2015年12月13日

僕はキミだけを見つめる 〜I gaze at only you〜

 かの傑作忠臣蔵のメーカーの作品ですし、体験版も非常に軽妙さと重厚さを兼ね備えた絶妙な読み口と構成で強い牽引力があり、キャラも可愛かったので迷わずに購入。


シナリオ(24/30)

 苦しみから咲く花もある
 悲しみから咲く花もある
 逆境に咲く花は逞しく、美しい――。


 主人公は幼くして両親と死に別れ、劣悪な環境の孤児院で生き残る術を学び、カズとトシという、唯一背中を預けられる二人と共に孤児院を飛び出して、歌舞伎町の闇の世界の中で、サーベルタイガーという自警団を立ち上げます。
 少しでも世の中の不条理がなくなればいい――そんな想いで立ち上げた組織は一時期隆盛を誇るものの、しかしその成長を好ましく思わない、或いはそれを出汁にしようと目論む汚い大人の権力争いに巻き込まれる形で没落、親友の二人を惨殺され、自身も殺し屋に命を狙われ、復讐心を滾らせつつも何も出来ずに知り合いの伝手で廃ビルに隠れ住む日々。

 しかしそんなある日、一本の電話が彼の運命を大きく動かしていきます。
 視音と名乗る不思議な少女と出会い、彼女から引き継がれるような形で唯という若き経営者と知己になり、仕事を与えられる中で、少しずつかつての牙を取り戻す主人公は、やがてそれが一つの目的の為に為されたテストであったと知ります。
 それは、今一世を風靡している謎のアーティスト、風早永遠の身柄を、かつて主人公達に悪夢をもたらした暗殺者から守ること。様々な事情を抱え、素直に公権力に頼れない、永遠のプロデュース役である七里は、毒を以て毒を制す、と言わんばかりに主人公に白羽の矢を立てていたのです。

 紆余曲折ありつつもその話を受けることになった主人公は、永遠のスタッフである莉亜や郁乃、美夜、同じくボディガードのアルなどとともに暮らすことになり、そこで束の間の日常感、平和な人の営みを味わいつつも、じわじわと迫ってくる暗殺者の恐怖に立ち向かっていくことになります。

 果たして主人公は無事に永遠の身柄を守ることが出来るのか?
 その日々の中でもたらされた意識の変化は、どのような道に彼を誘っていくのか?
 これは様々な形での、真っ直ぐな想いのすれ違いがもたらす悲業と、その果てにある根太く逞しい人のありようを綴った物語です。


 あらすじの時点でどうしても結構本編の内容に食い込んじゃいますが、大枠としてはこんな感じで、基本的に一本道のストーリー、今までメディアに全く露出してこなかった永遠のはじめての大々的なコンサートを成功させるために、それぞれの思惑が絡み合いながらも一丸となって前に進み、様々な妨害を退けていくという流れになります。

 テキストは非常にメリハリが効いたつくりで、一方で闇の世界の救いのなさを切々と、淡々と描きつつも、一方では微笑ましく平和な日常の風景をコミカルさを交えて飄々と綴り、その絶妙な釣り合いの中で巧みに伏線も張り巡らせていて、読み手を全く飽きさせずにグイグイ物語に没入される牽引力があると思います。

 ルート構成は本編とアフターから成り立っていて、本編は完全一本道、その結果を踏まえてのアフターでヒロイン分岐があり、それぞれの物語が展開される、という形に建前上はなってます。。。
 建前上は、というのは、基本的にはこれは永遠の物語であり、他のヒロインルートはその本筋で捉えるテーマからドロップアウトした経緯を綴っていて、そこには純粋な愛情というより、共犯者めいた繋がりがもたらす関係性しか感じられないので、一応えっちぃシーンこそ完備されてるものの、イメージとしてはバッドエンド的な感は強いので、そこに期待はしないでおきましょう、ということです。

 シナリオはそこまで長くはないものの、非常に緻密に構成され、伏線も丁寧に引かれた上にきちんと全部回収されていてむ、その上でテーマ性を示す中での物語の展開が一貫していてわかりやすいという中々に素晴らしい出来だと思います。
 まあ逆にミステリーの鉄則あたりも堅実に踏襲している為に、先の展開そのものはなんとなくでも読みやすい、ってのはありますが、その大筋での予想を裏切らずに、けれどその脇から些細な伏線を上手く利用してちょっとした驚きを残す、という塩梅が本当に見事だなとは感じましたね。
 どうしても一本道で、ヒロインルートと考えても永遠の為だけのシナリオ、とはなっちゃうし、アフターまで含めて濃密で心震わせる出来とはいえ、それだけで名作ラインまで届かせるのは流石にどうかな、と思ったのでこの点数ですけれど、嵌る人にはがっちり嵌る内容になっていると思います。

 話の筋道に関してはネタバレし過ぎるので割愛しちゃいますが、大まかなテーマ性として語っておきたいのは、タイトルであり、向日葵の花言葉でもある、僕はキミだけを見つめる、その言葉の重みが十全に生きた展開になっているなあと。
 本編においてはその言葉は、ある意味では仇華の様な印象が強いです。というのも、キミだけを見つめる、という、一見一途で純粋な、そして何よりも強い想いの発露は、しかし互いに見つめ合う関係性にならなければ満願成就は決してなされない想いでもあり、そしてこの本編の人間模様においては、それはほとんどの場面ですれ違いにしかならない、という部分に象徴されます。

 一方的に思いを募らせ、或いは執着し、それが実際的な権力や力を纏ったときに、理不尽な暴力として顕現する、そういう人の世のままならなさを、仲間内の面々から絶対的な悪人の意識においてまでほぼ一貫して浮かび上がらせていて。
 時に仲間がその中で迷い、煩悶し、本当に大切なものは何だったのか見失いかけても、それぞれの仲間の想いを糾合するようにしてあるべき道に糾し、けれどその経緯が結果的に悲嘆の序曲となっていく、という構図はいかにも切なさと不条理に溢れていて、けれどそれすらも人の業がもたらすものだ、という冷酷な観察を感じさせる図式になっていて。
 その届かない想い、というイメージを端的に表しているのが、本編目次画面での後ろ向きの永遠に示されているのかなと。

 けどじゃあ、そうやって今は届かない想いを募らせることは全くの無駄であり、害悪なのか?
 そう問われたときに、それは当然そうではないとなるし、けれどいくら良かれと思っての行為でも、それが大きな悲しみを呼ぶこともあるのが現実で、その種まきが本当の意味で花を咲かせるためには、花の種子が峻厳な冬を乗り越えてはじめてそうなるように、悲しみや苦しみを乗り越えて、なおその本貫を諦めずに真っ直ぐ向き合い続ける強さを求められるのだ、というところを、アフターシナリオはちょっと大袈裟なくらいに綺麗にまとめ上げていると思います。
 逆に上でもちょっと触れたように、その苦しみから目を逸らし、痛みを舐め合い、慰め合って、その据わりの悪さ、後ろめたさを懸命に押し留めようとしているのが他ヒロインへの分岐展開なので、それはやっぱり本筋の引き立て、と見做すしかない構図ではありますね。

 痛みも苦しみも、時間を経て多少なりとも緩和されるところはあるし、その時間をどう過ごすか、誰と過ごすかで劇的な変化がもたらされることもある。
 一見穏やかで変化のない二人の日々の中でも、少しずつ蓄積していくものや関係性がもたらす変化はあって、それがより過去の種まきの結果であったりするところがこの作品の真骨頂、その中で永遠のみならず、主人公自身の境涯がもたらすトラウマめいた観念の克服にも寄与してくるところは、どんなに苦しみを孕もうとも、人と繋がり続けることの意義を明晰に炙り出していますし、それによってはじめて、本当に互いが互いだけを見つめ、向き合える関係を構築できた、というのに、逞しくしなやかな強さと美しさを感じさせますね。
 だからこそ最後のコンサートの構図も、永遠自身は後ろから捉えられているのに、その正面には向き合える大切な人達がいる、という、本編との対比が鮮明になされているのが印象的でした。

 以上、基本的には自分で読んで楽しんでください、というしかない話ではあるし、わざわざ細かく分析しないとわかりづらいような曖昧さはほとんどない、非常に完成度の高い作品なので、感想としてもこれくらいサラッとまとめておくので丁度いいかな、と思います。決して時間がないからお茶を濁してるわけじゃないよホントだよ?
 ただやはり名作、と言い切るには、値段の割に尺が乏しかったり、あとテーマが明確過ぎて、その筋道に完全に沿い過ぎた物語故の膨らみの乏しさ、とりわけこういうゲーム、と考えた時のキャラ性の掘り下げの薄さなどはどうしても目立つし、みんなをそうさせる永遠、という存在のチート性も含め、やはりちょっと足りないかな、と思うのでこんな感じになりました。


キャラ(19/20)

 上で触れたように、テーマに則ったヒューマンドラマとしてはとびきり上質ではあるのですけど、複数ヒロインとイチャイチャするのもひとつの大きな目的たるエロゲの文脈においてみれば、やはり永遠以外のヒロイン格の存在の掘り下げはかなり薄い、ってなるし、永遠自身にしてもそこまで濃密に描かれるわけではないので、ある意味ではシナリオの鋭利さを守るために犠牲になった部分、という感もあり、それでも、と言える程永遠に惹かれまくったわけでもなかったので差し引いてはおこうかなと。

 一番好きなのはそれでも流石に永遠にはなります。
 本当に純良で明るく真っ直ぐで、けれど境遇的にはかなり悲惨はものはあり、その笑顔の裏で、そうでなくてはならない、という悲愴さと強さをしっかり備えているという部分はやはりメインヒロインたる風格だなと思います。
 またそういう強さの芯というか、支えになっている部分を多少ならずかつての主人公の存在が担っている構図もありきたりながら説得的で、だからこそこうなんだ、という意味合いでの魅力は高く、他のキャラに比べれば純粋な女の子としての触れ合いや感情の発露も目立っていたので、素敵な子だなとは素直に思いますね。

 郁乃も可愛い系ではあったけど、ぶっちゃけ柿の木の話のためにそこにいたんじゃない?くらいではあり、まあシャンプーのシーンは可愛かったけどね、くらい。
 視音も中々食わせ物でけど愛らしくて好きなキャラではあったけど、最序盤以外はほぼ出番ないし、莉亜はアフターラストでの外連味に関しては本当に、それだけ他のヒロイン以上に永遠に対する想いの強さを感じられて素敵だなあとは思ったけれど、ヒロインとして見てしまうと逆にその良さが全て削がれる展開の中でしか、ってなっちゃうし、普段は暴力キャラでもあるので中々難儀だなあと。
 そしてアフターのなっちゃんの立ち絵が可愛いんですけど。。。あと瑠璃もすごく光源氏したい可愛さなんですけどー!

 美夜さんはまあ、人によってはかなり思い入れバリバリだったり、或いは忌避したり、毀誉褒貶は大きそうではあるけれど、私としては基本的にストライクゾーン外でもあるからある程度客観的に見ちゃうというか、まあある意味一番人がましいキャラだったなし、見た目とは裏腹に一番弱い人だったのかもしれないなと思いますね。
 七里やアルもいいキャラだったし、主人公も爽快だし、あくまでシナリオの補助線としてのキャラ性は実に洗練されていたと思いますね。


CG(17/20)

 全体として抜群に上手いとは思わないけれど、作風とも噛み合ってはいるし、充分に楽しめはしましたかね。

 立ち絵に関しては特殊な方向に豊富、ってのもあり、総合すれば水準はクリアしてるのではないかと。
 ポーズはヒロインで、後ろ向きとか特殊なのも含めると2〜4種類、サブも1〜2種類ありましたかね。腕差分なんかもちょいちょいあるし、小物差分は例によって一回きりとかのも含めて非常に多彩で、見た目での躍動感や臨場感はそれなりに高かったかと。
 お気に入りは永遠正面、恥じらい横、郁乃正面、視音正面、唯、瑠璃あたりですかね。

 服飾は舞台設定上仕方ないけどそこまでは多くなく、永遠だけは舞台衣装や季節差分含めて6種類くらいあったけれど、他は多くて2種類ってところ。デザインも悪くはないけど特別華やかでもなく、くらいですね。
 お気に入りは永遠私服、衣装、パジャマ、コート、郁乃私服、パジャマ、視音ゴシックドレス、瑠璃制服あたりかなぁ。

 表情差分は数そのものはそんなに多くないかもだけど感情のメリハリがはっきり効いていて、デフォルメ的なのも数多く、また例えば眉ピクとかの細かい演出によってより強調されている部分も多く、溌剌としたイメージは強いですね。
 お気に入りは永遠笑顔、照れ焦り、ジト目眉ピク、不安げ、怒り、ギャグ焦り、悄然、愕然、郁乃笑顔、苦笑、目逸らし、怒り、莉亜睨み、不敵笑顔、照れ焦り、ジト目、苛立ち、視音ニヤリ、照れ笑い、唯苦笑、瑠璃笑顔、心配あたりですね。


