2019年04月25日

青い空のカミュ

 本来的には好んで買う路線のメーカーではないのだけど、今作に関しては最初のキービジュアルを見た瞬間からすごく気に入ったので、その一目惚れを信じて購入。


シナリオ(22/30)

 留めておけないもの、留まり得ないもの。


★あらすじ

 仲良し二人組の燐と蛍は、ある日買い物帰りにうっかりと電車で居眠りしてしまい、燐は途中下車出来ずに、蛍が暮らす終点の街まで一緒に運ばれてしまいます。
 しかし、目を覚ました二人がそこで見たのは、普段とは打って変わった、光のない不気味な光景でした。
 挙句、車内には人っ子一人おらず、駅にも駅員の姿も見えなくて、まるで一瞬にしてゴーストタウンになってしまったかのような状況に、二人はとても怯えつつ、それでも車内でじっとしているわけにもいかずに、駅の中を色々探っている内に、ようやく人らしきシルエットを張っん消します。

 ですが、それもまたよくよく見れば、人たらず、人の形を模倣した、そこから崩れ去ったなにか、でしかなく、彼らは総じて理性を失っていて、欲望のままに動き回り、目につくものを破壊し、襲い掛かっている恐ろしい生き物に変貌していたのです。
 当然二人も彼らに襲われ、必死の抵抗や幸運も合わさってその場では何とか撃退したものの、そのはずみで線路は崩落し、行き止まりの街は完全に陸の孤島の様に閉ざされてしまったのです。

 そのあまりの変化に途方に暮れつつも、二人は打開策を探る為に、まずは蛍の実家を目指して進むことになります。
 街中にも先程の化け物は徘徊しており、その魔の手からの逃避行となる中で、彼女達は無事に今まで通りの世界に辿り着く事が出来るのか、そしてその過程で二人に突き付けられる世界の理不尽とはいかなるものになるのか?
 これは、理の歪みによって完全に外界から閉ざされたクローズドサークルの中で繰り広げられる、サスペンスホラーと哲学を噛み合わせたような、独特の味わいを見せる神秘的なアドベンチャーです。


★テキスト

 全体的に凄く洗練されていて、また言葉の選択が要所要所で独特な切れ味を持っており、哲学的な引用、有名な物語の援用なども多彩に組み込まれています。
 それでいて冗長さは決してなく、状況の切迫感とのバランスの取り方も絶妙で、基本的には恐さを煽り、悍ましさからも目を背けない冷徹な一面はありつつ、それでも総合的に見るとすごく美しく透明感のあるテキストメイクになっているな、と思います。

 これはやはりライターさんが原画も兼ねていて、すべて一人でやっているからこその統一感というべきか、絵の質などとも噛み合って、この非情で理不尽で、けれどそこかしこに原初的な美しさを醸しだす世界像を相乗効果で作り上げている、という感覚ですね。
 内容そのものは凄惨な部分も強いですけど、テキストそのものとしては今年の作品ではトップクラスに好ましい、読み応えのある内容でした。


★ルート構成

 通常のADVとは違い、個別ルートなどはなく、本筋は綺麗な一本道構成です。
 ただ道中にいくつか選択肢はあり、そこで間違えると理不尽な凌辱一直線、と、このあたりはメーカー的風土を反映した方向性とは言えるでしょう。
 まあ回避したい人は直ぐ回避できるつくりですが、意外と選択肢そのものはノーヒントで、どちらを選べば虎口を逃れられるか、というのは半ば勘になってしまいます。それこそ細かく読み解いて理解度を高めれば、些細な差はあるのかもですが、少なくとも初見でそれを見出すのは難しいんじゃないかな、という感覚ですね。
 なので基本としては、選択肢が出たらセーブして総当たり、凌辱が見たければ見て、本筋に集中したければそちらを選んで、というスタンスで問題ないと思います。ゲーム性、という意味では流石に淡泊ですね。


★シナリオ(ネタバレ)

 基本的に序盤からあらゆる要素が物語の伏線になっていたりもするので、こちらも最初からネタバレ前提で反転しておきます。

 大枠で見ると、これは極限状況の中でそれでも友情と信頼を失わない二人の少女の勇気と意思の物語、とは言えるのですが、その一方で、物語の中で様々な困難や絶望、理不尽を突き付けられる中で、二人が抱えているもののズレが少しずつ露になっていき、その想いにそれぞれが殉じるとすれば、という、思考実験的な要素も含んだ、見た目の印象よりも遥かに哲学的で難解な内容に仕上がっていたな、と思います。

 勿論エロゲ、というスタンスで見ればこれは凌辱系の作品には分類されるのでしょうけど、ただ一口に凌辱と言っても色々な見せ方はあるとは思うのですよね。
 一般的にこの路線の需要のバランスがどのようなものか、ってのは、普段から親しんではいない分理解に乏しいのですけれど、少なくともこの作品は凌辱のための凌辱、という見せ方は一切してないな、と思いますし、その分いわゆるオカズ的な需要を満たす方向性のそれではない、とは明らかに感じました。
 やっぱりシンプルにオカズ的に、となると、汎用的なのは、悔しい、けど感じちゃう的な、ベタな快楽堕ちが優勢でしょうし、快楽を伴わない方向性ならば、より被虐的な方向に特化した方がいいはずで、けどこの作品はそのどちらにも依拠せず、あくまでも凌辱がテーマ性を浮き立たせるための手段でしかない、という徹底ぶりが目立っていました。

 テーマとして見るならば、まず大きな要素のひとつとしては、人間世界そのものが内包する理不尽、不条理に対する冷酷なまでの直面、というのが浮かび上がってきます。
 それは上でも触れたように、ヒントを見出しにくい難解な選択肢からしてそうですし、凌辱絡みでも、あくまでそれは二人が体験する絶対的な不条理の現出、という以外の意味はなく、特にヒヒの凌辱などはその方向性が極まった、痛々しく悲しいつくりに仕上がっていましたね。

 そもそも世界が一時的に閉じられてしまった事や、その要因も、根源的には人の業の蓄積がもたらしたもの、という説明はつくにせよ、なぜ今なのか、そしてなぜ二人が巻き込まれてしまったのか、という部分では、座敷童が言葉にしたようにたまたま、ひたすらに運が悪かった、としか言えないと言い切るのが、この作品の物語らしくはない徹底さではあります。
 ある意味物語というのは作者の心象の結晶ですから、それなりの理路を持って創造されるのがより物語らしい完成度だと私なんかは考えるのですが、これは最初からそういう方向性を無視して、どこまでも理不尽は起こり得る、いついかなる時でも降りかかる、という冷酷な現実性をただトレースしている、と思えます。
 実際にこれをプレイした次の日に、池袋の暴走ひき逃げ事件が起きて、母娘が揃って死亡したなんて悲惨で不幸そのもののニュースが流れていて、文字通り一寸先は闇、になりかねない現実社会の影絵としての強い意志はより感じさせられたりもしました。

 そういう影絵の中ではやはり欲望が先に立ち、弱肉強食の論理が反映してくる、というのもわかりやすい部分ですが、ただ個人的にちょっと思うのは、明らかに女性が化け物に変貌した姿はなかった点ではあるのですよね。
 単純に力的に足りないから、変貌した初期で駆逐された、という可能性もあるのですけど、例えばヒヒのように、強い思いを持っていれば、その想いの力が存在性に反映する、というルールもあるように感じる中で、完全に欲望に呑まれるのが男だけ、という歪さは少し気になるところではありました。
 或いはそれは、この街の歪が座敷童として存在する女の子の不幸に裏打ちされているからこその特性、とも捉える事が出来ますし、その中で燐と蛍の二人が、正気のままで存在しえたのは、それぞれに理由は違うけれど、この場にいるべき意味があったから、とも言えるのでしょう。

 その意味とは当然、蛍に関しては自身が座敷童である事、そして燐は、ずっと深く思いを寄せる聡の存在がここにある故、と見做せるでしょう。
 そして最終的には、この二人がこの場にいる理由と意味が、そのまま二人がこれまで生きてきた道のりで手にしていたもの、人としての幸福の在り処の差異に繋がっていくわけですね。

 この作品のテーマとしては、上に書いたようにまず現実の理不尽そのものを抽出して、それを前提とした上での幸福論的なものになっていくのだろうとは思います。
 その観念的な部分や、記号的な意味の解釈を、私の読解力と知識で換骨奪胎し、より平易な言葉に置き換えて説明するのはまず無理だなー、と最初から投げ出してしまっていますが(笑)、表面をなぞるだけでも理解できるのは、最高の幸福、完璧な世界とは、気付いた時には既に過ぎ去っているもので、必ずと言っていいほど、その一瞬を永続的に留める事は出来ないという、やはりそれも冷徹な看取が元になったシニカルな解釈の表現としてこの作品は構成されているのだろう、という事でしょうか。

 燐と蛍の過去は折々に触れて言葉や回想で見せられますが、そこで見えてくるのは、二人の、とりわけ家族、という存在に対する拘りや、そこにまつわる幸福感のズレになります。
 逆に二人が仲良くなり、互いに自分が持たない真っ直ぐで綺麗なものを羨む、という構図も、そのずれが根底にあればこそなのですが、少なくとも日常的に生きていく中では、そういう極限的な理念の差異が露呈する事も、ましてや二人の道を分かつような残酷を呼び寄せる事もなかった、とは言えます。
 けれど極限状態の中で、自分にとっての最大の幸せとはなんだったのか、と顧みる余裕を少しずつ得る中で、その深層意識の差を、特に燐のそれをその閉じた世界そのものが残忍なまでに見せ付けてくる事で、徐々に乖離が発生していく、という見立ては出来ると思います。

 上でも書いたように、最高の幸せとは留めておけるものではなく、そもそもこの世界が生まれた歪の主因も、座敷童がもたらす幸福という、本来なら一過性のものを、人為的に、非人間的な手段を講じてまでとどめようとしたツケ、罰が当たったと言えます。
 けれど皮肉なことに、こういう状況の中で、燐と二人きりで寄り添って生きていく事が、今まで目的の為に生かされてきて、なにも大切なものを持たずにここまできた蛍にとっては、「最高の幸せ」を感じられる舞台にもなっているわけで、その世界の変貌の時点で元々の試みは本来的な意味を失い移ろう中、この世界からの脱出そのものもまた、蛍にとっての喪失に繋がるという構図は見えてきます。

 座敷童であるオオモト様の様々な示唆を得て、苦難を掻い潜り、ヒヒとの決着、世界のズレの修正を経て辿り着いた境地は、あくまでも燐と蛍の最高の幸せの在り処がずれている、という悲しい真実を抉り出すものであり、また同時に、蛍にとっての最高が既に留め置けない過去になっていく、という情景を綺麗に投射したラストにはなっています。
 オオモト様が、切符を持っているのは燐、と言っていたので、最後電車に乗るのは逆なのかと思っていたのですけど、実際のところはそこに留まる権利のようなもの、と捉えるべきなのでしょうか?
 元々あの世界に囚われた時点で、本質的な人からは少し外れてしまった、とも言えますし、それが蛍にとっては、座敷童から人間に変遷していく過程として作用するけれど、普通の人間にとっては違う、という面も隠されているのかもしれません。

 正直最後の解釈はかなり難解で、そもそも蛍が辿り着いた場所は元の世界と地続きなのか、とか、あの世界から届いた紙飛行機の意味、まあこれは想いだけは寄り添って、的な雰囲気は強いですけれど、どちらにせよ形として、わかりやすいハッピーエンドではない、というのは確かだと思います。
 ただ少なくとも、そこまでの経験で得た想いを胸に、蛍がこれまで以上に人間として、人間らしく生きていけるなにかを体得したのは間違いないと思いますし、完璧「ではない」世界の中で何を求めるべきか、そういう意思の欠片は確かに受け継がれたのだろうと信じられる、本当に繊細で神秘的で美しい物語になっているなと思いましたね。

 まぁ正直、こういう方向性に特化して、という留保はつくにしても完成度は高く、非常に心に色々なものを残す素敵な物語ではあったのですけれど、ただフルプライスとして尺が物足りないのは絶対的な問題として出てきます。
 また上でも書いたように、あくまでもひとつのテーマ性を徹底して追及するスタイルで構成されているので、遊び心の要素は薄く、エロゲ、としてならではの魅力に関してはむしろオミットしているような面もあるので(だからこその洗練度と透明感とも言えなくはないのですが)、総合的に見て名作!言い切るには語弊があるかな、という評価ですね。
 多分合う人と合わない人がはっきりする作品だと思いますし、私個人としては、直感通りにかなり好みな作品ではあったのでそこは良かったのですけど、点数にするならこのくらいになるかな、という感じです。



キャラ(20/20)


★全体評価など

 まあ基本的には燐と蛍、後は精々聡くらいしかまともに顔のあるキャラはいないのでその辺はなんともですが、そうやって登場人物が極限まで絞り込まれた中で、故にそれぞれの心象、個性、魅力などは非常に繊細に精緻に紡がれていて、かつそれをすごく情緒的にやってのけているのが凄味ではありましたね。
 その意味で特にキャラ性において割り引く要素はなかったですし、燐も蛍もとても可愛くて、それでいて芯が強く頑張り屋で、心惹かれる二人組でした。

 敢えて言えば蛍の方が好きかな。特に燐視点で見える蛍の透明感と安らぎ、儚さは本当に綺麗で、燐みたいなタイプが、特にこの時期の燐が惹かれるのがすごくよくわかる、という描写になっているのが素敵でした。あと素敵な黒ストでした。。。


CG(19/20)


★全体評価など

 とにかく総合的な完成度・一体感が高く、隅々まで意識が研ぎ澄まされた美麗さで形作られていて、一枚絵も含めて非常に愛らしく美しく仕上がっていたと思います。
 量的にも、シナリオボリュームからするとかなり多くてこちらはフルプラ水準にありますし、出来もとても安定しているので満足度は高かったですね。

 一枚絵は全部で87枚、その中でお気に入りはオオモト様の膝枕、水たまり蛍、待ち合わせ蛍、オオモト様の初恋あたりかな。


BGM(18/20)


★全体評価など

 こちらは量的には少し物足りないですが、その分ひとつひとつが世界観を綺麗に投影した繊細に研ぎ澄まされた仕上がりで、質的にはとても素晴らしかったと思います。

 ボーカル曲は3曲で、どれも相当にいい曲なのですが、特にとなるとOPの『完璧な世界』の透明感、神秘性が一段抜けて好きかな、って思います。
 月の階段のシックな雰囲気や、青い空のカミュの幻想感もかなりいい感じですし、これは普通にどれも高水準と言えるでしょう。

 BGMは逆に10曲ないくらいなので量的には残念ですが、まあ舞台的に基本切迫したくらい雰囲気が基本ですし、その中でも不協和、不安をしっかり意識させるような曲の変調、楽器のセレクトなど、細かい部分にこだわりが感じられて良かったですね。
 特に長距離走者と水平線の悠久性と神秘さが好みでした。


システム(9/10)


★全体評価など

 演出的には色々特化的な面はありますけれど、危機感や切迫感、また世界性の異端度が程よくトータライズされていて、シナリオが短い分だけよりしっかり密度高く組み立てられている感じはしましたね。
 まあ一枚絵の多さとも連動して、という部分もありますけれど、見た目の完成度、印象度はかなり良かったと思います。
 OPムービーも非常に透明感があり、二人の結びつきをしっか意識させつつも折々に哀愁を漂わせていて、すごく完成度の高い出来でしたね。

 システムも全般的に不足なく、プレイしやすいつくりでしたし、デザイン含めての統一感も素敵で良かったと思います。


総合(88/100)

 総プレイ時間10時間くらい。
 基本一本道で、凌辱イベントも全部で1時間はあるかないかくらいだと思うので、どちらにせよフルプライスとしてのボリューム感が足りていないのはやや残念なところではあります。
 ただその分、物語のつくりには全く妥協したところがなく、あくまでも一貫した方向性の中でどこまでも美しく繊細な物語を積み上げることに成功していて、非常に芸術性の高い仕上がりになっており、読み物としても独自の風格を有していて、とても個人的には楽しめた作品ですね。

 敢えて言えば、的な不満はあれこれ出てきますけど、ただそれを叶えるとこの完成度はどんどん損なわれていってしまう、というのもわかるので、これはこれで確かに完璧な世界なのかな、と思います。
 無論だからと言ってそれを手放しに受け入れて、って事にはならないですけれど、ただこういう幸福論的なもの、哲学的な読み物が好みであれば、キャラの魅力とセットでかなり嵌る作品にはなるのではないでしょうか。
 逆に凌辱要素にオカズ的なものを求めたり、もっとおどろおどろしいホラー要素に特化したものを想定しているとかなり気組みを外されると思うので、合う合わないははっきりしそうな作品ですね。

posted by クローバー at 11:50| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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