2012年03月02日

はつゆきさくら

 2月の、いや今年のマストアイテムとして、お正月に体験版が出てからこの方、一日千秋の思いで待ち続けた作品。


シナリオ(24/30)

 そっと、背中を押すもの。

 
 内田川邊。
 この街は、10年ほど前に、全国的な市町村統合の煽りを受ける形で、内田市と川邊市が合併して作られました。
 古来より神事・聖職が政治の中心に根を張っていた内田市を、中央資本の後押しを受けて物質至上主義的に成長してきた川邊市が糾合するという形で行われた合併でしたが、本質的に水と油に近い政治形態を抱えていた二つの街の統合は一筋縄ではいかず、表面的にはともかく、裏ではかなりの暗闘や策謀、闘争が蠢いていたと言われています。
 その結果として、現在の街の中心部の賑やかな発展ぶりと裏腹に、旧内田市の中心街は再開発の目途も立たないままに打ち捨てられ、10年が過ぎようとしている今では文字通りのゴーストタウンと化しているのでした。
 主人公・河野初雪はそんな街で生まれ育ちました。

 初雪。
 名前の美しい響きとは裏腹に、主人公はこの街きっての進学校である白咲学園において、名うての不良として恐れられていました。
 入学当初はともかく、徐々に周囲と良好な関係を紡ぐことが出来なくなり、家庭環境も重なって様々な問題に関与したことで、学園からは直接退学を勧告されるほど鼻つまみ者として扱われ、現状は進路指導顧問の来栖先生にその進退を握られている状態なのです。
 しかし、そんな状況に置かれて腐りそうになりながらも、主人公は学園に通うことを諦めません。
 その背景には、大切な人と交わした、絶対に卒業するという約束がありました。

 卒業。
 かつて、主人公の大切な人は言いました。
 今自分が過ごしている時間の本当の価値は、明確な区切りに目一杯頑張って辿り着いて、そこから振り返って見たときに初めて明晰に理解できるものであり、だからこそ、その過程にずっと寄り添ってきたもの、少しだけ触れていったもの、あらゆる懐かしい人たちと、そして何より頑張った自分に報いるために辿り着いて欲しいのだと。
 今は言葉を交わせない彼女の様々な薫陶を胸に信念として据え、主人公は今を生きているのです。
 そうして過ごしてきた、学園生活最後の冬、空からの初雪が冬の到来を告げた日に、主人公に大きな、そして様々な想いと運命と必然を内包した出会いが訪れます。

 出会い。
 寒空の下、温かい飲み物でもとお札を取り出した主人公は、突然現れた謎のウサギにそのお札を掏られてしまいます。
 その行方を追っていつしか旧市街に入り込んだ主人公は、そこで泣き声を耳にします。その純なる響きに引き寄せられた先には、この時期には全く不釣合いの、肩丸出しの白いドレスに身を包んだ不思議な少女がいました。
 見た目も言動も中々にエキセントリックな少女に若干辟易しつつも、あのウサギの飼い主だということ、無邪気に擦り寄られてどこか懐かしい感覚を覚えたことから、鼻が利いて匂いで色々なものの在り処を突き止められるという彼女とともに街を彷徨い歩き、やがてウサギを見つけ出します。
 そして別れる時、彼女は思い出したように名乗ります。玉樹、桜と。

 運命。
 次の日、主人公はバイト先に顔を出します。
 そこは閑静な路地裏に佇むドールカフェで、立地条件の劣悪さと、独特すぎる雰囲気から、ほとんど客の寄り付かない寂れた店でしたが、オーナーが運営に全く興味を持たず、かつ店に顔出しすることもない自由な店なので、主人公のような無頼漢でも務まっているのです。
 今この店の店員は主人公を含めて2人、そのもう1人は小坂井綾という少女で、彼女は元白咲学園の生徒会長を務めたほどの才媛ながら何故か受験に失敗し、浪人しながらこの店で生活費を稼いでいる苦労人なのですが、表面的には全くそんな雰囲気を見せない不思議な少女でした。
 主人公と綾の間には、決して小さくない、運命の綾に紡がれた因縁が過去に横たわっていますが、色々あって今では単なる同僚として、主人公にしてはそれなりに気安い関係を保ち続けているのです。

