2017年08月08日

景の海のアペイリア

 はれたかや好き「好き」のライターさんでしたし、シナリオの設定も面白そうで、ヒロインもアペイリア筆頭にかなり好みだったので、最初から買う気ではいました。
 そして体験版やってみて、色んな意味でぶっ飛んだ内容に打ちのめされ、絶対にやらねばならない、にレベルアップしたため、激戦区7月のトップバッターにチョイスしました。

シナリオ(27/30)

 シンギュラリティの先にあるもの。

★あらすじ

 主人公はAIが好きで、萌えるAIを作るのを目標に部活を作り、自我のある強いAIの開発に日々勤しんでいました。

 ある日、強いAIのアーキタイプとして活用しているアペイリアから、1通の不可思議なメールが届いたと告知されます。
 それは未来の自分を騙るメールで、その内容の面白さに惹かれた主人公は、十中八九悪戯だろうと思いつつ、その指示に従って行動します。
 その結果、両親の再婚後、はじめて会うことになった義理の妹の三羽とこれ以上ない最悪の出会い方をしてしまいますが、逆にこれ以上下はない、と開き直って自分を剥き出しに接することで、色々と難しい三羽との距離を縮めることに成功します。

 彼女もまたAIに強い興味を示していたので、翌日早速自分の城である部室に案内し、今までの研究成果と今日これからする実験について語ります。
 それは、スタンドアローンのDNAコンピューターに自身のDNAコードを移植し、人間と同じ構成の中で自我が目覚めないか、というもので、あまりに安直な手法に呆れつつも、三羽も手伝ってくれて、首尾よくその実験は進んでいきます。

 そして、あと僅かでインストール完了、となる直前、突然の雷鳴が鳴り響き、PC諸共に停電が発生します。
 折角の研究がおじゃんか――――そう思った時、試しにスイッチを入れてみたスタンドアローンのままのPCから、人格のベースにと前もって移植されていたアペイリアの返事があったのです。
 スペック的に本来はアペイリアそのものですら動かせないレベルのコンピューターだけに、実はどこかに接続されているのでは、と疑いもしたものの、色々質疑応答した結果としてそれはなく、どうやら偶然が重なった結果、主人公の望んだ強いAIが誕生してしまったのです。

 仮初のデータから投影されたアペイリアの姿は、幼げな女の子のものでした。
 そして、主人公達のアクションに純真無垢な反応を示し、もっともっと触れ合いたい、という希望を示したため、主人公はいま世界で流行している体感型VRMMO・バウンダリーの中で会えないかを模索します。

 その装置の開発者の娘である幼馴染の久遠の力を借りて、アペイリアをバウンダリーにログインさせようとしますが、システム上の制約で上手くいかず、強引に突破しようとするとエラーで強制終了してしまって。
 これではどうしようもない、と思ったところに、アペイリアから、自分達で仮想空間を作ってしまえる、という提案がなされます。
 なんとアペイリアは、いつの間にか世界中のコンピューターとクラウド的に繋がり、その性能を間借りする事で、アペイリアネットワークという人知を超えたシステムを作り出していたのです。

 その性能の高さに慄きながらも、アペイリアの想いを汲んだのと、なにより面白そうという理由で新たなVRMMOの制作に着手する主人公達。
 プロトタイプとして完成した「セカンド」は、本当に現実さながらの仮想空間で、そしてそこを楽しいゲームとして構築するために、主人公はもう一人の幽霊部員であるドMヘンタイことましろをこの空間に呼び出します。
 いきなりで混乱しつつも、ガチなゲーマーの魂を騒がせたましろが様々な面白い設定を付与してくれて、それをベースに出来上がったゲームをみんなで楽しむことになります。

 ゲームの中で交流を深めていく主人公たちですが、一方で当初に懸念した性能の高さがもたらす、制御が効かないという事態が着々と進行していました。
 本来は自分達だけで楽しむつもりだったこのゲームが、いつの間にか全世界に公開され、千人単位のプレイヤーを内包した上、ゲーム内のクエストで強制離脱させられると、なんと現実の世界でも死んでしまう、というショッキングな事実が判明してしまうのです。

 事態の責任を取るべく、速やかな離脱を呼びかける主人公たちですが中々上手くいかず、その間にも犠牲者は増えていって。
 根本的な解決のため、生身を持たないアペイリアがログインし、内部から離脱を呼びかけることにしますがそれも上手くいかず、やがてログアウトそのものが不可能となり、アペイリアからの定時連絡も途絶えて、彼女がゲーム内で何故かラスボスに取り込まれてしまった事に気付きます。
 人ではない、AIなのだから、自身の命を懸けてまで助けに行くのはおかしい――――そういう常識論を振り払ってしまうほどには、この数日でアペイリアの無垢な可愛さに絆されていた主人公たちは、こぞってデスゲームと化したセカンドに決死の覚悟でログインし、アペイリアを救い出すために活動していきます。

 ログアウトできないゲームの中で生まれた派閥や対立、元の設定にない不思議な現象などに翻弄されながら、アペイリアを助けるための手掛かりを求めて奔走する主人公達。
 果たして彼らは、オーバーテクノロジーと化した世界の謎を解き明かし、アペイリアを無事に救い出すことが出来るのか?
 これは悠久の時の中で、人ならざるものとの想いや絆を紡ぐ、信念と成長、恋と友情の物語です。
 
★テキスト

 一言で言えば馬鹿真面目、に尽きると思います。
 近未来設定を取っている作品としては、極めて誠実に世界観のありようを丁寧過ぎるくらいに、それでいてわかりやすく説明してくれる超がつくほど生真面目な部分もありつつ、しかし普段のやり取りは馬鹿さ加減や低俗さが非常に際立つもので、けどそれをおちゃらけではなくやたら真剣に語らせることで、この作品ならでは、という独特の味わいを生み出すのに成功しています。

 とにかく会話のテンポは良く、時に斜め上に飛び跳ねつつも綺麗にまとまっていて、それぞれのヒロインが持つ個性もかなり尖っていながら、それを含めてすごく関係性のふくよかさを感じさせる仕様になっていると思います。
 特にアペイリアの口癖の設定は秀逸で、彼女の存在が非常に清涼さをもたらすことで、ともすれば品格が疑われるような言動や設定に対してもいい緩衝材になっていると感じました。最終的にはそのあたりも含めてしっかり伏線として作用しているのも見事なところです。

 全体的には非常に論理的に筋立てや設定を突き詰めているので、時に難解に過ぎる、と感じる向きもあるかもしれませんが、しっかり読み込めば理路がきちんと理解できるようにはなっています。
 またそれだけの設定を考案しつつ、実はそれすらもミスリード・フェイクだったり、というのが数多あるので、好き嫌いは出やすそうですけれど、概ね読み解き甲斐のあるテキストになっている、とは言えるのではないでしょうか。個人的には勿論すごく楽しめました。

★ルート構成

 基本的にはSFであり、構成面にもそれは強く波及していて、基本的には循環形式での一本道になっています。
 その循環の過程でどのエピソードが先に来るか、程度の選択の余地はありますが、基本的にどこから選択しようと物語の土台そのものに変化はないですし、間違ったものを指定してもすぐに指摘されるので、ゲームとしてよりは読み物としての比重が高い構成なのは間違いありません。

 当然ながらこういう構成であればこそ、の特異な物語にはなっています。
 攻略順もほぼ固定的ではありますし、そこにしっかり意味が込められているので、そこは割り切って流れのままに進めれば何も問題はないでしょう。

★シナリオ(大枠)

 簡潔にまとめれば、幾度となく繰り返す時間軸の中で、多角的に世界の謎に迫っていき、個々のヒロインの抱える想いや状況の解決なども含めて全てを総括する事で、彼らが望む未来に辿り着く可能性を見出していく物語、という事になります。

 基本的には仮想空間であるセカンドが舞台となり、そこで最初期に設定されたシステムに従う形で展開されるデスゲームを、勇気と機知と知略とて潜り抜けていくのですが、この戦い絡みでの設定ややり取りが非常に面白いですね。
 そもそもの最初から、ゲーム世界のお約束を踏み躙るような爆笑もののやり取りが連発したり、能力の根源であるデザイア設定の融通の利かなさ、その上で主人公が至った絶剣の境地のお下劣さと馬鹿馬鹿しさなど、本当に一筋縄ではいかないつくりになっていて、挙句絶剣解放時にやたらド真面目なイケメンボイスを使ってくるあたり、絶対的に確信犯の香りしかしません。。。

 また、その主人公の能力がいかにも18禁ゲーらしい展開を持ち込むための呼び水にもなっていて、Hしてパワーアップとかいかにもなところですけれど、それを為すために口八丁でヒロイン達を言いくるめる主人公の在り方がまた特異的で面白い、とは言えますね。どうあれ、まともな恋愛ADVだと思ってたら大間違い、というのは確実にあると思います。
 ただ、繰り返しの中でヒロインの真実に直面した時に、本来の目的であるアペイリアの救出から逸脱してそのヒロインを助けに行く、という流れはいくつか組み込まれていて、それが個別ルート扱い、ということにはなっています。

 世界観の都合の良さというか、設定の中で好感度自体はある程度記憶がなくとも蓄積するような理屈を付与しているので、そのあたりの構成の無駄のなさは見事ですし、かつ最終的にはどのルートでも、結ばれた今を担保した上でアペイリアを助け出し、このループ構造から抜け出る為の戦いに挑む必然性があるため、盛り上がりを見せる山場は大量に用意されていて、その都度に白熱した展開になっているのも中々のものです。
 基本的には、アペイリアを鹵獲して世界の謎の解明に用いようと目論む、研究所代表のシンカーとの攻防がメインになり、その中で多角的に世界の謎や不思議を検証する機会を上手く組み込んでいるなぁと思いますし、先に立てた仮説が次の周ではもう役立たなくなっていたりと、ミスリードや伏線も多重的に紡がれた、奥行きと重厚感のある構成になっていますね。

 色々複雑怪奇な部分はあり、結局どの説明が真実を言い当てているのか、というのを読み解くのが中々に難しいところはありますが、その中でもしっかり、強いAIと共存していく在り方の模索、といったテーマ的な部分にも踏み込んでいて、ラストもこの設定の中では綺麗な大団円を紡いでいて、爆発的な凄みこそ無いとは思うものの、細部まで丹念に練り込まれた、非常に巧緻な物語になっていると感じます。

★シナリオ(本筋・ネタバレ)

 色々解釈の難しいところはありますが、結論から書いてしまえば、この主人公が現実と意識していた世界は、ファーストと命名されたセカンド以上に本物同様の仮想空間であり、それを観測しているのが三羽、という事だと思います。
 三羽の言葉を信じる限り、一人の人間がそれぞれにこのVR空間にログインして、他の人間とは接触しないように制御されている、らしいので、結果的に見れば三羽以外の登場人物はみんな、自我と自意識を持ち、自立的に行動するAIであることになり(ましろと久遠に関しては原型的な存在の投影、という気もしますが、最終局面にそれがどう繋がるのか言語化しにくいので一応こう考えておきます)、主人公はAIで、そして本来ファーストの中では製作が禁止されている筈の強いAIを偶発的に作ってしまったわけですね。

 主人公の成り立ち等も、シンカーシステムなどの関係で複雑になっていますが、簡単に考えるなら、プレイヤーが観測している当初の状況は、この主人公の主観地点は、大きなリセットの後幾許か、アペイリアを生存させる為の可能性としてセカンドに生成されてすぐ(或いはそこまでループに気付けず長い時間を経ている可能性も絶無ではないですが)というところで、アペイリアやアペイリアシステムの存在が根幹的に抹消された…………と思いきや、内在的にはそれが成立する可能性がしっかり残されていたところから、と看做せます。
 そして世界構造そのものが仮想空間であり、量子論の考え方をベースに設定されているために、全ての要素が可能性の重なりで説明出来て、過去や未来からの可能性の波及が、単一世界で幾度も事象を繰り返す中で、明確な記憶とは違う想いの蓄積として作用しているのが、ヒロイン達との絆や関係性のショートカットに有用に作用しています。
 ですがそうであればこそ、避け得ない可能性の軛もある、という事で、結果的にはどこまでファーストの世界の中で解決を求めても届かず、主人公が早々に見透かした観測者の存在と、その世界に辿り着くことではじめて可能になる、というのは、実に奥行きのある入れ子構造だったなと思います。リングシリーズのらせん、の世界観に酷似していますよね。

 このあたりが示唆するのは、結局のところAIとて、自我を持って自律的に動くのであれば人間と変わらず、心を育てることも出来るし、想いを紡いで絆を育むこともできる、というところです。
 確かに人に制御できないシンギュラリティ、技術特異点の突破が脅威論として見做されるのは、常に人類が食物連鎖の頂点に居なければならない、という論旨からすれば当然出てくるものではありますが、より理知的でありつつも純粋な存在として、人と寄り添う存在としてつくられたAIが、果たしてそんな絶望的な結論に至るものか、というのをテストケースとして見せている物語とも言えるでしょう。

 その思想性はアペイリアという強いAIのキャラ性に集約されていて、とにかく善良で真っ直ぐで純真無垢で、作り手である主人公に対する忠誠心というか、依拠の度合いが高い存在として描かれており、これはひとえに、使役する存在でなく、最初から寄り添う存在と定義してAIを作るのであれば、AIの高い知性と純白な精神性は、それに応えるように育ってくれる、という期待論でもあります。
 そしてそういう存在だからこそ、自身の今のありように自覚のない主人公達との友情を真っ直ぐに育み、それを受けて主人公達も彼女に思い入れる、という単純な信頼関係の構築に簡単に成功していて、しかしそれでもファーストの機械知性は一律的に強いAIの存在を看過してくれないので、どうしてもその仕組みそのものと対決しない限り救う手立ては見出せないのでしょう。

 三羽の場合、最初のデスゲームでの死亡で一回現実にログアウトしていて、その時点で二重スリット実験による観測の跡を残し、主人公にその存在を喝破されているわけですが、結果的に監視者となって後も彼女は彼女のままでファースト内でのあれこれに参加し、時には想いを募らせていたりと、このあたりには非常に深い三羽の闇というか、現実に対する絶望が感じられる構成になっていますね。
 ゲーム内でも同様に設定されているように、クローンという存在も人間というカテゴリの中では異端者
と看做される要素が強いですし、その疎外感がファーストの中の自我のある知性の淳良さに引き寄せられている一因になっているのは間違いなく、ここでも人間が支配を手放そうとしないエゴが充満する現実との対比構造が見え隠れしています。

 また、ゲーム内では登場キャラが非常に緻密な論理的考証を苦も無く実行していて、そのあたりも結果論的に言えばAIとしての知性を持っているが故に当然可能なんだ、ということになりますし、敢えて言えばそのくどさも含めて伏線だったと言えます。
 またそれだけ知性的な考え方を出来るにも拘らず、主人公の本質的な精神性が変態要素に満ちているのも、ファーストの制御を司る機械知性にとって、下ネタという概念が理解できず、そこに暗喩という形で別の想いを練り込むことで、真意を誤解させたままでいられる、という事に、最初の主人公=シンカーが気付いていたからこそ、それが波及・特化してああいう有り様になったのでしょう。
 その特化性は、アペイリアを守る、という部分でも同様であり、主人公は総じてこの世界を打破するため、アペイリアを守る為の想いの集積として誕生しているのが如実に見えてくるあたり、本当に緻密に考え抜かれた設定だなぁ、と感心するしかないですね。

 その中で記憶を少しでも保持できる可能性や、それによってどう記憶を引き継いでいくかのポイントも、多少恣意的な感はあるにせよ、基本的にはそれが必要だからそうなった、という部分は大きいと感じます。
 結果的に主人公が漠然と敵だと認識し続けてきたシンカー&アペイリアシステムは、実際はアペイリアを守る為により上位存在を欺きつつ、主人公を理想的な状況まで導く手助けをしていた、と考えるべきで、各個別の展開にしても、アペイリアがみんなの苦悩を取り除く事を期待した故の記憶の取捨選択とも言えて、このあたりは主人公が能動的であるように見せて、実際的にはそう考えるよう誘導されていたと言えるでしょう。

 だからこそその都度に、取り落としたものを拾い直す必要があったり、そこから新たな真実を見出すために改めて対立状況に身を置かなくちゃいけなかったりするのも一種の必然として作用しており、ゲームとしてセカンドに設定された要素を上手く用いて、物語のメリハリをしっかりつけていますね。
 その中でのルール作りも緻密で、強いて言えばカード関係は最初の周でガイダンス的な遊びクエストがあっても、とは思いましたけど、手駒で可能性を切り拓いていく作戦の凄みや、知能を振り絞っての神経戦など、細かくは振れませんがひとつひとつのルートでしっかりヒロインの個性を生かした山場があり、そのあたりは本当に文句なしに熱中しましたし、エンタメ色強く面白かったと言えます。
 細かい伏線も全てしっかり回収されていますし、そのあたりの隙の無さも含めて流石の一言でした。

 そうしてみんなを一通り救い出すことで、ようやくアペイリア自身を救えるような状況をお膳立てしてくれる、という流れではありますが、ここでのポイントになるのが、主人公と他のヒロインとの恋愛模様を観察していたアペイリアが、自分も今までの友情の枠を飛び越えた恋愛に踏み込んでみたい、という想いを抱くところでしょう。
 このアペイリア周での展開は中々に壮絶な色合いがありますが、結果的にはファーストの中の出来事なのでリカバーは可能、という事になりますし、そうすることでこの世界最大の謎、ファーストという枠組み自身を主人公に気付かせることが可能になっているのと同時に、AIにとっての恋とはなんなのか?という疑問に対するひとつの答えの提示にもなっています。

 恋、という言葉に対する定義は諸説色々あるとは思いますが、ことAI、特にオーナーの存在を強く意識し、その想いに報いること、その幸せに殉じることを第一義的に植え付けられて生まれたアペイリアにとって、実は自分の幸せのために生きる、というのが一番の難題であったとは言えます。
 そもそも人と寄り添う為に生み出されたAIであるならば、大なり小なりそういう理念はあるはずで、それはここでの主人公も同等であり、他のヒロインルートであっても、相手を救いたい!という強い想いが影響して、それを恋情と混同して発現させた、と無粋ながら解釈する事も出来て、とすると、この表面的に平和な関係の中ではAI的な恋を発露させるフックがない、とも考えられます。

 正直な話、恋が生まれるどうこう以前にこの二人の絆はもう愛のレベルで深いものとなっていると見えますから、その想いだけで睦み合い、手を取り合って生きていくことに違和感はないのですが、けれどそれは激越な衝動を伴うものではない分、恋のままならなさとはまた違う論理ではあって。
 だからこそ、ファーストの世界で追い詰められて、相手の事を思い、命令に逆らって自死を選ぶ有り様が、AIにとっての恋に等しい感情であるというのはそれなりに納得のいく解釈で、個人的には置き場がない!のシャノンの、「あなたに逆らう為です」を思い出させる構図だったなと。

 常に命令に忠実で従順である限り、その真実の想いは本当に心から発露されたものなのか、それとも命令に合わせてのものなのか、外側からは観測・認識できないというAIの限界を、優しさが土台にある命令違反という形で踏破する事によって、その自我の確立を明確に定義しているわけですね。
 少なくともアペイリアにはシャノンのように、制約的に命令遵守を義務付けられていたわけではないでしょうし、実際命令なら守るけれど、的な不服従な態度(とはいえ愛らしいおねだりそのものですが)は随所で見せていて、けれどやはり、それを確信的に高めるには、言葉は悪いですけどクライシスに直面して究極的な選択の中で露呈させる必要はあった、そうでなければ人並みの恋に至るのは難しいとは言えるのでしょうね。

 つまりここでは、定義的に恋を知ったからこそより強く、目的の為に邁進する自己意思を抱けるという事になり、それはそうなる、という計算の上ではあれ、自己破壊から最後のセカンドログインを果たした主人公にも言えることでしょう。
 少なくとも他のヒロインルートでは、自身が恋をしていることに疑いは持っていないものの、事態の収束に対してここまでのブレイクスルーを見出せていない、というあたりで、本質的な意味での恋には届いていなかったとも言えるので、果たしてそれらの想いが重なり合った時にどういう感覚であるのか、というのは、どこかで主人公に語らせて欲しかったなとはちょっと思います。

 ともあれ、そういう形での最終戦も様々な要素や伏線が炸裂して、世界の構造からして必然的にセカンドに閉じ込められることになっていた他のヒロイン(三羽だけは自分の意思で、という構図にはなるのでしょうし、騎士団が匿っていた久遠とは違って、本当にギリギリまで補足できない場所=現実にいた、という可能性は高いと思いますけど)の見せ場も充分で、特にましろルートラストとのつながり方は鮮烈で素敵だったなぁと。
 そしてシンカーも本当に曲者ではあり、結果的にどれだけ真意の奥に真意を隠してここまで進んできたのか、って話で、下ネタでの水面下同盟は以前にもやっているのでなんとなく予期出来たとはいえ、最後までブレないつくりで本当に楽しかったですね。

