2010年05月24日

めぐり、ひとひら。

以前からやってみたいとは思ってたけど、なかなか見かけなかったんですよね。たまたま目に付いた&結構安かったので衝動買いしてしまいました。

シナリオ(24/30)

 優しさの先にあるもの。


 主人公は売れない写生画家、特に好んで田舎の風景を選ぶことが多く、今回もいつもと同様、何かに導かれるような感覚だけを頼りに、フラッと四季ヶ紫町という田舎町にやってきました。
 主人公が田舎町を選ぶ理由、それは主人公の生まれ持っての特殊な能力にありました。
 それは、人の世に有りうべからざるものが見えてしまう、平たく言えば幽霊などの類が見えてしまう能力でした。幼い頃からその能力のせいで対人関係に非常に苦労してきた主人公は、今ではその能力そのものを嫌悪しており、その手の残留思念の少ない(単純に人口密度が低いとも言う)土地を選んで仕事をしているのでした。
 
 投宿先の確保と絵にしたい景色を探すという二つの目的で町をうろついていた主人公は、やがて山奥でひっそりと忘れ去られていたような神社に辿り着きます。その神社の鳥居の上には、不思議な格好をした小さな女の子が座っており、話しかけても碌に返事をしないまま空を飛んで消えてしまいます。
 その不思議な感覚を引きずったまま神社に入り、どうやら無人のように見える敷地を踏査した後御参りをしようとすると、本殿の中から物音が聞こえ、好奇心に負けた主人公はその扉を開いてしまいます。

 そこにあったのは、一体のご神体。
 そしてそれは、主人公にとって生涯で唯一絶対に大切に想ってきたただ一人の妹、三年前に自分のことを庇って死んでしまった妹のこまにそっくりの姿をしていたのでした。
 あまりの光景に絶句する主人公の元に、先ほどの女の子が現れ、神聖な地に土足で入り込む不届き者に注意を促します。その、どうせ聞こえてはいないのだけど、という投げやりな言葉から主人公は、彼女を幽霊の類だと理解して話しかけますが、まず会話が普通に出来ることに驚いた彼女は次に怒り出し、自分は幽霊ではなくこの社、ゆかり神社の神様であると告げます。
 それ自体も驚きではありましたが、主人公にとっては何故この神社のご神体がこまそっくりであるのかのほうが気になり、それを問いただしたところ、それは縁であると神様、長い名前を省略して由(ゆえ)と呼ぶことにした神様が厳かに告げ、まだ主人公はその妹に会いたいという気持ちを抱えているのかと問い、そうならば願うといいと諭します。
 眉唾ながらも、偶然で済ますにはあまりに出来すぎな光景に、こまの死から三年、ずっと封印して痛みから避けてきた気持ちを表に出して再会を願うと、突如ご神体が光りだし、目を開き、そして開いた口からはまぎれもないこまの声での「おにいちゃん・・・」という囁きが聞こえてきたではありませんか。

 色々と不可思議な事態ながらも、こまに再会できたという喜びが全てとなってしまった主人公はそのことを先送りし、そしてご神体に宿ったこまと暮らすために無人の神社に間借りすることにします。かなり長い間使われていなかった神社を暮らせるように掃除するのは一手間で、ようやくそれを終えた頃には日が沈みかけており、そしてそんな逢瀬ヶ刻に、一人の少女がこの神社の門をくぐります。

 彼女の名前はこりす。主人公とこまの昔からの幼馴染にして、名門にして大富豪でもある燕子花家の一人娘、そして主人公の婚約者でもある少女でした。

 思わぬ場所で再会を果たした主人公とこりす、驚く主人公にしれっと、主人公を連れ戻すために追いかけてきたと言うこりすですが、しかしその主人公の背後から現れたこまの姿を見て流石に絶句してしまいます。たどたどしくここまでの経緯をこりすに語る主人公の言葉をひとまずは目の前にある現実として受け入れたこりすは、こまがいることでこの場所から動けなくなってしまった主人公に気を使い、東京に戻る気になるまでここで一緒に暮らすと宣言するのでした。

 かくしてはじまった奇妙な同居生活、そしてこの町で暮らしていくうちに、この町に伝わる伝承を耳にしたり、あるいは由が提唱する神社の復興計画を手伝ったりと、少しずつこの土地に根を張っていき、また主人公の特殊な能力の関係から、能天気な幽霊の千草や、無口で不思議な雰囲気を背負った少女の鏡架などとも同居することになり(取り付かれたとも言う。。。)、やがてそれは、一つの大きな結末への導きとしてなされた出会いであることが少しずつ見えていくのでした。
 この町の伝承に隠された秘密とは?主人公の能力の秘密とは?主人公とこまとこりす、三人の関係の辿り着く先は?様々な想いと葛藤と痛みの中で、やがて真実が全てつまびらかにされたとき、それを救うものは果たして何なのか?これはそんな、一冬の切ない物語です。


 まああらすじはこんなところですね。
 テキストに関しては期待通り、くどいくらいの薀蓄と、巧みな言葉遊びによる独特の笑いがいい塩梅に交じり合い、すごく滋味のある雰囲気を作り出しています。この人の作品に関しては本当にVA形式が型に嵌っているというか、出来る限りキャラ絵や演出に依存することなく、まず言葉で意識付け、しかる後に大切な部分ではきっちり演出も利用して、頭で理解したことを気持ちに落とし込むという読み手の感覚を上手くサポートしてくれる作りこみをしていて大変に好みです。

 基本的なシナリオ構成は、二つの閉じた世界の物語が平行して進み、互いに影響を与えることで足踏みしていた物語に結末をもたらす流れになります。
 一つ目の輪は、主人公とこまとこりす、三人の物語。
 主人公はこまを想い、こまは主人公を想い、そんな二人をじっと見つめながら主人公だけを想い続けてきたこりすと、三年前まで変わることのなかった関係は、こまの死によって大きく形を歪ませ、歪なままで続き、そしてこまが蘇る事で、それが如何に歪で悲しい関係であったかが、三人の交流を通して少しずつ見えていく物語ですね。
 二つ目の輪は、この町に伝わる伝承にまつわる物語。
 主人公は何故この町を訪れたときに呼ばれた気がしたのか、何故こまはご神体に宿って目覚めたのか、そしてこの神社に集まってくる存在、それらはみな、一つの悲しい恋物語に秘められた想い、あるいは呪いがもたらした必然であり、その閉じられた輪に唯一宿業を背負っていないこりすが加わることで、新しい解決の可能性を生み出す土壌を培っていく、そんな物語です。

 この二つの物語の解決は、ある意味では全く別々の物語なのですが、本質的な部分でつながっており、第二の物語が発現した結果として第一の物語は解決への糸口を手にし、そして逆に第一の物語が決着した形によって、第二の物語に糺しい(敢えて、正しい、ではなくしています)決着がもたらされたという、いわば輪環的なイメージで構築されており、そしてそのイメージを支えるモチーフが、優しさ、という概念にあると見ています。

 この作品から受ける印象そのままに優しさの定義を語るとするならば、それは優しさこそが、時に最も人を傷つける、となるのではないでしょうか。自分に向けられた優しさに傷つき、向けられない優しさに傷つき、それが跳ね返って自分も傷つき、この神社における生活でこりすの痛みを初めて知ることで、それまで主人公とこまの間だけで循環していた何かが変化していき、向けられた優しさに向き合える強さを得ていく過程こそが、第一の物語の根幹ではないかと感じています。
 元々は歪であった想いの形が、再会による練磨で純然たるものに澄まされ、それがこまの、いわば世界そのものに対する優しさに繋がっていくのではないか、と捉えるとちょっと綺麗過ぎるかもしれませんが、優しさは時に人を傷つける残酷なものであっても、それでも優しさがなければ人は幸せに至ることは出来ない、もっと言えば、痛みを伴わない優しさは、人を幸せにすることが出来ないという、切なくも的を得たメッセージなのではないかなと思っています。
 ストーリー的に言えば、痛みに向き合わない主人公を諭すのがこまの役で、痛みに向き合った主人公を支えていくのがこりすの役、その互いの持つ優しさの資質を二人が知ることこそが大切なことであり、ゆえに主人公がまるで活躍しないというか、まあどう見てもヘタレに他ならないことになっているのですが、本質の部分では二人の優しさを発現させるところで主人公は必要とされており、その過程を物語として省いたことで、完成度を高めた分割を食っているのかな、というのが素直な印象ですね。

