2016年06月14日

乙女理論とその後の周辺

 メリルにまた会えるなら買わないわけには!と力んでたんだけども、結構延期延期でテンションが張り切れない部分もあったなあ、なぁんて。


シナリオ(21/30)

 この作品は2013年7月にリリースされた、乙女理論とその周辺のFDになります。何気に三年近くも前なんですねこれ。。。
 基本コンテンツとしては、まず本編の際に明らかにヒロインルートの出来にばらつきがあった、とりわけ大蔵家の内紛に直接の関係性がないエッテルートの出来は本当におざなりだった、というのを公式的にも反省したのかは知りませんが(笑)、改めて共通のラストの部分からエッテルートそのものを再構築したエッテアナザーがメインとなり、そしてFDらしくヒロイン三人の後日談を綴ったアフターが三編収録されています。

 テキストはいつもの流麗華美、その中にシニカルな笑いやほのぼのとした雰囲気を絶妙に混ぜ合わせ、耽美で優雅な読み口を与えてくれる感じで、この独特の世界観はやはり中々他では見られない味わいだなあと思います。
 基本的に昨今はより端的な文章でサクサクテンポよく進むのが主流の時代だけに、こんな風に比喩や暗喩、引用を巧みに駆使しつつ、文章の格調とわかりやすさを両立させていくスタイルは貴重なので、今後も頑張っていただきたいと思いますね。

 ルート構成も特になにかあるわけでなく、タイトル画面からエッテアナザー、三人のアフターが直接選択できる形式。ただちゃんと見てない、というか当たり前のように初っ端エッテアナザーに進んだから不明だけど、流石にエッテアフターはアナザー後になるようにロックはされてる筈。

 シナリオ的には色々評価の難しいところはありますが、とりあえず主軸になるエッテアナザーについて。
 これは端的に言えば、主人公とりそなが求めるスタイルでの和解を、エッテという触媒が有益に働くことによって成し遂げていくという話になっています。
 結局のところ、りそなルートにせよメリルルートにせよ、直接交渉してその赤心をわかってもらうべき相手が衣遠である、という部分は大きくは揺るがず、ただしあのお方はどうしたって感情のみでは揺るがすことは絶対に出来ず、あくまで彼が認めるに値する才能の片鱗を見せつけて、そこではじめて交渉の席に着く資格が出来る、という構図であって。
 その視点で言えば、りそなとメリル、そしてそれを支える主人公という構図の中で、それぞれの才能を満天下に見せつけることでやっと、という道筋は、元々の大蔵家の和解のロードマップとしては、りそなと主人公が理想とした形とはどうしても少し違ってしまっている部分はあるのだと言えます。

 なのでこのエッテルートはその補完というべきか、あくまで主人公がその清廉な精神性を担保しつつ、情と理を持って切々と想いを吐露し、理解してもらい、その結果として本来そういう戯言に耳を傾ける虚心を持たない相手にも、その本気、誠意をわかってもらう、という構図になっていて、そのあたりは全ての答えが提示されている中で紡ぐ新たな物語としてはしっかり差異性を出せていると。
 そしてそういう方向性を色濃く打ち出す場合、交渉すべき相手は……という部分で、より情が素直に通じやすい方に積極的に接していく、という心情を紡げる、そういう下地をエッテとの関係の中で上手く育めているのだなと感じますね。

 どうしても結論ありき、の構成の中で、綿密なパズルを組み立てねば成立しない綱渡りのような物語故、流石に取っ掛かりの部分こそかなり恣意的に紡がれてしまっていてそこだけは残念ですが、そこからの真理の変遷、観念の組み立ての繊細さは、それゃもう本来のエッテルートの軽薄さがまざまざと浮き彫りになるしっかりしたもので。
 特にこの世界観では、一つ手綱の制御を間違えると、主人公達にこれでもかと災いを降りかからせてくる地雷があちらこちらに転がっているので、そういう半分以上外的要因に近いものを、キャラそれぞれの立ち位置と確固たる信念の確立によって巧みに抑え込む、少なくともそうあるからあれは起こらないんだな、と思わせてくれる構造にはなっていますね。

 そういう流れの中で、今まで以上に本来敵対側の面々の心情の機微、人格のありようも詳らかになり、主人公が虚心坦懐に突き進むことを決断してからは尚更、兄に向けてだとどうしても噛み合わない部分がするりと噛み合って、綺麗に歯車となって状況を動かしていくあたり、個人的には読んでいて気持ちが良かったですね。
 そしてそれをエッテがきちんとヒロインとして、恋人として物質精神の両面で支えていく部分も随所にしっかり組み込まれているし、その献身と慈愛に触れ続けていくうちに主人公の方も恋の熱に目覚めていく、というのは、元々エッテがメリルに対して抱いていたものを知悉し、それがゆっくりと枯れていく様まで見届けた経緯がある故に説得的ではあって、実に情緒溢れる、細やかで安らかな構成でした。

 ともあれ、様々な助けを得てより本質的に好む方法論を持って和解への道筋を辿っていき、いざそれが上手く行くか、と思えたところで直面するのが、より強固な感情の壁であり、互いに譲れないだけの事実と蓄積がある、そうなったときにどうしても権威、権力の前に主人公とりそな自身は力を持たなくて。
 そこではじめて、エッテの人格でない、氏育ちの面での有用性が快刀乱麻を断つ、が如くに煌いて、観念に固執した感情をより高みから解きほぐすだけの底力、伝統のもたらす力が主人公達を後押ししてくれるという部分に、このルートが存在する真骨頂にも似た何かは感じるし、まあ綺麗にまとめてきたなあと。もっともその前段階の苦難が、その場での恣意的な感情論に根差している分だけ、理屈の面での説得性はどうしても、ってところで、あくまで情緒の範疇で盛り上がるべき構成なのかなとも。

 そんな感じで十二分に面白い物語ではあったものの、やっぱり到達地点の明確な目標、ってのはこれまでの素材からで簡単に類推できるし、結論ありき、の中でいかに妥協を踏まえつつ望む形へ近づけていくか、それだと流石にどうしても新鮮な驚きとか意外性は打ち出しにくかっただろうことは想像に難くなく、実際浮き沈みはあってもどこか安心して見ていられる、というところで大きなカタルシスを得られるほどではないのかなと。
 というか、より本質的にはこれは、本編のメリルルート、りそなルートと鼎立的な構図の中で読み進めてこそ高く評価できる話、だとは思うし、この時点でも最低限他ルートのネタバレに触れないよう配慮されているのもそれがあってこそなのかなあと感じます。

 その意味で不満、というか、どうせなら本編部分も収録してエッテだけ差し替え、プラスアルファでアフターも、くらい大盤振る舞いしても良かったんじゃない?とは思うんですけどね。
 ぶっちゃけアフターに関しては水準レベルのFD、という評価より飛び抜けたなにかがあるわけでなし、総プレイ時間を踏まえても、これだけのコンテンツでほぼフルプライスで売るのはそもそも強欲じゃね?と思うわけで、FD出すから改めて本編もプレイしてね、という思惑が透けるところでもちょっとなあと。
 あっち買わせて、でもあっちのエッテはスルーしてね、なんて都合のいい話はないし、けど今回のエッテアナザーはそれこそ乙女理論シリーズの集大成でもありつつ、敢えて最初にプレイしても構わない、その後にメリルとりそなやる中で改めてその奥行きが見えてくる巧みな構造してるのですから、そのポテンシャルを最大限生かすためにも、ユーザビリティの面でも、本編同梱型にしてしまったほうが良かったと、まあその辺は作品そのものよりも販売戦略の問題なんですけどもね。。。

 そんな周縁的な思惑も含みつつ、アナザーとしては見事に作ったと感心はするけど感動まではいかない、というイメージ。
 その上での個々のアフターは、それぞれのルートで培われた人間関係の形を発展的に、前向きに展開させながら、恋人となった二人がより輝かしい未来を紡ぐために超えていくべき地平をサラッと触れていくスタイルになっていて、まあ読み口の独特さはともかく構成としてはFDの王道的なつくりですねる

 特に主人公やメリルは今までの境遇の中でもあれだけ高潔清貧な精神性を保ってきたという、世界観そのものを支える特異なキャラであるので、その彼らが人並の幸せを、と今更に言われたところで困惑するのは当然で、そのあたりの機微を丁寧に抑えつつも、周りの支えや励ましもあって、その本質をゆるがせにはしないままに少しずつでも道を見据えていく、その辺は実に楽しく読めました。
 なんだかんだで和解がある程度形になれば、大蔵家の面々はやっぱりめんどくさいけどそれ以上に愉快だな、って部分は、特に孫世代の大同が目立つ構図の中では粗が出ずに上手く回っているしほっとさせられるところですね。
 またりそなルートでの、改めての釣り乙ヒロインとの邂逅や切磋琢磨なんかもシリーズファンとしてはワクワクさせられるところだし、久しぶりに釣り乙もやりたくなるからやめてくれと思う向きすらあったり(笑)。

 以上、サラッと簡潔にまとめてしまいましたが、まあFDとしては水準の尺だし、内容としても極端にネタバレで掘り下げるほどの難しさはなく、基本このシリーズは思想面よりはあくまでも状況打破の方策面に読み解きの粋がある感じで、思想的には突き抜けてるけどわかりやすい人たちばかり、ってところで、私の食指をそっちに動かすほどの訴求力があるわけでもないというべきか。この辺はスタイルの問題でもありますが。
 少なくとも本編がとても好き、特に主人公の心根の美しさは愛すべき、と思うなら、今回のエッテルートでの葛藤も含めての心情の機微の炙り出しは必見と言っていいですし、本編で足りないピースをしっかり埋めてくれている、という意味でも意義深い作品で、プレイして損はないと思いますね。


キャラ(20/20)

