており、後は基本的に個別ルートなので、それなりにボリュームがあるようには感じます。指定どおりにプレイすれば歩を間に挟むことになるので、いい意味で目先が変わって飽きがこないってのもありますね。
とにかく、予想以上にシナリオの出来が良かったです。突き抜けるほどではなかったけど、なんというか過去の名作のいいとこ取りして上手くまとめたような印象。ラストの展開がどうしても気にいらないっていう人以外は、まず好印象で迎えられるであろう内容だったかなと。全体的に隙がないので安心してお勧めできる作品ですね。
2009年08月07日
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