2015年03月17日

シルヴァリオ ヴェンデッタ

 体験版が予想以上にすごく面白く、キャラ的にもミリィとヴェティがとても好きになれそうだったので購入。


シナリオ(27/30)

 当たり前の偉大さ。


 星辰光(アステリズム)。
 それは旧暦においての最終戦争の破壊によってもたらされた、大気中にあまねく振り撒かれ、様々な科学常識を覆し過去のものにしてしまった元凶。今も天に昇る第二の太陽アマテラスから、滾々と世界に注がれ続けている粒子。

 世界の仕組みが丸ごと変わり、新暦を用いるようになってはや1000年あまり、基本的に産業革命前の、マンパワーに産業が依存していたころの社会水準で、いくつかの国家が乱立しているこの時代に、しかしそれは突然訪れました。

 星辰光の軍事利用化。
 それは10年前に、軍事帝国アドラーにおいて、ヴァルゼライドという一人の英傑が先駆けとなった、人の精神と感応し、意思の力によって星辰光を武力に転化する、汎用性こそないものの、世界のパワーバランスを一変させるもので。
 
 主人公もまた、その星辰者(エスペラント)への適応があり、スラムからのし上がって軍で重きを為す立場にありましたが、しかし根っからの小市民である彼は次第に軍での汚れ仕事に心を削られていき、そして5年前の大虐殺と呼ばれる事件、結果的にヴァルゼライドの英雄伝説として語られることになった事件の渦中における様々な出来事や遭遇などで、完全に矜持と自信を折られ、敗残者、逃亡者となります。
 今では、戦場から唯一連れ出したミリィとの平穏な日常を守ることだけに汲々とする屑、負け犬として市井の片隅でひっそり、その能力を生かしての多少ならず後ろ暗い仕事で口に糊をしている始末。

 しかしある日請け負った、とある秘密研究への潜入調査依頼のさい、そこに持ち込まれた白い柩の中身に大きく感応してしまい、動揺して致命の隙を晒し、襲ってきた護衛達は何とか撃破するものの、その殺戮の状況から、かつての上司であるチトセに、彼の生存を看破されることになり。
 そして長年の眠りから覚め、柩から這い出てきたエウリュディケ、ならぬヴェンデッタに対し、何とも落ち着かない、どちらかといえば嫌悪に近い感情を抱きつつ、放り出すことも出来ずにいつしか彼女は主人公とミリィ、二人の日常に自然に溶け込んでいって。

 けれど、彼女の目覚めこそが、全ての画策を前に進ませる必須条件であり、それを為してしまった主人公には、どれだけ嫌だと叫ぼうと、逃げようとも、その襲い来る運命から逃れる術はなく。
 “勝利”からは逃げられない――、そう嘯くように主人公に示唆するヴェンデッタの言葉の通り、主人公が手にした果実を奪い取り、更なる実とすべく、一層の苦難をもたらすのです。

 果たして主人公は、過酷で残酷な運命の歯車の軛から脱することが出来るのか。
 その果てに、守りたかった大切な日常を変わらず謳歌できるのか。
 運命の背景を、真実を知ってなお、自分らしく人らしく生きることを貫けるのか。

 これは、過酷な運命に翻弄されつつ、そこで育まれた人の絆、繋がりに心を預け、かつての傷と向き合い、克服して、理不尽に奪われたものに対して公平に“逆襲”を仕掛ける、人がましさと反骨の物語です。


 あらすじはこんな格好ですかね。
 大枠としては、主人公がヴェンデッタを囲ってからの日常の中で、ヒロインの誰に心を寄せるかで、ヴェンデッタとの感応性にも差異、進度の違いが生まれ、その度合いに合わせて敵方の対応も変化し、そして選んだヒロインの心性に合わせて、二人でいるときのあるべき姿を主人公が取り戻し、立ち塞がる障害を噛み千切り、切り拓いていく流れになります。