 桜。
 更に次の日、学園に顔を出した主人公は、自分の隣の席が賑わっているのに気づきます。好奇心にかられてひょいと覗き込んでみると、そこにいたのは一昨日の夜のドレス少女、桜でした。彼女も主人公のことに気付き、一昨日の夜そのままの気安さで馴れ馴れしく擦り寄ってきて、流れで学園案内などをすることになります。
 一通りの案内を済ませ、それだけの時間をともにしてわかったことは、やはりその少女、桜がやたらと浮世離れしていることでした。そもそも出会いからして信じがたい状況にあり、それらの疑問を主人公は率直に桜にぶつけます。
 それに対する桜の答えは、また一段と浮世離れしたものでした。
 曰く、今この街はゴーストの侵略を受けており、このままでは街が滅んでしまうので、それを食い止めるために、ゴーストの中のゴースト、ゴーストから生まれるゴーストの王様、ゴーストチャイルドに会わなければならないのだと言うのです。その話を一笑に附そうとした主人公ですが、自らが身につけている匂い、反魂香を名を口にされ、絶句します。

 反魂香。
 それは、死者を呼び寄せる匂いを焚き染める香の名前でした。
 そう、主人公は先刻承知していました。この街に今ゴーストが溢れていることを。むしろ自らが積極的に反魂香の匂いを纏わせ、その中からとある魂に繋がるゴーストを導き出そうとしていたのです。
 桜に対してもはや白を切れない主人公は、桜の、互いの思惑はともあれ、自分の目的に手を貸して欲しいという提案を飲みます。そして桜にその目的を問われ、ただ一言返事を返します。
 復讐と。
 かくして、桜とともに行動することが多くなった主人公、そのことも1つの要因となり、この冬の始まりに様々な新たな出会いをもたらすのです。

 希望。
 ある日、来栖先生に呼び出され、唐突に進路指導委員の手伝いをするように仰せつかります。
 面倒ながらも進路指導室に顔を出すと、そこにいたのはたった一人の進路指導委員長、しかも一年生の東雲希でした。見た目可憐な女の子ながら、何故かアウトローやハードボイルドに心寄せていて、主人公のことを憧れの目で見ていたらしく、また主人公の友人である東雲妻の妹であるという関係もあり、出会った早々からどこか勘違いした馴れ馴れしさを振りまく希にうんざりしつつ、しかし進路指導という誰かのためになる仕事そのものにはちょっとした憧れがあり、どこでもオプションのようについてくる桜も交えて活動に勤しむことになります。
 手始めに、この学園の数少ない不良グループである白咲ヤンキースを懐柔して手駒にしたりと順調な出だしを見せる活動の中、主人公は何の得にもならない仕事を、危なっかしくも喜々としてこなす希にどこか眩しいものを感じるのでした。

 怨念。
 ある日、桜が学園内で反魂香の匂いを嗅ぎ付けます。
 その出所を探っていくと、2年のあずま夜という少女に辿り着きました。不良の主人公と天真爛漫な桜という謎の組み合わせにも臆することなくハキハキと受け答えする夜本人に違和感はないながら、何故その匂いを纏っているかの疑問は消えず、それを主人公は調査することになります。
 聞き取り調査の結果、昔からアイスダンスの名プレーヤーとして名を馳せていた夜ですが、ある大会のときに呪いの少女というレッテルを貼られ、それ以来目立った活躍はしていないということでした。しかしその彼女が一念発起してもうすぐ行われる大会に出る練習をしているというので見に行きます。
 結果として、彼女を取り巻く呪いが人為的なものと看破した主人公は、呪いに怯えて出場辞退したパートナーに代わって夜と大会に出ることなり、その過程で一悶着ありながらも反魂香の回収には成功します。
 そして、様々なものに裏切られながらも、それでも真っ直ぐスケートに向き合おうとしている夜に、呪いを素直に受け止めて、かつそれを克服しようとする強さを感じるのでした。

 宝物。
 ある日バイト中にオーナーから電話があり、その店で一人の少女を住み込ませるようにと命じられます。
 現れた少女はいかにも幼く、それでいて複雑な事情を背負っていそうで、本名すら名乗ることなく、名前はシロクマだなどとバレバレの嘘設定を口にしてはどこか怯えた素振りを見せる雰囲気に、大切な宝物のように育てられた籠の鳥を見る気分で、自分では器用に優しく出来ないからと綾に丸投げします。

 かくして、いつの間にか主人公の周りを、みんな訳ありとはいえそれなりの人数が取り巻くことになり、そうこうしている内に桜との調査も佳境に入ります。怪しいのはやはり旧市街だという結論に至り、同時に旧市街に消えた失踪人の調査が進路指導委員に舞い込んだことから、大勢を引き連れての実地調査が敢行される事になります。
 果たして、この街に潜むゴーストとは何なのか?
 主人公の望む復讐の行く末はどうなるのか?
 桜の正体と、真の目的は何なのか?
 そして彼らは無事に卒業を迎え、春に至ることができるのか?

