2017年02月16日

人気声優のつくりかた

 初見の印象的には強く惹かれるものはなかったのですが、体験版をやってみたら、声優、という職業にスポットを当てての綿密な取材に基づく掘り下げ、丁寧な構成が素晴らしく楽しめて、ヒロインズもみんなとても可愛かったので購入。

シナリオ(26/30)

 禍福は糾える縄の如し。

★あらすじ

 主人公は幼い頃から役者として活躍してきました。
 しかし一年前に、一家の大黒柱であった父親が急死した事で、これからもずっとこの、役者という不安定な職業に従事し続けていいのか、もっと家族の傍に居る時間を作るべきではないかと煩悶し、結果一時役者業を休養してこの一年、無難な学生としての日々を過ごしてきました。

 そんなある日、主人公の母親が持病のぎっくり腰を再発させます。
 彼女は主人公の通う、芸能コースに力を入れている学園の、特に芸能人だけを集め、自分の夢に邁進できる環境を提供する、というコンセプトで運営されている舞風寮の寮母を一人きりで務めていました。
 しかし今度ばかりは手術と長期療養が必要となり、代わりのあてもすぐには見つからない状況の中で、主人公とその妹の小夏に寮母代理としてのお鉢が回ってきます。

 仮にもそこは女子寮なので躊躇いはありましたが、誰かの笑顔を紡ぐ仕事をしてみたい、という想いもあり、小夏と共に寮に出向いて。
 寮長であり、プロの声優であり、クラスメイトでもあるいつみからは、女子寮に若い男子が住むことに若干の懸念をいただいたものの、向こうとしても背に腹は代えられないところもあり、結果的に二人は温かく寮母代理として迎えられることに。
 早速初日からいただけないハプニングなどもありつつ、こうして主人公の新たな生活スタイルが確立していきます。

 それと並行して、主人公はバイト中に、目下若手の中で一番の出世株、人気声優であり、自身もファンであるくるしーこと祐果子とひょんなことから縁が出来て。
 その流れで彼女を寮の仲間達に紹介するなど、今までになかった華やかで賑やかな人間関係の輪が膨らんでいって、更には色々と触発された小夏がいきなり声優の道を志す事となり、日常は大きく変貌していって。

 そんな彼女達を献身的に支えていく中で、主人公は普段の笑顔の裏にあるプロならではの苦悩、焦慮、煩悶などに触れる事も多くなり、それをなんとかしてあげたいと奮闘するうちに、少しずつ特定の相手への想いが強くなっていくのです。
 これは主人公とヒロインが、互いを鏡としてこれまでの来し方と未来のあるべき姿を見つめ直し、様々な苦悶を跳ねのけて前向きで明るい将来を描いていく為の、愛と努力と信念の物語です。

★テキスト

 全体的にフラットで尖ったところもなく、スラスラ読み易くわかりやすい簡潔な文章に仕上がっていると思います。
 時折おっ!と思わせる比喩なんかも散りばめつつ、基本的には善良でひたむきなキャラ性をしっかり提示する方向での綴り方が目立ち、かつ青春ならではの感情の高ぶり、盛り上がりなども丁寧に落とし込んでいて、日常が非常に華やかで楽しく描けているなと感じましたね。
 
 また、文章の質そのものとは多少ベクトルが違うかもですが、この作品は非常に声優という仕事に対する綿密な取材が下地にあるな、とはっきり感じさせてくれます。
 特に感性的な部分の説明を簡潔明瞭に言語化して落とし込む作業は、きちんと取材の過程で意志の疎通が成り立ってないと引き出せない、落とし込めないレベルのものに仕上がっていたと思いますし、元々真実度78%、なんて売り文句がついていますが、実際にそういうリアリティーある表現が多彩であるからこそ、物語性にもそれが必然的に波及している、という意味で、いいテキストだったなと感じています。

★ルート構成

 こちらはオーソドックスな、ヒロインの心境にどこまで踏み込むか、関わるか、その蓄積度合いでルート分岐するタイプになりますね。
 比較的この作品のつくりで面白い、と評価できるのは、三人のヒロインに対して相対的、或いは絶対的な踏み込みの幅の差異が細かく要求されている点で、ここは後々検証してみたのですが、誰にも踏み込まない、或いは均質に踏み込むと、元々好感度が高いくるしーに、妹以外に踏み込まなければ妹に、いつみに関しては他の子以上に強く踏み込まないと、と、ルートインの難易度に序列がついている部分。

