2019年11月11日

クロスコンチェルト

 個人的な信条からCFは参加しなかったけど、ずっと応援していたメーカーなのは間違いないので、一般販売分ではちゃんと購入させていただきました。


シナリオ(23/30)

 想いに報いる絆の力。


★あらすじ

 主人公は、本来生まれてこない存在でした。
 古くからの因習が残る村において、時々生まれる双子は吉兆の証であり、片方が死産となる事でもう一方に不思議な力が宿るのですが、主人公は片腕を失っただけで普通に生まれてしまった事で、本来妹の瑠璃に宿るはずの力が中途半端なものとなってしまっていました。
 それ故に生まれた時から忌み子として扱われていましたが、幼い時分に瑠璃の手助けもありその境遇からは脱却、それでも村の人間の冷たい視線の中で、誰よりも自分の生きる意味を強く求めていくようになります。

 長じた主人公は、村の因習そのものを穏便に解体する事を遠い目標に、村を出て学問にはげむ事を決意します。
 それは本来、村から出る事を許されない瑠璃との別れを意味するはずでしたが、通う学園のある街に辿り着いた主人公は、その駅前で憤然と待ち構えていた瑠璃と、そのお付きの従者、幼馴染でもある鏡花と出くわす事になります。
 こちらに来るために、一度きりの魔法を使った――――そう嘯いた瑠璃と一緒に、寮生活をしながら色々な事を学んでいく事になり、寮生の未来、透子などともそれなりに親しくなって順風満帆、と思いきや、ある日、瑠璃がその宿った力で不穏な未来を予言します。
 それは、未来の親友である美加が近々自殺紛いの死に方をする事、そしてその結果として主人公達は村に戻される、というものでした。
 
 美加を救うために様々な形で先回りし、未来を変えようとする主人公達。
 しかしその背景には、この街に潜む遠大な因果があり、否応なく主人公達もその波に巻き込まれていく事になります。
 果たしてこの街を動かす理とはなんなのか?そして主人公達は無事にそれを解除し、穏当な学園生活を取り戻す事が出来るのか?
 これは、切迫した事件の中で試される勇気と覚悟、そしてなにより、共に在りたいという想いの強さを試される絆の物語です。


★テキスト

 全般的に、いかにも桐月さんらしい丁寧で几帳面なテキストでしたし、それでいてきちんとやり取りにも血が通っていて、バランスの取れた好きな読み口でしたね。
 今回もベースにあるのは伝奇的要素であり、その仕組みや瑠璃の力などわかりにくい部分は結構あるのですが、時にくどくなろうと、その背景と、やれることやない事をきっちり定義して提出するスタイルは健在、その分きっちり読み込んでいけば、その分だけ後半の説得力と納得度、感情移入度が深くなっていく、取り組み甲斐のあるテキストと言えるのではないでしょうか。
 全般的に事件に振り回される色合いが強いので、もう少し情緒的な部分で深みがあればなお良かったな、とは思いますが、まあ取り立てて不満、というまでのところではなかったと思います。


★ルート構成

 ルート構成は結構複雑に入り組んでいて、基本的には瑠璃の未来視の力を基盤に置いた入れ子構造だと考えておけばいいと思います。
 最初はサブヒロイン3人のみ攻略出来て、それをクリアすると選択肢が解放されメインの4人の内瑠璃以外の3人がクリア可能、そしてその後ようやく瑠璃ルートが開示される、という形で、ほぼ攻略順は決まってくる感じですね。
 特にメインの3人は階段分岐になっているので、基本的にはその流れの通りにクリアするのが背景的にもわかりやすいと思います。
 フラグメントは出現したタイミングでその都度拾っていくのがいいと思います。


★シナリオ

 基本的には瑠璃の未来視と、その客観性・主観性の違いを土台にしたループ的構造ではあり、より良い未来、求める未来を求めて様々な可能性に果敢に挑んでいく構図にはなっていますね。
 伝奇的要素も多分に含んでおり、それは瑠璃の力の根源的なものもそうですし、またこの街に潜む不思議な力の淵源がどこにあるのか、という部分にも繋がってきます。

 この作品でまず注意しておくべき部分は、あっぷりけの出世作、と呼んでいい2006年発売のコンチェルトノートを、かなりの部分で伝奇的要素の下敷きにしている事です。
 コンチェルトノートのメインヒロインである莉都が、頻繁に物語に絡んできて人知れず重要な役割を担っており、それはコンチェルトノートで展開された御魂の在り方が強く関わってきますし、この物語の大団円に至る為にもその力は不可欠、という所で、半分続編的な立ち位置でもあるとは言えます。

 それをプラスに考えるか否かは悩ましいところですね。
 正直最初のCFのアナウンスをちゃんと読破していないので、その時点でここまでコンチェルトノートとガッツリリンクしますよ、と明示していたのかは不明なんですが、まあ少なくともあっぷりけらしい作品を作りたい、という想いでCFを募った事、当然それに参加する熱心なファンなら、コンチェルトノートや黄昏のシンセミアくらいは絶対にやっているだろう、という見立てを前提にするならば、コアなファンにとっては嬉しい仕掛け、もちろん私にとってもそれは同様でした。
 しかも私の場合、本当にたまたま(無意識下でそういう予測を立てていたのかもしれない)ちょっと前にコンチェルトノートをリプレイしていたので、その点でも懐かしさマシマシ、という部分はありました。というか西条が主役なら、対になる東条さん家の白雪ちゃんは出てこないのかー、と贅沢を言ってみるテスト。。。

 ただ逆に、新規参入があったとして、そこではこの作品はかなり敷居の高い内容になっていますし、実際コンチェルトノートのタマ絡みのあれこれがきちんとわかっていないと、全体像もぼんやりとしたものになってしまうので、そこはちょっと不親切だったかな、と思います。
 それこそ「よくわかるコンチェルトノート」的なあらすじ解説をつけたり、或いはコンチェルトノートを今の環境でプレイできる廉価版をリリースしたり、その辺りのサービスはあっても良かった気はします。
 CFで目標以上の金額が集まっていたのはなんとなく見ていましたし、この作品を作ってあっぷりけの集大成とするのか、それともこの助けを足掛かりにもう少し足掻いてみるのか、その辺りの先行きはわかりませんけど、立つ鳥跡を濁さず、の精神であっても、先への繋がりを見る意味であっても、そのあたりの配慮はあった方がプラスだったのではないかと老婆心ながら感じた次第です。

 ともあれ、そういうハードルの高さはありつつ、その分だけ伝奇的要素の複層的な構造と、それを解きほどいていく流れの丁寧な組み立ては素晴らしかったと思いますね。
 人の情念、というものを全編通じてしげしげと噛み締める事にはなりますし、その中で通貫しているのは、やはり兄を思う妹の瑠璃の影ながらの献身ではあって、ある意味ではほぼ全てが泡沫、という言い方にもなってしまうのですけれど、ただその時間軸を生きていた彼らは、しっかり互いの為に精一杯の努力を積み重ねていたのだなとは思わせられます。
 だからこそ、他のヒロインと結ばれていくルートもたくさん存在するわけですし、その場合は事件そのものはあくまでも対症療法的な形で一時的に収束、というラインで留められるのですけれど、その場合の瑠璃の在り方はやはりクリアしてから考えると痛ましくも切ないものがあります。

 ただそのあたりの個別に関しては、どうしても事件の対処が先に来る面があり、全体的にイチャラブ的な要素が薄めなのがちょっと勿体ないところではありました。
 もしかすると余裕があればいずれFD展開も考えているのかな?と思うところはありますが、まあサブ3人あたりは仕方ないにしても、メインの瑠璃以外の3人はもう少し、くっつくまでの過程に複層的な理由やイベントが欲しかったり、結ばれてからの横の繋がりを含めた盛り上がりがあっても良かったのに、とは感じましたかね。
 強いて言えば流石に元の関係性が強い分、鏡花はかなりしっかりしていたと思いますけど、個別の終息の形としても盛り上がり切らない部分はどうしてもあるので、そこはもう一工夫あれば嬉しかったなぁと思います。

 肝要な瑠璃ルートに関しては、こちらは流石に重厚なつくりであり、また瑠璃の想いとその根源、それを自分が潰えさせてしまった後悔などと状況が絡み合って、正に妹シナリオとしての真骨頂を見せてくれた想いです。
 ネタバレになり過ぎない範囲で言えるとすれば、最初に辿り着く結末は、作品によってはビターエンド的な立ち位置で許容されうる構図を為しているのですが、この世界観においてはそれは無間地獄に他ならない、と喝破しての、瑠璃の暗中模索と、それを為すために必要だった力を、時間軸の制約を超えてその流れの中から獲得する、という、そうするしかない状況の作り方は本当に見事でした。
 その執念を満たしたのはやはり瑠璃という特殊な生まれと生き方の中で、特殊な愛の形に運命の必然を見出すヒロインあってこそで、それに応えての主人公の覚悟、そして彼自身が持つ因果の鎖を、真摯な形でしっかりと摘み取って前に進んでいく在り方は、莉都の手助けが大きく、それがなければ解決できなかった、というゲームの設定上の悩ましさはあれ、こちらも素敵なものだったと思っています。

 全体的に言うならば、瑠璃ルートは普通に名作レベルの出来にある、とは思います。
 ただやっぱりコンチェルトノートの理念を継承して、下敷きにしている部分の融通性、あとその他の個別ルートの簡素さなど、もう一歩物足りない部分もなくはなく、総合的に見ると良作ではあるけれど名作と言うにはワンパンチ足りなかったか、という評価になりますね。
 勿論こういう理屈がはっきり丁寧に明示されている作品は好きですし、元々の宣言通りあっぷりけ「らしい」作品で、敢えて言うならコンチェルトノートと黄昏のシンセミアを足して割ったような方向性と、そこに時代性とメッセージ性を丁寧に添えた作品、と言えるのではないでしょうか。
 CFに参画しなかった私が偉そうに言える義理は一切ないにせよ、この作品が無事に世に出てくれた事はとても嬉しく思いますし、願わくばもう少しでも、あっぷりけというメーカーが時代の波に飲まれずに独自のスタンスで頑張って、いい作品を世に出し続けてくれることを期待しています。


キャラ(20/20)


★全体評価など

 基本的に素朴で淳良、善性が強く色濃く表れたキャラ像がいつもながらにしっかり確立していて、当然伝奇的な要素にまつわる形での鮎喰なども存在しますが、しっかりその根源的なところにはどうしようもなさ、が埋め込まれていて、様々な角度でそれぞれのキャラに共鳴しやすい、距離感の少ない親しみやすさがしっかり今回も出せていてとても良かったですね。

 一番好きなのは、やはりシナリオ補正も加味すれば瑠璃一択になってしまうでしょうか。
 基本的に不思議パワー持ちなので、どこか人を超越しているような泰然とした雰囲気も持ちつつ、でも基本的には世間知らずで好奇心も旺盛、お兄ちゃん大好きでいじらしく献身的なヒロインであり、そのバランスの取り方がとても上手かったと思います。
 甘えモードの瑠璃は本当に可愛かったですし、CVもこれ以上なく嵌っていて、作品全体を通しての存在感も抜群であり、ビジュアル的なものも含めてとても印象深いヒロインに仕上がっていたなと感じました。

 次いでだと鏡花になりますね。
 あのメイド的な甲斐甲斐しさと、その鎧を脱いだ時の朗らかさ、愛らしさのバランスがこちらもすごく丁寧ですし、瑠璃がなにより大切で、どんな時でも、どうあろうとその想いを大切に、というのが主人公と共鳴しやすい部分でもあり、すごく可愛らしく健気で素敵なヒロインだったと思います。
 透子や未来もそれぞれ独特の空気感を持っていて魅力的でしたし、サブの三人も期待以上に可愛くて、強いて言えばもっと横の繋がりでの出番が欲しかったかなぁとは思いますね。
 莉都もゲスト出演、とはとても言えないがっつりとした絡み方で懐かしかったですし、あの世界のトゥルーからの流れできちんと色々摸索しつつも幸せであり続けている、というのが見えたのはやはり嬉しいところではありますね。


CG(17/20)


★全体評価など

 一枚絵は通常が95枚のSDが7枚で、これはボリュームとしては充分ですし、質もこの人なりに洗練されたというか素朴な可愛らしさと透明感がよく出ているな、という感じでしたね。
 立ち絵もそれなりに差分が多く用意されていて、しっかり気合の入った作り込みだとは思いますし、抜群に綺麗、とはやっぱり言いにくいですけど、長年見続けている身としてはやはり好みな部分はありますし、その中でも出来の良い方ではないかって思います。

 特に瑠璃の立ち絵は全般的にすごく可愛らしかったですね。片目を隠す髪の垂らし方とか、その分神秘性を増しつつもお茶目可愛い雰囲気がよく出ていてすごく好きでした。


BGM(19/20)


★全体評価など

 ボーカル曲が3曲にBGMが25曲と、量的には水準クラスですけど、やはりひとつひとつの曲に込められた意味と美しさ、仕上がりレベルの高さは目を引いていて、音楽的にもいつも好きなブランドですが、今回もその期待には十分応えてくれていると思います。

 ボーカルはやはりOPの『クロスコンチェルト』が名曲で、切なさと前向きさが非常にバランス良く配置された曲調とメロディラインにテンポ、全てがとっても綺麗に仕上がっていて、噛み締める程に奥行きがありすごく好きな曲です。
 他の2曲は掛かるシーンが限定的なのもあり、プレイ中でも繰り返されるOPに比べると流石に印象度は下がりますが、どちらもきちんと聴き込むと質の高い、情感あふれる素敵な曲に仕上がっていていいですね。

 BGMもやはり全体的に神秘性と透明感、荘厳さが絶妙のバランスで、すごく好みでした。
 OPアレンジのメインテーマの素晴らしさは言うに及ばず、それ以外だと轍鮒乃急とか、切なき想いとかすごく好きでした。


システム(9/10)


★全体評価など

 演出はまた素朴なりに頑張っている感じだと思います。
 結構コミカルに立ち絵も動きますし、一枚絵と連動しての情感演出、音の使い方も丁寧で、コツコツしっかりと仕上げてきた感じは伝わってきますし、繰り返される世界像の中でのOPムービーの魅せ方、使い方がとても良かったですね。
 ただあれ、射精タイミングの演出はいるかい?とはちょっと思ったけど。。。

 システムとしても必要なものは揃っていて、いつも通りにフローチャートも完備で、プレイ感としては特に文句なく、というところです。


総合(88/100)

 総プレイ時間は22時間くらいですね。
 最初の3人クリアまでが6時間くらい、そこからメインの瑠璃以外をクリアまでに9時間、瑠璃が5時間くらいで、後はフラグメント回収などで2時間くらいは優にかかるかな、という感覚です。まあ個別のシーンと、全体像や背景の説明のフラグメントをどこまで切り分けるか難しいところでもありますが。
 作品としては期待通りのあっぷりけらしさに満ちた丁寧な良作でしたが、コンチェルトノートとのリンク性が強いのでその点をどう評価するかが難しい作品にもなっています。
 でも少なくとも往年のあっぷりけファンとしては充分に満足できる、今のあっぷりけが出来る全てを詰め込んだ、という瓜文句が建前ではないとは感じられる内容でしたし、またFDや新作を出す余裕があるのであれば、ささやかでも貢献はしたいなと思えましたね。

 とりあえず、今からでも興味がある、という人は、やはりコンチェルトノートからどうぞ、というところです。
 あちらも今はDL販売など普通にあるはずですし、作風として流石に今プレイすると古さはありますが、それでもシナリオとしてはこの作品以上の完成度と盛り上がりをみせてくれる、とは思っていますので、セットでプレイしてこその醍醐味を味わえることは保証します。

posted by クローバー at 10:49| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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