2020年07月02日

徒花異譚

 こちらもやはりライターさんの信頼度高かったし、体験版も面白かったのでサクッと購入。


シナリオ(26/30)

 お伽噺の、包容力と可塑性。


★あらすじ

 気付くと、少女は森閑とした森の中に佇んでいました。
 右も左もわからない中、突如謎の化け物に襲われて、そこに颯爽と現れ、筆を振るって撃退した少年は黒筆と名乗り、彼女自身が白姫と呼ばれる存在である事、ふたりで一緒に、お伽噺の修繕という役目をはたしていた事を説明してくれます。
 色々不明な事もありつつ、それでも体と心がその在り方にスッと馴染むように、秘密の蔵を拠点とした二人の修復譚がはじまって。
 その過程で見聞きしたもの、かつての自己の想いを少しずつ取り戻していく白姫。果たしてその先にある彼女の真実、この世界の信じるは如何なるものなのでしょうか?
 これはお伽噺の可塑性と可能性を示した、切なくも優しい夢物語です。


★テキスト

 いつもながらに流麗典雅、美しさとコクが際立つ素敵な文章ですね。
 悪戯に弄んでは装飾過多になりがちな語彙を、あくまでも物語の雰囲気と道筋に合わせて縦横無尽に使い分けて、くどくどしくならないギリギリのバランスで綺麗にまとめていますし、肌に合う合わないはあるにせよ、私はやはりこれ、好きですねー。


★ルート構成

 各章ごとにいくつか選択肢があり、その結果としてハッピーエンド、ビターエンド、バッドエンドにきっちりと分岐します。
 意外と選択の仕方が難しく、総合的に見ると作品のテーマにピッタリと沿ったつくりなのですけど、最初のプレイの時にはその大枠を見極めるのも簡単ではないので、その点で色々先読みをしながら、という楽しみがあります。
 総じて中途半端はダメ、という構図になっているのも印象的で、シナリオ性との連動もきっちりしていますし、正に過不足ないつくり、ADVならではのゲーム性をしっかり打ち出せているのではないでしょうか。


★シナリオ

 全体として非常にきっちりと、一貫したテーマに沿ってまとめられた清冽な物語、というイメージですね。

 土台として、お伽噺というものが持つ独自の柔軟性、地域・時代性に合わせて変化し続ける、という定義があります。
 平たく言えば、お伽噺はその時代・土地ごとに、存在する人が望む形で膾炙する、という思想性で、実際にそういう傾向は強く、お伽噺に限らず民間伝承など、異説・異譚がつきもの、という側面は往々にしてあります。
 この作品は、白姫の現実と空想力を土壌として、そのお伽噺の持つ可塑性に対してどこまでの想いを寄せられるか、というアプローチの姿勢が常に問われており、それはより巨視的に言えば、白姫を操るプレイヤーが、白姫の物語に異譚性を求めるか、予定調和を求めるか、という色付けにもなっていると考えられます。

 元々お伽噺というのは、決してやさしい物語ばかりではなく、教訓譚としての残忍性、哀切も多様に含んでいる為、そういう部分に対してのなぜ?と常に問いかけることが求められている、とも言えます。
 そのなぜ?と問いかける想いの在り方こそが、人そのものを変えていく原動力でもあり、どんな苦しい状況であろうと、ただ従順に事実を受け入れるだけではない想いがあるかないか、というのは、克己の意味でも非常に重要な概念なのでしょう。

 今作は白姫の心象に合わせて選択されたお伽噺を通じて、そういう精神性の部分を丁寧にトレースし、読み手にも寄り添いながらの理解を求める非常に厳正で緻密なつくりになっており、細かい部分にまで配慮が行き届いていて、グランドデザインがとても優秀と言えます。
 その上で、きちんとお伽噺らしい残酷さや空疎さに至る結末もきちんと用意していて、このあたりは作品の奥行きを非常に高めていますし、それをきちんと選択肢に秘めた意思によって現出できる、という構図も素晴らしいです。
 まあそういう、実際性の薄い世界像の中でこそできる技、という限定的な要素はありますけれど、それはそもそもの作品のスケール・尺からすればそうなって然るべき部分ですし、むしろこの尺で良くここまで綺麗に、説得的に、全ての要素をまとめ上げてきたなと感心する次第です。

