2018年02月20日

虚空のバロック

 初見で面白そうな設定だなと感じて、体験版をプレイしたらその期待に違わずだったので迷いなく購入。

シナリオ(26/30)

 人は矛盾を編んだ生き物。

★あらすじ

 主人公は、親身な世話で自身を挫折から救い上げてくれた憧れの先輩である幸に告白し、玉砕した時に、その痛みからいっそ世界が滅んでしまえばいいのに、と思って。
 けれどまさかそれが現実になるとは――――普段よく遊びに来ているモールの地下で気が付いた時、今まで当たり前のように享受していた平和な文明世界は、得体の知れない大地震の影響によって完膚なきまでに叩き潰されていました。
 唯一の救いは、共にいた幸先輩がすぐ傍で無事だった事、しかし彼女は震災のショックで主人公以外に関わる記憶のほとんどを失っていて、それは主人公に甘酸っぱい思いと、それ以上に自分がこの人を守るんだという強い使命感を与えます。

 そして、次々と襲い来る危機と絶望感の中、主人公は後にバロックと呼称される不可思議な能力に目覚め、その力でなんとか状況を打開していく事になります。
 モールの地下で生き延びた人々から無体な目に合わされていた優理とナーラを救い出し、なんとか地上に脱出して、そこで苦境に陥っていたやちると加護を助けて、一同はなんとか力を合わせて生き抜いていこうと語り合います。

 地上でも得体の知れない無機質な生物に次々と襲われる中、幸や他の仲間もまた能力を発現して助けとなり、やがてなんとか文明的な共同生活を維持している避難所に辿り着くものの、当然そこもつかの間の安息にしかならず。
 やがて大挙して襲ってきた適性生物、更には獅子身中の虫にまで命を脅かされ、その影響で大切な仲間の一人である優理が次元の狭間に飛ばされてしまいます。
 主人公は迷わずそれを追い掛ける決断をし、ここまで彼についてきた面々も追随して、そうして脱出した先、そこには急激に発展したばかりの場所にありがちな空疎さを抱く街がありました。
 そこで、今まで自分達が住んでいた暁市が局所的な地震で崩壊し、しかも不思議な力で外からの立ち入りや干渉を一切受け付けない事、挙句その発生から既に10年の時が経過している事を知るのです。

 ともあれ、結果的に虎口を脱することが出来、10年の時を経てはしまったけれども優理とも再会出来たとはいえ、まだまだ問題は山積みで。
 高潔な仁慈の心を持つ主人公は、今まで仲間を救い続けてきた勇気と正義感を、未だ暁市に取り残された同胞に向け、その為には彼らをここに導いた、次元を切り裂く特殊能力を持った敵対者を探さねばと決意するのですが、一方で彼らを取り巻く社会の思惑は、そんな理想的な正義を微塵も内包しておらず。
 魑魅魍魎が跋扈する街の中で翻弄されつつ、彼らはそれぞれの持つ力を駆使して自身の信じる道を、正義の在り処を求めて足掻くのでした。

 これは、人が持つ多くの矛盾と業の深さ、醜さを克明に描き出しつつ、その中からあるべき姿を投影した、勇気と覚悟、そして絆の意味を問う物語です。

★テキスト

 テキストは全体的に重厚な部分と軽妙な部分を上手く組み合わせ、読み口にしっかり緩急をつけつつも丁寧な繋がりは維持し、そのバランスの中でぐいぐい読み手を引き込んでいく強さがありますね。
 基本的に冗長さは少なくて、ポンポンと息つく暇もなく話が展開していき、実際全体尺としてはそこまで長大な物語ではないのですが、ひとつひとつのシーンやセンテンスに籠められた意味が深いので、密度や濃度の面では非常に印象深く仕上がっていたと思います。
 
 無論多少ルートによって温度差はあったりもしますが、どうあれ本質的には生温さを感じさせない、人の業の浅はかさと醜さ、弱さを抉るように見せつけつつ、それでも…………!と踏んばるお約束展開の盛り上がりをしっかり助成するいい出来だったなと感じますね。
 バトルシーンでもテキストの表現力でしっかり状況が脳裏に描ける精緻なつくりだったと思いますし、イチャラブもささやかながら味わい深く、総じて読んでいて楽しい、熱中できる文章でした。

★ルート構成

 基本的に攻略可能なヒロインは3人で、かつ幸はルートロックがかかっていて最後限定です。その他ノーマルエンドやバッドエンドも存在して、ゲーム性という視座でも一定の面白さはあったでしょう。
 選択肢的にはヒロインの内面に対する踏み込みや思い入れを助長するものを蓄積して、その上で最後により意識を傾ける相手に、という事にはなるのですが、そこにちょっと捻りがあり、あくまで無意識の中での選択がその道を選ばせた、という色合いになっているのが特徴的です。

 このあたりは後で詳述しますが、一見後の展開への影響が無関係そうに感じる選択肢でも、この舞台設定の中ではきちんと繋がっている、というつくりが絶妙のバランスで、その発想力と構成力は素晴らしいと感じる上、それをきちんと読み解けないと誤解を招く、という意味でも中々怖い事をしてくるライターさんだなと思いますね。

★シナリオ(大枠)

 ルート自体は3本ですが、中々に奥深い入れ子構造を持った作品です。
 メーカーや作風のイメージからして、クライシスパニックやその先の熱いバトル展開を予想させる部分は非常に強く、勿論そういう方向性でも一定のニーズをしっかり満たすだけの水準にある作品ではあります。
 けれどより本質的には、そういう危機の中の立ち振る舞い、避けえぬ戦いを呼び込んでしまう人の業の定めなどを通じて、より根源的な人のあるべき姿、あるべき自覚を促すという、テーマ性とメッセージ性が相当に強い意欲作になっているのかなと感じました。

 そのあたりの意図を含んでいる分だけ、ご都合主義的な救いや生温さはほとんどなく、例えヒロインでもどんどん酷い目にあいますぜー、ってのがひとつの特徴ではあって。
 このライターさん自体はこの前眠れぬ羊をプレイしたのが初見だったので、いつもこういうシニカルな作風なのかという作家論的な視座からの語りは説得力がないですが、少なくとも私が今までプレイしてきたlightの燃えゲー路線の中では多少異色なイメージを持たせるのは確かではないかと感じます。
 少なくとも、どれだけ危機に至っても最後は大団円、ってわかりやすい燃えゲーテンプレを好む人には、このどこを切り取っても大概ビターすぎるエンド、ってのは中々刺激が強いですし、むしろよくこの時代にこれだけ尖った企画にゴーサイン出したなぁ、って、メーカーの胆力を評価したい部分もありますね。。。

 勿論これは、そういう残虐さがベースになければ表現できない部分をしっかりと投影している名作だとは思っています。
 特に、バロックという力の概念によって、普段我々が当たり前のように享受しているつもりの他者との一体感・連帯感が、とれだけ曖昧で頼りなく、累卵の危うきにあるか、というのを逆説的に証明してくれている部分と、一方でバロックによりブーストした連帯感があっても、より多数の社会正義や欲望の前には擂り潰され、利用される運命は免れないという冷酷さのコントラストは素晴らしかったと感じました。

 結局人間社会の本質は、如何に様々なブレーキを用意しようとも、最終的には力のあるものが弱きものを蹂躙し、また正義や倫理を標榜するものよりも、悪徳や欲望の赴くままに、先手必勝で他者を阻害にかかる側の方が強いのだ、という残酷さをこれ以上なく突きつけていて、本当に主人公達は俎上の鯉なんですよね。
 バトル要素が強い作品ですと、その絶対的な危機に潜在的な力が目覚めて大逆転!ってなるわけで、この話でもそういう窮鼠猫を噛む的な要素はふんだんに盛り込まれてはいますけれど、でもこの作品は、そういう力に辿り着いた時点では既に守りたかった大切なものは既に欠損してしまっている、という所が強くあります。
 実際様々な思惑が入り乱れる事での均衡の中で、主人公達の存在は辛うじて泳がされていて、本気で殲滅にかかられたらひとたまりもない、という力量差が明確に見せつけられますし、そこに他者を踏み躙る覚悟の重さなども加わって、そのあたりはやちるなんかより特色的でしたね。

 とりあえずネタバレなしで書けることは多くない作品ですので、ここではそのシニカルな枠組みの中で、それでもささやかな幸せを、繋がりの意味を求めて足掻く様を見届けるシナリオであり、かつ幸ルートだけは更に一段高いステージでのテーマ性を保持している傑作だった、というにとどめておきましょう。

★シナリオ(ネタバレ)

 まず作品全体の設定を整理しておきます。
 そもそもの契機は、外宇宙から飛来した複数の文明の意思を吸収して肥大した大いなる存在の到来に在ります。
 高度に発達し、多様化が進んだ文明は、やがてその性質上いずれ滅びに至ってしまうのが必然であり、その中で個々が築いた文明の芯というか、魂的な部分を保護するために、その世界そのものを審判にかけ、残すべき芯を選別する、というのがその生命体の存在理由で、まぁある意味傍迷惑ではあります(笑)。
 少なくともその滅びが予感されるほどの近未来、ってわけではないでしょうし、この時代を生きている人間にとっては災難でしかないとは思いますが、それもまたひとつの、大きな力に抗えない冷徹な社会の構造を暗喩しているとも言えるでしょう。

 そしてなぜ文明が崩壊するか、という部分の説明としては、元々人間、まあ全宇宙的視座で言えば高度知性生命体は、本質的に絶対的な孤独を内包していて、他者と完全に分かり合えるというのは幻想でしかない、という明白な現実をしばしば忘れ去ってしまう所にあると定義している、と解釈しました。
 物語の冒頭で象徴的に示されるように、人は徒党を組む事で、本来性善説的な視座によって人に備わっているとされる仁慈の心、正しき社会倫理と正義を平然と歪めてしまう事があります。
 
 地獄への道は善意で敷き詰められている、なんて言葉もあるように、なまじ他者を守ろうとしたり、その集団の意思を方向付ける事で、それは矯激化し、かつブレーキが効かない状態に陥ることがしばしばで、過去の現実の戦争の原因などもそういう側面が多大にあり、人が人である限り繰り返される浅ましい業で有る事は疑いなく、それを克服する手段も難解です。
 それを回避するためには、人は究極的には他者と完全に同一に離れないという絶対性を強く意識し、そこから目を背けない事、その孤独の辛さ、寂しさを乗り越えていく強さを個々人が身につける事が必要で、けれど社会性を発展させ、便利な文明を築いてきた現代人が今更そうなるには非常に高いハードルがあるわけですね。

 そのあたりを踏まえた上で、元々の主人公や幸は、この物語の大半で描かれるような完全性を感じさせる人格の持ち主ではなく、無論多少なり人より倫理的・能力的な部分で秀でたものがあったとは思いますが、それでも過去の回想から判別できるように、それぞれに人がましさを抱えた普通の少年少女でした。
 その二人に襲い掛かった非業の運命のえげつなさと、最後の尊厳死という選択の重さは、それはそれとしてひとつの物語になり得るだけのテーマ性を内包していますが、この作品においては、あくまでもその悲嘆と絶望が核となって、より完全性を保持した新たな主人公像が投影された部分に意味があります。

 それはまた、大井なる存在からのチャネリングを受けて中継者となったナーラの意思、理想像が投影した部分も強くあるはずで、いわば主人公の悔恨とナーラの理想、それぞれに主人公の実質からは乖離した精神性が組み合わさって、ああいう主人公像になったといえるでしょう。
 そしてその主人公が生み出した幸も、やはり主人公が元々に抱いていた理想像の投影ではあり、その連関関係の面白さと、その高潔な理想像が結果的に世界を災厄に陥れるという皮肉に、上で触れた人間世界の不条理と矛盾が凝縮しているのかな、と感じます。

 言ってみればナーラの理想と主人公の後悔がハイブリットして、結果的に人類を篩にかける上でのハードルをあんなに高くしてしまった面はある筈で、これに関しては大いなる存在はそのライン選定に直截的には関わっていないはずですし、傍迷惑ではあるにせよこれ自体の存在が絶対悪的な立ち位置ではない、というのは付言しておきたいところです。
 この世界においては、バロックとは別に超能力の存在も普通にあるわけですが、基本的にそれは世界に虐げられたり、極限状態や絶望の中にいてはじめて発現するもの、というイメージも、それぞれの超能力者の懐古から裏付けられるところで、その場合大抵基準のラインはなにかしら歪んだところに設定されちゃうんじゃない?って感じはありますよね(笑)。

 ともあれ、精神性が複層化して本来のナーラらしさ、というのがどこまで信用できるのかの問題もありますが、少なくともナーラは過酷な環境の中で、言葉には出さずとも救いを求めていて、あの凌辱の場面でその過酷さがフラッシュバックしている時に、主人公の向こう見ずで青臭く、けれど絶対的に正しいと思える真理がより心に響いたのはあるでしょう。
 だからそこを人類の生存ラインに設定したのは、ある意味ではナーラの世界そのものに対する復讐でもあったと定義できそうですし、これも究極的な因果応報、情けは人の為ならずの世界だなーって思います。

 そのあたりを踏まえた上で、この作品の選択肢の意味についてみておきましょう。
 この作品の凄いところは、一見恣意的に、作り手の都合のいいように構成されているように見える選択肢が、最後までプレイするとしっかり必然性の中に埋め込まれていると気づかされるところです。

 世の中にルートロックを用いる作品は多くありますし、実際にその骨組みで作品自体の盛り上がりが幾重にも強調される、という利点はあって、本質的にはシナリオ派の私としてもそれは歓迎すべきものですが、一方でそのルートロック、というシステムを、物語世界の必然と両立させるのはとても難しいものです。
 それはどうしたって、それを物語世界の住人が介入して発生させるには、多重世界に対する干渉力とか、プレイヤー並の俯瞰、神の視点を保持しているとか、何某かの超常能力が設定にないとまず土台無理ですから、少なくともラブリッチェみたいに、あくまでも現実的な人のありようの範囲で作品を構成する限りは、なぜそのルートが最後に来るのか、を構成上で説得的には出来ないジレンマはどうしてもあるのです。

 その欠如が作品の盛り上がりに水を差すか、と言えばそこまで厳しくみるものではないとは思いますが、ただ少なくともファンタジーを舞台にした場合、何らかの手段でその構成を必然的にこじつける事は不可能ではない、となるので、歩かないかで言えば勿論あったほうがより説得性が増す、という判断になります。
 そしてこの作品は、その数少ない、ルートロックでのシナリオ上の盛り上がりと、そのルート順序が
発声する必然性を両立させているといえるでしょう。

 勿論それは虚空の大いなる存在の介在があればこそで、ナーラを中継してある程度主人公のありようや思考経路は限定的にされている、という面はあり、また彼をこの世界の基準として見る時に、彼自身の善に状況の変化の中で大きなブレがあるようでは採用できない、という慎重さからも、複数のサンプルパターンを収集した上での本命への対峙が求められていて。
 大元の意思の発現からすれば、加護とやちるの二人に分岐する選択肢の内容は、どちらにせよ本来のそれを毀損する妥協の産物ではあって、けれどその二極的な選択しか与えられない部分に、その大枠での方向性が反映させられている、と考えるのは無理筋ではないでしょう。

 実際にその二人のルートで、様々なものを失いつつも残った大切なものを、他者を踏み躙ってでも守るという選択をし、そこに正義はあるのか?主人公にとっての善は揺らいでいないのか?という問いかけがラストに来るわけで、そこでの基準を踏まえての最終シークエンス、幸との真実を知ってどうなるか?というのが待ち受けているわけですからね。
 そこでの最後の選択で、正しさに準じれば世界滅亡、そうでなければ…………という分岐においても、実によくこの作品のシビアさが表れていると思いますが、そのあたりの意味は後回しとして、今は選択肢の意味についてもう少し掘り下げていきます。

 こんな風に、まず一番の大枠の中でその選択の必然性が担保されている上で、またよりミクロな部分でもその選択がしっかり物語の内的動因に繋がっている、という点が面白いのです。
 一見財団とその敵対勢力、どちらを内心で信じるか、なんてのは、そのままヒロイン選択に繋がりにくいように見えますし、私も普段この手の選択肢は作り手の怠慢だ、恣意的に過ぎると批判するスタンスですが、この作品の場合、それもバロックの力を踏まえると実はちゃんと影響を及ぼしている、というのがミソです。
 
 少なくとも感染者達には、バロックの力である程度の主人公の意識のベクトルは感じ取れますし、それが加護とやちる、どちらの心情により近しいか、という部分での変化は確実に出てくるわけで。
 少なくともあのマッドな医者は、どう転んでもいいように多方面に仕掛けを施してはいるわけで、いずれどこかの導火線に火がついて爆発する、という必然がまずあり、けれどバロックという精神性がその強度に影響する力が介在する故に、その進行速度がささやかな心境の共鳴でも加速度的に進んでいく、とは言えるでしょう。

 すなわち、加護ルートとやちるルート、それぞれで発生する事案はどちらも長い目で見れば回避不可避なものですが、けれどどちらかが発現してしまえばそれだけで街は混沌の渦に概ね巻き込まれるので、嫌な言い方をすれば早い者勝ち的な部分があって、その後押しをあの一見内的動因にならなさそうな選択肢はしっかり担保している、という事ですね。
 まあこういう設定は、こういう残酷さを露骨に孕む、読み手の安心感に配慮する気が微塵もない構成だからこそ出来る力技、って感もありますし、その意味では本当に、肌の合う合わないはあれど、作品の完成度としては凄味があるなぁとほとほと感心するところです。

 それぞれのルートの、バトルもの、恋愛ものとしての観点からの面白さも一定水準担保した上で、総合的な枠組みでこれだけしっかりしたものを作ってくるというのは並大抵ではないですし、その上で最後の最後までテーマ性を貫き切っているというのも凄いところです。
 個別それぞれの細かい面白さの分析までは、紙幅と根性が足りないのでオミットしますが(笑)、一応の評価としては幸>>加護>やちるって感じで、加護とやちるの差はやっぱりあの凌辱展開と裏切り展開の悲嘆さがきついからですかね。でもどれも水準は遥かに超える出来なのは間違いありません。

 幸ルートに関しては流石に少し触れておくと、あの恋のやり直しと、その共鳴がスターターとなってのバロックの拡散・世界の崩壊という繋ぎ方が、いずれその辺は出てくるにしても、そこまでのイメージでもっとシックスあたりとの対決、とりわけ人類最大の脅威をどうやって凌ぐんだ!?的な方向に興味をミスリードさせておいていきなりですから、その大胆で意表を突く構成力も凄味があります。
 結局そのボーダーの高さから、基本的には主人公に感化された面々しか生きられない、という中で、違ったベクトルで見せつけられる人類最大の偉大さよ…………!って感じで、本当にあのシーンのキニスンさんマジかっけー、そりゃクラリッサさんも惚れずにはいられんだろうし、その献身に感化されて彼らがその後を生き延びたのも納得でしたねぇ。

 ともあれ、そうやって急加速度で破滅が広がっていく中での最後の選択は本当にシビアですし、一貫性を求めた方がバッドエンドになるっていうのも凄いなと。
 無論ある程度本心を偽っての誤魔化しではあるのですが、そういう有り様そのものが、特に優理が理想像として崇めてきた主人公像を毀損するというのはまち皮肉な話で、そこを譲れない、という意地も含めて人の業のままならなさが最期まで貫かれるというね。
 当然そこまでした上で、主人公がネタバレの最初に定義した、個としての絶対的な強さを意識して歩み出す、というのは、作品の一貫性の上では素晴らしいシーンなのですが、やっぱりビターエンドではあるのでその辺人を選ぶなぁって。あとここでのやちると加護の選択もまた、実にらしくていいですけどね。とりあえず加護と詩穂ちゃんの百合百合FD待ってます(笑)。

 あの知性群体の演算結果に関しても二通りの解釈は出来ると思っていて、一個の中にすらそういうブレが存在する知性体は救う意義なし、と見做されたのか、それともその個の意識の確立が滅びを先延ばしする影響力を保持していると見做したのか、まぁ後者で取っておいた方が読み口としては涼やかですけれど、群体の思考経路としては前者の気もしないでもない。。。
 まあ最低限ナーラは取り込んでいったわけだし、それで良し、後は知らんって感じはするもんねぇ。最後まで有難迷惑極まりないというか。

 どうあれ、一貫して人間性の解釈の中に悲観を漂わせつつ、それでも、の理想と価値を追い掛けての物語は本当に重厚で面白かったですし、強いて言えば本当にヒロインズの扱い酷いな、ってのはあり、どうしても気分が悪くなるシーンとかはあったから手放しでは褒められないけれど、それでも名作ラインはしっかり踏み越えた意欲作だったと思いますね。



キャラ(20/20)

★全体評価
 
 登場人物それぞれにしっかりした背景と信念があって、それぞれの意思や正義に準じて生きている、その生々しさがすごく近かったですし、無論唾棄すべき存在だっているはいるけれど、そこも含めて人の多様性、特に醜い部分の多様性のサンプルケースとして非常に面白かったですね。
 そういう背景だからこその主人公達の清らかさというか、愚直過ぎる真っ直ぐさも相対的に輝いて見えますし、概ねインパクトの強いキャラ群だったと思います。とりあえず詩穂さんまで闇落ちしてなくてマジ良かったよ(笑)、まぁあの偽妹はいかにも怪しかったもんなぁ。。。

★NO,1!イチオシ!

 ここはやっぱり幸先輩一択にはなるでしょうねぇ。
 構成的に必要以上に完璧超人で、大人びた精神性が目立ちますが、しっかり自分のルートではそれだけではない、って部分を見せてくれますし、いかなる非業の中でもしっかり自分の意思で道を選ぶ強さを持っていて、どうあれあの回想での手話シーンは刺さる刺さる。その前のイチャエロがまたベッタベタだけど最高に素敵だったせいで、その落差も含めて本当に印象度が高いですよね。

 勿論この作品のヒロインなので末路はお察しを、とはなっちゃうのですが、それでも彼女の足跡は本当に色濃く世界に息吹をもたらしたと思いますし、期待以上に好きになれましたね。

★NO,2〜

 加護も一見すごくしっかりしていて前向きに見えて、その内面のトラウマと脆さを見せてくれるとすごく助けてあげたい、って思わせる魅力がありましたし、個人的にはこの子だけシーン数少ないぞゴラァ!って不満もありつつ、基本的にはやちると違った意味でいいムードメーカーでもあって可愛かったですね。
 最後の詩穂ちゃんとの雰囲気がちょっと怪しいのがまた素敵で、上でも書いたけど百合百合FD期待したいんですがダメでしょうかしら?

 やちるも基本的に見栄っ張りで強がり、だけど実は臆病で弱いという、ある意味ですごく一般的で善良な人の調子よさをやや誇張的に示しているところはあったと思いますし、それがしっかり愛嬌として機能しているバランスは良かったですね。
 ヒロインとしては一番直接的に酷い目に合ってない?ってのはあるし、そこで跳ね除けられない弱さがいかにもって感じで納得は出来るんですけど中々ねぇ。偽妹がやっぱり性悪だったのが地味に連関して残念な部分でもある。

 そしてナーラとのイチャラブはないんですかっ!?と真顔で聞いてしまうあたりで、所詮私は最初に一網打尽にされた地下街の男達と同じ穴の狢に違いない(笑)。
 まあ設定上そうならないのは仕方ない部分も多いし、主人公もそこは良識人ですからねぇ。色んな意味でこの作品、エロゲにありがちなドリーム感は一切ないんだよなぁ、とか思いつつ、まあほどほどにいい癒しキャラとしても機能してましたし良かったと思います。

 男キャラではもう群を抜いて人類最大さんカッコ良過ぎます。
 どのルートでもその渋さには定評があるけれど、やはり幸ルートのあれは痺れますし、そりゃあクラリッサも抱いて…………!って牝の顔にならざるを得ないわ(笑)。


CG(18/20)

★全体評価

 基本的に作風にマッチした絵柄で、個人的にはブサイクのイメージが強い絵師さんですから、ゴアとかガヴァンザとかその辺の印象とリンクする感じもあってなるほどなぁって。
 残忍なシーンもしっかり描けているし、ヒロインも程よく可愛く肉感的で妖艶でもあって、勿論私の好みど真ん中かって言われると違うんだけど、この作品には本当に噛み合っていたと思いますね。

★立ち絵

 ポーズはヒロインで2種類、サブで1種類と少なめ。基本的に立ち絵の動きで見せる作品でもないから仕方ないかな。
 お気に入りは幸正面、やや横、加護正面、ナーラ、クラリッサあたり。

 服飾もヒロインで3〜4種類、サブで1〜2種類と最低限ですかね。
 お気に入りは幸制服、私服、加護私服、やちる私服、詩穂私服あたり。あ、偽妹の私服も可愛いは可愛かったねあざといまでに。。。

 表情差分もそこまで多くはなく、出来もごく普通かなぁ。
 基本的に幸と加護は可愛かったし、やちるの調子に乗った感じとか、ナーラがたまに笑ったりはにかんだりしてくれるのは可愛かった。あと詩穂ののほほん笑顔も。

★1枚絵

 全部で95枚とまず水準は確保されていますね。
 出来は安定して高く、幅広いシーンがありつつしっかり感情が乗ったいい絵が多くて、これは!というほど突き抜けたものは少ないですが総合力は高いです。

 特にお気に入りは、幸の告白、みんなでお風呂、二人乗りあたりですかね。


BGM(19/20)

★全体評価

 質量ともに申し分なく、実に洗練され迫力のあるいい楽曲群だったと思います。
 バトル曲の質の高さは相変わらず圧倒的ですし、コーラスなどを駆使した日常曲の趣き、嬉々と日常の落差の表現など、このあたりはメーカーとしての蓄積を感じさせる熟練の出来で満足度は高かったです。

★ボーカル曲

 全部で2曲。
 OPの『血狂穢喰』は非常に作風の緊迫感と疾走感にマッチした、いかにもって感じのすごくかっこいい曲ですね。
 特にBメロのメロディラインとサビへの繋ぎ方がすごくカッコ良くて、イントロなどの重厚感も含めてかなりお気に入りです。

 EDの『アシタ』も地味に名曲。
 こちらも結末の雰囲気にリンクした、哀愁と孤独をイメージさせる曲でありつつ、その中から力強く芽吹くものもある、というイメージが強く打ち出せていて、メロディラインの完成度、サビの迫力まで含めてかなり気に入ってます。

★BGM

 全部で30曲と量は水準クラスですが、ひとつひとつの出来は流石に素晴らしかったですね。どれもシーンに合わせた軽やかさや重厚感は当然あり、そこからの変調、奥行きも含めての完成度の高さは素晴らしく、聴きこむほどに味が出る素敵な曲ばかりだと思います。

 特にお気に入りは『虚空のバロック』『幸』『追想』『一髪千鈞』『対決』あたりですね。特にこのタイトル曲の美しさは鮮烈でした。


システム(9/10)

★演出
 
 いつもながらにムービーを多彩に駆使しての表現力の幅、バトルシーンの迫力は流石の一言ですね。
 裏腹に日常シーンの活気は、シナリオ上それが問われないのもありつつもう一歩ではあり、ただ全体としては高い水準、ムービーもすごく雰囲気があってカッコよくも妖しく、面白い出来だったと思います。

★システム

 基本的に必要なものは揃っていますし、少し動作が重いくらいかな、気になるのは。
 個人的にはフォント変更がないのは結構気になりますけれど、それはそれで作風を維持するデザインの一種とも言えるので、ここまで個性の強いつくりだとまぁ、ともなりますかね。


総合(92/100)

 総プレイ時間20時間。
 共通が8時間くらいとかなり長めで、かつ個別も3,5〜4,5時間くらいと、ヒロイン数が少ない分はしっかり重厚、それでもやっぱり幸が質量ともに一段上の内容ではありましたかね。
 全体尺としては水準クラスですが、内容量としてはすごく濃密で色々考えさせられる作品ですし、話のテンポ自体はすごく速いので熱中してどんどん先を読み進められる良さもあります。

 正直なところ、どのルートもめっちゃビターなイメージは強くて、かつ道中も悲嘆の山って感じではあるので、そういう作風に耐性がないと苦しく、間口の狭さと人を選ぶ部分ではかなりのものがありそうです。
 ただその反面、暴虐が吹き荒れる作品の割にすごく構成の緻密さ、一貫性、完成度の高さは目を瞠るほどで、それだけでもプレイして見る甲斐はありますし、内容のえぐさに騙されずにそのテーマ性の深さ、直截さをかみしめて欲しい作品ですね。
posted by クローバー at 06:13| Comment(2) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
感想読了
昏式さんならlightのVemillion Bind Of Bloodもオススメですよ.......
Posted by at 2018年03月17日 00:51
 コメント及びご紹介どうもです。
 確かそれ体験版だけやった記憶がありますねぇ、結構面白かったけれど他に買うもの多過ぎて見送っていた気がします。
 中々時間を作れるかも怪しいですが、意識に留めておきますね。ありがとうございます。
Posted by クローバー at 2018年03月17日 16:07
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