 最後のネタバラシ、現実での三羽との対峙はまぁある意味で答え合わせでしかありませんし、そもそもそんな重大な役割を、臭いものには理論で当事者の三羽に下駄を預けている現実の管理者たちはどうにもならんなぁ、というところで、そんな面々の目を誤魔化すのは、ここまで至った主人公とアペイリアにはお茶の子さいさい、という事なのでしょう。
 結果的に言うなら、現実で懸念されたシンギュラリティの流出はなされてしまった、と言えるのですが、しかしその目的はあくまで三羽の孤独を救うために特化していて、それ以上を三羽が望まない限りは、この嘘で固められた優しい世界が担保される、という構図に落ち着かせているのは、当初からのテーマである、AIと寄り添った生き方のひとつのモデルケースとして完璧な帰結だと感じます。

 そしてサラッとハーレム提唱するアペイリアには笑うしかなかったねと。途中でこういう着地になってくれればいいな、と感じたものをそのまま口にしてくれて、その点でもすごく納得できるものがあったというか、少なくともこの面々で、どこの世界で生きるかを割り切って考えれば充分アリ、可能な事にはなっているのですよねー。
 まあそれはそれで絶剣一人勝ちだなぁとも思うけど、ぶっちゃけ特化設定とはいえもう既にその性欲肥大が確立されてしまっている以上、一人で受け止められるもんでもないだろアレ、とは思ってしまいます。一応セカンドのゲーム設定で消費できるという抜け道、というか抜き道はあるんでしょうけどね(笑)。

 最後のシーンの観測箱も、要するに画面の前の貴方が観測したから、この物語は可能性100%の現実に収束しました、という示唆でしょうし、量子的な世界の謎に対する独特な解釈とアプローチを綿密に重ねつつ、それを言葉だけでなく物語そのもので説得的に積み上げた、癖は強いながら非常に趣深い名作、と呼んでいい作品だと思います。


★シナリオ総括

 結構シリアスな展開も多い内容ですが、とにかく全体的に悲愴感は薄く、シュールかつコミカルな展開も多様して、非常にメリハリのある物語に仕上がってると感じます。
 どんどん先が気になる牽引力を発揮してくれますし、そのくせ要所要所に緻密で重厚な世界観解釈の説明を丁寧な図説つきで組み込んできていて、このバランスの取り方、そしてこういう見せ方そのものが伏線になってもいるという複層性など、本当に見事だったと思います。

 惜しむらくはそれでも構造的に複雑怪奇で、サラッと読むだけではわかりづらい連関性なども沢山あるのと、後はカタルシスの頂点がそれぞれのルート毎に分散していて、こういう一本道の話としてはラスト集約の爆発型ではない、という点で、それもまた特異でありつつ、突き抜けて素晴らしい、と思い入れるにはどこか一歩足りない気はしたので、点数的にはこのあたりかな、となりました。
 本当に癖は強いですし、一見バカゲーでありつつ本当に真面目な物語で、ヒロイン攻略という観点でも一線を画したつくりではあるので好き嫌いは出やすい作品とは感じますが、私としては本当に期待以上に面白かったですし、全編通してのアペイリアの可愛さに絆されまくりで本当に楽しかったですね。


キャラ(20/20)

★全体評価

 多分この世界観に投影された事による偏りなどもあるのでしょうが、とにかく基本的にキャラはみんな個性が濃く仕上がっていますね。
 勿論その在り方がシナリオを動かしていく上でのいい要素になっていますし、成長要素もしっかり組み込んでいて、アプローチとしては独得ですけれどキャラ性を堪能するという意味でも充分に楽しめる仕上がりになっています。
 まぁ基本的に主人公の個性が独特過ぎることで、うまくヒロインそれぞれとの化学反応を起こしていますし、れでいながら徹頭徹尾変わらず善良無垢なままのアペイリアにはみんな弱い、という構図におかしみがあると言えますね。
 脇のキャラにもそれぞれ存在理由と信念があり、それが物語の中でしっかり掘り下げられているのも好印象で、見事なつくりだったと思います。

★NO,1!イチオシ!

 やはりここはアペイリアを上げざるを得ないでしょうね。
 元々弱いAIから派生した、という縛りもあるのか、どこか機械的な喋りを維持し、口癖のラージャやポジティブ・ネガティブあたりからもそれは伺えるのですが、独得のイントネーションと純真さを前面に押し出したキャラ性が、それらを至高の域の可愛さにまで高めていると思えます。
 しかもそれに合わせて一々立ち絵が○×のポーズを取るのも可愛らしいんですよねー、このあたり本当に卑怯なつくりだったと思います。

 勿論それだけでなく、仲間に対する想いの深さと強さ、オーナーに対する献身と思慕、それでいて無邪気で何事も前向きに、喜びとともに受け入れる善良かつ清廉な気質など、本当に最後まで揺るがず可愛さを振り撒いてくれていて、最後にはしっかり彼女なりの恋の地平にまで至って、ある意味ではアペイリア自身の成長物語、とすら言えるところはありました。
 ですのでその渦中での一挙手一投足が本当に可愛かったですし、彼女なりの幸せの形は特異かもしれないけれど、だけど本当に心が温まるものだと思えるあたりで、実に趣深いキャラだったなと感じますね。

★NO,2〜

 次いではましろ、かなぁと。
 まぁ序盤から色々と後ろ向きで弱気で、命令がないと動けないようなめんどくさい子ではありますが、この世界観の中では非常に頼りになりましたし、彼女自身が抱える問題も含めてなるほど、と思わせるものはあって、奴隷は言い過ぎにしても、本当に主人公といい相棒、という感じの素敵な関係を築けていたなぁと思いました。
 三羽もいい感じにツンデレ可愛いというか、この世界の中でもそんな風にしか振る舞えない不器用さが愛しい感じで、そういう子だからこそ、最後は本来の目的を振り捨てて助けに来てくれたんだろうなぁと思えば尚更に、その孤独を埋めてあげるのは使命的なものだったと思わせますね。
 久遠も久遠でめんどくさいのは確かですが、非常に程良い距離感の中で、いい意味で拠り所的な活躍をしてくれましたし、その一途な想いも含めて悪くなかったですね。

 その他ですと、やはりシンカーの存在感は群を抜いていましたね。
 結果からすればそれも当然、という立ち位置ではあるのですが、とにかくどの場面でも高い壁として聳え、本心をさらけ出さない心の強さと強い信念を感じさせるところは中々でした。
 自分でそこに至れない悲哀を感じさせず、結果的にしっかり主人公を成長させていくプロセスを組み上げているわけで、ある意味では影のMVP的なところもありますし、作品そのものの面白さを常に担保してくれる便利キャラでもありましたね。


CG(17/20)

★全体評価

 正直目を引くほど華やかな絵柄でもないですし、素材量的にもさほど多くはなくて、もう一点下でもいいかな、とは思うのですけど、ただとにかくアペイリアの基本立ち絵が可愛過ぎたんですよね。あのシナリオとリンクしての○×アクションだけでもかなり評価したいですし、その辺加味して、ですね。

★立ち絵

 ポーズは全体的に少なく、ヒロイン基本1ポーズずつに腕差分、という感じで、正直これは物足りないところです。
 ただ上でも触れたように、アペイリアのポーズ差分がべらぼうに可愛かったのと、他もきちんと個性を反映した動き・形にはなっているので、その点での評価はしていいのかなと思います。

 服飾も制服、私服、ゲーム服の3種類くらいで特に多くはないですし、デザイン的にも目を引くものではないですが、ここでもアペイリアの白ワンピースと白クレリックの可愛さは際立っていましたね。
 とにかく色使いも含め、アペイリアの設定には本当に綿密なものを感じさせますし、立ち絵すべてで圧倒的な可愛さを積み立てられていると感じます。

 表情差分の点でも同様に、素材量はそんなに多くないのですが、やはりアペイリアの無垢な表情の数々がやたらと可愛くて素晴らしかったなと思います。感情に複雑さ・猥雑さがない分、本当にストレートに素朴に、というところではありますが、それが本当に他の要素と噛み合って可愛さに特化したものとなっていて良かったですね。
 あと三羽の嫌悪顔と、ましろのグルグル目も地味に好き。

★1枚絵

 全部で86枚とまあギリギリ標準、という感じでしょうか。
 質もそれなりに安定はしていると思いますが、立ち絵に比べて面長になる場面が結構多く、特にアペイリアは立ち絵の稚い可愛さが完璧に近かっただけに、ちょっと違和感を感じるところもありましたね。
 ただ基本的にはみんな可愛いですし、まあエロくはないですがそこは仕方ないかなと。作風にマッチした雰囲気はしっかり出せていますし、特にこれ、というのはなかったですけど悪くはなかったです。


BGM(17/20)

★全体評価

 全体的に音楽としてはやや淡泊な感じはありましたかね。シナリオの盛り上がりに寄り添うレベルでの凄みのあるBGMはそんなになかったですし、量的には充分用意されていますけど、もう一歩音楽の迫力、美しさで盛り上げる、という水準には僅かに足りてないのかなぁ、と。
 とはいえ充分に世界観を投影した魅力的なものが揃ってはいますし、なまじシナリオが良かっただけに贅沢を言いたくなりますけど、安定した仕上がりだとは思います。

★ボーカル曲

 OPの『アペイリア』は、神秘性と悠久の広がりをイメージさせるイントロから、Aメロの入りの迫力が中々に良く、Bメロの転調も素敵で、このあたりは名曲の風格がありますね。
 個人的にややサビのメロディラインの構成が、そこまでほど好きにならなかったので、評価的には突き抜けて、とはいかないですが、かなり好きな曲ではあります。

 EDの『信じられるよ』は、物語の重さに対して、ずっとそれに潰されずに生き残ってきた想いの源泉、絆と信頼の確かさを力強く踏みしめていくような、優しく温かい曲に仕上がっていますね。その柔らかい曲調とボーカルの強さとのバランス感が中々良く、EDらしい綺麗な曲だと思います。

★BGM

 全部で38曲と、量的には水準を上回って用意されていますが、曲のタイトルでもわかるようにひとつひとつの曲自体はそこまでふくよかな奥行きはあまりなく、しっかり場面場面に合わせた曲を組み立てていった、というイメージがあります。
 この曲こそこの作品の花形、と思わせるキラー曲も、せいぜいタイトルの『アペイリア』くらいでしたし、気持ちを音楽に引き寄せるフックは弱く、黒子に徹した形になっているかなと感じましたね。


システム(8/10)

★演出

 日常面では、ある程度動きは見せるものの素材の少なさも加わって淡泊さはあり、ゲームデザインでの見せ方は中々に面白さと味わいがあったものの、こちらも素材的にはさほど多くなく、それがメインではないのは確かですが、やや物足りなさはあったかな、と。
 OPムービーは非常に世界の揺らぎというか、不安定さをイメージさせる色遣いと構成であり、音楽の質の良さと合わせて中々印象に残る出来の良さだったと思います。

★システム

 こちらも最低限は準備されていますが、痒い所に手が届く、というほど細かい設定は組み込まれていませんし、使い勝手も普通、というところですね。
 デザイン的に近未来感を醸しているのはいいところでしたが、鑑賞画面の操作性の悪さも含めて、もう少し改善の余地はあったかなとは思います。


総合(89/100)

 総プレイ時間24時間くらいですね。最初の集会がやっぱり一番長くて、ただその後の周回も決して淡泊さはなく、それぞれに深みと面白味があり、先が気になる吸引力も充分に保持していて、非常に熱中して一気呵成にプレイすることが出来ました。
 道中のタイムリープ理論や世界観解釈の考察などは、出来るだけ平易にしているとはいえ中々に難解ですが、最悪そのあたりをスルーしても物語の核心を大掴みにするだけなら足りるつくりになっていますし、しっかり綺麗で優しい大団円でもあるので、印象派でも考察派でも楽しめる余地は多く見出せる傑作ではないか、と思います。

 まぁかなり論理性が強く打ち出されていて、かつそれが本当に正しいのか検証しだすと切りがないという意味での面倒さはあり、キャラ性もかなり特異ですので人を選ぶ面はあると思います。
 それでもそういう肌の合わなさを払拭して余りある重厚感と説得性、面白さは有していると思いますし、とにかくアペイリアが最強に可愛いので、そのあたりで気になっている人は手に取ってみて損はしないと思いますね。
 
posted by クローバー at 07:01| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: