2018年12月11日

アメイジング・グレイス

 設定がとても面白そうだったし、なによりヒロインズがみんなとっても可愛かったので全力吶喊。


シナリオ(25/30)

 設定の勝利。

★あらすじ

 主人公は目覚めた時に、自分の名前以外の記憶を失っていました。
 寒々しくも美しい湖畔で行き倒れになりかかっていたところ、居合わせた天使の歌声を持つ少女・ユネに助けられ、そのまま成り行きで、彼女達が暮らす、芸術家の育成に特化した不思議な街で、クラスメイトとして生活していくことになります。
 この街の常識では、外の世界は101年前にアポカリプスの襲来で悉く滅び、街を囲うオーロラと呼ばれる壁の出現でこの街だけが救われたとされており、それ以外にも西洋宗教的な世界観が強く組み込まれていて、それは時折脳裏をかすめる主人公の深奥に眠る「常識」とは乖離したものでしたが、それでもなんとか折り合いをつけ、なにより気のいい仲間たちに囲まれて楽しく日々を過ごしていました。

 しかしそれはクリスマスの夜、呆気なく終焉を迎えます。
 突如街を襲う轟炎――――アポカリプスの再来によって街は滅びの道を辿り、その内部にいた主人公達の命運も風前の灯火というところで、軌跡が降臨します。
 それは、アドベントの開始日に主人公とユネが遭遇したささやかな奇跡に起因するもので、二人は力を合わせて世界をリセットし、やり直す力を得ていたのです。
 辿り着いた異空間の中、こんな非情な未来をなんとしても食い止めたいと二人の意見は一致して、過去に戻って相談しながらこの惨劇を回避する方法を探ろうとするのですが、実際に巻き戻してみるとその記憶を引き継いでいるのはなぜか主人公だけで。
 最良の相談相手がいない中で、それでも主人公は手探りで世界の謎を探り、悲劇を回避するための道を求めて数多の時間を繰り返すことになります。

 果たして彼らの敵とは誰なのか?
 それを乗り越えた先にどんな未来が待ち受けているのか?

 これはミステリー要素を多分に備えた、ループを繰り返す事で数多の絆を繋げていく意思と成長の物語です。


★テキスト

 全体的に設定面での制約が多い中で、それを違和感に感じさせないように上手く配慮されたテキストになっています。
 それでいてきちんと会話のテンポの良さやおかしみ、読み口自体も冗長にはならずコンパクトにまとめられていて、総合的にレベルの高いものに仕上がっていますね。
 しかしこれは設定を知ってしまうと中々皮肉な様相でもあって、物語というものの在り方そのものは本来文字に依拠していない、そういう部分をもう少し演出面などでフォロー出来ていたらなおのこと良かったとは思います。流石に色々書けない事が多い中で、重厚感までは備えられていなかったのが玉に瑕、と言えば贅沢でしょうか。


★ルート構成

 それなりに選択肢はありますが、基本的には一本道ですね。
 メインストーリーのミステリー的要素を、幾度もループし、主要なキャラに密着してその秘密や想いを知る事で解決のための道しるべとし、それを最後のルートでしっかり集約させてくる展開であり、それを効果的に活かす為には、特にヒロインズの順番は大切だったとは思うのでこの自由度のなさは致し方ないかな、とは思います。
 ヒロインに関しては基本脱落式ですが、その後、の物語は概ねアフターとして全員クリア後に開陳される仕掛けになっていますので、そこも含めてあくまでもストーリーありき、のルート構成なのは賛否が出るところかもしれませんね。


★シナリオ(ネタバレ) 

 基本的に何を書いてもネタバレになってしまうようなつくりなので、割り切ってその辺の面白かったところをかいつまんでサラッと触れていきましょう。

 やはりこの作品の特色にして優れている所は、まずその現実的な状況から発想を飛躍させ、極限まで研ぎ澄まして俯瞰した世界観にあると思います。
 デュシャンの泉を嚆矢として始まった現代アートの登場を古典芸術の崩壊=終末論の中のアポカリプスと解釈し、古典の持つ先見性と荘厳さ、重厚感を両立するものを生み出すための装置として作られた芸術都市、という発想は、勿論単純に現実的に言えば人権問題などで無茶ではあるのですが、ただそれに近しい事が今の時代でも皆無、とは言えません。
 例えばお隣の大国の、スポーツ選手強化育成プログラムなどは、その道で大成すればいいですが、そこから零れ落ちてしまった瞬間にまともに社会適応が出来ず、その存在自体が社会問題化している、なんてニュースも時折見受けます。

 スポーツならそういう歪な制約構造も最小限の被害で済むかもですが、この作品の古典芸術の再復、という所まで行ってしまうと、それを徹底すればするほどに近代性から乖離していく、という捨象が現出するわけで、その極北としての文字の強奪、という発想を、あれだけ違和感なく、かつドラマチックに開陳できる構図で組み込めた、というだけでも、この作品は名作レベルの価値があると個人的には思えます。
 世界観自体がそれこそルネサンス期、とまでは言わずともそれに近い宗教観とセットで紡ぎあげられている以上、その当時は聖書の読み解きが聖職者の専売特許であり、識字率自体もほぼ皆無に近かったという歴史的現実から想像できてもいい要素ではあるのですが、やはりそこは近代に生きる我々でもあり、かつこの作品自体が「文字」が前提でないと紡げない物語性を有しているだけに、上手く盲点となっていたなと感じました。

 その本質を糊塗していたのが、主人公も時折疑問視していた、細かい部分で導入されている近代的な装置の存在ではあって、そしてその存在が結局のところ、人造的な芸術都市の限界を示しているとも言えます。
 畢竟芸術というのは環境論的な要素に大きく左右されるのは間違いなく、古典芸術を生み出すのに天才の発想と血の滲むような研鑽の両立が問われたのも、当然その時代ならではの生きにくさ、窮屈さの反映であるのは一面の真実のはずで。
 その時代においてはそれが自然、あるがままであったわけで、より多様性と利便性が溢れ、そして常に進化し続ける近代の中で、先見性、という要素が突出していくのもある意味では歴史の必然なのでしょう。
 けれどそれをわざと抑制し、取捨選択を経て過去の時代性に似せようとしたところで、結局それを万全にさせようとするなら「生きにくさ」そのものまで再現しなくてはならない、でもそこまでは出来ないから必要不可欠なところだけはテクノロジーに頼る、という歪さが前提にある限り、それこそリンカの様に先進性に目覚めた存在が生まれてしまうのも必然で、それを排除しなくては成り立たない仕組みというのも悲しい話にはなります。

 結局模倣から本物を超える作品が生まれないのと同様に、いくら世界観だけを踏襲しても本来のその時代における苦悩や常識性まで全てをトレースできない以上、古典芸術が孕む神聖性までは獲得できなかったのがこのプロジェクトの最大の欠陥であり、かつそれ自体が個々人の意思によっていつでもストップ&ゴーが出来る、生殺与奪を握られているという所がやるせない部分です。
 しかも結果的に、クローザという先例(ちなみにクローザの失楽園、という絵自体は創作ですけど、この街自体は森に囲まれた独立集落として最近まであったみたいですね。いくら既に消滅してるとはいえ大胆なモチーフを選んだというか、訴えられないでしょうか、と心配になったり。。。)の中で、「世界の終わり」という現象の疑似的再現の中で今までにない芸術が誕生した事を奇貨として、その二番煎じを狙ったのが今回の謎の核心と言えるわけで、その身勝手さに対し、肉親の情より正義感と倫理観を取ってあくまで阻む事を決意した主人公のの在り方は高潔ではあったと言えるでしょう。
 けれどそういう存在だからこそ、その犯人側の抱く美意識や価値観に追いつくまでに遠回りを強いられた、それこそこの世界の住人をここに深く知る事で漸くそこに辿り着けた、という面もすごく腑に落ちる構造ですね。

 ただ敢えて言うなら、後付けでも良かったので主人公がその義憤を抱き戦いに身を投じるまでのプロセスにもう少し説得性があれば、とは思いました。
 勿論物語の世界像を崩しかねない要素なので、あまり大っぴらには書けないでしょうが、それこそユネやサクヤの後日談の中でならそのあたりに触れる事も可能だったはずですし、リンカとの出会いとかも含めて補完して欲しい要素ではありましたね。

 後はやはり、この解決へのアプローチを可能にした世界の奇跡、二色の林檎の存在をどう捉えるか、でしょうか。
 シンプルに言えば、神は自身を信じるものを救う、的な要素ではあると思いますし、それは宗教的敬虔さが強く滲んでいるこの世界の住人、とりわけ純真なユネにそぐうものではあったでしょうが、主人公がその付き添いとはいえそれら触れられたのは、やはり心の奥底に一途な願いを秘めていた事が資格になったのかな?と考えられます。
 ただそれより以前に、ギドウとサクヤの兄妹もそれに遭遇しているわけで、それ自体はおそらく既にギドウが破壊の美学に憑りつかれてからの事だと思うので、揺らがない信念や意思にも反応するのか、あくまで人の世界の尺度である善悪は超越したものなのか、という解釈も出来て、そのあたりのアバウトさは、奇跡の威力が地味に半端ないだけに、もう少し突き詰めておいた方が良かったかもしれません。

 最後の二人を救った黄金の林檎にしても、モチーフとしては正当的ではあれ、なぜそれを手に出来たか、という部分の解釈が読み手に委ねられている格好ではあり、中々難しいものはあります。
 シンプルに考えれば、赤と青、両方の林檎を食する事で生命の樹の存在に至れる資格を得た、とは言えそうで、それを踏まえればユネと同じように巻き戻しで寿命を削っていたギドウも普通に戻れているのが理解できる構図です。
 その場合、あくまでも赤の林檎の持ち主が巻き戻しの為に命を削っている、という真実に至れるのは、最後のルートのユネのような例外がない限り青の林檎の摂取者ではあり、それを知って尚自己犠牲を厭わずに可能性に賭ける事が出来る意思も問われているとは言えますね。ギドウの場合はそのおこぼれではあるので、二重の意味で主人公に救われたと言えるのでしょうか。

 またタイムリープには関わらなかったものの、リンカの親友としてのコトハのアポカリプスへの向き合い方と周到さには舌を巻くものがありましたし、そしてこの構図の中で、サクヤとユネという二人の待つ女(リンカとコトハ、キリエにしてもその要素はあると思います)、という存在のひたむきさが本当に強く打ち出されていました。
 自身を希い、待ち続けてくれる女性というモチーフは、古来より男の理想でありファンタジーではあると言えるのですが、この作品は繰り返しの中でそのモチーフを上手く煮詰め、切実に、けれど行き過ぎないレベルで体現させてくれていて、その点で惹かれるものは多く、逆に言えば最後のシーンでサクヤとユネのどちらかしか選べないのは、ヒロインに対してとても残酷ではありましたね。

 少なくともこの作品は、恋愛物語としてはかなり物足りなさはありますし、あくまでも本筋のシナリオありきなので、そちらが最優先されてイチャイチャはほとんどアフターでどうぞ、という割り切り方をしています。
 ですがそれで決してヒロインの想いが薄っぺらいか、と言えば決してそんな事はなく、それはやはり繰り返しの中で醸成された想いの一心さと深さが明確に読み手に響く構造だからだと思いますし、個人的にもこういうループもので、肉体年齢と精神年齢が乖離していく、けれどその淳良さと誠実さは保たれ続けていく強さを持っているヒロイン像は大好物なので(それこそいろとりどりのセカイの真紅とかですね)、その点でも満足度は高かったと言えます。

 総合して、幾ばくか肉付けや補完の薄い部分はあったと思いますが、総合的に目立った粗や、「あまりにも」ご都合主義な展開もないとは思いましたし、プレイ中はすごく集中して没頭できたので、評価としても少し甘めですが名作ラインに乗せていいかな、と判断しました。




キャラ(20/20)

★全体評価

 基本的に世界観に忠実なキャラ造型ではあり、またそういう人と人との距離感がより緊密で「なければならない」状況だからこその親しみの手軽さ、心安さは綺麗に体現できていて、その芯の部分がしっかりしているからこそ、最終的な印象としても悪く振れる事はなかった、と言えるのではないでしょうか。

★NO,1!イチオシ!

 ユ ネ が 可 愛 過 ぎ る ん じ ゃ ー ー ー ! ! !

 と叫んでみたところで、やはり体験版での感触通りユネは素晴らしかったと思います。
 どこまでも素朴で純真で、凄く自然に親切で気安くて、自分の気持ちにも素直で真っ直ぐ慕い、真っ直ぐ支えになってくれて、頑張り屋なところもちょっとお茶目で天然なところも含め、一挙手一投足が可愛い成分で満ち溢れていて最高でした。
 強いて言えばやっぱりもちょっとアフター分厚くしてほしかったなぁ。こういう純真無垢な少女を背徳の悦びに染めていく過程があまりにも淡泊過ぎたし、ユネの家族との触れ合いや、翻って主人公の家族の在り方など、色々補完すべき要素はあったはずで、その合間合間でエロ調教、こほん、もとい睦み合いの素晴らしさに目覚めていく流れになってくれていればベストだったと思うのですが。


★NO,2〜

 サクヤも当然とっても魅力的でしたね。まあ一歩間違えるとヤンデレ一直線ですけれど(笑)、そのバランスの取り方も上手でしたし、ある意味ではユネ以上に強い情念で、けれどあくまでも一歩引いて待ち続けている在り方は痺れましたし、ユネルートに進むのにこの子をふらなきゃいけない、というのはプレイヤーにとってもシビアな選択でしたよ。。。

 コトハさんはエロかわカッコいい。本当に颯爽としていて、それでいて真の情熱は奥深くに秘めて、ここぞという時に爆発させる魂の崇高さが光りました。
 キリエも色んな意味で名女優でしたねー。こういう才能が発現するのもある意味では街の特異性(歪みも含めて)の賜物ではあり、あまり深くは考えないタイプなので謎の根幹にはサポート的な立ち位置だったとはいえ、総合的な存在感はピカイチでした。


CG(19/20)

★全体評価など

 基本的に凄く好みの可愛い特化な絵柄ですし、今回は目の描き方が特に好みだったなーと。
 立ち絵もバラエティに富む、とまでは言えないものの、すごくそれぞれに味があって、特にユネの可愛さは素晴らしかったですし、あと服飾、特にパジャマの可愛さがとてもとても宜しかったと思います。

 1枚絵も通常80枚に、小物や絵画差分で35枚ほどあってそれなりに潤っていますし、絵そのものの可愛さはやはり流石の一言で満足できるものでした。
 特にお気に入りは、歌うユネ、展望台の語らい、月夜の告白、背面座位、コトハ騎乗位、サクヤかまくら、雪夜の慟哭、正常位あたりですね。


BGM(17/20)

★全体評価など

 世界観を意識した壮麗な曲が多く、個体的な出来は先ず先ずですが、量的にはボーカル2曲、BGM16曲に既存曲アレンジが数曲、というところなので少し物足りなさはあるでしょうか。
 ボーカルはOPの『コールドボイス』がすごく透明感と切なさが滲んでいて好きだなー、という感じ、BGMでは図抜けて『覚えていてね』が名曲だったと思います。

 あとアメイジンググレイスも、そりゃタイトルになるくらいですから出てくると思ってましたけど、しかしこの曲耳にすると、そして明日の世界よりを全力でリプレイしたくなるからやめていただきたい(笑)。水波、キミに逢いたいよ…………!


システム(8/10)

★全体評価など

 演出に関しては少しチープな面も目立つというか、こういう世界観であればこそ、より見た目からガツンとインパクトがあったほうが余計に
伏線も生きてくると思うだけに、特に災害のシーンとかもう少し工夫できなかったかな、という想いはあります。
 それでも全体的には標準レベルにはあったと思いますし、ムービーも悪くなかったですね。

 システム的にもちょっと全般的に重ったるいのはあるのですけど、最低限は完備しているのでまぁいいかなと。
 リプレイを考えると次の選択肢にジャンプ、も欲しいところですけどね。


総合(89/100)

 総プレイ時間18時間くらい。
 どこまでが共通と呼べるのか境が曖昧なつくりですけれど、最初のヒロインルート選択に入るまでで5時間くらい、そこからサブが30分×4、キリエとコトハが2,5時間くらい、サクヤとユネは一本のルート共有ですがその本筋部分が4時間弱で、アフターが30〜45分の範囲で4人分、くらいの感覚です。

 尺としては最低限は完備していて、その中にこれだけの密度の高い物語を不足なく詰め込めているのは見事な構成だといえます。
 贅沢を言えばより背景的な部分にフォーカスしての重厚感の醸成や、イチャコラ要素もここまで駆け足にせずに、とは思いますし、それが為されていればSまであったなぁとは感じるのですが、シンプルに物語として素晴らしい発想であり、それを変に重苦しくし過ぎずに、けれどしっかりテーマ性としての問題提起は籠めて作りあげられていますので、ミステリー要素を好むプレイヤーにはそこそこ噛み合う作品なのではないでしょうか。
 逆に絵柄や公式の雰囲気だけで判断して、いつもの萌えイチャメインだと思うと少し肩透かしになりますが、そうであってもプレイして損はしないレベルにはあると思いますね。

posted by クローバー at 04:36| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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