2019年07月25日

黄昏のフォルクローレ

 まあシンプルに、私にとって回避不可避なCVゲーではあったし、勿論ライターさん的な視座でも期待値は高かったので文句なく購入です。


シナリオ(23/30)

 閉じた円環であろうと。


★あらすじ

 時は文明開化花盛りの帝都において、主人公は幼い頃にとある事情で養父を亡くし、それ以降は帝国屈指の豪商である乙部家に拾われ、病弱な乙部家本家の一人娘・すぴかの従者として長い時間を過ごしてきました。
 普段から食が細く、健常人らしい生活とは縁がないすぴかの毎日は、どこか退嬰的な空気を孕んだ、けれどそれなりに安定し、安穏としたもので、二人の共通の友人であり女給でもある麦や、警察官の志乃など、関わる相手は少なくともそれなりに充足した日々とはなっていました。

 けれどある日、同じ学園生からもたらされた一つの情報が、二人にとっての平穏な時間に楔を打つ事になります。
 それは、乙部家のお嬢様が夜な夜な繁華街に出向き、不埒な遊びを繰り返しているというもので、まるっきり身に覚えのない事でもない所から、様々な形でそれは二人の関係に波及していって。
 それは元々の二人が諦念と共に受け入れていた関係性を突き動かし、閉じた円環の中に逼塞していた感情を剥き出しにせざるを得ない影響を及ぼすのです。

 果たして、二人の関係性に潜む真実の想いとは如何なるものか?
 そしてそれは、波打つ動乱の中でどこまで純真なものとして貫く事が出来るのか?
 これは諦念の果てに、どこまでも後ろ向きなすれ違いを繰り返してきた主従の、絆と信念の物語です。


★テキスト

 世界観が大正ロマン的な雰囲気もあり、それに合わせて出来る限り時代性に則した言葉使いや語彙の選択が為されていて、全体的に丁寧なつくりではありますね。
 それでいて、主従のやり取りを中心とした「男」と「女」の物語としては、節々にらしさが炸裂している感覚でもあり、いつもながら男の側の特異性も目立っているのですけれど、ただそれを前提の中で必然に組み替える方向性は上手くつけられているのではないかな、と思います。

 そういう土壌があればこそ、そしてそれを皆が一定理解していればこそのやり取りの機微は流石に中々面白いものはあり、その辺の一種のめんどくささや不器用さは、読み手を選ぶ部分も出て来るでしょうけど、私としてはやっぱり好きだなー、と思います。


★ルート構成

 基本的に一本道で、選択肢もひとつだけ、派生は純粋にバッドエンドだけですね。
 魅力的なサブヒロインがそこそこいる割には、しっかり一途を貫く、恋愛としては純愛そのもののつくりなので、その辺は好き好きにはなるでしょうけど、この舞台においては問題ないと思いますし、物語としてもいずれは、という外的要因に絡めた必然の中で進展し、収束していくので、ゲーム性が乏しいのもまあ仕方ないとは思います。
 逆に言えばもう少し、最後の選択肢に対して信を積むというか、ハッピーエンドに辿り着くハードルを高くするための選択肢はあっても良かったんじゃない?くらいは思いますけど、まあ構成としてはこれでいいのでしょう。


★シナリオ

 大筋としては、すぴかを中心として織りなす伝奇譚としての側面と、主人公が介在しての純粋な恋愛譚としての側面が上手く融合している物語、という感覚ですね。
 すぴかと主人公の関係性は、最初の時点では完全に閉塞しているというか、どちらもその関係性に明るい未来を見通すわけではなく、ただそれでも、今の形を保ったまま静かに終焉に転がり落ちていくならそれはそれでいい、という退嬰的な諦念を共に抱いている、という色合いが結構強く出ています。
 それは勿論、すぴか自身の境遇と、それにまつわる主人公の秘密がすれ違ってのもので、要するに想いのベクトルそのものは似通った方向にのびていても、線路の轍のように決して重なり合う形を紡いでいない、という悲しさをも孕んでいます。

 ただすぴかは、そういう一人の少女としての在り方だけでなく、豪商の一人娘、それも曰く付きの、ではあり、その立場がもたらす様々な外的の思惑、邪念から全く影響を受けないわけにはいかない、という部分で、上手く伝奇的な要素が絡んできます。
 その要素において、すぴかの本願が中々顕現しない事に対するアプローチ、というものは、この舞台設定の中では遅かれ早かれ、という状況ではあり、なぜこのタイミングで、というのはあくまでも物語の都合、としかならない弱みはあります。少なくとも主人公側がなにかを為したことでその引き金を引いた、という構図ではありません。