 細かい部分はネタバレになり過ぎるのでスルーしますが、これはいわば白姫の物語に読み手が異譚を求めるか否か?という部分に集約されるつくりですし、その結果として冒頭&ラストの展開が、どちらでも取れるような柔軟な構造になっている、というのも味わい深いところです。
 彼女を突き動かす芯にある想いそのものはそりゃあベタと言えばベタですし、そういう純粋一途な在り方しか許されなかった時代性と背景、というのも、比較的理解しやすい構図にはなっているので、これは本当に面白かったですね。
 枠組みとしてこれに似た作品はそれなりに多いですけど、ここまでシンプルでありながら完成度高いものも滅多にないと思うので、これは派手さはないけれど結構な名作なのではないか、と個人的には思っています。


キャラ(20/20)


★全体評価など

 それぞれに素朴で純粋な個性があり、それはあくまでも投影されたもの、という位置づけもありますが、本質的な善性を象徴するものでもあるので、その辺りも含めてキャラ性には惹かれるものがあります。
 しっかりと人の強さと弱さも表裏一体に投影されていますし、その中での受け止め方、向き合い方など染み入るものがあってかなり好きです。

 勿論ヒロインとしての白姫の楚々とした美しさと純朴な愛らしさは素晴らしいですし、後はやっぱりCV込みでうりこ姫ちゃんこと妹ちゃんのこまっしゃくれた可愛さがとても味わい深かったですかねー。


CG(17/20)


★全体評価など

 いつもの独特なタッチと味わいの絵柄で、こぞって好みだとは言わないのですけど、作品の雰囲気にはきちんとマッチしているのが素敵ですよね。
 全部で30枚と分量的にも充分値段からすれば、ですし、色彩感覚のセンスの良さはとても素晴らしく、文字通り絵草子を見ているような感覚で楽しめると思います。


BGM(17/20)


★全体評価など

 こちらも世界観に絶妙にマッチした、和の色が強く朴訥で可憐、それでいておどろおどろしさや不気味さもしっかりと備えた、丁寧なつくりになっているのかなと思います。
 ボーカル曲は1曲、BGMは15曲なので量的には妥当なライン、質的には中々だと感じますし、特にテーマ曲の端麗な美しさは際立っていますね。とりわけAメロラストのリフレインの部分が気に入ってます。
 BGMでは4番9番あたりがいいですね。


システム(9/10)


★全体評価など

 演出面は、作風に合わせた形での情感の引き出しがきっちりと出来ていると思いますし、タイプ的にきゃらきゃら動いてどういう、という方向性でもないので、しっかりとイメージに沿う形では確立されているのではないかと思いますね。
 その分一枚絵の雰囲気に依拠する点も多いですけど、その辺りの噛み合わせ、擦り合わせも丁寧に出来ている感じで、やはりいい出来だと思います。

 システム的にも必要最低限ラインですけど、特にプレイ感に問題ないと思いますね。


総合(89/100)

 総プレイ時間6時間。
 本筋が5時間くらいで、ジャンプ駆使しつつ別エンド回収などで1時間くらいの感覚で、そう長くはない作品ですけど、密度が非常に高く味わい深いものがあります。
 ある程度謎が多い中でのスタートから、徐々に霧が晴れていくように真実を垣間見て、というつくりは王道的ですが、その中で育まれる想いや意志、ストーリーの方向性と合わせて浮き彫りになっていくテーマ性など、本当に緻密な構造になっており、よくここまで、と感心するレベルで完成度が高いです。
 こういう幻想的な雰囲気の物語が好きな人には大変おススメかな、と思いますし、お値段以上の価値はある美しい作品でしたね。

posted by クローバー at 05:43| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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