2011年06月10日

恋ではなく

スタッフが色々と豪華すぎるし、コンセプトも中々に斬新だったので楽しみにしてました。


シナリオ(23/30)

 入り口と、道程。


 昔はいつも四人でした。
 ガキ大将の扶、地域唯一の医院の子で紅一点の裕未、一つ年下で地域の総領の息子である典史、更に一つ年下で裕未の弟の泰斗、物心着く頃から典史の家に集っていた四人は、それなりに長じてからも地域のしがらみなどとは関係なく深い関係性を保ち続けていました。
 親分肌で飽きっぽく、いつも新しいことをはじめてはみんなを巻き込みつつ、それでもきちんと面倒を見る扶と、その第一の子分の座を争っていつもいがみ合い、典史の趣味である写真を撮る撮られるの際でも喧嘩腰だった裕未と典史、そんな争いを一歩引いたところで絵の中に収めようとしていた泰斗、そこには確かな絆がありました。
 しかし、そんな幼い頃の蜜月にも終わりはきます。
 泰斗は病に倒れて帰らぬ人となり、裕未は東京でプロのモデルとして頭角を現し、また泰斗の件をきっかけにして裕未と典史の関係は険悪となってしまい、何年もすれ違ったままでした。

 そして、皆が上の学校に進学し、そろそろ社会に踏み出そうというとき、扶が宣言します。
 
 「卒業する前に、記念として映画を1本撮る。8mmカメラで。」

 最初はみんなに世迷言だと思われていた宣言は至って本気で、扶が所属する映研だけでは手に負えないと、同じく映像系の部活である写真部、デジタルメディア同好会にも協力を要請し、同時に映画のヒロインとして、今やプロのモデルとしての地位をそれなりに確立している裕未を抜擢したのです。
 かくして、映研からは監督として扶と、唯一まともに撮影に関われる部員でシナリオ担当の亮輔、写真部からはカメラ担当として典史、その他雑用にデジ同の一年生の好佳、そしてヒロインが裕未、受験のために直接は参加できず、オブザーバーという形で協力する写真部部長の美月とデジ同部長の孝一という少数精鋭で映画を撮ることになったのが秋口の話でした。後に教育実習生で映研のOBでもある尚人を加え、手探りながらも少しずつ、映画は完成に向かっていきます。

 その裏で、様々な人間関係も形を変えて蠢いていました。
 この映画を撮るにあたっての、秘められた扶の想い、亮輔が抱える事情、そして険悪なままの典史と裕未の関係。様々な不穏を孕みつつも、映画という一大目標を前に扶の元で団結する一同、しかしながらそのバランスは徐々に内側から崩れはじめ、そして扶が典史に明確に自らの恋心を吐露したときに決定的になります。
 かつての絆は形を変え、想いそのものもすり替わっていく中で、決して恋ではない、されど絶対的に大切な何かを抱え続けたまま、過去の因縁によって断絶を余儀なくされた典史と裕未、映画を通して撮る撮られるの関係を取り戻したことから、2人の物語は新しい道を紡いでいく―――。


 とまあ、私的なあらすじだとこんな感じですかね。
 この作品は構成が一風変わっていて、典史と裕未がダブル主人公として存在し、そしてこの2人の関係性を常に機軸として物語が進展していきます。普通の作品だと、選択肢によって状況が変化し、様々なヒロインルートに派生するのが当たり前なのですが、これは逆にどんな選択肢を選んでも、辿る道のりは違えど必ず2人が結ばれる流れに収束するという斬新な形式を取っているのですね。
 ここで単純に結ばれる、という言葉を使ってしまいましたが、この2人の関係に果たしてその言葉の使い方が正しいのかは微妙に自信が持てません。より正確を期すならば、結ばれていたものをより強く結い直した、と言ったほうがしっくりくるのですが、それが当てはまるのもグランドルートだけだったりするので・・・。

