2019年05月30日

缶詰少女ノ終末世界

 このライターさんの作品は私の中で当たり外れが大きいのでどうしようかな、って思ってたけど、体験版やったらかなり面白かったし、更紗辻花の一年生コンビがめっちゃ可愛かったので購入。


シナリオ(21/30)

 本能に諍う絆。


★あらすじ

 主人公は幼い頃から、わけもなくただ遠くへ走り出したい、世界の果てを見てみたい、という気持ちを持ち続けていました。
 それが社会的には異端なのもわかっていたので、普段はひた隠しにして生きていたのですが、ある日豪雨の最中に立ち寄ったコンビニで、主人公はとても不思議な存在と遭遇します。

 それは、コンビニのイート席で、鯖の缶詰を開けて一心不乱にむしゃる儚げな少女でした。
 その奇抜さと思い切り、異端性に強い衝撃を受けた主人公は、仲のいい先輩の華江にそれを語り、そして折よく彼女と一緒の時にまたその少女を目撃して、思い切って話しかけ、その行動の真意を訪ねてみる事にします。
 その少女、更紗サリが語るには、それは終末に向けての準備で、彼女はいつかやってくる世界の終わりを想定して活動する、プレッパーズという在り方に傾倒している、との事でした。

 それを耳にした主人公は、僅かなりその思想が自己の中にあるわけもない衝動とリンクするのを感じ、また華江は別の意味で彼女の思想に思うところがあり、かねてより主人公の友人に依頼されていた案件、新しい部活を作る、というミッションに対し、サリの意向を汲んでプレッパーズ部を立ち上げよう、と思いつきます。
 それに伴い、これまでは知人程度の関係だった、アウトドアショップの娘である後輩の咲を一般的なアウトドアの講師として招き、彼らは五人で真面目に終末に向けての準備に取り組むことになります。

 いざ活動を始めてみて、自分達がいかに普段から安穏と、この安寧がいつまでも続くと過信しているのか、そしていざそれが崩壊した時に何も出来ない無力な存在であることに気づかされ、同時にサバイバル的な活動を通して、自分の新たなチャンネルが開いていくような感覚を味わうことになります。
 当然それを共有する仲間たちともどんどん親しくなっていき、特に最初はとても希薄で感情も乏しかったサリの変化は顕著で、主人公はそれだけでも、今の境遇に満足していました。

 けれど、本当に終末の種は世界の随所に沢山転がっていて。
 そして主人公自身が抱える秘密もまた、その可能性に強く紐づいているもので。
 プレッパーズ部の活動によってもたらされる変化は、良くも悪くも世界と、そしてその内的構造を変革し、危うい天秤の中でゆらゆらと揺れ動いているのでした。
 果たしてそんな彼らは、終末を迎える事なくこのまま楽しい日々を送れるのか、そしてそのために必要なものはなんなのか?これはそんな、終わりと対比する事で生の価値を浮き彫りにする哲学的で観念的な青春の一コマを切り取った物語です。


★テキスト

 言い方が難しいのですが、このライターさんの文章って、すごく生々しいというか、まとわりつくような湿度を感じますね。
 くどい、というのとはまた違って、勿論多方向からの博識ぶりを発揮し、それをケミカルに取り込む独自性を発揮する中で説明的にならざるを得ない部分もありますけれど、基本的にはエッジも効いて勢い・スピード感はしっかり担保されているのですが、ただそれをサラッと読み飛ばす事を許さない重力や粘度がある、という感じでしょうか。

 なので、全体的にすごく読みやすい、とは言い難いところはありますが、その異端的な味わいの中で紡ぐキャラ性の存在感と魅力もまた光っていて、読み口もそれを上手く勢いづける方向付けが上手なので、なんだかんだで楽しく、興味深く読めてしまうのが不思議なところではあります。


★ルート構成

 基本的に階段分岐的なつくりですけれど、ただ一般的に言う個別ルート、というイメージはほとんどない感じですね。
 自動的に一本道の物語の中でそれぞれのヒロインとのロマンスも語られるものの、分岐でその相手と共に生きる事を選べばそこで物語が終わってしまう簡素な仕様ではあり、勿論それはこの世界観の中で、なまじ引っ張っても実のところは……という閉塞性に端を発するやむを得ない仕儀、とも言えるのでしょう。
 ただそれでも、もう少しそれぞれのヒロインとのイチャラブは堪能したかったなぁと思う向きは強く、ゲーム性としても面白味は薄いので、その点はちょっと物足りなかったかなと言えますね。選択肢自体も少ないですしねー。


★シナリオ

 基本的にこの人の作品って、今回のテーマである終末に代表されるように、どこかペシミスティックな世界像を土台に置きつつ、それでも、とそこに諍って生きる事で相対的にその価値を浮き彫りにする、という手法が十八番になっている感はあります。
 またその中で様々な思想性をごった煮に組み込んで、ケミカルに、ダイナミックに物語を仕上げてくるので、その発想の特異性・独自性にはいつも感心はさせられますし、今回もその例には漏れない出来でしたね。

 今回の肝は、現実と地続きのところにある、今そこにある終末の危機をこれでもか!と多彩に突き付けてくる事と、超科学的な存在である竜生九子の在り方を独自に解釈、劇化して、方向性はしっかり原典に基づきつつ、SF的な要素までしっかりと組み込んでいる、という部分でしょうか。
 ある意味では繰り返しの物語、的な側面もあるのですが、けれどひとつとして同じ世界は生まれない、その変化も不可逆的とまでは言わないにしても、大きな流れの中で簡単には切り崩せないものもある、という所で、もう一人の主人公と言えるツバキが、ヤズと呼ばれる、本質的には殺人を好むという猟奇的な個性を持ちつつ、それでもその頸木からとある信念をもって離れ、どちらかと言えばその本能に反逆する方向での活動をしている、というのが上手く物語の底流を支えている形になります。

 勿論この竜生九子の在り方やそれぞれのスタンスは、かなり誇張されている上にかなり都合よく設定はされているので、そのあたりは多少眉唾な感はありますけど、そういう違和感を感じさせないような物語上の構成が非常に巧みで、日常と非日常の行き来の中でキャラに愛着を抱かせつつ、その特異性もまたしっかり愛せるようなスタンスを築ける方向性に上手く誘導してくれる作品ですね。
 正直思想的な部分を深掘りしていく元気は今の私にないので省略しちゃうのですが、ともあれ世界構造としては、いずれ終末を望むものがいる限りは、その元栓を、根幹をどうにかしない限りいずれその世界改変の無意識的な力が発揮されて、様々な形での終末がもたらされてしまう、というのがこの舞台のお約束にはなっていて。
 それを如何に覆すか、その為にはなにを体験し、体現する事が必要になってくるのか、という試行錯誤の道のりにおいてのみ、それぞれのヒロインとのロマンスが介入する余地を持っている、というのは、物語性としてはかなり割り切ったつくりではあります。

 まーぶっちゃけて言えば、普通の気質とは違うものを持っているヒロインだけに、普通の在り方に違和感が出てしまう、という面はなくはないにせよ、それにしても恋愛的な要素はかなりおざなりで、かつ簡素であると言いたくはなりますね。
 普通こういう、大筋があってそこからの脱落式選択肢なら、その後の猶予期間、或いは別の世界線の中でのイチャラブもあっていい、とは思いますし、例えば咲編など、あのラストで一応はサリの想いを受け止めて、という、ラストに程近い方向性を担保出来ているのですから(無論それだけでは、具体的な経験を伴わない中で、衝動まで打ち消す強さを持たないのは確かでしょうけど)、もう少し普通の友情的な物語と、その合間を縫ってのイチャエロを楽しませてくれてもいいのに、という憾みはあります。
 実際にシーン数、かなり少ないですしね。エロゲとして土台から異端ではありますが、その中でその異端性に対する保険的な要素も置かない尖り方もこの人らしいと言えばそうなんですけど、今までの作品以上にヒロインが魅力的だっただけに余計に残念に感じます。サリもとってもエロ可愛かったので、もっともっと虐めてあげたかったのに(笑)。

 ただ思想的なまとめとしては、主人公の本懐とサリの衝動との噛み合わせの部分で、その他の要素ともリンクしてすごく綺麗なまとめ方にはなっていると思いますし、それらがすべて糾合される事で、サリのプレッパーズとしての在り方に違った意味を提供できる、というバランスも含めて、かなり完成度は高いなと思います。
 尺的にもうちょっと欲しいぜ、という面も含めて色々評価は難しいのですが、面白かった事は間違いないので、一応良作ライン少し上、くらいのイメージで点数はつけておこうかなと。


キャラ(20/20)


★全体評価など

 中々に奇々怪々で特異な面々が寄り集まって、ではありますが、それぞれの個性が凄く尖っているわりに、全体としてのバランスや調和は結構取れていて、なんだかんだで君たち凄く仲いいね、という雰囲気は多大な熱量を持って伝わってくるので、その中で活き活きと個性が発揮されるのは本当に楽しめましたし、みんないいキャラだなと思えましたかね。

 一番好きなのは迷うけど最終的にはサリかなぁ。
 元々の在り方がすごく閉塞的で後ろ向きだっただけに、ごく普通の楽しみを知ってキラキラと無垢に、無邪気に楽しさと向き合う姿も、それでも心のどこかに終末を置いておく破滅的な在り方も、それが恋愛的な部分に転化しても強く紐づき、色づいている所も凄く良かったと思います。
 またこういう、おどおどしているようで芯の部分に譲れないものを持っている薄幸的なヒロイン像に、ウサボイスが思いの外マッチしていて良かったですね。流石にQPみたいな人外キャラほどの嵌りっぷりとはいかないものの、ウィスパーボイス的な方向もアリだな、と思わせる素敵さでした。

 ほぼ同じくらい好きなのはこちらもやっぱり咲でしたねぇ。
 元々見た目的には一番好きだったし、個性的にもかなり気風のいいところはありつつ、それでも根本的に超お人好しで仲間思いで、みんなが楽しんでくれることが何よりうれしい、みたいな雰囲気を醸すのが好き。みんなに拍手されて照れまくるの超かわいい。
 彼女の在り方としても、主人公とは違うより直截的な意味でのサリのストッパーになっている感はありますし、なめんなおらー!の口癖と共にすごくインパクトのあるヒロインでした。CVの飴川さんも、イブニクル2のエミーリアがかなり良かったので期待していたのですけど、こちらも期待以上に嵌り役で大変に満足でしたね。

 その他もそれぞれに殺伐としていたり偏執的だったりと奇抜さはあれ、根幹の部分での想いの強さと真っ直ぐさは共通している感じで、総合的にも満足度は高かったと思います。


CG(17/20)


★全体評価など

 単独原画でしたが、その分全体の雰囲気の統一感と安定感は高く、質もすごくいい、とまでは言わないにせよ、それなりのレベルでしっかり楽しめる出来になっているかなと思います。
 量的には、シナリオとセットでもう少しヒロインとのイチャラブが欲しいなーとは思ってしまいますし、そこがクリア出来ていたらもう1点くらい上でも良かったのですけど、素材量的な意味でもこのくらいかなと。

 立ち絵で可愛かったのはサリの正面向き全般、服飾もサリの私服と登山服、咲の制服あたりで、この二人は表情差分も非常に独特でかつ活き活きしていてすごく楽しめましたね。
 一枚絵で好きなのは、サリと巨大缶詰、サリの野外調理、花に埋もれるツバキ、水かけサリ、水着腕組み咲、サリの立ちバックと対面座位あたりですかねー。


BGM(17/20)


★全体評価など

 ボーカル曲は2曲でBGMは26曲とほぼ量的には水準、質的にも安定したラインではあり、世界観を反映してどことなくシュールと言うか朴訥としているというか、どこかに不協和が少しだけ練り込まれているような空気感がありますね。

 ボーカルではOPの『終末ノ少女』のほうがかなり好みで、EDはまさかの男性ボーカルというインパクトはありましたが、曲の質としてはOPのどこか虚無的な気配を孕んだメロディラインに惹かれます。
 BGMは突出して好き、というのはそんなにないですが、『引かれあう心。』『希望。』『孤独。』あたりはかなり良かったですね。


システム(8/10)


★全体評価など

 読み口で魅せるタイプの作品なのもあり、演出効果としてはぜんたいてきに薄目で、勿論要所での雰囲気のつくり方や迫力は中々ですが、ただそれも一枚絵依存の部分は結構あるので、演出そのものとしてはやや弱い、というイメージでしょうか。
 OPムービーは曲とマッチして、かつコミカルでシュール、という独特の味わいを上手く引き出しており、こちらはかなりお気に入りです。

 システム的にも最低限は担保されていますが、もう少し細やかさは欲しいな、と、最近いつもシルプラ作品やるたびに思っている気もしますが。。。


総合(83/100)

 総プレイ時間は15時間くらい。いわゆる個別ルート、というべきものとの切り離しが曖昧な一本線の物語なので、どこがどう、とも言いにくいですが、逆に展開がシームレスな分だけ無駄なくコンパクトに詰め込めている、とは言えます。
 テーマ性を具現化するだけなら確かにこの尺と内容で十分足りているとは言えるのですが、ただやっぱりそれが値段相応か、というけち臭い話をするなら物足りない部分は多く、やっぱりエロゲなんだからもうちょっとイチャコラしようよ、という憾みは出てきてしまう内容だったかな、と。

 勿論思想面やそれを引き出す発想・構成力はいつもながら目を瞠るものがあり、画一的な作品とは確実に袂を分かつ個性豊かなつくりは、熱狂的なファンを作るに足るものではあると思いますが、やっぱり本質的に合う合わないを論じると、この人の思想や物語の作り方ってそこまで好みではないのもありますね。
 でもそれを差し引いても今回はかなり楽しめましたし、癖のある作品、考察を求められる作品に飢えているならやってみる価値はあると思います。

posted by クローバー at 06:39| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: