2018年04月19日

空と海が、ふれあう彼方

 ロープラで全年齢と中々ニッチなセッティングではあるけれど、まぁ紺野さんシナリオならそうそう外れはしないだろうと踏んで購入。


シナリオ(20/30)

 青き世界と、青い春。

★あらすじ

 主人公は幼い頃は良く通っていた、祖母が居を構えている小笠原諸島に数年ぶりにやってきました。
 その理由は、祖母が経営している喫茶店がこの夏で店じまいになってしまうと聞いたからで、その手伝いがてら、いずれその店を継ぐという夢の重さと大きさを確かめるためでもありました。

 そんな旅路の途中、朝焼けに輝く船上で、主人公は神秘的な少女との出会いを果たします。
 金髪に蒼い瞳の、日本人離れした美貌を悲しみに曇らせ、じっと海の彼方を見つめる少女・エミリィ。
 彼女が手にしていたスマホを衝動的に海に捨てたことが気に入らず、思わず声を掛けてしまうものの、その場は特に話が膨らむわけでもなく、ただその愁いに満ちた横顔ばかりが印象に残りました。

 そしていざ上陸した父島で、自分を迎えに来てくれる相手を探していると、港で一騒動が起こっている事に気付きます。
 それはどうやら誰かを探しているようで、その誰かとはかの金髪少女……らしいのですが、自分を盾にその追跡をやり過ごそうと必死な様を見て思わず庇い立てしてしまいます。
 一先ず追跡者の手が届かないところまで逃げ、もしもの時の為に自分がこれから暮らす場所を告げてから港に戻ると、そこには記憶にある姿とかけ離れた、とても綺麗に、そして女性的に成長した幼馴染のちさと、その相棒のイルカのQ太郎の姿がありました。
 その姿に少しドキドキしながらも、性格的には変わっていない所を見つけてホッとし、彼女の手引きで島での生活を無難にスタート……するつもりだったのですが、手伝いを申し出た祖母はけんもほろろの対応、中々一筋縄ではいきません。

 それでも、少しでも自分の出来る事を見つけようと前向きに考える主人公は、その夜、かの金髪少女・エミリィが店先を覗き込んでいる姿を見つけ、思わず追い掛けます。
 やがて灯台のふもとに立っているのを見つけ、船上での儚い印象からもしや自殺を考えているのでは、と勘違いして止めに入りますが、結果的にそのアクションに驚いたエミリィは海に転落、主人公も飛びこみなんとか彼女を捕まえるもののそれ以上はどうにもできず、このままでは海の藻屑……という危機一髪のところでQ太郎に助けられ、九死に一生を得ます。

 しかしエミリィは転落の影響で全ての荷物を失い無一文、けれどこの島に来るのに、海に沈んだ宝物を拾い上げるという確固たる目的があり、それでこれからどうすれば、と途方に暮れている所を、祖母が自分の家でバイトしながら過ごしていい、と救いの手を差し伸べてくれます。
 ただしここに来るのに家出騒動を巻き起こしていたエミリィに残された時間は、次の定期船が島にやってくるまで。
 ならばせめてもの罪滅ぼしと、それ以上に好奇心に駆られて、主人公とちさはそのエミリィの探し物に付き合う事となるのです。

 これはとある夏に唐突に訪れた、運命的な出会いとアドベンチャーの物語。
 果たして彼らは無事に目的を達成する事が出来るのか、そしてその先に、出会ってしまった三人の関係性がどう変化していくのか、壮大な空と海を舞台に繰り広げられる、爽やかで甘酸っぱい青春の物語です。

★テキスト

 基本的にはいつものこの人らしい雰囲気ですね。
 シンプルで分かりやすい文言でまとめられつつ、しっかり心理的な機微や葛藤などを行間で表現するのが上手く、演出効果との連動性が非常にしっかりと考え抜かれた筆致になっています。
 キャラの個性的な部分ややり取りの軽妙さ、爽やかさについてもらしさはしっかり踏襲されていて、まぁこの人のここでのシナリオって大抵微妙な三角関係は混じってくるので、その部分での決してプラスなだけではない熱量も含め、青い年頃の面々の勇み足や勘違いなど、ありがちな部分を蔑ろにせず丁寧に拾っていくスタイルはやっぱり好きですし、その上で決してギスギスはしすぎず、きっちりヒロイン同士も仲良くなっていく流れが本当に楽しく、読んでいてスカッとする感じではあります。

★ルート構成

 ルートはエミリィとちさの2本だけ、選択肢的にどちらかにより親和的なものを選んでいけば問題なく分岐するのだろうと思います。もしかすると一定の好感度がないと、最後のお祭りからの個別分岐選択で選べなくなるのかもですが、そこまでは精査してません。
 まあロープライスの中でもある程度最低限のゲーム性を保持しているのはいい事ですし、王道的なヒロインの心情に寄り添う形での選択形式なので、物語の流れとも噛み合っていて問題はないでしょう。

 別にどちらからクリアしても問題はないですが、一応メインはエミリィという位置づけとは思います。

★シナリオ

 大海原を舞台にした、爽快でありつつもちょっと切なく、そしてどこまでも甘酸っぱい青春物語、ってだけでほぼほぼ説明が済んでしまうのですが(笑)、具体的にはかつて島の近くのどこかで沈んだままになっている幽霊船、そこにエミリィの両親が残してきた愛の証を見つけて、今その関係が破綻しかかっているのをなんとか修復するぞ!という部分が根幹になってきます。
 段階的には、最初の期限内で足掻くも上手くいかず、せめて島でのいい思い出を、と主人公とちさが気を配る中で、かえって危険な状況に追い込まれるも災い転じて福をなすという、いかにもなストーリーメイクでしっかり要所要所に引きと、ささやかな謎を散りばめていって、それをしっかり最後に綺麗に回収していく形にはなりますね。

 ヒロインは二人しかいませんし、一応エミリィの動向に関しては些末ながらも外的要因は作用するものの、本質的には三人の関係性がどう変化していくかで、日々の過ごし方から冒険に対するアプローチまで少しずつズレが生じてきて、結果的にそれぞれの少女が抱えたものと主人公が向き合い、それを受け止めて解決していくという王道まっしぐらの流れの中で、しっかり最低限の整合性と幸せの在り処は見出せているので、そう言う部分はロープライスならではのコンパクトなまとめ方だなと思います。

 物語的にも短いのにあまりつらつらネタバレ語るのも無粋ですし、その辺は特に触れずにサクッと済ませようと思いますが(べ、別に書くのが億劫ってわけじゃないんだからねっ!)、大枠としては本当に王道的な、一歩ずつ神秘の謎に近づいていく高揚感と、それに伴って高まる連帯感、信頼関係、やがてそれが一人の少女への恋情へと擦り替わっていく機微をしっかり追いかけていって。
 けれどその恋情が報われるにも当然一山あり、ヒロインの特別な部分により深く踏み込む事でそれを達するとともに、その関係性の変化によって生じる心理的前向きさが冒険の側にもいい影響をもたらしていきます。
 しかししかし、当然ながらその最終目的自体もすんなりとはいかず、しっかり一波乱あってもうダメか、とドキドキさせられつつも、しっかりそこまでに培った絆や努力が反映しての大団円、というお約束を完璧に踏まえている、と言えますね。

 はっきり言ってその構成は、ころげてやみあげてのメインルート部分で見せたものとすごく似ていて、ただどうしてもフルプライスでやれることとロープライスでやれることの差異というか、谷の部分の重さをあまり引っ張れなかったり、逆転劇の要因も複合的でなく、ある程度ヒロイン個人の何かに基づくワントピック的な部分で片づけられてしまうので、その点で過去作に思い入れがあるほど、ややあっさりし過ぎている、という物足りなさを感じる部分はあるかもしれません。
 ただそのあたりを差し引いても充分面白いですし、また実在の小笠原諸島を舞台にした物語、と言う事で、しっかりロケも敢行したのでしょうが現地の美しい風景や空気感をそのまましっかりゲーム内に閉じ込め、高い演出力を駆使して再投影するという補助的なプロセスと綺麗に合致している点での楽しさは過去作以上かも、と思えました。

 全年齢なのもこれでいいような残念なような、基本的にエロゲーマーの私としては物足りなさがないとは言いませんが、物語のテンポを阻害しないレベルでの甘酸っぱい青春恋物語をお手軽に楽しめるという意味ではバランスはとれていたのかな、とは思います。はっきりヒロインの年齢明示している以上、アフター的な要素でないとそういうシーンの追加パッチも作れませんし、そもそもやる気はなさそうですしね。
 ともあれ、値段とボリュームの面で費用対効果が素晴らしいか、と言われるとやっぱり首をかしげたくはなりますし、色々食い足りない作品ではあるものの、このライターさんのイズム的な部分のエッセンスはコンパクトに煮詰まっていると思えますので、むしろ過去作をプレイしたことがない人の取っ掛かりとしては結構お勧めかもしれません。
 これをプレイしてみて楽しい、特に主人公とダブルヒロインのほんのり三角関係のありようが好みだと思えるなら、ころげてやみあげて、引いては夏の雨あたりまで普通に楽しめると思うんですけどね。


キャラ(20/20)

★全体評価など

 まあ基本的に嫌味なキャラとかはいませんし、その辺は島の風土も踏まえての大らかで温かいありようが、最初は心に棘を背負っていたエミリィを本来の無邪気さに染め変えていく、というプロセスがやっぱり楽しいですからね。
 ヒロイン二人も可愛いですし、特に割り引くところはないと思います。

 一応どちらが好きか、と言われると微差ながらエミリィかなぁと。
 これがいかにもこのライターさんのメインヒロインだなぁ、って感じの程よい自信家・楽天家で、それでも変に謙遜も慢心もなく、しっかり海に向かい合う中で等身大の自分を着実に高めていく努力家の面もしっかり見せてくれますし、なによりその一途で淳良な想いの形がやっぱり綺麗だな、と思えるのですよね。
 恋愛模様としても、色々屈託があるちさに比べると本当にストレートに運命の出会い、って彩りで爽やかですし、凄く素敵な子だったと思います。

