2018年04月24日

バタフライシーカー

 シルプラの作品は大抵外れないし、これもライターさんや作風、体験版の雰囲気など総合的にすごく面白そう、と思えたので迷いなく購入。


シナリオ(24/30)

 運命の偶然の残酷さ。

★あらすじ

 主人公達の暮らす白檻市は、かねてから異常心理犯罪発生率の高さが問題になっていました。
 猟奇的な事件が多発する危険な街において、警察も特別対策班を設けてはいるもののその処理が追い付かず、それ故にこの街には、学生で犯罪捜査に有能な資質を示す者を取り入れ、秘密裏に捜査権限を与える「学生捜査員」制度が前市長によって設立されていて。
 今では市内のそれぞれの学園に犯罪捜査のユニットが設けられており、主人公達が通う白檻学園にも、昆虫美食部、通称「ムシクイ」という殻を被ったチームがいて、主人公はそのリーダーを務めていました。

 大抵学生捜査員になる面々は、近親者が異常心理犯罪の被害者や加害者であることが多く、主人公も例に漏れず、義姉が「蜘蛛」と呼ばれる無差別大量殺人の犯人であり、その犯行現場を目撃してしまった事が契機になっていました。
 かつその際に主人公は、犯罪被害者が死に至る遠因となる情景をランダムに幻視できるという特殊能力、通称バタフライシーカーを保持しており、それは未だ科学的に立証されていない為に半信半疑の目で見られつつも、主人公はその力でこれまでいくつもの事件を解決してきたのでした。

 現状でのムシクイの学生メンバーは4人。

 心理洞察が得意で、その心情に寄り添い傷ついた心を優しく癒す力を持つ優衣。
 記憶力に優れ、それを利用して多彩な情報処理能力を必要とするプロファイラーを目指す千歳。
 身体的能力に優れていて、誰よりも強い正義感で直接悪人と対決する役割の羽矢。

 ここに教員と捜査官の二足の草鞋を履いている顧問の梓が加わり、この能力的にバランスの取れた5人で日々の捜査に当たっていました。
 
 しかし主人公は、一番活動歴の短いメンバーである優衣が参加する事を内心快く思っていませんでした。
 それは彼女が唯一、異常心理犯罪でなにか欠落したものを抱えているわけではない事と、そのたぐいまれな心理洞察能力で、主人公自身が記憶に蓋をして自分を誤魔化している諸々を暴かれそうな恐怖感に起因していますが、しかし周りの懸念も虚しく、優衣は日々残忍な世界の裏側を覗き込んで傷つきながらも、その活動をやめようとは決してしません。

 そんな折、猟奇的な拷問ののち死体遺棄、という残虐な手段を重ねる連続殺人の捜査がムシクイに託される事になって。
 今までのムシクイには与えられなかったレベルの凶悪で周到な事件に対し、各々はそれぞれの能力を振り絞って立ち向かっていきます。
 そうやってひとつひとつの事件を解決していく事で、いつかこの街に蔓延する犯罪発生率の高さの理由を、そして主人公にとっては、かつての優しかった姉が豹変してしまった理由を探す事に繋がっていくのです。

 この街の、雪解けはまだ遠いーーーー。
 これは、曇天と雪景色に包まれた寂寞たる世界の中で、熱い義心と真実の渇望を旨に戦う少年少女達が織り成す、ミステリー要素に溢れた成長物語です。

★テキスト

 テキストとしてはいつもながらに流麗で端的、語彙の選択が自在で文章としての格調を保持しつつも、淡々と冷徹に残忍なシーンや心を抉るシーンも綴ってくるあたりでらしさが満ち溢れているなぁと感じます。
 文脈としても非常に明快、かつ一文ごとのつくりが簡潔で読みやすく、どうしても物語の性質上事件概要などの面倒な部分も淡々と叙述する必要があるのですが、その辺もすんなり頭に入ってきて、後々の捜査の手掛かりにするのにしっかり担保になる印象ですね。

 その上でシリアスな部分と並行してのキャラ同士の心理的な面での交流や触れ合いも最低限は用意されていて、そこではそれぞれの得意分野や個性がより明確に浮き彫りになるような読み口をしっかり投影していて、全体的に作品そのものが頭に残りやすい構図になっていますし、文章の的確さがそれを助長しているのかな、と思いますね。
 個別は全てを一人では書いてなさそう、と感じるところもあったりはしますが、概ね全体の雰囲気に違和感はないですし、少なくとも共通から優衣、トゥルーに至る本流はメインの人の筆だなと思えましたので、総合的には高く評価したいところです。

★ルート構成 

 基本的には共通からヒロイン三人のルートに分岐し、それぞれにグッドエンドとバッドエンドが用意されていて、三人のグッドエンドをクリアすると自動的に最後のトゥルーエンドに至るルートが解放される、という仕掛けになっています。
 単純なルート分岐に関しては、道中で時々出てくるヒロインの心情や立場に寄り添えるか否かの選択で正解を選んでいくとグッド、そこで間違えるとバッドという中々シビアなつくりで、それもしっかりヒロインの性格や考え方に依拠して、それなりの正解を選ばないといけないので地味ながら難易度が高いです。
 しかもその分岐確定が結構早い段階の選択肢で行われるので、その意味でもスリリングなつくりではありますね。なにせどれもバッドエンドときたら凄惨そのものですからねぇ…………。

 そしてそれとは別に、捜査パートでの選択も多数用意されています。
 基本的には捜査で一定の材料が揃った時に思考を整理する意味で挟まれ、いくつかの選択肢選択や穴埋め形式で、その犯罪の核心に迫っていく必要があります。
 ただこのパートに関しては、精密にやりこんでいないのでなんとも言えないですが、基本的には少しくらい間違えても勝手に主人公らが否定してくれて、正しい選択に至るまでやり直せる模様です。
 もしかすると選択にまごつき過ぎるとタイムオーバー、なんて仕様もあるのかなと考えたのですが、一応エンディングリストは全部で9つ、それは通常の選択分岐の中で派生していくので、こちらの正解率はそこまで問題視されない要素なのかなとは思ってしまいます。

 それに気付いてしまうと緊迫感がなくなるところはあり、まぁそこは単純に推理ゲームとしての面白さ、しっかり物語を読み込んでいれば推察できるレベルのものなので、そこを楽しむ要素として見るべきなのでしょうが、例えば共通最初の事件なんかは、この思考の確定に手間取る事で危機を回避できるか否か分岐する、なんてファクターがあっても良かったとは思いますかね。一か所それがあるだけでその後の緊張感が違ってくるとは感じます。
 まあ私みたいな生粋のチキン野郎は石橋を叩いて一発正解を目指して熟慮しますし、よしんばそれで間違えても念のためロードしてやり直すわけですが(笑)、一応プレイ中に間違えたの一回だけだったから、やはり難易度的にもそこまでではないし、そこからの分岐まで作ってしまうと煩雑に過ぎるからオミットされた、という印象ですかね。

 ともあれ、それでもゲーム性、という視座では昨今の作品としてはかなり骨太ですし、こういう設定ならではの重さもしっかり反映するつくりなので、その点はほぼ期待通り、と言っていいのではないでしょうか。

★シナリオ(大枠)

 まず結論的に言うなら、この作品は非常にスリリングで面白くも美しく、理路整然としていて一定の説得力もある、とても完成度の高い作品です。
 ただしある意味完成度が高すぎるというか、コンパクトにまとまり過ぎているというべきか、質量両面で少しずつ物足りなかったり、どう評価すべきか悩むファクターが散りばめられていたりで、その積み重ねの中で、力作ではあるけれど名作・傑作という水準に至るには少しばかり重みが足りなかったのではないかな、という印象です。

 まず量的な部分、これはシンプルに二つの要素に分けられます。
 一つ目はミステリー的な部分で、これは上でも触れたように本流が共通〜優衣〜トゥルーという流れに集約されていて、千歳と羽矢の物語も彼女らの過去や今の立ち位置、精神性を投影し、それを集約的にトゥルーに組み込む、という意味では必要な要素ですが、本流の事件の要因そのものとは別個の要因にはなっています。
 これ自体も意味がある事だ、という部分は後程質の面で検討していきますが、ともあれここで言えるのは、本流の事件を説得的に見せるのに、綺麗にホップステップジャンプという三段構成になっていて、確かにそれで必要最低限は担保されているけれど、遊びや奥行きという面での物足りなさ、引いては蓄積がもたらす絶対的な信頼性・説得性の面に影響はあるのでは、と感じました。

 二つ目は人間関係的な面で、これはよりシンプルにイチャラブが足りねーぞオラァ!って話です(笑)。
 そもそもそれぞれのルード分岐の決定的なファクターがどの事件を捜査したいか、って時点で、単純な好いた惚れたの物語になりにくいのは致し方ないですが、それにしてもやっぱりこの恋愛要素的な部分は必要最低限って感じだし、羽矢あたりなんかは特に、好きと打算の境界線の難しさなどもあるから余計にモヤッとする面はあるんですよね。
 つまり、どのルートのヒロインにしても好きの理由自体はきちんとあるし、そこの流れに不自然さはないんだけれど、やっぱりそれも必要最低限だから深みが足りない、かつその好きに対して共感を持ちにくいというのは素直に欠点にはなってしまうと思います。

 当然そういう面で強調する作品ではない、というのは承知ですが、それを踏まえても薄味だな、というのはありますし、共通での関係性のひそやかな進展や変化を綴ったり、或いは後日談的な形でもいいからより心配事のない状況でのストレートなイチャラブも楽しみたい、それだけの魅力があるヒロインズだったとは思うだけにそこは残念なんですよね。
 ここは一つ目のファクターにも連動していて、要するに本流と連関する、けれどあまり重すぎない事件をもう一つくらい共通で展開して、その流れの中で自然にヒロインとの交流、遊びに興じるシーンなどのワンクッションが置ければ、一石二鳥の効果があったのではないかと感じます。
 
 次いで質的な部分、こちらはまずこの作品のテーマの解釈からはじめましょう。
 ここも結論から言うと、私の解釈ではこの作品のテーマは運命の不条理さ、不確かさに尽きるのかなと考えています。

 この項の最初で、この作品が理路整然としている、と評価しましたが、厳密に言えば理路整然とさせるべきとライターさんが考えた範疇においては、という付帯条件が付きます。
 というのも、この作品のテーマが運命の不条理であり、人知の及ばない様々なファクターの絡みによって起こってしまったもの、発現したものが、この作品のシナリオの根幹には埋められているからです。

 少し話が寄り道になりますが、物語性という点を考える時、全体の出来事が全て一つの原因に起因している、という方がよりドラマチックで整合性も強く、盛り上がりや説得性においても高い水準を打ち出せるでしょう。
 或いは歴史解釈などにおける陰謀論的なものもそれに近しいものがあり、とかく人は原因にシンプルさと明快さを求めがちですし、特にフィクションにおいてはそれが顕著に求められるのではないでしょうか。

 けれど、現実というものは決して全ての事象が単一的な要因で発生するものではなく、複合的な要素が絡まり合い、個々人の手の届く範囲外からの様々な影響によってもどんどんその形をうつろわせていってしまいます。
 それは主観的には神の見えざる手、介入の仕様がない部分からの影響であり、それを人は運命の不可解さと捉え、それがマイナスの方向に働く場合は不条理と考えるわけですね。

 そしてこの作品は、そういう運命の不条理さを、敢えて定量的に組み込んでいる野心的な作品だと思います。
 それが物語性においてはマイナスの要因になりかねない、という部分を理解して尚、その匙加減を意図的に調整する事で、明快には説明できない不条理や不可思議要素があったとしても充分に説得的に紡げるだろうと、そういう挑戦的な意識を感得する事が出来ます。
 当然不可解要素を単一要因にすると説得性は相当薄くなってしまいますので、基本的に外殻の部分は理路で説明できる範疇で支えつつ、根幹的な部分だけは、個々人の手ではどうしようもなかった不条理に依拠している、というバランスの取り方は、中々面白い試みだとは感じますね。

 ひとつ具体例を挙げるなら、まずムシクイメンバーの有り様にもそれは投影されているかなと思います。
 ムシクイメンバーはそれぞれに特異な能力を保持していますが、ただ少なくとも主人公以外の三人は、常人よりは確かにちょっと優れている、けれどそれは脳科学的な視座で理解可能な変異の水準に抑えられている、と言えるでしょう。
 記憶力の増大などは言うに及ばず、優衣の心理洞察も得意な観察力の賜物と言えますし、羽矢の馬鹿力なども脳のリミッター的な解釈で説明は出来ると思います。

 しかし主人公のバタフライシーカー、これだけは明らかに不可思議要素です。
 死者の残留思念的なものを幻視する、というのは、明らかに個人の脳の性能だけでは成し得ないものですし、それが第六感的な妄想だったとしても、それが百発百中であるのは流石に不可解で、これに関しては現状の化学レベルの解釈では決して答えを出せないものだろうと考える事が出来ます。
 このように、一定の理路に基づく要因に上手く不可解要素を溶け込ませ、世の中の複合性、理路だけでは説明できない部分を提示しつつ、それを恣意的・ご都合主義的に用いず、読み手にも出来る限りそう感じさせないように、極めて慎重に使っているわけですね。

 その上でこのバタフライシーカーという能力そのものは、物語のテーマを語る中で非常に象徴的な役割も果たしているのが上手なところです。
 それは人と人との繋がりの極致とも言える、集合的無意識の要素を孕みつつ、けれど決して惨劇を回避できる能力ではなくて、あくまでも複雑に絡み合った死に至る要因を後付けで紐解くための能力です。
 すなわちそれは、近しい人を失った悲しみそのものはどうにもできずとも、せめてその原因を知りたい、どうして死んでしまったのか納得したいという遺族の想いを反映したもので、それは加害者と被害者の立場の主客転倒があるとはいえ、主人公自身も望むものではありました。

 それはより思想的に突き詰めれば、人はどうしたって襲い来る不条理を絶対的に避け得ることはないという冷酷な真理を提示する一方で、そこから派生する痛みに対処していく為に必要なものを浮き彫りにしており、それをより具現化出来る、という意味で優しい力です。
 そういう心情的な納得を担保にして、理路の面ではどうしても一定以上の説得性を内包できない点を緩和させようという意欲は感じられますし、疑似的にとはいえ、多角的な要素を散りばめる事で現実に近似した世界観を紡いでいるのも面白い、とは思うんですね。

 ただやはり、そういうフォローの部分も最低限、というつくりではあって、しかも上記の点においても全体像からしっかり物語解釈をしないと読み解けない行間的要素ではあり、そしてこれ以外はネタバレでの話になりますが、もういくつかある不条理要因の全てを同様にフォローし切れているかとなるとやはり疑問符は尽きます。
 そういう蓄積などを考えた時に、私自身がどうしても全体図を全て理路で解釈できる物語性の強いものを求める短絡的な性向から脱却できないのもあって、このつくりで最高だ!と手放しで賞賛し切れない面は出てきてしまうのです。
 その質的な面も、或いは量的な部分と並行してフォロー出来たかも、と思う部分はありますし、実際全体ボリュームとしては水準かそれ以下程度の作品ではありますから、もう少し説得性を高める為の肉付けやイベント構築は可能だったんじゃないか、と感じる故のマイナスですね。

★シナリオ(個別・ネタバレ)

 上記の点を踏まえた上で個別ルート内容と評価に入りましょう。
 まずここも結論的な評価から語ると、トゥルー>優衣>羽矢=千歳くらいのイメージですね。全体的に高い水準でまとまっていますが、それを集約させたトゥルーで突き抜け切っているか、となるともう一歩足りなかった、という所に落ち着きました。

 千歳に関しては、本来もっとじっくり時間をかけて回復していくべき千歳の精神性の部分を、彼女に寄り添っていく事でかえって性急な変化を望ませてしまって、また事件そのものもその精神性に波長がそぐうものが用意されていて中々に趣深いところはあります。
 こちらの事件そのものは蝶の影響が犯人に及んでいた、とは解釈し辛く、それは羽矢も同様で、このあたりもこの作品のひとつの軸である多様性の表現のひとつなのかな、とも思います。

 要するに、この街に異常心理犯罪が目立って多い理由そのものは、例の幻覚を見せる新種の蝶の存在にあるけれど、じゃあその蝶が根絶されたらそういう犯罪がなくなるのか、と言うとそれは決してそうではないわけで。
 玉石混交、という言い方も変かもしれませんが、それ以外の要素が起因となっている犯罪も普通に紛れ込んでいるのが当たり前で、物語ですと往々にして全ての事件がひとつの原因に起因している、となりがちな部分に敢えて警鐘を鳴らしている、とも考えられますね。

 ともあれ事件内容としては本流からは少し外れた形で、かつヒロインの精神性にリンクしたもの、という所で少しばかり恣意的とは言えなくはないですが、そこにヒロイン選択のフックが用意されている、という部分も含めてある程度は説得性がありますし、それに加えてこのルートの事件の発想そのものはかなり面白いな、と感じました。
 また大枠的な視座としては復讐の連鎖、という部分でのふんわりとした連関性もありますし、窮地に陥った時の主人公の気質の再点検や、それを愛の力で克服していく過程などは素直に面白かったと思います。

 千歳自身も色々恋愛情緒的な部分では足りないヒロインですが、それ故の純粋さや真っ直ぐさ、生真面目さがすごく投影されていて、けれどその歩みを必要以上に急かし過ぎると破綻する、という選択肢の匙加減も含めて凄味がありました。
 バッドエンドにしても、他の二人が結構ストレートな立ち位置と結びつきの中で、この子だけかなりねじくれた方向に破綻していて、結果的に自分が人を愛する事が出来るか信じたいが故に愛する人を殺さざるを得ないという矛盾に至るのは、これも人の運命の不条理さの一端なのだと感じます。
 結局どのルートでも、恋という不可解さの権化みたいな感情が絡まって話を複雑にしている部分もあるわけで、そういう意味では恋を説得的に紡ごうなどナンセンスだ、という冷笑的な突き放しの一環としてのバッド、という見方も出来ますね。

 羽矢に関しては、追い掛ける事件そのものはやはり本流とは関係のないところではありつつ、その結果として羽矢と近しくなることで、彼女が抱えているもの、主人公が抱えているものがリンクしてしまう、という部分に一番の意義があるのかなとは感じました。
 蜘蛛の事件の真相を知りたいのは二人とも同じで、けれど立場としては被害者と加害者に近しい位置に切り分けられてしまうのが、恋愛感情を明確に抱き結ばれた直後にやってくる、というのがなんとも皮肉なつくりですし、その上で彼女に対しどれだけ親身になっていたか、その捨て鉢な在り方を是正しようと努力していたかが直截的に結果に反映するのも色々残酷ではあるなー、と思います。
 恋愛的には元々打算があっての接近ながら、いざ触れ合ってみたら情が湧いてしまったー、なんていかにもなチョロインですが(笑)、そういう短絡さも含めて羽矢らしいといえばらしいところです。

 バッドがわかりやすくヒロインデスエンドなわけだし、このあたりの明快さも千歳とは真逆でらしさはあるなぁと感じつつ、ただこの話自体は少し全体の外的要因的な部分で困った要素にもなるのがポイントです。
 少なくともこの作品、説明的なところでは選択肢の時点でどの事件も発生はしていて、自分達が選ばなければ他のチームが解決に当たるわけですが、その場合この市長誘拐に至るまでに他のチームはちゃんと解決してくれたのかな?ってのはありますよね。
 かつ羽矢バッド分岐の際にそれが発生しない理由づけとしても、直前の羽矢の態度と犯人の意識にどう影響が繋がるのか、という理路の部分で不透明ではあり、なまじこの市長が最終的な黒幕であるだけに扱いに困るわけです。。。

 そのあたりでもう少し説得性があれば、というところでの割引はあれ、事件の素材としてゲームと現実の混同、という要素を持ち込んでくるのは社会的であり、かつ共感しやすい部分でもあって、グッドエンドのスカッとさせる解決の着地点なども含めて物語的な面白さでは千歳よりは上、総合的に見れば同じくらいかなという評価です。

 優衣に関しては、トゥルーの中での事件での被害者にここのルートの加害者が唯一含まれている事からも、やはり本流の物語だと解釈していいのでしょう。
 事件としては残酷さよりも切なさ、哀愁の方が強く出る構成の中で、それに共鳴して深入りする優衣の危うさに容喙せずにはいられない主人公、という構図が丁寧に紡がれていますし、そこから複合的な優衣の意欲が少しずつ全貌を見せていく流れも面白かったですね。

 少なくとも恋愛の機微としてはこれが一番しっかりしているとは思いますし、けれどその発端的な部分は、命の危機に主人公に救われたという吊り橋効果的な一目惚れに尽きる、というロマンチックさ=不可解さが、やっぱりこの作品の貫徹したテーマ性を反映したものではあるのかなと思います。
 かつ優衣の場合、本来ここまで明確な好意が根幹にあると他ルートとの整合性で扱いが難しくはなりますが、心理洞察が大の得意、という資質が、本人たちすら気付かない恋の萌芽を嗅ぎ取って、主人公が幸せならば、という利他的な精神性を発現して後押しにシフトする、という自然さを内包しているのが趣深いところです。

 透子との関係性でも、他のヒロインよりも一歩深いところに絡んでいく有り様ではあったと思いますし、様々なファクターが絡み合っての謎ときと着地点は見事なもので、すごく優衣らしさが生きる内容ではありましたね。
 ただそこに至れない時の残酷さも鮮明ですし、あと強いて言えば、あのシリアルキラーマニアの友人は他ルートで同じように襲われなかったのか?って疑問は出てきます。
 まぁこの辺りの外的要因に関しては、最悪他のチームがそうなる前に解決しましたよー、で処置できる構図は組み立てていますからそれでいいのかなとも思いますがね。

 そしてトゥルー、これはまず、それに至る分岐の発現に関して、やっぱりバタフライシーカーという力の根源が時空間を超越した集合的無意識的な部分に依拠しているのかな、と感じさせる演出ではありましたね。
 基本的にこういう、トゥルーに至る為の分岐出現に、物語の全体像から投影した整合性・説得性を乗せるのは難しいなんて話を虚空のバロックの感想でも書いた気がしますが、これはある程度直観的にそれをイメージできますし、その点では高く評価していいと思います。

 またその道筋に至る契機としても、文字通りバタフライエフェクト的な細かな積み重ねがやがて大きく運命を動かす、という点を投影したもので、しっかり選択肢としても段階的に、数珠つなぎにいくつか用意した上で、最初に見られる誰も選ばなかった時のバッドエンドを回避する説得的な構図を作り上げたのは素晴らしい発想だったと思います。
 誰も選ばない=まだ透子に想いを残しているという部分を示唆している以上この流れは必然的だったと思いますし、その結果として優衣の血の匂いを嗅ぎ、使命感に狩られて脱獄を図ったところからの展開も、色々な思惑が絡みつつ進んでいて面白いのですが、ここで明らかになる真実にもやはりこの作品の根幹である不条理要素が色濃く含まれています。

 例えばそれは、あの秘書さんが透子を放逐して主人公達の手に落ちるように仕向けた事のギャンブル性や、過去に透子を殺人鬼に変貌させてしまった現市長との偶然の邂逅と勘違いなどで、ただ特に後者はそのありようが説得的か、と言われるとかなり微妙なんですよね。
 無論そこは不条理の最たるものだけに説得的でなくてもいい、という前提はありそうですが、それにしてもあの時点で市長はおそらく口封じの為にはじめて自分の手を汚した直後で、精神的にかなり混乱している筈でもあり、ああして夜中に徘徊しているのもなんとか罪の意識から逃れたい、抜け道を探したいという思念の反映なのかなとは思わせます。

 ただその割に、透子と落下死体を前にした時の落ち着きと、透子の勘違いを即座に汲み取り、自分に都合よく誘導していく手練手管は悪魔的で、しかも彼には見えない透子独自の赤い蝶の話など、理解できない部分も多かったろうに、結果的にスケープゴートとしての蜘蛛を仕立てる事に成功しているのは都合がよく映りますね。
 どうしてもそこまでの登場で、匂いという伏線はあったものの、こういう場面でどこまで肝が据わっているかなどの要因までは見えない立ち位置でしたし、それだけ必死だった、それがたまたま上手く噛み合ってしまった、という解釈が、最後優衣に心魂を叩き折られているあたりからも妥当な範疇なのでしょうが、やはりその辺やりきれなさが残る部分です。
 多分これは敢えてそうしたのだろう、とわかるのですが、わかっても納得できないところはどうしても出てきますからね。他の似たような点に対して、基本的側だけにその心情にフォーカスしたフォローが置きにくい、というのも勿体無い部分だったと思います。

 その点はともかくとしても、結果的に真実に開眼し、大切な相手を守る為の正しい手段を取り戻した透子の献身ぶりは流石の一言で、二人の家族という信頼の関係性から一歩踏み出した強い絆と透明な想いの美しさは本当に素晴らしいものがあったと思います。
 またこのルートを追いかけていく中で、他のヒロインが抱えた問題や想いもきっちり説得的に昇華されていきましたし、それでも消せない過去は、罪はあるという部分で完璧な大団円、という雰囲気でもない所がらしいとはいえ、少なくともこの作品のラストとしては文句ない〆方だったのだろうと感じましたね。


 以上、総合的に見て中々色々と考えさせられる深い物語でしたし、こういう危険な仕事に携わる話であればこそ、一歩間違えば奈落に転落していくというシビアさも含めて非常に完成度は高く、面白い物語でした。
 ただ色々語ったように、全体的な量と質の面で少しずつ食い足りなさ、納得のいかない部分はあり、そのあたりを総合すると名作ラインの25点に乗せるにはほんのちょっと足りないかな、という判断で採点しています。


キャラ(20/20)

★全体評価

 基本的にしっかり物語の軸にそぐわった個性あふれるヒロインズとその周りのキャラですし、シナリオで触れたようにイチャラブ的な面で物足りなさはあるものの、それを補って余りある、とまで言うと過言でしょうが、しっかりそれぞれのルートやトゥルーで、芯の強さや絆の尊さ、運命に抗する意思の輝きを見せてくれていたと思います。

★NO,1!イチオシ!

 やっぱり最終的には優衣が一番好みだったかなと思います。
 見た目も心も綺麗で真っ直ぐで、優しいけれど決して他者に迎合するばかりでなく、自分の譲れないラインは決して曲げない強さも持っていて、やると決めたらとことんまで突っ走る意外性まで含めて凄く素敵なヒロインでした。
 どうしても他のキャラに比べて傷がない、という部分が弱点になるシーンはままあって、それが致命的な方向に転落していく時もあるので油断ならないんですけれど、それを主人公が受け止めてしっかり支えてあげた時の相乗効果的な部分、要するにお似合いだなー、って感じさせる点では透子と並んで双璧だったと感じます。

 ホント、惜しむらくはもっともっと純粋なイチャエロが楽しみたかったですよ。こういう表面的には落ち着いているタイプとの恋愛って、こないだの若葉もそうだけど突然覗かせる羞恥や歓びが新鮮に味わえるのですごく好きなんですよねぇ。

★NO,2〜

 終わってみるとシナリオ補正も込みで次点は透子なのかなぁやっぱり。
 タイプ的には優衣に近しくて、とにかく相手の気持ちに寄り添って利他的な振る舞いも辞さない、という優しさが、色々な局面で裏目に出ている不憫な人ではあるものの、それを受け止めてなお潰れずに、手段はその時々のありようで違ってくるとは言え、大切な相手を守るという部分で首尾一貫していたのは純愛的な意味でも凄味があったと感じますね。

 羽矢はどうしても雰囲気的にヒロインっぽくないのと、恋愛の端緒が打算から、ってところでの思い入れが強くなりにくく、千歳は千歳で心情の在り方が独特で稚い分だけ、対等のヒロイン、という気配を醸していないのが先輩キャラなのに面白いところではあって、まあそれを好きになれるか、って感じですかね。
 梓も基本見守る立場でありつつ、過去の事件で傷ついた当事者でもあり、という絶妙な距離感が味わい深いキャラでしたし、総合的には悪くなかったと思っています。


CG(16/20)

★全体評価

 うーん、結構悩ましいところなんですけれど、基本的に可愛いもののあまり安定感はなくて、あとやっぱり素材量的な面、特に立ち絵周りでの物量の乏しさは物足りない要素になってしまっているなぁと。
 1枚絵の物量的にはギリギリ水準だし、色んな雰囲気の絵をしっかりまとめてあって悪くはないんだけど、もうひとつ上に持って行くにはちょっと足りないという感じでここはシビアに。

★立ち絵

 これはやっぱりどうしても素材量が足りてなくて、勿論シナリオ的な部分で必要最低限は満たしているとは思うけどやっぱり気になる要素。
 ポーズにしても基本1ポースで、優衣なんかはすごく可愛いけど多様性や躍動感は薄く、服飾もほぼほぼ制服とコートで賄ってしまっているのはなぁ、と。正直千歳ルートで見せた3人の私服の立ち絵くらいは欲しかったし、特に優衣、あの服装&髪型でデートやらイチャエロやらめっちゃして欲しいんですけどー!

 表情差分も基本的に遊びの要素はなくて通り一遍、という感じではあるし、そこで勝負する物語ではない、とは言ってもなぁ、という印象は持ちました。

★1枚絵

 こちらは全部で83枚と数量的には先ず先ずで、質は玉石混交、かなぁ。可愛いのはかなり可愛いんですけど、横顔になったら崩れが目立ったり、あとサイズ感がかなり微妙だったりそう言うのも多いのでなんとも。
 特に好みだったのは優衣の家でお茶、バックあたりかなぁ。全体的な塗りとか雰囲気は悪くなかったけどね。


BGM(18/20)

★全体評価

 こちらは非常に神秘的、かつ退廃的な雰囲気をしっかり下支えする安定した楽曲に仕上がっていると思います。
 冬ゲー、という事もあるのか透明感もかなり強く、全体的なイメージとしてなんとなくカノンを思い出しますね。量はともかく質的にはかなり好みです。

★ボーカル曲

 全部で2曲。
 OPの『白き闇のアラベスク』は派手さはないもののかなりの名曲だなぁと思います。
 切々と降り積もっていく煩悶や後悔を繰り返しのフレーズで強調しつつ、シンプルながら重厚感のあるメロディラインで下支えする構成はすごく迫力があり、サビのメロディの怜悧な優美さもかなり好みでした。

 EDの『はばたき』もかなりいい曲で、こちらも一握の哀切を湛えながら、それでも前に進む強さと意思をサビで一気に爆発させてくるメリハリのある構成が見事で、サビのメロディラインの迫力も素敵ですね。

★BGM

 全部で24曲。
 量的にはギリギリ水準くらいですが、ひとつひとつの質の高さ、奥行きは中々のもので、シナリオの方向性が一貫している分イメージ作りも簡単だったのか、すごく統一感のある荘厳な出来になっていると思います。
 特に『バタフライシーカー』『天童優衣』『真相を導け!』『九重透子』が好みでした。


システム(8/10)

★演出

 派手さはないですが要所では効果的に使って、インパクトのある雰囲気を醸すのには成功しているとは思います。
 ムービーの質感も非常に耽美的・退廃的で、どこか触れると赤いのに冷たそうな雰囲気で、中々印象に残るつくりではないでしょうか。

★システム

 必要最低限は完備していますが、前にジャンプなど便利機能がやや足りなかったりもしますし、総合的に見れば中の下くらいのイメージですね。
 といって決定的に使いにくいわけでもなく、総合してギリギリ平均点維持くらいのイメージです。


総合(86/100)

 総プレイ時間20時間。
 共通が5時間で、個別がバッド回収などまで含めて各3,5時間ずつくらい、トゥルーも同じくらいで後は細々した部分で、というイメージです。
 まあ捜査選択などで悩んでじっくり考えていた点などもありますし、瞬間解決ボタンなど使って物語だけ追っていたらもっと短かったとは思うので、やはり尺的には少し物足りなさは出てきますね。というか、A5和牛を名乗る割にシナリオボリュームやら絵の素材やら低予算感は強いんだよねこれ。。。
 
 まあ少ししかないけど中身は極上、という意味ならまだなるほど、ではありますし、実際にそれだけのシナリオの完成度の高さではあって、ある意味この尺でこれだけきっちり詰め込めるのはスゴ技だなぁと感心するのですが、それはそれとしての物足りなさもやっぱり出てしまう贅沢ぶりですよ。。。
 それこそキャラも世界観も骨格も気に入っているだけに、もう少し深みを増してくれば名作までいけたはずだなぁと勿体なくは感じますが、それでも普通に面白い作品ですので、ミステリー好きならやってみて損はしないとは思います。

posted by クローバー at 07:37| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: