2015年02月12日

夏の色のノスタルジア

 久しぶりにシリアス風味の呉さんだったので、これは買うしかないって感じで。


シナリオ(23/30)

 あの夏の楽園、或いは心の迷宮、そして、救いの箱庭――。


 主人公とその双子の妹の美羽は、三年ほど前に両親が心中事件を起こして亡くなった関係で、叔母の家に身を寄せていましたが、そちらの家庭の事情もあり、全寮制の通称ひまわり学園に編入学するため、生まれ故郷の町に戻ってきました。
 その心中事件の時に、高いところから飛び降りて頭を打ったことで、主人公には他人の感情が色で見える、という不思議な能力が備わっていて、妹とただ二人きり(飼い猫のチロも一緒ですが)、居場所のない世界で上手く世渡りするために、その力を有効に使ってきたつもりですが、何故かそれは美羽に好まれていません。

 街に戻ってきて、偶然のニアミスや痛ましい事件、不審な出来事などに遭遇しつつ、まずはと編入の為に山の上にある学園を目指し、学園の敷地の区切りを示す門をくぐった途端、世界は不可思議な変貌を遂げます。
 先程まで五月だったはずなのに、突如蝉が鳴くほどの気候になり、そして開けた場所に出ると、そこには一面の、満開のひまわりが二人を出迎えて。
 すると、それまで大人しく籠に入っていたチロが暴れだし、突如走り逃げてしまって。
 二人してチロを捜索していると、そこで図らずも再会が待ち構えていました。

 かつて、それぞれに重い事情があって家の中に居場所のない主人公たちは、誰も寄り付かない廃工場に集って、グループを作っていました。
 主人公と美羽に、みさき、文音、祥子という、男一人女四人で構成された五人組、けれどまだ性の意識が未分化であったこともあり、互いの欠落を埋め合わせるために、彼らは寄り添って生きていました。
 けれどそれは、やがて成長によって意識の変化が訪れることで綻びを生じ、そして祥子が起こした謎の殴打事件と、主人公の親の心中事件がとどめを刺す形で、グループは崩壊し、今に至っていたのです。

 そして現在。
 ひまわり畑でみさきとの再会を果たし、そして学園で文音と祥子も出迎えてくれて、図らずもかつてのグループが復活したような甘い感懐に浸った主人公ですが、すぐにこの学園の特殊性に眉を顰めることになります。

 何故か主人公以外の男子禁制の校則。
 全くもって覇気や自我を感じられないクラスメイト達。
 そして、ぼんやりと薄れていく以前の日々の記憶。

 逃げ出したまま探し出せていないチロの存在を数日認識していなかったことで、ようやくはっきりと異状に気付いた主人公は、グループの三人にその是非を問い質します。
 その答えは、ここは時の止まった世界で、祥子と文音ととっての楽園、みさきにとっての迷宮と呼べる特異な場所に変貌している、という事実で、美羽は自身の思惑からそれにすぐ迎合するものの、主人公はそういう生き方が正しいとは思えず、美咲と同じように何とかこの場所から脱出する算段を立てようとします。

 そういう意見の対立こそあれ、元々仲のいいグループだった故、当然ここでも交流を、旧交を温めるのにやぶさかではなくて。
 けれど、最初は互いの変化に対し及び腰だったゆえに、更には祥子が意識的にそれを維持しようと腐心したために調和は保たれていたものの、以前にも噴出した性の問題、とりわけヒロイン達がみんな、それぞれの在り方で、ではあるにせよ主人公を弾性として意識していることに端を発した綻びは、主人公がこの後一番に寄り添っていきたい誰かを選ぶことで完全に瓦解します。

 祥子曰く。
 楽園は人を縛る場所ではない、出ていきたいと心から望めば道は開かれる――。

 かつての関係から一歩踏み出し、より互いの内面の奥深くにまで浸透していく関係を築く中で、主人公とヒロインは、それぞれが抱えている過去と、そこから作り出した物語と対峙し、そして二人で築く未来という新たな物語の力を、勇気を糧に、その桎梏から解き放たれるべく奮闘していくのです。

 これは、優しい物語を破却し、辛く痛い現実に真っ直ぐ立ち向かって、その傷を乗り越えることで新たな未来を紡ぐ種を蒔く、ほんの少しの慈悲と奇跡がもたらす快復と成長の物語です。


 あらすじはこんな感じでしょうか。
 大枠としてはほぼ上に書いた通り、年頃になって性意識が発達し、誰にも等しく支えの手を、という、かつてのグループを維持していた根幹の精神が崩れた事で、主人公はその内の一人を選び、恋情を育みながら、そのヒロインが抱える傷を、物語を丹念に読み取り、その過去にまつわる謎と軛を解きほぐしていく流れですね。

 テキストはまあいつも通りにこなれた感じというか、この人の語彙の豊富さと、独特の語彙の選択が私はかなり好きなんですよね。
 ぶっちゃけ年若い女の子が口にするのにそぐう単語か、ってのも中にはあるけれども、でも今回はシナリオがシリアスよりな分、その特性と世界観の違和が薄いし、こういう方向性のほうが筆も乗っている感じはします。
 すごく狭い世界観設定なのもあり、登場キャラも限定されてしまうので、単純に読み口としては、興味深くはあれ、純粋に笑える、面白いという感じはほぼないですが、その辺も織り込み済ではあるので、私としては満足度は高いです。ただHシーンのやたら画一的な表現はどうにかならんかったか、とは思うけど。。。

 ルート構成は、基本的に好感度が最初から全員ほぼマックスなのもあり、単純に要所でのヒロイン選択で攻略したい相手を追いかけていけば問題ないです。
 ただ祥子だけはロックがかかっていて、他三人クリア後にプレイできるようになります。その分きちんと、他三人のフォローも含め、グランド的なつくりになっているので、その辺は立ち位置の紡ぎ方含めてバランス取れているし、まあ基本ロリコンの私にとってみれば、一、二を争う好きな子がメイン張ってくれるのは大歓迎でしたしね(笑)。

 シナリオとしては、基本的には主人公がヒロインの問題や葛藤、引いては心の傷を救っていく形式になっています。
 個人の主観で紡がれる過去の真実と、俯瞰的に見た場合の過去の事実には、時としてズレが生じる、誰しもが辛い現実からは目を逸らして見たいものしか見たいようになってしまう、という真理を、この作品では端的に物語、という単語に定義しています。
 そしてそれぞれが囚われた過去の物語を換骨奪胎し、本当の姿を照らし出すとともに、二人で生きる未来、という、やはり曖昧ではあるけれど希望を内包した物語と並列的に提示することで、辛い過去の現実と向き合い、心傷を清算していく過程を、すごく丁寧に紡いでいます。

 エデンという舞台においては、平均的なエロゲには沢山いる、適度に間を繋いだり、笑いを取ったり、時に重要な示唆を与えてくれたりするモプキャラは一切おらず、また主人公の決定的な選択をもってグループが瓦解した後は、他のヒロインとの関わりも最小限(祥子シナリオ以外)になってしまうので、展開面にダイナミズムは薄く、もどかしさが募る部分も多いです。
 けれどそれ以上に、それぞれのヒロインが抱えている特異な心情や悲惨な境遇などが、少しずつ開示されていく過程のつくりが絶妙に上手く、じわじわと真綿で首を絞められるような不気味さと、でも火中の栗に手を伸ばしてそれを早く知りたい、という葛藤が、主人公と読者の共感という形で綺麗に作用していて面白く読めるなあと。

 むしろ合間に結構な頻度で挿入されるHシーンが微妙に邪魔っけというか(笑)、作品紹介ではシリアスながらシーンも頑張りました、みたいに触れられてたけれど、たしかに回数そのものは多い、でもシーンの構成とか、ヒロインの感じ方とかやたらと画一的なのが閉口するところで。
 もう少しそれぞれに特有の個性を生かしたシーンにしてほしい、ってのはあるし、限定された世界観故の背徳感とか新鮮味を打ち出せない制約はあるにしても、せめてシナリオと連動しての心情の変遷、細やかな機微が、そのシーンの在り方に影響を与えている、という雰囲気くらいは醸してほしかったし、総じてバラエティが足りないと思いましたね。
 というか、テキストでも触れたけど、シナリオの根幹部分とそうでない部分、今回はなかんずくHシーンとの温度差が露骨すぎる気はするので、そうなるくらいなら少しシーン削ってでも、よりその特有の心情に迫るヒントを提示できるような普通のイベント組み込んでくれても良かったのに、とは感じます。