 全体の構成は見事で、二周目をプレイしてその伏線の緻密さには唸らされるものがあり、そしてこりす以外のヒロインが人外という設定からも垣間見える、想いの繋がりだけが関係を紡いでいると言う儚さ、そのあたりを季節感や場所柄からも存分にエキスとして抽出していて、とにかく完成度は高いと思います。
 ただ、物語としては基本的に一本道ですし、こまとこりす以外のヒロインのエンドは結構どうかな〜と思うのもありますし(そもそも二人以外に関係を持つことそのものがどうかな〜でもありますが)、正直こりすに感情移入しすぎたせいでこまエンドですら切なさ大爆発なので、そのへんの折り合いがなかなかつかないのが欠点ですかねぇ(笑)。
 ともかく、爆発的な感動や面白さはなくても、じんわりと心が温まる、そんな作品だったと思います。


キャラ(20/20) 

 もうこりすの献身ぶりには頭が下がるのを超えて涙が出ますね〜。
 どんな立場であっても、好きという気持ちの前では一人の人間に過ぎないという形式論からも、あるいはお嬢様という与えられる立場における普遍性からもはるかに強く逸脱した、その身を切るような献身の源は一体どこにあるのかと不思議に思えてしまうくらい、自然体で主人公に寄り添い、思い遣ることの出来る稀有なキャラですね〜。
 こまと再会したことで、ここまで完璧に保ってきた殻は少しずつ崩れてしまいますが、そういう人間くささが少しずつ垣間見えていくたびに愛らしさも募っていくという寸法で、おそらくそれは、三人でいた幼い頃や、こまが死んだ後の三年間においても決して見えることのなかった部分であり、その、こりすという女の子の真実を一瞬、ひとひらだけ切り取ったこの冬の季節の奇跡であるのでしょう。こりすにとっての絶佳と呼んでいい一瞬、なればこそ痛みも大きいが故の綻び、そういった部分を汲み取れてしまうから、恐ろしく印象深いキャラに仕上がっているのでしょう。

 こまも当然健気で可愛いんですが、こりすとはスタンスが違うので、より見えにくいキャラでもあります。
 実際問題、このシナリオ内で語られるほど世界そのものに対する優しさを生前に抱えていた(少なくとも見せていた、というべきでしょうか)とは思えないんですよね。あくまでも自分が一度死んだこと、ご神体を借りて蘇ったことを意識した上での在り方でないと、流石にキャラとして不自然すぎるし重過ぎますからね。
 自分の死が兄のトラウマになっており、自分が身を削ってまで世界に優しさを振りまくことが、兄にとっては苦痛であることをおそらく承知していながらも、自分がいなくなった後の世界が兄にとって優しい世界であるように、それだけを願ってそれを実行できる想いの強さは決してこりすに引けをとるものではないでしょうが、その想いは生半可なことでは兄の想う幸せの方向性と乖離してしまっている、そのギャップに苦しみ続けるそぶりを、こりすの痛みを知るのと比例して隠してしまう、そのいたいけさが本当にわかりにくいなあと。
 個人的にはこりすにだいぶ肩入れしてしまったのでどうしても、って部分はありますが、彼女もこの一冬であったからこそ発現出来た想いのひとひらの美しさは印象的であると想っています。

 まあ他のキャラはいいでしょ。それぞれ癖のあるキャラではあるけど、第二の物語はどうしても外殻の物語なので、そちらに比重があるキャラは印象が薄れてしまうのは仕方ないかなあと感じています。


CG(16/20)

 ああ、キャラ箱の絵だなあ、って感じですが(笑)、意外とこう幻想的な雰囲気にも合うんですね。
 
 立ち絵に関しては、VA方式のためかさほど目立つこともなく、種類も少なめだと感じました。でも出来は安定していますし可愛いですね〜。お気に入りはこまの困ったような笑顔、半泣き顔、こりすの笑顔、小悪魔顔、照れ顔、由のひねくれ顔あたりでしょうか。

