2020年01月01日

アイコトバ

 公式で一目見た瞬間からヒロインの卯月にぞっこん惚れ込んだので、ロープラということもあり一切躊躇いなく購入。


シナリオ(22/30)

 恋と愛の狭間で。


★あらすじ

 主人公には目に入れても痛くない大切な妹がいましたが、7年前の大震災で揃って両親が他界し、それぞれが折り合いの悪い親戚同士に引き取られる事になって、それ以来一切音信不通のまま暮らしてきました。
 主人公は社会人となり、それでもまだどこか空疎なものを引きずっての生き方をしていて、そんな有様に気にかけてくれる同僚から、気の合う相手を探し出すSNS系のアプリ・アイコトバを進められます。
 強引な押しに半ば辟易しつつも、その忠言に従ってアプリを導入してみたところ、翌日には早速数人のフォロワーがついて、特にその中でも年下の女子学生らしい『夜空』さんとは気が合って、密に連絡を取るようになります。
 彼女の在住地が、かつて主人公が暮らしていた仙台である事も、どこかノスタルジーを加速させ、少なからず妹の面影をオーバーラップさせての、密やかな繋がり――――主人公はそれである程度充足され、相手の事を仄かに思う程度で満足していました。

 しかしある日、主人公は会社から、突然の仙台出張を命じられます。
 その事を夜空に話すと、だったら一度直に逢ってみませんか?というお誘いがきて。
 どうしてそこまで、という疑問を素直にぶつけてみると、このアイコトバアプリの相性占いで、まず見る事のない相性99%の相手だったから、という答えが返ってきて、その熱度にどこか気後れと胡散臭さを覚えつつも、主人公は彼女と逢うことを決心します。

 そして運命の出会いの日――――主人公との待ち合わせに現れた、夜空と名乗っていた少女は、なんとかつて生き別れになった妹の卯月だったのです。
 文字通りアプリが繋ぐ運命の環、しかしそれまでの、正体を隠した付き合いの中で、互いに思慕に近い気持ちを抱いていたことが、二人の関係を複雑なものにしていきます。
 兄妹としての愛情と、見知らぬ運命の相手に対する恋情が綯い交ぜになり、その境界線があやふやになっていく中で、二人が選ぶ未来は、着地点は如何なるものとなるのでしょうか?

 これは、声なき秘めやかなアイコトバが紡ぐ、恋を愛に結び付けて、新たな形を育んでいく物語です。


★テキスト

 全体的に短い、というのもあるでしょうが、比較的こういうロープラの割には情緒に富んだ語彙選択と言い回しを意識的に使っているのかな、というイメージですね。
 勿論それは合言葉という古式ゆかしい在り方に沿わせた部分もあるでしょうし、この兄妹の気質的にも、そういう落ち着いた雰囲気がマッチしている、というのはあるかな、と思います。
 それでいて特にくどい、という事もないですし、個人的には中々好みのテキストだったなと感じました。


★ルート構成

 この作品は地味に選択肢が多くて、そこもロープラとしてはレアな点です。
 勿論ヒロインは卯月一人ですし、変な派生や展開はないんですけれど、男女の一線を越えるタイミングがプレイヤー側にゆだねられており、それ次第で後の展開やEDが違ってくる、という仕様になっています。
 少なくともバッドエンド的なものは一切ないので、そこは気にせずプレイしてもいいのですが、結構シーン回収のタイミングとかでシビアな部分もあるので、ある程度選択肢ごとにセーブデータ作っておいた方がいいのかな、とは思います。


★シナリオ

 兄と妹の禁忌の恋を主題にした作品ですけれど、その背景と出会いの風景の紡ぎ方が独特で、少なくとも本能的な忌避感を楽に迂回できるだけの環境が整っている二人である事は間違いなく、だからこその葛藤が魅力的にうつる、という、中々情緒豊かな作品に仕上がっているな、と思いますね。

 SNS時代のスタンダードというのか、顔も見えない相手とそれなり以上に関係が深まって、相手に自己の理想を投影してうっかり恋をする、というのは、実際に逢ってみると幻滅したりなんだりでトラブルの元、って閉鎖的なイメージが私の中には根強いですけれど、それが本当に運命の関係である可能性も当然あるわけで。
 今の時代、そういう部分をフォローする相性占い的なものが、例えば回避的な性格に対しどういう相手を宛がってくるのか?なんて部分での気がかりはあったりしますが、どうあれこの兄妹においては、それぞれに不自由ない生活はしていても、心のどこかに大きな欠落がある、というのは間違いなく、その隙間の部分が噛み合ったのはあるのだろうなとは感じます。

 ただやはり、そういう関係はより利己的になりやすいというか、相手の顔が見えない分だけ都合よく考えすぎてしまう、という面はあるはずで、その危険性をわかっていながらも、それでも卯月の想いを止められなかったのは、主人公のSNS慣れしていない、ともすれば危険な振る舞いが端緒になっているのですから、そこで地味に関係性の逆転が最初から起こっているのですよね。
 その分卯月の方が、タクミに対して兄そのものの姿をより具象的に投影しやすく、そしてそれはかつての幼心に秘めた思慕を再燃させるには十分すぎる程だったのは間違いないのでしょう。

 主人公の側は、もっと単純に夜空、という個性に徐々に惹かれつつあって、けれど少なくとも彼の方からより深いアプローチをする、なんて事は、そのままではなかったはずで、それこそ今回の出張がなかったと仮定するならば、いずれ卯月が我慢できなくなって、自分の過去を仄めかす思い出や、贈り物なんかをコッソリタイムラインに乗せて反応を窺うとか、そういうことしてただろうなぁ、とは思います。
 いわばスタートの時点で、二人ともに思慕は持っていても、既に温度差は違っていた、という見立ては出来るはずで、だからこそ実際に本当の兄妹だったとわかっても、それを振り切ってその先を求めるのも卯月であり、その為には兄が好意を寄せてくれていた夜空というペルソナを出汁に使うことも躊躇わない、というのが、一途な女の子の強さだなぁとは感じましたね。

 だからこそ、構造としてはたすらに不器用で愛らしいアプローチを仕掛けてくる卯月に対し、大人としての責任や親族との関係性、兄妹で一線を越える禁忌に対する恐怖感などをつぶさに提示しつつ、そこを踏み越えていくタイミングは読み手に委ねる、という構造が、おそらく自己投影型のプレイヤーには特に嵌る作りになっているのではないかな、と思います。
 同時に、卯月の果敢な求愛には、元々の関係性の中にあった依存的な想いも少なからず籠められていて、その卯月の想いを本物の愛に、対等な関係にまで昇華していくには、やはり今すぐに手を出してしまってはダメだ、というのがあり、そことの兼ね合いでエンディングが派生するというのも面白いところですね。

 実際に出来る限り手を出さない事で、その関係性はより誠実で、けれど確かなものに昇華していき、全面的に、とはいかずとも、それを後押しし、理解してくれる人も現れて、生活圏にしても卯月が今の場所を飛び出して、という形になります。
 一方で早々に手を出して、その時点での燃えるような想いをある程度充足させてしまうと、卯月の覚悟はあやふやなままに宙づりになって、同時に主人公もその禁断の果実の味に嵌ってしまう、結果として主人公が卯月の為に生きる、という、元々の兄妹的な関係性を残したままに進んでいく、というイメージでしょうか。

 勿論それはそれでひとつの幸せの形でしょうけれど、最初に書いたように、この二人は天災で不条理に家族を奪われ、人災で更に引き裂かれたというバックボーンがあり、その欠落を埋めるのに、傷の舐め合いでは足りない、というのはあるのですよね。
 家族であっても不条理に引き裂かれてしまうことはある、そして自分達がこれから踏み込むのが、世間的には確実に茨の道だとわかっていて、けれどそれを全うする覚悟がないままの関係では、やはりどこまでも逃げ続ける後ろめたさが居残り、欠落を補填するような新たな家族像、新たな愛の形は育みにくい、とは考える事は出来ます。
 だからこそ、甘え上手な妹をただ甘やかす事はせずに、きちんと大人としての責任を、社会の厳しさと向き合う覚悟を養ってもらう時間が必要と言うのは、頭でっかちですけど、でも急がば回れ的な観念なのかなと思いますし、そこをしっかりエンディングの形で表現できているのは素晴らしいと思いましたね。

 まあ小難しい事は考えずに、ただひたすらに愛らしい卯月の魅力に溺れているだけでも充分楽しい作品ではありますし、少しばかり肩肘張ったイメージはある作風ですけれど、個人的にはイチャエロするだけのロープラよりは、こういう一粒でもピリッと癖のあるメッセージ性が込められた作品の方が当然好みですね。採点的にもそこをかなりプラスしています。


キャラ(20/20)


★全体評価など

 まあ基本的には主人公と卯月のマンツーマンではあるので、卯月を魅力的に感じるかどうかが全てとは言えるでしょうか。
 個人的にはまずキャラデザがめっちゃツボでしたし、CVもこういう甘え上手な清楚系妹にはすごくマッチしている感じで、まあこの人の場合ここから演技の幅がどこまで出せるか?って考えると中々難しそうな特徴的な声質ですけれども、少なくともこの卯月、という控えめで一途で、けれどひたむきなヒロイン像には噛み合っていました。
 性格的にも、基本的には善良で愛らしく、頑張り屋で家庭的でもあり、更には夜も献身的とくればそれは素晴らしい、としか言いようがないですし、本当に徹頭徹尾可愛くてすごく良かったです。

 ……まぁ直前に、似たような黒髪清楚系でナツメっていう化け物クラスに可愛いヒロインがいたせいで、最初にのめり込んだほど嵌り切らなかったのはあるのですけどね。こればかりはタイミングが悪かったです。


CG(18/20)


★全体評価など

 やや野暮ったさはあったりもしますが、全体的に可愛らしくも肉感的で、バランスの取れたいい絵柄だと思います。
 量的には26枚なので、値段考えるともうちょっとあってもいいのよ?って気はしますけど、質は安定して可愛くも艶めかしく、とても魅力的だったなと思います。
 敢えて言えばもう少し、折角の基本黒スト装備なのに、それを活かしたHシーンが少なかったのが残念、というより、これだけシーン数あるのに、シナリオの方向性の関係もあるけれど、あまりフェチズムを刺激するようなシーンがなかったのはちょっと勿体ないなとは感じましたね。


BGM(18/20)


★全体評価など

 量的には妥当か、むしろちょっと少ないくらいですけれど、少数精鋭と言うか、作風にピンズドでマッチした曲が多くてすごく耳に残りましたね。
 OPの『アイコトバ』は、シックでスタイリッシュで、どこかもどかしさと切なさを喚起させる曲で、なんというかすれ違いを続ける男女を描いたトレンディドラマの主題歌でもマッチするような感覚ですね。。。まあ実際これもそういう側面はある作品ですけれど。

 BGMは全部で12曲ですが、どれも季節感と空気感が色濃く出ていて名曲揃いですね。
 特に4.7.9.10番辺りはかなり気に入ってます。ロンリーラビット超素敵。


システム(8/10)


★全体評価など

 演出はまあ普通か、ちょっと物足りないかくらいですかね。立ち絵のあるキャラは卯月だけなんだし、もう少し立ち絵演出は力を入れても、というのはあるかなぁ、というのと、要所での情感の引き出し方ももう少し工夫があっても良かったとは思います。
 ムービーは結構好きですね。曲と上手く噛み合っていると思いますし、シックな雰囲気がとてもいいです。

 システムは特に使いにくくはないですけど、取り立てて素晴らしい事もないのでまあ水準評価で。


総合(86/100)

 総プレイ時間6時間くらいでしょうか。
 値段からするともう少しボリュームはあっても、と思う所はあるのですけど、一応この作品で表現したいものはしっかり説得的に組み込めていると思いますし、単純なイチャラブと違う、兄妹ものとしても一味違った味付けがきっちり出来ていて、個人的にはかなり評価しています。
 卯月も文句なく可愛かったですし、シナリオの癖がその可愛さを阻害するわけでもない、とのバランス感も含めて、兄妹ものが好きな人はやってみる価値はあるんじゃないでしょうか。

posted by クローバー at 05:18| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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