 逆にそれが外側で為され、波及してくる事で、例えば月子の介在もそれが原因の端緒になっていますし、総合的に二人が今のままではいられない波乱の予感を胸に兆し、改めて今までの関係性を顧みて、そこから芽吹くなにかに、今までは平穏に安住して踏みつけにしてきたものに向き合う事にもなるわけですね。
 それは単純な恋の芽生え、と語ってしまうと一面的にしか正しくなく、互いが互いに持っている想いの複雑さは相当にこんがらがっていて、それ故に当事者同士でだけではどこから何を紐解いていいかも難しいままに、それでも一応の結論を出して関係性を進めても、そこでもまだ二人はそれぞれに、その関係が前向きな何かを生み出すとは信じられていなくて。
 そういう時に求めるものが男と女では違う、というお決まりな部分も挟みつつ、結局互いに相手の身を諦められず、けれど自己の破滅を厭わないという歪さの中で袋小路に陥っていく流れは本当に切なかったですし、けどそうやって、果てを超えてようやくあるべき形を投影する可能性と覚悟に至る、という構図も綺麗にまとまっていたな、とは思います。

 勿論そういう流れの中で、充分に日常のささやかな楽しさ、輝きにもしっかり触れていて、それだからこそ非日常がもたらす苦しみや哀切がより光る、という構図にはなっています。
 構成でも触れたように、理想を言えばそういう日常の中で、少しずつでも主人公がすぴかの心情をより精緻に捉え、踏み込んでいく蓄積的な
選択肢があった方が、最後の選択による分岐の重みも強く出たのではないかな、と思うのですが、それがなくともある程度説得的、と言えるだけの心の形の擦り合わせは出来ていたのではないか、という感覚ですね。
 二人が二人ともに、その在り方からより永続的な未来を夢見るのが難しい、という中でも、その限りある時間を出来る限り明るく幸せなものに彩っていきたい、という想いそのものを持てるか否か、というのは、当然人が生きる意味そのものとも直結する話なのですが、そういう部分で完全に相手に下駄を預けていた二人だけに、そこからの変転と割り切りが、そして最悪他者を踏みつけにしても幸せになりたいと思える勇気と覚悟を抱くまでがとってもめんどくさく(笑)、そこをしっかり噛み砕けばこそ趣を強く感じられる作品だった、と言えるでしょう。

 ヒロインとしてはすぴか単独ですが、シナリオの尺は値段から想像するものよりはボリューミーでしたし、シーン数もシナリオ上の必然、的な色合いのものも多かったとはいえそれなりに豊富で、質量ともに満足いくものにはなっています。
 結果的に見て月子さん大活躍だなぁー、という感じではありますが、彼女の幸せの在り方がそうである、という部分も含めて、悲しさの向こう側に優しさと慈愛が丹念に塗りこめられた物語であったと思いますね。
 ネタバレで丹念に紐解く気力がなかったので、通り一遍の解説で済ませてしまいましたが、点数としても名作、とまでは語弊があるにせよ、充分に良作以上の出来だと思いますし、ヒロインの好みがマッチするのであれば文句なく楽しめるかな、と感じます。


キャラ(20/20)


★全体評価など

 それぞれに独特の癖はあるキャラ像ですけれど、少なくとも立ち絵のある面々に関しては、政治的なドロドロとは無縁の善良さと、一方でそれを利用する程度のしたたかさは兼ね備えていて、総合的にバランスのいい造詣になっていたと思いますし、まあみんな十二分に可愛かったので満足度は高いです。
 やっぱりシンプルにCV力の偉大さを楽しめる、という部分も含めて、私好みの仕上がりになっていましたね。

 一番好きなのはやっぱりすぴか、というべきでしょうか。
 まあどうしても境遇的に、世を拗ねた部分や退廃的な面もあるのですけど、その衣を取っ払った裏側にある人格と乙女心の純粋無垢さは極めて美しかったですし、そうであればこその悩みの在り方も含めて、決して寄り添いたいタイプのヒロインではないですが(笑)、シンプルに幸せに辿り着いて欲しい、と強く思えるだけの愛らしさと健気さ、不憫さを存分に振りまいてくれたと思います。
 ヒロインとしても、こういう前提がある上での、身体に心が追い付く過程での純真な反応などはとっても好物でしたし、世界観にリンクした独特の魅力を備えていた素敵な女の子でしたね。

 麦も当然大好きで、そのまま逃避行ルートがあっても許すのに、と思わなくはないくらいです(笑)。
 ある程度以上は仕えるものとしての分を弁えつつも、それでも本来のお節介と淳良さが、しゅじんこうとすぴかの間柄にある弊風を良しとしないものはあって、だからこそのあるがままの在り方は、時に勇み足もあるにせよ、二人が二人である為の鎹としてしっかりと機能していたと思いますね。
 物語的にも麦の明るさと朗らかさ、しなやかな強さに救われた部分は大きいですし、すごく魅力的なキャラでした。

 月子も最初の雰囲気から反転しての後半の大活躍ぶりと、個性が明らかになるに従っての親しみやすさは中々思い切った采配でしたね。
 結果的に彼女の存在が、様々な悪弊(と一面的に断定するのはどうか、という観念もなくはないですが)を根底から打ち払う上では決定的な働きをもたらしていますし、けれどそれは純粋な善意、正義感からなされたものであるからこその、ラストのあの立ち位置なのかなと思ったりもしますね。


CG(18/20)


★全体評価など

 一枚絵が31枚なので、値段からすると相応か、ちょっと物足りないか、というラインでしょうか。
 出来そのものは立ち絵含めて安定はしていますし、らしさが溢れて可愛いのですけれど、若干仕上がりにばらつきがなくもない、というところはあり、総合的に見るとこの位の点数が妥当なラインでしょうか。

 お気に入りは立ち絵だとすぴかの正面向き全般、特に私服と寝間着が好みで、あと麦の私服、メイド服、月子の和服もかなりいいですね。
 一枚絵はすぴかと麦のお風呂、みんなで歓談、プレゼント、食餌・騎乗位、自慰、対面座位、麦の懇願あたりが好みでしたでしょうか。


BGM(17/20)


★全体評価など

 BGM回想がないので何とも言えない部分はあるのですが、ボーカル曲はOPEDの2曲、BGMも世界観を反映したどこかロマンチシズム溢れ、けれど一握伝奇的な神秘性も孕んだものに仕上がっていて悪くはないと思います。

 ボーカルに関しては、OPは全般的にかなり尖っていて、作品の雰囲気とはそれなりにマッチしているとは思うのですけど、純粋にメロディとしてあまり好きではないかなー、という感覚ですかね。
 EDの方が曲としては好きで、こちらもどこか哀愁漂う色合いですけれど、その中にしっかり微かながらも明快な希望の道筋を照らしている、という気配はあるので、より耳に馴染んだ感じです。


システム(8/10)


★全体評価など

 演出的には、元々あまり動的な作品ではないとはいえ、あまり目立った感じはなかったですかね。
 もう少し異端の力の影響力など明示的に作っても、と思う向きはあり、勿論要所での情感の引き出し方など見所はあったにせよ、もう少し頑張れる部分もあったかなーという感覚です。母体が母体なんだし、もう少しくらいは立ち絵動かしてもいいのでは?という感じ。
 ムービーはしかしこれ、なんとなく同じライターさんのハピメアを彷彿とさせる色遣いと雰囲気づくりではありますよねぇ。これはこれで嫌いではないんですが、OP曲自体があまり、というのもあり、ちょっと乗り切れなかった感じです。

 システムも最低限は担保されていますが、シーンジャンプくらいはあって欲しかったなぁと。
 結構序盤から伏線も多い作品ですから、周回プレイ時にもう少し利便性は欲しかったですし、ちょっと簡便に過ぎる感じではありますかね。


総合(86/100)

 総プレイ時間は11時間くらいですね。
 もっとも私の場合、すぴかと麦のボイスを一言一句逃さずに聴くという使命があったので(笑)、普通にプレイすれば8時間くらいだと思います。それでもお値段考えればそれなりに尺はあったな、というイメージですね。
 物語の方向性として癖はありますし、全てが大団円、という色合いでもないので、ある程度人を選ぶ部分はあるとは思いますけれど、なんだろう、それこそハピメア的な色付けが好きな人にはしっかり差さる部分が多い作品ではないかなー、と思いますね。
 ヒロインがすぴか単独なので、それに対する好み度も評価には関わってくるでしょうが、私としては見た目・性格・CV全てにおいて磐石だったのでとても満足できました。

 
posted by クローバー at 17:51| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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