 ともあれ、構成としてはそれぞれ扶、亮輔、尚人の動向を中心に据えた3ルートがあり、それを全てクリアするとグランドルートが見られる、という形になっています。人間関係の伏線と選択肢の出方からして、3ルートのうち尚人も攻略制限かかっているのかもですが、上の順番でクリアした私には真偽はちょっと不明。
 この最初の3ルートは、ものすごく大雑把な言い方をしてしまえば、周りから見て互いに意識していることは明白な典史と裕未の関係を、裕未に懸想する相手を当て馬にして進展させようという思惑に抗いきれなかった、と言うことになると思います。
 勿論ただそれだけでなく、それぞれにきちんとした物語があり、特に亮輔ルートなんかは2人の過去とのオーバーラップによってしがらみを振り払えない状況を切々と切り取っていて迫力があるのですが、そういう物語的な面白さとは別の部分で、2人の関係性に対する周囲と当事者の持つ差異、違和感を感じ取ることが、グランドに繋がるという意味では正しい見方になるのかなと思っています。

 グランドルートでは、OPクレジットでは隠されているキャラ、過去の因縁の相手や裕未と典史の関係を冷酷に裁く外側のキャラなども映画撮影に絡んできて、その流れの中で人の関係性を永続たらしめる何かを見出すことになります。
 タイトルの恋ではなく、は、ルートによって、または場面場面でも色々な解釈が出来るのですが、私の解釈だと少なくともグランドにおいては、恋とはあくまで関係性の入り口であり、それを永続させていくものとはまったく別個のものだという色合いが見て取れます。

 確かに恋心というのは、男女の関係性を規定する上で大切な要素ではありますが、しかし残酷に言えば、恋とはあくまで個人の概念であり、2人で紡ぎあげていけるものではないわけで、恋心をリンクさせて永続させるためにはまた別の努力が必要となるのが現実的な解釈なのは間違いないでしょう。
 では逆に、恋ではなく、けれど関係の永続性を保障しうる概念をスターターとしたそれは成り立たないのか、という疑問が、この物語の根底にあるのかなと私は感じました。それは情熱、情念、絆、言い方は関係性によってそれぞれですが、これが男女の仲になるとすぐに恋という言葉にすり替わってしまうその軽薄な観念に、真っ向から対立軸を用意したように見えるのがこの作品です。
 
 勿論男女の中において、その関係性が如何なる情熱に支えられていようとも、そこに恋情が混じる可能性を否定できるわけではなく、そちらに振れたとしてもきちんと2人が在り方の根幹を意識しているのであれば大丈夫、という視点で最初の3ルートは解釈できますが、その後、を書いていない部分と、特典の文庫のあとがきを読んでいると、あるいは、と思わなくもないです。。。
 ともあれ大切なのは、2人の関係性にとって何が第一義なのか、であり、典史と裕未にとってそれがなんなのかは本編プレイしてもらうのが一番として、他のキャラ全てにも単純な恋ではないスタートラインを用意したグランドルートの構成は、それまでほぼ二人の視点で語られていた物語を広げ、他者視点での2人の関係性を、誤解なく膾炙させることによって成り立っていると言う実に凄みのあるもので、非常に面白いとともに考えさせられる物語でした。

 とまあ、内容的には名作判定出していい作品なんですが、それと好き嫌いはまた別の話で。。。
 主人公2人の在り方については基幹部分に至るまでしっかりと綿密に作りこまれていて、かつその才能が情熱の継続性に裏打ちされていると定義している以上、理屈としてそれを否定できる要素はないものの、やはりどこか浮世離れしているというか、それだけの純度を保って真っ直ぐに在れることに、怖さと都合よさを感じてしまうのは、やはり私の心が捻くれているからでしょうか(笑)。
 確かに至る所で、弱さ・醜さ・依怙地さを垣間見せ、ゆらゆらブレている2人ではありますが、根幹の部分の在り方に関してだけは、言葉ではどうあれ全くブレないのが凄みではあります。それに説得性を持たせる装置として茶の席が用意されているし、なるほど、と思わせる部分は確かにあるのですが、やはりこの2人が据えている信念の部分には共感が及ばないというのが正直なところ。
 むしろ朋子や蓉子や扶の、悲壮ででも真っ直ぐで、けれど凡庸な覚悟のほうに共感してしまうあたりで、私も間違いなく凡人だなあと納得させられてしまうのが一番腹立たしいと言うか。。。それでいい、と孝一のように立ち位置を見据えて踏みとどまれるような強さを、よりによってこの媒体を通して求めてくるか、という驚きと拒絶感が先に立ってしまったあたりで負けなのかな〜、って印象です。

 まとめてしまえば、基本的全部、特に亮輔とグランドルートはとても面白かったですけど、個人的に読後感はあまり良くなかったのが正直な感想です。余計なこと考えすぎず割り切って見れば良かったんでしょうけど、最初にそう感じてしまったのは仕方ないというかなんというか。リプレイするとしたら、気力のあるときじゃないときついなこれ、って感じです。。。
 構成の秀逸さ、テーマの深さ、人物造形の巧みさ、どれをとっても名作ですし、ご都合主義が蔓延しきっているエロゲ業界にかなり大きな波紋を及ぼすような作品ではありますが(特に恋という概念のお手軽感を喝破しているという意味ではかなり辛辣)、ヒロインがたった一人、しかも彼女が求める関係性がかなり特殊であるという観点からすると非常に冒険的で、スタッフが述べているように実験作の色合いは強く、かなり人を選ぶのは確かだと思います。少なくとも体験版の部分でそこまでの重さを読み取るのは至難なので、プレイするならそれなりに気合を入れることを推奨しますね。
 点数については、どうしたって22点以下には出来ないし、でも24点以上はあげたくないなあ、と思ったので無難に間を取りました。文句なく好きになれたのであれば27点くらいはつけていい質の高さではあるんですけどね。
 

キャラ(20/20)

 それぞれの立ち位置、信念がしっかりくっきりとしており、主人公2人を筆頭にその背景もしっかり作りこまれ(サブのキャラは小説で補完されている部分もあるけれど)、まずもって青春群像劇として申し分なく、必要充分すぎるキャラ群だと思います。

 好きなキャラは、朋子と蓉子が双璧かなってとこですね。
 朋子に関してはあの大人めいた部分と子供らしさのアンバランス感、そして境遇がもたらす必死さがすごく魅力的にうつりましたね。可愛さと儚さが上手く同居していて、そして芯の部分にはしっかり強さを兼ね備えていて、将来的にはホントいい女性になるだろうなと素直に感じます。あんなガキには勿体無いねホント(笑)。
 蓉子は自分でも不思議なんだけどすごく共感してしまったキャラなんですよね。立ち位置としては明らかに嫌われ役なんだけど、それを受け入れてでも想いに決着をつけたいという強さに、そして亮輔の前でだけ見せる柔らかくも触れると痺れそうな雰囲気に引き込まれ、また考え方や在り方がすごく感性にフィットしていて良かったです。

 次点で好佳ですかねやっぱり。
 当初思っていたよりも深い、というかトリックスター的立ち位置ではありますねこの子は。物語的にはすごく色々な部分で楔になっているイメージで、普段は明るく可愛らしく振舞っているけれど芯の部分ではすごく考えているキャラだなあと感心してみてました。まああそこまで人情の機微に達観している高1とか出来すぎじゃね?と穿った感想もあるんですけど。。。

 男キャラでは扶が一番好きですかね。
 なんかこう、常に色々なものと闘って、打ちのめされつつも前に進むことを諦めず、自然に周りを引っ張っていく人間力がすごく感じられていいなあと。だらしないところやみっともないところも曝け出しながら、それでも誰かのために強く在れるのは才能だと思いますし、グランドのラストは唯一の欠点を上手く補完されていて、好佳とセットで好感度アップでしたね。

 んで、シナリオ感想読めばなんとなくわかると思うけれど、ぶっちゃけ典史と裕未はあんまり好きじゃないんですよね。好きじゃないけれど造形としては完璧に近いのは認めますし、ああいう在り方に憧れ、共感できるならきっと強く惹き付けられること請け合いだとは思います。


CG(19/20)

 相変わらず素晴らしくきれいな絵ですね。
 今回はゲーム的な装飾をほぼ一切排除して、等身大の美しさを見せることをコンセプトにしているのでしょうが、この試みは上手くいっていると思います。別作品に比べて確かに華麗さは見劣りますが、その分内面の美しさまで上手く引き出せている印象がありますからね。

 立ち絵に関しては出来そのものはいいものの、差分に関してはもう一息かなと。無論きちんとした感情表現に足る駒は揃っているものの、どこか画一的というか、キャラ独特の雰囲気まで踏み込めていない印象はあります。構成的にそこで勝負する気がないのも一因でしょうがね。
 服飾としては数もあり美麗ですが、ミニスカ率高すぎじゃね?とそこだけエロゲ的基本を実装しているのが逆に違和感だったりも。スタイリッシュにまとめてあるとは思うんですけどね。つか、もっと朋子のレギンスを映して〜〜〜、とフェチを告白してみる。。。
 お気に入り表情は典史照れ顔、怒り顔、裕未呆れ顔、からかい顔、凹み顔、扶怒り顔、からかい笑顔、好佳驚き顔、怒り顔、笑顔、朋子呆れ顔、甘え顔、美月照れ顔、怒り顔、蓉子澄まし顔、苦笑い、くらいしか思い出さないなあ。

