2016年01月25日

CARNIVAL

 いわゆる瀬戸口三部作の中でこれだけ未プレイだったので、たまさかお安かったのもあり折角だからプレイしてみようと。


シナリオ(27/30)

 いつか、とどく、おもい。

 主人公は昔から人間関係に淡白で、虐めの標的に遭いやすく、そして嫌なことがあると記憶を飛ばしてしまう性質を持っていました。
 それでも自分だけが虐めの標的であれば黙って耐えていたのですが、ある日虐めの呼び出しを受けて屋上に向かうと、そこには数少ない知り合いで、心の底ではとても大切に思っている幼馴染の理紗が、主人公へのいじめに対して、加害者に食って掛かっているところに遭遇します。
 逆上した加害者が理紗に危害を加えようとした瞬間から記憶が途切れ、気付くと世界は血の海でした。その加害者は首から膨大な血を流して倒れ伏せ、そして着衣を乱して気を失っている理紗の姿も側にあって。

 一体記憶の狭間に何があったのか、本当に自分がやったのかもわからないまま、主人公は警察に拘束され取り調べを受けますが、搬送の途中でパトカーが事故に遭い、ほとんど本能的に脱走してしまって、さてこれからどうするか、と考えた時、一番に気になったのは理紗の安否で。
 もうきっと犯罪者になってしまった自分が理紗の傍にはいられないけれど、せめてずっと大切に思っていた事、その証として、子供の頃に同じように虐めから救ってもらった証拠として大切にしていたハンカチを返そうと思い立ち、元の街に舞い戻った主人公は、些細な約束が契機となって無事に理紗と再会できて。

 しかし理紗と出会えたことで、様々なことに気を回す余裕も出来、実際に自分が手を下したのか、そうなってしまった原因は何なのか、突き詰めていく中で少しずつ、自分をこんな境涯に貶めた相手に対する復讐をすべきなのではないか、という狂気に取り付かれていって。
 そのやり方に賛同的とはいえないまでも、理紗も何がしかの隠し事をしている雰囲気を見せつつ、主人公を匿い続け、その行動を容認する姿勢を見せて、一歩間違えればすぐに警察に拘束されてしまう状況の中での真実へ至る道探しがはじまります。

 果たして事件の真犯人とは誰なのか?
 主人公を匿う理紗の真意とは何なのか?
 これは、多角的にひとつの事象を見ることで世界の在りようを透徹し、その悲嘆の中に一輪の花を宿す、記憶と約束が織り成す信仰の美しさを象った純愛物語です。


 あらすじはこんな雰囲気ですね。正直どこまでネタバレなのか、ってのもあるし、基本的な意味での共通ルート、というものはこの作品には存在しないので。
 大枠としても初っ端から上の条件が付きつけられた上で、様々な岐路で本来の目的に合致した選択をしていくことで、少しずつ真実のヴェールを剥ぎ、肉薄していくという流れです。
 特徴的なのは、全部で三部構成になっていて、それぞれに主観キャラが違い、ひとつの事件、共有する記憶と過去を多角的に見ていくことで、それぞれが培った心象と精神性、そうなるに至った歴史、それらが一体となった今を絶妙に論理的に紡いでいるところです。

 テキストは流石に読ませるなあ、という感じ。
 全体的に狂気を含む人の多彩な感情をリアリティをもって描写しつつ、どこか俯瞰的な視座でもあり、その複雑怪奇なものを巧緻に計算づくで表現している感はとても強く、一つ一つの文章に迫力が宿っていて、物語の面白さと相俟ってグイグイ読み手を牽引していく力があります。
 数年前にキラキラとスワンソングをプレイした時は、このライターさんはペシミスティックな人なんだなあ、と単純に思ってましたが、この作品を読み、かつバックボーンとなる教養が少し読み手の方にも身についていることで、違った色合いでも見えてくるものがあって面白かったですし、厄介なことに他の二作もプレイしたくなってしまいますね。。。

 ルート構成は基本一本道で、所々にバッド派生、ノーマル派生の選択肢が出てくる形。
 その選択の様相も、都度都度で本来の目的に合致しているか、という観点では一貫しつつ、捨て鉢になったり、情に流されすぎたり、冷静さを欠いたり、信頼を揺らがせたりと、一つ間違えば容易に道を踏み外すに足る様々な要因が多彩に組み込まれていて、その辺の匙加減、人間性への露悪的な信頼感(笑)は絶妙だなと思います。
 まあそれほど選択肢自体多くはないですし、総当たりしていけば問題なくクリアは出来るし、むしろ全部のバッドをちゃんと見ておいた方が物語としての深みも出る読み口になっていますね。

 シナリオは正直ネタバレなしでは書けないんだよなあ。十二年も前の作品だから別にネタバレ全開でも構わないかとも思うんだけど、まっさらでプレイしたほうが確実に面白い、というかほぼ台無しになっちゃう作品なので、一応サラッと白抜きにしておきます。

 作品の全体像としては、いわゆる解離性障害を扱ったものとなり、その後の作品で言うなら俺つばとかすば日々とかの系譜に連なるものかなって思います。多数ある人格がやがて一人に糾合されていく過程の中で起こる軋轢や心情の変遷を、この作品は更に殺人事件の容疑者という過酷な環境の中でドラマティカルに、場合によっては狂気的に見せていくという構図ですね。
 テキストでも触れたように、そういう狂気の様が非常に計算づくで組み込まれているし、またそこに至る経緯、人間関係、主人公とメインヒロインたる理紗の過去のありようなどが、その心情の前提を強固に下支えしており、根底的には児童虐待という状況において、子供が示す反応の王道パターンを二人にそれぞれ背負わせて、その同族意識的な香りがより強くも悲しい絆を生む、というところは本当に見事。

 昨今の作品ではまず出来ないであろう犯罪者主人公と、そして父親からの性的虐待を受けていての非処女メインヒロインの組み合わせだからこそ出来る特殊な心情と献身、そしてそれを貫く信仰めいた在り方が、いつしか背後で語られる宗教的な観念とも重なっていって。
 そこは要するにキリスト教の根底にある原罪意識と、そこから派生する現実は常に過酷なものであり、けれどそれを試練と捉え前向きに生きることで救われる、という観念が、虐待によって生成された自罰的な精神性とも呼応している、と見做せるところであり、そこの素養がないと、世界観の示しが単なる悲観主義に見えてしまう、というのがミソなのかなとも。

 ただし主人公の場合、学という人格にはその、理紗の精神性にも通じる犠牲的精神というか、右の頬を打たれたら左の頬をというか、一種の殉教者的な在り方がより徹底的に付与されているけれど、その反動として完全にそういう博愛精神と乖離した、現実的で利己的な観念の強い武という人格も持ち合わせているというのが肝で。
 学にとっての理紗が救いの神的な存在であるのと同時に、学のその純粋性と、一方で武という人格が孕む危うさの二面性が、理紗を主人公に惹きつけて止まない要因にもなっていて、それぞれに言葉に出せない痛みを抱えながら、二人三脚でこの暗い世界を共に歩んでいく為に、互いが互いに献身する様は本当に美しく。
 個人的にプレイし終わってすぐ思ったのは、今をときめく東野圭吾さんの、多分出世作といっていいと思う作品、『白夜行』にすごく雰囲気と構成が似通ってるなあ、って。人知れず、けれど互いの全てを赦し合って進んでいく関係とかそのイメージだし、それが犯罪であっても、という部分も別人格に担わせているとはいえ類似性があって、その上で本当に結ばれることがなかった二人が、その関係性が事件性を伴って露呈することで、はじめて正しく繋がれる可能性を見出せる、という部分も実に素敵です。

 またそこに至る経緯で、泉という、二人の心象に近しいものを持ちつつ、二人ほどに過酷なものではない分だけ、その本当の重みにまでは届けないキャラが、どちら供の協力者的立ち位置で配置されることで、二人の心情の特異性と純良さがより具象的に、相対的に示されるというのも面白いところで。
 基本的に盲信と背徳の両極端に分化されることで安定していた主人公の人格が、事件を介してその盲信が剥がれ、少しずつ背徳によろめきを見せていく、その結果として学がそれまでずっと揺らがせることのなかった理紗への信すらが揺らぐ展開になっていって。

 そんな時に、盲信の箱の中で育ちながらもその教義に反発し、いつか背徳の道へ、窮屈な世界の籠を突き破って進んでいきたいという破滅的な欲望を宿す泉の存在は致命の毒ともなっていて、よろめいたところに手を差し伸べられ、唆され、学という人格のままに背徳に転がっていく泉ルートの存在もまたすごく印象的でした。
 そのありようを堕落、と責めてしまうのは簡単ですが、実際人は誰しもが少なからず世界に対する道義的な、良心的な罪を背負って生きるものであり、それをひたすらに押し留めていた反動がああいう反社会的な形で爆発してしまう事は、多分刹那の幸せにしかならないだろうなあ、と予感させつつも、それはそれで太く短くひとつの幸せの形なのかもと思わせる説得力があったと思います。

 そしてそういうケースがあるからこそ、最後までたったひとつ、学に対しての信頼、信仰だけは決して揺らがずに、自らの身を差し出してでもそれを守ろうとする理紗の献身がより光ってみえるわけで。
 その信を育む過程において出会った本当の主人公、いわゆる解離する前の本人格、俺つばでいったら光の球くんなんでしょうけど、その約束を律儀に守り続けて、結果的に学や武からの信頼を揺らがせることになっても、それをも自分の罪だとばかりに受け止め、本当の意味で主人公が自己の真実に向き合えるまで支え続けるのは、間違いなくこういう凄惨な過去を持ったヒロインでなければ、と思わせます。
 
 少なくともあのラストシーンの後、主人公は出頭して精神鑑定などを受け、理紗も含めて改めて罪に問われることになるのでしょう。
 けれどそれは、あくまで人間が人間の理屈で作った法によるもので、そこに至るまでの経緯と選択、振る舞いの中で、主人公と理紗が、それぞれに自分にとってのたったひとつ、それこそ神のように崇め、絶対的な信仰を委ねる相手への信を貫けた、ということは、現在に打ち勝ち、正しく前を向ける精神性をやっと獲得できたのだという証左でもあり、その視座では罪は濯がれた、と見做せる結末なんだろうと。
 実際そこに至った二人は、罪人でありつつこの上ない幸福感に抱かれているようで、そこに見えるのは神に対する信仰に対するアンチテーゼ、人に対する信仰の持つ力の偉大さでもあり、非常に心打つものがあったと思いますね。


 以上、しかしこの作品、前知識なしにOPムービーだけ見たら、絶対こんなゲームだと思わないだろって(笑)。もうあのOPは、かくあってほしい世界線、という感じですもんね〜。
 ともあれ、全体として今の時代からすれば短いし、そういうシーンの大半は凌辱だし、殺伐としてもいて実に刺激的な構成であり、でもだからこそ表現できるものがある、とはっきり思わせてくれる、読み手の感性を捻じ伏せるような力強さを持った作品だと思います。小難しさもありますけど、今プレイしても充分以上に面白い作品ですね。


キャラ(20/20)

 キャラ性はほぼシナリオの構成要因としての意味合いが大半ではあり、けれどそこだけでも充分に魅力的に紡げている、というのが見事な所ではあると。強いて言えば泉以外の脇キャラのそれぞれの理由とか立ち位置とかのバックボーンが弱いのは気になったけど、個人的に理紗と泉だけで満足できる作品でした。

 しかし理紗は本当に不憫ですよねぇ、自分の中の絶対に殉じた結果として、色んなものから裏切られ、傷つけられて、挙句ルートによっては一番大切なものにまで、ってところですごく心寄せる要因になります。
 実際彼女自身は本当に素晴らしくいい子で、けれどそれが歪められた要因は……って思うとマジファッキンではありますが、でもその歪みがなければ主人公を救えはしなかった、というところがねと。三章は本当に凄絶で、だけどどこか揺り籠の様に優しくもあって、泉との友情も含めてすごく印象的でした。

 泉もまた、自身の鬱屈からの退避という目的意識はあれ、もっと縛られてると思えるのに、それでも綺麗に生きている二人に対する信頼と尊敬を持って、自分なりの救いをもたらそうとしてくれているのは素敵だと思いますし、泉ルートは本当に、あれはあれで救いの形のひとつではあるんだろうなと思わせて良かったですね。

 いじめっ子と警察官はおまけっぷりが甚だしかったし、もう少しバックボーンがしっかりしてればねと。妹との関係とかは色々面白そうなのでちょっと勿体無かったです。


CG(17/20)

 シナリオの尺に対しての占有率は高いと思うし、出来もまあ昔の作品だな、とは思うけどそこまで悪いわけでもない、立ち絵なんかもちゃんと時代の変遷をしっかり意識したつくりになっていて、今の時代でもサクラノ詩の藍ちゃん先生みたいな手抜きっぷりが見受けられる中で頑張ってるだろうと(笑)。
 立ち絵はひとつ前の学園の理紗と泉が妙に好きだったなあ。

 1枚絵は全部で83枚かな、充分水準ではあると思うし、エログロひっくるめて幅広く悪くないと。
 やはり最後の理紗とのHシーンの、万感籠った受け入れのありようはすごく印象的でしたね〜。あと泉の騎乗位も結構好き。


BGM(18/20)

 量として多くはないけど印象度は強いし、OPの出来はすごくいいですね。
 というか、ああ、これがこの作品のOPだったのか、って思ったくらいだから、以前どこかで耳にしてたんだと思うけど、非常に切なさと哀情、諦観の中でそれでも……と必死に手を伸ばす様が目に見えるような美しく透明感のある旋律でとても好き。
 BGMも全体的に出来が良いと思います。


システム(8/10)

 正直あの時代の水準なんてものはもうさっぱりわからんですしね〜。
 少なくともフルアニメーションOPはすごく頑張ってると思うし、むしろ昨今のより余程ヒロインが可愛いってどういう事だ(笑)。でも明らかにあんな露骨な三角関係にならんところが悲しみを誘う構図でもあるけれど。。。

 システムもボイスカットすらないとか時代を感じるなぁ……と思いつつ、まあ最低限のものは揃っているし、こんなものではないかと。


総合(90/100)

 総プレイ時間9時間くらいかな。フルプライスとしたら短い、ってのは確実にありますが、しかしこれは絶対的な完成度が図抜けて高く、読後感も良いので、その意味での不満は出にくい作品だったのかなとも。時代性もありますしね、今だったらそもそもこんな企画にゴーサイン出ないだろうけど(笑)。
 少なくとも、多少時代を隔てても良いものは良い、とはっきり言えるだけの魅力を、この作品のみならず瀬戸口三部作は備えていると思いますので、個人的にはどれもお勧めですね〜。特に、と言われれば思い出補正も込みでキラキラにはなっちゃうけど、あれはかなり長いので、この人のライティングと肌合いが合うか、を確かめるという意味ではこの作品はお手軽でアリかなと思います。
posted by クローバー at 04:33| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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