2012年05月02日

ものべの

 体験版での演出力に目を瞠ったし、シナリオ的にもそこそこ期待出来そうで、何よりありすが可愛かったので購入。


シナリオ(20/30)

 対立の図式に隠されたもの。


 物伸(ものべの)、この地は四国の山間にある古色豊かな山村です。
 交通の便は非常に悪く、住人の数も多くないために色々と不便なところはありますが、それを補って余りある住人同士の繋がり、そして地域信仰であるひめみや流の、自然のあらゆる事象の神の意志と見立てて、それに沿って暮らしていくと言う在り方によって、この地はもはや他の土地ではほとんど見られない、人と妖怪とがある程度折り合いをつけて一緒に暮らすことが出来る村なのです。

 そんな村で生まれ育った主人公は、父親がひめみや流の神官のような立場にあったこと、そして生まれたときからあかしゃぐまのすみ、大傘妖の飛車角とともにあったことで、その環境に対する敬意や思い入れを人一倍大きく持っていました。
 やがてやや年の離れた妹の夏葉も生まれ、唯一の隣人である有島家のありすとも仲良く、狭いながらも平穏に楽しく暮らしていましたが、しかしそれは相次ぐ父母の死で揺らいでいきます。

 父母の死を契機に、元々医者を志していた主人公は、妹の夏葉がこの地に嫌忌を示していたこともあり、2人で都会に移住して本格的に医者になるための勉強に取り組むことになりました。
 主人公にとってはものべのはいつか戻ってくる土地であり、修行中の身であっても盆と正月くらいは戻るつもりでいたのですが、夏葉の示した拒絶反応は思いのほか大きく、結局この夏この地に経つまで5年以上の時間が過ぎていたのでした。

 拒絶反応のことなどコロッと忘れたようにはしゃぐ夏葉、そして5年経っても変わらない懐かしい顔ぶれに迎えられて、都会の多忙さを忘れ去るかのように穏やかな空気の中で夏休みを過ごしていた主人公ですが、夏祭りの日、夏葉が伝統の舞を目にして体調を崩したことから状況が一変します。
 その日は体調不良で片付いたものの、翌日に今度は滝を見て異常な反応を示し、そしてなんとその夜、今までまだ子供だった夏葉の体が急速な成長を遂げ、一気に大人に近い姿になってしまったのです。しかも、怖がる夏葉をなだめるために主人公が添い寝した翌朝には、なんとその体は元に戻っていたのです。
 異常成長と成長逆進、この2つの信じられない事例を目にしてしまった主人公たちは、夏葉の異常の原因を特定するべく様々な方面からのアプローチを試みていくのでした。
 これは、現実と非現実の狭間で、揺るがない大切なものを掴み取る物語です。


 あらすじはこんな感じでしょうか。
 大枠としてはあらすじの通り、どのルートにおいても基本的には夏葉の異常を解決するために奔走しますが、選択されるヒロインによってその方法論が異なり、その選択によって事象もまた色々な方向に揺れ動くものの、それらは全て根本的な問題に繋がっている、という形式ですね。
 構成は、夏葉シナリオはルートロックがかかっていて一番最後限定、ありすとすみのシナリオで、解決に一定の目途を立てつつも根治まではもっていけず、祖のぞれぞれのしなりおで示された方法論を糾合し、かつそこに想いの力を載せて、夏葉シナリオで解決に至る流れです。

 テキストはやや癖は感じるものの、舞台設定ののんびりした雰囲気もあって特段にトゲトゲしたものはなく、全体的にゆったりとした雰囲気を上手く支えている感じですね。ルートごとの差もそこまでは感じず、強いて言うなら基本好青年の主人公がHシーンでは鬼畜眼鏡に変貌するくらいで(笑)。まあそのへんはヒロインの性質も込みでの特色と言えますし、だから良くないってことはないんですけどね。

 シナリオに関しては、伝奇的要素を多く盛り込みながらも、近代医学の最先端と言うべき事象も取り込んで、その対立項が俯瞰した視点では田舎と都会、妖怪と人間といったものと重ね合わせて提示されていて中々に深みがある上に、最終的にはそれぞれを対立項でなく飽和して取り込む懐の広さも見せるあたり、テーマ性を浮き彫りにするという視点では中々優秀な作品です。
 ただ、物語そのものがあくまで夏葉の異常解決に対する諸問題に糾合されてしまうことで、ややダイナミズムに欠けたり、あるいはヒロインシナリオにおけるヒロインとの交流の部分で盛り上がりが薄かったりと、構成を小さくまとめてしまったことで生まれた弊害も見逃せないレベルでは存在し、そのあたりをどう評価するかで分かれそうな作品ではあります。

 より突っ込んだ解釈をすれば、伝統と革新は対立項として晒されることが多い中で、どちらかに偏った選択をするのではなく、それぞれの良いと思う部分を自然体にあるがまま受け入れていく姿勢こそが大切であり、そしてそうした社会性の変化においても決して揺らぐことはない人の想いそのものが結局は一番なのだと示しているのかなと。
 ありすシナリオにしろすみシナリオにしろ、紆余曲折あっても結局根治に至らない最大の原因は、主人公の気持ちの中で夏葉の順位が一番でなくなってしまったことに夏葉が気付いてしまったことが決定的であることからもそれは覗えます。

 ともかく、構成としては、やや伝奇的部分に都合のよさはあるものの、全体として全ての辻褄は合っていて個人的にはかなりいい出来だと思うのですが、やはり問題はそれを見せる組み立てのほうにあるかなと。
 単純化すれば、どうしてそのヒロインのシナリオに入ったのか、という理由付けが薄いのが一番の問題だと思うんですよね。上に書いたように、それぞれのシナリオがきちんと多重構造のテーマ性を内包している限り、その方向性に主人公が心を寄せる必然性はきちんと構築して欲しかったです。何しろ選択肢最後の一つだけ、夏葉シナリオは自動スタートですからね。

 そして、この作品の特に共通において、主人公の在り方はかなりニュートラルであり、彼にとっての自然体とはやはり夏葉のことを一番に考える、という姿勢なので、どちらかと言えばその自然さが他2人のシナリオでどう崩れたかを提示するほうが説得力があるように感じました。
 まあ要するに、最初の共通にもう少し選択肢を、特にありすとすみの二択を強いる選択肢があって、そしてその選択数で最後の選択肢は表示されるけど一方は選べない、という形にしてくれれば、主人公の心情面でのフォローは出来たのではないかなと。
 ついでに書けば、途中のHシーンも番外でなく選択の結果としてしまえば、短絡的ではあっても肌を重ねたことによる気持ちの揺らぎという視点は確保できますし、何より物語の連続性がしっかりするので、もう少し何とか出来なかったかなあと。無論ヒロイン以外のそれは外枠でも構わないんですけどね。

 あと贅沢を言うなら、夏葉シナリオの最初の共通が夏葉視点で提示されるのであれば、そこに妹シナリオとしての必然性を感じさせるイベント回想などを加えてくれれば尚良かったのになあと。まあ環境的にはそれを許容するだけのものはありますが、やはり本人の真情として明確に語られるのとでは説得力が違うと思うんで。


 以上、物語としてはしっかりまとまっており、短いながらもギュッと煮詰まった展開の数々は読み手を引き込む魅力は充分にあったと思います。が、やはりここぞでの盛り上がりのメリハリにはイマイチ欠けるし、おまけHばかりで日常のヒロインとの交流という部分では物足りなさも出てしまうので、トータルするとこのくらいの点数になるかなと思いますね。 
 

キャラ(20/20)

 ヒロインが3人だけだし、その上それぞれ地域や関係性の上で密着したものが最初からあるので、醸成される空気感が独特、つかその中に個性を醸しだしていてとても魅力的だったと思います。
 そしてこの作品においては大人の書き方が実に真摯だったと思いますね。朴訥とした中で温かみを感じる、最後には頼って寄りかかってしまっても大丈夫だと感じさせる強い大人の姿をきちんと投影できていたことは、テーマ性との繋がりの意味でも良かったと思います。

 一番好きなのはありすですね〜。
 主人公に対する好意を隠さずにアグレッシブですけど、でもきちんと夏葉やすみに対する想いも強く持っていて、トータルの関係性を一番大切に思っているのはありすではないかと感じさせる芯の強さと柔らかさがあるキャラだと思います。
 そして何より普段からやたらとエロ可愛いんですよね〜。服装とか絶対誘っているようにしか見えないし、主人公の反応に一喜一憂する姿とかは本当に愛らしいです。

 次いで夏葉ですね。
 個人的に(小)のボイスがジャストヒットであるのと、邪気のない中におしゃまな雰囲気を醸し出して、でも本質的にはとっても素直で一途なのが魅力的です。しかも状況の結果とはいえ、その雰囲気を維持したまま攻略ヒロインとなっちゃうから背徳感という意味では実に濃いキャラだったと思いますね。

 すみも可愛いとは思いますし、想いの深さという意味ではもしかすると誰よりも強いと思わせる部分は多々ありました。種の壁という視点をもっと抉っていけばより魅力が掘り下げられたのではと思うところもありますが、あの小さい体ででもしっかりみんなの幸せを見守っている雰囲気は好きです。

 飛車角は実にいい男っぷりですね。
 普段は意識的に道化的な立ち位置にありながら、やるべきときには凄みを見せる、実に義侠心に溢れた雰囲気がものすごく魅力的だったと思います。
 その他、ひめみや、村長、ありすの両親と、これだけ立派な大人に支えられた作品も珍しいのではと思うくらい、みんな自分の生き方とやるべきことに信念と矜持を示し、諭してくれるのが、まあ説教くさいと感じる部分もあるかもですが個人的にはすごく好みでした。まあそれだけ自分が年寄りに近くなったということでしょうか(苦笑)。


CG(20/20)

 実に膨大な素材量の投入と、そして安定して素晴らしい可愛さを維持している質ともに文句なしですね。というか、他の作品と違うのか一枚絵にしても立ち絵にしてもパーツごとの処理になっていて、その組み合わせで膨大さを出しているので、作業的にこれが普通より大変なのかどうかはこの手の造詣に疎い私にはとんとわかりませんが、魅力的であったのは間違いなく、多少迷いましたが満点の価値はあると思いました。

 立ち絵に関しては実に丁寧かつ目を引くセンスの良さでしたね。
 ただポーズに関してはそれぞれ一種類しかないのがやや残念なところ。ありすと夏葉(中)がお気に入りです。
 
 服飾は非常に豪華。人間は毎日着替えをする生き物だと言うのをこの作品は思い出させてくれます(笑)。しかしここまで多いと、単に私服と書いてもどれかわからないと言う。。。
 お気に入りは夏葉(小)白ワンピ、浴衣、ピンクパーカー風、緑と白のノースリーブ、夏葉(中)黒Tシャツ、白ワンピ、下着、パジャマ、すみ着物、浴衣、ありす黒Tシャツ、寝巻きキャミ、浴衣、白のノースリーブあたりですね。

 表情差分はパーツごとの種類も豊富で、組み合わせは膨大になるので、実際ゲーム中でもすごく多彩だと映りましたね。
 お気に入りは思い当たる限りですが、ありす笑顔、驚き、照れ照れ、まじめ、夏葉ジト目、恥じらい、喜び、憂い、困惑、すみ照れ笑い、ぽわわ〜、拗ねあたりでしょうか。


 一枚絵は本編部で205枚、おまけに25枚の計230枚と実に膨大。
 勿論中にカットインとかも含まれてはいますが、それを除いても普通のゲームとは一線を画す量で、しかしCGもアニメーション処理で動いていることもあり、立ち絵との連続性というか、一連の流れの中でのCGの使われ方が実に巧みで非常に良かったと思います。

 特にお気に入りは2枚。
 1枚目がありす初H愛撫、このありすの初々しさと可愛らしさは素晴らしいですね。
 2枚目がありす鏡越しH背面座位、シチュのエロさ、黒ストの妖しい魅力にぞっこんの1枚です。

 その他お気に入りはページ順に、ありすと書庫で、髪形変化、添い寝、尚武の手術、抱きつくありす、ツイスター、告白、初H正常位、ありすとちま、狸寝入りにいたずら、ダブルフェラ、ありすパイズリ、騎乗位、すみとお出かけ、おんぶ、ブラ比べ、すみH背面座位、夏葉の誘惑、夫婦の絆、ぼろぼろありす、すみ正常位、バック、夏葉と散歩、胸いじり(大)、(中)、お風呂、69、告白、初H愛撫1、おかえり、ちま背面屈曲位、滝女郎騎乗位、正常位、ひめみや騎乗位、夏葉白衣正常位、メイドフェラ、バック、騎乗位、デコH正常位、再会、買い物ありす、めっかいだ〜、クッキー作り、御飯夏葉・すみ・ありす・飛車角、指輪、水遊び、お医者さんごっこ、ありす鏡越し愛撫、裸エプロン愛撫、騎乗位、アリスコス座位、すみお風呂フェラ、バック、夏葉水着愛撫、バック、メイド正常位、温泉騎乗位あたりですね。


BGM(17/20)

 登録数だけなら98曲、重複もあるとはいえ実数でも60曲近くて実に豪華ではありますが、曲としては印象がばらけてしまっていて、かつ雰囲気重視の穏やかな曲が多いのでどうしてもインパクトが薄かったりはしましたね。

 ボーカル曲は登録されているので6曲かな。
 OPの『夏果』は涼やかな中に情緒がたっぷり詰まっていて中々にいい曲ですね。サビに入ってからの力強さも中々に捨てがたい魅力です。
 あとはEDといってもいろんな場面で流れるのでお気に入りだけ、『君と紡いでいく物語』はAメロの飄々とした雰囲気が特に好きですね。『明日今日よりもきっと』の透明感もかなり気に入ってます。

 BGMは全体的に環境音楽みたいで実に綺麗なんですが、特にこれといった掴みがなかったり、場面的に記憶が想起されるような力強さもやや足りなかったのかなと。
 お気に入りは『朝霧』『あかね空』『たまゆら』『乱舞』『翠蓮』『彼のまなざし』『青空』『クジラ雲追いかけて』『レクヰエム』『螺旋』あたりですね。


システム(9/10)

 演出は中々ですね。
 何はともあれ立ち絵、一枚絵を通しての表情演出が見事としか言えません。台詞としっかり同期した表情、目と口の動きを実装し、すごく臨場感のある雰囲気を構築できていたと思います。それに加えて背景演出や、カットインなども駆使して全体の調和もしっかり作り出していて、まあこれだけ丁寧な仕事だとシナリオの尺がこれでも仕方ないかと思わせるだけのものにはなっていると思います。
 ムービーに関してはまあ普通ですね。空気感はすごく良く出ていますが、技巧的には目立つところないですし。

 システムも優秀。
 基本必要なものは揃っていて、そして使い勝手がいいのがシナリオジャンプとシナリオプレイヤー、あと個人的に組み込みフォントのセンスがすごく好きでした。デザインも作品の雰囲気を壊さないように自然かつ綺麗にまとまっていて悪くないですしね。


総合(86/100)

 総プレイ時間18時間くらい。共通3,5時間、すみとありすが3時間、夏葉が5,5時間くらい、Hシーン回収で3時間くらいのイメージですね。決してボリューミーとは言えないですが、最低限はクリアしているし、何より一つ一つのシーンの濃度が演出面においてもシナリオの側面からも高く、個別に入ってからはかなり集中して読み進められましたね。

 まあヒロインが基本ロリ方面にかなり強く偏っていること、シナリオにも癖があり、そしてヒロイン数も少ないなど、間口はかなり狭い作品ですが、演出力の高さと丁寧さ、絵の魅力、テーマ性の深さなど、見た目の雰囲気だけで阻害して欲しくない魅力はたっぷりある作品だと思います。個人的には嗜好も被ってますし、満足度の高い作品でした。
posted by クローバー at 05:31| Comment(1) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
読みやすいレビューでした。
予約特典につられた身でありますが物語と世界観がしっかりしてて尚且つキャラが魅力的で一気にクリアしてしまいました。
僕もありすが好きですね。夏葉はどれもかわいいと思います。すみもよかったですがEDがちょっと切なくて…
Posted by 橘 at 2012年05月03日 21:18
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