2019年01月02日

言の葉舞い散る夏の風鈴

 はれたか、アペイリアのライターさんですし、奏がとても可愛かったのでまぁ買うでしょう、と。


シナリオ(23/30)

 演じる事で見えるもの。


★あらすじ

 主人公は親の仕事の関係で留年し、二度目の一年生を迎えます。
 やや気重な登校途中、自分と同じように憂い顔で佇む、同じ学校の制服の美少女を発見し、そのささやかな呟きが耳に届いた途端、主人公に電流が走ります。
 その声は、オタクの主人公が近年もっとも熱狂的に応援している声優・日華こころのもので、その驚きがつい口から洩れてしまい、今度はその少女が驚く番でした。
 なぜなら彼女は完全顔出しNGで仕事をしていたからで、まさか素の声で一発で正体を見破る相手がいるとは思わず、当面その秘密は守るようにと強く言い含めながらも、主人公に対して興味を抱くことになります。
 主人公もまた憧れの声優の素の面を知って苦悩もしつつ、やはりその好きな声が常に傍にある環境に歓びを覚え、しかもその少女・詞葉もまた多忙のせいで留年している事からより親近感が湧き、互いを揶揄しつつ揃って学園の門をくぐることになったのです。

 そうして始まった学園生活、主人公は部活をするつもりはありませんでしたが、詞葉に付き合って部活巡りをしている最中、同じクラスの上がり症の少女・ゆうから、声優同好会を作るから入ってくれないか、と打診されます。
 彼女の熱意に絆され、それが詞葉にも波及する中、実は既に存在した声優部の門を揃って三人で叩くことになり、そこにいたのは二度の留年を誇るベテラン一年生の仰子でした。
 熱意はあるものの演技は全くのド素人であるゆうや仰子を見るに見かねて色々口出ししていく内に、詞葉もどっぷりとその環境に嵌っていくことになり、更に正式な部に昇格するために、自分達も応募した大会で特別賞を勝ち取っていたクラスメイトの車椅子少女(声は例によって主人公がダメ絶対音感で聞き分けて)・奏を勧誘して、この五人で夏前の学生声優グランプリを目指し奮闘することになります。

 それぞれの立場や想い、苦労などを抱えつつ、それを演じる事を通じて昇華していくべく励む少女たちの頑張りに、主人公もまた全力でサポートすることで応えていく、これはそんな青春真っただ中の声優ラブコメディです。


★テキスト

 いつものように掛け合いのテンポと文脈が独特の味わいを出していて、それぞれのキャラがものすごく濃く投影されていますし、それでいてそこまで読みにくさもないのがいいところですね。
 やっぱりある程度論理的な部分も強く出ているのですが、例えばアペイリアみたいに元々空想科学的な部分を更に精緻に突き詰める、となると流石に難解さも目立っていたものの、今回は演技をして行く上で台本をしっかり読み込み、場面ごとのキャラの心情や振る舞いを突き詰めていく、という部分にほぼ特化していますので、むしろ細かく噛み砕いて理解の及びやすいつくりになっているのではないか、と思いました。

 そういう丁寧な下地があるからこそ演技の幅も映えますし、地の文で語り過ぎない、やり取りがメインの読み口の中でもしっかりキャラ同士の信頼性や楽しさは伝わってきて、それこそ夏の風鈴の様に軽やかでありつつ情緒的なテキストメイクになっていたと思います。


★ルート構成

 道中での選択肢は一か所のみで、詞葉だけはルートロックがあり、他の三人をクリアしてからタイトルに出てくるトゥルールートで攻略する形になります。
 ゲーム性としては皆無に近いのでその点は物足りないとは言えますが、それぞれのヒロインが演じたいと思える台本に対し、主人公が共感を抱く所からのスタートは一応理には適っていて、勿論その台本が誂えたようにそれぞれのヒロインの境遇に噛み合う事とか、そもそもの稽古スケジュールの無茶ぶりとか、色々微妙な面はあるにせよ、最低限そのルートに入る為の端緒としては機能しているのかな、という感覚です。


★シナリオ(大枠) 

 基本的にはそれぞれの台本を演じていく中で、ヒロイン自身の問題がセットで浮き彫りになり、それを克服することがそのまま演技の改善にもつながる、という形でどのルートも構成されています。
 あまり物語として外的要因や環境要因は考慮されず、あくまでも声優グランプリに向けての活動の中でのみの話に集約されていますので、よく言えばコンパクトでわかりやすい、悪く言えば重厚さや複層性が薄く、ややインパクトに欠ける、と言えるのではないでしょうか。
 全体としてその設定そのものはかなり緻密に組み立てられていると思いますが、やや純粋なゲーム内スケジュール管理の面とか、人間関係がもたらす波紋の影響度とか、そういう部分での擦り合わせで甘かったり、補足が足りなかったり感じる部分はあり、またヒロインによってはその抱える問題の密度や重さもさほどではないので、その点で物足りない、というのはあると思います。

 また最終的には、それぞれのルートで詞葉以外のヒロインがそれぞれの課題を克服してきた、という前提の上でのトゥルーになるわけですが、その場合の主人公の影響度とかも含めてやや突き詰めが甘く、また最後のルートにおいてもきちんと全ての伏線を拾い切れていない感じもあって、個人的にはかなり好きなタイプのシナリオではあるのですが、総合的にもう一歩奥行きが足りないな、という印象でしたね。


★シナリオ(個別・ネタバレ)

 個別評価としては詞葉=ゆう>奏>>仰子くらいです。
 趣味的にはゆうが一番好きなシナリオではあるのだけど、そこで鍵となったファクターの部分の裏側が詞葉ルートで補完されておらず、その事が詞葉ルーとの重みも減らしてしまっているのが個人的には物凄く残念で、トータルで見て安定して高いレベルにはあるけれど、突き抜けた評価が出来るほどには至らなかった、という感覚ですね。

 仰子ルートに関しては、身体の弱いお嬢様、という設定からいずれ家の問題とか体調問題とか出てくるのかな、と思っていたら、その辺全くスルーで進んでしまうのはやや拍子抜けではありました。
 また、主人公に庶民の事を習う、という構図に至る上でも、一度意地を張ってしまってゆうや奏には頼みにくい、というだけの前提で主人公にべったりになるのも、男一人の家に安易に泊まり込みにくるのも、流石に環境設定を無視し過ぎているというか、我が儘が通るにしても程があるだろ、という感覚にはなりました。

 また真子との確執に関してもほぼ一方的な仰子の嫉妬や逆恨みで出来ている感じではあり、それが最終的な演技の質に波及してくるとなって、それでも意固地なままでしかいられない仰子というヒロインの在り方はそれでいいのか?我が儘さが可愛いというレベルで済むのか?というイメージはあります。
 結局ズルズルと虚心になれないままに本番直前になって、そこで主人公が感じたままに、無理にでも本番で二人を共演させる、という段取り自体もやや力づくですし、そこでの詞葉の方法論もかなり強引だったな、とは思います。

 それの何がいけないか、を説明するために、少し本筋を逸れて考えてみましょう。
 この作品の全体的な設定面のネックとして出てくるのが、トゥルーに至る上でそれぞれのルートの話は統轄され、きちんと主人公との恋愛関係がなくても問題はクリアできている、という部分なのですが、それの是非は後述するとして、ただそうであるならもう少し、本番の日の状況設定は細かく詰めておくべきだったなと思っています。
 そもそも論として、予選はそんなに通るのが難しくないならそれなりのチームが本選に臨んでいる筈で、しかも演目は3種類あって、そして一つ演じるのにおよそ60分は要する、という中で、それをたった一日で全部こなしてしまうのは無茶だよね、と。
 この主人公達の様に同じ学園で複数エントリーしていたり、演技者が被っている可能性もないとは言えない中でのこのスケジュールは、例えば演じるホールが分散されていると考えても厳しいですし、だったらせめて、それぞれの演目の本番は一日ずつでも発表の日がずれている、くらいの設定を最初に提示しておくべきだったなと思いました。

 そうしていない事で何が問題かって、それはこの仰子ルートが一番顕著ですけれど、詞葉が喉を痛めたふりをして本番から脱落するのを、信憑性を増すために誰にも相談せずにやった事で、確実にゆうや奏の演技にも悪影響が出ないわけはないよね、という部分なんですよね。
 そもそも詞葉は全ての舞台で主要なキャラを演じるわけですから、その決断はいくらなんでも仰子のためありきに過ぎていて、仲間思いで世話焼きな詞葉が取る選択としては不条理・不合理に思えてならないわけです。
 それがせめて、他の本番が別の日、というなら影響は最小限で済むし、設定的にも違和感がなくて済むのですから、そこを怠った分の印象の悪さは結構大きかったな、その分だけ仰子ルートそのものの後味もあまりいいものにならなかったな、という評価ですね。

 奏ルートに関しては、生来的に脚が動かないというハンデを抱える中で、それでも他者に依存し切って生きる事を良しとしない奏というヒロインの善良で奥ゆかしい気質の部分が、けれどそれを裏返すと強い諦念に繋がってしまう、という面を非常に上手く活かした内容になっていたと思います。
 奏の場合、いくら台本を読み込んだところで、実際にリハビリが成功して立って歩ける感覚を体得できる余地はなく、なにかしらで代替的に納得しなくてはならない部分に難しさが集約されていて、また同時に、かつて自分もこの物語の様にリハビリに励んだものの、現実は非情で治る事は決してなかった、という冷徹な事実が、より彼女の諦念を強靭なものに押しやってしまう効果も出ているのが辛い部分でしたね。

 何事も他者に迷惑をかけたくない、何も出来ない自分が誰かと寄り添っていくなんて相応しくない、という強迫観念は、それが主人公と恋愛関係を築けても色濃く影響を及ぼしていて、どこまでも献身的で歓心を擽る台詞を連発するHシーンなどからも総合的に汲み取れるのが、このシナリオの完成度の高さを示しています。
 ただそれでも、何らかの形で諦めたくないものが出来る事が、その課題の克服に繋がっているわけで、当初はそれが主人公との恋愛関係に依拠するのかな、と思っていたのですけれど、それをあくまで演技そのもの、その先にある未来像に固着してきたのはやや意外でした。
 でもそれはトゥルーにおいて、主人公との恋愛がなくてもその課題を克服できた、という事実から逆算すればそうせざるを得ない部分ではあり、その意味では本来恋愛関係で紡がれる喪失の恐怖も前に進むファクターとして複合的に用いる事が出来たのに、という面で少しだけこのシナリオのラストを薄くしてしまっている感はあります。

 とはいえ、このルートでの詞葉の態度は本心から出ていると信じられますし、その上で譲れないものがあるからぶつかり合う、その経験が奏自身が自分の価値を認める契機に繋がっていくというつくりそのものは秀逸で、それを踏まえての最後の演技の変化なども絶妙なものがあり、最後のスピーチの青臭い切なさまでセットで、やはり完成度、という面では随一だったのではないかな、と思っています。
 無論奏というヒロインの無垢で純真で献身的で、更にどこまでも努力家な様は心を打つファクターとして大きいですし、序盤から彼女の見える景色・心情などを丁寧に紐解いてきた結実だとも言えるでしょう。

 ゆうシナリオは、インパクトとしては一番大きく、かつ最後の問題の克服に至る流れも複層的な要因を綺麗に糾合して素敵なものに仕上がっていて、このルートを一番最初にやったのでその点でもとても心動かされるものはありました。
 ただこのルートの場合、結構設定として無茶な跳び道具を駆使している面は大きく、またその課題克服の過程において、確かに一番貢献しているのは詞葉になるのは間違いないのですけれど、他のルートよりもくっきりと、恋愛関係がなくても絶対に克服できるだろう、というビジョンを打ち出しにくい、割り切りにくいのがネックと言えばネックです。

 女の子なのに昔からエロいものに興味津々で、上がり症もさることながらそのせいで友達も少なかったというのは設定としてやっぱり結構突飛ではありますし、そんな彼女が自分でもやれる、やりたいと一念発起する契機になったのがエロゲの演者コメントで、しかもそれが詞葉の別名義だった、というのも相当に無茶な話ではあります。
 勿論登場人物は全て18歳以上です、という建前があるのはともかくとしても、詞葉の台詞からだけ類推するなら、リンとしての活動はこころとしての活動の前に、って事で、一体どんなタイミングでそんないかがわしい仕事をやったんだよ、って話になりますし、それが全く売れなくて人目にさらされなかったという状況も含めて都合が良過ぎるのは間違いないでしょう。
 詞葉のプロ声優としての活躍遍歴に関してももう少し詰めて欲しい部分ではありますが、そこはトゥルー解説で触れるとして、ともかくここで言えるのは、なぜ詞葉がそんな活動をしていて、その時にどんな気持ちでそこに立っていたのか、そのあたりの突き詰めがほぼ全く補完されていない事で、それに影響を受けてのゆうの在り方も物語性の中でやや礎が揺らいでしまった、という面はあるな、という事です。

 勿論そのリンとしての励まし、それはボイス状態のみと、自身の境遇を顧みず本番直前に披露した部分とセットで、詞葉というヒロインの誠実さと思いやりの深さを感じさせて素晴らしい要素ですし、それを受けて、更に主人公が絞り出した解釈とセットで会心の演技に繋げていく流れ自体は高く評価していいものだと思っています。
 ただそこに至る契機は、どこまでもゆう、というキャラがどこか抜けていて危なっかしくて、周りの支えがないと頑張っていけるのか、ゾーンに入れば凄いけどそれを自立的に演出できるのか、という部分で不安を残すものではあって、そこが他の二人、特に奏と比較すると、恋愛要素なしできちんと本番、同じように会心の演技に辿り着けたんだろうか?という疑問に繋がるのはあったなという感覚です。
 そのあたりを総合すると、プレイ直後は名作級に思えたけれど、全体と比較して考えた時に少し下げておくべきだろう、という評価に落ち着きました。この作品で一番好きなシナリオなのは違いありませんけどね。

 トゥルーである詞葉ルートに関しては、悪くはないんだけど全体的な設定が結構無理やり感もある中で、それを土台にして素直に納得していいのか、という面と、詞葉というヒロイン自身の掘り下げはやっぱり足りないんじゃないか、そのせいで間接的にゆうルートの説得性も毀損してしまっているのではないか、というイメージになります。

 みんながそれぞれ真剣に熱意を傾けて、というのはわかるのですけれど、やはりそもそも最初はずぶの素人だったのに、ほんの1〜2カ月の期間で、しかもそれぞれの演目に費やせる時間は週二日ずつしかない、という制約の上で、更には主人公との恋愛関係、引いては主人公がそのヒロインの演じ方に関してより深く突き詰めて考える時間も分割されると考えた時に、どの演目もそれぞれのルートと同水準でクリアできた、と考えるのは中々都合がいいよなぁと。
 基本的にこういう恋愛ADVにおいては、やはり恋愛がもたらすエネルギーというのは大きく、主人公にせよヒロインにせよその相手と結ばれた特別感の中で、その二人でしか紡げない何かを生み出していく、というのが主流の考え方にはなるはずで、その部分を丸ごとオミットしても問題なく機能する、というのは、正直主人公の存在意義的な部分でどうなの?とはなります。

 今回の場合は、あくまでも演技の部分でのパートナーとして詞葉がそれぞれの場面で疑似的に同様の機能を果たしていて、主人公は音鑑としてその補佐に徹している、という見立てで乗り切れるとも言えるのですが、しかしその場合主人公の立場に自身を投影していくタイプのプレイヤーにとって、梯子を外された感覚になる危険性はあるのではないかな、と思いました。
 ただ逆に、その詞葉の補佐、という立場で支えてきたという実績そのものは、詞葉との恋愛に向かってのファクターとしてはやはり有意義に働くわけで、あくまでも他三人のルートとトゥルーは少しパラレル的に考えておいた方がいいのかな、とも解釈できますね。それはそれで都合のいいつくりだとは思うのですけれど。

 ともあれ、三人の山場を乗り越えて、その過程で自身も演技の楽しさや歓びを少しずつ思い出した詞葉が、改めて自分の仕事、想いに向き合うというのはまぁ順当な流れではあるのですが、個人的にここらは順当に進み過ぎたきらいはあるな、と思っています。
 先にラストシーンの話になってしまうのですが、愛がその究極を表現し、仰子ルートでもその一端が伝授されている演技の手法は、当然それはそれでひとつの正解として厳然と存在する中で、それでも詞葉の演技の評価があの場面で上回った、その決定的な要因がなにかと言えば、作り手の想いを極限まで読み込んで、自身の全てを振り絞ってその姿を投影する、詞葉的な観念で言えばもう一人の自分の作り込みと成り代わりに尽きるとは言えるでしょう。

 そして詞葉というヒロインは、こころというキャラを演じられなくなった過程で、徐々にその作り込みの質が崩れていって、もがき、足掻いて放り出した、という悲痛な経緯が過去にあるわけで、なのにその頃の統括や想い寄せもなしに、トントン拍子に元の演技の質自体は取り戻せている、というのはやっぱり少し物足りなかったんですよね。
 またこのルートでは、詞葉が主人公に告白するシーンに至ってもやや前置きが薄い、と感じる面はあって、個人的にはその辺の工夫がもっと欲しかったです。

 具体的に言うなら、オーディションに挑戦してみる気持ちになった詞葉を応援するところまではいいとして、その演技の練習に付き合う中で、やはりなにかかつてのこころんとは違う、足りないものを感じてしまい、けれどその原因を直接的に尋ねるのも憚られるので、制作物を辿っていく中でその崩れ方を見極めていく、みたいな主人公の裏の努力が欲しかったです。
 それはまた、ゆうルートでキーになっていた詞葉の裏名義での活動の理由づけとしても機能したはずで、まあエロゲを舞台にしてあまりその仕事をマイナスに受け取られるような言説を差し挟み難かった、という面はあるかもですけれど、ただ実際、ゆうのように最初から裏の舞台を目指して声優になる人なんてほぼほぼいないのが現実的ではある筈です。
 なのに詞葉は敢えてそこに身を投じた、その理由が崩壊の過程の中での足掻きの一貫だった、と定義するならそんなに違和感はないですし、その為にはゆうルートでの台詞から改ざんする必要はありますけれど、そうすることでゆうルートにもより付加価値を与えられるのは間違いないでしょう。

 そして主人公としても、ただファンとして耳にしていた頃は感じ取れなかった違和感が、改めて制作順に過去から振り返っていく中で感じ取れるようになっていて、そこから今の詞葉の演技の問題点を抽出する、くらいの突き詰めをして欲しかったですね。
 上でも触れたように、最終的に作り手の想いをどこまでも真摯に汲み取る事が最大限に評価されるという文脈になるならば、ここで主人公が、プロとしての詞葉の演技の裏に微かに隠された苦悩や悲痛をきちんと感じ取っていくのは一貫性がありますし、またそれだけのことをしてくれた、という想いが、詞葉の恋愛感情に最後の後押しをする、という構図になれば、恋愛模様としてもより説得性が高まると思うのです。

 あと、後半の展開もそれ自体は決して悪くないとは思うのですが、例えば部活が続けられないのか、という部分に関して、元々の事務所の方針は理解していても、今の自分を立ち直らせてくれたのはこの場所だ、という想いと価値があるのに、最初から両立は絶対に不可能だ、と諦めてしまっているのは少しだけ不甲斐なさを覚えますね。
 無論着地点として覆らない話を盛り込むと尺的に辛い、というのはあるかもですけれど、あくまでもあの最後の体育館での芝居が全ての終わりであり、それからの始まり、と集約するために、それ以外の未練的な要素を一切合切排除するのはやや短絡的には思えました。
 それこそ卒業公演くらいは特例的にとか、エピローグ的にこのシーンでサプライズを、みたいなつくりでも良かったとは思いますし、ついでに愛ちゃんも連れてくればいいのよ(笑)。あの子ならしがらみとか関係なく、いい演技が出来るならどこでも行く、とか言ってやってくれそうだし、その関係性が可能性の環を広げていく、という形で、よりヒロインのみんなが相互扶助的な在り方に帰結する方が私は好みだったかなぁと。

 以上、総合的にテーマ性に沿ってコンパクトに、けれど密度高く紡がれた力作だとは思います。
 ただ結構細かい部分で強引さや、心情の擦り合わせで配慮が足りないと思える部分もありましたし、詞葉ルートに関してももう少し奥行き、特に詞葉の過去の活動の総括的な部分からのスタート、というフレームは、ゆうルートをより魅力的に見せるためにも不可欠だったとは思っています。
 そのあたりがある程度でもクリアできていれば名作ラインに乗せられる作品だったのですけれど、もう一押し足りなかった、というのが本音ですね。



キャラ(20/20)


★全体評価など

 それぞれにアクの強いキャラにはなっていますが、それでもその欠点とも言える部分がしっかり美徳と繋がっていたり、人間性の生々しさを上手くリアリスティックに表現する良い素材になっていたりで、またその連鎖反応という部分でもかなりいいものがあり、最終的にみんなお気に入りのヒロインになれたな、とは思います。

 その中でもやはり群を抜いて好きなのは奏にはなりますが、そこは見た目や性格面の当初からのアドバンテージも大きく、プレイして思った以上に好きになったのはゆう、詞葉に関してはトゥルーでもう一押しがなかった分伸び悩み、仰子も憎めないけど大好きになれるタイプではなかったかなと。
 あとサブキャラの使い方がやや勿体なかったというか、愛とか詩とかすごく可愛かったのでもっともっと出番と活躍が欲しかったのが本音ですかねー。やっぱりラストにサプライズゲスト付きの卒業公演やって欲しかったなぁ。


CG(17/20)

★全体評価など

 1枚絵が74枚とやや少なく、立ち絵素材もポーズがヒロインで1種類ずつしかなかったりと、やや量的な面では不満が残るところです。
 ただ質的にはしっかり可愛らしい絵柄にまとまっていますし、かなり好みだったので、迷ったけどおまけでこの点数まで引き上げました。

 立ち絵としてはゆうと奏が双璧で可愛く、ただ私服のセンスはもうちょっと、だったかな。制服の奏が一番可愛いです。
 1枚絵のお気に入りはゆうの告白、奏ブランコと初Hフェラあたり。


BGM(17/20)


★全体評価など

 ボーカル曲は2曲で、BGMはインストなど込みで28曲と、量的には水準はクリア、質的にも目立って素晴らしさはないものの安定して悪くなく、ボーカル曲もどちらもいい出来だと思います。
 特にEDの『想いは言の葉に乗せて』がすごく澄みやかで颯爽としていて、切ないラストでもあるけれどそれははじまりなんだと、強く前向きなメッセージを発している噛み合わせの良さとセットで凄く気に入ってます。

 BGMでは『感動』『友情』『卒業』あたりがベタだけど良かったかな。


システム(8/10)


★全体評価など

 演出面はやや微妙で、元々の素材なども少ないのはあるけれど、シナリオの質的にも演技の幅で頑張ってもらう、という部分にかなり依拠している感じはありましたかね。
 勿論その面での威力は素晴らしかったのでそれはそれで楽しめましたし、流石に要所での情感を煽る演出は巧みで、演技の上手さをしっかりフォロー出来ていたのでそこは良かったと思います。
 ムービーはまぁ普通、くらいかなと。

 システム的にも特に使いにくさはないけれど、便利という程細やかでもなく普通ですね。
 ただ音楽回想は、せめてリピートとかボリューム調整機能は搭載して欲しいなぁ。


総合(85/100)

 総プレイ時間16時間くらい。共通4時間で個別が3時間ずつくらいですね。
 基本的にそれぞれの尺として最低ラインはクリアしていますけど、流石にコンパクトにまとめ過ぎている感覚は強くて、ルートによってはもうちょっとボリュームが欲しかったり、設定的に突き詰めて欲しい面はありましたね。特に最後のトゥルーは、わざわざああいう形で他のヒロインの恋愛価値を踏み躙ってまでの構成なのだから、もう少しそれなりの説得性を有する形まで作り込んで欲しかったとは思います。

 ただ声優をテーマとしての作品としては、かなりその演技面での奥深さを細かく紐解いてくれていて、実際の演技シーンもこの手の作品にしては長くしっかり見せてくれていましたし、興味深い、という視座での価値も高い作品になっています。
 当然ラブコメとしても充分に面白おかしく成立していますし、カジュアルな分量でこれだけのものを紡ぐ技術はやはり流石の一言で、今後もこの人の作品は追いかけていく事にはなるでしょう。
 癖は強いですが個人的には相当楽しめましたし、演じることに興味がある人は読んでみて損はしない作品になっていると思いますよ。


posted by クローバー at 08:54| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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