2015年01月01日

紙の上の魔法使い

 たまたまポッと時間が取れて、じゃあ折角だから体験版くらいやってみようか・・・って軽い気持ちでやってみたのですが、この体験版の出来が中々に凄まじく、明らかに萌えエロゲーとは一線を画した重く甘苦しく耽美な雰囲気、品位と構成の妙を意識したテキストにガツンとやられ、ヒロイン的にも夜子とかなたがすごく気に入ったのでほとんど迷わず購入ラインに乗せましたね。


シナリオ(27/30)

 痛みの先にしかないもの。


 主人公は二年ぶりに故郷の島に帰ってきました。
 家庭内の問題を経て、一度家族がバラバラになって。
 けれどその家族の中で唯一の最愛である妹の后と共に在る為、彼女が仮寓させてもらっている、旧知の島の名士である遊行寺家の幻想図書館に居候させてもらえることになったのです。

 そこには、数少ない友人がいました。
 喧嘩友達で頼れる兄貴分の汀、屋敷の使用人である理央、そしてあたかも幻想図書館の主人であるかのごとく振る舞い、屋敷の奥に引きこもって専ら読書に耽り、世間と隔絶した、白い髪と赤い目を持つアルピノの少女、夜子。
 汀には気負わぬ態度で歓迎され、理央は手放しで喜んで、やっぱり夜子にはツンツンときつく当たられて。でもそれも昔通り、そこには主人公が潜在的に望んだ家族の鋳型が、穏やかで温かく、明るく楽しい日常の風景がありました。

 けれど、かの図書館には穏やかならぬ噂と、そして秘密が隠されていて。
 初登校で後ろの席になった少女、かなたは、持ち前の前向きすぎる好奇心で、その図書館に関する謎を紐解こうと躍起になっていて、たまたま主人公が昨日、妃とともに屋敷のほうへ消えていったのを目撃したために、しつこくまとわりついてくるようになって。

 それに辟易しつつも、翌日からよくよくかなたを観察していると、そこには彼女の凄惨な日常の風景がそこかしこに植え付けられていました。
 無視、阻害、排撃・・・、言いようは様々で、しかし悪意の出所がわからないインビジブルの虐め。
 彼女の明るさも、転校生の自分に積極的に話しかけてきた理由も、痛いほどの切実さに包まれていて、いつしか主人公はかなたを守りたいと思うようになって。

 けれどもそれは、舞台の上での演出。
 紙の上の魔法使いがもたらした、残酷で鮮烈な邂逅と、その裏返しの陰惨と切実の顕現。
 妃の力も借り、かなたとの物語を何とか解決に導いて。
 そこに残ったのは、一冊の本。
 ヒスイの排撃原理、と名付けられた魔法の本、それはかねがね遊行寺家が蒐集し、隠し続けてきた秘密。現実を侵食する不可思議の、理不尽の要。島に蔓延る噂を裏付ける、紙に書かれた物語を現実にそのまま投影してしまう超常の力。

 遊行寺家の真実を知って。
 けれど主人公はそこに立ち止まることを選択します。
 他に行き場がない、というのも勿論あったけれど。
 それ以上に、いずれその魔法の本の管理を担っていく夜子の存在が、あまりにもかつて別れた時と変わらず、儚く、弱々しく、精一杯胸を張っているのに、少し風が吹けばぽきりと簡単に手折られてしまいそうで。
 だから主人公は自分の意思で選択します。これからも、魔法の本がもたらす様々な不思議に、悲劇に、苦悩に向き合っていくと。

 そして、その思い遣りに溢れた選択が、善良で前向きな意思が、しかし致命的なまでに、残酷な物語を加速させるきっかけとなって、不幸の連鎖を生んで、陰惨な真実に誰しもを直面させる軛となって――。
 これは、魔法の本という不思議の力が振り撒く不幸の中で足掻きつつも、それぞれが最も大切に抱え込む想いを貫き、そしてそれぞれが譲れないからこそ錯綜し、どうしようもなくなっていく、恋の美しさと苦しさと、残忍さを謳った物語です。


 あらすじはこんなところでしょうか。
 正直この作品、序盤から見せ場の嵐で、あらすじも下手に書くと致命的なネタバレ連発してしまうという難しさがありますが、大枠としては魔法の本が織りなす事象に対面して、その裏側に潜む、それぞれのヒロインの無意識的な、或いは意識的な希求を掬い取り、解決に導く中で、世界の残酷に、恋の残酷に対峙し、紆余曲折ありつつそれを克服していく流れ、ですかね。

 テキストは非常に散文的というか詩的というか、短文でリズムは心地よく保ちつつも、内実的にはかなり地に足の着いた、およそエロゲらしくはないしっとり――或いはねっとり――とした文体で、簡潔さの中にしっかり意味を籠めていて、中々に読み応えがあります。
 ミステリーの要素が作品でもかなりの比重を占めていて、その為に伏線の引き方やミステリーとしての骨格にもかなり気を配っていて、特に一章はその要素がとても強く、改めて読み返すとああ!って思う部分がすごく多くて感心します。出来れば体験版以降の部分ももう一回読んであれこれ忖度してみたいのですが、時間がないって切ないよね・・・。
 そういうつくりでありつつも、きちんとヒロインの可愛さ、魅力はそれなりに引き出せているのもポイントは高く、そういう「舞台」でもない限り、コテコテ甘々の関係――一章のかなたみたいな――は望めませんが、それは方向性の違いで飲み込める範疇ですし、何より話の先が気になってどんどん読みたくさせる吸引力は最後まで衰えずに貫き切っているので、それだけでも高い評価は出来ますね。

 ルート構成は基本線一本道のヒロイン脱落型ですね。
 更に特色としては、脱落した先のifも本筋の影響下にあり、ヒロインによっては決して幸せとは言えない結末を辿る場合もあって、あくまでメインとなるのは本筋だとかっちり弁えた構造になっているところです。
 その上で二重三重のミステリー的なトリックが仕掛けられ、着地点までの深みがかなりあって、ある意味幾人かのヒロインはその過程の中での礎、悪く言えば生贄になっている部分もあるので、特定の誰かに思い入れて、結果的にその子があまり報われないパターンは多発する構造でもあるのでその点は注意、ですかね。

 シナリオに関しては、まずこの大枠の部分の発想と構成力は見事の一言に尽きます。
 舞台裏の情報を極限まで小出しにしつつも、目の前の事象に読み手をぐいぐい惹きつけるだけの迫力があって、一見無制御にちりばめられた物語が、裏側の真実が開示されていくにつれてきちんと一本線に縒り合わせられ、各個人の信念や恋心という制御しにくい要素までを精密に内包して、その一々の状況で、登場人物がそうせざるを得ない説得性をきちんと構築できていて。
 そして、それが蓄積すればするほどに、無意識的に現実を操っていた事に対する絶望が、悲しみが、苦しみが、そして憎しみが膨らんでしまって、どうしようもなく立ち往生せざるを得ない条件に導いているところに凄みがあります。

 ・・・ん〜、後はもうネタバレ白抜きにしときますかね。上っ面だけなぞって書いても意味がないですし、けどネタバレかなり致命傷の作品ですし。

 基本的にこの作品には、個別ルートと呼ぶべき部分はほぼありません。
 それぞれのヒロインの信念も想いも、ほぼ共通の流れに内包されていて、けれどそのほとんどは叶える事の出来ないどうしようもないもので。
 そのどうしようもなさを引き寄せてしまったことに対する自責や不満、それを受け止める苦しさに耐えかねて逃避に走った場合が個別ルート、という位置づけなので、ある意味エロゲとしての必要条件であるHシーンを、甘くて脆い夢幻の中で展開するための措置、とすらいえますね。加えてその決着で、改めて主人公と当該ヒロインの信念、覚悟を鮮烈に知らしめる意味合いもあって、その視点ではとりわけ妃ルートが群を抜いて優れていた、と言えるでしょうか。
 それは絶対に譲れない優先順位の問題であり、だからこそそこまで出来る、という強さと、本当はそんな風にありたくはなかったという裏腹の弱さの対比に痺れさせてくれるところで、わかりやすくバットエンドですけど印象深いです。

 本筋としては、まず序盤、一年前の魔法の本の紹介を兼ねてのミステリー仕立ての面白味と、そこから派生する唐突で残酷な悲劇を語り、逆転劇を予感させたところで肩透かし気味に一年後、ってのは何だろう、と思いましたが、結果的にそれも含めて見事な構成で。
 強いて言えばもう少し演出効果で溜めを作れればなあ、とは思いますし、そういう点は作品全体に見受けられましたが、少なくとも文章の表現の上では綺麗にまとまっていますね。

 魔法の本に矜持を踏みつぶされそうになっての妃の高潔な自決と、それに伴っての主人公の自殺というスキャンダラスな展開は、運命を弄んでいた側にとっても予想外の悲劇であって。
 その責任から逃れる為、何より本来の目的である夜子の幸せの為に、終わってしまったものを必死に繕った物語は、けれどその担い手の半端な優しさ、不覚悟に揺らめいて、更なる混沌を呼び覚まして。
 魔法の本が持つ特性と、それに伴う登場人物の記憶の関係などを細やかに整合させ、単純なミスリードと思わせた中に重大な真実を忍ばせて。

 しかし奏が三章でサファイアに言及した理由は何だったのか。それはオニキスに相似した物語だから口をついて出たのか、でもその作品内にのみ影響するミスリード(構成上のそれとは別個の)は、結構致命的に物語を破綻させているのですよね。
 少なくとも言えるのは、奏がオニキスの物語を悍ましいと感じ、それを伝えることを躊躇ったこと、そして間違ってもその内容に心惹かれないように別個の物語の名を口にしたことであり、それは間違いなく善意の発露であって。

 これに限らず、この物語には明確な悪人はいなくて、誰もが自分の中にある優先順位に従って、その範疇での最善を希求した結果、それが影響しあってどうしようもなく不幸の下り坂に転げ落ちていった、というのがぴったりの物語ですね。
 例えば闇子はあからさまに酷い事はしているけれど、それでも良心の全てを捨てていないし、あくまでも夜子に対しての幸せを願う心は純粋で、けどその半端さがより不憫な現実を引き寄せていたり。
 
 或いは汀にしても、夜子のどうしようもない性質を改善させるために努力して、その延長線に主人公を紹介する、という行動があって。
 でも結果的にというか、その時点の夜子の様々な耐性のなさを踏まえるに、同年代の男子、という存在は劇薬に過ぎたという見方は出来るし、この悲しい物語が派生していく最大の契機は二人の出会いにあると言えるから、その不作為の罪は結構重いよなぁとは思えてしまって。

 そういうのは細かく見ていけば、主人公にも妃にも理央にも、かなたにもあって。
 正に、地獄への道は善意で敷き詰められている、を地で行くような切なく息苦しい構造になっていて、とりわけその中で、恋心という表側だけ見れば煌びやかで甘酸っぱくて愛しい感情の、反転した裏側、憎んで、妬んで、傷ついて、苦しんで、なのに狂おしいまでに侵食して逃げられない想いを色濃く映し出しています。

 そういう土台を踏まえた上で、個々の在り方と摺り合わせてみると。
 まず一番に読み解くべきは当然夜子であり、彼女だけは本質的にずっとずっと守られる側であり、それでいて無意識的に物語を動かして、現実を意のままにせんとした加害者でもあり、このあたりはミステリーの原則に忠義を果たしたと言える部分かなと。
 ただそうなるに至る理由の部分には、絶対的などうしようもなさ、憐憫の余地があまりにもあり過ぎていて。

 人は環境に左右される生き物だから、産まれた時から周囲に疎まれ、まともな感性を、情緒を涵養する機会を与えられないまま、自身の感情読み解く術を、制御する術を知らないままに育って、今になっても闇子の過保護、クリソべリルの過保護の中でぬくぬくと、唯一人現実に直面せずにいるのも、それが当たり前だったのだから仕方ない、とは言えるのですね。
 過保護、というのは、畢竟相手のことを信じていない、そこまでしなければいけない弱さからの成長を見込んでいないという酷薄さの裏返しでもあって、けれど夜子に関して言えばそれは完全に的外れでもなく、放っておけば簡単に壊れてしまう脆さを常に抱えていて。

 本来はまともに両親親族からの愛情を受けて健やかな愛着を育み、学校に通って同年代と触れ合い、真っ当な関係性の紡ぎ方を、多様性との比較で自身の感情との向き合い方を涵養し、その過程を経たうえで、より人間の根源欲求に近い、なればこそそれが為し得なかったときに大きな傷をもたらす恋愛感情に至らなくてはなりません。
 けれど、夜子にはその過程の一つとして与えられませんでした。
 なのに汀は、良かれと思って一番に自分の認めた相手として、主人公を紹介してしまった。愛情の種類を選別できないまま、恋を恋と自覚できないままの、けれどそこに内包する苦しみだけは発生する、傍から見れば微笑ましいだけの、けれど夜子の内面的にはその苦悩の内実を切り分けていく武器を持たないが故の悲しい関係を紡いでしまったのですね。

 そして不幸にも、主人公にはその在り方を感覚的に理解し、鷹揚に受け止められるだけの土壌があったのです。
 それは他ならぬ、妹の妃の存在。
 両親に疎まれ、健全な愛着を育めず、また本質的な頭脳の明晰さが、同世代の友人と切磋琢磨する機会をも奪っていたとは容易に推測できるところで、やはり彼女も夜子ほど陰惨ではなくとも、真っ当な人としての感性を育む術を剥ぎ取られたままに、ただひとつ、主人公という拠り所を胸に、歯を食いしばって強く、気高くあろうとし続けていて。

 愛着の不安定は、二分法的な解釈を引き起こしやすいと定義されていますが、妃という存在もそれに近い部分は色濃く持っていて。
 自分の信念の為なら、何より大切なものの為なら命すら投げ出す胆力と空虚を備えていた、かなり危うい女の子なのですが、なまじ夜子というもっと危うい子を見て、かつそれを第一に考えていた故に、闇子とクリソべリルはその危うさの淵源を見誤った、そこがあの自決の悲劇の一番の滑稽で痛恨で悲惨な部分だなあと私は思いました。

 ともあれ、そういう妃の、妹なのに兄にあらゆる愛情の種類を求めてしまう関係――それは私が実妹シナリオで求める、感情面での説得性の下敷きとしては充分なものでもあります――を築かざるを得なかった過程を丹念に知り、寄り添ってきた事で、主人公自身にそういう欠けた在り方に対する理解と、それを支えてあげたいという善良な意思が備わっていたのですね。
 ローズクォーツの物語で、理央という女の子の、これまた極限的に限定された中での究極に研ぎ澄まされた思慕の在り方を知って揺らされてしまうのも同様のメカニズムであり、なればこそ、一見してその欠落が感じ取れるほどの夜子に対し、慈愛の精神が発露するのはある意味必然だったと言えるわけです。

 けれど何よりも残酷なことに。
 それは包み込む慈愛ではあっても、寄り添う愛情ではなく。
 その感性に理解はあっても、共感はなかったのです。

 何故なら、主人公自身はごく健全な愛着を育んでいたから。
 両親から疎まれることもなく普通に育ち、普通に学校に通って同年代と過ごして情緒を育み、本質的には安定した愛着がもたらす健全な前向きさ、明るさを抱いていて。
 作中ではそうでもない、と見える部分もあるけれど、それは畢竟、サファイアが展開して後の、様々な魔法の本の干渉によって歪められ、より夜子に寄り添えるように変容させられた結果であり、少なくとも夜子と知り合った時点ではそうだった、という見立てです。

 だからこそ、夜子とはどうしたって対等でなく、相手の甘えを包み込むような関係性に終始するしか術はなく、潜在的に夜子がそれに不満を抱え続けていたからこその嫌い、という表現でもあって。その嫌い、が、どれだけ微笑ましい好きの裏返しに見えても、二人の内実においてだけは、その変換を良しとしなかったのだろうなと。
 逆に、夜子の抱える感情に、生きている人間の中ではもっとも近く寄り添えた――クリソべリルもそうだろうけど、立ち位置がああなので本質的な支えにはなれないし――妃には、おそらくその二人の間の機微も理解できていた筈で。
 
 主人公が健全な感性を育んでいるからこそ、決して越えられない一線がある、その、理解と不理解の差はあれ暗黙の共感があればこそ、二人は親友となれたのかなと思うし、そして妃自身は後々自分が二番目、と述懐しているように、その理解度の分だけ夜子のほうがより遠い、彼女に負けることはない、という醜くも安堵をもたらす解釈を得ていたのではないかって思います。

 だから、主人公が鷹山時代のかなたに惹かれるのはある意味普通すぎる事だったんですよね。
 同じように健やかな感性を育み、清潔で煌めく前向きさと明るさを持って、何より素直に愛情を示してくれる、包み込むのではなく寄り添っていける相手。そりゃあね、しかもあんなとびきりに可愛い子に、「瑠璃さん、瑠璃さんっ♪」って始終慕われ続ければ墜ちますって(笑)。
 後々に、主人公が岬とすこぶる普通の友情を育むのも、主人公の本質的な普通さを顕示するとともに、岬が最後まで傍観者でいられた理由づけにもなっていて、その意味ではかなたは普通以上に健やか過ぎたともいえますし、まあ恋が煌めいちっゃたんだから仕方ないんですけど。。。
 
 蛍絡みでその彼方の人格を知って、すぐに妃は諸手を上げて降参を示していますし、そのあたりはもう少し物わかりが悪くてもいいのに、頭脳明晰でわかり過ぎるってのも不幸だな〜と思いますが、逆にわかってなさすぎた夜子にとってもそれは不幸の呼び水になってしまって。

 そうやって物語の原点まで手繰っていっても、やはり誰にも明確な悪意などはなく、それぞれが大切な相手を思いやりつつも、けれど育んだ感性の差異からどうしても共感できない部分で致命的に間違えてしまって、という積み重ねの構造を、夜子の無意識の願望を満たす魔法の本という存在が具現化している構造は、何度でも書くけど本当に見事だったと思います。
 その上でクリソべリルという存在の過去と、魔法の本質に対する解釈もそれなりに説得性を持ってもたらされているし、ただあの教会が舞台って、どう見ても日本のくせにアレクサンドリアとかなんでやねん、とは思ったけど(笑)。

 すごく砕いてまとめてしまえば、これは夜子が初恋に破れる物語です。
 けれど、そもそも恋という感情を認めるところから夜子にとっては至難のハードルであり、そこから無意識に逃げ続け、周りもそれを許してしまったが故の悲劇模様であって、ぶっちゃけ一番の被害者はかなたに他ならないわけですが。
 けれど、それまでの人生で培った愛着の度合いが、加害者なのにすこぶる折れやすく弱い夜子と、被害者なのにどこまでも前向きにひたむきに立ち向かい、自分の気持ちを疑わず正直でいられるかなたという対比を生み出し、魔法の本の力でどうしようもなく夜子の側に親和性を惹きつけられてしまった主人公の本心を汲み取って、かなたともに夜子をその自身の暗闇から引き出す流れを必然に昇華しているんですね。

 まあ正直かなたは物語的な誇張というか、高潔「過ぎる」、健やか「過ぎる」きらいはどうしてもあって、ドロドロした人間味に溢れる妃や夜子に対してリアリティを打ち出せたか、という観点でいくと若干微妙に見えてしまうのですが、それも構造質の前提を踏まえて考えれば物語的な納得、真善美は作り得ていると思いますし、私は何よりかなた大好きなので結構全肯定派ですね〜。
 
 逆に傷の舐め合いを強要するクリソべリルうぜー、とはなっちゃうけれど、そこもきちんとフォローできていたし、また最終的に夜子の心の闇を払うのが、唯一共感を抱ける妃であったという部分にも、どこまでも構造のルールに忠実な感はあって好ましいです。
 「恋に破れて、死んでしまえ」は凄まじい名言、妃でなければ絶対に言えない言葉ですよね。ひこうき雲の向こう側の、里沙の「傷つく覚悟をしてください。それが、恋です」を彷彿とさせる、まあ同一線上にある言葉ですけれど、世界観含めてあれよりも更に矯激であり、恋が孕むおどろおどろしさをこれでもか、と見せつけてくれるシナリオの、そのエッセンスを全て煮詰めたようなセンテンスだったかと。
 


 以上、総合してかなり尖った物語であり、個々のメンタリティの部分までパラメータ化して骨格に組み込んだつくり、故にヒロインも個性溢れるものの、基本的にはシナリオに引っ張られて、魅力も欠点も詳らかに開示させられる部分に、色々と毀誉褒貶が出そうな感じはします。
 それでも私としてはこの構造質は素晴らしいと絶賛したいし、むしろこういうほうがヒロインに対する愛着は強くなるなあと。別にHシーンとか、絵や構図、演出も、テキスト自体も大したもんじゃないのに、ただその子と寄り添っている、というだけで高ぶるものはありましたし(笑)。