 初雪から桜まで。
 これは、永遠の冬を彷徨う魂の救済の物語です。


 あらすじは以上です。
 大枠としては、この街に潜むゴーストにまつわる物語に少なからぬ因縁を持つ少年少女たちが、それぞれの問題に向き合ってやがて区切りの場所に至る物語となります。
 この作品はあまりネタバレすると興ざめなので、極力その要素を省いて書きたいとは思っていますが、かといって、深い部分に踏み込まずに終わらせる気も毛頭ないので、結果としていつも以上に、プレイした人にしかわからない部分が多く出てきてしまうこと、かつどうしても部分的なネタバレには踏み込んでしまうことを最初に釈明しておきます。

 ルート構成について。
 まず最初はプロローグになり、これが体験版でプレイできる部分になります。
 上に書いたあらすじも、ほぼ全て体験版で出てくる場面であり、ここまではネタバレ許容できる前情報だと思ったので、自分なりの解釈も含めてかなり丁寧に書きました。これが、この後の全てのヒロインの物語の前提になる部分を内包しています。
 
 本編に入るとすぐにヒロイン選択になりますが、1周目は桜限定です。
 というより、この作品はほぼ攻略順が固定されています。というのも、プロローグからシナリオにチャプターがついており、その数字順にプレイするのが一番話として通りがいい格好になっているからです。多少の順番の前後は可能ではありますが、マップ選択で何回かヒロイン追いかければすぐにチャプター数が表示されるので、私としてはそれを確認した上で数字順にプレイするのをお勧めします。

 テキストについて。
 これはプレーンな作りとは言えない部分ですね。そもそも主人公がかなりの暴言体質で、下ネタ脅迫なんでもござれな部分があるし(言動と行動が一致するわけではないけど)、それに対応するヒロインもどこか普通からは外れている感じで、この人らしいといえばそうなんですが、ある程度の慣れが必要な部分ではないかと思います。
 とはいえ、全体としては、あざといくらいにキャッチーな萌えとシュールな笑いを上手く組み上げたような雰囲気で、プレイしていくうちにだんだん癖になってくるし、いい意味で苦笑いさせられる部分も多々あるので、テキスト進行を追いかけていて飽きがくるようなことはあまりないと思います。
 ただ、これもこの人の特徴として、あちこちに肉付け不足だったり、説明不足だったり、いきなりテンポが加速したりと、ただシンプルに字面だけ追いかけていると理解が追いつかない部分もあるので、そのへんは改善して欲しい部分ではありますね。

 プロット構成について。
 この作品は、10年前の街の統合に問題の端緒があります。
 その時に積み重ねられた怨讐が巡り巡って今このときに大いなる影響を及ぼしており、座していては滅びを避けられないが故に、それを救うために取った手段が、結果として様々な因縁を紡いでしまっているわけです。
 この作品のメインとなるテーマは、やはり卒業が象徴する諸々になるのですが、それとどこか関連する形でいくつかのテーマを内包しており、それがそれぞれのヒロインのシナリオによって象徴的に書かれ、その全てが糾合することでトゥルーシナリオが紡がれるという構成になっています。

 ヒロイン個別のシナリオに踏み込むとネタバレ度が高いので、その細かい内容には言及しませんが(ちなみに、トゥルーは除いて出来が良かったのは綾と希シナリオ、意外と好きなのがシロクマシナリオです)、いくつかテーマを浮き彫りにする部分だけ、本編の内容や言動に即して書き出してみることにします。

 古きものと新しきものについて。
 二つの街の統合から紡がれる怨讐は、その双方に含まれる弊害が折り重なって存在するものでした。
 物資主義に囚われた新しきものは、古きものが延々と紡いできた土地との霊的繋がりや、それが現世に与える影響力を軽視し、それが現在の、手に負えないまでの跋扈に繋がってしまいます。また、弱きもの、打ち捨てられたものへの無関心もそれに拍車をかけたといえるでしょう。
 一方古きものには、その契約や慣習に自縛されて、その流れを組むものに対しては必然としての犠牲を強いることを厭わない冷酷さがありました。その理不尽さを許容し続けてきたところに、悲劇の発端はあったと言えるのでしょう。その悲劇を覆せなかった結果として、初周桜シナリオが当てはめられます。

   「大人の事情を、子供に背負わせるんじゃねえよ。」
   「彼が愛さなかったこんな世界に価値はなぁぁぁぁい!」

 痛みの循環について。
 人が人としてある限り、想いは人の間を循環して作用していくものであり、それは負の感情にしても例外ではないという観点ですが、これを口にした人は、それを負の連鎖の肯定として引き合いに出しています。
 しかしながら、憎しみを憎しみで返すことの無情さを人は知っていて、人の輪の中で痛みを浄化という形で循環させる術を持っている、というのが言わんとする部分になるのでしょう。
 誰かと痛みを分かち合うこと、その痛みを受け入れてくれる相手を見出し、そして告白する勇気を持つこと。それは、吐き出すほうも受け入れるほうも大変なことで、進路指導委員という痛みの受け皿を純粋に誰かのためにとこなしている希の強さの源泉はそこにあり、またこれは夜シナリオのテーマともなっています。

   「一番大切なことを告白する勇気がなかったのはあなたじゃないですか!」
   「いくじなし!」
   「それは、過去からあなたに呼びかけてもどうしようもなかったから。」
 
 大人の正義と子供の正義について。
 人は成長して、社会との関わりが大きくなり、しがらみが増えていくにつれて、自分の手だけでは掬い切れないものが必ず出てきてしまいます。
 そういうときに、手の中のものを天秤にかけて、より大きなものを救って小さなものを切り捨てていくのがわかりやすい大人の正義の構図で、この街の問題を解決するために取られた手段がそれにあたります。結果としてそれは、この作品のヒロインそれぞれに大きく深い影響と傷を与てしまうわけですね。
 この作品の場合、その運命の綾が紡ぐ関係性がなければ春に至ることが出来なかったというのがミソで、形としては結果オーライなんですが、過程で見る限りはそれは非情な決断だったといえるでしょう。

 対する形で浮き彫りになるのが子供の正義ですね。
 これには二つの視点があり、まず一つ目から触れていくと、その手に届くもの全てを救いたいという、状況や利害やしがらみを一切排除した、真っ直ぐな感情から来る正義が挙げられます。
 これを象徴しているのは東雲兄妹で、綾シナリオで紡がれる挫折した妻の正義と、希シナリオで紡がれる、未だ挫折を知らない危うい強さを持った希の正義によって対比、強調されています。一見袋小路の状況でも、諦めずに信念を持って打開しようとする強さの尊さ、儚さが、トゥルーシナリオでも生きてくるわけですね。

   「けどその正義と勇気は、社会に削られていってしまうものだ。」
   「それをこの学園にいる間だけでも守れたならば、それは教師の本懐だ。」
   「だって、卒業して欲しいから。」

 二つ目の視点は、世界が広がることでこぼれるものがあるのならば、そもそも世界を広げず、他の何を犠牲にしても自分の一番大切なものだけは守るという正義ですね。
 様々な状況を勘案することなく、ただ胸に兆した1つの宝物のような想いを胸に、それだけのために在ること、それは確かに歪な正義ですが、想い続ける事による純度の高さは比類なく、それが普通では溶かしえない感情のしこりを取り除く決め手になることだってある、というのがシロクマシナリオの主題であり、そしてその精神は立場を変えてトゥルーシナリオにも波及しているわけですね。

   「それでも、私は店長のことが好きだよ。」
   「どんどん好きになっていくみたい。」

 卒業の価値と意味について。
 あらすじでも書き、作品内でも度々言及される、自分と、懐かしい人たちに報いるために、の文言ですが、ただ単純に辿り着けばいいというわけではないのが難しいところです。
 
 まず前提として、自分なりに精一杯頑張った結果として迎えなければ意味がないわけです。希、夜、シロクマのシナリオでは、主人公が自分の状況も顧みずに、彼女たちが在るべき自分でいられるように、そのまま区切りの場所まで走り抜けられるようにそっと背中を押すことでそれが為されました。
 夜シナリオだけ卒業という区切りではないのは、このテーマの意味するところが決して卒業に限定されたものではなく、社会の様々な場面で普遍的に存在しうることを象徴したいがためと思われますし、それは正しい観点だと思います。

 そしてもう一つのポイントとして、その頑張りは正しく報われないといけないということがあります。これは綾シナリオのラストの展開に象徴される部分で、区切りの場所に辿り着いても、振り返って見えてくるものがないという状況は、人をいつまでも過去に縛り付けてしまうわけですね。
 それが、未来を見るものと過去に縛られるものという対比でトゥルーシナリオに波及しており、そういう意味で実に貧乏くじを引かされたヒロインだといえます。

   「私はあの時、卒業の神様の存在を確かに感じたんだ。」
   「それは本当は・・・、感じるだけでは駄目だった。」

 トゥルーシナリオにおいては、今まで他のシナリオでヒロインの背中をそっと押す役目を担っていた主人公が、桜とともに互いを助け合い、そして仲間たちの助けをも得て、今まで至れなかった春に辿り着くことになりますが、それは、学園生活の最後で主人公と桜が恋人として、そして仲間たちとも築いてきた絆がしっかり反映されていて、主人公の抱える大きな大きな痛みと妄執を、正しく循環させるための力になっているんですね。

   「立派になれって言われたから。」
   「未来へ、再び花開く予感を残して。」

 と、かなり長くなりましたがここまでがプロットに関する私の解釈です。
 ここまでの書き方でわかるように、プロットそのものに関しては不満はありません。実にロジカルに状況が構築されていて、そこに各人の心理的要素がきっちりと計算されつつ反映されていて、でもその一番の原点の部分においては拙い子供の正義が色濃く、純粋に投射されていて、美しさと説得性を兼ね備えた素晴らしい出来だと思っています。


 ですが、このプロットをシナリオに落としこむ部分で、いくつか不満があります。
 それは一言で言ってしまえば描写不足に尽きます。単純にヒロインの関係性に対する肉付けが足りないとかそういう部分での不満もありますが、より大きいのは、この理屈で解釈すれば完璧に近いプロットを、1周目で感情的に理不尽なまでに力強く飲み込ませてくれるようなシナリオ・テキスト構成になっていないところに甘さがあると思うんですよね。

 どれもトゥルーシナリオに関する部分ですが、観点は3つあります。
 
 1つ目は、初周桜シナリオとトゥルーシナリオの対比について。
 この作品は、読み手としてはともかく、主人公やヒロインが他のルートの想いを無意識下で汲み取って行動に反映するような設定にはなっていません。であれば、この途中まで内容的には紙一重の二つのシナリオには、そのちょっとの差を分ける明確な理由付けが欲しかったなあと。
 何故1周目では桜の想いを無碍にし、トゥルーでは受け入れたのか、それぞれがプロローグの流れから派生する物語だとするなら前提は同じなわけで、なのに明らかにトゥルーのほうが、感情的に桜も主人公も前向きというかアグレッシブになっている理由が明確に示されないまま話が進んでしまったので、初回プレイ時にどうにもその展開に入り込みきれなかった恨みがあるのです。
 上に書いたように、読み手としては本来こうなるべきだったんだと解釈できるだけの流れを汲んでいますけど、それとこれはまた別だと思うんですよね。というか、そこできちんと納得できる理由付けを軽くでもしてくれれば、その2つが相乗効果になっていただろうと思うに、些細ではあるけど私としては実に残念なポイントなのです。

 2つ目は、何故初雪が初雪なのかという部分について。
 初雪というのは、主人公がGCになってからの名前だろうというのは、色々な場面から推測はつくのですが、だとするとそれを名付けたのは誰だろう、という話になります。状況証拠的にはそれはランしか有り得ないと思うんですが、作中のどこにもそれについては触れられていないんですよね。
 
 この作品においては、名前はかなり重要な意味があります。
 そもそもが作品の主題として、主人公とヒロインの名前がクローズアップされているわけですし、それぞれのヒロインも各々のテーマを反映した命名がされています。それはランも同様で、当初の目的は復讐であっても、最初から決してそれだけではない、複雑に変転する愛情を象徴しているだろうことは、その教育方針と初雪に対する感情の発露の在り方から揺ぎ無いところです。
 だとすれば、初雪が何故初雪なのか、それをつまびらかにすることは、ランの心情、特に心の奥底に潜んだ本心を垣間見せるには絶好のテーマであり、そのことで2人の育んできた時間の重みと美しさ・優しさがより強く印象付けられ、それが主人公の過去への固執にも繋がると考えれば、是非に触れておくべき部分だったと愚考するわけです。

 3つ目は桜の背景について。
 これは作中で一応の説明がありますが、かなりの後出し感と唐突感があり、しかもそれが桜の存在の根幹に関わるだけに、もう少し肉厚に出来なかったかなあと思うんですよね。
 色々なシナリオにおいて、妻が当時の事柄について調べているような描写はありましたし、クライマックスのシーンを迎える前に、彼なりに調べたことをみんなに伝えて、それぞれがそれについて想いを語るようなシーンがあれば、絶対にもっと飲み込みが良かったと思うんですよね。
 無論全てを明らかにするでもなく、仄めかし程度で充分な部分だけに、これも勿体無いなあと感じました。

 この3点がトゥルーシナリオの感情面での説得性を削ってしまったことが、私がこの作品に名作判定(25点以上)をつけられない唯一にして最大の理由であり、これが満足いく水準でクリアされていれば間違いなく27〜8点はつけたでしょう。


 以上、本当に長くてすいません。。。
 今回は色々条件もありましたが、とにかく端正に丁寧に、言いたいことは全部書き込んでみようと思いました。それだけ期待値が高く、プレイが終わっても心に残り続ける作品でありましたし、逆に考えすぎたせいで割り引かねばならなかった部分もあるとはいえ、構想を練っている間は本当に楽しかったです。
 おそらくトータル点数でこれを超える作品は今年に限ってもいくつかあるでしょうが(そう信じたい。。。)、これより好きな作品となるとちょっと出てこないんじゃないかと思います。


