2015年02月19日

時計仕掛けのレイライン 補記 〜外伝読了に寄せて〜

 この度は、時計仕掛けのレイラインの外伝小説である『運命の巡る森』を読了しましたので、その内容と、そこから考えうる本編との関連や思想性の裏付けについて縷々語ってみようかなと。

 朝霧の感想でも書いたように、本編三部作を追いかけていただけでは、確実にそうだと確定しきれない思想性の部分が、この作品を読むことでいかに事前に綿密に準備されていたか、を証明する一端となれば、と考え、結果的にそれは正しかったようです。
 とはいえ、発売当時に読んでいたら、自分の作品の組み立てにも影響は大きかったろうし、その辺含めて今のタイミングで良かったか、とも思う次第。

 贅沢な話をすればこれ、朝霧の中にデジタルノベル形式とかで組み込んで欲しい内容ですね。
 後で細かく触れるけれど、本編残影以降は、魔術の諸々がもたらす状況の変化とその対応に対する洞察が主になっていて、より根底的な疑問に思索を飛ばす余地が薄かった、とは思うし、もっと単純に、これを読むか否かで、過去の事件に対する読み手の感傷も全然違ってくるとは思うので。
 もしかしたらFD出すかも?的な話もあるみたいですし、そこでも遅くない、別にADVでなくVNのままでいいと思うから、是非ゲーム、という媒体でも展開して欲しい物語です。

 以下は完全に小説の内容、及びゲーム三部作のネタバレ全開の語りになりますので、未プレイの方、小説は読んでなくて私みたく、せっかくだから読んでおきたいと思っている人はスルー推奨です。





 まず小説の内容そのものについて軽く。
 文章としては如何にもゲーム畑の人らしい、情緒的でショートセンテンス傾向が強い書き方だなあと思います。
 なので縦書きで読むと、多少読んでいてリズムが狂う部分もありますが、こういう書き方はハードボイルド的なイメージも想起させますし(どこぞのサノバのカウントダウンみたく、北○謙三かよ!みたいな。。。)、舞砂という主人公の芯の強さとどうしようもない孤高、そして何事もはっきりきっぱりさせたい気質を表現する上では悪くないのではと。読んでればすぐに慣れますしね。

 内容的にはまあ、舞砂さん本当に悲嘆まみれじゃないですか、やだ〜〜〜!ってイメージ。

 身近な親族に降り掛かった不幸と絶望を覆すために、眠っていた自らの資質を掘り起こし、片目が赤い魔女(マギエ)となり、その結果として迫害を受けるようになって。
 それでも薬師である両親や、かつての不幸の被害者で、唯一の生き残りである双樹など、近しい人の理解と守護もあって、かろうじて居場所を失わずに生きてきたけれど、ちょっとした事件を契機にそのバランスも崩れて、大切な人を守るために、村の伝承にある、そこに踏み入れば誰の記憶からも消えてしまうという不思議な森、天秤の森に行かざるを得なくなって。

 そこで出会った輪子という不思議な少女。
 舞砂と同じく片目が赤い彼女の素朴な一言、ここは、あなたがいる場所――に舞砂は救われ、森の奥の不思議なお屋敷で、輪子とシロフクロウの双、口がきけない老婆との心穏やかな生活、しかしその中にも時々不如意な闖入者があり、大抵彼らは、自分の名前を筆頭とした記憶の全てを失っていて。
 どうやら輪子と舞砂だけが、記憶を保ったままここにいて、そして世界から迫害されて逃げてきて人たちの受け皿になっている、けど一方、その在り方を受け容れつつも寂しそうな輪子に、舞砂は心を寄せていって。

 そして知る屋敷の秘密。
 かつての魔女と人との恋、そのただならざる関係の行き着く果てとしての、優しさで隔てられた世界の真実を舞砂は知って、一層輪子の助けになりたいと願うものの、上手く出来なくて。

 ある日、双が大怪我を負ったのを契機に意を決して実家に戻った舞砂は、そこで不思議な真実に遭遇します。
 自分の体感ではまだせいぜい一つの季節を超えたくらいの筈なのに、既に現実では数年単位で時が流れていて、既に両親は他界し、薬師の仕事は双樹が継いでいて。
 そして、誰もが自分のことは忘れていたのに、何故か双樹だけは覚えていて。

 ともあれ双を治療してもらい、懐かしさや感傷に引きずられるように、舞砂は求められるままかつての実家で一晩を過ごし。

 ――けれど。

 けれど、その一晩が全てを変えてしまいます。
 目を覚ました時に見たのは、轟々と燃え盛る森。
 輪子を心配し、その中に駆け込んだ舞砂は、輪子とは合流できるものの、そこで悲しい真実に対面することになります。
 かつての悲嘆の経緯と、自らに仕掛けられた痛切な罠、心を寄せていたものが砂上の楼閣だった現実に狼狽えながらも、かろうじてその悪意を退け、でも二人が過ごした屋敷は焼け落ちてしまって。

 輪子は自らに残った力の全てを奮い、その屋敷を、世界から外れてしまった悲しい人の居場所を魔術で蘇らせ、舞砂もその想いに共鳴し、魔力をシンクロさせて手助けして。
 魔力の全てを摩耗しきった輪子は世界に溶けていき、しかしその想いを舞砂の中に残していきます。

 完全なる赤目の魔女となった舞砂は、かつての、そして今目の前の悲嘆を二度と繰り返させないと、そして輪子の想いを引き継ぐべく生きていく事になるのです。
 “遺品(ミスト)”を生む契機となったかつての研究者、クラール・ラズリットの名を継いで――。

 ・・・うん、サラッとまとめてみても切なすぎますね。
 元々は普通に生きられていた分だけ、運命の変転とそれがもたらす孤絶は、舞砂の心に大きな傷を植え付けて。
 輪子が最後に指摘した、同じように傷のある人しか愛せないと思い込むのは間違い、本当はあなたが優しいだけなの、という忠告は、正鵠を射ているけれど、しかしきっと、舞砂の心の深い傷を癒すだけの力は持たなかったんだろうなと思います。

 順序から言えば、輪子のありようが双樹の父親の変貌に一役買って、その結果として舞砂という魔女が生まれた経緯にはなるにせよ、現状の直接的な迫害を導いてしまったのは自身の軽挙とノスタルジーにあるからこそ、それは拭えない負い目ともなって。
 だから舞砂は、そこにあった全ての想いを背負いつつ、結局最後まで、誰かを心から信じ切る生き方を手に入れられなかったのかなと。

 言うまでもなく、その背負った想いの根源的な部分は、この世界で生きにくい魔術の素養を持った者に、その居場所を提供し、そして人間社会と折り合って生きていくための知識と胆力をもたらす、そしてかつての人と魔女の悲劇を繰り返さないように、というもので。
 その為にクラール・ラズリットと名乗った舞砂は、天秤瑠璃学園を作り、そこを魔女と遺品の安住の地にするべく努力を積み重ねてきて。

 その想いに従うなら、アンデルが確実に矩を超えた魔術を展開したとき、それを厳しく窘め、制御しなくてはいけなかったのに。
 それでもきっと、どうしてもそこに湧き起こる共感と、どれだけ慕ってくれる相手であっても、その一番深い部分にまで強く容喙してもいいのか、私にその資格があるのかという想いがそれを阻害して・・・、ってのが、過去の事件の思想的な底流にあるかなと考えます。

 起こるべくして起きてしまった悲劇に、それでも必死に対処して、細い細い解決の道を手繰って、残して。
 舞砂は魔女がいずれどうなるのか、その運命のありようをラズリットの研究から見知っていたし、だからこそ自らの死を躊躇しなかった。
 自分が遺品となって、その意志の肝要な部分を残せるからこその可能性。けれどそれでもその悲劇がもたらした被害は大きく、重くて、結果的に様々な影響を後世に残し、それがレイライン本編の物語に繋がっていくわけですね。

 そして、上で触れたように、この外伝は、魔術の在り方など根本的な部分の思想性を、そのものずばり書いているわけでは勿論ないけれど、アナロジカルな手法を持って解明する上で、中々に示唆に富んでいます。
 細かい部分では、魔術のパスとか、遺品の本質とかもありますが、やはり考えておくべきなのは、そもそも魔女とは何なのか?って話に帰結するかと。

 私も最初の黄昏クリアして、自分でアナザー書いている時にその問題には直面して、その当時で考えうる私なりの解答を組み込んでみたりはしたんですけど、結果的にはそれは表層的な見方だったし、あの時点でもより根源的な答えに近づくためのヒントは転がってましたね、という形。
 多分それは最初の青い鳥のエピソードで、単純にその数が魔力の量とイコールだとミスリードされてしまう部分に集約するのかなと。

 魔力の多い人間と、魔女の分水嶺、境界線とは何なのか?
 それは多分、意志だと思います。自らの力で、世界の不条理を書き換えようという意志の示しこそが、魔女を魔女たらしめる根幹であるのでしょう。
 青い鳥の数が示しているのは、魔力そのものでなく、文字通り叶えたい願いの重さ、強さと比例してのもので、それを自覚させる要素として青い鳥の手紙は用いられていたと考えるべきでした。

 それは鍔姫が魔女に目覚めた経緯や、舞砂が魔女を発現させた経緯と類比的に考えていくと自明的で、本質的には魔女は、善性に基づく不条理への反骨がもたらす力であり、そしてそれは、より根源的な変化として見るならば、自らの魂のありようを書き換えている、とも取れるんですよね。
 勿論そこに籠められた危機感の程度の差で、発現度合いに差は出るし、赤い目、というのがその程度のバロメーターであることは間違いなく、例えばスミちゃんみたく、青い鳥の到来という外的要因でその自覚を引き上げられた格好だと、やはりそこまで強い力には発現しえないのかと。

 当然魔女としての必要条件として、元々備えている潜在魔力の基準はあるのでしょうけど、この世界観を考えた時、人は誰しも魔力を有していて、そして魂は転生する、ならば畢竟、誰しもが魔女になりうる可能性は秘めた世界なのだと思います。
 アンデルの不憫は、おそらく元々引き継いだ魂が魔女として覚醒していて、その残滓が生まれた時から影響を及ぼしていた事、そしてそれが周囲の忌避を誘発し、本来もっとも人の温もりが必要な時期から孤独を余儀なくされて、その本能的な希求が更にその魔女としての潜在的な力を早々と発現させることになったから、ではないでしょうか。
 そして、より本能に近い部分での発現が、魔女の力の本質である魂の改変そのものを、自らのみならず周囲にまで波及できる力として具現化してしまった、総体的にはそう捉えられると考えます。

 けれど普通の人はその可能性を全く知覚しないまま、ただ身近に出現した異端を忌避する、という悲しい構造になっているんですね。その上それに無関心では決していられないというおまけつきで。
 そう考えると、魔女とはこの世界において物凄い貧乏くじではあるなって感じます。元々は誰かを助けたいという善性が呼び込むのに、それを誰にも認められず、誤解から迫害の対象になってしまうとか。
 ラズリットは当然、そういう風潮そのものを改善していきたいという大きな思想は持っていたでしょうし、その為に魔女の居場所をわざわざ学園にした、その過程で、本質的に魔術に縁の薄い普通の人間が、魔女の在り方を理解して支えてくれる関係を紡いでいきたいと願い、それは一応、三厳と憂緒の関係でひとつ、結実を見たのかなと。

 まとめると、本質的に魔女とは、最初からそう「ある」ものではなく、意志を介してそう「なる」ものなんだろうなと。
 ただし三厳だけは例外で、それは魂を受け継いだ時に、アンデルの意識も同調して受け継いでいるからで、故に切実な希求がなくとも最初から全てが発現することを避け得なかったし、いずれこの運命に巻き込まれることは必然だったのでしょう。
 そのあたりも含めて、朝霧の展開で私が評価を保留した部分の大半は、きちんと前提ありきだったんだよと解釈できますし、故にこそやはり、これは朝霧プレイ前には読んでおくべき作品だなあとも思うのですがね。

 強いて言うと、憂緒がそこにいた、という事実そのものの必然性だけは担保されてはいないと思うんですけどね。
 それは何故睦月が、おまるの魂を降ろす実験体として選ばれたか、単に部屋が同じなだけなのかもしれないし、睦月が潜在的に備えている魔力(ただしそれは遺伝では発現しないらしいから、その転生した魂が、という文脈の中でになるけれど)との相性が良かったのか、そこの補完は、純粋な物語としての完成度を考えた場合にはやっぱり欲しかったなあと。

 ただラズリットの理想の上で考えるなら、あくまで人と魔女の共存関係が、特別であってはならない、普遍であってほしいわけで。
 その意味で“偶然”その大きな流れに巻き込まれた一般人の憂緒が、その状況に懸命に対応し、理解を示し、その不憫を覆したい、是正したいという、彼女の遺品を呼び寄せるほどの強い意志を抱いてくれる、その側面を際立たせるために、敢えてあれだけ思わせぶりにしつつ、そこに特別を孕ませなかったのかなとも思えますね。
 そうやって、理屈よりも情緒の部分を最後は優先的に物語に組み込んでくるあたりは、すごくブロッサムっぽい手法ではあるのだと感じます。

 とにかく、この外伝があるかないかで、作品に対する俯瞰度合いは結構変わってくる印象ですね。
 本編だけ追いかけていると、やはりどうしても、思想面の解読についても局所的な見方がメインになっちゃうし、物語の構造そのものが面白い作品、という点も踏まえると、どうしても見過ごしがちになる部分で。
 物語の展開としても、本編は天秤瑠璃学園からほぼ外に出ないクローズドな部分はあるし、そのあたりの閉塞感を打破して奥行きを示す、という意味でも重要かなと。

 少なくとも、これを読んだだけで改めてこれだけ色々な感想と考察が掘り下げられるわけで、私にとっては読むべき作品だったと言えましょう。

 ・・・しかしアレですよね、魔女の先行き、という視座を持ち込むと、三厳をはじめ他の魔女の面々も、その先がすごく不安になる部分はありまして。
 そこはでも、あくまで疎外され、迫害され、その力を奮わざるを得なくなる状況に追い込まれるからこその摩耗であって、すぐ側に架け橋になってくれる理解者があれば、その破綻を避け、天寿を全うできるんだと考えたいし、どこまでも憂緒さんは頑張らにゃいけないんだなあとそれはそれで不憫ではありますが(笑)、それを背負えるからこそ憂緒なんですよね。

 私が自分で望んだ物語においても、スミちゃんの口を介してそういう考え方は提示してたりしますし、そこで一致を見れた、という点でも非常に有難いというか、心に沁みる部分は大きかったですね〜。
 やはり、レイラインの物語の世界観と、その思想の根底にある温もりは素敵だと、改めて宣言して筆を擱くことにしましょう。
posted by クローバー at 04:12| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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