2012年08月28日

古色迷宮輪舞曲

 元々少し気になっていたタイトルではあったけれど、発売後の評判がやたらに良かったのでいそいそと購入。


シナリオ(25/30)

 絆の可能性の先に。


 主人公は、学費以外の生活費をバイトで賄っている苦学生でした。
 1年以上働いてきたファミレスが潰れたことで職場を失った主人公は、すぐに次の職場探しをはじめます。するとすぐに目に付いたのが、『童話の森』という喫茶店の手書きのチラシでした。
 その内容以上に、チラシの雰囲気に既視感と親近感を覚え、早速面接に向かった主人公は、その、童話を読める喫茶店というコンセプトそのものや、あまりに大らか過ぎる店長の舞の存在には危惧を感じたものの、やはり店の雰囲気に馴染むものを感じたこと、そして何より、店長が差し出してきた一杯の紅茶の魅力に惹かれ、この店で働くことを決意します。

 翌日、ここでも学園でも先輩になる美月によって一通りの仕事を仕込まれ、舞からも紅茶のおいしい淹れ方を指南され、店に客そのものは決して多くないものの、常連客の中に幼馴染の和奏と、その後輩の一葉がいて、その紹介なりなんなりで刻々と時間は過ぎていきます。
 そうこうと、ドタバタしつつも平穏に終わろうとしていたバイト初日の夕方、突然舞によってバックヤードに呼ばれた主人公と美月は、得体の知れない木箱が届いてオロオロしている舞の頼みで、2人でその箱を開封します。
 すると、その中に入っていたのは、とても人とは思われないほどの冷たさと、銀色の髪に紅い瞳という、いかにも作り物の人形めいた雰囲気の1人の少女でした。外界に触れたことで目を覚ました少女は、主人公に問いかけます。お前がこの事象を経験するのは何度目だ?と。

 特にそれに反応を返せない主人公に、束の間落胆を見せた少女は、すぐに本来の目的に立ち返ります。サキと名乗った少女は、自分の記憶が名前以外はほとんど失われていること、その中で覚えているもっとも大切なことは、主人公が今歪んだ運命の輪に囚われており、このままだと一週間後に死の運命を迎えること、また主人公の周りの人間も少なからずその運命の輪に関連している可能性があることだと言います。

 突然現れた謎の少女に、高圧的な物言いでアレコレ言い募られて反発を覚える主人公ですが、しかしその日を境に主人公の周囲には不穏な空気が立ちこめていきます。美月とその双子の妹の美星との帰り道に車に轢かれかけたり、住まいが火事になって燃え尽きたりと、数々の不幸とサキが示した輪廻の証明を経て、だんだんそれを信じる気になった主人公は、舞の好意に甘えて喫茶店に下宿しつつ、サキと共に運命を変える為に奔走します。
 期間はたったの1週間、道を違えれば待ち受けているのは親しいものの死、そんな不条理な歪みの世界の中で、やがてそこに打ち込められた楔は主人公にも輪廻の記憶をもたらし、そこで抱いた想いを胸に、世界の歪みを正すべく自らの良心を押し殺して挑んでいきます。

 果たして、輪の根幹にある歪みの正体とは?
 主人公にもたらされた運命と、それに付随する能力の正体は?
 正された運命の先に待ち受ける現実とは?
 これは、想いを糧に死の運命を乗り越える物語。


 あらすじはこんな感じでしょうか。
 全体的にネタバレすると興ざめな作品なのですが、そういう制約の中で語れる大枠としては、運命の輪の中で様々な可能性に直面し、そこで紡がれた絆を、苦味を噛み締めつつ大元の運命を変転させる糧に注ぎ込み、そのことで何重にも絡まった歪みを1つずつ解決していった先に、本当の現実とそこにも待ち受ける不条理な運命が浮かび上がり、それを、観測者が恣意的に物語に干渉するという形式で解決をはかる物語になります。

 テキストに関しては、日常の何気ないやり取りの中に、雑学的な素養をふんだんに盛り込むことで会話水準を知的に平均化し、その上で、どちらかと言えばニヒリズムに立脚している、物事を透徹したようなフレーズを突発的に切り込ませることで、読み手の緊張感を煽ることに成功している、中々に味のある出来だと思います。
 一部キャラ特性が滑っている感も無きにしも非ずですが、それも含めてキャラ同士の関係性も適度にバランスを取っていて、そのあたりも読みやすく感じた一因ですね。ただ、これは後々シナリオ部でも問題になるけれど、主人公の仁義かぶれに関してはどうも薄っぺらく感じたかなと。

 構成は、ゲームシステム含めて非常に独特です。
 ルート構成は基本的には一本道なんですが、ループを前提とした物語なので、そこから零れ落ちて派生するルートも多く、ただ全体の方法論として、まともに恋愛的要素によって結びつく物語ではない、ということだけは明記しておいてもいいでしょう。これもギリギリネタバレかもですが、個人的には恋愛というよりは家族愛に立脚した物語だと思っています。
 といって、各ヒロインにまるで見せ場がない、というわけではなく、むしろその関係を次の輪での糧にする、悪い言い方をすれば踏み越えていく、という構成で、このあたりはシュタインズゲートの後半部をイメージするとわかりやすいかもしれませんね。

 ゲームシステムがまた物珍しく、まず普通の選択肢でなく、プレイヤーが恣意的に語句を投入することによって物語が変化する、というシステムを採用しています。語句を投入できるポイントこそ決まっていますが、選択できる語句はかなり幅広く、またそこで失敗すると即座に運命量に影響を及ぼすので、中々にシビアです。2〜3回間違えたら誰かが運命量を枯渇させて巻き戻し、なんてザラです。。。
 中には、語句を投入しないことが正解、なんて意地の悪いものもあり、大体は直前にヒントめいたやり取りがあるとはいえ、ある程度全体像の把握と、話の流れを常に意識していないと話から取り残されていくような、否応なく読み手に一体感を強要する作りになっています。
 そしてそのこと自体が、物語終盤において大きな意味を持ってくるので、この難易度に苦しめば苦しむほど、そこに至ったときのカタルシスは大きいだろうという、なんというか底意地の悪い、作り手のほくそ笑みが透けて見えるようなシステムですね。。。

 もう一つのポイントは、定められた運命量を能動的に使用することで、運命の輪の中をある程度自在に行き来できるところ。シナリオそのものも、マップ移動で得られるキーワードなどを前提に組み立てられている部分もあり、また語句の投入に失敗したという場合でも、その巻き戻りによって運命を変えてください、という形式になっています。
 その証拠に、というのもなんですが、このゲーム普通の形でのセーブがありません。一回きりの中断とオートセーブしかないので、投入ミスった、じゃあやり直そう、という単純なリセット感覚での進行が出来ず、あくまで自身の運命を削ってでもやり直しを求める、という切実さをシステムに上手く反映させています。

 総合してみると、昨今のゲームでは屈指の難易度であると言えますね。特にシステムに慣れない序盤は苦労すると思います。あと中盤にも1つかなり大きなミスリードとトラップがあるけれど、それを乗り越えてしまえば後はそこまででもないかな。まだ物語への没入度が低い序盤でシステムに慣れさせ、後半は物語に恣意的な意思を込めることで共感度を高める、冒険的ですが意義のある作りだと思います。

 ここまででもだいぶ長くなりましたが、ここからシナリオについて。
 最初に書いたように基本は一本道で、そこに至るための心理的変遷もおおよそは説得的であり、また世界観とそのルール付けにおいてもそれなりに厳格さは意識されているので、読み物としての完成度はかなり高いと思います。

 ただ、個人的にはいくつか細かいポイントで説得性がやや薄いかなと思いました。
 第一に、主人公が輪の中で第一義に抱え込んだサキへの恩義について、これはあくまで主人公の元の性質に立脚する部分が多く、その直前の物語の中でそれを読み手にまで反映出来ていたかがやや疑問です。
 第二に、主人公とまたその他一部のキャラに付帯された能力の根源的位置において、主人公がそうだから、という視点はともかく、他のキャラもそれが横並びであると位置づけるのは、特に双子に関してはちょっと説得的でないなと感じました。
 第三に、特に一葉と和奏のエピソードにおける、時間的制約から来る心理的共感の醸成に関する雑さ。そう仕向けた、というだけで、ああも簡単に物事が進んでしまうのは流石に事態に対して軽すぎると思うし、ヒロインとしてもちょっと不憫かなと思います。

 それらを総合して思うのは、骨格とルール、それを打破する抜け道に至るまでの構成はすごく良く出来ているのですが、要所でもう少し肉付けが欲しかったなというところ。
 攻略難易度の高さに隠れがちですが、実はこれ全体のシナリオ量としては平均化それ以下だと思うんですよね。それでも完成度が高いところは大したものなんですが、やはりもう少しきちんと説明、あるいは状況を設定すべき場面はあったなというのが正直なところで、それが没入度を弱めているきらいはあると思います。

 ぶっちゃけた言い方をすれば、シナリオの量は必ずしも質を保証するものではないけれど、ないよりはあったほうがそれを保証する確率は飛躍的に高い、という観点。この尺でこれだけ面白いのは驚異的ではあるけれど、メインルートはともかく脇のルートにおいては特に、これで全てを語りきったという仕上がりではなく、もっと面白く出来たのに勿体無い、という印象なんですね。

 それでも、メインルートの出来は素晴らしいの一言。
 歪められた運命を正していく中で数多の運命を糧にし、そしてより難易度の高い運命の改変を求められ、それを解決するのに用いたトリックがきちんとシステムとリンクしていて、そうまでしておいて最後の解決がああですからね、そりゃ心に響きます。
 ややもすると、かなり往年の名作をモチーフにしたイメージもありますが、それぞれがあくまで構成要素としてのみの切り取りで、換骨奪胎してきちんとこの物語の文脈に落とし込んでいるので、私としてはその点は気にならない、というか、名作のいいところをきちんと使えていれば面白くなるのも当然だよね、ってスタンスですね。
 勿論その分斬新さという視点ではややマイナスなんですけど、それを補ってあまりある魅力と破壊力があったと思います。

 あと個人的にものすごく秀逸だと思ったのが双子エピローグ。
 美月というキャラはこの物語において、少なくとも主人公とサキの道行きにおいて癌といっていい存在ではありますが、そういう立場に身を染めてまで解決したい想いは純粋であり、それでも道中の在り方からはそこに共感を呼び込めない、と思わせておいて、ラストであそこまでのことをやってみせたことで、その行動があくまで同一線上の信念であることを力技で証明してしまったあたりに凄みを感じました。
 無論美星との因縁の部分に関しても設定が上手く生きているからこその迫力であり、また主人公が解決した状況の余波を上手く利用して、というのも強かな彼女らしい振る舞いであり、この作品で真エンド以上に心に残ったといっても過言でない部分ですね。

 以上、噂にたがわぬ難易度と面白さではありましたが(というかこの難易度で面白くなかったら投げられてるよね。。。)、後追いゆえの構えというべきか、純粋にいい点だけでなく、つい粗を探そうとしてしまうスタンスで読んでしまうのは勿体無かったなあと。これは真っ白な状態で楽しむべき作品だと思うに、ここで私が感想を書いているのもその阻害要素じゃないかとゲンナリしたり。。。
 ただ、それを差し引いても完璧な出来、とは流石に言えないし、発想と終盤の迫力だけは超をつけてもいい名作クラスですけど、構成的に終わりよければ・・・でもないところでこの評価に落ち着いたって所ですね。


キャラ(20/20)

 登場人物はそれぞれ癖が強く、時に魅力が透けにくい部分もありますが、トータルして誰もが運命に抗って道を切り開いていくという意志の強さと、それと表裏一体の脆さを抱え込んでいて、極限的な状況の中でそのちょっとの綻びがどちらに転ぶかで大幅に運命を変えてしまったりと、いい意味でも悪い意味でも人がましさを印象付ける仕上がりで、私としてはこういう内在論理と願望がリンクして浮かび上がる描写はとても好みなので楽しめました。

 さて、問題は私が一番好きなのが赤い子だったりするんですけど、これってそのまま書いたら120%ネタバレだよなあ・・・と困っている次第。。。
 比較的にぼやかして書けば、やや素直さと無邪気さが強くて、シニカルでありつつも常識的であり、それでも複層的な状況の中で想いがあの方向に向かっていくのを止められずに受け入れていくあたりがやたらと可愛かったんですよね〜。

 んで舞、彼女は1人だけ運命量ゲージがない時点で何かある筆頭キャラでしたが、あのぽわぽわした外見と雰囲気の裏でやはりそれなり以上の役割を果たしていて、でも普段と変わらずそこには善意のみが立脚しているので、結果として物事をこじらせてしまった責任はあるにしても、それでも最後まで自分の出来ることをまとうしたという意味で確かに大人ではあったし、魅力的に書かれてはいたと思います。
 ただね〜、あれを攻略したとは言わない・・・よねぇやっぱり。

 サキも最初はどうかな〜と思ったけれど、流石に終盤では魅力的になつてましたね。そこまでとことん理詰めな印象を見せておいて、最後に感情にしがみつくあたりはそこまでの過程の重みを感じさせて良かったですし、全体像という視点では人がましさが1番色濃く出ていて、流石のメインヒロインという印象でした。
 敢えてこう書くのも、パーソナルはともかく、物語の中で刻んだ想いとその形のほうを私は重視しているからですね。


CG(16/20)

 可愛さは可愛さとして出しつつ、全体的に薄気味の悪さとか怖さとかも付随している感じで、その分雰囲気にブレがあったかなあとも思いますが、難しい素材和苦心して料理した様子が窺えますね。

 立ち絵に関してはまずまずかもう一息かってとこ。
 ポーズは1人基本3種類の腕差分がいくつか、ってところでしょうか。それなりに動きは感じるし、らしさも上手く捉えていると思います。どちらかというと、シニカルな方向性で、ですが。
 お気に入りはサキやや左向き、見返り、和奏正面、一葉前のめり、舞正面、やや横あたりですかね。

 服飾は基本2〜3種類、サキだけはもうちょっとあるけれど、これはある意味必然ですので、全体としては少し物足りなかなと。まあさほど特殊衣装の出番のある場面はないですから仕方ないとは言えますが。
 お気に入りはサキまともな私服、制服、パジャマ、和奏制服、私服、美星私服、舞仕事服、私服あたりですね。

 表情差分は数は多くないですね。少ない中で結構多彩な表現を出しているのもあって、ひとつの感情に対するストックがやや物足りない印象はあるものの、その幅広さはきちんと表現できていると思います。
 お気に入りはサキ眉顰め、溜息、笑顔、拗ね顔、慌て顔、膨れ顔、和奏いじり顔、怒り、拗ね顔、困り顔、ジト目、一葉びっくり、笑顔、美月ニヤニヤ、美星いじり顔、ジト目、舞照れ顔、半泣き顔、笑顔、困り顔あたりですかね。


 1枚絵は78枚、SDとかもないのでギリギリ水準というところでしょう。
 出来もややばらつきはあり、シーンの迫力を余すところなく切り取れているかといえばそうとは言い切れませんが、悪くはないと思います。

 お気に入りはページ順に、サキ寝起き、偏食、お気に入り、お風呂、邂逅、拿捕、たくし上げ、正常位、別れ、問詰、正常位、誓いのキス、お気に入りの紅茶、和奏とお茶、ひきとめ、愛撫、騎乗位、絞殺未遂、幸せな一幕、穏やかな死に顔、擦り切れた心、美月茶の用意、2人で登校、仲直り、一葉ケーキ、これなんだろ?、添い寝、フェラ、正常位、舞の仕事、キス、自慰1・2、添い寝あたりですね。


BGM(16/20)

 一昨日くらいにやっとBGMモード搭載されたので、それを基準に評価するのも微妙なところですが、まあ使えるものは使うということで。出来はいいですが、流石に数は少なすぎる、ただ閉じた世界観の表現としてはアリなのかもな、という感じです。

 ボーカル曲は1曲。
 OPの『Le Conseil』は中々の名曲ですね。疾走感と緊迫感が上手く混ざり合いながらも暗くなりすぎず、前向きな印象が特にBメロから先に色濃く出ていて、作品の雰囲気ともマッチした曲ではないかなと。

 BGMは全部で10曲と、流石にフルプライスとしてはあるまじき曲数。
 ただ出来そのものは決して悪くないので、世界観との噛み合いも踏まえてこの点数ですね。
 お気に入りは『Historie de destin』『紳士と甘味』『Afternoon tea』『Rabbit’s voice』『Twinkle little bat』あたりです。


システム(8/10)

 演出はやや弱いかなと。シーンの見せ方には工夫はありましたが、さほど背景高価や演出は強くなく、日常パートにおいてもそれなりには動くけどあくまでそれなりという印象。
 ムービーはトランプをふんだんにあしらったデザインがまず目を惹き、さほど激しく動かない中でも効果的に世界観を想起させるアイテムはちりばめていて中々にいい出来だと思います。

 システムは評価の難しいところ。
 ゲームシステムという視点も含めれば中々のものなんですが、しかしそういう部分以外の、単純な操作性の観点ではかなり不便であり、またプレイヤーに慣れを強いる部分もあるので、そのあたりでマイナスに感じることも多そうではあるかなと。
 せめてスキップで単語登録のスキップの有無くらいはつけて欲しかったな〜。おおよそリスタート前提の作品なんだし、投入ポイントで止まるのはありがたかったけど、一義的にストップだけだと評価には反映できないかなと。


総合(85/100)

 総プレイ時間は運命録登録の時間で28時間ちょっとでしたね。ただこれは、何回も失敗したりやり直したりの試行錯誤が多分に含まれるので、純粋にシナリオだけ追いかけていたら20時間・・・はないんじゃないかなと思わせます。
 構成上序盤から緊迫の展開も多く、能動的な参加をプレイヤーに求めるという意味でも、冗長に感じたり退屈に思う場面はほとんどなかったですが、逆に肉付けが足りないと思うシーンはそれなりにあり、完成度はともかく充実度という意味でもう一息名作と言い切るには足りなかったかなと。

 私みたいにどうしても総合力の部分を重視する傾向だと、点数的にはあまり叩き出せない内容なんですが、点数以上に楽しめた自覚はありますし、名前の通り古色の趣を醸し出した、昨今ではオンリーワンに近い魅力を持った作品ですので、気になっているならプレイしておいて絶対に損はしないと思いますね。
posted by クローバー at 05:33| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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