 ちさはちさで普通に可愛く、ともすれば陰キャラになりがちな重めの設定をそこそこ持ってはいるものの、そこを海を自由に泳ぎ、イルカを共にする自然少女という開放的なステータスを付与する事で上手く性格的にもイメージ的にも中和しているのかな、と。
 こっちは幼馴染ならではの屈託や積年の想い、それ故にエミリィの登場で色々ともやつく部分が隠し切れないという諸々はあって、ただその辺もしっかりエミリィ本人と対峙して想いをぶつけあって、というプロセスの中で綺麗に溶け去っていきますし、本質的にはお人好しでお節介だから、そのあたりも含めていい子だなー、と素直に思えましたね。
 そして妹ちゃんの謎キャラぶりが可愛い。愚姉愚姉言いつつすごく懐いてる感じなのがいいよね。

 そしてQ太郎、シナリオ的にも色々美味しいとこ持ってくし、基本こういう作品では癒し枠の動物キャラなのに、こっそり性格悪い設定だったりするのが面白いですね。でもそれも含めて愛嬌と思わせる匙加減と舞台効果との相乗性は流石でした。


CG(17/20)

★全体評価など

 キャラ絵そのものは決して抜群の水準ではないものの、舞台設定との雰囲気のマッチングという意味ではいいですね。ここまで大自然!ワイルドだろぉ?って感じだと、確かに基井さん絵では可愛過ぎる、ってのはまぁわかる。
 後はやっぱり、単純なヒロイン絵だけではなく、風景の描き込みとかの質の高さは流石の一言で、総合的な質感はハイクオリティに保たれているイメージではあります。

 立ち絵は主要人物はしっかり完備されていて、ヒロイン二人はしっかりポースや服飾などでもそれなりの優遇はされているので、見た目に必要なものはしっかり揃っているしまず悪くはないでしょう。
 
 1枚絵は通常28枚にSD6枚で34枚、まあお値段的には充分でしょう。
 特に良いなー、って思ったのは、ダイビングで魚群を眺める二人、エミリィとのキス、エミリィとのプロポーズあたり。あと二人で海に沈んでいくくだりの1枚絵はシンソウノイズかと思った。。。


BGM(17/20)

★全体評価など

 ボーカル曲1曲にBGM18曲で、値段を考えればかなりしっかり用意されている方だと思いますし、質も舞台設定に合わせて基本的には明るくテンポのいいもの、迫力のあるものが準備されていて、しっかりシナリオを下支えしているかなと感じます。

 このOP曲はいかにも近年のプルトップの集大成的なつくりではあり、伸びやかさと疾走感、爽快感が混然一体となるところに、今作のテーマでもあるアドベンチャア感の投影なのか、メロディラインの意外性・奔放さが加わっている感じです。
 敢えて言えば自由過ぎて掴みどころがない、完成度的な面でちょっと雑に感じる向きもなくはないですし、例えばいざ自分でメロディ覚えて口ずさもう、と思ったらめっちゃ難易度高いなー、って感じですけれど、リピートで聴いていてしっかり聴き手に高揚感を伝えてくるパワーは素晴らしい、熱量の高いこの物語にはマッチした曲だなと思います。

 BGMとしても特に可もなく不可もなく、ではありますが、基本明るい曲やスリリングな曲がメインなので、要所でこそっと出てくる切ない系の曲、『Descending』なんかの印象はかなり鮮明に残っていますね。


システム(9/10)

★演出

 相変わらず背景演出の洗練ぶりと丁寧さは素晴らしいですね。海の質感とか、花火のシーンとか今まで以上の迫力というか臨場感を感じさせましたし、それだけでも満足度は高いです。
 ムービー的にもタイトルカラーでもある青のインパクトをしっかり引きつつ、爽やかでスピード感あるセンスある仕上がりになっていて好きです。

★システム

 まあ相変わらず動作性という意味ではもっさりしてんなー、とは思いますが、概ね必要なものはあるとは言えます。
 が、いつもながら前にジャンプだけがないので、結構しっかり選択肢が出てくる作品だと厄介なのは変わらずの課題ですねぇ。それこそころげてとかみあげてはその辺めっちゃ面倒でしたし、これは尺的にはそこまででもないけど、改善されるに越したことはない、と思いますが。


総合(83/100)

 総プレイ時間7時間。共通4時間弱で、エミリィ2時間、ちさ1,5時間くらいのイメージでしょうかね。
 まあ値段を考えれば尺としてはこんなものか、とも思うのですが、ヒロイン二人とはいえ構成の段階の中で、やや2段飛ばしじゃない?的に感じる部分はなくはないので、その点では薄味に思えるかもしれませんね。
 総合して悪くはないんだけど、作品イメージとしては本当に過去作を彷彿とさせる部分も多いので、上でも書いた通りにこのライターさんの作品やった事がない人の方が楽しめる余地は大きい気はします。

posted by クローバー at 05:20| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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