2010年04月24日

素晴らしき日々 〜不連続存在〜

すごい評判良かったので衝動買い。

シナリオ(28/30)

 弱者の哲学。


 それは、何てことない日常、ありふれた日々からはじまりました。
 舞台はとある進学校、表向きは優等生が揃っているこの学園、裏側ではいじめや麻薬汚染などが横行し、しかもそれを教師は見て見ぬ振りをするばかりか、外にそれがばれないようにする隠蔽体質まであり、当事者たちにとっては悲喜こもごもの絵図が描かれていました。

 そして、一人の少女の死をきっかけに全てが動き出します。
 学園を覆う呪いの恐怖、それに救いを差し伸べる扇動者を得て、集団心理は一気に狂へと傾いていく・・・。

 そんな学園の狂騒を、それぞれの思惑を抱えて見つめ、動く視点。
 アウトローを気取る武道少女、水上由岐。
 気弱ないじめられっこでオタクの少年、間宮卓司。
 学園を暴力で支配するクール系不良、悠木皆守。
 いじめられている気の優しい天然少女、高島ざくろ。
 様々な謎の鍵を握る卓司の妹、間宮羽咲。
 この全員と関わりを持つ謎の少女、音無彩名。

 一つの視点・世界で語られた言葉は、それが幾重にも重なることによって旋律となり、一つの大きな物語を紡ぎあげていく、これはそんな物語です。


 んー、やっぱ歯切れが悪くなりますね。
 ぶっちゃけ、この感想ネタバレなくして書くことは不可能なんですけど、かといってあらすじで不必要に説明しようとするといくらかいても足りないという事態になりかねないし、そうするともうあらすじじゃなくてダイジェストになってしまいそうだったんで、今回はちょっと趣向を変えた切り口で書いてみました。

 基本的な物語の構成は、一本道のシナリオを多視点から角度を変えて見ることで、少しずつ物語の裏に潜んでいた真相や真実に近づいていくという形になっています。実際のところ、大筋の物語そのもののボリュームは大したものでもなく、だからこそ返ってあらすじとして書けない部分もあるんですが、それぞれの視点における立場を非常に上手く組み合わせての構成力は抜群ですし、そのおかげで真相が全てわかった後のラストの盛り上がりとかは中々のものがありましたね。

 んでまあネタバレしますと、6つの視点のうちの三人、由岐、卓司、皆守は同一人物です。解離性同一性障害を患っていて、さほど規則性なく人格が立ち代り、その都度それぞれの立場から事件に関わっていくことになります。
 多重人格というと俺つばを思い出すのはまあ仕方ないところなんですが、まあ基本的な構成面のトリックという意味合いでは似通った部分があります。人格によってそれぞれルールがあって、ほぼ独立している人格や互いの存在を認識している人格があったり、多重人格を患った原因と理由なんかもそうですね。
 けれど、それを使って表現しようとしたテーマ性の部分では全く一致しないといっていいですし、必要以上に引き比べることには意味を感じない内容であったと思います。
 またこの作品では、多重人格の発症の過程でのルール、それぞれの人格が認識できない現実や、存在の同時性・優先度などの細かい部分にまで装飾が施されており、まあそれが明確になるのは当然終盤なんですけど、そういう部分を踏まえて二周目をプレイすると、序盤からしっかりと引かれている伏線の巧みさに唸らされること請け合いです。

 テキストの特徴としては、まず基本的に哲学が一つの大きなテーマになっており、それを日々の日常の中に会話として上手く織り込んでいることが挙げられます。このへんは好き嫌いが分かれる部分でしょうが、個人的には小難しい話は大好きですし、必要以上に難しい話に進み過ぎないようにバランスを取っている感じはしっかり見受けられますので、わからないならわからないでサラッと流しても問題ない程度には濃度が薄まっており、得にハードルにはならないと思います。
 もう一つの特徴は狂気の書き方ですね。
 この作品はいじめや暴力の描写もかなりあるのですが、このあたりが生ぬるい書き方ではなく、それこそ読んでいて普通に苦痛を感じるレベルで披露されます。そして、その部分に妥協をしないからこそ、いじめられた側が正気を失い狂気に堕ちていく過程にリアリティがあって、その妄想もかなりの濃度があり、そういう風にまで追い詰めていく狂気と、追い詰められた側の狂気の迫真さが際立っていると思います。
 このあたりは主に2〜3章で書かれる部分ですが、まだ読み手が事件の真相に肉薄していない段階で延々と狂気を見せ付けられ、嫌悪感を覚えたり、呆気に取られたりしつつも、読み進める手を止められない、そんな吸引力がありますね。
 ともあれ、哲学と狂気とありふれた日々が三位一体となってバランス良く配置されているので飽きることなくスイスイ読み進められる上に、伏線が充実しているので終盤の何気ない一言にこめられた万感がすごく伝わってきたりと、かなり秀逸な出来だと感じました。

 当然シナリオとしての評価も同様ですね。
 構成が秀逸なので、一人一人の物語が全体像に埋没することなくそれなりに際立っていること、ハッピーエンドとの対比とそれを含めた作品全体としてのテーマ性の見せ方、中途半端のないキャラ造形による、不自然さのない全体要因の構築など、どこを取っても一流の内容です。一応軽く検証した限りでは、多重人格の影響での実体の位置の不整合さなどは見受けられませんでしたし(特定キャラは幻想と事実を区別するのが難しいけれど)、きちんと全ての伏線は収束されているので、実に私好みの内容だといえます。
 全体的な部分は後に回すとして、個々のシナリオでの評価としては、とにかく希実香エンドの二つが印象的ですね。まあキャラとして大好きすぎるという補正値はあるかもなんですけれど、全体的に陰鬱さがないとは言えないメインのシナリオとの対比で、美しさ、幸せさが一際輝いているし、そこに至るまでの希実香の頑張り、というか強さを見ているせいで、基本不憫なキャラである希実香がどういう形であれその想いが報われたことに喜びを覚えます。
 ざくろもまあかなり救いのないキャラなんですけど(実はプロローグが救いだったというオチはすごいと思うけど)、個人的には希実香がなんとか決定的な破滅だけは避けようと努力している中でのあの能天気さはどうかな〜って思っちゃうんですよね。
 もちろんそれがざくろの最大の美徳だとはわかっているし、ざくろ編希実香エンドの清々しさはそれに起因する部分が大なのは確かですが(そしてそれが故に本筋に戻ったときの落差が・・・)、美徳が必ずしも幸福を呼び込むわけではないという非情な現実を書くためとはいえ、もう少しどうにか出来なかったのかと。まあそれがいじめられっ子の宿命といってしまえばそこまでなんですけどね。
 そしてメインのシナリオとしては、まず同体の三人の関係性のちょっとずつの変化に起因する意識の変革が上手く真実へ進む方向性に誘導出来ていること、そして本来あるべき姿に戻るための阻害要因としての人格が、上手く過去の事件との関連で二重写しになっていること、そのあたりが特に皆守編において顕著になり、かつそこまでに積み上げてきた伏線がしっかり機能していることで、余計な寄り道のないシンプルなシナリオであってもすごく深みを感じられるところが素晴らしいところですね。

 この作品は構成に色々な装飾を施しているし、すごく考察のし甲斐のある作品だとは思うんですが、個人的に哲学は門外漢なのと、哲学的に解明してどうこうって部分にそこまで面白味を感じなかったこともあり、まあパッと読んでどうにもわからない部分を無理矢理解釈をひねり出さなくてもいいかな〜という気分です。
 まあ一番興味深かった部分といえば、多重人格の症状を人格の憑依、つまり呪いと祝福の結果であると考える視点があって、そちらで解釈したほうが物語としての美しさが段違いであると思えたことでしょうか。ざくろメールの謎なんかも、敢えて皆守視点をその直前に入れているあたりで物理的でない解釈を推奨しているようですし、だとしたら私は哲学よりは想いを取りたいなあと。人格の行き場を失った由岐と、想いが憑依したざくろが作り上げたのがプロローグの幻想世界と考えておいたほうがシンプルで楽ですし、メインシナリオのラストのシーンにも繋がりやすい気がしますしね。

 哲学的な部分でいえば、この作品のテーマは一言、「幸福に生きよ!」だと明確に語られていますが、個人的な印象としてはこれは弱者の哲学だなあと。無論それだけに当てはまらない普遍的な定義としての側面もあるでしょうけれど、どんなに不幸であっても自身が幸せと思っていればそれでいいってのは、一種救いの境地にも思えますし、酷く言えば開き直りでもありますよね(笑)。
 そこでもう一つ問題になるとするならば、人は死の瞬間に幸せを感じていられれば、果たしてその生は幸せであったと言えるのか、ってところでしょう。昔読んだ小説に、泣く者は笑い、笑うものは泣く、一見同じようでも、順番が違うだけで人生の感じ方は全く別物になる、なんて言葉がありましたけど、これは幸せの総量がある程度普遍である立場からの解釈ですし、この作品においてはずっと不幸続きでも最後の最後の幸せのみが重要だとすら読み取れるんですよね。
 実際幸福の総量なんて決まっているわけないし、人にとっての幸福はそれぞれ全く別物で、何に対して幸せと感じるかは当人が認識するまでわからない部分だし、不幸続きだったら少しの幸せで多幸感を味わえるのに対して、ずっと幸運に恵まれて生きてくればちょっとした不幸でも立ち直れなくなったりと、そのへんは千差万別なわけで、結果としては幸福は社会の総体としての概念ではないと定義することだって出来るわけです。
 この作品では哲学的に世界の在り方をかなり深く考察していますし、世界とは個々人の器に過ぎないと結論付けている以上、幸福論もその方向性に流れるのは必然なのかもしれません。だから、でもあるのでしょうが、このシナリオにおける一応ハッピーエンドと定義されている部分でさえ、その幸福を発現している関係性が一般的な社会倫理では認められないものばかりだったりするんですよね。幻想恋愛、心中、同性愛、近親相姦と並べてみれば一目瞭然。。。
 けどこの作品では、その行為の是非は全く触れていません。大切なのはそこではなく、当人が幸せと感じているかどうか、その一点を最重視することで、作品のテーマ性を貫き通しているといえます。そういう風にマイノリティを敢えてクローズアップするところに、この哲学が弱者のための論理であるという印象を受けてしまうわけですね。羽咲エンドでの羽咲の述壊が、端的にそれを証明していると思います。
 勿論これだけ深みのある内容ですから、解釈は人それぞれでしょうし、むしろ解釈の境界を曖昧にしておく行為そのものも一つの目的であったでしょう。その中で、私にはこう読めるという印象を語らせてもらって、そしてその結論には個人的にはすごく満足している部分があるので、それだけでもこの作品をプレイした価値はあると思えますね。

 まあ色々と不透明な部分も多いし、納得できない概念も結構あるし、確かにゲームでまで不快感を味わうことに対する生理的な嫌悪感もありますから、どうしても満点ってわけにはいかないですが、そういう部分全て含めて一つの作品として堂々と成り立っていることは評価と尊敬に値するなあと思っています。


キャラ(20/20) 

 いやもう、希実香激ラブです。確かに本人語るとおりかなり病んでいる感じはありますし、目的のために手段を選ばないような怖さもありますが、なにが魅力ってそういう自分をしっかり認めて、狂気に逃げずに現実と立ち向かう強さがあること、それでいながらシリアスになりすぎずに道化としても振舞うことの出来る懐の深さ、そして何より一々行動や言動に愛嬌がありすぎて困ります。可愛くて萌え死にそうになります。心中エンドの希実香とか鬼のように美しいと思うし、ざくろエンドでの愛らしさといったらとんでもないし、陰鬱なシナリオの対比として余計に輝いている部分もあるにせよ、文句なく一番好きなキャラですね。

 そして羽咲もすごく好きですね〜、なんという超ブラコン。。。
 羽咲も立場的にかなり不憫な部類に入りますが、その中で色々な人に助けられながらもしっかり自分の目指すべき道を見据えていて、芯の部分がホントにしっかりしているなあと。けど兄の前では途端に甘えん坊できかん坊になったりとか、そのギッャプがもう可愛すぎて仕方ないです。羽咲エンドでのたった一つの光の話は痺れましたね〜、あれは作品全体に通じる話ではありますけれど、羽咲の口で語られることで共感度がすごいことになっていたと思いますし、愛着も倍増といった感じです。

 由岐のお姉さんキャラも中々に飄々していて味があったと思います。立場はどうあれ、羽咲にとって一番の未来を最初から最後まで模索していたのは由岐だけではないかと思えますし、その誰かのために一生懸命になれる健やかな心性には、確かに人を惹きつける何かがあったと思います。
 皆守も当初のイメージとがらりと変わってかっこいいキャラでしたね。まあ色んな意味で、一度羽咲の望む未来を断ち切ってしまったという立場でもあるのでしょうが、それに気付いてからのがむしゃらさとひたむきさはすごく好感が持てましたし、理想の兄的存在であったことは間違いないかなと。

 あとはまあ・・・、司、はキャラデザインとしては好きだけど、敢えて語るべきではないと思うし、ざくろは可愛いとは思うけどどうしても肌が合わない部分はあるし、DQNキャラのマイナス点ってのもないとは言えないけれど、そのへんも含めてのキャラ設定ですからね。


CG(18/20)

 複数原画ですが、ブランドイメージとしての統一感がきちんとあるからさほど違和感もなく、全体的に可愛らしいいい絵だと思います。まあ若干狂気の描き方に、テキストほどの迫力が無かったかなあとは思いますけどね。
 立ち絵はちょっと差分は少ないと思いました。まあ明確に視点が生かされている部分が少ないってのもありますし、テキストウィンドウもADVモードとVNモードを使い分けていて、そこでの印象の薄さってのもあるから一概には言えないんですけどね。
 お気に入りは由岐の正面向き笑顔、やや横向き照れ顔、希実香の正面向きしたり顔、困惑顔、半泣き顔、やや横向きでの虐め顔、ざくろのびっくり顔、司の横向き怒り顔、羽咲の正面向きジト目、大激怒、やや横向き澄まし顔あたりですかね。