 一枚絵は、明らかにこまとこりすが優遇されていますが、それは構成的に当然ですね。出来もこの二人が群を抜いている気がします。
 一番のお気に入りは、雪原に身を投げ出して静かに涙を流すこりす。まあ絵そのものとしては素晴らしいって程ではないのかもしれませんが、こりすの想いを気高く浮かび上がらせてくれる雪のかそけさと、凛としたこりすの表情がたまらなく好きな一枚です。
 あとはこりすでは、後ろから絵を描いているのを応援、部屋に忍び込んで澄まし笑い、胸元に抱かれて笑顔、初めて愛された後の満ち足りた幸せの顔、こまは雪を手渡して半泣き、おかゆに目を輝かせて催促、境内で後ろから抱かれて葛藤、再びの眠りあたりですね。


BGM(18/20)

 すごく幻想的で印象的な曲が多いです。特に技巧を凝らしたピアノ曲の印象が強いです。
 ボーカル曲は2曲。
 OPの『奇跡の絆』は、正直に言うと、作品の内容に対してちょっと直接的というか短絡的というか、もう少し格調高い歌詞には出来ませんでしたか?と問いたくはなるんですが、曲そのものの出来は結構好きです。特にBメロからサビに移行するあたりのメロディは好きですね〜。
 EDの『PIECE of love』もその意味ではそう。何でこの作品で曲のタイトル英語にしちゃうかなあとは思います。まあ日本語でのダブルミーニングとしては表現しづらいところだとは言え、ねえ。曲としてはすごく澄んだ冬空の印象があって、これも結構好きなんですけどね。ホントこのボーカル2曲は個人的にはどこか勿体無い印象です。

 BGMは名曲揃い。
 特にお気に入りは二つ、まずは『ゆかり神社』ですね。この、如何にも忘れ去られた神秘の場所、というイメージがビンビンに伝わってくる前半の曲調と、後半の少しずつ縁のつながりを手繰り寄せて広がっていくようなイメージがあまりにも世界観にしっくりきます。
 もう一つは『なみだのゆくえ』、この怒涛のように溢れてくる悲しみの連鎖を押し殺すようにして耐えているこりすのイメージがあまりに明確に思い浮かんでしまう曲です。後半の押し殺した想いが澱んで渦巻いてまた溢れそうになって、みたいなイメージも切なく、個人的にはこりすのテーマ曲です。
 その他お気に入りは『麻生こま』『恵みの夢』『胸の奥に木霊する笑顔』『こころの流れゆく場所』『めぐりゆく輪』あたりですね。


システム(7/10)

 演出は効果的ではありますが、使用頻度としては物足りないって所ですね。
 上でも書いたように、基本的に言葉で伝えられる部分は言葉に託すのがこの人の手法なので、演出はそれを更に上書きして印象付けたい場面にしか配置されないことになります。形式的にもこれが限界って部分もあるでしょうし、時代も考えれば頑張ってはいるのでしょうけどね。

 システムも、6年前とはいえイマイチ使いづらいですね〜。画面モード切替とかスキップとか、ワンカーソルに依存していないので切り替えが一々面倒だし。なんか裏技的に使いやすく出来ます、みたいな説明がスタッフルームであったけど、基本搭載されていないとやっぱりねぇ・・・。


総合(85/100)

 総プレイ時間、22〜3時間くらい。
 とにかく共通が長く(1周10時間くらい)、選択肢も異常に多くて(きちんと意味づけはある選択肢だけど)、個別への分岐もかなり早い段階からなされるのでリプレイが大変です。。。特にこまとこりすは一番最初の選択肢からきちんと選択しないと駄目っぽいので・・・。まあ二周することを前提とした伏線も数多くあり、そこまでは充分読むに耐えるので、上手くバランスをとってプレイするといいと思います。
 だいぶ昔の作品ですがとっても面白かったですね。買えて良かったです。
posted by クローバー at 07:08| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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