2020年06月29日

ATRI-MyDearMoment-

 アスタさんのシナリオだし、体験版面白かったし、アトリがとても可愛かったのでお手頃価格でもあったりサクッと購入。


シナリオ(23/30)

 前を向くのが人だからこそ。


★あらすじ

 これは、突然の海面上昇で数多の土地が海の藻屑と化し、退廃的な空気が蔓延した近未来を舞台にした物語です。
 かつて事故で母親と片足を失った主人公は、世界の理不尽に立ち向かうために、世界を救うための最先端の学問所であるアカデミーで懸命に努力していましたが、様々な要因により脱落、頼みの義足も失い、母のゆかりの街に逃げるようにやってきました。
 しかし頼みにした祖母は一カ月前に他界し、残されたのは借金のみ、余計に苦しい状況の中、借金取りの女に唆される形で、主人公は祖母の遺産を手にするため、海中のサルベージを行います。

 そこで見つけたのが、世界が華やかなりし時の遺産である自立学習型AIロボットのアトリでした。
 長い間眠っていたからか、様々な記憶を失い、機能的にもポンコツと言わざるを得ないアトリでしたが、その明るさと、真っ直ぐにマスターを支えよう、という気持ちが、ささくれていた主人公の気持ちを少しずつ溶かしていきます。
 アトリに導かれるように、幼馴染の水菜萌にも誘われていた学園に向かった主人公はもしかしそこでもこの街の置かれた境遇と世界の悲惨さを目撃する事になり、けれどそこで懸命に踏ん張る面々を見ている中で、少しでも今をよくするために出来ることはないか、と模索し始めて。

 これは、閉塞した社会の中で、それでも前を向く意思と覚悟を取り戻すための、出会いと別れの物語です。


★テキスト

 いつも通りにニュートラルで読みやすい、綺麗な文章ですね。
 特段に奇矯さはなく、といって個性がないわけではなく、そのバランスの取り方がいつもながら上手だなと思いますし、それぞれのキャラにも難しさ・抱えているものがありつつ、それでも出来得る限り前向きに、という強さが備わっているのがいいですね。
 流石にそこまで長くはない作品だけに、積み重ねという部分での複合性はやや物足りなさはありますけれど、この尺の中ではシンプルかつ丁寧なテキストメイクで、上手く紡がれているのではないでしょうか。


★ルート構成

 少しですが選択肢があり、それ次第でバッドエンドの分岐があります。
 大筋としては一本道ですし、アプローチとしてはとてもわかりやすいものなのですけど、多分このバッドを見ないとトゥルーに辿り着けない、という仕様っぽいのでそこは注意ですね。
 トゥルーは本当に最後の補完、という感じで、エピローグの色合いが強いです。


★シナリオ

 一言で言えば綺麗な物語、ですね。
 様々な苦難の中で挫折を味わい、退嬰的になってしまっている主人公と、それが社会性の中の必然として蔓延してしまっている街において、一歩ずつでもかつての輝きを取り戻す、という意識の中、灯り、という要素を象徴的に扱っての段階的な恢復は、成長物語、というよりは再復の物語と呼んだ方が適切かもしれません。

 それを牽引するのがアトリというロボットの存在であり、そして彼女のあまりにも自然な振る舞いが、果たしてそれでもAIとしての学習の成果なのか?それとも……という部分の綱引きの中で、上手く全体の流れと噛み合って展開しているな、と思いました。
 最初は相当にひねくれ、歪んでいた主人公が、アトリに対しては比較的すぐに心を許す形になるのも、彼女らしさに加えてもうひとつ潜在的なスパイスが、という所もわかりやすく、その結果として本来持っている資質をしっかり発揮し、それが誰かの助けとなって、その輪が広がっていく流れに繋がっているのも素敵なところです。

 まあ正直、灯りにまつわる展開としては、いくら行政に見捨てられた街とは言え、今までの生活習慣がある中で、そこまで自然派的な生き様、諦念に塗れた在り方で停滞し続けていられるのか?というのはありますね。
 少なくとも個々人の努力である程度出来る事はある、というのは、主人公達子供の頑張り程度でもなんとか出来る範囲で見受けられるのに、それまで全くそういう方向に頓着する人がいなかったというのもやや不自然ではあると思います。

 もっともテーマとしては、諦観からの脱却と、それに伴う痛みの許容が色濃く出てくる作品ですので、それを象徴する形としては正しいと言えますし、また諦めが悪い、前向きな未来を信じたい、という意味では、やはり大人よりも子供の方が純粋に向き合える、という意識付けもあるのでしょう。
 紆余曲折ありながらも、アトリの為すべき課題と、それがもたらす未来像に向けて真剣に向き合い、かつての痛みをも噛み締めながら進んでいく様はやはり素晴らしいものに映りますし、その結果としてわかりやすいハッピーエンド、とは言えないものの、その想いがあればこそ存分に生き切れた、という色合いも強く出ているのが印象的ですね。