 テキストは絢爛かつ重厚で、そろそろここのお家芸的なスタイルとも言えますが、決して読みやすくはないけれど、その熱量のある語りにどんどんのめり込まされていくパワーのあるテキストだと思いますね。
 それこそ回りくどいくらいに多角的にひとつの事象について語ったり、深く掘り下げたりと重々しさがありつつ、けどシリアスとコミカルな場面とのメリハリもすごくはっきりつけられていて、そのバランスと、一種のお預け感覚が、先に先にと読み手を逸らせる原動力になっている感じです。
 非常に読み口として楽しいし、語彙の選択にも重みがあって感じ入るところは多くて、強いて言えば結構誤字脱字が目立ったのが勿体無かったね、という感じですけど基本文句なくですね。

 ルート構成は、概ね狙ったヒロインを追いかけていけばOKのスタイル。
 ヒロインは3人だけだし、ヴェンデッタは最終にロックされてるから、ほとんど迷う余地はない構成ですね。ミリィとチトセは、私個人の感覚だと別にどちらが先でも構わないかな、いずれにせよその両方の美味しいところを糾合しつつ、更に発展、深化させての最終ルートという形になっています。

 シナリオに関しては、まず率直に、期待通りにすごく熱い、暑苦しいくらいの丹念で粘性のある作り込みになっていたし、それでしっかり面白く、かつきちんと主人公サイドの心性の部分に対しての定義、枠付けと克服の度合いに対する覚醒のバランスがしっかり取れていて、感情的にも論理的にも高い説得力を有していると思います。

 決してこの作品の主人公はヒーローではなく、とても小心者で後ろ向きで、自分の心の傷にすら向き合えない屑として描写されており、けれどそんな男でも守らなきゃいけないものはあって、そこを運命の因果によって揺さぶられて、ようやっと“逆襲”に踏み込むも、都度都度に一々立ち止まり、誰かに背を押されないと前に進めない惰弱さで。
 その弱さを糊塗して余りある才こそあれ、敵方の強さもどんどんインフレしていくので相対的に弱者であり続けつつ、けど弱者ならではの、相手の隙を、弱みを抉る、虎視眈々と一発逆転にかける、そういう覇道的な戦いの顛末が一々心に響くし、その不毛さにも主人公の感懐を通して共感できるつくりになっているかなと。

 なによりつくりとして面白いのは、敵役の方にこそ、正義の味方としてのご都合主義がまかり通る形になっていて。
 このご時勢、味方の側でそれを理由もなく無配慮に繰り出すと非難囂々でしょうけど、あくまで一般大衆的には英雄であり、けど個の観念としては相容れない敵だからこそ、その背景のないご都合主義もまた、超えるべき山としての価値を持たせることで納得を引き出していて。
 かつその上で、じゃあどうすべきか、という弱者の、自らの内から汲み出した瞋恚、信念を基に立ち向かっていく方法論、英雄であるからこそできないこと、そしてどうしたってその手から漏れてしまう弱者の存念の在り処を、そこに迸る簒奪の悲しみと苦しみを、しっかり認識の上で正当に報復する、すなわち“逆襲”劇を展開するに相応しい土壌を涵養しているイメージですね。

 個別評価としては、ヴェンデッタ>ミリィ>チトセくらいですかね。
 全体評価の通りどれも素晴らしく面白く、確かにヴェンデッタシナリオがあらゆる要素を内包しつつのお約束的な最終決戦も見せてくれて、オーラスに相応しい濃度とワクワク、カタルシスを秘めた名シナリオなのは間違いないのですが、他二つも決して引けを取るものじゃない、むしろそれぞれに方向性を特化して煮詰めた面白さが突き抜けていてかなり好きだなあと。
 また、3ルートに絞られていることで、各々のテーマ性もより鮮明でありつつ、戦闘や展開の面では完全に別の物語として機能しているという、その多様性、それを為さしめる骨格の確かさも目立っていて、なんか最初期のプロペラ作品を彷彿とさせる凄みがありましたね。
 謎の作り込みと、丁寧な掘り下げも、そこは王道的というか想定は出来る範囲でこそあれ、きちんとそれぞれの生き様に肉付きした観念、或いはトラウマとして機能しており、多角的に隙の少ない作品に仕上がっていると思います。

 チトセシナリオは、とにかくチトセさんの執念が凄いね(笑)。
 かつての自分に足りなかったものと、そのせいで喫した取り返しのつかないほど重い敗北、けれどそれを噛み締めて再起した強さとしなやかさを存分に発揮しての、主人公に対するあの手この手のアプローチと、時に暴虐さを奮ってでもの主張には心打たれるものがありました。
 主人公を求め続けることで、あくまでギリギリ人であり続けるチトセではあるものの、その才の面ではかの英雄にも劣ることはなく、なればこそ、その意を挫き、簒奪し、自らのあるべき生き方を立てるのならば越えなければならない障害は明確で。
 改めてそれを支えると誓う主人公が影となり、牙となり、真っ向から是非を質すべく、意思を押し通すべく立ち向かっていくところは非常に清々しい、英雄的でありつつ、人の絆の強さと、その限界をしっかり示した物語のつくりだったと思いますね。

 逆にミリィシナリオは、元々主人公が絶対に守りたいものであったこともあり、あくまで等身大の自分を大切にしつつ、それでも今出来る事をきちんと、恐れずに立ち向かっていく気概を涵養して、主人公とミリィ、それぞれがそれぞれらしく障害を克服していく、人そのものの強さを感じさせる内容。
 ヴェンデッタとの感応度合いはおそらくこのルートが一番低いため、敵方との遭遇に関しても裾野が広く、高みには届かずって感じですけど、その意味ではこっちをチトセより後にした方が驚きはあるのかも。なにせ向こうがある意味王道真っ只中を踏破したような感覚がある内容だけに、下位互換にならないかと戦々恐々としてたらさにあらず、ってお得感がありましたし。。。

 ミリィシナリオの真骨頂というか見せ場は、当然ミリィという少女が見せた献身とひたむきさ、そして不条理にも不遇にも怯まない強さとしなやかさであり、そしてそれが、ただの精神的な後押しに留まらず、星辰光という設定を存分に生かして、きちんとギリギリの局面での最後の一押しに繋がるエネルギーとして具現する理屈として昇華しているところにあるかなと。
 だからか、戦闘面でもチトセの時の正面突破的なイメージとは違い、あくまで相手の隙をつく、弱みを狙う本質の部分には変化なく、ただしそれを主人公が積極的に、これが自分だと受け入れられているところに意味を持たせている格好ですね。ゆえの人の絆の勝利であると。

 その上で特筆しておきたいのは、そういうミリィの気質は、本来きちんと両親が健在で、何の不安も不幸もなく健全な愛着を育んできてこそのもので、ミリィはだけどあの大虐殺での残酷を経てなおそれを維持しているという部分。
 それはひとえに、それが主人公の側にも必要であった、という理由こそあれ、二親の代わりになるほど献身的に、ひたむきに、一途にミリィの幸せを祈り続け、守り続け、側に居続けた主人公があってこそであり、その想いの根底がどうあれ、理不尽に奪ったものに見合うだけのものを正当に返し続けてこれたからこその、彼女との関係が破綻せずにかつ進展し、そしてその愛情の共鳴が二人を更に強くした結果がもたらされているのかと。
 まあ技師的な部分においては少しばかり天才乙なところもあるけれど、この信念を貫き通す場としては戦いがメインとならざるを得ない作品において、直接の武力を持たない可憐な女の子が主役の物語としては破格の完成度だったと個人的にはかなり高く評価しています。

 そしてヴェンデッタシナリオは、ヴェンデッタとの感応が早々と理想地点まで到達することで、敵役の方の動きも非常に加速し、おいおいのっけからそれかよ!?的な、出し惜しみない緊迫感溢れる展開が用意されていて。
 その中で掘り下げられるヴェンデッタとの関係、主人公の一番根底にある過去の傷とそこからの克己、そして一足飛びに高みに飛び、深みに落ちてと乱高下する主人公の背中を追いかけて、チトセやミリィも、それぞれが抱くべき自身の人としての姿に向けてひた走っていって、やはりきちんとそれに見合った見せ場は用意されていて盛り上がりつつ、それらの後押しで、ようやく主人公は自分に向き合うことが出来て。