キャラ(20/20)

 登場人物みんなそれぞれに尖った個性とテーマに沿った存在意義があり、その点ではとても肉厚に書かれていたキャラ群だったと思います。
 強いて言えば、ヒロインとの関係において、恋人になってからもコメディ要素が強くて、あんまりラブイチャな雰囲気を堪能できなかったかなあってあたりですが、主人公の性格付けからしてああでないと物語りにならない以上、そのへんは仕方ないと思うべきなのでしょう。

 一番好きなのは文句なく桜です。今年の殿堂入り第一号内定です。
 言動も行動もエキセントリックなところがあるヒロインですが、その無邪気さと距離感の近さ、いつも前向きな明るい感性は作風をいい意味で中和してくれていましたし、かつどうしてそういうちょっとアンバランスな設定なのかという部分にもきちんと答えが用意されているキャラなので、それを理解した上で見ると更に可愛く見えて仕方がありません。
 色んな意味で主人公以上に重い業を背負ったヒロインですけど、そういう想いを全て閉じ込めて、ただ一途に想い続け、支え続けた愛情の純度には感服しますね。
 普段の言動も可愛いですけど、恋人モードは照れツッコミ?と言わんばかりの浮かれっぷりと甘えっぷりが本当に可愛くて、あの時間が永遠に続けばいいのにと見ていて思ってしまうのは私だけではないでしょう。

 次点は悩んだけど夜で。
 彼女こそ一見常識人(笑)ですよね。人当たり良く、誰とでも隔てなく仲良くなれて、その心性においては難しい部分がありますけど、コイバナに対する過剰な反応と妄想っぷりは妙に可愛くて癖になりました。
 テーマ的にもおいしいところを担っていて、トゥルーシナリオでの叫びは本当に響きましたね。

 僅差で次は綾です。
 飄々とした雰囲気の中に、数多の悲しみと絶望と虚無を背負って、中性的な雰囲気がどこか危うさに繋がっていて、それでいてヒロインとしての愛らしさもしっかり兼ね備えているのがなんともハイスペックだなあと。
 シナリオ的には最初から最後まで貧乏くじを引かされている感がアリアリで、でも彼女がそういう存在であったからこそ運命の綾は紡がれたと考えると実に切ないんですよね。別エンドでも報われなかったし。。。

 んで希かな。このあたりまでは年末名前乗ると思いますが。
 最後まであの口調が続くってあたりでヒロインとしてはどうなの?と思いきや、単純なイチャイチャではこの子が一番面白可愛かったです。キャラ的にも、最初は惚けた感じだったのに最後には色々な要素のいいとこ取りになって、すごく印象に残りました。卒業式の答辞とかは良かったですね〜。

 シロクマは、特に後半は可愛かったけど、如何せんシナリオが薄すぎたのと、重なるテーマ性が最後に塗り替えられてしまうこと、トゥルーで出番がほとんどないあたりでかなり割を食っていますね。主人公との言葉遊びとかもかなり奇矯な部類に入るし、もうちょっと情感に触れる活躍が欲しかったです。

 ランは本当に重要な立ち位置だけに、もっと心情に踏み込む描写が欲しかったです。あの邪気のない明るさは好きなだけに、いつかああいう自分を取り戻せるといいなあと感じますね。
 サクヤも最後で大いに株を上げましたね。
 桜とともにある中で、互いに影響し合った部分がいい方向に作用しているから、最後の独白がすごく印象的に響きます。
 ブラザーズも妻もなんだかんだで出番かなり多くて、話の盛り上げにすごく貢献していたと思います。


CG(19/20)

 3人原画なので若干のブレはあるにせよ、基本的には好みジャスポケの絵柄ですし、出来のいいのに関しては破壊力が半端ないので、結構不満点はあるんですがそれでもこの点数でしょう。

 立ち絵に関しては水準クラスだけど、色々と言いたいことはあります。
 ポーズに関しては、桜だけ3種類+α、シロクマは一応3種類扱いできるかな、他ヒロインとサクヤが2種類、サブキャラは1種類ですね。まあ登場人物がかなり多いのでサブはともかく、メインヒロインは全員3種欲しかったかも。腕差分はそれなりなので動きは感じますけどね。
 特にお気に入りは桜正面向き。この、ぐっと身を寄せてくるような愛らしさが最高ですね〜。さすが必殺の構え(笑)。その他、桜横向き、見返り、希やや横向き、シロクマ横向き、アフター前向き、綾見返り、ラン前向きあたりかな。