 実際にその差異が、恋愛的な部分も含めての難しさとリンクはしているんですよね。

 それまでで孤立感を強めていたこともあり、共通の時点で確実に主人公に依拠するだけの素材が揃っている祐果子。
 本質的に想いはあれ、それがタブーであることは理解しているから、特別視されない限り自分からは踏み込めない小夏。
 その気質的にも、元よりの関係静的にも、より大胆に踏み込み関わる決意を持たなければ応えてもらえないいつみ。

 そういう精神性と合致する形での序列のつけ方は面白いアイデアだと思いますし、といってルートガイドがあるから攻略自体は別に難しくない、という点で、程よい匙加減になっていると思います。
 ただ贅沢を言うならば、そういう差異を確立させるのに、本当に必要最低限の選択肢しか用意されておらず、個別の出来を下支えする、という観点においてはもう少し重厚感、積み重ねがあっても良かったな、と思う部分はありますね。

★シナリオ(大枠)

 人気声優のつくりかた、というタイトル通り、主題としてはヒロイン達が声優として成長していく姿を描いていく物語です。
 その成長の為に必要な過程、手段、エネルギーとして、仲間の輪の広がり、寄りかかれる関係性の構築、なかんずく主人公との恋愛関係が要所で絡んできて、その変化が良かれ悪しかれ声優としての在り方、今後のあるべき姿への影響を及ぼしていく、という構図は基本的に一貫しています。
 といって基本どちらに手を抜くでもなく、ヒロインが三人、ということもあり、概ねひとつひとつの物語をしっかりじっくり丁寧に掘り下げ、緩急をつけて、声優という仕事の大変さやままならなさ、けどだからこその歓びややりがいの部分まで丹念にシナリオの中に落とし込めているし、全体的に現実的な部分と抒情的な部分のバランスの取り方が上手いなと感じました。

 ある程度共通の時点で、それぞれのヒロインに対しての救いや、前向きさを喚起する状況というのは確立していて、それがために、個別で主人公と懇ろになればそのプラスの変化がブーストしていく、けれどそうでなくてもコツコツ地道にいい方向には進んでいける、という印象を与えるつくりなのも心に優しいものはあります。
 それを補完する上での摺り合わせ、整合性の部分では多少粗く感じる点もなくはないですが、それも微細なもので、個人的には特にいつみルートのつくりこみの綿密さ、丁寧さにはほとほと感心させられましたね。

 全体像として、声優というお仕事に興味がある人なら確実に楽しめるだけのものがありますし、恋愛模様としても充分合格点、土台が土台だけに、奇を衒ったような展開は一切ないですが、じんわり心に染み入る素敵なシナリオになっていると思います。

★シナリオ(個別・ネタバレ白抜き)

 個別評価としては、いつみ>>祐果子>>>小夏となります。
 かなり振れ幅がありますが、これはいつみシナリオが想像以上の秀逸さだったからです。祐果子シナリオでもかなり高水準ですし、一番低く評価した小夏にしたって水準ちょい上くらいの出来にはあると思います。

 本来私のスタイルだと、評価の低い側から書いていくのですが、今回は後々の語りやすさも踏まえて上から順に進めます。加えて多分結構シナリオ展開に触れてしまうので、念の為全部まとめて白抜きにしておきます。

 まずはいつみシナリオ、これは本当に丁寧で緻密で、読み手の判官贔屓に卑怯なほどに波状攻撃を仕掛けてくる、素晴らしく心を揺さぶられる出来になっていると同時に、本気で声の力の限界を試しにかかってるシナリオに感じました。。。

 いつみというヒロインは、プロとしてデビューしていながら鳴かず飛ばす、その生真面目な性格が災いしての、この子ならでは!という突き抜けたものを持たない秀才型の声優に位置づけられます。
 日々の生活を垣間見る中でも、その根底にある完璧主義、自分に対する厳しさは相当のもので、それ故に周りからも、どことなく危うさは感じつつも不用意に手を差し伸べられない壁を感じさせる存在、とも言えて、故に性格的な部分で波長の合う主人公と向き合う機会を得られたことがまず大きな僥倖になりました。
 それでも、選択肢の地点で語ったように、簡単には傾斜し切ってくれない芯の強さ、自己を律する能力に長けているところがあり、それがくっきり見えていればこそ、個別前半の内容がまずきらりと光るものになっています。

