2012年04月09日

‘&’−空の向こうで咲きますように−

 るい智チームの最新作ですし、体験版も面白かったので、これもまた買わない理由がない一作。


シナリオ(22/30)

 いつか届く場所。


 それは8年前、まだ幼くて世界をシンプルに捉えられていた頃のお話。
 当時主人公には中のいい幼馴染が何人かいました。
 その中でリーダー格だった麗は、常に天衣無縫で突拍子もないことをやらかす割に、他の人間を楽しい気持ちにさせる名人で、主人公たちはいつも彼女に振り回されつつも日々を楽しんでいました。

 そんなある日、いつものように唐突に麗が冒険をすると言いだし、子供たちだけで電車に乗って、気の向くまま見知らぬ街に降り立ちます。冒険戦隊カエレンジャーと演技でもない名前をつけられたチームは、現地でも何人かの新規メンバーを加えて街を練り歩き、そして最後にとある場所に辿り着きます。
 そこには1本の大きく曲がりくねった樹が生えており、そしてその場にいたほぼ全員が、その樹の直上にとても不思議な光景を目撃します。
 それは、幻想的な2つの月―――。

 現在。
 当時の冒険はその後すぐに大人に掴まってお開きになり、子供心に不思議な光景と思いつつも、その実体を調べて見たりすることもなく過ごしてきた主人公は、度重なる引越しでいつしかかつての幼馴染たちとも疎遠になり、平穏でありながらどこか満ち足りないような日々を過ごしていました。
 しかしある日の夜、ふと空を見上げると、なんとそこには8年前に見た2つの月が静かに光を放っていました。
 そして何より不思議なことに、その月は主人公以外の人の目には映らないもので、この不思議を解明するため、当時の現地徴集組の1人に食住を担保してもらえたこともあり、主人公は夏休みを利用してかつての冒険の舞台に腰を据えて調べることにします。

 その懐かしの地に降り立った初日、いきなり駅前でセーラー服の女の子・星良しに話しかけられ、知る人ぞ知る噂好きの集まる、2人1組でしか入れないという特異な喫茶店・オンザローズに連れていかれ、そこで願いが叶う樹の噂を耳にします。
 その噂の出所を追いかけたところ、なんと偶然にもかつての幼馴染の麗と再会します。彼女もまた2つの月を見てこの街にやってきたと知り、主人公は8年前の冒険の続きが始まったような気分になって、その上大人になって綺麗に成長した幼馴染を前にしてワクワクが抑えられません。

 麗を連れて、まずは拠点である貢一郎が住む神社に向かい、そこで当時の他のメンバーもちらほら見受けるとの情報を得て、まずはメンバー探しに着手します。
 まず未だこの地に住んでいる現地組の1人、莉子に会いにいき、そして当時の不思議な樹の場所を探し歩く過程で八重と束沙をパーティに加え、そこまでは順風満帆でしたが、やはり当時のメンバーだった珠璃と摩樹にはどことなく敵意を向けられ、何もかもが当時のままではいられないのだと消沈しつつ、やがて彼等は不思議な樹の前に辿り着きます。

 その樹の元で、街の噂のようにそれぞれが願いを唱えたところ、彼等の目に不思議なビジョンが飛び込んできました。それは、対となる女神と、そこから飛び出した10個の道具で、それを見た夜から2つの月は姿を消し、代わりに彼等の手元には、それぞれの思い出と願いに即した、不思議な力を持つアイテムが1つずつ与えられたのです。
 それはあらゆる法則を覆すほどの理不尽さを備えた文字通りの超常アイテムで、最初はそれらの使い方を調べたりと邪気なく過ごせていた主人公たちですが、やがてそのアイテムが意図しないところで様々な災厄を引き起こす可能性に気付き慄きます。
 その思いは、主人公のアイテム、他人の願いを叶えるという不思議な箱が盗まれたことで更に切実なものとなり、主人公たち帰ってきたカエレンジャーは、ビジョンにあったまだ見ぬアイテムと、盗まれた箱の行方を追ってこの街を奔走することになります。
 これは、願いが炙り出す人の業を超越するための物語です。


 あらすじはこんな感じですね。
 大枠としては、この街に突如出現した10個の不思議なアイテムを巡り、それが巻き起こす騒動を鎮静化させていく中で、8年の間にそれぞれがちょっとずつ変わってしまった幼馴染との交流を深め、やがて誰かと恋仲になることでそのヒロインの願いに即した物語に世界が寄っていくという形式です。

 テキスト的には、このチームといえばクドい言い回し、と定型化するくらいにらしさが良く出たテキストですが、初期の頃と比べるとやはりだいぶクドさは薄まってとっつきやすくなってはいると思います。
 無論要所要所ではかなりテーマに即した形で台詞が繰り返されたり強調されたりと目立つ部分はありますが、今回はネアカな話であるのもあり、テンポのいい部分とそうでない部分のメリハリがしっかりついている感じがしました。
 ただ、麗の3回言ったら本当だ、ではないですが、世界の持つ非情な側面を端的な言葉で何回も繰り返すことで、テーマ性に対する刷り込みを強くするのがお家芸だったとしたならば、今回その強調性をやや緩めたことで、世界観に対する絶対的な束縛感は薄らいでしまっているイメージもあり、個人的にはもう少しアクが強いままでも良かったかなと思わなくもなかったです。

 構成は、これおそらく一本道ですね。ルート分岐はするんですけど、攻略順は固定だという意味でですが。最初の4人で道具がもたらす様々な可能性と、それの根源にある人のエゴのぶつかり合いを提示し、最後の麗でその全ての要素を糾合しつつ根本的な解決に導く、という形式で、テーマ性を浮き彫りにするという視点ではとても上手く出来ていますが、その分ヒロインと結びつく過程などはやや甘い作りだと感じます。まあこれもこのラインのいつものことと言えばそうなんですが。。。
 構成面で気になるのは、八重シナリオの展開が前3人のシナリオに影響が出ていない部分や、麗シナリオのラスボスの、他シナリオでの行動パターンの曖昧さで、その辺が色々と後出し設定的なイメージを醸し出してしまっています。

 シナリオについては、あと一歩突き抜けない印象のまま終始しましたね。
 このチームは一貫して人の価値観の差異とすれ違い、そして相克をテーマに据えてきますが、今回はその中から特筆する形で人の願いを取り出し、願いとは極言すればエゴであり、幸福の絶対量の関係から誰かのエゴは誰かのエゴを潰す、という悲観的な視点を中心に置きます。
 事実最初の3人のシナリオは、必ずどこかに願いの対立項が存在し、それをアイテムの力で捻じ伏せるようにして解決する、というスタンスで、八重シナリオではじめてその対立項に対する平和的解決の可能性の方向性を打ちだし、麗シナリオで実践、という流れになっています。

 それぞれのシナリオのキーとなるのがアイテムの存在で、そしてこのアイテムがそれぞれの願いから生み出されたというのがミソで、本質的にその願いは、時間と労力と誠意を割けばアイテムの力を使わなくても辿り着ける地平なんですね。八重のはどうだと言われるかもですが、あれは潜在的な面で、繋がらない人に言葉を伝えたいという想いだと解釈すればいいのかなと。
 それをこのアイテム群は、一切の労力をオミットして、先鋭的、かつ暴力的に叶えてしまい、かつ願いを呼び込んだ当事者のそれとは関係ないところで副次的要素をも振りまいてしまうため、とびっきり扱いに難しい、それでいて使用する誘惑を振り切るのが難しいものとなっているわけです。

 そうした、現在の人類が担うには重い力を、だけど人と人が繋がる上で使い様によってはものすごく効果的で純粋なアイテムを、麗という特異なパーソナリティの牽引力に委ねることで、エゴがぶつかり合ってもどちらか一方だけが大きく傷つくことのない結末を導き出しており、この視点においてはほぼ完璧な出来だったと思います。

 ただし、純粋にシナリオとしては、テキスト面、構成面で書いた問題に加え、やはりアイテムの性質上なんでもあり感がどうしても付きまとってしまうこと、それらの要素が少しずつ積み重なって、過去作ほどの心理的切迫感や緊迫感が打ち出せていなかったのかなあと感じてしまったんですよね。
 このラインにネアカな物語は似合わないと言ってしまうのはちょっと傲慢かもですが、そのあたりのバランス感覚が若干不満でした。正直構成上麗シナリオだけでも爆発的に面白ければそれでOKのつもりだったんですが、他シナリオの延長線上のテンションで終始してしまったので、ここにもう一工夫欲しかったですね。 

 以上、でもまあ冒険活劇として水準以上の面白さであるのは確かだし、点数としてはこのくらいかなと。まあもっとヒロインとの交流、イチャラブも見たかったし、全体の尺も水準クラスではあっても、今までの作品からすると物足りない部分はあるので、期待通り、とは流石に言えませんが。
 しかし2つの月とかぶっちゃけ今文庫化してるアレのオマ・・・げふんげふん。


キャラ(20/20)

 基本的にメインとなるキャラは願いがアイテムの形に投影されている部分があるし、複層性という視点ではやや物足りなくともしっかりイメージを固着化出来るキャラ設定にはなっていますね。変人揃いではありますが魅力が薄いわけではないし、手放しで、とはいかずとも一応満点でいいと思います。

 一番好きなのは束沙かなと。
 あの淡々とした雰囲気の中にしっかりとした熱情があり、チームの中において独自の存在感があって少しずつお気に入りになっていきました。ヒロインとしてもお着替えの破壊力はかなりのものがあったし、可愛かったと思います。

 次いで麗。
 やや思考形態やパーソナリティが超越していて、共感しにくい部分も多かったですし、ヒロインとしてよりはリーダーとしての立ち位置が目立っていたのは確かですが、そのパーソナリティがシナリオの根幹に繋がっているのは確かですし、あの解決は麗しか出来ないだろうと思うに、この真っ直ぐさ・純真さは大切なのだなあと思わせられます。

 んで莉子・・・というより楠井3姉妹ですかね。
 勿論莉子本人もすごく頑張り屋で可愛いんですが、天真爛漫な妹ズの可愛さもそれに拍車がかかっていて、でも莉子あってのあの可愛さという意味で結局3人並べて語るのが一番なのかと思います。まあ正直ヒロインとしては色々・・・ねえ?

 そして忘れてはならないのが貢一郎。
 彼はある意味では究極的に部外者なのに、真っ直ぐ男らしく常にみんなを支えていて、それでいて堅すぎず、すごく幅のある豊かな人格でかっこいいなあと。ラスダンでの台詞には痺れましたね〜。

 星良も好きですけど、色んな意味で扱いが残念な子ですよね。まああの勢いだけの明るさも、パーティーポジション的には映えていましたし、何よりルートがあっただけで個人的には満足なのです。。。


CG(18/20)

 可愛いと綺麗の中間の、いつも通り安定した絵柄ですね。

 立ち絵に関してはまずまずでしょうか。
 ポーズは麗だけ4種でヒロインは3種、サブはほとんど1種類ですね。それぞれらしさを出しつつ魅力ある範囲で収まっていていいと思います。お気に入りは麗前向き、見返り、束沙やや左向き、摩樹前向き、莉子ガッツポーズ、星良正面両手上げあたりですかね。

 服飾は1人3種類、何故か鑑賞には下着もあるけど、舞台考えれば仕方ないとはいえ、基本私服ばかり出てくるのでややバリエーションに乏しく感じる部分はあったかも。
 お気に入りは麗浴衣、水着、莉子エプロン、束沙白衣、女の子服、摩樹制服、星良制服、水着あたりですね。

 表情差分は中々に豊富ですね。とはいえある程度定型化しているので実数はそんなでもないでしょうが、ポーズごとにきちんとちょっとした差異が出ているのもポイントは高いです。
 お気に入りは麗デレ、上目、得意げ、照れ、苦笑、莉子拗ね、照れ微笑、きょとん、罰、苛立ち、八重ぽわわ、微笑、驚き、束沙通常、ジト目、そっぽ、照れすまし、感心、微笑3、摩樹とぼけ、不満、悪巧み1、驚き2、星良きょとん、厨二2、憧れ、照れ1、2、貢一郎まじめ、思案、珠璃驚き、笑顔、莉乃莉未きょとん、眠いあたりですね。

 
 一枚絵は通常86枚にカットインが26枚ですね。ボリュームとしては水準でしょう。出来はまあ安定していいと思いますが、はっとするほど惹かれるのが今回はあまりなかったなあと。
 お気に入りはページ順に、みんなで見た月、もう一度冒険へ、星良に手を取られ、麗と再会、三姉妹、花火、莉子抱きしめ、束沙とお風呂、人質、プール、だぶだぶの白衣、摩樹とプール、この手は離さない、麗チラ見せ、キス、記念写真、星良と2つの月、莉子初H愛撫2、背面騎乗位、束沙初H愛撫、騎乗位、白衣H後ろから愛撫、摩樹初H正常位、麗初H愛撫、浴衣Hフェラ、立位、星良初H愛撫、正常位あたりですね。


BGM(18/20)

 明るく、それでいて幻想的な雰囲気作りに上手くマッチしている楽曲だなあと。
 ボーカル曲は3曲。
 OPの『The moon is not alone』は中々にいい曲ですね。出だしの幻想感からすると歌詞に入ってからは軽い雰囲気ですが、この爽やかさとかっこ良さの調和がいい感じで作風にマッチしていますね。サビの後半が一番好きです。
 挿入歌はアメージングレイスのアレンジなので点数的には込みになりませんがこれはやっぱりいい曲、というかこれ聴くとそし明日思い出すんですが。。。
 EDの『Lost Memories』は一番好きな曲。どこか突き放したようなシニカルな雰囲気と、独歩したイメージが重なって、それが逆説的に1人では歩いていけない人の業に響いてくる感じです。Bメロからサビの雰囲気がいいですね〜。

 BGMは全部で30曲とまあ水準の量、出来はバランスよく配置されていてかなり好みですね。
 特にお気に入りが『もう大丈夫』。色々悩むことはあっても、自分の信念に真っ直ぐ向かい合っていく決意のようなものが滲み出ている、実にかっこいい曲ですね。
 その他お気に入りは、『あの日と同じように』『夏空』『Speedrun』『ノスタルジック』『「希望」と「配慮」の領域』『笑顔の作り方』『悠久の冒険者たち』あたりですね。


システム(9/10)

 演出は中々ですね。
 まず目を引くのはアイテム使用のアニメーションとカットインで、それを軸に上手く動きを出しているので臨場感はそれなりに高く、普通の立ち絵も細々と動くので特に文句はないですね。Hシーンの情感溢れる構図と動かし方も好きなんですが、もっと質と尺があればより良かったのにと。。。
 ムービーは爽やかで広がりを感じさせる構図で、曲ともよくマッチしているし悪くない出来だと思います。

 システムも悪くないですね。
 いつも通りのシナリオセレクトが変わらず便利ですし、選択肢ジャンプもやや遅いとはいえ搭載されているので周回も楽々、あまり細かい設定は出来ないけれど必要な部分はきちんと押さえているし問題ないと思います。


総合(87/100)

 総プレイ時間23時間くらいですかね。共通4時間、個別が3〜3,5時間、麗だけ5時間くらい、星良は1時間ちょっとだと思います。全体的にテンポは良く、事態もコロコロと展開するのでだれるような場面はなく、プレイ中は集中して楽しめると思います。

 基本的な総合力はやはりかなり高いですし、テーマ性の構築とその解読、そして社会や人間に対するシニカルで悲観的な視点は健在なものの、方向性として今回は明るい冒険活劇と組み合わせた分、雰囲気の摺り合わせにやや齟齬をきたした感はないとは言えませんで、そのへん新基軸として歓迎はするけれど、今作に限って言えばもう一息だったなあと。
 とはいえこの点数ですし、元々の期待が高すぎるのはあったと思います。むしろとっつきやすさという意味ではこのラインの中では一番かもですし、このライン今まで気になってはいたけど、という人にはむしろお勧めかもしれませんね。
posted by クローバー at 06:09| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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