2015年11月04日

恋×シンアイ少女

 初出の時点から圧倒的オーラ放ってたし、ライターもキャラデザもめっさ好み、とどめにCVが神過ぎて、もう買わずにいられようか、って感じのタイトル。


シナリオ(23/30)

 「本当にその人の為に考えて考えて、やっと想像できるくらいじゃないかな?」


 主人公はかつてのちょっとした成功体験を基盤として、将来小説家になりたいと考えている一学生。
 けれど子供の頃にとある事情で恋愛に対するトラウマを抱え、ラブストーリーが書けないという欠陥があって、長い間小説を完成させることも出来ずにいました。

 しかし学園生活も二年目に入ったところで転機が訪れます。
 契機となったのは、所属する学園が近隣の二校と合併したこと、そしてそれと機を同じくして、かつての初恋の相手であり、恋愛に対するトラウマの象徴でもある少女、星奏が転校生という形で再び目の前に現れた事でした。
 再会してより可愛くなった隣席の星奏にときめきを覚えつつ、ふと逆の横を見れば、そこにはやはりかつて仲良くしていたものの、進学を機に袂を分かっていた少女・彩音の姿が。そのつんけんとした態度に思い当たる節もあって後ろめたさも覚えるものの、けれどやはりその再会も嬉しいもので。

 そして三校合併により、学園内は色々とごたついており、その煽りを食う形で、主人公の所属する零細部活の文芸部は、その居場所である文芸部室を奪われそうになります。
 生徒会長である凛香の心遣いもあり、部員集めの為の猶予を貰った主人公は、かつての蟠りを多少なりとも解消させる形で星奏や彩音との向き合い方を見出し、その流れで二人に部員になってもらえることに成功し、当面の危機を凌ぐこと、そしてその過程でもう一度、小説を書くことの意味と意義、それを成し遂げた時の楽しさ、歓びを取り戻していきます。
 やはり合併の煽りを受けて、別の校舎から花壇の世話にやってくる、妹の菜子の友達でもあるゆいとも知己になり、彼女達と関わり、過ごす日々の中で、様々な想いが去来し、混ざり合って世界を輝かせて。
 やがてその想いは恋情を伴ってより深い熱を帯びていき、それぞれが大切にする何かとの向き合い方、折り合いに煩悶しながら少年少女たちはそれでも全力で駆け出していきます。
 これはそんな、人との繋がりの中でもう一度自分と向き合い、大切な想いを取り戻す、或いは育んでいく物語です。


 あらすじはこんなところでしょうか。
 本質的には恋を起点にして、それぞれが大切にしているもの、大切にしたいものを丁寧に掘り起こし、それとの向き合い方、ままならない現実との折り合いの中で、今の自分に出来る精一杯の在り方を寄り添いながら紡いでいく、という流れになります。まあ一部そこからさらに飛躍した展開になりますが。。。

 テキストはいつもながら間合いが絶妙で、雰囲気もコミカルでありつつも柔らかく、この語り過ぎない塩梅が、心に様々なものを抱えつつ、それを正しく言葉で表せない青春期の葛藤や焦燥と上手く噛み合っていると感じます。ただこの作品においては、いかんせんニュアンスだけでは汲み取りきれない切実な機微に触れる部分も多かったので、その辺僅かな取っ掛かりを軸に自己補完で、ってのはシビアな印象もありました。
 特に星奏絡みに関しては解釈の難しいところは多かったですし、確かに丁寧に読み解けばこうかな?と思えるようには仕上がっていますけど、全体の説得力という点でももう少し説明や土台作りは欲しかった気はします。もっともベタまっしぐらの彩音ルートでの、型に嵌めてしまっての窮屈なイメージもそれなりにあるので、この人の個性は中々難しいよなぁと改めて思わせましたが。
 ゆいルート、凛香ルートはまた別口の仕上がりにはなっていて、個人的にはゆいの一点突破に寄り添ったテキストメイクはベタだけど嫌いじゃない、凛香はちょっと文飾のセンスのなさと構成力に疑問アリ、って感じでしたかね。

 ルート構成はやや特殊、くらいですかね。
 基本的には好みのヒロインを追いかけて行けばOKの構図ですが、全体の共通から、途中でゆい・凛香組と星奏・彩音組の共通に分岐し、そこから更に個別に分岐していくという二段階構成になっています。
 かつ全員をクリアすると終章がトップ画面から選べるようになり、星奏シナリオの続きがプレイできるようになっています。
 しかし全体構成として見た場合、ゆいと凛香側は、この二人で世界観は共有してるけど、星奏・彩音サイドとは完全にパラレルな構造になってしまっているし、終章に繋がる思想性の補完、という意味では大元の共通〜二人の共通、彩音シナリオにしか深い意味は見いだせない構図ではあるのが多少不満ではありましたかね。
 なのでプレイ順としては後半に彩音→星奏→終章と連続させるのが常道的かな、という印象です。


 シナリオに関しては色々なファクター絡まって非常に評価が難しいなあと思います。
 売り口上である王道まっしぐらな恋物語、という意味ではまあ確かに、と言える部分はあるのですけど、根幹の部分でのテーマやモチーフに関しては少なからずそこから逸脱した感もあり、それが純粋に読み手が一部ヒロインに対する愛情を屈託なく向けられる土壌を蚕食している、というのは確かで。
 無論その思想性や構造、紡ぎ方は神韻があってらしさ溢れているなぁ、と思う部分はあるのですけど、全体として見た時に、それを紡ぐための蓄積の薄さはどうしても目立ってしまうし、また世界観として完全に二分化しちゃっているのも統一感を欠く印象です。
 特にゆい・凛香サイドで主題となる校舎問題とかは完璧に外的要因になっちゃうので、その辺こっち側で完全スルーとかはあれ?ってなるし、最終的に終章にテーマ性を集約させる構図であるなら尚更に、そう言う部分はもっと緻密な配慮があって然るべきじゃないかと。

 個別評価としては一応、という感じではあるけど、終章>彩音>ゆい=星奏>>>凛香くらいかなぁ。
 終章絡みに関しては後ろでネタバレ詳述するのでスルーしますが、まあ基本的にはちゃんと王道まっしぐらな恋愛してくれたルートの方が面白かったかなというイメージ。単品のまとまりという意味では、全体構造から孤立している分もあるだろうけどゆいシナリオの一点突破な構成は、ベッタベタではあるしオチもすぐ読めちゃうのだけどかなり好き。
 凛香シナリオは正直何がしたいのかよくわからんかった。展開の脈絡がとっちらかってたし、凛香というキャラ自体にも色付けに一貫性を感じなくて、まあそれは構造の二極化の弊害でもあるけど、これ単体としても迷走感は否めなかったです。いやまあ、そういうわけわからなさも青春の在り方のひとつだと居直られてしまえばそうなのかもですが。。。

 彩音に関しては根本的に自身にとっての一番が恋情そのもの、という置き方ではあるから、余計に純粋一路って感じで可愛さとしては凄まじく、ただどうしても星奏ルートとの関係上、そこで対比的に示される思想性の部分に絡んで、少しばかり展開が雑になってしまっている気はするのが勿体無いところ。

 星奏はどうしたって二人の間に薄いけど絶対的な断絶がある感が否めなくて、それを無理に理屈づけて咀嚼しようと懸命な主人公いじらしいな、彩音もそうだけどこういうのって惚れたもの負けなのか〜とか思いつつ、いくら言葉にするのが苦手、といっても、せめて心象風景ででも、もう少しくらいは星奏の葛藤や苦悩に対する補完は欲しかったなあと。
 或いは間接的に、彩音シナリオで垣間見せるとかでも良かった気はする。特にグロデ絡みは結果的にかなり重要なファクターになってくるわけだし、彩音をにわかでなく、もう少し、昔の心が落ち込んでいた時に助けられたなにか的に、蓄積と愛着を持って語らせる場面を紡いでも良かったんじゃないかなと思います。それがあるとまた、一方的な搾取をイメージさせる構図が、本質は循環構造なんだよと見通しが良くなる気はするし。

 以下は色々ネタバレ含みつつ考察。なお、どうしても類似性というか、思考の補助線として浮かんでしまうという意味で、サクラノ詩のネタバレも孕んでしまうかもしれないのでその辺も含み置きください。

 ・・・いや本当にね、芸術的な素養がテーマに食い込んでくるだけならまだしも、全体構造までサクラノ詩と相似してくるとは流石に思わなかったですよ。強烈な喪失があり、その痛みを抱えながら歩み続ける中で、自分なりの芸術との向き合い方を見出す、という部分に至るまで似通ってますからねぇ。
 この二作を両方やってる、って人はそれなりにいるでしょうし、エロゲでここまで尖った構造を見かけることはそんなに多くはないので、本来ならもっと驚嘆を持って迎え入れられて然るべきところを挫かれた、という不憫さが漂います。まして完成度としてこっちが上、というならともかく、流石にそんなことはないので、せめてリリース順逆だったらなぁ、と思わざるを得ません。

 無論向こうはそのテーマそのものに殉ずるためにヒロインを排除する構造ではあったし、主人公の至りの先は提示せずに終わらせるという狡さはあって、逆にこっちはあくまでも星奏との関係にもきちんと軸足は置いている、その両軸の変転の中でしっかり答えを出している(多様に解釈できる余地は置いていますが)、という部分で大きな差異はあります。
 ・・・まあただこれを読むと、例えばサクラノ詩で、あの直後に稟との恋愛譚が即続いていたらやっぱり印象悪かったんだろうなぁ、と思わざるを得ないし(笑)、その点では間を置いて改めてその関係性を問い直すというのは正しい選択だったのかもと感じます。いや、サクラノ刻で稟がもう一度ヒロイン格で紡がれるか否かはわかりませんし、そこは私の願望含みではありますけど。。。

 ともあれこれは恋カケの感想なのでいい加減話を戻すと、畢竟これは、星奏の感性、そうしなくてはならなかったという渇望に対してどれだけ共感と理解を示せるか、が最終ルートの評価を大きく揺らす要素になっています。
 そしてそれは、星奏というヒロインに対して愛着を抱けるか、という部分にも直結していて、では果たしてその点でこの作品は下地が充分だったか、その辺をまずサラッと検証してみましょう。

 まず端的に言えば、芸術の創造とは自身の中の大切な何かを絞り出すように、削りきるようにして生み出すものだ、という信仰がライターさんにはあるのでしょう。  少なくとも大多数の人の心を掴んで揺り動かすような偉大な芸術はそうであり、そこまで至らずとも芸術と関わる事自体は出来るけれども、その場合は自分にとっての芸術に向き合う事の価値を改めて問い直さなくてはならない、というのが、超越性を持ち、神秘的な存在である星奏に寄り添っていく為に主人公に突き付けられた課題だったと言えます。
 翻って言えば、そういう超越性がもたらす苦悩や葛藤は、凡人の想像の及ぶところではない、という突き放し方をしていて、少なくとも星奏の心情に寄り添って想像の苦しみを語る場面はほぼほぼない、というのが、全体像として見た時に食い足りない部分ではあります。そう感じてしまうのもやっぱり、サクラノ詩の様々なキャラの芸術に対する苦闘ぶりを見てしまったから、という相対的な部分は出てきてしまうので、自分の中で適正に評価できているか自信はないのですが。

 ともあれ星奏自身が何も語らないし言い訳しない以上、読み手はその心情を、主人公の価値観と行動を通して補完するしかないわけで。

 まず前提としてあるのは、星奏という閉じた天才の世界の扉を意図せず開いてしまったのは主人公自身である、という点ですね。
 主人公自身も幼い頃から病弱であり、他の子どもとは少し違う感性の中で生きてきて、それを削り取るようにして差し出した小説が世間に受け入れられた、という成功体験もあり、そもそもはそういう感性の閃き的な部分で星奏に対して親近感を感じ取った、という構図があります。
 その関わりで星奏が感得した、こんな私でも人と、世界と繋がれる、という実感と歓びが、どのくらいその後の行動原理に影響力を及ぼしているのか?というのは考察するに値するテーマでしょう。

 といってもそこを掘り下げるだけの素材は少ないんですけど、まず気になるのは、星奏の内的宇宙から響くクリエイティブななにかを星の音、と表現しているのは偶然なのか?という部分。
 何故ならそれは、主人公のデビュー作である『さよならアルファコロン』にも綴られているフレーズであり、それも当然神秘的に美しい何かの比喩として示されていますが、果たしてどの段階で星奏はそのフレーズを、この作品を知ったのか?

 回想で主人公が自分が小説を出していることを口にはしているものの、そこで見せようとしたのは新作であり、さよならのほうではないのでややこしいですけど、少なくとも星奏シナリオラストのサイン会にわざわざやってくる星奏を見るに、いつかは知れずともそのシリーズが主人公の手によるものだという事は知っていた筈で。
 だからどのタイミングかはわからないけど星奏はさよならは読んでいるし、例えばもしそれが出会いの前で、そこで星の音という神秘的なフレーズに触れ、それに触発される形で自身の内的宇宙のありようをより具象化して表現できるようになった、と読み取れば、その影響力はかなり大きいと言えますし、二人の関係性をより運命的に彩る解釈になります。

 もうひとつ、星奏がデビューする契機になったコンテストへの応募に、主人公の文筆力が一役買っている、という部分をどのくらいの塩梅に見積もるべきなのか?  
 主人公が思ったように、子供の拙い筆では本気度が感じ取ってもらえない、という可能性は確かにあるものの、音楽そのものが徹底的に本物であるならば、そんなものは関係なく見出されていただろう、と見ることも可能で、ただ少なくとも終章の吉村さんの回想からすれば、多少ならずともその筆力による真意の鮮烈な彩りは影響は及ぼしていたと思われます。
 そしてそれ以前の問題として、もし主人公と出会わずに、人と繋がる楽しみを、理解されることの歓びを知らなければ、そんな風に自身の才能を世界に問おうという意欲を抱けたのか?という視座もあって、総合的に見て主人公の影響力はかなり大きいと言えましょう。

 無論星奏は本物の芸術家であり、自身の内的衝動を魂を削ってでも表現しなければ生きていけない人種と定義されていますから、それは遅かれ早かれ、ではあったのでしょう。
 けれどあの若さでそれに目覚めてしまったことが、終章で普遍的に語られる早熟の天才の悲劇性とともに、主人公と星奏の二人の関係をも悲劇、星奏の言い方を借りれば呪いに縛り付けてしまったと感じます。

 何故なら、星奏にとって、その時点で世界の扉は主人公だけだったから。
 自分が一人じゃない、と信じるためには、主人公が心を削って差し出した真実の言葉が、愛が必須要素として位置づけられ、塗り込められてしまったからで、その存在性を、あのラブレターが、そこからの別離が完璧に決定づけてしまったから。

 星奏にとっては、自身の内なる声に従う事は愛より重い、けれどその愛に触れていなくてはその内なる声はいつしか枯れていく、いくら才能に溢れていても、社会構造の中でそれを問い続け、いつしか主従が逆転して才能を搾取される状況に雁字搦めに囚われたら尚更に、その枯渇は早まらざるを得なくって。

 ここからちょっと遠回りになるのですが、創作をする、ということがどういうものか、作品を通じて考えてみます。

 私も戯れに創作活動するので多少は皮膚感覚でわかるのですが、外からインプットしたもの、余剰を吐き出すようにして創作するのは楽しいものです。
 そして、創作に携わる人間は多分大別して二種類に分けられるんじゃないかと思います。
 当然一方は本物であり、余剰ではなく、自分自身を削り出し、苦しみ、のたうち回れながら創作を生み出す存在、もう一方は人との、社会との関係性の中で獲得した何かを還元する形で、いわば自分を切り売りせずに創作に関わる存在で。
 またその視点とは別に、才能そのものに対する厳然とした差異もあるのかなって読みながら思ってて、それは身を削ってなお、人と寄り添う事により大きな比重を抱く人種と、そこを突き抜けて普遍的な感動をもたらす創造を紡げる代わりに、そこに破滅性、孤高を抱えざるを得ない人種で。

 そんな風に定義した時に、星奏と主人公、そして彩音という存在はすごく象徴的です。
 彩音はそのシナリオを見てもらえば一目瞭然ですが、他の何よりも主人公に対する愛を生き方の中で最重視していて、その想いの淳良さ、一途さ、切実さに触れてしまうと、他ルートでの痩せ我慢っぷりが痛々しくて本当に不憫に思えてしまうとてもいい子です。
 そしてここでピックアップしたいのは、彩音は目的意識を見失ったまま服飾科に行って、それなり以上の才能は示しつつもそこから逃げてきた、というのが最初の立ち位置であり、けど主人公と結ばれる自分のルートではその創作意欲を取り戻している、という点です。

 これは星奏ルートではグロデの衣装コンペに参加してない、というところで明確に対比的に描かれていて、それは要するに、彩音にとって一番大切なものが主人公との愛、繋がりであり、それが満たされてはじめて、その余剰で創作にもエネルギーを向けられる、ということで。
 それは大枠で見れば、彩音は人との繋がりの中でしかその本領を発揮できないタイプの芸術家だと言えますし、無論その才能自体も、いわゆる本物を生み出せるほどの深みは有していないという立ち位置になるでしょう。

 そして最終的な着地点から見ても、主人公は丁度その二人の間に位置しています。
 元々の精神性から、自分を削る創作、という点に対する適性そのものはあるけれど、けどそれを十全に発揮するには世界との繋がりが明確になければならない、という部分で、繋がりの実感をいわば自身の宇宙の創造の為の栄養に変換できる星奏とは断絶があるわけです。
 端的にまとめると星奏はどこまでも自己表現の求道者であり、主人公は他者との関係性を表現する求道者であり、彩音は他者との関係性を表現できるけれど求道者足り得ない、という感じです。そしてこの感性は、こと恋愛観においては尚更に、主人公と彩音の高い親和性を、そして主人公と星奏の乖離性を担保しているかなと思います。