 1枚絵は全部で98枚と水準はクリアしてるし、出来も多少バラつきがないとは言わないけど、とりわけ重要は場面は臨場感があって良かったと思います。
 特にお気に入りは2枚。
 1枚目は郁乃のシャンプー、単純に絵柄がすごく可愛いってのと、満足げで安心に浸る郁乃、それを朗らかに温かく見守る永遠の構図がすごく好きですね。
 2枚目は永遠初H愛撫、巨乳なんだけど大きすぎないバランス感と曲線の美しさ、あと地味に好きなのが事後の布団被った差分で、あの愛らしさは反則級に可愛かったなと。

 その他お気に入りはページ順に、郁乃と出会う、永遠PV、威嚇、アルとの対決、視音フェラ、バック、唯背面騎乗位、莉亜着替え、拳銃突き付け、美夜着替え、うたた寝、ポスター、勉強会、貴方の為にうたいます、ライブアップ、ライブトーク、夜のコンサート、3人組、抱きしめ、対決、人質、最初で最後の敬礼、契約破棄と自分の夢、側にいたい、二人乗り、背中拭き、正常位、フェラ、バック、売り子たち、みんなの為にうたいます、みんなで最敬礼、莉亜愛撫、正常位、バック、郁乃バック、愛撫、69、バックあたりですね。


BGM(16/20)

 全体として雰囲気は出ていて悪くない出来ですけれど、こういう時にヒロインのCVの人に歌ってもらうのが正道か否か、って部分は難しいところですねぇ。どうしたって特筆的な、人の心を掴んで離さない天使の歌声を誇るヒロイン、というイメージ付けの中で、いや普通にこの人の歌は上手いとは思うけど、やはり本職ほどの迫力は出ないし、その透明感だけで担保できるかは微妙ですからね、贅沢な話ですけど。

 ボーカル曲は3曲。
 OPの『永遠と一瞬』は疾走感と力強さがあり、本編のイメージにしっくりくる感じで、ただ曲としてはサビ以外のイメージがちょっと弱いかなって感じでそこまで好きにはならなかったところ。
 挿入歌の『ユメキャンパス』はしっとりした導入からの柔らかさと温かさが色濃く溢れた、正統的なアイドルチックな曲だなあという印象で、透明感と伸びやかさ、サビのリズム感なんか合わせて、この作品のボーカルの中では一番好きかなって思います。
 EDの『私はあなただけを見つめる』は非常に深みと慈しみを感じさせるメロディとボーカルで、綺麗な曲だなとは思うし、サビもそこそこ盛り上がりをつけて印象度は高いんだけど、そんなに曲としては惹かれなかったんですよね。

 BGMは全部で22曲とやや少なめ、質も悪くはないけど突き抜けるほど印象深いのはなく、それなりってところですね。
 お気に入りは『benthos』『cumulonimbus』『SaberTiger』『Sniper』『spiral』『yours』『永遠』『君の涙』あたりですね。


システム(9/10)

 演出はやはり非常に面白いですね。
 兎に角立ち絵演出の芸の細かさが圧巻で、一発芸的な小物差分の多彩さ、仕草差分とでもいうべき指や眉の細かい動きなんかも含めて、非常にコミカルに動くし、戦闘シーンも非常に立体的にスピーディーに交差する展開を上手く臨場感たっぷりに見せているし、視覚的な満足度は高いです。
 OPムービーはまあ普通、かな。

 システムも必要最低限は揃ってるし、取り立てて文句はないですかね。概ね一本道でスキップとかジャンプ使う場面もないし。。。


総合(85/100)

 総プレイ時間13時間くらい。本編が10時間、アフターが全部で3時間くらいのイメージで、まあフルプライスとしては流石にかなり物足りない尺ではあるのですけど、それを完成度の高さとラストでの大団円的なまとめの見事さでカバーしているかなという感じ。
 コンパクトな分内容の密度は高く、テーマ性との一貫性もラストまでブレがなく、すごくわかりやすく心に響く秀作ではないかと思います。公式でも言っているようにイチャラブゲーではないので、ヒロインとの絡み、という視座ではかなり食い足りないけれど、最初からアナウンスされてるわけで、それを踏まえてそれでも、と思えるなら、まず買って損はしないと感じる出来でした。
posted by クローバー at 04:18| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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