2017年12月28日

景の海のアペイリア 〜カサブランカの騎士〜

 本編は今年のダークホース的な素晴らしい面白さでしたし、まさかそのFDが同一年にプレイできるとは思っていなかったので嬉々として購入。

シナリオ(22/30)

 な ぜ ハ ー レ ム シ ー ン を 書 か な い ! ?

★概要・あらすじ

 この作品は、2017年7月に発売された景の海のアペイリアのFD、というよりは追加エピソード、くらいの方がニュアンスとしてはしっくりきますね。
 コンテンツとしては、本編ヒロインとのイチャラブ自体は実に、実に残念なことに一切なく、本編後の仮想現実の世界で生きる、本編でも中々に味のあるサブヒロインだった七海と沙羅の百合百合コンビとの物語が展開されます。

 あらすじとしては、現実で生きるようになった主人公が、どこかハーレムに気後れして誰にも決定的には手出しが出来ずにいる中で、七海達の誘いでセカンドで発生したちょっとした事件を追いかけていく内に、元々のヒロイン達の事を忘却し、仮想現実の中に閉じ込められてさぁ大変、という、本編のデスゲーム要素を軽めに踏襲した格好になっています。

★テキスト

 本編同様に非常に会話の構成が独特かつ軽妙、そして下ネタ度合いが非常に強い。。。
 全体的な仕掛けとしては本編ほど深く語る要素は少ない事もあり、本編以上に会話文の比重が高かった気もしますが、そこでのやり取りはいかにもこの作品、という雰囲気を十二分に味わわせてくれるものではあり、その点はかなり満足できましたね。
 無論ここでも、冒頭のちょっとしたシーン以外本編ヒロインとの絡みが取っても少ないのは明快な不満として出てきちゃいますが。

★ルート構成

 本編同様全体がループ仕立てになっていて、その中に七海とのエピソード、沙羅とのエピソードが練り込まれている形式です。
 選択肢も一か所だけと攻略的にはまるで難度はなく、本編もそうでしたがそれぞれの話の中で、構造のヒントを探り蓄積していくという側面を持たせつつのイチャエロ、というバランスですね。

★シナリオ

 この二人を主役に据えた物語、としての完成度は中々に高く、その点は面白かったと思います。
 ちょっと本編のネタバレにもなりますが、あんまりゴテゴテ書くほどでもないのでその辺サラッと出してしまうと、基本的に本編のテーマとしては、シンギュラリティが起こったAIでも人と寄り添える可能性を示唆したものだと私は捉えています。
 アペイリアというインターフェースが体現したように、最初に学んだ人の善性や、他者に対する高潔な心配りなどが明快に認識されて、人の汚い部分を初期段階で学ばずにいられれば、それは結論的に人を滅ぼす方向にはいかずに共存するためのバランスを取る方向にシフトしてくれるし、なんなら恋すらできてしまうんだぜ、っていう夢と希望のある話なわけですね。

 前提として生まれたての強いAIは無垢で淳良で綺麗なもの、という概念を本編で確立されている中で、じゃあもしもそのAIが、一番最初に人の弱さを学ぶところからスタートしたらどうなるのか?っていうのがその作品の肝であり、それを体現するヒロインとして適格だったのがあの二人と、そして今の主人公、という構図になっているわけですね。
 図らずもまたデスゲーム化したりするのは、そもそも人の死、という概念をAIが明確に理解は出来ないというところから生じてしまう齟齬ではあり、その表面的な怖さに惑わされずにその真意を突き詰めていく、その流れの積み立てと合間の冒険譚の面白さは今回も流石だったと思います。

 キャラの配置としても最終的になるほど、と思わせるところでした。
 基本的に社会人でありつつもゲーム廃人で百合百合趣味な二人は、端的に言って社会不適合者ではあり、マイノリティではあるわけで、そしてそうなるだけの重い過去は持っている、というのは実につけたしても不自然さがない概念です。
 その辺は私なんかも自分の身に引き寄せて皮膚感覚的に納得できてしまう悲しさはありつつ(笑)、加えて主人公もまた、ハーレムという社会的には認められない立場に立たされ、色々と板挟みになっていく中での葛藤が膨れ上がって、そうした後ろめたさや、目を逸らしてしまう諸々の有り様を克服しなくては、本当の意味での幸せには辿り着けないのではないか、という部分にはなるほど、と思いました。

 人の幸せというか、生き方そのものは、ある意味では忘却があればこそ成り立つ部分はそれなりにあるのだと思います。
 記憶のメカニズムはまだまだ全てが解明されたものではないですが、それでも忘却があればこその人らしさ、という点は事実で、けれどそれを意図的に選択できることが、特に外的要因でそれを判別して、というのが正しいのか、というのはまた別の話にはなってくるわけで。

 それに結局忘却とはいえ、一度経験したことはしっかり脳には刻み込まれ、ただ厳重に蓋をされて取り出せなくなっているだけ、というのも確かで、記憶する媒体としての在り方はそれこそAI、機械知性と何が違うのか?と問われてしまえば明瞭には答えづらいところです。
 ただ少なくとも人の脳は無意識的に記憶の重さに優先順位を振り分けるのは間違いないですし、そして時間の経過、という特効薬を併用する事で、直ぐには直面出来ない痛々しい記憶にも立ち向かえる時が来る、と考えれば、究極的な意味でいつかは克服しなくてはいけない課題を誰しもが多かれ少なかれ抱えて生きている、とも言えるのでしょう。

 そして世界がこういう形になって、よりはっきりとこれからの自分を幸せに導くにあたって、過去の傷や葛藤と向き合う必要性に駆られた面々があの世界に取り込まれていった、という意味付けなのでしょうし、その具現の形や、克服の見出し方など実にこの作品らしいアプローチで面白かったですね。
 無論そこに至るまでの回り道のあれやこれやも、相変わらずバカ真面目な発想連発で、主人公のデザイアなんかも無駄にパワーアップしていて腹を抱えるほど笑いましたね。特にブラックホールのくだりは最高でした。。。

 その面での不満は特にはないのですが、しかし全体構成としては、本編ヒロインがまるっきり絡まずに解決してしまうスケール感、そして本編後の物語というのに、本編ヒロインとイチャラブするシーンがまるごとオミットされているというのはやっぱり物足りなさが募ります。
 ああいう形になってしまった以上一人一人とは、とならないのは致し方なくても、せめて一回くらい、現実でなくファーストやセカンド内ででもいいから6人のハーレムHは実装すべきではなかったでしょうかと声を大にして言いたい。そういう時の為の絶剣仕様でしょうが!

 全体尺的にも、投入素材量的にも、値段相応か、と問われるとやっぱりちょっと、いやかなり物足りない、コスパ自体はかなり低いとは思ってしまうのですよね。まあ本編から五ヶ月ですから仕方ない面もあるのでしょうけど、うーん、ここまでアペイリアの出番が少ないとは思わなかったぜ。そのあたり事前情報もちょっと曖昧な感じだったように思うし、その辺は確実にマイナス要素です。
 つー感じで、普通のFDと期待して、本編ヒロインが好きだから買うぜー、となるとはっきり肩透かしを食らうのですが、本編の物語性が好きだー、また考察したいしたい、って人種にはそれなりに楽しめる内容だったと思います。

 勿論新規ヒロインの二人も魅力的には書かれていますし、楽しめた部分は沢山ありましたが、それでも点数的にはここが限界かなー、と。せめてハーレムHが一回でもあればあと2点くらいプラスしたんですけどね(即物的。。。)。


★キャラ(20/20)

★全体評価など

 本編ヒロインの出番の絶対量が足りん!という視座では減点してもいいくらいですけれど、一応七海と沙羅自体は本編の時よりもより深くそれぞれの個性がはっきりしていて、本編ヒロインと同じくらいに掛け合いの独特な間合いが面白くて楽しめた、というのはあるので勘弁してやるぜー(上から目線)。

 キャラとしては七海の方が好きではありますね。
 色々おどけたりからかったりしつつ、その裏で他者との距離感を慎重に見極めて、場を乱さないように泳いでいく、そういう有り方に疲れているからこそゲームにばかり耽溺してしまうという面を解していく様は非常に楽しく愛らしかったですし、立場としては大人なんだけど、いい意味で二人とも大人になり切れていない、大人として生きていくには欠けているものがある、って部分が可愛さになっているのが上手です。
 沙羅もからかわれている時にこそ輝きを放って素敵ではありましたし、こういう女の子らしさの欠如に苦悩するヒロインを、かわいい責めで翻弄してその気にさせていくのは中々にくるものがありますよね(笑)。


CG(15/20)

★全体評価など

 実のところ完全新規CGは15枚ちょっとしかなくて、本編のCGで回想は水増しされている微妙な仕様です。
 一人頭3シーンはあるけれどどれもCG1枚ずつだったり、ボリューム感は皆無に等しく出来自体も本編と遜色はないけど、図抜けていいわけでもないので、単純に値段から考えるとコスパはかなり悪く、点数としても厳しめにしないとならんな、ってところです。

 立ち絵もヒロイン二人の仕事着が追加されたくらいですかね?個人的にアペイリアの○×立ち絵がほとんど見られなかったのが切なくて、つい本編の方を起動してしまったし。。。
 1枚絵は基本立ち絵に比べて面長になりやすい傾向があって、立ち絵で丸顔に設定されている程違和感が出やすいってのは継承しています。その意味で沙羅の方が安定して可愛かったとは思います。


BGM(15/20)

★全体評価など

 こちらもBGMは全て本編からの流用で、ボーカル曲2曲だけが新規素材になります。

 OPの『カサブランカ』は軽快な出だしから中盤で世界観に噛み合う玄妙な雰囲気に切り替わっていくところは結構好きで、イントロ含めて結構好きな曲ではありますね。Aメロのどこかシニカルなメロディラインが特に好きです。
 EDの『limitless』は本編のED同様に、どこか夜明けをイメージしたような静やかな明るさと澄みやかさが印象的ですが、曲としては完成度・好み共にOPには届かないですかね。


システム(8/10)

★演出・システム

 基本的に本編を踏襲で、特に新機軸などもないのでそのまま評価横流しですね。


総合(80/100)

 総プレイ時間8時間くらい。
 ミドルプライスよりちょっと安い、くらいの値段ですので、尺としての満足度も微妙なラインですし、なによりやっぱりハーレムシーンがないのはこの作品としては片手落ちだろうぐぬぬ、と言わざるを得ません。

 本編より、とまでは流石に言えないにせよ、物語の骨格部分が実にらしさ全開で面白いのは間違いないですが、ちょっとつくりとしては割り切り過ぎている面もありますし、人を選ぶ部分は強く出ているでしょう。
 上でも触れたように、本編ヒロインとの後日談を期待するなら肩透かしで、七海と沙羅が大好きだー、って言える人、本編のしちめんどくさいSF設定をあれこれ咀嚼して考えるのが楽しかったー、って人ならそんなに損した気分にはならないかもですけど、値段を鑑みるとお勧め度としてはちょっとね、とはなっちゃうでしょうか。
posted by クローバー at 13:02| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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