2019年04月24日

pieces/渡り鳥のソムニウム

 元々まみずさん原画は大好物なのでそれだけでも買い要素強かったですし、渦巻きにしては珍しくシナリオ重視、というアナウンスだった事、実際に体験版も面白かったのでうきうきと購入しました。


シナリオ(24/30)

 夢でなくとも、人は。


★あらすじ

 ミッテベルは、天使の眠る街として名を知られていました。
 かつて天上界から、この世界で最も尊いものを探すべく舞い降りた天使は、しかしその無知ゆえに見当違いの事をやらかすたびに人間の世界に被害をもたらし、それを憂いた人間の懇願を受けて、眠りの中で目的を果たすことになりました。
 故にその眠りを妨げる事のないように、常に毎朝子守唄を流すのがこの街の風習となって、その伝統は長らく受け継がれ、天使もまた眠り続け、いつしかその話は風化し、御伽噺のように語られるものとなっています。

 そんな街で生まれ育った主人公は、何故か一定以上昔の記憶を失っていて、その代わりと言うべきか、一定の条件が整えば他者の夢に入り込める、という不思議な力を備えていました。
 知人の夢を覗き見ている間、自身は普通に起きているのと同じように消耗するために、普段の学園生活では逆に居眠りばかりで、幼馴染の紬を常にやきもきと心配させていますが、本人はどこ吹く風で、むしろ眠りながら社会貢献、を標榜する、眠り姫と称される深織が所属する昼寝部への加入を日夜試みては跳ね返される、そんな日々を過ごしていました。

 ところがある日、運命の出会いが主人公に訪れます。
 ふとしたきっかけから、夜の散歩で迷い込んだ、曰く付きの森の奥にある立派な館の前で、窓から下界を覗き見ていた凄絶な美貌を持つ少女の姿を見た時、主人公の心と体に電流が走り、彼女の事が頭から離れなくなってしまったのです。
 心を落ち着かせるために、朝から子守唄を聴きに行って、そこでも子犬系の後輩であるありすとの出会いがあったりしましたが、それでもしばらく彼の心は深窓の令嬢の事で一杯で、本人はそれを一目惚れだと周囲に喧伝するものの、時間が経つにつれてそれは少し違うのではないか、とも思えるようになって。

 紆余曲折ありつつも、その少女・結愛とのコンタクトに成功した主人公は、彼女が主人公と似て非なる力、すなわち悪夢を呼び寄せる特異体質で、その暴虐性ゆえにまともな日常生活を送れず、あの屋敷でひとつ引き籠って暮らしている事を知ります。
 それに対し、自分の力を上手く使えば助けになるかもしれない――――義侠心とも、好きな子に良い格好を見せたい男心とも言える想いの発露から、主人公はまず、現時点で結愛に悪夢を見せ続けている存在の特定に奔走し、それはやがて周囲の人間たちも巻き込んでいく事になります。

 天使が夢見る街・ミッテベル。
 優しい揺り籠の様な世界の中で、それぞれが夢にまつわる何かを抱き、折り合いをつけて生きている中で、主人公と結愛の出会いが触媒となり、様々な人間関係が、やがては世界そのものが動き出していって。
 果たしてこの街に秘められた秘密とは何なのか、ヒロイン達が抱える謎や苦悩の果てに何が待っているのか?
 これは、夢がもたらす特異な現象を媒介に、人を人たらしめるなにかを見出し、壁を乗り越えていく絆と成長の物語です。


★テキスト

 全般的に今風の切れの良さとテンポの良さ、地の文に至る軽妙さを備えつつ、ある程度はしっかりシナリオ性の強さにも耐えうるテキストメイクになってはいるのかな、という感覚です。
 特に風雅なイメージだったり、読み口として感心するような言い回しはないですけれど、シンプルに読みやすく、それなりに錯綜している物語性を最低限のラインで集約、整合している感じで、流石に個別ルートなど、語れないものが多過ぎる中で歯切れが悪い面も幾ばくか見受けられますけれど、概ね読み口としては取り立てての不満はなかったですね。
 敢えて言えば、ですけど、シナリオ性の強い作品としては、Hシーンのテキストがくどいというか、情景がねちっこすぎるというか、この辺は人それぞれの趣味もあるでしょうけど、私としてはもう少し純真無垢な精神性の部分を強調したつくりでも良かったし、その方がバランスは良かった気はするのですけどね。 



★ルート構成

 選択肢としては、基本的な形でまずヒロインとの好感度を高めていく、その上で最終的にそのラインが一定を超えているヒロインにアプローチしていく王道的なものになっていますね。
 一応最初からヒロイン4人は全員攻略可能ですけれど、すべてクリアすると最後にトゥルーエンドがクリアできるようになり、その話自体は結愛ルートとほぼ地続きなので、やはり結愛を最後にした方が話の通りはいいと思います。
 他の三人は、多かれ少なかれ全クリしないとその背景が理解しきれない、という曖昧さはあるので、誰からでもそこまで差はないと思いますが、繋がりとして言うなら紬⇒結愛⇒トゥルーが一番通りはいいかな、というイメージですね。


★シナリオ(大枠) 

 基本的には夢、を素材にした多角的な物語性を有していますので、当然ながらある程度はファンタジックな色合いを帯びつつ、けれどその根源的な部分にしっかり理路がある、堅実なシナリオ性を有した作品に仕上がっていると思います。
 世界観そのものがある程度伝承の中に秘められた真実、という形で風変わりな形で担保されていますし、けれどその優しい世界が生んだ歪みや想いの影響が端々に見え隠れしていて、そこに人が人たる由縁や、人らしく生きていく為の試練的な意味合いが生じていて、当然ヒロインも表面的には前向きで明るい雰囲気の子が多くとも、その裏側で人知れぬ苦労や悲しみを背負って頑張っている、それを主人公が見知り、支えになろうと奮闘する事で物語が動いていくのは王道的なボーイミーツガールですね。

 一応立ち位置的には幼馴染もいますけど、比較的ヒロインとの元々の繋がり自体は薄い所からのスタートで、その分関係性の進展の蓄積、という面では物足りなさも出てきますし、個別ルートも多少の差はあれ、横の繋がりの中での盛り上がり、を担保出来るのは少ない、という事、そして全体の伏線としての意味も備えている分だけ、ややそのルートクリア時点ではすっきり全体像が把握しにくい、という弱点もあります。 けれど全体像に向けての整合性、という面では、勿論都合のいい部分はあれど高いレベルでしっかり整えられていると思いますし、それぞれのヒロインがこの場所にいる意味と、そしてここで手にしたものが、しっかり総合的に最終的な地点で帰結している綺麗な構成も含めて、上番倒れではないそれなり以上に面白い作品だった、とは思いますね。


★シナリオ(個別・ネタバレ)

 世界そのものが元々は天使の夢、という位置付けはなんとなく最初から想像出来たところですけれど、そこから派生しての今への繋がりと、人が夢見る世界になっての変化、それを受けての学びの過程の紡ぎ方は予想以上に丁寧でしたね。

 基本線としては、元々の天使の目的が、世界で最も尊いものを探す事であり、その尖兵として作られたのが主人公で有る限り、主人公の学びがそのまま人がましさと、そして人が本質的に備えている美しさ、高潔さ、より突き詰めて言えば原初的に抱く愛の価値を天使に伝える事とイコールになる、という理解でいいのだろうと思います。
 元々人ではない天使が夢見る世界では、その想像から生まれる創造も当然限界があるというか、人の可能性とは乖離した画一的なものであったことは疑いなく、それは存在の是非では無くて、あくまでも天使とはそういう、教条的な意味での博愛的な生き物である、という解釈の発露だったのだろうと見ています。

 もっとも、それを理解する事でどういう存在に昇華できるのか?という面での曖昧さはあったりしますが、そこは物語の本筋には関わりが薄いので置いといて、ともあれ天使、という存在が持つ超常的な力は、当然人の身では成し得ない奇跡をも簡単に実現できるのですが、しかしそれが本当に人にとって喜ばしいものなのか、という確信がない限りは行使できないのも事実でした。
 それは御伽噺であるように、見当違いの力を奮っていわゆる有難迷惑を振りまいた過去故でしょうし、その蹉跌から夢の世界を作り、けれど夢の世界で自身が夢見る形では可能性は開けない、そこで自身の現身を作って同じようにさせたけどやはり結果が出ず、かつその繰り返しの中で彼はその立場に飽いて、夢の世界の権限を人に譲ってしまった事で、逆説的に初めてこの世界に人の可能性を反映する余地が生まれた、とも言えるのでしょう。

 最初にその力を委譲したのが紬のように書かれていて、それはこの舞台が単純な時系列や年齢に依拠していない証左でもあるのですけれど、そこからの細かい繋がりはちょっと把握しきれず、そのあたりが原因となって、結果的に幼馴染という関係性が紐づいた、というのは解釈としてはやや強引ではありましたかね。
 その上で、同意の上で譲られ続けてきた夢の力は、けれどやはり人が持つには大きすぎた事で、いわゆる眠り姫的な存在、言葉を悪くすれば生贄が、その世界を維持するためには必要になってしまっている、果たして主人公がそれに気付けないというのは仕様としてどうなのか?というのはあります。
 勿論それは、あくまでも天使の現身としての自己を捨てた結果とも言えますが、やはりそれでも結愛との出会いから察するところ、感じ入る何かがあったのは確かでしょうし、最後の決断などはその贖罪の意味もあったのでしょうね。

 単純に時系列で考えていいなら、深織の後に結愛がその立場についた、という事にはなるのでしょう。
 けどその頃に、人としての生を謳歌していた主人公も、人らしい悩みを抱えて天に祈る羽目になっていて、そこで彼にだけ特別な力をポンと分け与えちゃう辺りは天使も親バカやん、と思ったりもしましたが、結果的にその半端な力の在り方と、眠り姫の結愛との出会いが触媒となって、余計にこんがらがったことになってしまっているのですから、やはり半端に天使力が溶解してくると実は碌な事はない、というのは見て取れますね。
 ともあれ結愛と主人公の力が入れ替わって、けれど主人公自身はその力を保持する事を放棄しているために、行き場を失った力が再び眠り姫としての適性が高かった深織に舞い戻って、中途半端な眠り姫、代行として長い年月を担うことになった、という理解でいいはずですし、そして主人公の力を半端に受け渡された事で、結愛は現実でも夢でも苦しむ羽目にはなっているのですから、その辺は不憫だなぁと強く感じます。

 そういう土壌を理解した上で個別を見ていくと、紬なんかはむしろ一度夢の世界から離脱して、けれど結愛の為に舞い戻ってきた、というスタンスが明確な中での面白さはあれど、結局幼馴染恋愛ものとしてのスタンスと微妙に混ざり切れていない感はありましたね。
 どっちにしろ結愛ルート以外では、結愛が目覚めて完全に深織が眠り姫に戻るか、逆に結愛が再び眠り姫になるか、でないと世界そのものの維持が出来ない、という悲嘆は背負った上でなので、深織ルートも獏との関係性など独自の面白さはあれ、相対的に見ると切なさが強く出てきますね。
 その点であまり世界の構造に関わってこない異端なルートなのがありすで、それでいつつこれが強烈なシリアス話にもなっているので中々侮れない、という感じで、二人のありすの在り方と、その克服がトゥルーでの伏線として綺麗に繋がっている事も含めて、前座の3人の中ではこの話が一番出来も良かったし、個人的にも好きでした。

 結愛ルートの場合は、正直あれだけの選択肢の差異でここまでベッタベタにツンデレラブコメに転がっていくのかい?って温度差はちょっと気になったけれど、純粋に元々の流れからしても二人が意識し合い惹かれていく構造は噛み合うし、そこをしっかり段階を踏んで丁寧に書いているのは好感ですね。
 ただこのルートの場合は、トゥルーに至らない時点での感触だと、どこまでも結愛の自己犠牲感が強く出てしまうし、やはりトゥルーと地続きでプレイしないと真価を感じ取りにくい話、ではあるかなと思います。

 トゥルーに関しては世界の構造を少しずつ紐解いていく中で、主人公の記憶に依拠する部分が多いのはちょっと説得性として弱いですけれど、でもそれを踏まえての関係性の変化と強化、想いの煌きの表現は中々良く出来ていて、全員の合意を取って、という民主的な手法の裏に隠された悲しみの在り処の披瀝に至るまで綺麗に積み重ねられていた、と感じます。
 そして最終的には、そういう人の人たる高潔さと、それでも拭えない悲しみの在り処を主人公が体感し、真の意味での転生を望む事で、天使がその人の生きる価値そのものをしっかり理解したからこその奇跡なのだ、と理路で読み解けるようになっているのは、シナリオゲーとしては責任を果たしたつくりではないかな、と思いますね。
 ラストシーンの演出とかもすごく良かったですし、その上でのタイトル画面の結愛の一枚絵が抜群に映えて、ものすごく余韻のいい終わり方になっているのも含めて、このあたりはかなり高く評価しています。

 総合的に見て、やはり理路の繋ぎに少なからず強引だったり、飛躍があったり、という粗さはなくはないですけれど、少なくとも過去の渦巻き作品からすれば相当な進化だと思いますし、事前のアナウンスを裏切らないレベルの作品ではあった、と思います。
 それでも名作ラインに乗せるにはもう一歩肉付けや奥行きが足りなかったかな、というイメージなので、点数としてはここに留めました。でもこの作品、かなりお気に入りなのは間違いないですね。



キャラ(20/20)


★全体評価など

 基本的にノリのいいキャラゲーっぽさも出しつつ、要所ではしっかりヒロインをはじめとしたそれぞれのキャラの芯の強さ、この世界の中で手にした確たるものをきちんと見せてくる、というバランス感がいいですし、嫌味なキャラもほぼいない優しいつくりなのも含めて好みではありますね。
 敢えて言えばもう少し横の繋がりとか、仲良くなるまでの過程を、みんな結愛くらいしっかりやってくれれば、なんてことは感じますけど、特に文句なく楽しめました。

 一番好きなのは迷うけどありす、かな。
 勿論見た目的な好み度の高さと、お調子者っぽい性格に見せて実は、というギャップ、その真摯な在り方と強さには惹かれましたね。
 
 当然結愛もかなり好きで、まぁいかにもコミュ障な子らしい気難しさもありつつ、カステラとのコンビの面白さ、強がっても隠し切れない寂しさの見せ方がとても良くて、メインヒロインとしての存在感も含めてかなり良かったです。

 紬も幼馴染らしい距離感と、ヒロインとしての破壊力、また本当の自己の立場としての責任感など、色々担いつつバランスの取れたヒロインでしたし、深織も可愛い系お姉さんって感じでとてもお気に入りです。


CG(18/20)


★全体評価など

 出来は高いレベルで安定していますし、当然質としても好み度は高いのですけど、単独原画の弊害か、強いて言えば物量的にはちょっと物足りないんですよね。そこがクリアできていればもう1点は上でもいいのですが。
 一枚絵は全部で72枚にSDが20枚なのでまぁ悪くはないですが、もう一歩シナリオとセットで奥行きが欲しかったのは事実で、立ち絵なども全体的にすごく可愛いのですけどもう少しバリエーションは欲しかった、かもです。

 立ち絵でお気に入りはありすの私服とパジャマ、結愛の部屋着、一枚絵だと窓越し結愛、眠り姫深織、お姫様抱っこありす、騎乗位ありす、それとラストのキービジュアルかな。


BGM(18/20)


★全体評価など

 音楽は全体的に質が高く、量的には水準ですけどかなりインパクトがありましたね。
 ボーカル曲は3曲で、OPは聴いてるとなんともアレセイアを思い出して仕方ないのですが(笑)、それでもこの世界観に似合った透明さでいいですし、EDはまあ普通だけど、挿入歌のソムニウムがすごくいい曲でお気に入りです。

 BGMは全部で25曲、こちらも中々に総合力高く、『小さな傷はやがて』『羽根はみなもに触れ』『渡り鳥の夢』あたりは突出して素晴らしかったです。
 いい意味で作品の神秘性と安らぎ、それでも拭いきれない、人がそこにある限り必然として在る痛みも上手く掬い上げてる感じでかなり気に入りましたね。


システム(9/10)


★全体評価など

 演出はそれなりに日常のコミカルさと、要所での情感の高め方を上手く両立させて機能的に組み上げられていたのではないか、と思います。
 あとOPムービーの雰囲気が最高にいいですね。今年プレイした中では、さくら、もゆ。の二つは桁違いですが、それ以外では最上位に位置するレベルで気に入りました。

 システムも解像度が上がって美麗になりましたし、パッチ入れないと細々した不便があったりですが、そこも今は解消されていますし、使い勝手としては相変わらず少し癖はあるのですけどまぁ悪くない、と思います。


総合(89/100)

 総プレイ時間19時間くらいですね。
 共通が4時間、そこから個別が3時間弱ずつくらいで、ラストのトゥルーが3時間ちょっと、ってラインだったかなと思います。
 尺としては基準ラインにはありますし、構造としても取り落としたものはない、先ず先ず完成度の高い作品ではありますが、強いて言えば世界観が独特なので、それをより意識的に裏づけしつつ、読み手にヒロインへの愛着をもっと高める仕掛けが序盤から出来ていれば傑作にもなり得たかもしれません。

 総合的には高いレベルにあるけれど、何処かが突き抜けているわけでもない、というところで惜しくもSクラスには届かなかったですけれど、今年プレイした中ではかなり印象度が強く、いずれまたプレイしたいな、と思わせる魅力はある作品でした。
 メーカー的信頼度から手を出せない人も、これはかなりいい仕上がりなので、好きなヒロインがいるなら、なかんずく結愛が好きになれそうなら買ってまず損はしないとは思うのですけどね。

posted by クローバー at 17:16| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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