 ミステリー構造故の唐突な場転や、波のある展開は、トータルで見てきっちり収束しているとはいえ純粋に読みやすいか、と言われればそうでもなく、演出力が足りない分テキストの煌めきを引き出せていない箇所も多くて、またどうしても個々のヒロインに対する読み手の愛着次第で、一番報われる子以外に、特に相当に報われない二人に最初に思い入れちゃうときついなあ、ってのもあって、評価としてはここがギリギリかな、という感じ。
 粗は間違いなくあるし、癖も非常に強い、穏やかな恋愛模様を求めるならおとといきやがれ、ってな矯激な作品ではありますが、とても面白く、テーマ性も浮ついてなくて、多分二回目プレイすればまた色々違う感想が浮かんでくるだろうなあと確信できる深みを持った良質な作品だったとは断言できますね。


キャラ(20/20)

 とにかく個々人に強い個性、信念、譲れない想いはあって。その認識度合いの差が、認識を許される生育の差が、物語の根幹を占めているから、どうしたってその裏側にある決して綺麗じゃない感情まで抉り出されてしまって、少なくとも夢のあるヒロイン質ではないなって(笑)。
 けれどそうやって、苦難に負けない強さ、譲らない強さ、自分と向き合う強さをそこかしこで魅せられて、そこに至るまでの弱さも苦悩も怯懦も見せつけられて、きちんとトータルでプラスに持ってきているあたりは大したものだと思います。普通ここまでやると、何人か積極的に好きになれないヒロインがいる、ってなりかねないところ、きちんと全員踏み止まってるのがすごい。それも或いは、ご都合主義な個別を許さなかった故、かもしれませんね。

 一番好きなのは文句なしにかなたです。
 嘘くさい程の健全さ、前向きさ、強さを武器に、唯一現実を生きる身として、どこまでも自分の大切なものを一番に、それでもその他を決して蔑ろにせず、諦めずに向かい合う信念を見せてくれる、作中の展開的にも思い入れが非常に深まる素敵なヒロインだったと思いますね〜。
 強いて言えば育ち過ぎ(笑)、というか比較対象を私の目の前にぶら下げるのが悪いよね。。。どう考えても鷹山時代のかなたがど真ん中ストライク過ぎて、あの教会のシーンとか、夜子待て、押し倒してしちゃい終わるまでこっちくんな〜、とか言いたくなる(笑)。
 まあ確かに、騒々しすぎるとか、目的のために手段を選ばない過激さとか、可愛げ戸は一線を画した部分も目立つ子ですけれど、それを許せると思える程に一途な愛情、どれだけ枉げられても、撓められても折れ切らなかった芯の部分の真っ直ぐさ、強さには感銘しきりですよ。作風的にすこぶる暗い物語でもあるので、その意味でも作品の癒し、光だったとはっきり言えますね。

 次いで・・・妃のほうかなあ。夜子とほぼ同点くらいだけど。
 彼女の場合は妹としての立ち位置を含めて、どうしようもなく思いを向ける方向を限定されて、なまじ頭がいいだけにその歪みを理解しつつも敢えて突き進む強さと、その裏側でただ普通にありたいとさめざめ泣く弱さ、可愛さのバランスが秀逸でしたね。
 運命の曲がり角においての彼女の選択は如何にも過激で、けれど一面で自業自得の部分も確かにあって、そういう突出した感性の危うさ、というものをまざまざと教えてくれるし、でもそうだからこそ、ラストのあのシーンでの、誰もがその心の本音を掬いきれずに恐々と持て余していた夜子に対し、あれだけの激烈で傲然としていて、けれど思いやりに溢れた言葉を吐かせたのだと思えば、すこぶる作品のテーマ性を体現したヒロインだなあと。
 正直あのシーンがなければもう少し思い入れ薄かったですが、あの破壊力は凄まじかったというところで二番手評価です。

 夜子も当然好きですよ。わかりやすいくらいのツンデレではあるのですけど、ただ本人の意識の中ではそれを選択しているのではなく、他にどうする術も知らないからそうしているだけ、何より自分の気持ちを言葉に出来なくて苦しんでいるのは夜子自身なのに、一番思いやってくれる相手と、一番思いやって欲しい相手に、それを汲み取れる感性が備わっていなかったというのが最大の不幸だなあと。
 勿論何もかも足りないのは夜子の方で、だからこそのないものねだりではあるのだけど、ままならない現実に少しずつでも直面させられて、けれど絶望に染まり切らない、優しさの欠片を捨てられないところには、少なからずそれまでの周りの献身の意味と意義がちりばめられていて。
 ありのままの恋は、どうしたって届かない恋にならざるを得ない悲劇を、けれどきちんと最後は前向きに捉えて笑ってくれる、ただそれだけでこの子に関しては許せてしまう、そう思わせる悲惨なバックボーンではあったし、強くはないけど本当に純粋で綺麗な子だなあと思うのです。

 理央も可愛いけど、どうしたって他三人が強烈なのと、その立ち位置から色々と制約を受けている分だけ、煌めきも一瞬で留まっているなあと。それでもあの樹の下で一人泣き染めるシーンはかなりグッときたし、トゥルーではそれを糧に新たな地平に踏み込める土台も築かれていたので、一応の救いはあるのかなと。

 そしてクリちゃんうぜー、可愛いけどうぜー(笑)。
 終盤はともかく、序盤のあの超越したニヤニヤ感とねっとりした喋りは、CVも相俟って物凄くレイラインの学園長かと思ったわ。この子だけは、報われてほしいと端然と認めるにはあれこれやらかしすぎてる感は否めないし、それは仕方ないですかね。


CG(17/20)

 比較的キャッチーで愛らしい絵柄であり、その点も購入動機の一つではありましたが、作風にジャストマッチかと言えば・・・どうだろう?勿論悪くはないし、ガラス細工のような繊細さはしっかり引き出せていたけれど、強さの示しの部分では今一歩だったかなぁ。まあ可愛いですけど。

 立ち絵に関しては水準よりは少なめ。まあ動きの大きな話でもないですしね。
 ポーズはヒロインで2種類、サブで1種類、腕差分もないのでそこまで躍動感はなく、ただその分きっちり個性は投影してきたなあと。
 お気に入りはかなた正面、やや左、夜子正面、やや左、妃正面、理央やや右あたりですね。

 服飾はヒロインで2種類、サブは1種類とかなり少ないです。
 まあ学園生活の中で云々、って話じゃないし、日常系の話でもないから必要最低限で、ってのはわかりますけどね、折角可愛いのだし、もう少し華は欲しかったと思うのは贅沢でしょうかしら?
 お気に入りはかなた制服、私服、夜子制服、私服、妃私服、理央制服、私服くらいかな。

 表情差分もそれなり、遊びの要素は作風からしても当然のようにほぼなく、かなたと理央以外はあんまり明るい顔ばかり、とはなってないのもあり、シナリオに引き込まれた分も含めて印象は薄いですね〜。
 お気に入りはかなた笑顔、困り笑顔、照れ笑顔、膨れ、悄然、半泣き、夜子笑顔、むっ、冷然、照れ焦り、困惑、半泣き、妃笑顔、微笑、不満げ、嫣然、照れ、真面目、理央笑顔、困り笑顔、しょんぼりあたりですね。


 1枚絵は全部で80枚、SDなどはなく、ギリギリフルプライスの水準下限って感じですかね。
 質もそこまで抜群に安定しているわけではないですが、ただいくつかものすごくツボに入るのがあって、その他もおおむね可愛いですし、その尖った部分に敬意を表しての採点になってます。

 特にお気に入りは5枚。
 1枚目は本を読む夜子、あの超然とした、絵画のような佇まいは、物語のスタートの予感として実に美しく、そこから崩れて生まれる人間味も愛らしく描けているなあと。
 2枚目はかなた添い寝、この愛らしさは反則級じゃね?とは思うんですけど。確かに普通堕ちるよ(笑)。
 3枚目は理央の頭を撫でて、理央の頑張りを暖かく包み込んで、でも突き放して、それがわかるからこその至純の涙が本当に美しいですね。
 4枚目は瑠璃さん瑠璃さん、このピョンピョンしてるかなた鬼のように可愛い。超お持ち帰りしたい。。。
 5枚目は押し倒されたかなた、主人公の変容に動じつつも、最後まで自分の信念を貫きとおす笑顔の輝きがすごく如実に示されていて、素敵な1枚だなと。

 その他お気に入りはページ順に、妃うたたね、かなたしがみつき、夜子踏みつけ起こし、夕焼け笑顔、妃デート、夜子着替え、迎え、かなたと蛍、理央吸血、正常位、バック、かなた庇い、顕現、妃ソファでごろ寝、かなたと差し向かい、登校、妃アイス、立位、正常位、蛍と再会、ピアノと炎、夜子夢幻の正常位、木陰で、腕組み登校、夜の窓辺で、夕陽を浴びて、かなた告白、そしての告白、ドア越しの夜子、妃の折伏、夜子の決意と涙、妾の存在、お出迎え、抱きかかえ、よく似た2人、対面座位、かなた愛撫、バック、騎乗位、正常位、夜子愛撫、背面屈曲位、騎乗位あたりですね。


BGM(16/20)

 出来そのものはかなりいいんですけど、まさかのボーカル曲なし、BGMも量的にはイマイチなので、トータルでどうしてもこれ以上の評価には出来ないなあと。

 特にお気に入りは2曲。
 『静かな決意』は深々と積もる覚悟と決意の真っ直ぐさ、純真さが流れるようなピアノの旋律で透明に、綺麗に示されていて、ふわふわしつつもしっかり根も張っている、そんな感覚が素敵ですね。
 『nostalgia』はどこまでも切なく、悲しみの源泉を抉るような残酷さをも孕みつつ、それを噛み締めて前を向く力にしようという意思を感じさせる曲で、大概回想シーンで使われていますが、実に馴染んでいたなと思います。

 その他お気に入りは『territory of the owl』『廃教会』『閉ざされた世界』『hide in thr darkness』『loss of ego』『噛み合わない歯車』『shattered heart』『紙の上の魔法使い』あたりですね。


システム(7/10)

 演出は正直しょぼいです。
 基本的に立ち絵は動かないし、テキストと連動しての間合いの取り方とか画面の見せ方とかそのあたりは結構壊滅的に上手くなくて、折角の素晴らしいシナリオとテキストを下支えできてないなあと感じます。要所では1枚絵がかなり頑張ってますけど、やっぱりそれだけじゃねぇ。
 ミステリー要素故の怖さとか、あと唐突な間合いの違和感を中和する仕掛けとか、そういうギミックがもっと持ち込めれば総合的にあと一段は面白い作品に仕上がっていただろうにとそこは切実に勿体無いです。
 ムービーもありません。いや、このつくりは思い切ってるなあとは思いますが、やはりプレイヤーがフルプライスに求める暗黙の最低限にはなっちゃう部分だから、ないとやっぱりねぇ。

 システムもあまり快適ではないですね〜。
 設定も必要最低限ですし、スクリプトのエラーだか何だかですぐ動作が変になるし、鑑賞のバグや使いやすさの部分でもかなり食い足りなくて、何より誤字脱字が多過ぎて折角の物語なのに台無しになってる部分もありつつ。
 この辺は今からでもパッチが欲しいし、2周目やる意欲を少なからず減衰させる要素ではありますね〜。


総合(87/100)

 総プレイ時間22時間くらい。全部で13章仕立てに派生の個別章があって、概ね1章で1〜1.5時間くらいと思ってればいいのかなと。予約特典のは30分くらいです。

 まあなんというか、清々しい程にシナリオ特化ですね。
 それに見合うだけの深みのある面白いシナリオでしたし、もっと奥深いところまであれこれ思索を広げたい意欲をすこぶる刺激してくれるので、私にとっては本当に嬉しいタイプの作品でした。ヒロインに対する思い入れも深い上、一番好きな子が一番おいしい(不憫でもあるけれど)立ち位置でもあったのが僥倖です。

 反面、エロゲとしての総合力には著しく欠けている部分が目立ち、そこは明らかに今後の課題でしょう。今年だとこれとか、あとひこうき雲とか、折角素晴らしいシナリオなのにシステムが引き立てるどころか邪魔してる、ってのはつくづく勿体無い。
 最近だとなんだろ、春風センセーションくらいの演出力でこれらのシナリオが彩られていたら、果たしてどのくらい破壊力のある作品になっていたかと、どうしても比べて想像しちゃいますしね。まあその辺は今後の課題ということで、けれどやはりどれだけ不備があろうと、その欠点には目を瞑っても、って思える価値はある素晴らしいシナリオだったと思います。
posted by クローバー at 05:23| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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