2011年03月02日

グリザイアの果実

 とにかく体験版が素晴らしかったので、徐々に自分の中で期待値が上がっていって、最終的には鬼のように楽しみにしていました。


シナリオ(27/30)

 枷を破る力の意味。


 主人公は幼い頃に一家離散を経験し、またその原因に自分が関わっているという強迫観念から生きる力を失っていましたが、“師匠”と主人公が呼んで慕う女性に拾われたことで、少しずつそれを取り戻していきます。
 しかしその結果として、師匠が元々関わっていた国家の後ろ暗い組織の一員として自然と取り込まれていた主人公は、師匠の死後その立場を継ぎ、その分野では右に出るものなしのエースに成長しました。
 けれど、元々臆病で繊細な性格であった主人公には、何かを殺すことで何かを守るという在り方に意義を感じにくくなり、そうした自分を無意識に変革しようとしてか、普通の学園に通って普通の学生のような生活をしてみたいと言う要望を出し、仕事そのものは非常勤扱いで継続することを条件にそれを受理されます。

 以下の経緯で主人公が通うことになった学園、しかしそこは、主人公のような存在でも通うことを許可できるだけのことはある、社会に適合できないと判断された問題児が送られる鳥篭のような場所でした。生徒は主人公を含めてたった六人、しかも主人公以外は全員が女の子という特殊な環境だったのです。

 最年長で気立ても気配りも効いている、ちょっとHなお姉さん、周防天音。
 自由すぎる言動と振る舞いで周囲を翻弄する小さなアホの子、入巣蒔菜。
 周囲にバレバレのツンデレの皮を被るどこか抜けているピエロ、松嶋みちる。
 人の頼みは決して断らない、出来すぎの優等生で最年少委員長、小嶺幸。
 孤高を好み干渉を嫌う、周囲と距離を置いて接する理事長の娘、榊由美子。

 一見それなりに変なところはありながらも、少なくともこの狭いコミュニティの中で過ごしている限りは日常生活に破綻を感じさせない五人でしたが、同じ寮に住んで暮らしていくうちに少しずつ、彼女たちが抱えている深い深い闇の一端が垣間見えるようになっていきます。
 彼女たちとの関係を進めていけば必ずぶつかるであろうその闇に対して、自身の事情も含めて如何に接していくのか、そしてその闇と向き合うと決意したときにもたらされる悪意や恐慌に対してどう立ち向かっていくのか、世界と折り合えない六つの灰色の果実の戦いはそこから始まるのでした。


 概要としてはこんな感じでしょうか。
 基本的に構成そのものは単純なこの作品、重点を置いているのはやはり人間性の構築、それもどこかが破綻してしまっているキャラにどれだけリアリティと共感を呼び起こせるかだと感じます。
 
 まず主人公の設定が非常に秀逸。
 生まれ育った環境、世界が反転して以降に過ごしてきた環境が相俟って、非常に老成しながらもどこかに純粋さを感じさせ、元々五人で上手く機能していた学園のメンバーとも違和感なく折り合いをつけられる柔軟性があり、人の痛みに敏感ながらも経験からそれを克服するのに必要なものを熟知していて、自身が受け皿であることを明確に線引きしています。
 そしていざ踏み込むとなったら、元々の背景を十全に利用して、それこそ国家レベルでの大事にまで持ち込んででも解決の道を探る一本気さを見せ、まさしくこの作品の設定にもっとも相応しいパーソナリティを構築できていると思います。
 かつその基本設定が徹底されていて、ルートごとにブレがあったりしないのも誉めるべきポイントの一つですね。

 共通ルートはかなり長いですが、ここではヒロインのパーソナリティの掘り下げもさることながら、むしろ主人公の考え方、出来る事、関わり方、行動力などを明確にし、個別での行動にきちんと説得力をもたらすために必要な伏線だと思えます。
 一つ一つの小節の冒頭には、必ずといっていいほど主人公の人生訓めいた独白が提示され、それを積み重ねていくことで堅苦しくも律儀で一本気な在り方が透けて見えてくる印象です。そしてだんだんこのテンポが心地よく感じるようになるのが不思議なところ。。。テキスト的にもキャラの面白さもあって非常にメリハリがあって飽きないですし、プレイしているとその長さを感じさせませんね。
 そして無論ヒロイン一人一人についても、後の伏線となるべき部分はしっかり組み込まれていますが、そちらはやはり個別に入ってからがメインとなります。

 個別に関しては、当然ながら各ヒロインがこの場所で過ごすに至る経緯が焦点となり、最終的にはそれを解決することが目的となります。
 まず言及しておきたいのは、とにかくこの作品、重いです。
 こんな施設に送られているのだから当然、その背景には不幸な設定が用意されているわけですが、とにかくこの作品、その部分に全くといっていいほど容赦がありません。内容そのものは比較的有り触れた不幸なのですが、あまりにも救いがない残酷性が際立った物語に仕立てられているので、ぶっ通しでプレイしていると普通に気が滅入ってきます。
 それでもヒロインが持つ純粋性や明るさ、主人公の強さや破天荒さに支えられて、ダークサイドに転がり落ちていくような展開にはならないものの、それなりに気合を入れて読み進めて、きちんとシンクロニティセンサーを直に据えていかないと本質的な面白さを見失いそうになるので注意と根性が必要かなと思います。しかもシナリオ全部長いしね。。。

 全てに共通する特徴としては、主人公が自身の経験から、まずは本人が立ち向かう意志を持たなければ、周りの干渉は一切無意味になってしまうという残酷な真実を悟っているために、あくまで最初は積極的にアプローチせず、ヒロインに立ち向かう勇気を与えることだけを主眼に接していく部分ですね。そうすることで、シナリオ的にもこれは二人の物語だと強く意識付けすることが出来、そこから展開される不幸話にも読み手がのめりこんでいける土壌を構築しているといえます。
 そしていざ救うとなればその圧倒的かつ破天荒な行動力で、周囲にひたすら迷惑を振りまきつつも目的に向かって邁進していくことになり、とても緩急の使い分けがしっかりした構成を組み上げることに成功しているわけですね。

 ネタバレになり過ぎない程度に各シナリオの所感をかるーく。
 由美子と蒔菜シナリオは名家における親子の相克がメインのテーマになっています(まあそれだけではないですけど)。この相克の度合いがわたすら陰惨かつ熾烈で、イメージとしてはのーぶるわーくすの真逆みたいな。
 あれは周囲の大人が相当に子供の意志を尊重してくれる作品でしたが、こっちは子供を完璧に家を存続・反映させるための道具であり、むしろ個人の意志など邪魔だから捨ててしまえとはっきり明言されるような内容です。故に、まともな話し合いによっての妥協などまず考えられず、だからこそこれだけの主人公を必要とすることになるんですね。

 みちると幸シナリオは、精神的な恐怖が主題といえるでしょう。
 無論そこに至るまでの背景そのものも悲惨なのですが、そうした状況をもたらしてしまったのが自分であるという強迫観念によって規定されてしまっている自己を如何に解放していくかがメインテーマとなります。上二つに比べて大枠の仕掛けはありませんが(それでも随所にらしさが見られるけど)、その分一つ一つヒロインが抱えるトラウマを丁寧に解消していく過程がとても面白く、更に構造が複合的で、解決したと思った先にもう一つ問題があったりと展開的にも飽きさせない作りになっています。

 天音シナリオはズバリ悔恨がテーマでしょうか。
 彼女の場合、過去に巻き込まれた事件によって周囲からいい目で見られなくなったことがこの学園に来た直接的な原因であり、故にここで過ごす分には問題はなかったのですが、主人公が転校してきたことでその過去が密接に関わってくるという構成です。
 天音の過去は瞬発的とはいえ凄惨さでもダイナミズムでも一際突き抜けており、そしてそこからの脱却に至る経緯がまた鮮烈です。ちなみにこの過去編のさわりだけは体験版でも出来るのですが、もし今からこのゲームやろうって人はそこはスルーしておいたほうが得策です。それをちらっとでも知っていることで天音シナリオ全体の構成が透けてしまうというのもありますが、単純にこの作品の中でも一、二を争う読み応えのあるシーンだから無色で読んだほうが衝撃的だろうと思うので。

 あと微妙な点にも触れておくと、まずは主人公の万能性がかなり突き抜けていること。それが出来るだけの土壌こそ用意はされているものの、流石にいくつかやりすぎを感じるシーンもありますし、特に終盤に至ってそれが目立つとちょっと勿体無いなと。加えて多少ご都合主義的な展開、白々しい展開も横行するので、そのへんをサラッと流せるかはポイントになると思います。
 ただ全体としてみれば、圧倒的な不幸の重さによって読み手の心を弱らせておくことで、そういう展開でもすんなり受け入れられるように工夫されているとはいえますけれど(笑)。

 シナリオとして一番好きなのは蒔菜ですね。中盤までの絵に描いたような平穏で幸せな日々と、大きな思惑に飲み込まれて以降の切なさとのギャップ、そして唯一といっていい、問題の根治解決にまで至らずに、自己を切り売りするような代償を払わなければささやかな幸せにも辿り着けなかった部分に、情緒的な部分でリアリティを感じます(だからと言って、ラストの蒔菜の立場そのものが突拍子もないことは否定しませんよ)。
 みちるシナリオも結構好きですね〜。不幸度で言えば一番ヒロインの中で低い気もするし、どことなく甘えの色が強い内容ではありますが、終盤の展開は全てが好みで面白かったなあと。
 あとエピソードとしてはやはりエンジェリック・ハウルが白眉。
 またこの作品は、全体的に主人公の在り方の奥に一姫の存在が透けて見える部分が結構あるので、これ含めた天音シナリオを最初にプレイしておくのが個人的にはいいんじゃないかなあと思います。
 とりあえず“教授”はとても胡散臭いけれど、あの窮地からでも彼女なら切り開きかねないという畏怖と、それでもそこから脱却したあと、日の当たる所を歩けず一人で生きていく術という意味でも厳しさを感じる彼女の身の振り方としては妙にしっくりくるので個人的には喜んで受け入れたいなあと。

 そんな感じで、粗も結構目に付くけれど、作品全体の力強さというか、読み手を吸引するパワーが素晴らしく、始めたら一気にクリアしたくなるような魔性の魅力を持つ作品でしたね。シナリオとしても一つも外れがなく、随所にきらりと光る部分は垣間見せているので、このくらいの点数はつけて問題ないと思います。


キャラ(20/20)

 生まれ持ち、育まれた性質は白くとも、生きる環境が黒に染まることを求める枷となり、どちらともなれずに灰色であり続ける果実、というタイトルの意味合いが如実に表現された、すごく印象度の高いキャラ群であったなあというのが正直な感想です。

 しかし、全員プレイし終えた後にして尚、この作品で一番好きなキャラは一姫だったりするんだよなあこれが。まあそれだけ活躍が鮮烈だし、性質的にも難しいものは色々抱えていつつも本質的には善良で可愛げもあり、影響力という意味ですごくインパクトがあります。あと実はビジュアル的にも一番好きだったりして。。。

 ヒロインだと幸と蒔菜が双璧ですかねやっぱり。
 二人とも過去の影響で隠された自己が裏側にあり、それが日々の生活の中で少しずつ表に見えてくる過程も好きですし、また主人公と関わることで新しく獲得していったパーソナリティも非常に愛らしく、他シナリオであっても出てくるだけで気分が和むような雰囲気がある二人でしたね。
 他三人もそれぞれにしっかりとした魅力があるのは認めるところですし、そして五人揃っての魅力という部分でも上手く折り合いがついていたなあと思います。こうした箱庭的な物語において、そこがダメだと致命傷ですからね〜。


CG(18/20)

 絵師二人構成で、かなり画風が違うんですけど、でも背景とかの噛み合わせにおいても、横に並んだときにおいてもさほど違和感は感じさせないのが見事な手腕だと思うし、出来そのものも抜群とは言わないまでも安定していたと思います。

 立ち絵に関しては、差分も服飾もそれなりだったでしょうか。演出力でカバーしている部分は大きいにせよ、見ていて飽きない程度にはメリハリがありました。
 お気に入りは、天音の笑顔、蒔菜のきゃっほぅ、じゃない万歳笑顔、皮肉顔、照れ顔、しょんぼり顔、立腹顔、幸の真面目顔、笑顔、きょとんとした顔、あわあわ顔、みちるのギャグ泣き顔、照れ笑顔、由美子の涼しげ笑顔、照れ慌て顔、一姫の含みのある笑顔、呆れ顔、きょとんとした顔あたりですね。

 一枚絵は、SDまで含めれば枚数もかなりあり、出来も安定していてそれなりに満足できる質と量かなと。
 お気に入りはページ順に、暴漢に襲われる由美子、怪我した手を取って、側羽背位H、家族、蒔菜の髪を梳く天音、保健室で手当て、まんぐり返しで愛撫、浴衣でバック、孫と語らい、海を眺めるみちる、猫と戯れて、初めてのデートにカチコチ、闇の中のもう一人の自分、ハローワールド(棺桶からの生還)、おっかなびっくりのフェラ、木陰で昼寝する蒔菜と猫、射的、初Hバック、旅館Hフェラ、叶ったささやかな夢と・・・、きょとんと見上げる幸、湯あたり、子供の頃ブランコで、膝枕、帰りたくない・・・、私服H騎乗位、病室で手を取り決意、取り戻した無邪気な笑いあたりですかね。


BGM(18/20)

 雰囲気良く、豪華で、出来もかなりお気に入りです。
 ボーカル曲は6曲、いや7曲か一応。。。
 OPの『終末のフラクタル』は、出だしとその続きのイントロがいかにもフロントウイングっぽいなあと。枷を打ち破って空に飛び立つような広がりのある音の使い方とサビの爽快感はすごく好みです。
 EDはヒロインごとに5曲あるのですが、いちいち聴き込んでいられなかったので概ね割愛。
 その中で、飛び抜けて気に入ったのが『迷いの森』。このシナリオのラストに相応しい、どこか悲壮感を纏いながらも言い聞かせるように幸せを信じる歌詞の切なさがすごく染みます。またサビがすごくかっこよくも哀愁に震えていて、特に最後の音の流し方が物凄く好きです。
 マグロは・・・いいよねどうでも(笑)。のののとれんげが久しぶりに見られて可愛かったけどさ。。。

 BGMも良曲揃い。
 特にお気に入りが『グレープドロップス』。周を追うごとに哀愁度が高まっていく音の重なりが物凄く切なくも美しく、とても耳に残るいいメロディです。
 その他では『瓶詰めの空』『Shootin’Cat』『花咲くとき』『笑っていたくて・・・』『アップルクラッシュ』『ROCKYOU』『in the air』あたりがお気に入りです。


システム(9/10) 

 演出は中々に高水準。
 立ち絵同期の切り替えがすごく滑らかで、かつ動かし方もすごく多岐に渡っており、とても自然にキャラが感情表現とともに体を動かしているイメージが伝わってきます。背景演出は、ややバトル的演出がチープなのを除けば効果的に作用しているし、よく出来ているかなと。OPムービーもアニメーション交じりで画面効果もうまく使えているかなって感じます。

 システムも高水準ですね。
 ジャンプシステムが選択肢ごとと章ごとに設定しなおせるのは便利ですし、そもそもシーン回想が行き届いているので、ちょっとあのシーンだけ見たいって時には重宝するでしょう。スキップもそれなりに速いし、その他設定もそれなりに細かく管理されているのでわかりやすく使いやすいかなと。


総合(92/100)

 総プレイ時間30時間弱。大作ですね。共通5時間、個別はみちる、由美子、幸が4〜5時間くらい、天音と蒔菜は5〜6時間くらいだったと思います。
 かなりボリュームのある作品ですが、それが不必要に冗長なのではなく、きちんと一つ一つが必要な要素になっていること、またキャラ設定の秀逸さ、テキストや演出の工夫により飽きを感じさせないこともあり、プレイ中はその長さを意識することはあまりないですね。
 どうしても重い要素はふんだんに盛り込まれているので、それなりにプレイするには思い切りが必要ですが、決して読後感は悪くなく、総合してみても間違いなく名作に位置づけて問題ない作品ではないかと思います。

 追記、2012/01/08、シナリオ+2点。
posted by クローバー at 06:28| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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