 まあ特に新キャラとかいるわけでもないし、より深くその気質を掘り下げているのもエッテくらいなので評価自体は難しいんですが、元々の世界観の美しさと、特に主人公とメリルのありようは大好きだったわけで、その雰囲気をまた少しでも味わえただけで嬉しかったし、多少でも成長的な部分も見られたしそのま点数もスライドでいっか、と。
 
 エッテに関しては根本的な性質そのものに変わりはないけれど、自身の未熟なところや、立場に守られて鍛えることをおざなりにしていた部分を、主人公達とより深く関わっていく中で省察し、理解し納得してそれからに素直に反映させていく、その過程の見せ方は非常に丁寧だったし、その上で淡い恋愛観が絶妙に絡んでくるのも素敵な味付けで、確実に本編以上に魅力的にはなっているだろうと思います。
 そしてやはりメリルはすんばらしく可愛くて満足でしたが、出番が多くないのと、どうしても平和になった世界の中だと相対的にその輝きが乏しくなるというか、周りが黒ければ黒いほど、その白い輝きは目立つって部分はどうしてもありましたからね。エクレア食べたい。
 りそなも彼女なりのスピードで進歩していくし、感情も豊かになっていってなんだかんだ可愛くて良かったです。

 大蔵家の面々だと立ち位置的にアンソニーが株を上げたのはあるだろうし、駿我もよりその思惟のありようを赤裸々にしてくれている感はあって、こういっちゃなんだけど大よその部分で、衣遠の良くも悪くも強烈過ぎる個性と確固たる精神性のありようが、今までの軋轢に多々拍車をかけていた、ってのは客観的事実なんだろうなあと。。。
 あと地味にカリンさんが可愛いので攻略したいです(笑)、難儀ですな。


CG(16/20)

 元々本編自体が続編故にCG少ないなー、という中、更にFDという事で新規素材投入量としてはもっと少なく、そしてやはりフルプライスとしての水準量も担保されてはいない、かつ本編に比べてみるとまた若干1枚絵の出来そのものも微妙になってるかなあと、その辺合わせ技で勘案してこの点数。一番目新しいのが背景ってのもね。。。

 立ち絵素材はそれこそ新規登場のカリンくらいしか目新しいものはなく、服飾などはせめて新規分があってもいいのになぁ、とは思ったけど致し方なし。相変わらずメリルの立ち絵は超絶に可愛いです。

 1枚絵は全部で61枚と本編より更に少なく、値段踏まえても不足気味。まあ本編キュッパチだったんだからこれでもFD水準です、と言い張られるとアレだけど、まだ普通にハチハチでフルプライス出すところの方が多いわけだしねぇ。。。
 特にお気に入りはりそなへの膝枕かな、あの安心し切った感じは実に可愛かった。
 その他お気に入りは、りそな駆け出し、コート、舞台、キス、騎乗位、パイズリ、バック、ウィンドゥ、メリルお化粧、添い寝、手淫、騎乗位、バック、エッテ偶然の出会い、お守り、来訪、キス、インタビュー、ゴスロリ、騎乗位、舞台あたりですかね。


BGM(15/20)

 新規曲はボーカル1曲、BGM4曲とかなり少なく、出来も悪くないけど本編ほどでは、という感じ。
 OPの『Rainbow Blossom』は清冽な空気が駆け抜けていくようなイメージで、これまでのシリーズに比べてやはり閉塞感が抜け、その分神秘性や芸術性もより浸潤して希釈された感じでもあり、曲として完成度は高くサビとかも綺麗でいいんですけど、個人的には釣り乙、おとりろ、そして今回と少しずつOP曲の好き度合いは下がってきてるかなと。

 BGMでは『アントワープの4人』『透き通るような曇天の中で』が好きですね。


システム(9/10)

 演出面は本編同様、日常も面白おかしく、そして舞台などの演出はかなり効果的に鮮烈に、と上手く仕上がっていると思います。
 ムービーもいつもながらセンスのある構図の中で雰囲気をしっかり引き出せていて悪くないですね。

 システム的にも本編準拠で。まあ時代性踏まえると、ってのはあるにせよ、FDでもあり特に不便なところはなかったですしね。


総合(81/100)

 総プレイ時間12時間くらい。エッテアナザーが6時間、アフターが2時間ずつという感じです。
 やはりほぼフルプライス、と考えたときに尺の短さは気になるところだし、内容としてもかなりまとまっていて苦慮は感じるけれど、でも半年延期したんだからもう少し頑張ろうよ、と思う向きがないでもないと、その辺の心情が影響しての配点になっている感じです。
 釣り乙シリーズの風土が好きな人には当然間違いなく高い質の楽しみを提供してくれる作品ではあると思いますが、細かい部分での不満はちょこちょこあるかな、という感じ。というより、これからプレイしたい、ってユーザーの為に完全同梱版は絶対に出しておくべきだと思うのですがねぇこれ。
 私も正直、時間があるなら本編再プレイしてからやりたかったなぁ……。

posted by クローバー at 05:21| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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