2017年02月18日

月影のシミュラクル −解放の羽−

 こちらもあっぷりけの黄金ラインなので、当初から気になっていましたし、パケ版が出るなら当然、という感じで購入。

シナリオ(23/30)

 人の因業を映す鏡。

★あらすじ

 伊沢の奥地、当地の支配者である如月家に古くから伝わる、不思議な儀式。
 如月の初代が操った絡繰りの生き人形に改めて魂を注ぎ込むための婚姻の紛い事、その新郎代理を主人公は頼まれます。

 この地から離れて、早数年。
 元々分家とはいえ緩い繋がりだった主人公の家は、都会に引っ越したことでその軛から完全に逃れ、見知った物質の構造を瞬時に把握する、という、本家の能力に連なりそうな不思議な力を持つ主人公もまた、こちらでの生活を忘れ、仲のいい友人に便りのひとつも寄越さない無精・不義理をしていたこともあり、今回は帰省ついでにこの頼みを引き受ける事にしたのです。

 屋敷の前で待ち構えていた、幼馴染で如月のお嬢様である零。
 わけあって如月家のメイドであるさえに引き取られていた、やはり幼馴染の少女・一葉も、今では立派な美少女になってメイドとして働いており、しかし後はかつて事故で大怪我を負い、五体儘ならない零の父親がいるのみの、ひっそりとした物寂しい屋敷での滞在がはじまって。
 かつての友人である美優や忍とも旧交を温めたりして儀式の日を迎えた主人公は、無事に大役を果たした日から、不思議な夢を見るようになります。

 それは、絡繰り人形の筈の紅が、動き出して自分に語り掛け、あまつさえ積極的に接触を図ってくるという頓狂なもので。
 しかしながら、それと同時に屋敷の中では不穏な出来事が頻発するようになっていきます。

 如月の生き人形にまつわる謎の闇は深く。
 主人公は幾度も辛く悲しい現実に直面しながら、その都度に心に強く約束を刻み込んで立ち向かっていきます。

 蜘蛛の巣のように蔓延り、絡みついて、決して解けそうに見えない因業の連環を、果たして主人公は断ち切り、長年に渡っての苦悩や絶望を払拭することが出来るのか?
 この地の因縁を断ち切るために、主人公が成すべきことはなんなのか?
 その先に、誰もが笑って過ごせる平和な生活を取り戻すことは出来るのか――――?

★テキスト

 全体的に洗練されていて、華やかではないもののしっかり情味が滲む、いつもながらに味わい深いテキストになっていると思います。
 どうしても作品の尺的な部分で説明に省いている余地が少ない、という中で、程よく行動や仕草、さりげない言動などで人となりをしっかり反映させたり、複層的な伏線を組み込んだりと、構成を上手く利用しての文章のシェイプアップ、削ぎ落としが丁寧に出来ている感じはありますし、過不足ない行き届いた形でまとまっているなと思いますね。

★ルート構成

 ここは結構特殊で、主人公の自覚のないループもの、みたいな構造になっています。
 大きく分けて6つの物語筋があり、けれど元の地点からそれぞれの枝に飛び移るには、心の中に潜んだ約束が司る強い想いが必要、という構図で、基本的には攻略順が決まっている形です。ひとつの筋のメインをクリアすると、新たな約束を手中にして、それが別の世界線を手繰り寄せる要となる、というイメージですね。

 手法としてはファンタジックですが、一応本質としては主人公が内在している力の原理の応用、という事になりそうな感じですし、実際そういう見せ方の中で、最初は陰惨悲惨な結末のオンパレードなのを、少しずつ救いのある形に変えていく、というニュアンスがくっきり見せられていて、物語性を重視する上ではベストな構成ではないかと思います。
 フローチャートからどこで分岐するか、約束を手にした時点で記載されるから迷うこともないし、その意味では親切なつくり、それぞれの枝にはバッド派生もありますけれど、概ねしっかり物語そのものに没頭できる感じですね。

★シナリオ(大枠)

 非常に緻密に、それこそ蜘蛛の巣のように伏線が張り巡らされ、しかし正しくもがいて、糸の根幹を手繰り寄せていく事で、その先に束縛から逃れ羽ばたける未来がある、というイメージが鮮明な、綺麗な物語です。

 上で触れたように、大筋としては6つの物語から構成されています。
 序盤はこの土地、儀式の謎などがただ意味も分からず突き付けられて、それに翻弄されている内に主人公の知らぬところで事態は破滅的に進行して、というパターンが大半で、この辺の陰惨さはある程度我慢して読み進める、という覚悟が必要ですが、中盤以降、その事件が起きる理由の根幹、生き人形の資質と存在理由が明示されてからは加速度的に面白くなっていきます。

 何より秀逸なのは作品全体の設定の斬新かつシニカルなつくりで、色々な意味で人間の醜い業、というものを否応なく突きつけつつも、決してそれだけではない、という信念を裏打ちする形で、主人公がよりその根源に近づいていく事で事態が穏便に収束していく流れの作り方も流石の一言ですね。
 勿論伝奇ホラーとしての迫力もかなり強く、一応ではありますがヒロイン四人とのそれぞれの恋愛譚的な側面もしっかり保持していて、その視座ではキャラ性の掘り下げはやっぱり少し足りない、と思う向きはあれど、そのルート・展開・想いにつられていくだけの必然性はしっかり担保しているので問題なく。

 設定的にも当然ながらファンタジックな色合いは強く、でもそこに日本独自の、古来からの信仰が裏打ちされている分だけ飲み込みやすくはあるし、その上で、そういう形が作られた大元の想いを、いつしか人の側が忘れ去ってしまう悲劇、でもそうならざるを得ない人形が持つ力の忌まわしさなどの匙加減が本当に絶妙で、この辺りは何回も膝を打ちました。
 結論的にはその元の形を思い出し、更にそこから発展的な関係性を、と企図する中で、主人公が自覚的に自分の力を用いていくようになるのは印象的ですし、最後の決め手となる紅の想いに関しても非常に透明感があり美しく、収束するラストの展開、そこでの心情の吐露は本当に胸を打つものがありました。

 全体として名作、と言い切るにはやはりもう一歩礎の堅牢さ、重みが足りないかな、とは思うのですが、それでもこの尺の縛りがある中で、非常に巧みに設定を駆使して綺麗にわかりやすく、読後感もスッキリと纏め上げた手腕には脱帽したいところですし、このくらいの点数は当然つけないと、というところですね。
 ただ緋のない、と違って、これはその後に特に含みを持たせていない、完全にひとつの物語として完結した作品になっていて、だからこそ逆に食い足りなさも色濃く見える、どうせならこの設定でフルプライスで作っても良かったのに、と思わせるものがあったので、そこは惜しく感じますねー。ヒロインもみんな可愛かったので、もう少し恋愛面でもガッツリ楽しみたい!って思ってしまうのです。。。

★シナリオ(ネタバレ白抜き)

 人の心にはどうしようもない二面性があって、その急所を的確に抉られてしまえば、それが表立ってしまうのもある意味当然ではあって。
 神蜘蛛が人を知る為の手段として、まずは真似てみる、鏡写しに心を覗いてみる、と思案したのは、神様の割には随分と謙虚で堅実だなあ、とは思いますし、それと同時に蜘蛛の気持ちもわかるように、その巣を張る力の一端を分け与えたことも含めて、実に悪意のない存在ではあるなと感じさせます。

 その力で作り出された紅も当然、本質的には悪意とは無縁であり、けれど対象として写し取った心の陰惨、怨讐、妄念により強く反応してしまうのは、人がどうしても喜びや前向きさよりは、そういう後ろ暗い観念にとらわれやすい生き物であることを示唆していて。
 主人公がそういう部分に無縁でいられたというのは色んな意味で奇跡的ではあるし、なればこそみんなから慕われている、というのは、綺麗事ではあるけれど物語の筋道を明晰にする上では必要な事だったと言えましょう。

 結局のところ、物語の変化としては儀式その他で目覚めた紅が、最初にどの心に触れるかによって変貌していく、というスタンスは明白であり、序盤でもよくよく見ればそういうありようのヒントは綴られているのですが、状況の陰惨さに引きずられてどうしてもイメージが恐怖の色に濃く染められる部分はあります。
 そこからの変転、というギャップも含めてがこの作品の面白味ですし、より主人公に依拠する形になった時の紅の率直さ、純真さ、誠実さは本当に煌いていて、それが思考しない人形としての枠を飛び越えて、人として生まれ変わる強い原動力になっているのも美しさを助長させますね。

 やはり個人的には、蜘蛛との再契約を果たし、主人公が目覚めた時の紅の、「人はね、生まれ落ちた時には、泣くのよ――――」は白眉だったなと感じていますし、或いは人は、時に人以外のものに畏敬を持って触れて、その都度に人としてのあるべき姿を、清浄さを見つめ直す必要があるのではないのか、と考えさせられる構図でしたね。
 本来神と共生する、というのは、そうやって畏れと敬意を持って、翻って自身の小ささを確認し、決して奢らず、矩を外さずに生きていく上での大切な観念だったと思うし、人の中で井の中の蛙をしていれば、必然的に歪んでいくものなのかなと、そういう教訓的な色味も強く、その点でも良く出来た物語ですね。


★シナリオ総括

 テーマ的にはかなり重く根源的なものであり、それだけにもっと尺の大きな舞台で展開しても良かった話だなぁ、とは思いますね。緋のないと違って、恋愛要素にも色気を残している形になりますし、全てを網羅するには流石に土台が足りていなかったろうと。
 それでも、非常にコンパクトな中に印象深い展開と想いがしっかり組み込まれた良質な物語ですし、十二分に楽しめましたね。


キャラ(20/20)

★全体評価

 どうしても全体の尺がギュッと簡素にまとめられている分、個々のキャラのしっかりした掘り下げにまで筆を割く余裕は見せられていないのですが、その中でもさりげない行動や仕草、言動の端々から、しっかり人となりが汲み取れるようなつくりにはなっています。
 その最低限の文脈の中だけでも、それぞれの抱える想いの重さや一途さ、純真さはしっかり見えてくるものはあったし、物足りない、と言えば物足りなくはあるけれど、取り立てて減点するほどではなかったかな、という評価ですね。

★NO,1!イチオシ!

 やはりここは一目惚れそのままに一葉でしょうか。ふふり、やはりロリっ子はよいものです。
 基本的にこの作品は、ヒロイン全員が主人公と過去に関わっていて、その時点で一定値の好意は持っている、という設定なので、後はそれをどういう形で表現するか、ってところに違いを求めるわけですけれど、この子の場合はからかいやちょっかい、という形での親愛、甘えの見せ方がいじらしく愛らしいですね。
 メイド、という立場もある故の距離感がもどかしい、とばかりのありようは、本質的にはもっともっと快活で悪戯っ子で、けど憎めない子なんだろうな、って思わせたし、一葉分岐の取っ掛かりにしても、そういう好奇心旺盛な側面が引き寄せた哀しみ、ではあるから、その辺は仕方なかったろうと割り切るしかなく。

 恋愛的要素でも危急存亡の中で絶対的な焦燥、必要に駆られて、って色合いはやはり濃いのですが、それでも、という踏ん切りのつけ方、思い切りがいかにもって感じだし、基本的には賑やかしで明るく可愛く、この子が出てくるだけでBGM込みでテンション上がる感じでした。

★NO,2〜3

 ここはやはりメインの二人である紅と零を挙げなくてはならないでしょう。

 紅に関しては、その根底的な在り方がこうである以上、特に主人公が事情に委細通暁していない前半においては、ただただ恐怖と嫌悪の対象になってしまうのは致し方ない成り行きですし、けれど中盤以降からその存在理由、行動理念に筋が通って、その上でどうアプローチすればいいのか、という思念が成り立つあたりからは、一気にミステリアスで奔放だけど、味のあるキャラに変貌したなと。
 その上での終盤の展開、主人公に対しての依拠と信頼、けどその矩を乗り越えての自身の希求を叫ぶことでの、それまでの束縛、契約の鎖を解いての生まれ変わりのありように至るまで、実に純粋で自律的で心優しい、そして世界の全てを楽しむ前向きな好奇心も併せ持った無邪気で愛らしいキャラにまでステップアップするので、その辺のギャップ的な破壊力も素晴らしいなと。

 逆に零は、立ち位置的にどうしたって不憫、なんですよね。
 背景を考えれば主人公を呼び寄せた時点で、今回の件の勃発とその始末に至るまである程度想定して動いていたことになるし、それは裏返せば全幅の信頼、でもあるのだろうけど、特に序盤から中盤は独り善がりに動いて破滅するシーンも多いのでうわぁ…………とはなります。
 主人公と心がしっかり通じての展開の中でも、この二人がそう考えるだけでは足りない、という厳然たる現実がある故にスッキリした結末には至れないのも不憫さをより強く感じさせるし、正直主人公に対する純粋な想いの深さで言えば断然だろうに、元々の性格的にそういうのを押し出せないのも可哀想と言えば可哀想で、中々に魅力的だったけど貧乏籤引いてる子だなぁ、ってところで三番手ですねー。
 …………いえ、決して見極めポイントがいらねーっ!って意味じゃないですからね、ええ(笑)。

★その他

 美優も出番は少ないしほとんどおまけ程度ではあったけど、一応なりラブイチャがあって嬉しかったです。
 かつての零に対しても分け隔てなく接した、その快活で裏表なく、善良で献身的な精神性は、彼女のルートでの破綻、破滅を目の前にしてその真骨頂を発揮していた、という見方も出来るし、ここではまだ紅の心境・その存在理由が曖昧な中で、後々思い返せばあぁ!と感じさせる味わい深い場面でした。
 
 兼定やさえも、それぞれに歯痒いもの、抱えているものがありつつも、必要な限りはしっかり大人として子供たちの頑張り、ありようを見守る節度と懐の深さを感じさせたし、それでもどうにもならない、という部分に世界の闇、人の心の難しさを感じさせてくれたなーと思います。


CG(17/20)

★全体評価

 いつもながらに抜群に上手い、とは思わないですが、その素朴で柔らかみがあり、全体的に優しさを感じさせる絵柄は、まあそれこそコンチェルトの昔から慣れ親しんでいる(みあそらは後追いなので)こともあり、作風とも合わせて何とも落ち着くイメージですね。
 質量ともに、まずハーフプライスであるなら水準はクリアしてきていますし、要所にキラリと光るものも見せていて、個人的には十分満足できる仕上がりだったと思います。

★立ち絵

 ポーズはヒロイン級で2種類、サブで1種類ですね。基本的に派手さはないですが、面白いのはやはり零と紅、外見的にはミラーツイン的な感じで描き分けつつ、ポーズや表情などで決定的な個性の差をしっかり引き出しているのは見事だなと思います。
 お気に入りは一葉正面、やや左、紅正面、やや右、零正面、美優あたりですね。

 服飾はヒロインで2〜3種類、サブは1種類。このあたりは必要最低限でまとめていますし、デザインも雰囲気を壊さない程度に華美に、そつなく、というイメージです。
 お気に入りは一葉メイド、私服、紅着物、制服、零私服、制服、美優私服あたりですね。
 つーさ、零と紅の制服が折角の黒スト完備なのに、その恰好でのシーンがなくて絶望ですよ。。。

 表情差分も頭数自体は少なめですが、その中にしっかり個性や遊びも交えているし、作品の空気感にマッチするチョイスがしっかり為されているとは感じました。
 その中で特にお気に入りが、一葉のにひひ。あの悪戯っぽい、ちょっと意地悪気な含み笑いはめっちゃこの子の本性というか、素のままの甘えの裏返しって感じで可愛く大好きです。
 その他お気に入りは、一葉冷笑、嘆き、思案、照れ1、笑顔1、紅ジト目、呆れ、叫び、哀しみ、真剣、睨み、笑顔、零呆れ、微笑、哀しみ、思案1、拗ね、照れ1、3、><、美優思案、照れ1、意外、笑顔あたりですね。

★1枚絵

 全部で41枚と、決して多くはないですがまず水準でしょう。
 質もこの人なりに安定しているし、やはり力を入れるべきところとサラッとしていいところの力点の分配がこなれているというべきか、シナリオ的に盛り上がるシーンでは、1枚絵もかなりいいものが使われたなー、という印象が色濃く残ってますね。

 特にお気に入りは、主人公を見下ろして涙する紅、ですね。
 シナリオ面でも白眉だったシーンですが、絵的にもやはり一番迫力があり、紅というヒロインの無垢性、純粋さ、一途さ、安堵、歓びなどの多様な感情が、一緒くたにあの美しき涙の雫に集約されている感じで、本当に綺麗な1枚だと思いますね。
 その他お気に入りは、一葉と再会、車で移動、美優と再会、目覚めた生き人形、一葉とナイフ、炎を背に、美優正常位、逃亡劇、一葉お尻、色仕掛け、零水遊び、キスと愛撫、正常位、返り討ち、逃避行、紅襲い掛かり、騎乗位、絡め取り、愛撫、背面座位、森で生きる、一葉フェラ、騎乗位、夢中のデート、零キス、対面座位、見送り、朝日、どこまでも二人、あたりです。


BGM(20/20)

★全体評価

 非常に作風にマッチした、幽玄で神秘的で、哀憐の漂う楽曲に仕上がっており、質量ともに余裕で水準はクリアしていて、かつ要所での出来の良さはかなり素晴らしいなと。特にキャラテーマ曲が抜群の奥行きと美麗さで、それ以外も非常に質が高く、ここは満点でもいいだろう、という感じですね。

★ボーカル曲

 全部でOPED(挿入歌かも?)の2曲ですね。
 OPの『自由の翅』は悠遠さと哀切を程よく噛み締めるような旋律と歌詞、それが積層していった上での、サビでのその檻から飛び立とうという意志を感じさせる伸びやかさまで、非常に流麗なメロディライン、かつ完成度が高く、バランスよく仕上がっていて、耳に残る素敵な曲だなあと思います。特にAメロが好みですね。

 EDの『イノチの灯し方』は非常に幻想的で透明感に溢れ、空疎で哀しみに満ちた歴史の積み重ねをギュッと濃縮させての、大切なものだけをしっかり抱きしめるような優しさが非常に印象的で、メロディラインも洗練されており見事な神曲だなぁと思いますね。
 特に本当にサビのメロディラインが綺麗で、静謐の中に情熱を感じさせて大好きです。

★BGM

 全部で21曲と、値段踏まえれば水準は軽く凌駕し、そしてひとつひとつがとても重厚で鮮烈で、作品が持つ不可思議さ、おぞましさ、切なさを完璧に下支えしている感じで、これは本当に素晴らしい出来栄えだなと思います。

 特にお気に入りは3曲。
 『キサラギレイ』は、彼女の背負う悲嘆と絶望を、矜持の色に染め変えて発したような、幽玄で痛切に満ち、どこか不協和も感じさせるつくりで、非常に淡麗で美しいと同時に、壊れ物のような繊細な危うさをも兼ね備えた奥深い名曲に仕上がっていると思います。
 『ミナツキカズハ』は、ここまで流されるままだった彼女の生き様を示す様な透明で哀感に満ちた旋律が非常にインパクトが強く、ヒタヒタと忍び寄るような情念、悲哀の色が痛々しくも健気に感じさせる、ぱっと見の雰囲気とは裏腹の個性を見事に写し取った素敵な曲だなと思います。
 『ヒメラレタオモイ』は、極限状況の中で、剥き出しの心に触れてようやく気付いた激情の重さを鮮烈にトレースするとともに、それが叶わない、或いは束の間の夢にしかならない悲痛を情味たっぷりに示していて印象的でしたね。

 その他お気に入りは『トオイヤクソク』『キサラギコウ』『イカイノモン』『カラクリノイエ』『ソトノセカイ』『ツカノマノヘイワ』『タソガレノトキ』『ホショクノトキ』『ツキマトウカゲ』『カイホウノトキ』『ミライヘノミチ』あたりですね。


システム(9/10)

★演出

 日常演出は最低限、という感じですが、怪奇譚らしく不気味や悲嘆のシーンの盛り上げ方、インパクトの引き出し方に関してはそれなりにしっかりした演出が組み込まれていますし、勿論終盤での感銘を覚える場面でもしっかりと、あるべきところには必要なものを、という行き届いたつくりになっていると思いますね。
 OPムービーも炎の紅を基調に、非業の命運と、それを切り拓いていく意思の強さを同居させての、複層的な印象を強く感じさせるいい仕上がりだなって思います。

★システム

 全体的にシンプルで使いやすく、足りないものもないし、まず問題はないですね。
 フローチャート完備は、このくらいの短さだとそこまで威力を発揮はしないですけどやっぱり便利だし、とりわけ今回は、クリアごとに想いが蓄積して分岐が増える、というシステムだけに、分岐の出現地点が一目でわかって、そこからスタートできるのは楽ちんで良かったと思います。


総合(89/100)

 総プレイ時間11時間くらい、ですかね。ざっくり分けて、約束を獲得できるエンディングが5つくらいあり、その派生でバッドやビターなどもいくつかあって、その本線ひとつひとつが1,5〜2時間くらいの尺、というイメージです。
 序盤はもう訳も分からないまま危機に巻き込まれて、って感じですけど、中盤からはヒロインとの絡みも増えてきて、少しずつ全貌も開示されていくので加速度的に面白くなっていきますし、全体尺としてもう少し肉付けが欲しい、特に一応とはいえ恋愛要素もあるなら、とは思わなくもないけど、そこは緋のないが長かっただけで、これも値段を踏まえれば水準はクリアしている尺なので難しいところです。

 あっちと違い物語としては綺麗に完結していますし、とにかく構成、設定の発想が秀逸で、それを非常に上手く纏め上げているいい作品ですので、とっつきやすさなども含めて考えると、点数的には下なんですけど、緋のないよりは素直に万人に勧められるかな、と思います。
 無論ある程度の残虐耐性はいりますけど、そういうシーンも上手く外観だけで糊塗しているし、伝奇ホラーとヒューマンドラマとしての面白味を等分に程よく味わえる、お手軽な傑作と言っていいかなと感じますね。
posted by クローバー at 04:07| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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