 だからこそ、というか、この作品はベクトルがはっきりしてるんですよね。
 好き、という意識ひとつとっても、彩音→主人公→星奏という公式が成り立ちますし、芸術性の補填、とい視座でも同じ公式が援用できます。
 自身を削って書いたラブレターが宙づりにされたことでがらんどうになってしまった主人公に、改めて世界との繋がりと色を指し示したのは、前の学校時代の彩音ですし、また共通においても、主人公が恋愛に対するトラウマを一応でも克服する決定打を紡いだのは、自分の告白に対する清々しい想いを吐露した彩音であって、だからこれ、悪意的な言い方をすれば、頑張って彩音が補填した主人公の想いを、創造に立ち向かう力を、また改めて星奏が自分の創造の為に吸い上げて消えていった、とも言えちゃうんですよね。。。

 無論その吸い上げた力を源泉として、星奏は音楽という形で世界にあまねく感動と歓喜をもたらしてはいるのですが、こと三人の関係性の中だとどうしてもそういう悪辣さが目立ってしまう構図なのは否めません。
 だからこそ、上でちょっと触れたけれど、その歌が、グロデの曲が、彩音にとって辛かった時に力になっていた、みたいな循環的な構図が用意されていれば、もう少し印象として和らいだんじゃないかなと思うし、その意義も感じ取れたんじゃないかと惜しく思うところなのです。
 まあ作中でもどっかのおばさんにサラッと語らせてるように、偉大な芸術の下地にならざるを得ない運命の、素養の持ち主、というのは一定に存在してきたのだろうし、その意味では安直な救いのイメージは付与しない、って潔さも感じますが。

 ともあれここで話を戻せば、主人公の側から見て、星奏がそうなってしまった理由はかなり明晰に見えてくるのですけど、やはり本質的な苦悩や慨嘆には触れられていない部分で、星奏に対する愛着を抱くための素地としては片手落ちなのかな、とは思います。
 延々弁護してきたようにも見えますが、感情的に語ってしまえば正直星奏好きになれませんでしたしね。そこに悪意が介在しないのは当然わかるし、自分に嘘をつかない、全力で生きる為にはそれしかなかった、というのも理屈ではわかるけど、そうい苦悩を背後に背負っている割には共通とかの気配はあっけらかんとしすぎているし、それこそもう少し間合いとか沈黙とかでも葛藤の一端を要所に配してくれていればなあ、と思うのですが。

 ただそれでも、主人公にとってはかけがえのない相手であること、他の誰とでも得られない共有感を、ときめきを覚えられる相手だというのは、やはりそちらに片脚突っ込んでるから、というのは確かで。
 そも三度目の別れは、一度目二度目の、星の音の導きに突き動かされてとは違い、芸術家としては全てを出し切った後の、どうしようもない社会の柵に囚われてのものであり、単純に主人公にこれ以上迷惑はかけられない、というごく人くさい理由がより重い感はあります。
 おそらくそれも主人公は理解している、していてなお、それを背負わせてくれないことに悲嘆しつつ手を伸ばし続ける、というのが終章の構図なんだろうと解釈しています。

 その中で、聖華というやはり芸術に自身を捧げている少女との触れ合いを通じ、自分の芸術性のもっとも正しい用い方に確信を抱く経緯、更にルポライターとして、集めた素材という余剰を煮詰めて、星奏という存在に少しでも肉薄しようとする経緯が綴られていて。
 無論その余剰から生まれた文章は、かつて星奏が切実に希求したものではないから、それ自体が星奏の心を動かす契機にはなっていない筈です。
 ただ、その作業を通じて、自分の知らない星奏という存在を自分の中にしっかり落とし込むという手順が、改めて自分の中の星奏への想いを形にするという為にはきっと必須だったのだと思います。

 その上で社会的な立場も何もかも失い、切り売りできるものは自分自身の想いだけ、という、一種の逆境的な立場に立ってはじめて、きっと主人公はそれまで踏み込み切れなかった自分の内面の一番深いところに手を届かすことが出来たのではないかと推測します。
 ちょっと蛇足だけど、なんかこれってドスドエフスキーみたいなんですよね。あっちは自身の放蕩が主な原因とはいえ、それまで鳴かず飛ばずだった才能が、社会的に徹底的に追い詰められた窮乏の中から花開く、という構図は似通っていて、星奏がその著作にのめりこんでいたように、その必然としての純粋な内面との対話がもたらす言葉は、星奏のような存在にこそより大きく響く福音なのかもしれないと思うのです。
 あのラストは主人公の夢、と見做すこともできる構図ですけど、個人的には理詰めで上のように見た時に、二作目ではまだ自身の芸術性の真なる形に辿り着いてなかった故に届き切らなかった想いが、三作目ではより深く煮詰まって、その心情がはっきり伝わってしまったからこそ、どれだけみっともなくとも、卑怯でも、側にいたいという星奏の切望を喚起せざるを得なかったと解釈したいですね。
 ・・・まあこういう観念的な結論自体も、やっぱりサクラノ詩の思想性を補助線にしてる部分が大きいのでなんともなんですが。奈津子のスタンスも、あれほど矯激ではないとはいえとこか香奈っぽかったしなぁ。。。