 一枚絵は全部でちょうど100枚、質も抜群でまずは文句ないところ。
 特にお気に入りは、裕未の昔の写真と朋子の告白。
 前者は、本編ではともかく色々と難しい裕未なので、あの真っ直ぐで純粋な眼差しが非常に眩しく、同時に確かにここまでのものだったら契機になるなあと納得させられるインパクトがあったので。決してロリな時代のほうが可愛いとかは・・・思ってるけどさ。。。
 後者はとにかく朋子の必死さが構図や表情から全面に醸し出されていて、場面の状況も踏まえれば物凄く勇気を振り絞っているのがヒシヒシとつたわってきていじらしいです。特に視線を逸らした顔が可愛すぎます。

 その他お気に入りはページ順に、美月と帰宅、写真を撮る好佳、過去の集まり、みんなでお茶、典史をからかう好佳、クリスマス会、寝込んだ裕未、三人でパジャマトーク、扶の平手打ち、背後からキス、朋子をお姫様抱っこ、裕未の膝の上、雪中の慟哭、典史の膝の上、夜の病室で、裸のポートレート、朋子の怒り、裕未H服を脱がせて、正常位、覗き込む扶、お風呂で愛撫、添い寝、裕未のモデル仕事、裕未と蓉子、蓉子の真剣な告白あたりでしょうかね。


BGM(17/20)

 全体的にとにかく洗練された、スタイリッシュな雰囲気が漂う楽曲ですね。
 ボーカル曲は3曲。回想に入ってないんであまり聴きこめてないですけど。
 OPの『ReflectionS』は迫力があって、でも切なさと痛々しさが同居していて、中々に印象深い曲ですね。特にサビの部分は好きです。
 EDの『Dancing in the Moment』は颯爽とした、毅然とした雰囲気の中にどこか物足りなさを残した、そんなイメージの曲ですかね。
 グランドEDの『深遠の絆』は、それにふさわしい荘厳さと、世界に2人きりのような怖さとそれに挑む意志を感じさせる強い曲ですが、楽曲としてはちょっとやりすぎて全体のバランス、そして音の使い方がイマイチな気はしました。

 BGMも、目立ちすぎず、でも存在感はあるように計算された、とにかく洗練された雰囲気がよかったですね。
 お気に入りは『introduction』『ひと時の安らぎ』『振動する空気』『The Vision』『Star Fall』『見上げたら』『そばにいるから』あたりですね。


システム(8/10)

 演出はまあそれなりに。
 出入りの激しい作品ではないので立ち絵演出は控えめですね。その分は画面の広さと立ち位置の構図で上手く表現してましたし、背景演出はそれなりに力が入っていたかなと。特に映画・写真関連のそれは、できるだけリアリティを追及した感じでよかったです。
 ムービーの出来は出色、まずもってOP、ED2つとも、ここまでの尺で作ること自体が稀有ですし、全てがとてもアナクロかつスタイリッシュにまとめられていて中々に見入ってしまう出来でした。特に最後のEDとか、本当に8mmで撮影した画像取り込んでいるのですかね?とにかくいい雰囲気だったと思います。
 
 システムもまあ普通、かな。必要なものは揃っていたと思います。
 ちょっとスキップが遅いのが気にはなりますが、それ以外は問題ないのではないかと。


総合(87/100)

 総プレイ時間20時間くらいかな。共通4時間、最初の3ルートが3〜3,5時間くらい、グランドルートが5時間弱という感じです。ヒロインが一人という割には尺は長く、物語もバラエティに富んでいて、かつすごく引き込まれる物語なので、だれるということはほとんどなく一気に読み進められました。
 前もってそうだとは思っていたけど、紛れもなく名作だけど人を選ぶ、という評価がしっくりきすぎますね。個人的に諸手を挙げて絶賛、というわけにはならなかったのは残念ではありますが、それでもプレイしてみて本当によかったと思いますし、やはり早狩さんは偉大だなあと。これからもその異端性をずんずんこの世界に持ち込んで欲しいものです。
posted by クローバー at 06:38| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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