 ヒロイン、としての立ち位置も、あくまで全年齢ならではのプラトニックな部分からの引継ぎ、想いの継承的な在り方に、生々しさを持ち込まないという意味で上手くバランスが取れているのかな、とは思います。
 想い人の心に、深く根を張った想い人がいる、という状況の中でも、それでも優しく献身的に、自身の想いを貫ける真っ直ぐさと強さもまた光る要素ではあり、それは主人公とアトリだけでは閉塞的なまま紡ぎようのなかったものでもあるので、その人の繋がりの偉大さをもしっかり見せてくれるシナリオだったのではないでしょうか。
 そしてそういう風に為すべき事を成し遂げて、その上で閉塞的な愛に僅かな間だけでも立ち戻る、というのも、あくまで空想科学の進歩の上に立つものなので絶対的な説得性までは有さないものの、限られた状況下の中で貫かれた愛の形としては、とても気の長い、だからこそ美しくかけがえのないものとして映っているのではないか、と感じますね。

 流石に尺の関係もあって、色々飛躍もある作品なので、手放しに傑作、とまで言うのはどうかな、と思いますけど、普通に名作に近いレベルの出来の良さだと思いますし、アトリがとっても可愛いのでそれだけでも癒されますから、プレイして損はないお値段と内容なのではないでしょうか。


キャラ(20/20)


★全体評価など

 環境の中で腐りかけていたり、盲目的になってしまっているキャラもそれなりにいますが、それも最終的には本来の真っ直ぐさを取り戻していく、そういうアプローチを自然とアトリという存在が紡いでいく、という構図がいい作品ですよね。
 あの敵役の男とかも唐突ではありますけど、相対的な社会の流れと歪みの象徴としての存在感ははっきりしていますし、その想いに引きずられるか、アトリという存在をそのまま信じられるか否かがトリガーになっているところも含めて、キャラ聖には短いなりに奥深さがあったなと感じています。

 やっぱり一番魅力的だったのはアトリに他ならず、お世話したい!という気持ちの割にあれこれポンコツで、一々学習しないと出来ないというのはロボットとして中々独創的ではあり、最初から友人となり得る存在として設計されたが故の特別感が色濃く出ているのがいいと思います。
 彼女が歩んできた苦難と、その中で獲得した想いの尊さは本当に光り輝いていますし、人間であればそこで挫けてしまうようなものも、ロボット的な解釈を持ち込む事で上手く乗り越える、或いは糊塗していく、という構成の中に潜む健気さが素敵で、だからこそあの雨中の涙のシーンがひときわ美しいんでしょうね。
 まあロリ可愛くて普通にイチャエロさせろー!って気分は無きにしも非ずですけど(笑)、このテーマ性と繋がりの構図の中では、その生々しさが見えない方が綺麗に映るのも確かなので、仕方ないと納得してあげましょう(偉そう)。

 水菜萌や凜々花もそれぞれに綺麗な心の持ち主で、しなやかな強さを感じさせていいキャラでしたし、竜司の無二の親友感もこういう状況ならでは、という感じで良かったですね。まあもっとも、アトリとの掛け合いが一番面白かった気はするけれど。。。


CG(19/20)


★全体評価など

 水を基調とした背景の美しさに、幻想的な美しさと透明感がしっかりと投影されて、非常にバランスの取れたグラフィックの出来になっていると思いますね。
 CG25枚にSD6枚も値段からすれば豪華な部類ですし、それぞれの出来もかなり良く、アトリの綺麗さとコミカルな可愛らしさを存分に味わう事が出来たと思います。
 やはり特に良かったのは、再会と知った時の夕日越しの透明無垢・無邪気な笑顔と、雨中の涙に尽きますね。この2枚だけでも買った甲斐はあったと断言していいくらい気に入ってます。


BGM(18/20)


★全体評価など

 こちらも世界観に合わせて、神秘的で、けどどこか退廃的な彩りを程よく塗しつつ、そこから前向きな意思を透徹していく流れに合わせた組み立てがバランス良く紡がれていて、よくまとまっている出来だと言えるでしょう。
 ボーカル2曲にBGM20曲ですから数量的にもまずまず、質的にもOPEDともにらしい明るさ、前向きさが投影されたもので素敵だったなと思います。EDはアトリボーカルなので、歌唱力的にはやや微妙かもですけど、だからこそストレートな想いが染み入る感じがいいですしね。
 BGMも突出して好き、ってほどではないですけど、全体的に耳にしていて安らぐいい曲が多かったです。


システム(9/10)


★全体評価など

 演出はすごくいい、とまでは言わないですけど、シナリオに合わせて盛り上がる場面での効果的な紡ぎ方はきっちり出来ていて、メリハリが効いている、というイメージですね。
 世界像そのものがとても美しくも残酷に描かれているので、その中での対比性、というのを殊更に意識して作っているのかな、と感じましたし、水の使い方がやっぱりとても上手だったと思います。

 システム的にも特に使いにくい、という程ではなかったですかね。ジャンプが必要なほど長くもないですし、必要最低限は充分に備えていると言えるでしょう。


総合(89/100)

 総プレイ時間7時間。
 値段の割には尺はしっかりしていますし、得意な世界観でも最低限の積み立ては出来ていて、全体的にバランス良く、綺麗にまとめられた物語だと思います。
 その分濃密な振れ幅や蓄積の妙までは流石に、ですけれど、シンプルさの中に奥深い味わいもあり、世界観の不透明な部分、不確かな部分を自分の想像で補いながら楽しむ、なんてのも乙な感じではないかな、と感じます。
 どうあれ普通にアトリが抜群に可愛いので、それだけ目当てでも充分に元は取れると思いますし、プラトニックでほんのり切ない恋物語が好き、という人にもお勧めできるお手軽な作品ではないでしょうか。

posted by クローバー at 08:39| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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