2009年10月06日

夏の雨

 元々いずれ買うつもりではあったけど、思いのほか評判がいいので早めに回収。

シナリオ(25/30)

 止まない雨はない。

 将来有望なサッカー選手として県下の強豪学園に所属する主人公は、一年前部内のいじめの酷さを見るに見かねて公衆の場で先輩達を殴るという暴力事件を起こして退部し、今ではその時にその処分に納得できないとして一緒に辞めた一志・翠と三人で、日々川原で黙々と復帰のときを見据えて練習を繰り返す日々。
 そんなある日、いつもの川原の側で、見慣れない制服を着込んだ少女を目にした主人公は、その可憐で愁いを含んだ姿に一目惚れ。ふとしたきっかけから話しかけてみると、彼女はこの街に転校してきて、これから主人公と同じ学校に通うとのこと。
 夏を前にしての恋の予感に浮かれる主人公ですが、家に帰ってみると、なんとそこには先ほど分かれた彼女の姿が。理香子と名乗った少女が何故ここにいるのか母親に問いかけると、理香子は離婚した父親が別の女性に産ませた主人公の異母姉弟であり、その父親が死んで天涯孤独になったために引き取ってきたと言います。
 先に出会ったときとは別人のように、主人公とその家族に対して頑なな態度を取る理香子。その理香子のことを母親から託され、少しずつでも理香子がこの土地に馴染めるように努力しますが、なかなか上手くいきません。それでも、翠や幼馴染で時折家に料理をしに来てくれるのひなこなどの助力もあり、なんとか普通の生活ができるところまでは漕ぎ着けます。
 こうして始まった奇妙な同居生活、また理香子繋がりから学園の新米教師である美沙とも面識が出来、めまぐるしく変化する環境の中、主人公やヒロイン達はどのような青春を経て、どのように成長していくのでしょうか。

 と、あらすじはこんなところです。
 タイトルや雰囲気からなんとなく滲み出ているように、この作品はどこかしら家庭環境に問題のある、いわば愛情に飢えているタイプのキャラが多く、彼らが紡ぎだす関係もそういう立場があってか、どこか一本線を引いたような部分があり、如何にしてそれを解消していくかが作品の大きなテーマのひとつとなっています。
 なので、基本的にキャラがおおっぴらに賑やかに振舞うようなシーンは少なく、粛々と物語が進行する感じ。特に序盤は理香子の周りを拒絶する空気が激しいので、そこを抜けるまではなかなかに痛々しい展開です。もっとも、そこを抜ければ理香子も多少人当たりの悪い不器用な女の子程度に変わっていきますし、それに唯一の賑やかしである翠が随所にいい活躍をするので、上手くメリハリのついた構成にはなっていると思います。
 もう一つの大きなテーマは、キャラの成長にありますね。もちろん上のテーマを克服することとかぶる部分もあるんですが、シナリオによっては若干ベクトルが違う部分もあり、そしてメインヒロインらしく、きちんと理香子シナリオでは全ての部分である程度の解消が見られるという王道パターンになっています。

 シナリオに関して言えば、主人公とヒロインが恋人となるくだりに関しては少し説得力に欠けるものの、恋仲になってからの問題発生→克服のお決まりの過程に関しては、それぞれのキャラが背負う問題に上手く即した形で丁寧に描写されていると思います。個人的にはねひなこシナリオ以外は当たりでした。
 
 以下攻略順に個別感想。
 翠シナリオは、唯一翠が家庭環境に問題を抱えていないこともあって、主人公のサッカー部復帰問題に大きくフォーカスが充てられています。ただ夢を語るだけだった、川原での三人の時間。その夢がただ語るだけのものではなくなったときに、それは三人の時間を犠牲にしてまで踏み出すべきものなのか。そこに書かれるのは、翠にとってのこの一年の重みと、主人公にとってのこの一年の甘え。
 最後にはお約束の嫌味な敵キャラ登場から、残されていたナンバー10、そして三人の一年が新しい未来への形の中で報われるハッピーエンドと、ややご都合主義的ではあるものの、そこまでのキャラの動かし方がいいことで素直にそれを祝福できる、実に爽やかなシナリオに仕上がっています。

 美沙シナリオは、学園の教師と生徒ものとしてはまあ定番に近い展開ですが、ねねというキャラが二人の間でワンクッションおくことによって、二人の関係が二人だけの問題ではないという部分に昇華させていったのが面白く、また感動的なところ。まああのねねの賢さと忍耐強さを、あの年頃の少女にとっての不自然と見るかそうでないかで見方は変わってしまうと思いますが、きちんと家庭環境をバックボーンにした上でのあの性格付けですから、個人的には全く違和感には感じませんでした。そして、主人公の向こう見ずなかっこ悪さに惚れ直す美沙に微妙にリアリティを感じた。。。
 エピローグの語りが唯一ヒロインではなかったように、実はこのシナリオの主役はねねなんじゃないの?と思うくらい存在感がありましたね。最後のCGの万遍の笑顔、あれが見られただけで良かったなあと思わせてしまう、ロリコン必携のシナリオ(笑)。

 ひなこシナリオは、こういっちゃなんだけど唯一主人公の成長が感じられないシナリオですし、内容にもイマイチメリハリがないですね。ひなこの抱える問題に関してもあっさり母親が解決しちゃうし、それにどうにもこういう完璧な依存系ヒロインは苦手なんですよね〜。まあ元々ベタ惚れに近い関係で、一方的に主人公が気付いてなかっただけ、ってのもありますし、最初から最後まで互いの距離感に戸惑って傷つけて、の繰り返しなのが痛々しいですし物足りなかったです。

 理香子シナリオは流石にメインだけあって練りこみが秀逸。
 強いて言うなら、優柔不断な二人の父親が悪いんだろうなあとは思うんですが、とにかく複雑に絡まりあった家庭環境の中で、子供たちはそれぞれに癒えない傷と満たされない想いを抱えており、その軋轢を少しずつ解消していく丁寧な展開はとても良かったですね。一番最初に主人公の初恋の相手が理香子だったと形付けることで、その難しい関係を何とか断ち切らずにいられる一本の芯が出来上がっていましたし、それを支えてくれる周りの環境も一番良かったのではないかと。
 まずはじめに主人公が理香子を救うことで、やがて理香子が朋実の心を癒し、それに勇気付けられた朋実が母親としっかり向き合っていく、そういう家庭の中でのしっかりした流れがシナリオの根底にしっかり組み込まれていて、その土台がしっかりしたからこそ、本来許されない二人の関係が後ろ暗いものにならずに進んでいけたと言えますね。それに加えて、翠と加奈という、理香子の親友二人の活躍も見逃せない、総じてレベルの高いシナリオだったと思います。

 夏の雨、というタイトルもなかなか上手いですよね。
 本来晴れ渡っている夏に降る雨、それは、どんなに幸せな環境でも時には苦難が降りかかるという意味合いでもあり、あるいは梅雨から連鎖して降り続く、決して止まない絶望の雨、という意味合いにも取れます。最初の理香子の立場なんか正に後者ですし、それを克服しても時にはまた絶望の雨に打たれ、そうして人は成長していくのだ、というイメージがすんなり伝わってきますね。
 止まない雨はないけれど、雨を止ますためには今いる場所から動き出さなきゃ始まらない。あるいは、時には雨の中に踏み出さなきゃ、その先にあるより明るい晴れ間には辿り着けない。そのあたりを青春の葛藤と絡めて丁寧に書き上げた、まさしく良作と言うのに相応しい作品でしょう。

キャラ(20/20)

 作品全体を通してみるなら、何はともあれこれは翠ゲーだなあと個人的には感じます。自分のシナリオもさることながら、他ヒロインシナリオでの縦横無尽の活躍は光りました。基本的に明るい話題ばかりのシナリオじゃない分、こういう底抜けの明るさがすごく助かりましたし、でもそれが全く嫌味になっていないのがすごい。それこそ主人公が言うとおり、いい奴、の一言で全て集約できますね〜。というか、普通に可愛すぎだろ。。。
 
 もちろん理香子も活躍度は高いです。
 難儀な性格だけに他人と打ち解けるのがやたらと下手ですが、真っ直ぐな性格だけに一度仲良くなったら決して裏切らないし、皮肉混じりながらも助けてくれるし、何気に甲斐甲斐しいところが結構ツボですね。育った環境のせいか、途方もなく透徹したところがあるかと思えば、全く持って無邪気な部分もあり、そのへんのアンバランスさもいろんな場面でいい方向に作用していたな〜と思いますね。

 美沙とひなこは自分のルート以外でほとんど出番がないのがまず残念な部分ですかね。美沙に関しては、ねねとの絡みが基本的に一番面白いんで、シナリオの後世としてはいいんだけどその分ヒロインとして見れる部分が少なかったかも、とは感じました。でも基本的に愛情たっぷりですし、子供っぽい部分もまたそれは良し、ですかね。
 ひなこはねぇ・・・、やっぱり後半の依存体質丸出しになったところあたりでかなり株が下がったかも。途中からは私の中で、ひなこと言う人格とふーりんボイスは別のものとして楽しむという作業がなされてしまいまして。。。もう少し主人公の家庭環境に絡んでくるのかと思いきや、そのへんは全部理香子に持ってかれたし、どうにもいいところないな〜と。可愛いんだけどね、可愛いんだけどさ。。。

 そして、ねね可愛いよねね。。。そりゃあんな娘がいたら死ねるわ。
 確かに美沙が結婚するのにねねはお荷物かもしれないけど、二人の気持ちを考えたときそれが果たして幸せかと言うのは別問題で、そして主人公は美沙を本格的に好きになる前にねねと仲良くなれたことで、その問題を等価値に出来たというのが最大の見所であり、功罪はあれその方向に仕向けたのがねねであるという事実は動かないですね〜。とりあえずお祖母ちゃん一発どつかせろ。。。

 んでもって、全てを差し置いて一番好きなのは朋実だったりして。。。
 つか攻略させろ〜、異母姉妹弟が良くて、同母兄妹が駄目な理由があるわけないだろ〜(馬鹿)。
 個人的にはあの家の中で、一番きつい立場にいたのは朋実のような気もするんですよね。少なくとも両親が愛情を注いでくれた時期を覚えている理香子や主人公と違って、初めからある無関心というのはどれだけ心に傷を負わせ、不必要な反省を強いたことか・・・。むしろそれでよく、ちょっと内向的、程度の性格で済んだなあと。そのへんは主人公含めて、きっとひなこの存在が大きかったんだろうけど、その辺のアピールが足りないから勿体無いキャラですよねぇ。
 ともかく、普段から主人公にだけ恐る恐る甘えてくる朋実も可愛いけど、理香子に懐いてからの可愛さはもう異常。内から滲み出る喜びを隠しきれないとばかりにはしゃぐ姿はあまりにあどけなくて可愛いです。
 でも、私にはお兄ちゃんしかいらないのっとか言って禁断の道に走ってしまうルートがあればなお良かったのに(だから黙れと。。。)。

CG(17/20)

 まあ平均的に可愛いけれど、結構粗も多いですかね〜。あと個人的にはHシーンはイマイチだったなあと。

 立ち絵に関しては、差分はまあ標準くらい、ポーズはキャラに似合ったものをきちんと選択していますが、時折表情のバランスが悪いのが見受けられましたかね。
 お気に入りは理香子の皮肉交じりの笑顔、横を向いての照れ顔、翠のピースサイン、ちょっと困った笑顔、しなを作っての照れ顔、ねねのキラキラお目々、朋実の照れながらも素直になれない頑なな顔あたりでしょうか。

 一枚絵は量はそれなりにあるように見えるんですが、実は日常シーンの差分がかなり少ないので見直してみるとちょっと物足りないかもって感じです。あと時々目の描き方や顔のバランスが微妙で、特にHシーンはそれが顕著だったりしなくもないかなと。あくまで個人的に、ですが。
 お気に入りは、子供の頃の理香子との出会い、くまさんパンツ、自転車をこぐ翠、テーブルに伏して眠る翠、主人公と一志の仲直り、スカートを抑えるひなこ、かき氷を食べるひなこ、川に落ちて濡れているひなこ、馬乗りで主人公を起こすねね、三人で手を繋いでご満悦のねね、ミイヤ様を抱いて涙ぐむ朋実あたりですね。

BGM(16/20) 

 この系列らしい、清涼感のある音ですね。
 ボーカル曲は2曲、OPの『Platonic syndrome』は、ちょつとサビの明るさが印象と違うかな〜と思わなくもないけどまずまずいい曲ですね。
 EDの『Love letter』は実にエンディングっぽい、しっとりとした雰囲気ながら前向きな気持ちをしっかりこめた曲です。まあよくあるだけに出来としても普通、かな。

 BGMはそこそこいいですね。そんなに壮大な雰囲気はなく、清涼感があってしっとりとした曲が多いんですけど、不思議といくつかはきちんと存在感があってバランスがいいです。
 お気に入りは『遥かな空』『月夜のセレナーデ』『悲しみの息吹』『疾走する想い』あたりですね。

システム(7/10)

 演出はまあ悪くはないんでしょうけど・・・。
 この系列はどちらかと言うと穏やかな雰囲気の舞台を好み、ドタバタした話よりもキャラの内面を重視した作品作りをするので、確かに過剰な演出は必要としないのかもしれませんが、これからの時代それでいいのかな〜と思わなくもないんですよね。少なくともedenとかみちゃうと、作品の雰囲気に関係なく出来ることはいくらでもあるからなあと思ってしまいますし、その辺踏まえてちと辛目の採点。

 システムも普通ですね。この系列のいつもの奴。鑑賞モードのコンパクトさは相変わらず秀逸です。
 でもボイスカットついたし、スキップもかなり高速だから、使い勝手はかなり良かったです。ワイド対応までしてくれたら言うことなかったんですがね。

総合(85/100)

 総プレイ時間、16〜7時間。まあ攻略キャラ4人の割には、そこそこボリュームあるほうじゃないですかね。結構あっさりと個別に入りますしね。
 一応ブランドとしてはデビュー作ですが、どうしたってアメサラサを髣髴とされるスタッフ陣で、正直どんなもんかな〜と思っていたけど、予想以上に良作で満足です。全体的にいい意味でリアリティがあったけど、もう少しこなれたところが出てくれば、この先も期待できるメーカーですね。

(追記:2010/1/6、CG点数、総合ランク調整しました。)
posted by クローバー at 08:26| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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