 服飾は2〜4種類。コートはともかく、マフラーは差分扱いでいいよね?
 全く物足りないわけではないですが、かなり一枚絵のみで表現される格好というのがあって、でも状況的に立ち絵に搭載してもいいだろってのが結構あるのが残念なところ。
 お気に入りは桜コート、私服、綾ウェイトレス、私服、希私服、夜私服、アフターシロクマドレスあたりですね。

 表情差分は、多いような少ないような・・・。キャラによって差が大きいです。
 とにかく優遇されているのはやっぱり桜。元々ポーズが1つ多いのもありますが、基本笑い顔なのにその笑顔の配分がもう細かい細かい。正直それぞれの機微をきちんと使い分けられているのか疑問に思うくらいです。。。
 そして夜とシロクマだけ少なかった気がするんだよなあ。
 
 特にお気に入りは桜の右向き憂い笑顔、前向きにっこり笑顔かな。まあどれもこれも可愛すぎて甲乙つけるの難しいんですけど、前者は眉をちょっと顰めた感じが、校舎は本当に嬉しそうな雰囲気が、特に強く印象に残っています。
 その他お気に入りは、もう桜はほぼ全部、希困り顔、ポケ顔、半泣き顔、笑顔、思案顔、綾見返り澄まし顔、照れ顔、前向き困り顔、シロクマやや左向き半泣き顔、驚き顔、アフター前向き笑顔、夜あふぅ顔、驚き顔、愕然顔、ラン笑顔、恥ずかし顔、><顔、サクヤ憂い顔、直子含み笑いあたりでしょうか。

 んで、立ち絵全般に対する不満として、使用バランスの悪さと微妙な手抜きは指摘しておきます。
 特に桜なんですけど、左向き立ち絵の出番少なすぎでしょう。あれはあれで可愛いのに、お漏らしシーンしか記憶にないよ私(笑)。あと私服ポニーは素晴らしいんだけど、なんであの立ち絵だけ正面向きしかないのかと。他の向きもきちんと搭載してください。シロクマもそうですね、特にアフターは最初立ち絵すら出てこないかと思ったよ。。。


 一枚絵は、質はまあいいものは本当に素晴らしくて大満足、量は普通かちょい多いかですね。
 回想でパッと見る限り枚数かなりあるんですが、複数キャラでかぶっているのが多々あるので、そのへんきちんと計算すると普通サイズの一枚絵で88枚、カットインサイズが15枚になります。
 というか、何故カットインサイズと分けているのかが微妙。SDならわかるけど、SDっぽいのは2枚しかないし、背景間に合わなかっただけとかじゃないよね(笑)。ともあれ、全体で100枚は超えるので文句はないですが。

 特にお気に入りは6枚。
 1枚目は桜に手を引かれて。幻想的な雰囲気と、桜のそこはかとなく幸せそうな表情が好きです。
 2枚目は桜の落書き。別れを予感してセンチな雰囲気のままに書いた落書きが実に切ないです。
 3枚目は甘えっ子桜。無邪気で幸せそうな雰囲気、コロコロ変わる表情がすごく可愛いです。
 4枚目は桜お風呂H騎乗位。三白眼が可愛すぎるし、ボディラインがすごく綺麗で大好きです。
 5枚目は綾辻さん。演じることでしか本当の自分を出せない、その儚さが生んだ美しさがいいですね。
 6枚目は希の答辞。全ての想いを飲み込んで強く前を向く希の魅力が最大に生かされています。

 その他お気に入りは、桜が卒業、お風呂、おでん、バニー、式典、裸エプロンバック、バニーフェラ、夢の中の求愛、手を繋いで、綾が罰ゲーム、キス、初H愛撫、挿入、綾辻H、卒業、夜明けの珈琲、夜が一緒にお茶、甘えて、本番、幸せそうな横顔、シャワー乱入、屋上Hバック、あーん、希相合傘、縛られて、雪だるまで妄想、ドレスH正常位、路地裏H、ぽけ〜っ、シロクマとダンス、ロシアへ、委員を継いで、遊園地、ドレスHバック、ウェイトレス、儚いラン、みんなでカラオケあたりですね。


BGM(20/20)

 ボーカル曲はどれも質が高く、BGMもすごく幻想的かつ哀愁の漂う雰囲気が実に好みにヒットして、大満足の出来でした。
 
 ボーカル曲は5曲。かな?ダバダ〜はこっちにいれるべきなのか?
 第一OPの『Hesitation Snow』は超神曲です。もう出だしのイントロ、最初のボーカルと切なさ、悲しさが全開で、それでいてもうすごくかっこいい、その配分が絶妙なメロディラインと編曲に当初から惚れ惚れしていました。
 歌詞も聴けば聴くほど深く、色々な想いが上手くまとまっていてすごく好きですね〜。
 挿入歌の『メリーゴーランドをぶっ壊せ』が意外に名曲。反逆をテーマに、疾走感溢れるメロディとシュールな歌詞が上手く噛み合っていて、特にサビの後半のメロディはかなり好きです。
 通常EDの『風花』も透明感があって喪失感があって、この作品のEDとして素晴らしくマッチしていますし、サビの後半で盛り上がるところが救いに感じられて、そこからのイントロとメロディが好きですね。
 第二OPの『Presto』も文句なく名曲です。一歩一歩、春へと力強く歩む足取りと、それを支える絆が強く滲み出ていて、かかるタイミングも最適でより印象に残ります。Bメロからサビのメロディが特に好きですね。
 トゥルーEDの『GHOST×GRADUATION』も、やはりどこか切なさを漂わせながらも、それでも至るべき春にそれぞれが至った実感を強く与えてくれる柔らかい旋律が涙を誘い、印象深い曲ですね。

 BGMは34曲、量も充分ですし、質は素晴らしくでかなり満足です。
 特にお気に入りは2曲。
 1曲目は『初雪の日に』。柔らかく、幻想的な出だしから、優しく見守るような後半のメロディに変調していくところがすごく雰囲気があって好きです。
 2曲目は『死者の嘆き』。後半にいくにつれて音がどんどん重なり、様々な無念の重みが降り積もっていくような重厚感が実に素晴らしく、それを彩る後半のメロディラインが絶妙に好みなんですよね。
 その他お気に入りは『Snow light』『まーるいシッポ』『ナイトダンス』『真冬の香り』『Snow prince』『Snow princess』『春を愛する人』『大泥棒のお出まし』『Dead’s dream』『Ghost parade』『送る言葉』『桜の心』です。


システム(9/10)

 演出は中々ではないかなと。
 立ち絵同期こそないものの、出入りや動きに関してはかなり細かく、コミカルかつ印象的な使い方をされていると思うし、感情表現もしっかり出来ているから見ていて楽しいです。背景も色々と力入れていますし、やや炎とかチープに見えるところもあったけれど、必要以上に見場をよくしようと意図した感は伝わってきますね。
 ムービーはまず最初のが本当にかつこいいですね。一枚絵とCGチビキャラの組み合わせですが、とても幻想的かつ迫力のある構図になっていて、どこか暗さや切なさが滲み出ていて印象深いです。特に最後の、ランから桜に横スライドするところが物凄く気に入っています。
 二つ目のは最初のよりも穏やかな雰囲気ですが、それだけに積み重ねてきたものの重さや価値、大切さが色濃く出ていて良かったですね。単純に長いだけでなくしっかり作りこまれていると思います。

 システムも水準はクリアしているかと。
 必要な項目は完備していて、まあ若干動きが重いかなと思わなくはないけれど、まずは問題ないところ。スキップもそれなりには速く、バックジャンプはあるのでリプレイにもそんなに不備はなかったです。デザイン的にもシンプルな中に様々な意匠を凝らしていて悪くないですしね。


総合(92/100)

 総プレイ時間は21時間くらいです。プロローグ4時間、初周桜1.5時間、綾3.5時間、夜と希が3時間、シロクマ2時間、トゥルー4時間くらいの配分だと思います。
 詰め込んだ構成要素からすると、やはり若干肉付けが足りないかなあと思う部分はあるものの、完成度はとても高く、読後感については人それぞれではあるでしょうが、読み物として水準は高いと思います。やはり幽霊譚は日本人の感性にはしっくりくるものがありますから、きちんと作ってくれると本当に心に響きますね。

 なんだかんだ甘い配点にはなっていると思います。どうしたって信者化している部分はあるし、事前の期待値とかも踏まえると、中々客観的に見ようというのは難しいですからね〜。テキスト・シナリオとも人を選ぶ部分はあるのは確かですし。
 まあそれでも、出来る限り多くの人にプレイして欲しい作品ですね。
 今回は本当に、自分でもびっくりするくらいのめりこんでしまって、プレイが一通り終わってからも心に残り続けて、結局感想という形でこれ以上なく吐き出すまで気持ちが落ち着かなかったことを思えば、私にとっては素晴らしい作品だったと言い切れます。
 というか、自分で言うのもなんですが、ここまでこのゲームを楽しんで、色々考え抜いているプレイヤーは早々いないと思うし、いい作品を作っていただいて最敬礼って感じです。
 これでサガプラの四季シリーズは完結ですが、今後も大いに期待しているので、このシリーズ水準の物語をじっくりと作って欲しいですね。
posted by クローバー at 05:46| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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