2011年07月08日

すきま桜とうその都会

 このライターさんずっと追いかけてますし、作品の雰囲気も世界観も全て気に入ったので、やむを得ぬ事情で6月のプレイ順としては3番目になったものの、期待度ではかなり高いものがありました。


シナリオ(26/30)

 人を幸せに導く力。


 主人公とその妹の咲良は冷たい都会を彷徨っていました。
 着の身着のままで実家を飛び出してきて2週間、定住する場所もないまま、誰の優しさも受けることなくただひたすら冷たい都会を彷徨い、ついには空からは雪が降り始め、もはや進退窮まるところまできてしまいます。
 家さえ出られればなんとかなる、そんな楽観を抱いていた主人公に対し、うそつきと糾弾する咲良の言葉に反論する余地もないまま、世の不条理を嘆いているとき、ふと目の前を通り過ぎる違和感のある景色がありました。
 それは、冬には全く相応しくない優しい色、桜の花びらでした。
 その出所を目で追いかけていくと、都会のビルの隙間から、満開の桜が目に飛び込んできます。半信半疑ながらその場所に2人が踏み込んでいくと、なんとそこは、空一面が大きな桜の木に覆われた、常に春めいた陽気の不可思議な空間だったのです。
 
 そんな不思議な場所でも、あのまま寒空の下にいるよりはマシと探索を始めた二人は、やがてこの街を覆っている大きな桜の樹の根元に辿り着きます。するとそこに待っていたのは、鈴の音を響かせ、和装で佇む幻想的な少女でした。
 鈴と名乗った彼女は、2人を一つの寮の前まで導き姿を忽然と消します。そこは、この幻想の街・桜乃に迷い込んでしまった、行き場のない人を救済するための寮であり、寮長である音々と会談した結果として、二人もそこに住まわせてもらい、この街の学園にも通わせてもらえることになります。
 その寮の先住人は、ハイテンション少女ちよこ、記憶喪失少女花珠、女の子に見まがうばかりの少年霞と癖のある人物ばかりでしたが、故にこそ明らかに問題を抱えている2人でも屈託なく迎え入れてくれます。そして彼らに飼い猫のちろるを加えた小さなコミュニティの中で生活していくうちに、主人公たちはこの街が、うそつきしか出入りの出来ないうそつきの都会であることを告げられます。
 誰しもがうそをまとい、そのうそを街全体で許容して包み込んでいる優しき世界。やはり大きなうそを抱えている主人公と咲良も、優しく世界に迎えられ、これまで渇望してきたごく普通の暮らしを堪能できることになったのです。

 そして、この街に伝わるまことしやかな噂、それは、この街を作った神様がいて、その神様にはうそをほんとにする力が備わっているというのです。それを知った主人公は、日々の生活を満喫しつつ、自分たちのうそをほんとに変えるため、仲間たちと一緒に神様探しを始めるのでした。
 果たして神様とは?その力の真偽は?そしてそもそもの、この街の成り立ちとは?様々な謎を優しきうそでくるんで温めている街・桜乃で、彼らはかつて失い、そして今でも渇望している何かを、うそをほんとに変えることで取り戻すことが出来るのでしょうか?
 そう、これは手に入れるのではなく、取り戻すための物語。


 と、こんな感じのあらすじですね。
 何というかこの作品、もう最初の最初から伏線満載なだけに、如何にクリティカルな部分に触れずにあらすじを仕立てるかというのが非常に難しいです。。。それだけ余計な前置きなく、すんなりと物語に入っていけるという見方も出来ますけれどね。
 
 とにかくこの作品はうそが最大のテーマになっています。
 一言でうそと言っても、うそにも様々な形があり、それをシナリオの中でいちいちトレースしつつ、自身のうそから目を逸らしつつ、それでもいつしかそのうそをほんとに変えられることを祈っている登場人物たちが、仲間たちとの交流を経て様々な形に融和し、反応し、この場所に佇む限りは目を背けていられる現実に少しずつ向き合っていく、そういう物語ですね。
 作中に、現実はのしかかってくるもの、正直は押し付けられるもの、と言及しているように、この作品においてうそという要素は決してマイナスの要素でなく、むしろ人が人として正常に生きていくための必須要素として使われています。本来のうそという言葉の意味や、うそから派生したあらゆる慣用句を用いて、半ば言葉遊び的ながらもきちんと作品内の現実とすり合わせていく、その段取りが非常に巧みな作品で、確かにこういう形のうそならば許容できる、と読み手に思わせるだけの説得力がありますね。