 一枚絵は質・量ともに中々ですね。
 お気に入りは、由岐のピアノのシーン、皆守を背後から抱きしめるシーン、幻想世界で司とH、ざくろの電車で由岐とあってびっくり、リルルちゃんのフェラ、王様ゲーム、起こしに来る双子、双子とお弁当、希実香の女の子座りでトークするシーン、椅子になるシーン、天秤を掲げるシーン、心中シーン、羽咲の起こしに来るシーン、リビングのソファに座って会話、怪我した皆守を膝枕、落下する体を引き上げ、一緒にお風呂、その流れで洗髪、屋上H正常位、屋上で本を読む由岐(男バージョン)、由岐と羽咲と三人で添い寝、本懐を遂げて死に行く西村君(笑)あたりですね。


BGM(19/20)

 素晴らしく質が高いです。特にBGM。
 ボーカル曲は6曲・・・だと思いますが、音楽鑑賞に入ってないので正確にわからない&好きな曲以外は聴き込んでません。その辺はサラッと流します。
 OPの『空気力学少女と少年の詩』は、奔放な音の構成がすごく素敵ですね。一つ間違うとどこかへ飛んでいってしまいそうな音のはね方が、全体的にすごく爽快感と非現実感を調和させていて、中々聴いていて癖になる曲です。まあ音程がバラバラすぎてイマイチ覚えられないんですが。。。
 EDは五曲あるんですが、その中で図抜けて『ナグルファルの船上にて』が好きです。基本的にハッピーエンドに流れる曲なんですけど、その世界全てを見通す視線を如実に示唆した歌詞と、そこに宿る不思議な透明感がものすごく気に入りました。
 その他も、それぞれのEDに合わせた雰囲気をしっかりと意識させる作りで印象には残っているんですが、なにぶん本筋のエンドってアレだから、曲もそういう方向に行きがちで、曲そのものとしてはそこまで・・・って感じです。まあ『登れない坂道』だけは清々しさがあっていい曲ですけど。

 BGMはいつくかものすごく出来と雰囲気のいい曲があるなあと。
 まずは『夜の向日葵』、元々イメージにない場面を会えて重なり合わせることで、ガラッとイメージを変えてしまうパターンにピタリとはまった、すごく切なくて郷愁を呼び起こす曲ですね。タイトルの意味がわかるとより一層そのイメージに拍車がかかると思います。
 ついで『夏の大三角』、織姫と彦星になぞらえた、本当に会いたいのに会えない大切な人、というイメージが恐ろしいほどぴったり来る曲ですね。夜空に瞬く星のように、手の届かない遠さを感じさせる旋律は素晴らしいと思います。
 あとお気に入りは、『窓と光』『updowncity』『邂逅』『小さな記憶』『組曲の行方』あたりですね。全体的にとにかく質の高い曲が揃っていると思います。


システム(8/10)

 演出はそこそこですかね。
 動きそのものはあまりないんですけど、内面のイメージとか変化とか、特に不気味さや恐怖の表現が色々と工夫されていて迫力がありましたね。OPムービーなんかも軽やかでかなり好きです。

 システムはまあもう一息ですかね。
 最低限必要な要素はあると思うけど、ほぼ全てがカスタム仕様から動かせないってのは不便っちゃ不便だし、全体的に反応もイマイチでしたかね。あとワイド対応してないのも微妙に気にはなったかも。


総合(93/100)

 総プレイ時間25〜6時間ですかね。およそ3章までで17〜8時間消化して、伏線回収のシナリオがやや短いかもとは思ったんですが、逆にいえばそれだけ面白いからこそ物足りなさを感じたってことで、まあ全体のボリュームとしては申し分なしだと思います。
 とにかく世界観がはっきりするまでの時間が長いので、そこまでの過程を上手くスルー出来るか、ですかね。無論無視できないように色々な仕掛けを練っている作品ではあるにせよ、生理的嫌悪だけはどうにもならないだろうし、けどそこで投げてはあまりに勿体無さ過ぎる名作ですからね〜。
 まあちょっと評判が良すぎる気はしないでもないけれど、それだけの価値のある作品ではあったなあと思います。明らかに普通のエロゲとは一線を画した雰囲気がありますし、小難しい話全部スルーしてもシナリオの理解にはほぼ影響はないので、手にとって損はないと思います。
posted by クローバー at 07:00| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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