 ただ、それを差し引いても充分に面白いし、一見無関係そうな個々のヒロインの事象が、実はそれなりに連環的に全員に影響を及ぼしていたりと、作品の構造としては非常に良く出来ていて。
 そういった総合的な部分、更にはエデンの在り様なども含めて、きちんと謎は全てラストで回収しきっているし、その上で誰にも希望が与えられる終わり方となっているので、読後感はいいと思います。というか、他シナリオだとそれ以外のヒロインって・・・になっちゃうしねぇ。。。

 個別評価としては、祥子>>みさき>文音>>美羽くらいですかね。
 祥子シナリオくらいはもう少し、謎の開示の部分に劇的な雰囲気を持ち込んでも、とは思ったけれど、総じて穏やかな波の中で、丁寧に心象を救い上げて、温かい癒しの光に照らす、というイメージに忠実であり、基本的には面白かったと思います。
 ただ、祥子も結構危険思想の持ち主というか、そういう心性に至った経緯に納得して尚、感情的に受け入れられるかってなると汎用性は低いとは思うし、いわんおや美羽に関しては、って話で。。。
 そういう印象度含めて考えるとみさきシナリオが一番受け入れやすいですかね(これはこれで、別の意味で許容できない人もいるだろうけど)。そもそもからして、エデンを歓迎する、という精神性が、どうしたって普通の感性だと共鳴しにくいですし、ヒロインの精神構造が特異になればなるほど余計に、ってのはどうしても出ちゃうかと。特に美羽目当てだと結構きつい気はします。

 以下はネタバレで個別の断片的な感想と全体構造の考察などなど。

 みさきの性的虐待と、その犯人像への不信、文音の家庭内の不協和とそこから派生した事故による妹への負い目、更には自身に降り掛かった交通事故、美羽の同一視からの致命的な乖離、そして祥子の、物語に囚われたままの母親の衰死と、その物語の守り手としての危機。
 こうやって並列して書き出してみると、それぞれに本当の現実を直視できずに物語に逃げ込もうとする気持ちも、わかる部分もあり、わかりにくい部分もあり、ですよね。

 ただやっぱり、美羽の在り方は色んな箇所で致命の毒を振り撒いているなあと思わざるを得なくて。
 小さなところでは主人公のラブレター事件、そして父親に対する転落の背を押す一言に、真由紀に対する冷酷と隠蔽など、その同一視、という観念を守るために、半ば未必の故意、というレベルでのやらかしは枚挙に暇がなくて。
 それを経ても一切良心の呵責を覚えないというか、むしろ他人なんてどうでもいい、というのが加速しちゃう精神構造はやはり怖いですよ。まして、主人公がそれを知ったら傷つく、割り切れない思いを抱えてしまうということは理解してて、そこには決定的な同一性との矛盾が生じているのに、だからこそそれを糊塗してしまうところもねぇ。

 祥子シナリオで、私には諒人は救えない、って台詞がありましたけど、あれって別に、今は主人公が祥子に心を寄せているからその分にない、って意味じゃなくて、自分にとっての主人公との理想的な関係を維持するためには、主人公の抱える物語の破却はかえって足枷になる、っていう冷徹な認識があってこそ、ですもの。
 しかも祥子にだけはそれが可能かもしれないと本能的にか察していて、それで止めに走るのも、好意的に見れば主人公が物語を壊されて傷つくのは忍びない、とも言えるのでしょうけど、種々の証拠から鑑みるにそっちには取り切れない私なのです。

 果たしてなぜ主人公と美羽は、同じ環境で育ってそこまで感性に差異が生まれたのか。
 この点に関してはひとつにはまとめにくいですが、まず主人公の側に特異点はあって、それは主人公だけが父親との温かい思い出を内包していること、そして二人の死に際の在り方が文字通り目に焼き付いて、それを自分の解釈したい物語として取り込んでいる事での乖離という部分がひとつ。

 あとはやはり、双子とはいえ、兄と妹、という呼称に宿る言霊、一般観念の影響はあるのでしょうね。なんだかんだで妹である美羽は、兄に自分の全てを委ねて寄りかかって、主人公もそうしきってしまえば同じ感性の中で世界観は完結したのだろうけど、そうではないからこそ、兄として多少なりとも自立しなくてはいけないという自覚があればこそ、他のヒロインとの関係性も生まれた、という見方が出来るのかなと思います。
 主人公の、幼年期のいわば両性具有的な周りの印象も、総じてみればその二面性の中で自身の在り様を確立できていなかった実態を浮き彫りにしているのかなと思います。

 そして祥子は祥子で、母親の物語を叶えるためとはいえ、死体損壊や隠蔽などに平然と手を染めるあたりには怖さが滲んでいて、でもそれは、ずっと母親の物語の中でしか人の温もりを知り得ない環境の歪さが影響しているのだろうなとは思えるところで。
 あの殴打事件は、色々な意味でグループと、この物語の構造に多大な影響を与えていますが、祥子にとってその物語が切実に必要だったのは確かだし、それをグループの面々に共有してもらいたかったという率直な心情も理解は出来るんですよね。
 ただ結果的にはその鮮烈な事象が、主人公には色で世界を捉えるという概念を、みさきには父親の死というイメージを、美羽には同一化していた自分の死という苦渋を植え付けて、それがより、それぞれの物語に拘泥する桎梏になっているのは確かでしょう。

 そうして醸成された物語が、エデンの住人としての資格を築いて。
 何故主人公が、男でありながらエデンに入れたのか、そもそもエデンとは何なのかという部分の考察は、もう少し多角的な論証の後でまとめて語りたいのでとりあえず置いておいて、ヒロインの認識の上でもその立ち位置に曖昧さを孕む主人公だから、その本質に誰よりも深い傷痕に刻まれた物語があることは中々気付けなくて。
 厳密には、美羽は気付いていたと思うんですけど、彼女は上で触れたように、それを癒す気はないと思うんですよね。何故なら、主人公が過去の清算を果たせないままそこに囚われて、世界の広さに目を向けない方が、極力二人きりの世界に近づけたい美羽の観念と合致するから。

 そして文音とみさきはどうしても、自分の抱えている問題が深刻であり、かつ現実に戻ったらそれで解決、というわけでもない分、そこまでの配慮を求めるのは酷で、いずれ気付くにしても今は、っていう仕方なさはあって。
 故に、エデン確立の根幹であり、現実に戻ることそのものがそのまま過去の清算と合致し、そして地味に主人公の物語の嘘に気付く鍵を握っていて、かつ洞察力も鋭い祥子だけが、主人公の物語とその裏側の傷にはやくから気付き、そこに意識を置いておけた格好になるのでしょう。
 加えて、グループという形にも一番拘っていた分、そして自分が納得してしまえばエデンがなくなってしまうという責任感もあって、それぞれのヒロインの問題にも少なからず介入していく姿勢を取るようになるからこそ、あの切なさはどうしても残るものの、誰もがそれなりに前を向ける結末に至れたのかと。

 そういう精神性の変遷と、そしてエデンでの記憶がない状態の祥子だと、多分現実では供述の過程で心象悪くして少年院送り、ってのが透けてみえるし、みさきはきっと兄の暴虐に屈してしまうし、文音は目を覚まさないままだし・・・とか考えると、あれだけやらかしながら、しれっとどうあれ五体満足な美羽ってやっぱり面憎いんですけど(笑)。
 少なくとも美羽シナリオに進むと、絶対主人公は囚われから解放されないまま、それで他ヒロインの境遇は上の通りですものねぇ、報われないことこの上ないというか、あまりに物語の癌的な部分を、現実が孕む残酷さの象徴的な部分を美羽は背負わされ過ぎていて、そういう視座で見れば不憫なんですけどね。。。

 ともあれ、一応こういう構造である以上祥子が本筋、と見做していいのでしょうし、主人公が相手そのものでなく、その色を、表層を、しかも自分の都合のいいように改竄して解釈していたという破綻は、イメージとしてソレヨリみたいなしっぺ返しが報いとして襲ってこないか不安視してたんですけど、そこは祥子の優しさというか公正さというか。
 自身の物語からようやく前に進む勇気と、その先の未来の希望をくれた主人公にだからこそ、一時傷つけてでも、同じだけのものを与えてあげたい、という心性と、故に忌憚なく口にする味気なく切ない真実の対比は、外苑に蔓延る現実の冷酷さ、残忍さと、そこから逃避し、互いを守って生きていくグループという関係、その五人でなければどうしたって紡ぎ得ない特別な温もりの対比という、作品全体のテーマ性の結晶化ともいえる場面だったなと。

