2015年06月26日

百五十年目の魔法使い

 同人作品には滅多に手を出さないんですけど、主にCV遥そらさんにつられてこっそり購入。。。


シナリオ(22/30)

 責任と矜持の狭間で。


 主人公は魔法使いの息子として生まれました。
 この世界における魔法使いとは、男性しかなることが出来ず、女性の媒介と呼ばれる魔力の根源から力を借り受けて様々な魔法を駆使し、主に主要都市における様々な軋轢や災害などを防ぐ役割を、長年歴史の裏側でひっそりと、けど確かな矜持を持って果たしてきました。
 本質的に魔法使いも媒介も直系の血族しか能力が引き継がれないために、一人っ子でもあった主人公は生まれたときからその宿命を背負わされており、安直にそうなることを厭う多母親の手によってしばらく父親の元を離れていたものの、この度そろそろ本格的な修行をするべく、生地のライラックに戻ってきたのです。

 兼ねてより、いずれ媒介を継ぐりら、撫子、茉莉花の三姉妹とも懇意にしており、再会してもそれなりに気兼ねなく上手くやっていけそうな雰囲気の中、しかしライラックの街には突如様々な異変が襲うようになります。
 未だ現役である主人公の父親と三姉妹の母親の手だけでは足りない事態も頻発し、主人公は未だ未熟な身でありながら、都市の平和を守る為、姉妹の誰かを媒介として指名し、共に歩んでいくことになり、しかしその過程で様様な思惑やドラマが錯綜して・・・、という流れになります。

 テキストはある程度全体のバランスを踏まえて丁寧に紡がれているし、要所でちらりと滲む思想性も極端に深入りすることなく、この舞台の上での必然や普遍を無理なくイメージさせつつ、しかりキャラの魅力を引き出してきているかなと思います。
 ルート構成はちょっと複雑で、三姉妹それぞれにみっつのEDがあり、単純に狙いのヒロインにばかり接していればいい、というのでなく、時には一歩引いて状況を俯瞰したり、的確なアドバイスをくれそうな相手を頼ってみたりと、そのあたりトータルで見ると画一的な部分はあるけれど、ゲームとしては思考の余地がしっかり混在していると感じさせるところ。

 シナリオはどうしても根底たる魔法使いと媒介の在り方やここまでの歴史、そこで積層した理念の部分で浚い切れないところはあるし、そういうやや脆弱な土台の上に、現実に今、そういう生まれに縛られる面々の葛藤や誇りを語っているので、説得力に溢れている、とは言えません。
 その代わり全体のバランスの中で、特に一点突破のテーマに偏重するでなく、それぞれの立場から見た現実の色合いをこまめに引き出してきている感じで、総合的に世界観を稠密なものにしていると思うし、その上でしっかりヒロインの良さも見せられているかと思います。

 個別としてはトゥルーのみですが、撫子>>>りら>茉莉花くらい。
 思った以上に撫子シナリオの出来が素晴らしく良かったですね。三姉妹の真ん中で色々な意味で調停役、冷静さが魅力というイメージの中で、けれど色々鬱屈しているものはあったり、秘めた熱情もあったりする中で、彼女に示された立場の残酷が、それまでの自分を打ち消してしまいそうな心許なさを宿し、それが一歩主人公に依拠する大きな契機となって。
 その上で改めて、魔法という概念が呼び込む欲望や悲嘆の渦中においても、家族の絆の美しさ、偉大さをしっかりと紡いできており、そういう状況に至る仕掛け自体も実にスマートに仕上がっていて、まあこの作品の中で図抜けて面白かったと言えましょう。

 りらはもう少し大きな枠組みでの魔法の意味や、黒幕の思想などに触れてくるかなと思ったけれど、その辺は他とあまり変わらず通り一遍に、けどその流れを通じて、長女としての責任感がもたらしてきた誇りと紙一重の思考停止に支配されている現実と向き合い、改めて自分、という存在の理念を深く掘り下げていく、その過程で必要なものと言う位置づけで互いを求めていく流れになっています。
 無論これはこれでりらの個性がしっかり生きているし面白かったですけど、やはりダイナミズムと感動では撫子に大きく譲るし、スタートラインに立ったところで終わってしまうというイメージもあるのでそこそこ、て感じ。

 茉莉花は末っ子らしく我が儘で自分本位で甘えんぼな性質が、いい意味でも悪い意味でも飾らず如実に表に出ていて、それを利用しようと企む輩との天秤とか微妙に展開ではあり、どこまでも夢見る少女的なスタンスからは逸脱せずにいるところは評価を上げる点ではなく。
 ただそういう甘えの根底に潜む恐れ、居心地のいい今を崩したくないから決められないというのは優しさでもあり、その怯えを含めて強引に手を引いてあげる必要があるのかな、と感じさせるところでしたね。

 テーマとしての切り口は多いけど、どれも作品の芯を貫くほど重厚に持ち込んでいる感じでなく、あくまで俯瞰的に、スポットをぼやかせて広い枠組みで見つめている感じで、強いて言えばその構造自体がテーマになってくるのかなとも思います。
 タイトルとの連関性とかも、正直舞台設定の歴史に準えてのイメージは強いですし、その数字自体が何がしかの影響力をシナリオにもたらしたかは微妙で、もしかしたら今後世界観の奥行きを広げる構想もあるのかな?と穿ちつつも、今のところはこんなものか、て置いておくしかない感じですね。

 お気に入り台詞は、「撫子お姉ちゃんが、お姉ちゃんじゃなくなっちゃうなんて、イヤだ〜〜」に尽きますね。
 撫子シナリオは心打つところが多いですけど、その中でも白眉のシーンはやはり家族の和解かなって思うし、その上で思うに、茉莉花がああいう甘ったれな性格付けであることが一番プラスに生かされているのはこのシーンだと感じます。りらがどうしても構えてなくてはならないところで、ああも情けなく頽れて、むしろ弱っている筈の相手に平然と寄りかかってくるあたりが、それまでの姉妹の生き方の全てを物語っているなと。
 なので私的には、茉莉花シナリオの後に撫子シナリオをプレイするのを超推奨します。

 それほど尺はあるわけでなし、舞台設定の壮大さに対して説明不足にならざるを得ないところは多いですけど、それは同人である以上ある程度許容されるべき観点だとは思うし、その限度がある中でも上手くバランスは取れているところは誠実だなって。
 その上で撫子シナリオというキラーシナリオがあったし、汎用的な判定基準に合わせるとこの点数ではあるものの、値段やバックボーン考えれば素晴らしい作品であると言えるのではないでしょうか。


キャラ(20/20) 

 ヒロインの三姉妹は勿論、それを支える大人たちにもしっかり個性と物語があって、その揺籃の中でしっかり立ち位置を定めていくことで一歩ずつでも成長していく、という過程を見せられているのはいいところだし、また姉妹の性格付けの上で、実に三姉妹らしい在り方を、ともすればマイナスに見える部分まで丁寧に掬っているのが好感が持てる部分ですね。

 一番好きなのはおわってみると撫子かなあ。
 二人の間で目立たないしクールな感じですけど、内実は誰よりも家族想いで情熱も秘めていて、ただ敢えて一歩引いたところから主人公に引っ張られて、結果的にそれが悲嘆の門を開いてしまう結果となっても、それが彼女なりの生き方を定める為の一足早い通過儀礼になっていて。
 その中で見せる弱々しさや人としての優しさと強さ、なかんずく家族に対する深い愛情の様は本当に清々しく美しいなって思うし、主人公に対しても想いが満ちれば一直線、って感じで、すごく良かったです。

 りらは長女として肩肘張ってしまう部分はどうしてもあるし、それが行き過ぎに見えるときもあるけれど、実際に魔法絡みの現実と向き合うことになって、そういう生真面目さがプラスに生きつつ、そこからの柔軟性を獲得するためのステップとして作用してもいるのがいい感じかなと。
 恋愛面に関しては茉莉花に劣らず我が儘にも思えるけれど、そういう不器用さもまた可愛さと思える筋道がしっかり立てられていたかなと思います。

 茉莉花は小生意気で自分勝手ではあるけれど、でも好きな相手に対する一心な思慕や彼女なりの献身は健気でもあり、尖った口調程本心で酷い子とは思ってないという調子が透けてみえるところは可愛いなと。
 個別での流されっぷりはややだらしないと思うところはあるけれど、そういう末っ子らしい甘さがあればこその葛藤を上手く引き出しているし、上で触れたように撫子シナリオの一番いいところでその性格が万全に生きているから個人的にはかなり好きになれた感じです。

 あとこの項目で書くべきかはアレだけど、三姉妹のCVのキャスティングが完璧に近かったですね。凛としたりらの雰囲気、クールでありつつ気安さも備えた撫子の雰囲気、自然体で小生意気で甘えがかった茉莉花の雰囲気、それぞれが非常に中の人の特色とマッチしている感じで素晴らしかったです。
 強いて言えばパートボイス収録なのが残念でしたね。というか、声のないシーンでマックスだけニャーニャー鳴くのがなんかムカつく(笑)。そいや結局マックスの中の人も有耶無耶なままだなあ・・・。


CG(18/20)

 非常に美麗でありつつ可愛らしさと艶めかしさのバランスもとれていて、身体のラインとかも常識的な範疇でバランスよく描かれていて、正直この人の作品で一、二を争う出来の良さに感じましたね。一昔前はやたら魔乳路線寄りだったしあの頃はちとアレ?って感じだったのでこれは嬉しいところ。

 立ち絵はそこまで多くないけどまあ必要な分はって感じで。
 ポーズは2種ずつでそれぞれらしさは出ていて可愛いし、服飾も2種ずつだけど性格がしっかり反映してる感じで特に茉莉花の私服は好き、表情差分は結構遊びも多くて可愛らしく、特に茉莉花のぶーたれてる感じが好きでしたね。

 1枚絵は全部で52枚と、値段考えればかなりボリューミーであり、かつ出来もかなり安定して可愛いので満足度は高かったです。
 特に、と特筆するほど図抜けて素晴らしい、とまで思えたのはなかったですけど、三姉妹の愛らしさや苦衷、煩悶、淫靡に至るまでしっかり繊細に機微を捉えられていて素敵でした。


BGM(17/20)

 鑑賞がないので正確に評価しづらいですけど、ボーカルは2曲ともにそれなりに闊達としていて伸びやかでいい曲だなって思ったし、BGMも切ない場面や緊迫のシーンではかなりいい曲かかっていた印象があるし、それなりの評価はしていいかなという感じで。


システム(8/10)

 演出はそこそこちゃんと動くし、魔法発動の演出とかかなり拘りを感じさせましたね。ムービーもEDまでそれぞれしっかり雰囲気を生かして作り込んでいるし悪くないです。
 システム的にも必要最低限は揃ってるし、プレイ感としては取り立てて不備はないですかね。


総合(85/100)

 総プレイ時間9〜10時間くらい。共通が2時間、ヒロイン個別が各エンドを網羅しつつで2,5〜3時間くらいのイメージですね。
 値段考えれば十分な尺ではあるし、そのコンパクトな中に無理なく籠めたいメッセージを折り込んであって、かつそれが押しつけがましくならないようバランスに配慮されているところが見事なつくりかなと思います。
 ここまで評価が伸びたのはやはり撫子シナリオに尽きますが、それ以外の総合的な部分でもかなり質が高く、どこか琴線に触れるものがあるならプレイしてみて損はない作品だと感じました。
posted by クローバー at 03:50| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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