 シナリオとしては、ちょこと花珠はまあ水準よりちょっと上、くらいの内容ですが、とにかく咲良と鈴、特に咲良シナリオの出来が破格です。
 互いが互いのことを大切に思い、けれど互いに今の幸せを突き崩したくなくて、相手のために、自分のために、何重にも巡って張り巡らされたうそを、一つ一つ丁寧に解きほぐしていくことで、少しずつ少しずつ、現状の幸せに甘んじるのでなく、本来渇望していた全てのものに手を伸ばし、取り戻していく、その過程が素晴らしく丁寧に書かれたシナリオで、特に咲良を騙すシーンにおいては、茶番劇や猿芝居など、使われた言葉とは裏腹な、積み重ねられた想いの限りない優しさに打ち震えますね。
 また、二人が持つ背景と、そこから希求される欲求の形がすごく明確になっているために、兄妹間での恋愛というタブー要素に踏み入るに至っての過程がとても飲み込みやすいんですよね。舞台がファンタジックな部分にある程度力点が置かれている部分を割り引くにしても、妹シナリオとして白眉の出来だと思います。

 鈴シナリオは、テーマとしてはより大きく、人類の生存欲求から来る必要性としてのうそ、という視点にまで物語が拡大され、そこから桜乃という街が生まれた背景につなげるという、かなりの力技が要されていますが、ここまで優しいうその持つ力をある程度目の当たりにしてくることで、世界観はどうあれその成り立ちについては飲み込みやすく、またその基盤がしっかりすることで他のシナリオに説得力をプラスする結果になっています。
 それに、これは鈴シナリオでありつつもかなりの部分で咲良シナリオでもあり、咲良シナリオで言及だけされた部分をきちんと補完して完結されているので、全体的な完成度と世界観の収束という意味合いですごくきれいにまとまっていると感じましたね。

 まあ大体こんな感じで、個人的には咲良シナリオだけで名作確定の出来でした。
 このライターさんはやたらと内省的な問いかけが多い人ですが、今作においてはあまり必要以上にそういう要素に深入りすることなく、だいぶ読みやすいテキストを心がけているなあと思いました。
 むしろ今作は、唐突に会話と会話の隙間でポロリとそれを挟んでくるので、慣れていない人には物語のテンポという意味で違和感かもしれませんが、その何気ない言葉が後々にきちんと響いてくる構成になっているので、その時点では違和感でもきちんと飲み込んでおくと物語に感情移入しやすいですね。


キャラ(20/20)

 作品全体としては、明るく振舞いつつもどこか陰のあるキャラ、というのを非常にバランスよく表現できていますし、サブキャラにもその立ち位置やふとした言葉に強く存在意義が滲み出ていて、すごく考えられて構築されているなあと感じますね。

 そしてもうこの妹さまの可愛さといったらなんですかやばいですよ私に死ねと(笑)。
 こういう性格付けって、普通のヒロインにやったらツンデレとカテゴライズされるのでしょうけど、妹という立ち位置、そしてこの2人の境遇とミックスしてみると、むしろ真っ直ぐに我が儘・甘えんぼという要素が抜きん出ていて、でもそんな表面で出てくる部分とは別に心の揺らぎがあちこちで散見されて、結果的にあらゆる要素が主人公の気を惹くための振る舞いに見えてしまってもう可愛いのなんのって。
 また妹さまという呼称が恐ろしいまでにマッチしているんですよね〜。本筋とは関係ないところで言葉の持つ力というのを見せられている格好で、崇めてちやほやしつつ、大切に大切に見守ってあげたいという主人公の心情にすごく共感できる大きな一因となっていると思います。
 
 話はちょっと逸れますけど、妹キャラって性格がいいとまずシナリオ的に深みが出ないパターンが多くて、だけど癖がある場合はシナリオが良くてもそこまで可愛く感じられないことが多くて、その辺のバランスがとっても難しいと思うんですよ。
 そこにきてこの咲良、性格は癖があるけどマジ可愛く、また背景要素からも愛してあげたい気持ちが強まり、そしてシナリオ補正が素晴らしいときていて、もう個人的に大絶賛なのです。おそらくヒロインランクで、妹キャラ歴代1位になるでしょう。単純に好き、ってだけの妹なら匹敵するキャラは何人か思い出しますけど、総合的に見て殿堂入り出来るだけのポテンシャルは妹キャラとしてはまさしく稀有と言っていいわけで(実際けよりなの麻衣だけだしね、しかも末尾)、その一時によって例え他がどうであっても満点をつける意義はありますね。

 と、咲良に紙幅を割き過ぎましたが、他のヒロインも普通に好きですよ。
 特にちょこはなんか好きなんですよね〜。ストレートにウザ可愛いと感じる部分と、そういう仮面に隠された本質的なかわいげのある女の子の部分、その二面性が彼女の最大の魅力だと思うし、口元に手を当てているポーズがその心性を上手く引き出していていいなと思います。
 あとちろるめっちゃ可愛いよね〜。特に妹さまと戯れているときが相乗効果で最強。


CG(17/20)

 取り立ててすごく出来のいい絵でもないんですけど、作風と世界観、特に優しい雰囲気にはすごくマッチした絵柄だと思います。背景との噛み合わせもいいですしね。

 立ち絵に関してはまずまずですかね。
 ポーズ、服飾ともにメインヒロインは3パターンずつと水準ラインにはありますし、出来も悪くないです。イメージカラーというか、咲良は私服、パジャマ、制服全てに白のイメージがしっくりきて、贔屓目もあるけれどすごく似合っているなあと感じました。あとちょこの口元に手を当てているポーズが何故か体験版の時からすごく好きなんですよね〜。
 表情差分については、あまり遊びの要素が少ないというか、大きな変化はなく、些細な部分できちんと感情を表現できるように気を使っている感じですね。派手さはないけれどしっかりした仕事ではあると思います。まあ見た目的にやや盛り上がりがないってのはありますが。
 お気に入りは、咲良の正面向きジト目、呆れ顔、やや横向きの笑顔、悲しみ顔、冷や汗顔、花珠のおろおろ顔、どや顔、笑顔、ちょこの笑顔、イシシ顔、愁い顔、思案顔、鈴の驚き顔、ほのかな笑顔、悲しみ顔、霞の笑顔、音々の><顔、しょんぼり顔あたりでしょう。

 一枚絵は、出来はそれなりに安定していますが、量がもう一つですね〜。SDや回想っぽいのまで含めて全部で80枚ないってのはちょっと物足りないです。
 特にお気に入りは妹さまと入浴。あのシーンの妹さまのボディラインが好きすぎなんですけど。照れたような開き直ったような表情と、トレードマークの携帯も合わせてすごく二人の関係性とらしさが出ている一枚だと思います。
 その他お気に入りはページ順に、妹さまと添い寝、一緒に花火、想いが募りすぎて、そのうそほんと、一緒にカラオケ、結婚式、母の胸で、自慰、手淫、正常位、花珠と霞の台所、添い寝、キス、腕組みデート、病院、バック、ベンチで愛撫、ちょことゲーム、イベント出撃、再会、騎乗位、アナル立ちバック、鈴に餌付け、妹さまと添い寝、口付け、お姫様抱っこ、騎乗位、バックあたりですかね。


BGM(19/20)

 幻想的で壮大で、そして優しさに彩られた素晴らしい楽曲だと思います。
 ボーカル曲は2曲。
 OPの『言葉繋ぎ』は神曲ですね。まずイントロの雰囲気が最高で、そしてBメロに渡る部分の歌詞と音の繋ぎが素晴らしく柔らかく優しくて大好きで、更にサビの後半部分の幻想感が素晴らしく、トータルしてもすごくバランス良く素敵な曲だと思います。ボーカルの雰囲気もバッチリですしね。
 EDの『Bland New Voice』は、通常EDとグランドEDでちょっぴり印象は違うんですが、まあ全体的に大切なものを取り戻して、これからしっかりと守っていくという強さをイメージさせますね。曲としての出来もかなり良く、グランドでの出だしの切なさまで含めて名曲だと思います。

 BGMも柔らかさが印象的でいい出来だと思います。
 特にお気に入りは『桜乃 −City of fairy tale−』ですね。文字通りうそみたいに優しく愛おしい街の在り方、懐の広さをこれ以上なく繊細かつ丁寧に音に乗せて表現できている素晴らしい曲だと思います。
 その他、『アコースティック・ロマンス』『枕』『そのうそ、ほんと』『約束 −Fortune message−』『心繋ぎ』『君色セレナーデ』あたりがお気に入りですね。


システム(8/10)

 演出は突出してはいないものの印象的ですね。
 立ち絵演出はまあ水準でしょう。特にグリグリ動かすタイプの作風でもないし、それでも要所で面白い動きしてましたしこんなもんかなと。突出して綺麗なのはやはり背景効果、朝色のときの紅葉も素晴らしかったですが、今回の桜もかなり綺麗ですね〜。ムービーも動きよりも美しさを重視した感じで、出だしの雰囲気は最高だったと思います。

 システムはまずまず。
 ようやくワイド対応になって、より画面が鮮明になったのはまずプラスポイントですが、それ以外は相変わらずのプロペラ仕様、必要なものはあるけれどどことなく使いにくさはあるんですよね〜。ホイールクイックとか、使いたくないとこでつい発動したりで実は不便だったりするし。


総合(90/100)

 総プレイ時間18〜9時間ですかね。共通4時間、花珠とちょこが3時間、咲良と鈴が4時間くらいで、あとは回収とかシスコンパッチとか。。。ちなみに咲良好きならばシスコンパッチは永久保存確定です(笑)。なんてエロ可愛い妹さま。。。
 作品全体としてもすごく調和が取れていて出来がいいし、あらゆる要素が水準以上で、このライターさんの作品としては、方向性は違えどかの偉大なるスタティをついに凌駕する作品になったのではないかと私は思っています。
 今回も相変わらず人を選ぶ作品だというのは間違いありませんが、いつもに比べるとやや内省的な要素が薄くてテンポよく、世界観もわかりやすく仕上がっているかなあと思いますし、プラス妹さまシナリオが超抜の出来なので、個人的には物凄くお勧めなんですけどね〜。
posted by クローバー at 06:30| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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