 まあその意味で、お気に入り台詞としては「私、けっこう厳しいよ」を挙げておきたい。あの時点での宣言が、結局10年越しになって叶うという構図は美しいですよねやっぱり。
 あとは彩音の、「泣くかもね」「なんつって」が、淡々としているからこその切実さが滲み出ていてすごく印象的。

 最後に、タイトルのシンアイが片仮名なのは、それぞれのルートで、或いは見方次第で当て嵌める漢字が違っているからなのかな?なんてちょっと思いました。
 星奏なんかは信愛というか神愛というか、ほとんど信奉的な色合いが濃い中で、真に逢いたい、という当て字でも嵌る感はあるし、彩音なんかはあくまでエロゲ文脈で、という暫定はあるけど、真の愛、みたいな括り方したくなるだけの破壊力はありましたし。
 ゆいも母親に対する親愛、深愛というイメージが顕著ですし、そこでも凛香だけは輪郭がはっきりしないんですけどね。。。
 ともあれそれぞれのシンアイの在り方が、恋と化学反応を起こしてより美しく尊い想いに結びついていく、という感じなのかなって思います。


 以上、あれ今日も長くなりすぎたなぁ・・・。
 まあつらつら書きまくった割には評価自体はそこまででもないんだけども、それはどうしても全体としての調和、完成度、後はテーマ性が強く出過ぎている故の蹉跌、という部分を総合してになりますね。
 なんだかんだ物語として充分以上に楽しめたのは確かですし、ただこれは毀誉褒貶激しい評価だろうなあ、とは正直感じます。個人的にハルキスっぽい感覚で、理屈で見た時に擁護できる部分はとても多いんだけど、ただあっちに比べるとやっぱりメインヒロインに対する思い入れがね・・・。どうしたって彩音に肩入れしたくはなりますしこれ。。。


キャラ(20/20)

 純粋にキャラで見た時に、星奏の存在は癌的にはなっちゃうんだけども、それを差し引いても彩音の凄まじい可愛さと菜子の素敵な妹っぷりが際立っていたので充分以上に相殺してくれるかなってイメージ。

 まあそれにしても彩音の真っ直ぐ純良なツンデレっぷりは(なんか言説的に矛盾してる気もするけど)最高でしたよね〜。惚れた弱み、という部分は大いにあるにせよ、それを隠しきれない言動と素振り、だけど基本的には本当に誠実に相手のことを思い遣れるし、しっかり向き合えるし、強く在れる子で、人がましい魅力という点でも抜けていたと思います。
 それに一々表情とか反応がすごく愛らしいし、CV的にも最高だったし、恋愛モードに入ってからの可愛さときたら核爆弾級の威力でしたね。あの必死の告白のシーンとか、とにかく息苦しくもこの想いを吐き出さずにはいられないといういじらしさといたましさが溢れていて、どれだけ恋に染まっているのかと。だけに本当に他ルートでの痩せ我慢が切ないというか、飄然としている裏でどれだけ悲しんでいるのか考えると他ルートに行きたくないですねぇ・・・。
 とりあえず主人公にも、星奏はちょろくない、魔性だからやめとけ、ちょろくて一途で献身的な彩音にしとけ、って滾々と説教したい(笑)。

 そして菜子ちゃんやっぱりもんのすごく可愛かった!
 最初から最後まで妹の矩は超えなかったし、妹ならではのアシストとかもささやかではあったけれど、主人公にとっての日常を、世界を絶対的に支えてくれる存在としてそこにいることが、ああいう主人公像を培った要因だろうな〜と思わせるところです。
 作品中のどこで明示されてたかちょっと忘れたけど、確か星奏はどっかで一人っ子って言ってた気がするし、他ヒロインの生き様も含めて、兄弟姉妹という繋がりの特別感は裏打ちされていて、その中でも象徴的だったと思いますね。CV的にもこのちょい舌足らずで愛らしい感じが抜群に嵌ってたし、こういう立ち位置なれば変に攻略できてもアレだし大満足です。

 んでかなり離れるけどゆいかなぁ。
 本当に純真無垢、一途って感じで可愛いけど、想いの深みという点ではどうしても彩音には譲るし、恋情そのものが発展的な何かに強く結びつく構図でもないので、まあ普通に凄く可愛い、としか言いようもないというか。
 シナリオも徹底的に可愛さと綺麗さを全面的に押し出してた感があったし、まあこの作品全体に通底する話だけど、とりわけえちぃシーンで全然えちくないよね、ってのはあった(笑)。そしてこのCVの目一杯頑張ってる感。。。