 ここまで曖昧模糊としていた語義というか、単語のこの作品なりの定義という部分でも、主人公の最深のトラウマを汲み上げる事から明晰に答えを引き出していて、その納得があればこそ十全に底力を、二人のあるべく形へと辿り着けたのだという理由に位置付けていて。
 その一方で敵役にも、彼らなりの矜持と覚悟はきちんとあって、だからこそ・・・というインフレ模様が炸裂していく中で、それでも最後は、人と英雄の分水嶺そのものが、そして人だからこそ成し遂げ、手に出来る価値が結末を彩ってくるあたり、本当に予想以上に緻密な背景構成であり、ともすれば大味になり過ぎる最終局面をしっかり引き締めていて素晴らしかったなと思います。

 以下ちょいとだけ、ネタバレ重めでの所感など。

 しかしまあ本気であの英雄デュオの暑苦しさはすごいというか、決して英雄の在り方を揶揄しているわけではないけれど、行き過ぎた英雄の固執的な価値観がもたらす破綻のテストケース的な色合いは強い作品だったなと。
 正義も過ぎれば毒になる、それは正しく歴史の証明するところでもあり、そして英雄とは、その矛盾を抱えつつも前に進み続けなくてはならない悲しい存在なのだと感じます。何故なら、その線を踏み越えない限り、英雄は英雄では居続けられない、それこそ英雄の必要条件は、殺人鬼ではなくとも殺戮者ではなくてはならないところにあるわけで。
 そして、なまじ正の信念に彩られているだけ、そこで只の人に立ち戻る選択を許されない、出来ないのが、実質的にも、偶像としても、英雄の不幸なんだろうなと思うし、なかんずくいったん踏み越えてしまってから立ち戻るなど一層に不可能で。

 だからその毒になる分水嶺がどこにあるかといえば、やはり大義のために無辜の民を犠牲にする決意を宿してしまえば、って事になると思いますし、この作品の場合だと、ヴェティの素体であるマイナを手にかけた瞬間がそれだったと定義できるでしょう。
 それを象徴しているのが、アルテミスの目覚めを阻害させた受胎児の存在であり、二人の不幸の始まりにして、英雄たちの最大の過失でもあったというところが、この物語を彩る悲しみ、切なさ、やるせなさだよなあと思います。

 そして、それが致命の毒になる理由としては、如何にその犠牲の上に積み上げた功績が赫々たるもので、多くの人の幸せに繋がっていたとしても、それでも犠牲者を大切にしていた人の悲嘆と絶望までを担保してくれるわけではないからで。
 結局そこは人としての自然権の問題で、それぞれが自分のあるべき生き様を追求できる権利を有していて、けれどその自由がもし他者の権利を阻害、毀損するようなことがあれば、その被害を受けた側には本質的に、それに報復する権利が発生してくるわけですね。

 無論近代社会においてそれは、法という軛において公平であると納得させられている部分ではあるけれど、動乱の社会の中ではその色合いはより原始的に、生々しく当事者同士のありようでしか決着を見れない不平等、理不尽を孕んでいて。
 ただ、少なくともヴァルゼライドが希求する、公平が担保された世界であるなら、不条理な死という自然権の最大毀損を与えてしまった身ならば、それを簒奪されても仕方ないという方程式は成り立つし、ある意味では自身の理念、信念が跳ね返ってきて、けれどその必然を更に踏み越えて前に進み続けた化け物が彼、という定義は出来るでしょう。
 だからこそ、主人公のみならず、その怨念の集大成としてのハデスの報復、逆襲という表現になってくるわけですしね。

 なので、この作品における“逆襲”とは、あくまで生存反応に依拠する反撃とは全く趣が違う、まず前提として不条理な簒奪の過去があり、その度合いを噛み締めて、正しく同じだけその簒奪者に不条理をもたらす観念なのだろうと。
 けどそれは、あくまでも自分の過去全てときちんと向き合い、それを受け入れる姿勢があってはじめて可能であり、それに気付くことそのものが勝利の本質なのだという定義もまた、独特でありながらすごくこの作品としての一貫性、理論の整合性に寄与していて、そしてそれこそが、屑でもない、英雄でもない、あるべき人の姿なのだと位置付けているわけです。

 畢竟ここでの人とは、自身の過去を正しく把握し、そこに至るまで支えてくれた他者への感謝を胸に宿し、誰かのためにありたい、と思うだけ、同じく自分のことも認められる、好きになれることを指していると言えます。
 そしてそれは、心から愛する人が出来てより一層肥大し、相手を愛すれば愛するほど自分のこともまた愛せるという好循環を生み出し、その前向きな活力が人類を反映させる最大の原動力になっていくのですね。

 その理屈を波及させるならば、屑、負け犬とは、どれだけ他者を愛せようとも、同じように自分のことは愛せない存在であり、逆に英雄とは、自己愛の強さほどには他者に愛を注げない、足りないかあり過ぎるかの差こそあれ、どちらにせよ人としては歪な存在だと言えるでしょう。
 その上で、最初に触れたように、英雄であるものが、人に戻るのは、なまじその信念に、最大多数の幸福に寄与する正しさをも内包しているために出来ない悲しみがあり、けれど負け犬が人に立ち戻るには、自分の過ちも傷もすべて認めて、それでも今生きていることに感謝を捧げられる強さを取り戻せばいいのだと、這い上がってくるほうがまだ簡単なのだと教えてくれますね。

 助けて欲しいと思えば、そこに助けてくれる人がいる、的なテキストがラスボス戦でありましたけど、結局それを無条件に信じられることが、健全に生きてきて、真っ当な愛着を育んだ証のようなものであり、一度傷ついて、心が挫けると、そこまで立ち戻るのに時間はかかるし、ましてや生まれたときからそれを信じられる環境に居なかった主人公としては余計に、ってのはわかりやすい構図で。
 結局主人公とマイナの過ちの実態も、生育環境が象るありようから逸脱して見えるマイナに対する意識のズレにより、無条件の寄りかかり、支え合いを許さなかったことに尽きますし、またそうであればこそ、アルテミスの素体候補としてマイナが選ばれた、という部分もあり。

 厳密に作中で定義されていたかは覚えてないですが、この場合アルテミスの素体の未練の核になるべきは、「誰か」の為に無条件に自分の身を差し出してでも守りたい、という、一種の英雄的とすらいえる犠牲的精神であって、けれど主人公もヴァルゼライドも、本質的な部分でマイナを見誤っていて。
 そこに受胎児というトラフィックなエラーが付随して、「誰か」という曖昧で公平な観念が、ただ一人に向けてのものに置き換わってしまったのかなと。
 とはいえ、そこに無視の精神があったのもまた事実で、だからこそ適応できたのだろうし、おそらくイヴなんかはアルテミスの素体候補だったはずだけど、彼女の場合自分の身を捨てても、という価値観は育んでいなかったからこそそこに至れなかった、という印象があります。
 
 ともあれ、その中庸的な、平凡で純粋で、だからこそ何より正しく愛しい在り方を最初から最後まで体現していたのがミリィだと思うし、翻って言えば、それを主人公が懸命に守り抜いてきたからこそ、その無自覚の恩恵が最後に気付きに至った主人公を正しい場所まで引き上げる必然になっている、展開の派手さの中に、そういう繊細な機微をしっかり練り込んでいるところが、この作品で一番私が評価したいところです。
 だからこそのヴェティシナリオラストの展開が、ああしてミリィの強さを改めて示して、希望だけの仄めかしで終わっても素敵な余韻を漂わせるのだと思います。

 お気に入り台詞は、「寄り添って、支え合う、それが家族の生き方だもの」と、「正義は悪を裁いて減らすが、愛は世界を増やすのだ」ですね。


 以上、ファンタジーなりの力業は多少ならずあるし、展開にしても見せたい思想性の体現として敢えて、ってイメージをうっすらでも匂わせてしまう点は決して皆無とは言えないですけど、そういう些細な瑕疵を気にさせない完成度、迫力、思想性の健全さと堅実さが目立った作品だったなと思います。
 どうしても過去作に対しての類似性が香ってしまう部分こそあれ、主人公の立ち位置と、相手方との対比の仕方のレアリティ、人の根幹に関わるそれを非常に丁寧に汲み上げた事による物語としてのリアリティ、真善美ともいうべき観念を宿しているところに、単なる熱血バトルもので終わらない深みがあったし、私はこういうの大好きですね。


キャラ(20/20)

 基本的には濃い目のシナリオゲーですけれど、その中でそれぞれの個性の在り方に対する軸、信念がきちんと定義されており、そこから飛翔出来たもの、出来なかったもの、様々な陰影を孕みつつも、概ねに切ない成長譚としても読み解けて楽しかったですね。
 まあヒロインの単純な意味での可愛さが楽しめるか、って言われるとそこまでではないのは当然だけども、でも個人的にはミリィがいるだけでそこは元取れた気分はあるしまず文句なくですね。

 やはり一番好きなのもミリィですねぇ、妹そよそよ最高ですわ〜。。。
 その存在の在り方そのものが作品のテーマであり、救いであり、希望であるという立ち位置は非常においしい上、普通こういうバトルものでの一般人、平穏の象徴キャラは要所では精神的な支え以上の何かをもたらしにくいという欠点を、この作品は土台の設定と絡めて非常に上手くカバーしており、とりわけミリィシナリオ、ヴェティシナリオでの要所の活躍ぶりは光ってましたね。
 自らの生き方に関わる真実を知って、けど揺らぐのはその愛情そのものへの信頼でなく、その源泉への信頼である、という部分が、彼女の素敵な生き様の真骨頂でもあり、ミリィがいたからこそ主人公が生きてこられた、というのは、少なくとも精神的な面においては何の誇張もないところだろうなあと。

 妹としての家族の在り方においても、あるべき姿をきちんと体現していつつ、そこから恋愛に踏み込んでも、一足飛びに改めて家族としての二人を形作っていける想いの強さ、真っ直ぐさ、直向きさに加え、才能に溺れず努力を苦にしない献身さ、甲斐甲斐しさ、愛らしく素直な反応と、色々な面で不備のない素晴らしいヒロインだったと思います。
 強いて言えば、作中で仄めかされる年齢からすると育ち過ぎじゃない?ってごくごく個人的な残念さはあるけれど、別に極端でもないし、これはこれで、ってとこですね。

 ヴェティも当然素敵でしたね。
 彼女の場合はどうしたって今の在り方がああだから、あくまで主人公の成長を支える鎹、礎というイメージは強いですけど、その中にかすかにでも仄めかされる未練、情味が少しずつ膨らんでいって、けれどどこまでいってもひたすらに献身という形で披露されるのが切なくも甘酸っぱい感じでした。
 見た目的にはヴェティはそりゃドンピシャですしね、ミリィとの関係も素敵だし、あの温かい生活の中でのイチャラブとかもっとみたいなんて贅沢はあるけれど、それはいずれ、の話であるから仕方ないですかね。。。

 チトセも期待以上の素晴らしいヒロインでした。
 思っていた以上に頑ななところがなく乙女であり、それは過去の蹉跌からの立ち直りと開き直りがあればこそ、という重みが、彼女の存在感をすごく重厚かつ人がましくしていて、そしてその情念があればこそ、英雄への階の一歩手前で踏みとどまれたという位置づけも味わいがあったなと。

 男キャラでは終わってみるとジン爺さんが好きだなあ。あの無骨でけど不器用なところがね。
 序盤はすごく便利な説明キャラって感じだったのが、ミリィとヴェティルートでの活躍ぶりに痺れさせてもらったし、その根源の渇望の切実さと虚しさ、ある意味では馬鹿馬鹿しいところを体得して満足して逝くところなどすごく好きなんですよね。

 無論総統閣下も決して憎めないキャラではありますね、暑苦しいけど。。。
 けれどどうしても、自身の理念を具現化する端緒に、自分の制御化に置き切らない力を組み込んでしまった時点で、ある意味では確実な破滅への舵を切っているのも事実だし、どこまでも自分の理に忠実というのは、一方では外側を軽んじている、その在りようが我慢できないからこその極限的なまでの奉仕的精神、と考えると実に歪で悲しい人だなあと思います。

 主人公は最後まできちんと小者のままでしたね(笑)。なればこそ、って部分もあるから仕方ないけど、チトセルートで迫られて脱兎のごとく逃げたあたりとかどうしてくれようかって思ったよ(笑)。
 それでも、という等身大の覚悟や勇気が、きちんと過去に報いる形であるならば許されるという構図は、ある意味いずれ主人公の過去にしっぺ返しとして降り掛かっても仕方ない部分も投射しているのだけど、それも含めての生き方を最後には体得できて良かったと思います。

 ルシードも双子もおっちゃんもいいキャラだったし、しかし知り合い全てが偶然にも実は・・・ってのはあまりにも偶然過ぎるだろって笑ってしまう部分はあるよね。。。そう思えば比較的狭い世界観の中でキャラを使い切ったイメージもあるし、因果応報を体現してくれる敵キャラなんかにも事欠かないから、実に深みがあったと言えるでしょう。


CG(17/20)

 全体的にしっとりした絵柄で、地に足のついた美しさや迫力を上手く表現できているのではないかと思います。ただ質はともかく、量的には、いくらヒロイン三人とはいえ物足りなさは残りますね。

 立ち絵はやや少なめ、くらいですかね、ある意味設定的に仕方ない部分はありますけど。
 ポーズはヒロインが3種類、サブが1〜2種類ですね。特にヒロインのは、すごくらしい極端さがあるポーズも用意していて、可愛いか、はともかくらしさはすごく出せていたと思います。
 お気に入りはミリィ正面、やや横、ヴェティやや右、正面、見下し、チトセ正面、双子、総統閣下あたりですね。

 服飾はヴェティ3種類に他は1〜2種類と少なめ、だけどシナリオ的にこれは仕方ない部分ですかね。デザインはまあ、世界観にはマッチしているし悪くはないかと。
 お気に入りはミリィドレス、ヴェティ私服、ドレス、正装、チトセ軍服、双子隠密あたりですね。ミリィは個人的に髪を降ろしていた方が断然好きです。

 表情差分はそんなに多くないけど、こちらも結構尖った冒険的な絵柄は結構目につくし、シナリオに求められる感情の想起が上手く出来る仕上がりだと思います。
 お気に入りはミリィ笑顔、驚き、悲しみ、苦笑、照れ焦り、ヴェティ笑顔、興味津々、見下し、涼しげ、照れジト目、チトセ笑顔、威嚇、得意気、悄然、照れ笑いあたりですね。

 1枚絵は全部で75枚、バトル関連のものも含めてこれなので、やはりもう少し欲しかったなと。
 当然ヒロインそれぞれにもだけど、バトルに関してもかなり同じ攻撃絵の使い回しとか目立ったし、もうひとつずつでもバリエーションがあれば、戦闘イメージも画一的になり過ぎずに済んだんじゃないかなとそこは惜しいところです。

 お気に入りはページ順に、ヴェティ黄泉返り、慟哭、ダンス、フェラ、騎乗位、正常位、立ちバック、血の海、ふたりでひとつ、昇華、ミリィ朝食、調律、ダンス、愛撫、対面座位、69、背面屈曲位、祈り、お姫様抱っこ、家族、チトセ敗北、颯爽、薙ぎ払い、打突、誘惑、必殺、騎乗位、愛撫、背面座位、英雄激突、夜明け、ダンスパーティ、疾走、首狩り、喉笛、閣下降臨、剣戟、必殺、閣下とルシード、カグツチ、英雄爆譚、ルシードの愛、ジン構え、斉射、マイナあたりですね。


BGM(19/20)

 非常にメリハリの効いた構成でもあり、戦いのシーンの緊迫感と疾走感、そして日常での牧歌的な雰囲気が、コーラスを多用することで上手く融合し、ひとつの世界観として確立した雰囲気を醸していてすごくいいなと思います。

 ボーカル曲は2曲。
 OPの『アストラル』は出だしから物凄い疾走感と、噛み締めるような人の業の切なさ悲しみが彩られていて、けどそれでも強く前に進む魂の在り方を、特に後半の朴訥なメロディラインで上手く表現できていてかなり好きですね。
 単品で聴いてもいい曲だと思うけど、作中で挿入歌として使われたときの盛り上がり方が半端なく良かったと思います。
 EDの『エウリュディケ』は、どこか挽歌めいた幽遠さを孕みつつ、訥々と、しみじみと、そこに残った想いの純粋さ、美しさを噛み締めるような歌い方、メロディが、この作品のEDとしてはすごくマッチしているなあと思います。

 BGMは全部で31曲とほぼ水準クラス、質はかなり高く、特にボーカルの入ったBGMの仕上がりがかなり秀逸で、すごく耳に残るし、その柔らかさと温かみこそがこの作品の真骨頂そのものだなあと思わせてくれて大好きですね。

 特にお気に入りは3曲。
 『一角獣の乙女』は柔らかい中にも気高さ、前向きさが忽然と聳えていて、その温もりが側にあれば、というおかしみのような朗らかさを想起させる素敵な曲ですね。
 『女神の願い』は誰もが憧れ追い求める平穏で温かい日常そのものを音にしたような、牧歌的でのびやかで、憂いを感じさせない透明感がめっちゃ好きです。
 『煌めく星光』は、逸物揃いの戦闘曲の中でも一番好きで、開幕のスピード感と、コーラスが呼び起こす危機感、高揚感、清々しさが渾然一体となってすごくいい曲だと思いますね。

 その他お気に入りは、『死想恋歌』『冥府の花嫁』『薔薇に傅く愛の奴隷』『帝国紳士の心意気』『軍事帝国アドラー』『鋼の英雄』『高天原』『我が力及ばぬ故に』『胸に咲き誇る花よ』『昔歳より今へ』『語らい零れる雫』『寄り添う寂寞』『歪む因果律』『銀狼の刃』『裁きの天秤』『魔星狂乱』『哀しき錬金術師』『天神の雷霆』『星を掲げるもの』『冥王と月乙女』あたりですね。
 いやほんと、特にバトル関連は好きな曲しかない奇跡的な出来の良さでした。


システム(9/10)

 演出はここらしさを出しつつのそれなりでしょうか。
 ムービーなどを多用としての迫力ある戦闘は流石の一言ですけれど、上でも触れたように少し1枚絵の流用が多くて、若干画一的な雰囲気を醸してしまったのが惜しいところですかね。その辺での引き込みが更に強ければ、と感じるところです。
 日常の演出もそれなりにはきちんとしてるし、特に文句はないですね。
 ムービーは迫力と悲哀がいいバランスで組み込まれていて悪くはないですけど、ガツンと来るほどではなかったなと。

 システムは特に問題はなく、万全とまでは言わないけど必要なものは揃ってるし、プレイ環境が追い付かないよって話はあるけど、作りたい方向性がしっかり伝わってくるフレームだと思います。


総合(92/100)

 総プレイ時間23時間くらい。共通7時間、個別がチトセミリィが5時間、ヴェティが6時間くらいですかね。尺としてはしっかり確保してるし、どのルートでも常に流動的で予断を許さない展開の中で、だれることなくテーゼをしっかり押し出しての物語が組まれていて満足度は高いですね。

 正直これは期待以上に面白かったです。単純な好き嫌いも込みで言うなら、lightの過去作品の中で一番これが好きかも。
 敵味方ともに、読み手がどこかに隠し持つ理念の欠片を上手く膨らませての構成だった分、ここは共感が全くできないから切り捨てて、みたいなことがなかったし、その上でしっかりこの作品なりの定義を、変に誤魔化したり糊塗したりせず表現しきってきたのは素晴らしい姿勢だと思ったし、そこで見せてくれたテーマの中心に対する思い入れが私には強いものがあって尚更、って感じでした。

 全く人を選ばない、ってことはないし、主人公が光の側ではない、って構成にもやっとする人もいるかもですけど、そこも含めて斬新な味わいを提供してくれる力作、意欲作であり、その意欲に見劣らない傑作になっていると思うので個人的にはとてもお勧めですね。
posted by クローバー at 04:21| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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