 ここでは相変わらず仕事に恵まれないいつみに対して、今まで以上に主人公が踏み込む形で信頼を高め、いつみも内心の不安を押し殺してなお前向きに、積極的に仕事を得られるための努力を二人三脚で重ねていく事になります。
 後々の展開、或いは他のルートでの立ち位置を見ても見えてくるように、実際はその時点でいつみが飛躍するための素地は整っていて、けどそれが現実に波及してくるまでにはタイムラグがある、という状況だったのですが、それに気付けない中で、より体当たりに壁にぶつかっていって跳ね返される経緯が繰り返されるわけですね。

 このあたりの面白いところは、これが結局、主人公との関係を深め、恋愛的なものも込々で変化していく過程があればこそ、必然的に生まれたより大きな苦悩、試練、という部分なんですよね。
 上で触れたように、共通の時点で最低限花開く素地は確立しているために、今まで通りコツコツ頑張ってても、その開花の速度はどもかく、声優としてきちんとやっていけるようにはなるし、その端境期においてジタバタしない分だけ心の落ち込みも少なく済んでいる、というのが他ルートでのいつみのありようで。
 でもここでは、なまじ二人で頑張って、二人分の期待を背負っていく中で、その分だけ余計に挫折に対する免疫が低くなってしまうという、その皮肉な展開を非常に上手く組み立てているなと感じました。

 ともあれ、そうやって傷ついた心を奮い立たせる為のカンフル剤的に、二人の関係が大きな一歩を踏み出すことで、事態がオセロの目のようにくるくると好転していく様は本当に鮮やかで。
 その極端な変化にしても、事前の報われてない、と感じていた頑張りが、潜伏期間を経てまとめて開花し、連鎖反応・相乗効果を引き出してのものだ、ってのが手に取るようにわかる構図になっているし、その上でそういいうしっかりした評価が与えられるチャンスを得たならば、それまでにいつみが積み重ねてきたものは決して裏切らないわけです。

 このシナリオのなにが素敵って、ポンポコティーン!なんてギャグ感満載のお仕事絶賛の流れで、ふっつーに涙腺を刺激されるところなんですよ。。。
 なにせそこまでの経緯にかなりじっくりと尺を使って、これでも駄目む、あれでも駄目、という流れを散々見せつけられ、いつみに対する同情と共感が存分に高まっている所なので、遂にここまでの影日向ない努力が認められた!となるだけで、もうそれが感情を大きく揺さぶるだけの破壊力を備えているというべきでしょうか。
 この辺構成としては非常に古典的で王道的ではありますが、やはり土台をしっかりと作り込んであるか否かで、その威力は全然変わってくるよなぁ、という当たり前のことを正しく再確認させてくれる内容、展開と思います。

 結局のところ、芸事においては、どうしたって努力だけではどうにもならない巡り合わせ、運不運が成功の秘訣として付きまとうのはどうにもならない事で。
 けど同時に、どんなに頑張っても結果としては仕事がもらえるか否か、100か0かで黒白色分けされてしまう残酷さもあり、だからこの世界で踏ん張っていくには、その結果と経緯の評価を自分なりに切り分け、間違っても同一視して、二分法的な負の自己評価に陥る事のないメンタルを、心の拠り所を持つべきだ、ってのは、祐果子シナリオでも色濃く出ていましたが、ここではより明晰明白に綴られているなと感じました。

 主人公という拠り所を得た事で心の余裕を持ち、それでより自分らしい、自分が目指す声優像へと邁進していく一里塚となる、というのは、程度の差はあれどのルートでも共通して見受けられる大きなテーマになりますし、タイトルとも合致した印象です。
 とりわけいつみと祐果子に関しては、ギリギリのバランスで、声優としてのより高いステージへの飛躍、という「目的」に対しての、必須「手段」としての恋愛、という配置が絶妙に嵌っていて、それはやはりヒロイン三人の分だけ、声優というお仕事に対してのアプローチ面、その渦中においての苦悩にしっかりスポットを当てられているからこそ、なのでしょう。

 その上で、元々波長が合う、という点も含めて、恋愛模様という意味でも一番順調、かつ多彩なおかしみが散りばめられており、シーンに雪崩れ込む展開などでもそこまでのシナリオ内容、声優ならではの面白ネタを自在に組み入れていて、まぁ色んな意味で笑わせてもらいました。ヘッドホンHとかその発想はなかった(笑)。
 また、他に比べてもこの個別ルートは特に声の力を試されてるなぁ、って感じで、ひとつのシナリオでここまで演技の幅が問われるってのはまず滅多に見られない構成で。
 遥そらさんフリークとしてはその点でも非常に楽しませてもらいましたし、強く感心もしましたし、沢山笑わせてももらって、その点でも非常に満足度の高い仕上がりになっていると言えるでしょう。