 星奏は可愛いんだけどね〜、でもこんな魔性に搦めとられたくない(笑)。主人公も最初は警戒感バリバリなのに、結局惚れた弱みって強いわ〜と。
 この子自身は作品中ではアーティストとしての顔をほぼ見せてくれなかったので、その二面性が糊塗されることで余計に神秘性はありつつも親しみから遠ざけてる感じは強くて、可愛いって狡いな〜と思わざるを得ないし、まあ可哀想ではあるんだけどもっと不憫に思えちゃう子はいるしなぁ、というところで愛着が深まらなかったですねぇ。

 聖華のお茶目さと、その裏にある渇望とのバランスはすごく集大成的なイメージがあるし、大人になったからこその距離感で触れ合える、それ故により魅力的に見えたってのはありますねぇ。まああの流れだとどうしてもラブい相手にはならないから残念だけど。
 あと地味に愛美さん可愛かったね。


CG(18/20)

 全体の雰囲気づくりが非常に上手く、とても綺麗で鮮烈なイメージを残してくれるし、プレイしてもその良さは消えてはないんだけど、細かい部分ではちょっと荒っぽかったり、情感が根付ききってなかったり、あと量的な意味でももう一歩だったりで、手放しで褒められるかというと少し足りない感じでこの点数ですかね。

 立ち絵に関してはほぼ水準クラス。
 ポーズはヒロインが2種類にサブが1種類がデフォかな。星奏と彩音には時代の違う立ち絵とかも用意されてるのでその辺で優遇感あり、特別個性的ではないけれどそれぞれのかわいらしさや活発さはしっかり引き出せています。
 お気に入りは彩音正面、やや右、前の学園時代、菜子正面、星奏子供時代、正面、ゆい正面、やや右、聖華やや右くらいですね。

 服飾はヒロインが、時代差分とか含めて2〜5種類、サブは1〜2種類ですね。ここも基本星奏と彩音はやや優遇気味かな。デザイン自体はすごく好み度が高くて可愛いと思います。
 特に彩音の私服がなんかすごく好き。スタイリッシュでありつつ可愛い感じで、えっちするときに脱がすの大変そう(笑)とか思ってたらその過程を書いてくれなかったぐぬぬ。もっとストッキングへの愛があって然るべきです。です!
 その他お気に入りは、彩音元制服、制服、昔の制服、菜子制服、私服、星奏元制服、私服、昔私服、ゆい制服、ウェイトレス、凛香制服、聖華私服あたりですね。

 表情差分は基本的にそんなに遊びがなく、その分細かい機微というか、とりわけ恋にまつわる息遣いを感じさせる柔らかさはあったかなと思いますね。
 お気に入りは彩音笑顔、しかめ面、照れ目そらし、ジト目、不安、苦笑、拗ね、菜子笑顔、ジト目、叱り、焦り、星奏笑顔、半泣き、ジト目、膨れ、ゆい笑顔、照れ笑顔、ギャグ泣き、点目、微笑、悄然、凛香きょとん、聖華ふふり、照れあたりですね。


 1枚絵は全部で84枚、SDとかも特にないし、結構元から紹介されてたキービジュアルなんかも含めてなので、総量的にはちょっと物足りない気はしますかね。配分としては日常多めで、Hシーンは大概1枚だったりするところでボリュームが足りなく思えるのかなぁ。
 シナリオの流れの中での1枚絵はそこまで不足感はないし、雰囲気もいいんですけど、やっぱりエッチシーンはそんなに力入ってない感じはありますね。基本エロくない。

 特にお気に入りは4枚。
 1枚目は3人の通学風景、この関係性のベクトルとか考えると切ないし、その上で二人のらしさが滲み出ててすごくしっとりするんですよねこれ。
 2枚目は彩音の告白、この逆光の中での溢れ出る切なさ愛しさを懸命に吐露する彩音の可愛さは別格と言っていい破壊力でしたね。贅沢を言えば他の子とくっついて、それを応援するときにもこれ使ってくれたらすごく切なくて最高だったのに。
 3枚目はゆい膝抱きあーん、この無邪気さと愛らしさが同居した1枚は本当にただただ可愛いなぁと噛み締めてしまいます。
 4枚目はゆいへのお見舞い、この天使の寝顔と少し火照った雰囲気が絶妙の色気というか、まあとにかく可愛くて頬ずりしたくなるような構図ですね。

 その他お気に入りはページ順に、文芸部室での4人、打ち上げ、届かない手紙、星奏との再会、うたた寝、夜の海、帰り道、キス、初H愛撫、正常位、バック、室内の星空、グロリアスデイズ、桜の風景、彩音と猫、黒板に想いを、ブランコ黄昏、キス、スマホ選び、お風呂愛撫、正常位、騎乗位、ライブ、雨上がり、ゆいとデート、着替え、タイムカプセル、自慰、正常位、立ちバック、凛香お茶、抱きしめ、もたれかかり、バック、水槽の海を漂う、後は4人のキービジュアルですかね。


BGM(19/20)

 全体的にピアノの色が濃い、すごく透明感と神秘性がある楽曲群であり、量はそこまででもないけど質は全体的に素晴らしく高かったと思います。

 ボーカル曲は3曲。
 OPの『記憶×ハジマリ』は、出だしのスローテンポから一気に物語が恋心のように膨らんで走り始めるイメージがすごく綺麗でありつつ、それを迫力あるボーカルが独特に彩っていてかなり好きな曲。特にBメロの前半のフワフワしてる感じがめっちゃ好き。
 EDの『東の空から始まる世界』もEDらしい淡々とした中に噛み締めるような歓喜が混じって、メロディラインもすごく美しくこれも結構好き。
 挿入歌及びグランドEDの『Glorious Days』は、とりわけメッセージ性が強く、かつ作中のイメージと親和させるように焦燥にも似た疾走感と、伝えたいという意識の強烈さがしっかり出せているかなと。特にサビのノリの良さは気に入ってます。

 BGMは全部で21曲、量は少なめだけど全体の調和と吸い込まれていくような雰囲気が本当に素晴らしく大好きですね。
 特にお気に入りは2曲。
 『メインテーマ』はまあ初っ端から神曲ではありますが、地味に後半の音が重なり、それが繋がりを連想させるところがより素晴らしく、結構作中ではその後半部だけクローズアップして使われるときも多くて耳に残ったし、本当に流麗で素敵な曲です。
 『名づけられた月曜日』は透明感があり、色々洗い流してリセット感のある月曜日の清浄な空気の機微を鮮烈に捉えていて、これもまた後半の展開が物凄く好みで耳にこびりついてますね〜。

 その他お気に入りは、『風の止まり木』『半目野良猫』『ENJOYが反射してる』『風の迷い路』『てをつないだら。』『flower』『とけかけの小豆アイス』『壇上のBlue eyes』『小雨降る日の優しさ』『虹かかる空の恋しさ』『君は無音の中で』『we are alone』『alpha;』『僕らが友達だった時代』あたりです。


システム(8/10)

 演出はまあそれなり、ですかね。
 全体的に抒情感は強く、その辺の示しというか、見せ方は中々情緒があっていいんですけど、やはり全体としてはそこまで動く感じではないし、すごくいい、とまでは言い切れない密度だったかなあと。
 ムービーはとてもキラキラしていてセンスある出来ではあるし、曲ともマッチしていて好きだけど、突き抜けるほどではなかった感じ。

 システム面はやはり少し物足りない感じはあり。
 結構序盤から選択肢総当りしないとルート分岐が確定しないし、ジャンプがないと一々やり直すのは大変なのは確か。他項目も設定できる範囲がせまめで、マイナスではないけどプラスにはならない最低限、ってところ。


総合(88/100)

 総プレイ時間20時間くらい。共通4時間、第二共通1時間ずつ、個別が2.5〜3.5時間くらいで、終章が2時間チョイってとこですね。
 正直ルートによって結構出来不出来はあるし、雰囲気もガラッと変わってくる、挙句に着地点としてがああなので色々評価としては難しい作品ですねぇ。事前のアナウンス的にこういう展開予想しづらかったのもあるし、終わってみれば相変わらずだなぁ、とはなるのだけど。
 構造と思想性そのものは評価したいのは確かなんだけど、微妙な二番煎じ感が本当に巡り合わせ的に不憫だよなあ、ってのはあり、そのあたりの感覚補正しつつ、結局ちゃんと、とは言い切れないけどざっと2周目流し見はして、色々考えた上でこのポジション、かなぁ・・・。

 お勧めできるか、と言われると微妙。特にハッピーエンド至上主義者には色々叩かれそうな構図と見せ方ではあり、まあでもどこか、わかる人にわかってもらえればいい、的な居直りも感じる作品で、こういう潔さは私は嫌いじゃないです。
 ゲーム総合力で見ればおおむね高い水準ではあるし、プレイしてすごく嵌る人は一定数いると思う、けど、その枠内に入れるかの判定要素のボーダーはやっぱり特異かつ高めではあると思うのです。
posted by クローバー at 07:00| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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