「私があなたの傷を癒すから。だからあなたも私の傷を癒して」はこの作品の名言ストック認定として置いておきますが、その対等性を導くためにも、まずは傷を直視することが、そして泣くという行為によってそれを洗い流すイニシエーションが、全てを綺麗に解決するには絶対的に必要だったということですし、その象徴性は私も強く信じられるところなので、より感じ入るものがありました。
 
 しかしあれこれ突き詰めていくと、テーマ的にはハルキスとかなり似通った部分に落ち着いていくというか、パッと見の印象でこの二作品を類比的に見るというのはかなり想像しにくいですけどね。。。
 まああっちは本質的には、健全な立ち位置から引き上げて支えてくれる人ありき、で、こちらはあくまでも互いに傷を傷のまま慰撫するのでなく、癒すために時に傷つけあいながらも進んでいこう、という誓いの側面が強く出ていますけれども。どちらにせよ素敵な、テーマに対する解釈の示し方だと思います。

 ちょっと話が逸れたので軌道を戻して、最後に置いておいたエデンの謎について私なりの考えを。

 作中で出てくるその本質を簡潔にまとめると、時が止まった世界であり、厳密には一日がループしているような格好で、怪我や、或いは死に至っても、そのループによって復元されるというのがまずひとつのポイント。
 けれど、それに反する形として、記憶だけは累積され、変遷していく(ただし、エデンの特性を理解していないままだと、それまでの現実との境界が曖昧になっていく)、そしてそれは心の記憶のみならず、身体の記憶、平たく言えば破瓜みたいな、絶対に忘れたくないと心と身体に刻み込まれたものは累積していくのが、如何にもエロゲ的には都合のいい特色で。。。

 その辺はおそらく、エデンの構成の基盤である人の想いの在り方の作用だとして、ただそれが単なる集団催眠的な要素でない証拠として挙げられるのが、その心の記憶はまだしも、身体の記憶まで現実に遷移することで。
 プラシーボ効果的な意味合いで、二度目の破瓜を感じ取らない、という設定ではないし、実際幾人かにある現実でのHシーンでは普通に連続性を持って受け入れていて、となるとやはりエデンとは本質的に、ファンタジック、奇跡的な要素を孕んだ構造下にあると言わざるを得ないんですよね。

 じゃあその源は何なのか?
 それはまあ、文脈から考えるに、やっぱり早咲きのひまわりがもたらした奇跡、なんだうろなあとしか言えません。祥子の力、というにはその影響力は半端だし、あくまで祥子は、その力を引き出す起点になった、というだけなんじゃないかなと。

 およそエデンの世界観は、集合的無意識のイメージと近似的で、ただそれを人間の意識のみならず、動植物にまで拡大解釈して、その分学園という限定的な範囲で発動させたと見做すべきかと思ってます。
 祥子は幼い頃からひまわりが好きと公言してますし、おそらく家では口に出来ない、グループの面々にも易々とは口外出来ない悩みや葛藤などを、ひまわりに向けて吐き出していたのでは、なんて想像も難くはなく、その上で祥子の物語に対する拘りを象徴したような例の殴打事件もひまわり畑で起こっていて。

 そういう祥子の在り方を、意志を、ひまわりはきちんとその潜在意識の中で見知っていた。
 そしてその物語が、不条理な外的要因で危機に晒され、それを守りたいと祥子が強く願ったことが契機となって、エデンは成立したのではないかと考えます。
 そしてそれは基本的に、学園そのものを内包していて、だからその場にいなかった文音にしても、意識がその理念に同調すれば簡単に入り込めたし、その場にいたみさきも巻き込まれる格好になって。
 おそらくそれは他の生徒も同様で、それが最初期に、自我のあった人は次々に消えていったという部分の理由、すなわち祥子の望む世界観に、厳密には以前のグループで共有していたような価値観を有しない存在を排除する世界に再構築していったのでしょう。

 エデンの成立のタイミングはだから五月五日には違いなく、でも主人公と美羽と、それ以外の三人では体感時間に大きな差異がある、それは、現実においてはほとんど須臾の間であるとはいえ、エデンが成立してから、二人が門を潜るまでのタイムラグの反映なのだと思います。
 なぜならば、元々学園の象徴たるひまわりの影響力は、学内の存在にしか及ばなくて、そこに異邦人としてやってきた二人+一匹を取り込んだ、そして力の根源たるひまわり畑において、それが許容できる存在なのかテストされ、チロが排除されて二人が残った、という段取りが生じているからで。

 美羽が許容された理由は、当然本人の物語を守りたい意志故に、で問題ないのですが、じゃあ主人公は何故か?ってのが最後に触れておきたいところ。
 それについてはひとつの理由にまとめるのでなく、いくつかの理由が複合的に有機的に絡み合ってなのかなと思っています。
 
 当然ひとつめは、主人公自身が無自覚であるとはいえ、守りたい物語を抱えていた事。
 そしてタイムラグの間に派生した祥子の想い、すなわちかつてのグループを取り戻したいという熱情と、一応は男である主人公に対する忌避意識の薄さがあって。
 それを裏付ける、ひまわりの中での主人公たちの存在に対する記憶もあって。
 更には上で触れた、主人公が精神構造に孕む二面性、美羽との関係で培った両性具有的な部分が、植物であるひまわりのありようとの類比で、男であると断じる要素を削いだのかもなあと。

 作中で祥子が語ったように、彼女が望んだから、だけでなく、三者三様に、それぞれにそうありたい理由があった、そして更に穿ってみれば、エデンという場所は、楽園であり迷宮でもあるけれど、主人公という触媒があってはじめて、癒しの箱庭としての要素も組み込めたのではないかと。
 女だけの世界には熱量が、生産性がない、という台詞もありましたし、ひまわりの意識としては、対症療法的に今そこにある祥子の危機を救うことは一先ず出来た、けれど本当の救いをもたらすには、祥子が望む世界観では不備があると、愛とは何か、を未だ知らない祥子だけでは回天は不可能であると、まあそこまで擬人化してみちゃうのは飛躍も過ぎるかもしれませんが、少なくとも結果から類推して、そういう意図が生じた、と思える部分ではありますね。


 以上、色々考察し甲斐はある作品ですし、もう少し時間置いておけばまだ掘り下げられるポイントはあるでしょうけど、一先ずはこんな感じですかね。
 構造の大半が、過去を振り返って改めて咀嚼して、別の視座を持ち込んで前を向く契機にして・・・という狭い範疇で紡がれているし、その分どうしてもキャラ同士の関わりとか、恋愛においても薄味になってしまう部分はあり、根幹部分にしても変化がゆったりした世界故に、不気味さはあれ驚愕はそこまでなく。

 実に上手くまとめられた物語ではあり、期待したものを見せてくれたとは思うんですが、これに関しては名作、と言い切るには引っかかるものは多いんですよねぇ。祥子シナリオがもう少し見せ方の工夫ででもなんでも、突き抜けた何か、を感じさせてくれればそれもやぶさかではなかったんですが、概ね美羽の存在が足枷になってるのもあり、好きだし面白いけどこの点数まで、かな〜・・・と思います。



キャラ(19/20)

 やはりシナリオ構造に力点が傾いていることと、恋愛ものとしては土台からの構築でない分の簡素さと、舞台設定上仕方ないけれども、二人きりの世界に完結してしまっての奥行きのなさがあって。
 加えてシナリオの上でも、成長、というよりは克服、というほうがしっくりくる展開ではあるし、勿論それはそれで魅力を引き出せてはいるけれど、その為に用いなくてはいけなかった負の部分もやっぱり重くて。
 それでも祥子とみさきがかなり好きなので迷ったけれど、やっぱり減点の決定打は美羽が好きになれないところなんだよなぁ(笑)。

 一番、は迷うけど祥子ですかねぇ。
 一番小柄で、ってのもあるのかもだけど、性の分化意識に一番無頓着故にグループの維持に最期まで拘って、基本的に好きなものに対するのめり込みというか、純粋な執着が、母親との物語においても顕著に出ているし、そういう資質が、恋愛して、愛の何たるかを少しずつ知るにつけ、思いやりとして花開いていく過程がすごく可愛いし、魅力的だなあと思いましたね。
 勿論見た目的には断然好きですしねぇ、やっぱり小柄な子はこういう儚さというか、ほっとけない感じを全力で醸してくれると嬉しいですよと。

 みさきも同じくらい好きですし、人としてのアクのなさ、純良さだけを問うならば彼女が一番だと思います。
 本質的に善良で倫理観に忠実で、強い気性を持っていながらも、反面で父親にだけは一切逆らえないという弱さをも内包していて、その相克の中で懸命に自己を律して、あるべき凛然とした、颯爽とした自分であろうと努力する姿は本当に凄いなあって。
 立ち姿にも威勢と風格があって、諸々伊月と似通った部分が多いなあってんでより一層傾斜した部分もあり、でもこの子は頑張って自分を形成しているから凄い、って表現なのですね。
 その上で一途だし甲斐甲斐しいし初心いし、その強さに憧れつつ、弱さを抱きしめてあげたい、マイナス点が少ない素敵なヒロインだったと思いますね。

 文音もそのイメージにそぐう慈愛の精神の持ち主だけど、それが余計に足枷になっての二面性や苦悩、自罰的な面に繋がっているのがめんどいっちゃめんどいですかね。でも思ったよりは好きになれました。
 そしてごめん、色々考えてみても、美羽は好きになれないんだよね・・・。物語を動かすうえではこの上なく便利な気質ではあるのだけど、特異な方向に尖り過ぎてて、しかもそれが思想だけでなく実質に及んでる部分が多過ぎるから弁護しにくいよなあって。見た目は当然可愛いんですけどね〜・・・。


CG(18/20)

 塗りのイメージがすごく世界からくっきりと浮き立っていて、作風とすごくマッチしているし、美しさと愛らしさ、そして儚さを見事に調和させていていい感じだと思います。

 立ち絵に関してはギリギリ水準くらいですかね。
 ポーズは一人2種類ずつ、腕差分も特になく躍動感は薄いですね。個性はちゃんと出せているし、それ程動きが求められる作品でもないので必要充分ではあるでしょうけど。
 お気に入りは祥子正面、やや横、みさき正面、やや横、美羽やや横あたりですね。

 服飾は一人4種類ずつ、閉鎖した世界観としては頑張ったほうなのか、それとも想像でいくらでも構築できる世界ならもっと都合よくあれこれやっちゃえよと思うべきか。。。
 お気に入りは祥子制服、私服、水着、浴衣、みさき私服、水着、浴衣、美羽制服、浴衣あたりです。

 表情差分はあまり多くなく、遊びの要素もほぼなくて、作風に合わせたシリアスさ、あと儚さがメインで構成されているのかなって感じ。
 お気に入りは祥子笑顔、涼しい顔、困惑、照れ笑い、不満、悲しみ、みさき笑顔、真面目、照れ焦り、拗ね、怒り、苦衷、美羽笑顔、不満げ、照れ笑い、文音冷徹、照れ笑いあたりですね。


 1枚絵は通常彩色のが77枚に、モノクロ回想やカットインなどが合わせて32枚の計109枚、作風的にはすごくいいバランスで配置されていると思うし、出来も相当安定していて可愛くも程よくエロティックで良かったのではと。

 特にお気に入りは3枚。
 1枚目はみさき水着で川辺に、これすごくスタイルの良さと健康美に溢れてて、や〜、ホント可愛いなあと思わせてくれる素敵な構図です。
 2枚目は祥子の涙、ベタではあるけれどこういうシーンの感受性に訴える構図の巧みさはいいですよね、髪の流し方とか、絶妙な表情の崩れ方とか。
 3枚目は祥子初H正常位、ちっちゃい子の正常位は、ちょっとこう頑張って腰をせり出している構図が私好きなので。。。

 その他お気に入りはページ順に、みさき再会、鐘楼、水族館、抱きしめ、再会、正常位、フェラ、パイズリ、立ちバック、バック、文音添い寝、祈り、覚醒、家族、正常位、騎乗位、美羽風呂上り、水着、花火、添い寝、手を引いて、自慰、バック、フェラ、立ちバック、正常位、背面座位、祥子影膳、飼育部、ひまわりと、読書、キス、天体観測、ガラス越しの真実、共に泣くから、初H愛撫、立ちバック、水着エプロン、背面屈曲位、騎乗位、パーティ、正義漢、窓辺の読書、ウサギを抱いて、無防備な午睡、連れ去られてあたりですね。


BGM(19/20)

 非常に感傷的で情緒的でゆったりした曲が揃っていて、とりわけピアノの低音の使い方がすごく素敵な曲が多かったですね。

 ボーカル曲は3曲。
 OPの『ノスタルジア』は神曲ですね〜、透明感と神秘性が出だしからぞわっと聴き手を引き込み、ゆったりしたリズムからサビでの感傷、切望を高らかに響かせる構成は実に素晴らしく調和が取れていて、物凄く雰囲気のいい曲で大好きですこれ。
 EDの『明日のはじまり』もかなりいい曲です。朴訥な歌唱がいい意味で等身大の幸せを感じさせつつ、透き通った旋律が未来の光をイメージさせて、まあ逆にルート次第で後々考えればう〜ん、な部分もあるのですけどね。。。
 グランドEDの『夏の色が消えるとき』は、非常にしんみりとした雰囲気からの、全てと向き合っての辛さ、切なさを噛み締めながらの歩み、というイメージで、サビの包み込むような、綺麗な旋律が中々気に入ってはいますが、ボーカルの中では一番下かなあ。

 BGMは全部で28曲とほぼ水準。
 日常曲でも底抜けに明るい、みたいなのはほとんどなく、どこか空虚で切なく、そして神秘的ながらも不気味さも孕む、その辺の調合要素というか、複層性がすごく胸に沁みる曲が多かったなあと。
 
 特にお気に入りは2曲。
 『涙の色』はわかりやすくピアノの物悲しい音の力を最大限に生かしてきた感じで、この透明な悲しみ、切なさが、流れるような副旋律に慰撫されるような感触は素晴らしい完成度だし、美しくて大好きですね。
 『みさきのテーマ』は、みさきの流麗さと、それでいて芯の強いイメージを踏襲しつつ、要所で響く危うさとか、孤独感をすごく印象的に感じさせてくれて好きですね。

 その他お気に入りは、『文音のテーマ』『祥子のテーマ』『shiny morning』『gloomy day』『追想』『追憶の行方』『2人だけの時間』『grandeur』『緊迫との対峙』『Collapse of Eden』あたりですね。


システム(8/10)

 演出は基本的には薄目ですね。
 概ね1枚絵とかモノクロ絵に頼っている部分も多いし、そもそも動きを擁さない作品ってのもあるから、雰囲気を引き立てる以上の特別な演出は感じなかったし、まあそれはなくても問題ない水準だったのでいいのかなと。
 ムービーはどこかあやふやな輪郭を持つ世界のイメージを投影しつつ、まあ基本に忠実に、って感じで、悪くはないけど特筆する感じでもなく。

 システムは必要なものは揃っているかなと。
 ジャンプがないのはやや不便ではあるけれど、章立てのストーリーチャートがあり、選択肢のある段落だけのリプレイとか出来るので、一々延々スキップで流さなくてもいいのはありがたかったです。


総合(87/100)

 総プレイ時間19時間くらい。共通が5時間、個別が3〜3,5時間の間くらいですね。
 どうしても話のダイナミックな展開が少ないし、中弛みしないように細切れに謎の開示をしつつ、合間をHシーンで埋めている、ってのは構成としては悪くないんですが、地味にそのHシーンそのものがやたらと画一的で面白味が薄い、ってのが惜しいところではあったり。
 
 全体構造としても、その見せ方も、もう少し派手さはあってもいいかな?と思う部分こそあれ実に丹念で、それでいて信念が籠っているというか、外縁のありようの救いのなさを容赦なく突き付けてくるあたりらしいな〜、って思うんですけど、当事者的でなく回想的に語られる分、ワンクッションあって胸を刺すほどではなかったし、やはりシリアスのほうがいい作品作ってくれるなあと改めて思いました。
 癖もアクも強いから、絵の可愛さだけで特攻するとあれ?ってなりかねないですけど、それをあまり期待値に織り込まず、あくまてシナリオ本意で楽しもうと思うなら、その期待には充分応えてくれる力作だと思います。

 2016/01/07改定、シナリオ−1点。
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