 次いで祐果子シナリオ、これもいつみには細かい部分で及ばない感はありますが、素敵なシナリオでした。

 元々のファンであったところに、その内面までもが天使度マックスなのを知って、ヒロインの中で一番傾倒しやすいポジションにいるのは確かな上に、祐果子の側でも、それまでの孤立・孤独から救ってくれたというのみならず、それ以前のさやかな心の支えであった関係もが実は、と、主人公が気付かない部分での依拠が蓄積されている為、一見遠い高嶺の花のようで、実は一番結ばれやすいというスタンスはわかりやすくていいですね。

 ただこのルートだと、より主人公の気遣い・心配が加速していく要因として祐果子の病を利用しており、それ自体が経年劣化的なものであるのが、他ルートとの整合性の点で少し難しさを孕んでいるなと。その意味では他のルートでそういう事がありました、くらいの言及は欲しかったかもしれません。
 主人公との出会いの前に、彼女を孤立に追い込み苦しめていた筆頭が、あの虎の威を借る狐宜しくのマネージャーであり、そして虎が心優しいのをいい事にそちらにまで居丈高に振る舞っていた、その心労が直接的な病の原因であるなら、それは半ば外的要因で。
 主人公により傾倒すればこそそうなった、というタイプの内的要因とは別の話なので、そこの区分けはきちんとして欲しかったと感じますし、他ルートでもそれがきっかけでマネージャー交代、いままでよりは仕事に追われない安息を得られましたよ、という確信をきちんと提供してくれる心遣いがあればなお良かったのに、とは思いました。

 ともあれそんな経緯があって比較的スムーズに結ばれて、そしてこのルートの面白いところは、公私ともに充実して心の余裕が出来たことで、今まで気に留めてはいても実質的にリソースを振り分ける余裕のなかった部分、すなわちアイドル声優としての自分の今と、本来目指したい姿との乖離をどうしていくか、という事で。
 近年はどんな業界にも「美人過ぎる」なんておちゃらけた冠名をつけて報道するのが目立ちますが、ある程度仕方ないとはいえ、本義的には役者である以上、役者としての評価、承認欲求の充足が欲しいのは当たり前の事です。
 けれどそれ以外の部分での評価・人気が確立してしまった流れに対し、わざと棹差す面の皮の厚さもなければ、それに反駁する勇気も持てなかったのが以前のアイドル声優「くるしー」だったわけですね。

 けど主人公と付き合いだし、応援される中で、本来のやるからにはとことん、的な性格が徐々に顔を覗かせるようになっていって、そうなると逆に、今までの自分に対する周りの評価や声が怖く感じてしまう、演じることそのものが怖くなってしまうという心理に陥っていって。
 そのあたりの心情のズレと転落の過程がとても丁寧に綴られているなと思うし、自分を見失いかけたところに、ふと目に止まる後ろ向きの評価が追い打ちをかけて、という谷の急落の紡ぎ方は中々にリアルさがあり痛々しく、文字通り情報社会の闇、有名税の重さをひしひしと感じさせるものでした。

 それでも全てを受け止め、評価して支えてくれる人は、仲間はきちんといる、そういう現実的なフォローから少しずつ前向きさを取り戻していく流れも、地味ではあるけれど堅実で心に染みるものがあり、やはりそれは彼女が声優として一段上のステージに昇り詰めるためには必要な試練だったんだな、と思わせる説得性をきちんと有しています。
 これもまた、いつみ同様に、役者商売のままならなさに対する心持ちの確立がしっかり浮き彫りにされた、地に足の着いたいいシナリオですし、その上でのラストの展開も、そりゃあ物語だから、って恣意的な都合の良さはあるにせよ、実際にそういう何気ないことが限りないパワーに転換されていく事はあるのだろう、と素直に思わせる、しみじみと感慨深いラストになっていて、心打たれるものがありましたね。
 その姿を見ての自身の道行きを、という点でも、いつみシナリオほど明確な答えを導き出せているわけではないのはありますけれど、総合的に非常に完成度が高いと思います。

 しかしアレだ、午前三時スタートのラジオ聞いてからネトゲして、そこから部屋に乱入してHしてピロートークしてたら、君ら寝る時間なんてなくね?若いっていいね、って思う向きもありましたとさ(笑)。
 ヒロインとしては正直いつみを凌駕する可愛さだったなと思うし、恋人としての仲を深めていく事で、その愛くるしー天使の様の端々で、少しずつお茶目だったり意地っ張りだったり、拗ねたり甘えたりという挙動を見せてくれるようになる感じは本当に好きでしたねー。ごくたまーに出てくる、右向きでの含み笑い、したり顔が物凄いツボでした。。。

 最後に小夏シナリオですが、これは上二つの素晴らしい完成度、奥行きと比較してしまうと、ちょっと相対的に残念度が目立つ出来にはなってしまっているかなとは思います。

 元々相当に仲のいい兄妹、という下地がある上で、小夏が声優という新たな舞台に果敢に挑み、時に怯み、挫け、それでもと奮起して頑張る姿を見て、色々な意味で今までと同じような目で妹を見られなくなる、小夏にしても、今まで以上に頼りにする中で、秘めていた想いを抑えきれなくなる、という流れは、まず妹恋愛物としては及第点はつけられる取っ掛かり、展開だとは感じます。
 ただこのルート、というか小夏に関しては、他の二つに比べて声優としての頑張りを試されるシーンが、共通での声優のお仕事の実態紹介とセットで語られている比重が高く、いざ個別に入ると新人声優としての苦労の面での掘り下げが物足りなく感じるんですよね。

 それは他ルートがその点で非常に綿密、という相対的な部分での貧乏籤でもありますが、ただどうしたって、別に敢えて声優でなくても可能な新人いびりだけが壁となり、そしてそれを克服していく過程もおざなり、となると、どうしても主客が転倒している感じは否めないんですよね。
 他二人はタイトル通りに、あくまで声優としての成功を一義的な目的として描けているのに、この流れだと小夏ルートは、そういう仕事面での頓挫のほうが「手段」であり、妹として恋愛に踏み込むという「目的」の為の一要素に過ぎないような、倒置的な印象を受けてしまうのが勿体ないなと感じました。

 純粋に尺的にも、他の二つのルートよりかなり短く感じましたし、展開に飛躍も感じましたよね。
 筋道としては問題ないし、結論としてのありようもらしさに満ちていて、そこに家族の想いが存分に詰まっていていいのですけど、それならもっと家族にまつわる思い出やエピソードを掘り下げる場面はあって欲しかった、声優としての道を転換する上でも、なにかそれを明確に企図できるだけの自信に繋がる具体的な成功事例が欲しかったなと。
 特に片野さんなんか、あのフェードアウトじゃ本当に何しに出てきたの?って話で、そんな薄っぺらい勧善懲悪でお茶を濁さず、芝居の中でぎゃふんと一泡吹かせるような展開の中での踏み台に据えて欲しい立ち位置だったし、そんな風にやり込めたけれど、でもやっぱりこういうの性に合わないよ、的な納得から、目立たないけど必要な声優、という道を模索する手掛かり、きっかけを紡いでいくくらいの丁寧さはあって良かったんではないでしょうか?

 まあホント、なまじ他の二つが素晴らしい故の弊害でもありますし、キャラとしては当然快活で愛らしく、とてもいいムードメーカーであり、このルートなりの面白さもそこそこはあったんですけどね。生ラジオでの鞘当てには笑ったというか、ぶっちゃけくるしーどのルートでもラジオ私物化し過ぎである。。。
 ただここでの、祐果子のグラクルカミング済みとかも、整合性の面では配慮して欲しい肝要な部分だとは思うし、言い方は悪いけど他の二つのシナリオに比べて総じて粗雑さが目立ったかな、というところです。


★シナリオ総括

 ヒロイン三人、ということで、値段に見合うシナリオがしっかり展開されるのか危惧していましたが、杞憂に終わりましたね。
 特にいつみシナリオに関しては、理路の上でも情緒面でも非常に安定した素晴らしい内容に仕上がっていると感じましたし、このルートがあるだけで名作判定待ったなし、という所ではあります。
 ただまぁ、素材が素材だけに極限まで突き抜けて、とはいかないし、素材のポテンシャル的には最大限に引き出せている、というイメージで、採点的にもそういう意味での天井は一応あるかな、というところです。

 加えてやはり細かい齟齬や、ルート間毎の温度差など、看過しづらい欠点もないわけではなく、そのあたりが全て丁寧にフォローされていたらあと2点くらい伸びたかもなんですけど、総合的に勘案して色々悩んだけれどこの辺が妥当かな、と、思います。


キャラ(20/20)

★全体評価

 生き馬の目を抜く芸能業界が舞台とはいえ、そこは物語。
 基本的には善良で前向きで、それでいつつ役者として、プロとしての矜持や覚悟、信念がしっかり関係性の中にも浸透しており、そこに人格の奥行き、コクのようなものがしっかりと抽出されている感じで、とても個性の彩りがくっきりしたキャラを作り出せていると思いますね。

★NO,1!イチオシ!

 最後まですっごくすっごく悩んだんですが、純粋にキャラの好き度合い、という意味でくるしーこと祐果子を最上位に取りたいなー、と思います。
 とにかく基本的におっとり朗らかで心優しく、裏表もなくて気遣いも出来て、文字通りに天使様というに相応しい人格でありつつ、それがこの業界で自我を張って生きていく上では逆にマイナスになっている面もあり、そこから本来の気質も少しずつ発揮できるように成長していく、って様が見られたのは本当にときめきましたし、都度都度に可愛さが炸裂しまくっていて大変でしたねー。本当にくるしい人にされてしまいました(笑)。

 みんなと仲良くなってからの歓びを滲ませての振る舞い、恋愛面での初々しいアプローチと一途な想い、中が深まるにつれてちらほらと垣間見える気の抜けた表情、感情のひとつひとつが、その境遇の難しさによってより一層キラキラと輝かしく綺麗に描かれるし、その上で一応は声優として一番成功している、という立場もあっての支え役も無難にこなすし、作品全体ですごく印象度が高かったと思います。
 いつみも基本的に、そこにいるだけで気分が引き締まる、鏡となるという意味での、目に見えない貢献度は凄く高い子だとは思うんですけど、やはり具体的に支えになれる、という意味では、仕事面ではこの子が、生活面では主人公と小夏が、って譲るところもあったりで、そこも含めて僅かにくるしーに対する愛が上回ったかなと思いますねー。

★NO,2

 いやでもですね、個別でのいつみの爆発力は本当に凄まじかったんですよ!
 基本的にすごく自律的で善良で高潔で、自分にはストイックで誰かの為には手放しで頑張れるなんて完璧優等生だけに存在感はあるのですけど、じゃあ具体的に何が出来る、という中で、どうしても自分自身の事でキャパいっぱい、ってところはあるからなぁとは思うのですけど、その分だけ個別での苦悩の緩急、恋愛においてのらしい甘え方なんかは素晴らしかったと言えましょう。

 ともかくこれだけ不遇に苛まれても自分を保って前を向ける強さには瞠目するし、けれどすこぶる痛々しくもあって、そういう部分が緩和されつつ本来の気質がより輝くステージ、状況へステップアップしていくのは本当に感涙ものでした。
 そうなれたことに対する常々の感謝を素直に吐露できる清潔で澄明な精神性もやっぱり素敵過ぎますし、生真面目一辺倒でもなく結構な弄られキャラでもあったり、演技のシーンでのはっちゃけとかもCV力コミコミでひっじょーに面白かったですし、凄く好きな子にはなれたと思います。

★その他

 小夏もすごくナチュラルにいい妹だし可愛いけど、シナリオ面での補佐が他に比べると薄いし、どうしても妹だからこその据え置いた可愛さの方が魅力的に映ってしまうところはなくもなく、ってイメージですね。
 無論恋人としての距離感もいい味出してますし、好きなんですけど、インパクトではどうしても二人に譲ってしまうなぁと。

 そして個人的にはすごくすごく音杏が好きでしたねー。
 基本的におちゃらけ賑やかしがメインとはいえ、きちんと見るところは見ていて、大切な相手の心のケアを踏まえて敢えて、って雰囲気が要所に出てるし、自身も仕事の上で悩みを抱えているところからも、真に迫った助言や共感をスッと吐露して支えてあげられているのが素敵だなと。
 今回の場合は声優、がメインスポットだから攻略対象にはなってないけれど、正直普通にヒロインであって欲しいと思うくらいには魅力があったと思います。

 かなめや圭次郎、鉄心なんかも、それぞれにしっかり主人公たちの奮闘を見守り、さりげなく支えてくれている感じで、面白くも優しい世界観を構築する大きな力になっていましたし、これだけ立ち絵キャラ絞っている中でしっかり雰囲気を作りこめているのも、その辺のキャラ立ちが非常に鮮明だからだろうなぁと感じますね。


CG(17/20)

★全体評価

 まず基本的には、キャラデザインそのものもヒロインが全員ボインしかいないってのと、画風にしても特別好き、ってところはないです。
 絵柄としては特段可愛過ぎずに地に足のついたシルエットがあるイメージで、程よく可愛く程よく官能的、ってところだし、作風とキャラ性にはそれなり以上にマッチしているとは思います。
 けど質・量ともに値段考えれば水準的ではあると思うし、その上で自分なりの突き抜けた魅力を見出し切れなかったところで、点数としてはここまでになるかなと。

 というかですね、ぶっちゃけ立ち絵に関してなんか、ヒロインよりもデザインなど総合的な部分で音杏の方が好き、って時点で察してくださいってものですよ。。。
 あと折角の黒ストをHシーンで蔑ろにしやがって〜!という憾みもあり、総合的にこうねうんうんわかってるねー!って言える場面があんまりなかったというべきですかね(笑)。

★立ち絵

 ポーズはヒロインで3種類、サブで2種類とそれなり、ただ腕差分はなかったと思うし、元々立ち絵人数少ないのでこのくらいは、ってところ。
 ポーズ自体はそれぞれの個性がしっかり生きていて良かったし、総じて1枚絵よりは安定して可愛かったとは思います。
 お気に入りは祐果子右向き、正面、いつみ左向き、やや右、小夏正面、やや左、音杏正面、やや右あたりですね。

 服飾はヒロインで4種類、サブで1〜3種類と、まあ一応学園ものではあるけど、あくまで声優としてのお仕事がメインなのと、時系列的に大半夏休みってのもあり、服飾的にはあまりサービスなく必要充分なだけ、って感じですね。
 ヒロイン3人に稽古着があるのが特色と言えばそうですが、それを含めてももう一歩華やかさには欠けるところはあり、デザイン的にも実は音杏の着こなしが一番好きというね。…………はっ、そうかモデルだからか(笑)。
 お気に入りは祐果子制服、私服、パジャマ、いつみ制服、稽古着、小夏稽古着、パジャマ、音杏制服、私服、パジャマあたりです。

 表情差分は特別多くはなく、遊びも少な目で、基本的には真面目な作風に合わせた感じ。無論喜怒哀楽はしっかり色づいているし微細な部分も拾っていていい感じですけれど、時折あれ?ってのもあったりなかったり。
 
 ただその中で特にお気に入りが、祐果子の右向き含み笑いしたり顔。シナリオでも書いたけど、基本こういうからかい顔なんかあまり頻出しないのもあり、レア度に加えてそれでも愛らしい、という破壊力満点のお顔でございます。
 その他お気に入りは、祐果子笑顔、きょとん、照れ目逸らし、ジト目、苦笑、拗ね、悲しみ、いつみ笑顔、微笑、怒り、気まずい、照れ困惑、悄然、ジト目、小夏笑顔、驚き、怒り、真面目、照れ笑い、ジト目、音杏呆れ、怒り、心配げ、驚き、自嘲あたりですね。

★1枚絵

 通常絵が全部で90枚と、単純に量的には水準かな、というところ。
 ただヒロイン3人なので、当然ながら一人頭の配分が多く、シーン数も5個ずつとそれなりにあるながらねそれ以上に日常のさりげないシーンでもしっかり1枚絵を使ってくる贅沢さがありますね。その分だけ演出面でも1枚絵に依拠している感はあれど、この辺は評価していい部分です。
 ただし出来に関しては善し悪しが結構くっきりしている印象もあり、表情にしろボディラインにしろ、すごく可愛く感じる時と、バランスが崩れて感じる時の差が結構あったな、とは思いますし、その上で私的に特別心惹かれる、というまでの破壊力はなかった感じ。

 お気に入りはページ順に、いつみの仕事、着替え、収録、買い物、耳に痛い話、読み込み、悲痛な現実、観覧車、義理の妹、デート、腹筋キス、キレッキレです、肩を並べて、正常位、フェラ、立ちバック、騎乗位、バック、添い寝、小夏収録、お化け屋敷、ごろ寝、台本と向き合って、腕組みデート、祐果子に相談、ラジオ、クレープ、家族、私の舞台、フェラ、騎乗位、バック、添い寝、祐果子出会い、ステージ、感涙、衝撃の真実、収録、歓迎会、ランチデート、読み込み、怪談、告白、演技って楽しい、正常位、屈曲位、フェラ、背面座位、バック、添い寝、パジャマ女子会、酔い愚痴あたりですね。


BGM(16/20)

★全体評価

 まずフルプライスとして考えた時に、純粋に量的に全然足りてない、とは言いたいですね。
 まあボーカルはともかく、BGMがかなり少なくて、作数に合わせてコンセプトを絞った、という見方も出来るけれど、実際的にはかなりシナリオ面で辛いシーンとか感情が爆発するシーンとかもあるわけで、そういうのを音楽的にも段階的に下支えしていく幅は正直欲しかったなと思いますね。

 というのも、いつみシナリオやっててあの雨中の慟哭シーンを見て、お、中々このシーンの悲しみの曲いい感じじゃない?って思って、どの曲か調べにいったら『しょんぼり気分』って。。。いや待てしょんぼりってレベルじゃないだろー、とか、これが一番極端だけど、そういう齟齬が結構感じられたのと、総合的な出来にしても小粒ながら抜群、とまではいかないところで、この評価が限界かなぁってなりました。

★ボーカル曲

 全部で2曲ですね。
 OPの『虹色ミライ』は軽快なリズムで明るく華やかで、とにかく前向きに夢に向かって邁進するキラキラ感がそつなく醸し出されていて、メロディライン的にもまとまっているし結構好きな曲ですね。特にサビの2ループ目で音程が少しずれて、そこからラストに収束していく流れが気に入ってます。

 EDの『Say to You』も基本的には明るく朗らかで、作品のイメージにもしっかり掛け合わせた曲になっていますが、個人的にはメロディ的にややサビでの尻すぼみ感を覚えるのと、総合的なバランスがもう一歩と感じてそんなに好きではないかなー、ってところですね。

★BGM

 上で触れた通り、インストまで含めても19曲は流石にフルプライスとしてはちょっとはっきり物足りないです。
 出来も平均して悪くないけど、折角のシナリオなのだからもう少し要所での決め打ち専用!ってくらい折り目のある曲が用意されていても良かったと思うし、少なくとも音楽面でシナリオの良さをより一層引き出せる手助けになっていたか、という意味では、相対的にやや食い足りない出来になってしまっていると、なまじシナリオがいいだけに目立ってしまったきらいはありますね。

 お気に入りは『楽しい一日でありますように!』『のんび〜り』『はじまりの予感』『しょんぼり気分』『楽しいが一番!!』『告白のピアノ』『未来へ続く扉』『イチャラブVo,1』あたりですね。


システム(9/10)

★演出

 演出は一通り安定している感じですね。
 日常のキャラ演出もそれなりにコミカルにこなしているし、すごく賑やかな寮生活の雰囲気が躍動的に伝わってきて良かったと思います。
 その上での情感的な面でも、豊富な1枚絵と連動させる形でそつなく引き出せていたと思いますし、全体的に飛びぬけて素晴らしい、ってところはないですが、水準はクリアするいい出来じゃないかなと。
 
 OPムービーも曲のイメージに合わせた柔らかさと華やかさがいい感じにミックスされていて、それなりに好みですね。

★システム

 システム面もいつも通りに安定して使いやすいかなと。
 どちらかと言えば近年は実用性重視の作品が多かったというのもあり、これでもその辺はフォローしつつ操作性の面ではより簡素に、使いやすくまとめられているかなと思います。よく使う機能がポップアップされるシステムは他でも実装して欲しいくらい。


総合(88/100)

 総プレイ時間19時間くらい。共通6時間、いつみ6時間、祐果子4時間、小夏3時間くらいのイメージですね。無論いつもながらにいつみだけはボイス全部聴くぜ縛りがかかっていますが、それを差し引いてもやっぱりちょっと小夏だけ短かったよなぁと思います。
 展開的にはしっかり緩急が効いていて、かつ知識欲を的確に刺激してくれる要素も満載で、声優に興味があるなら隅から隅まで楽しめる親切設計になっているのではと思いました。

 ヒロイン3人でこのお値段、しかも声優&ボイン特化型、というところで、やや入り口のところで狭さがある作品ではありますが、いざやってみると非常に丁寧で綿密で、声優という職業に対するリスペクトが強く出ている素敵な作品に仕上がっていましたし、いつみシナリオだけでも値段相応の価値はあったなと。
 正直相当に面白かったのでSランクにしてあげたかったんですけれども、でも総合的な部分でどうしても私としても妥協できない所はあるし、やはりそもそもとしては好みにストライク合致しているわけではないから仕方ないか、と諦めて、素直に採点しました。

 だから、入り口の設定の部分でストライク、って人なら、もっと私以上にのめり込んで楽しめる余地はあると思いますし、そうでなくともかなりお勧めできる良作、意欲作だと思いますね。



 
posted by クローバー at 04:00| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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