2016年05月05日

ISLAND

 一般レートにヒロイン三人にキュッパチと中々食指の伸ばしづらい要素の揃った作品ではありますが、大傑作ひまわりのライターさんだし、体験版もかなり面白かったので素直にシナリオに期待して購入。


シナリオ(28/30)

 過程しかない人生なれば……。

 目が覚めたとき、主人公は全裸で浜辺に倒れていました。
 それまでの記憶は全くなく、ただ朧に一人の少女を救わねばならない、という使命感だけがあって。
 その想いを胸に、すぐ傍に落ちていたCD一枚を共に、彼は道の未来への一歩を踏み出して……そしてすぐに官憲に捕まります。

 話し合いの結果、自分は未来から来たのでは?という直感は一笑に付されたものの、一応身元不明の記憶喪失としては認められ、しかし街の一番の権力者である町長の一存により、すぐにこの辺境の島、浦島から島外退去させられることに。
 しかし送還される船に詰め込まれたところでトラブルが起こり、その隙に衝動任せで逃げ出した主人公は、けれどほとんど体力もない状態で、最初に辿り着いた浜辺まで逃げてくるのが限界で。

 ――このまま、自分はまた何も出来ずに終わるのか?

 迫る追跡者の足音を前に、そんな焦燥に駆られた中、彼の脳裏に浮かんだのは、一つの名前。
 りんね、という美しい響きを持った名前を、渾身の想いを籠めて言の葉に乗せた刹那、その想いは世界を震わせ、そしてすぐ傍にいた少女の耳に届いて。
 月夜に髪を煌めかせ、驚嘆と切望を等分に込めた瞳で自分を見つめる少女の姿を目にし、その名を問われたとき、またしても仄かに浮かんできた、刹那、という響き。
 それを素直に告げれば、また少女の身体が震え、けれどすぐにその瞳に意志の力が宿って。
 彼女――小原凛音は、追いかけてきた警官や町長に対し、主人公の事を、最近雇った使用人であり、ちっょとしたアクシデントで記憶喪失になってしまったのだと庇ってくれ、彼らを不承不承ながら引き下がらせてくれて。

 かくして始まった、凛音の家の使用人生活。
 この時代の常識も、この島のありようも知らぬまま、けれど知識だけは不思議と蓄えている主人公は、持ち前のバイタリティを発揮し、島の人間に不思議に、或いは不気味に思われながらも少しずつ馴染んでいって、とりわけ主人公=未来人説を信奉し、なればこそ殺害を企図する紗羅と、町長の娘で島外の生活に憧れを持つ夏蓮という、凛音と年頃も近い二人の少女とは親しくなっていきます。
 やがて主人公は、この島の歪な構造や、少女たちが抱えるどうしようもなく重たい現実の影に気付かされ、そして閉鎖的で変化の乏しい島に突如現れた主人公の存在が、彼女たちの想いを少なからず揺さぶっている事実を知って、何もない空っぽの自分でも力になれることはあるのだろうかと迷いつつ、その手を差し伸べて。

 これは、様々な柵や過去に縛られたひとびとが、その想いに向き合い、傷つき、迷いながらも、今を生きる自分が進むべき道を模索し現実に立ち向かっていく、永遠に刻まれた刹那の輝きを手にするための壮大なおとぎ話です。


 あらすじはざっとこんな感じですね。
 大枠的には上で触れたように、それぞれのヒロインが抱える問題に直面することで、主人公自身の在り方にも大きな変化と刺激、苦悩が与えられて、その中で幾度もすれ違い、傷つけあいながらも、手を取り合い目指すべき地平を、幸せな未来を志向していく流れであり、やがてその枠組みが、テーマそのものは揺るがさずにスケール感を大きくしていく、という構図になります。
 まあざっくり言って前半はヒューマンドラマ的な要素が強く、後半はそこにSF要素も大きく絡んでくる、というイメージでいいかと。

 テキスト的にはやはり独特の味わいがあるなと。
 日常シーンとかキャラの掛け合いなんかは実に軽快軽妙でテンポよく進むものの、ちょっとした思考実験的なフックから飛躍的に、かなり深く掘り下げた知見、蘊蓄めいた説明が披瀝されるシーンが頻出し、全体としては重厚感のあるつくり、と言えるでしょう。
 勿論その説明部分がきっちり最終的に伏線として生きてくる構造ではあるものの、特に前半部に置いてはあくまでも伏線であり、ヒロインとの物語においては直接的な影響を及ぼさない場合が多いので、その意味ではじれったくもあり、ただそれだけでも知的好奇心を満たすのに十分面白さはあるので、難しい事はいいから話をどんどん進めろ、って思う人には合わないかもだけど私としてはとても楽しめるテキストです。

 ルート構成も相当に独特、かつ壮大なつくりですね。
 いかにもこの人の手掛けた作品らしく、序盤から選択肢でちょっと間違えると即バッドエンド、なんてのはザラで、その僅かな正着の可能性を手繰っていく先に、必然としてのルート分岐が待っているというイメージは鮮烈です。
 ただ基本的に、ヒロイン分岐に関わる選択肢そのものはそこまで多くないし、フローチャートも完備しているのでやり直しも難しくないし、難易度という意味ではそこまででもないです。
 
 ただし結構厳密にルートロックはされていて、凛音は二人をクリアした後じゃないとルート分岐確定選択肢が出ない構造みたいですし、しかもそのルートを進んだ先には更に壮大な物語への扉が開かれていて、凛音ルートでの展開を踏まえての冬編、真夏編と続いていく構造はスケール感に満ち満ちており、そこではじめて、各ヒロインルートで散りばめられていたSF的要素や解釈の答え合わせ的な展開が披露される、ということになります。
 当然それもまた、本質的なテーマ性からは微塵もぶれることなく進んでいるし、その上で二転三転、伏線がもたらすどんでん返しと隠された真実、それを受けての主人公の選択と結末においても非常に考えさせられるところの大きい、実に完成度の高い作品に仕上がっていると言えましょう。

 少し上で勇み足な話になってますが、ともあれシナリオとしては基本的には重苦しく、懸命に少しでもその生き様を、傍にいる大切な人達を幸せにしたいと切に願いつつも、運命は残酷にもそれを簡単には成就させてくれない、という構造が複層的に展開されていきます。
 それを克服するためのフックとして、前半部では主に思想的要素、後半部では加えて実際的な要素としてSF的な状況展開がふんだんに盛り込まれており、そのあたりの解釈、心理的変遷を含めてどのルートも巧みにミスリードが張り巡らされていてとても面白く仕上がっています。
 とりわけ前半部のそれは、あくまで最終的にはヒロインとの関係の中で指摘される問題は現実的な解釈の範疇に制御されており、けどより根源的な部分の不可思議は解明されていない、という匙加減を徹底しており、その積層が凛音ルートで思想面での揺らぎない理想的な到達点に至って、けれどその道は……という引きからの展開の中で濃密に生きてくるわけですね。

 先に思想的テーマを簡潔に述べてしまえば、今生きている時間と、その中で一番大切なものをしっかり見据えて、その文脈で幸せな未来の最適解を模索していく努力こそが一番尊いのだ、ということになるでしょうか。
 特にその反対の位置に置かれる過去への拘泥、とりわけ取り返しのつかない過去に対するそれは、主人公が最初から過去そのものを失っていて、けれどそこに深い執着を覚えていればこそ、ヒロインの抱えるそれと切実に共鳴し、間違った道へ踏み込ませる誘蛾灯となっていて、その過ちを薄々感じつつもそこから中々抜け出せない、故にいずれ決定的に食い違い、傷つき合うという過程を経て、ようやく前向きな精神性を構築する端緒を得る、という見せ方、谷の深さが非常に印象的です。

 そのあたりの枠組みを踏まえてのルート別評価としては、冬編=真夏凛音>真夏Re;=夏凛音>紗羅>夏蓮くらいになるでしょうか。
 前半部のヒロインシナリオに関しては、純粋に抱えているものの重さそのものがシナリオ評価とも連結している感じですね。どうあれその重さの底までは抉る構造になっているので、その分前提の重さが直接的に物語の起伏と、それがもたらす恐怖や痛み、それらが克服されることでのカタルシスに繋がっているし、特に紗羅と凛音はSF要素を仄めかせてのミステリー的な仕掛けが卓越していて実に面白いです。

 ただやはり物語の壮大さとしては、その凛音ルートで一瞬掴んだかに見えた真理がすり抜けていってしまう運命の悲嘆ほ経ての展開に軍配が上がりますし、ただしそこではどうしても本格的にSF要素が可視化されているので、その辺の解釈の仕方によって説得性に難しさを生じる部分もあり、突き抜けて素晴らしいか、と言われると諸手を挙げて賛成は出来ないか……?と、まあ正直書いてる今もまだ迷っている部分はあります。。。

 一先ずの個別的な評価としてこうしたのは、まず冬編は全く違う世界観の中で、しかし繰り返される人の業の醜さ、悲しさをより劇的に貫き切っていること、その上で、本当の意味で凛音編で感得した理念の実地体験的な展開が含まれていて、けどそれもまた悲しいすれ違いの原因に至っていく構図に感銘を受けたというのが一番の理由ですね。
 ただしこのルートにおいては、どうしてもその時間軸的なスケールの圧倒的さに対し、そこを貫いてかつての想いが本当にそんな同一性すら保った形で残されるものなのか、という疑問も出てくるし、そのスケールにおいての最大値の果てに、そこまで運命的な出会い、状況が都合よく待っているものなのか?とも思えるのが瑕瑾ではないかと思います。どうしても環境面においての必然的な滅びへの序曲を前提に合わせている、という構造の分だけ、そこの説得性が空虚になっていると。
 まあ必要は発明の母、ともいうし、いざこうなって、藁にも縋る、という意味でその存在がようやく光をあてられた、と考えれば、心象的には一応筋道は通るのですけれどね。

 で、真夏凛音をそれと同位に置いたのは、これがRe;を見れば明らかなように、あくまでも錯覚の上に成り立つおとぎ話としてのハッピーエンドであるにせよ、間違いなくそれもまた主人公が希求していた未来の形の一つであるのは確かであり、もっとも見たい物語の結末でもある、という部分を最大限に評価する形ですね。
 実際の話、この凛音エンドとRe;エンド、一体どちらが本当の意味でのトゥルーエンドなのか?という部分においては、読み手の受け取り方によってかなり意見が分かれるところなんじゃないかな、とは思うし、私としても断定的にこう、と言えない点ではあるのですが、これはこれでまあ間違いなく愛の形の一つの大きな帰結、ではあるんですよね。
 ただ主人公にそこに気付く余地がない、とはいえ、倫理的な観点からするとタブーな話ではあり、ある意味では初っ端の伝承での悲恋を強引に上書きする事にもなっていて、すっきり十全の大団円、とは言い切れないのが、突き抜けて素晴らしい、とまでは言えない主因だなと。

 そしてRe;ルートに関しては、少なくとも世界の謎、という観点においては一番解答に肉薄している話になっていて、だけどそこに掲げられる目的意識があまりに壮大過ぎるせいで、それを達成させるためにはまだまだ苦難の道を進まなくてはならない、という位置づけで終わってしまう話ではあるので、やはりこれ単体ですっきり、ともいかずに難しさは残るところ。
 またこのルートに至っても、どうしても最初の根源的な部分で理屈に寄った解釈が打ち出しにくい、それこそ神の領域的な部分は僅かながら残ってしまっていて(まあ私の思索が行き届いていない可能性もかなり高いですが。。。)、やはりこっちでも突き抜け切って面白い、と言い切れるファクターが足りないかな、という感覚です。

 以下は徹底的にネタバレなので白抜き。

 実はこの作品の一番見事だな、と思う部分は、これだけ最序盤からタイムトラベラーとしての意識を主人公自身にも読み手にも植え付けておきながら、実際には結局タイムマシンは作れていない、という解釈でも全く無理なく物語を読み解ける部分だと思うんですよね。
 紗羅ルートのタイムパラドックス論を絡めてのそれや、凛音ルートでの島の伝承と過去の記憶がもたらす錯覚によるミスリードを序の口に、やはりその真価は二万年、という悠久の時を経てようやくその果実にありつき、過去を改変して凛音との正しく幸せな未来に辿り着いた、というところまでが誤認だった、という構造は本当によく考えたなあと思います。

 Re;編で明らかになった時系列をシンプルにまとめれば、最初の夏編⇒二万年後の冬編⇒更に二万年後の真夏編と、地球環境がおよそ二万年サイクルで繰り返す氷河時代において、隆盛した人類文明がいったん破綻をきたし、また原始的な状況から復元されているのだというSF的解釈を用いて、その科学の最盛期においても一貫してタイムマシンだけは、世界の改変を可能にする夢の装置だけは作り得ていない、という解釈をし得る担保としているわけで。
 かつ最後のRe;編でのコールドスリープにしても、その刻まれた想いの欠片から、情念的にはその先でやっとタイムマシンが出来て、幾度も繰り返して……という可能性は示唆しているものの、示唆しているだけで確定しているわけでなく、私としてはやはりそこからまた二万年飛んで世界の終わりに立ち会う、という構造を採用したいところ。

 ただしその場合に問題になるのは、たまさか二万年サイクルで同じような状況が都合よく訪れるのか、という点に尽きるのですが、少なくとも一回、この作品の真夏編においてはそれをある程度論理的に説明できるのがすごいところだな、と。
 簡単に言ってしまえば、真夏編の状況は意識的に、冬編のリンネが主人公の幸せの為に作り上げた疑似的な楽園だ、ということなんじゃないかなと思っています。

 冬編のラストで主人公を装置で送り出したものの、その実体が世界にそのまま残っていれば、当然それがタイムマシンではなくコールドスリープ装置であることに気付かざるを得ないわけで、けれど今更この破綻し切った世界で、自分一人でタイムマシンに辿り着くのは難しい、なら自分ももう一台のコールドスリープマシンを修復して眠りにつき、新たな時代の中で改めて挑戦するしかない――その辺の観念は本人の口からも示唆されていて。
 そこで疑問になるのは、何故リンネが、主人公の目覚めに二十年以上先立って目覚めたのか、という点で、ただリンネにしてみれば、主人公の目覚める時期そのものはわかっている以上、自身の眠りの期間を操作することは当然可能ではあり。

 そして重要なのは、少なくとも真夏編においては凛音はリンネの娘であり、その父親は刹那である、という、麻里愛のDNA検査が裏付けている(正確には仄めかしている)状況で、冬編で主人公が眠りについて後に自分の妊娠に気付いた(まあこの辺もちゃんとやったのかぼやかしてるので解釈の幅は広いんですけれど)リンネが、その娘を主人公にとっての運命の相手に疑似的に仕立て上げることで、その過酷な運命の輪廻から解き放ってあげたい、と考えたのではと解釈できるんですね。
 その想いを抱いて、主人公より幾分か早い目覚めを迎えたリンネは、最初期はコールドスリープの弊害で記憶を失っていて、どの段階でそれを取り戻したかは定かではないものの、結果的に凛音という娘に対する愛情と主人公に対する愛の示し方が重なり合う形で、その悲嘆の歴史に終止符を打てればいいと思ったのかなと。

 だからこそ主人公の愛情が凛音に向かった場合は、その根本的なタブー感を振り切ってでも全面的に祝福してくれて、主人公の過去にタイムトラベルした、という錯覚も正さないままに二人の幸せが自身の幸せでもあるとして、そこで自身の本来の夢とも決別する決心を定めた、と見做せて。
 逆にその想いがリンネに向いているとなれば、それは主人公の勘違いが是正されない限りは、かつての過ちと同じく、過去を今の凛音に投射している、ということになるので、それだけは許されないとばかりに激怒したわけで、しかしその激情がかえって主人公に、真実に肉薄するヒントを与えてしまっているという構図が皮肉ではあるんですよね。

 そしてその過程を経ない限り、時間の流れの真実は見えないという仕掛けは本当に見事ではあるのですが、そこでもうひとつ疑問として浮上するのは、結局いちばんはじまりの刹那はどこにいるのか?というのと、最初のコールドスリープマシンはいつ作られたのか、という部分ですね。
 いくら二万年サイクルで隆盛があると規定してもその幅には限度があるし、やはりどこか取っ掛かり的に、それこそ伝承で伝わるような物語があり、そこにはじまりの刹那がいないとならないわけで。これはタイムトラベルで循環している、という解釈を取ったとしても、取らないにしても考えねばならないところです。

 まあ一番あり得そうな話として考えれば、技術面で成熟し切った、けれど滅びの危機を迎えている冬編のような時代のどこかで、サラとは直接的には交わらないセツナとリンネの兄妹の禁忌的な物語があって、リンネの喪失に絶望したセツナが、生まれ変わりを願ってコールドスリープマシンに自分から入った、というようなシチュエーションがあったのかな?と。
 或いは本当に、神のギフト的な古代遺産としてコールドスリープマシンだけがあの島のあの場所に放置されていて、より原始的な時代に刹那と凛音の物語があって、とも見做せるし、断定的に言えるのは少なくとも最初の夏編の刹那があのCDを持っていた以上、コールドスリープマシンから目覚めて、どうにかしてあの島に漂着した、というくらいなんですが。

 その辺は実際、夏編と真夏編では、全く相似的な状況を辿っている、と見せてはいるけれど、実体としては結構違っている可能性は大きいなと個人的には思ってます。
 少なくとも真夏編では、玖音=リンネが敢えてあの島に、桃香あたりの助けを借りて漂着させたと思えますが、夏編の玖音が=リンネかどうかは確定的ではないんじゃないかなと思うんですよね。当然その可能性もあるのですが、もしそうで、主人公が記憶を取り戻せないなら、もう少しうまく状況が動くように暗躍しそうだし、ああいう悲劇的な結末を迎えるのを座して見てはいないだろう、と思うんです。

 だから私としては、夏編では主人公が自力で海に漕ぎ出し、辛うじてあの島に漂着した説を採用したいし、あの玖音は本物の玖音であり、あの凛音は本当に煤紋病を患っていると解釈しています。実際夏編の凛音は陽の光に当たってるのラストの暴龍島のシーンだけだし、かつその後すぐに海の藻屑になっちゃうから実際どうだったかはそれこそシュレディンガーの猫状態なわけですしね。
 ともかく、はじまりの部分が結局曖昧なままで(そこを確定させてしまうと輪廻とタイムトラベル解釈が破綻するから仕方ないのかもだけど)、複層的な解釈の余地があって、どちらでも論理として成立するのはすごいけど、その多極化が突き抜けた納得に至り切らない要因にもなってるかな、という部分で、超をつけられる傑作の評価点をつけられなかったというところです。


 以上、なんか結局上手くまとまり切ってない気はするし、どこか致命的に解釈間違えてそうな気もして戦々恐々ですけれど、一応私としてはテーマ性がしっかり骨太に、全てのルートに至るまで行き届いていて素晴らしく、その上でSF要素の解釈次第で多角的な構造を投影できる、という奥深さはやはり見事だったなと。
 本当に中盤以降は息もつかせぬ、という感じで怒涛の展開だったし、そこから二転三転きちんと伏線を生かしての思いがけない真実の姿の開示に驚嘆させられたし、文句なく面白い作品でしたね。ただやはりその凄みが、前半の夏編では片鱗程度に抑えられているあたりでじれったさもあり、本格派であるが故のジレンマ的なところも踏まえて、点数としてはここで仕方ないかな、という思いです。


キャラ(20/20)

 まあキャラゲーではない分、それぞれのヒロインにしても弱さや醜さも糊塗せずに真っ直ぐ披瀝している、という部分もあるし、主人公にしても過去を失った分どうしても寄り添いきれない軽さに振り回されて、ってのはあって、ストレートに素晴らしい、と評価するのに躊躇がなくはないんですけども。
 ただそれでも端々で見せてくれたそれぞれの精神性の高潔さ、強さ、ひたむきさは煌いていたし、世代や時代を超えても揺るがない、人が人である故の真理をもしっかり踏襲していて、その骨太さが印象度を相当に深めている部分では評価しないとなあ、というところ。

 まあ一番好きなのは凛音、になりますかね。どっちの、というのも難しいんですけど。。。
 背負っているものの重さと過去の彩の組み合わせで、やはりこの絶妙な儚さと弱さが引き立っているし、それゆえの真理の変遷、矯激さも含めていかにも、と思える存在感ですよね。だからこそ時折見せる愛らしさとか甘えが本当に可愛かったし、しかしまあこの子は特にああいうシチュがあるゆえにより一層一般レートなのを歯噛みせざるを得ない(笑)。

 次いでリンネ、かな。冬編の無邪気さと真っ直ぐな強さも素敵だけど、それを経ての慈愛に溢れてそこに全てを捧げて貫き通したリンネもすごく魅力的だし、しかしこの冬編のコスチューム地味にエロいよね。。。
 当然夏蓮や紗羅も可愛いところは多いし、めんどくさいけどそれを含めて好き、と言えるくらいには愛着はありますね。あとキャラ的には冬編の爺と、あと地味に麻里愛が憎めない感じで嫌いじゃないんだよなあ私。


CG(18/20)

 最初に回想モード開いた時にはどうなるかって思ったけど、結果的に質量ともに水準はきちんとクリアしてきているし、全般的にヒロインがロリロリしいのと、絵柄とのマッチングも含めて満足度は高いです。まあでもやっぱしエロスないとそれはそれで物足りんのだよなあ(笑)。

 立ち絵に関しては水準には揃っていると思いますし、それぞれの時代に可愛さがあってよろしいかと。
 ポーズはヒロインで2種類、サブで1種類くらいですね。まあ総合的にそれなりに登場キャラ数は多いし、らしさは共通して打ち出せているし悪くはないと思います。
 お気に入りは凛音正面、やや右、リンネ正面、紗羅正面、夏蓮正面、やや左、玖音、桃香あたりですかね。

 服飾はまあばらつきは当然あるのだけど、ヒロインで2〜3種類、サブで1〜2種類と多くはないですね。まあ設定的に必要最低限はあると思うし、残念なのは凛音の寝間着、一枚絵ではあるのにぐぬぬ、ってくらいかな。
 お気に入りは凛音私服、リンネ私服、紗羅巫女服、水着、夏蓮制服、メイド服、水着あたり。

 表情差分もそんなに多くはないけどそれぞれに生き生きとした雰囲気は伝わってきて、重たいシーンでもそれを受け止めるだけの切なさが滲んでいて良かったのではと。
 お気に入りは凛音笑顔、照れ拗ね、苦笑、リンネ笑顔、膨れ、紗羅睨み、笑顔、半泣き、夏蓮呆れ、笑顔、にやり、怒りあたりですね。


 1枚絵は全部で89枚とまず水準レベル、出来も突き抜けて素晴らしい、ってのは特になかったのですが、全体的に愛らしくもあり、それでいて情感が正負どちらにせよしっかり濃密に伝わってきて印象的な出来で安定していると思います。
 お気に入りはページ順に、凛音出会い、散歩、平手、木陰、語り、キス、看病、愛憎、倒れて、手を引き、夜明け、零れ落ちるもの、夏蓮出会い、勉強、起こしに、お喋り、現実に向き合え、対峙、海へ漕ぎ出せ、再会、腕組み、紗羅泳ぎ、肩もみ、釣り、料理、痣、焔の中で、共に歩む、リンネ出会い、手を取り、サラ昏倒、リンネ鏡、サラ慟哭、リンネ機械弄り、サラ火刑、煤紋病、光の下で、追放、誓いの口づけ、再びの再会、抱きしめ、歓喜と激怒、花嫁、家族だから、変わらぬ寝姿あたりですね。


BGM(20/20)

 どこか空疎で哀しみが漂う世界観を絶妙にメロディに落とし込んでおり、最終的には質量ともに十全に揃って非常に素晴らしい出来だったと思います。

 ボーカル曲は3曲。
 OPの『Traveler’s tale』はどこか抒情的、かつ悠久の気配を漂わせたメロディと歌詞、ボーカルの声質が三位一体で素敵に合致しており、特にサビの伸びやかさと広がり、それでも貫かれる切ない色がかなり好みですね。
 EDの『プレゼント』は輪廻する運命の悲嘆から抜け出し、輝かしい未来へと力強く意思を持って歩み出した雰囲気、そのワクワク感をしっかり土台にして、爽やかに清涼に仕上がった曲であり、キャラEDとしてはしっかりマッチした曲ですが、総合的に見ると一番落ちるかなとも。
 グランドEDの『きみがいた』は、永遠の誓いと壮大な夢の中で、どれだけ哀しみを背負い込もうときみがいてくれるだけで前に進める、という真っ直ぐな強さ、絆の強さをストレートに歌い上げていて、その選択には終わらない切なさ、哀しみが付随するけれど、それでも決して後悔することはないという意思が滲み出ていて、とりわけサビの力強さは必見、曲としても一番好きですね。これは本当にいい曲だし、まあ一応これが敢えてかかるあたりはトゥルーの位置づけは、とも言えるのですけどやっぱり難しいなあ。

 BGMはインストまで入れると40曲、それ抜きでも34曲と、冬編で追加されたことで水準は軽くクリアしてきたし、それでなくとも出来そのものは抜群だったのに尚更素晴らしい、という感じですね。
 特にお気に入りは3曲。
 『繰り返す季節の中で』は、出だしの静かな雰囲気から、徐々に音の重なりが広がっていって、それが生まれる絆の形とリンクするように調和し、協和してふくらんでいく過程の美しさが抜群で、正にこの作品のテーマをしっかり組み込んだ、タイトル曲に相応しい荘厳な仕上がりと言えるでしょう。
 『空虚な答え』は本当にどうしようもなくすれ違っていく悲しみの中で、それでも糊塗せざるを得ない人の弱さを、矮小さを、憐れみをもって見つめているような旋律の端整な美しさが素晴らしいなと思います。
 『こぼれ落ちた水』は本当に手のひらから零れ落ちるイメージが鮮烈に伝わってくる序盤の旋律、それがもたらす悲嘆を後半の音の重なりと広がりで切なく表現していて、本当に後半の出来が素晴らしい、最後まで聴かないと真価がわからない素晴らしい曲だと思います。

 その他お気に入りは、『夏の日差し』『木陰』『明日があるとしても』『どこまでも続く星空』『陽炎』『水風船』『夕凪』『神がいるというなら』『知らなければよかった事実』『虚無への怒り』『この感情は使命』『満ちる光』『辿り着いた景色』『無言の歯車』『刻むときは穏やかで』『干渉は厳禁』『忍び寄る悪意』『革命の火種』『人の手のぬくもり』『すべての願いは叶うことはない』あたりですね。


システム(9/10)

 演出としては水準かちょい上か、くらい。
 キャラ演出もそれなりには組み込まれているけど劇的って程でもなく、情感演出も場面によって効果的に用いられているけど圧倒的ではなく、全般的にそつなく、という感じで、基本テキストの印象を下支えする、演出がイメージを引っ張っていくような場面はなかったなと。
 ムービーも綺麗に、それでいてどこか儚く悲しげに、色合いも含めて象徴的に仕上がっていて悪くないですけど、突き抜けて好きと言える要素もなかったなあと。

 システム的には必要なものは揃ってるし、フローチャート完備で攻略そのものも難易度が多少は緩和されているので問題ないかな。
 敢えて言うとジャンプが少し遅いくらいで、ここはいつもながらフォント変えられないからそれは諦めてるけど、まあ特に不満はなかったです。


総合(95/100)

 総プレイ時間22時間くらい。共通4時間、夏編個別3時間ずつ、冬編4時間、真夏編が全部トータルで4時間くらいのイメージ。
 テーマ的にはかなり重いうえ、構成的にどうしても説明は適度に散らしたとしても、その伏線回収はほぼほぼ終盤で、となるから、夏編は夏編なりに工夫を凝らしているけどやはり前座、という色合いにはなっていて、特に夏蓮シナリオあたりは少しかったるさもあるかな、という感じ。
 それでも中盤以降の牽引力は素晴らしいし、全体構成のまとめ方、それでいて複層的な解釈を可能にする奥深さ、伏線がもたらすどんでん返しの巧みさ、様々な角度から見て実に完成度が高い作品だと思います。

 どうしても販売戦略的に、入口のところで盛り上がりというか、これでも買うんだ、と思わせる吸引力がないのが惜しい作品なんですけれども、期待通りにシナリオ面では間違いなく名作と言える仕上がりですし、まあいくらか考えてしまう部分もあり、解釈が行き届かない憾みもありつつ、出来れば多くの人に手に取って欲しい作品ではありますねー。

 2017/01/20追記、シナリオ+1点。
posted by クローバー at 15:13| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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