2020年10月13日

<感想>さくらの雲*スカアレットの恋

 本日の感想は、きゃべつそふとの第四作となる、さくらの雲*スカアレットの恋です。

 なんだかんだと処女作から全てのタイトルを購入しているメーカーですが、今作はかなり期待して待っていました。
 というのも、メーカー二作目の傑作である、アメイジング・グレイスのライターさんの作品だからですね。

 その前のクインスでの、もののあはれもかなり面白かったですけど、やはりアメイジングで見せた奇抜なトリックと発想にはかなり魅せられたものです。
 今回は舞台からして大正タイムスリップ、SFミステリィという事で、その特性を存分に生かした作品になるという予想は安易に出来ます。

 果たして今回は、いかなる驚きを提供してくれたのか?
 解釈の難しい作品ではありますが、私なりに読み取った形を言語化、していきましょう。


★超私的採点・一言コメント

・シナリオ(24/30)
  加速度的に面白く、奇抜な発想に脱帽。ただ若干説明不足か。

・キャラ(20/20)
  それぞれに多彩な顔を持ち、無駄なキャラが全くいない完成度は見事。

・CG(19/20)
  キャラ絵・背景共に上質。ただ値段考えると枚数はもう少し欲しかった。

・BGM(17/20)
  時代性を加味した味わいのある楽曲。ボーカルの出来がいい。

・システム(9/10)
  ドラマチックな演出の発想力は抜群。UIがやや面倒。

・総合(89/100)
  発想は非凡。もう少し肉付けが丁寧なら文句なしの名作だったが。

★テキスト

 テキストは、作風としてノリの良さや勢いがあるわけではなく、それそのものでのめり込むほどの面白さがあるとは言えません。
 ただ、シナリオの展開に合わせて一言一句が丁寧に吟味されていて、その複層的な意味や奥行に、後々から気付かされて唸る事が多々あります。

 純粋に読み口そのものはテンポよく、スラスラ読めてしまうのですが、スラスラ読んでしまうとミスリードに嵌っていく怖さがありますね。
 実際、違和感ある文言や文章は気をつけながら読んでいたつもりでも、その場では気付かない伏線の巧みさに毎度驚かされます。

 行間を読む、文意をしっかり汲み取る、という作業をした方が面白い、という点では、エロゲ的な文章とは一味違う、とは言えます。
 ただ素直にスラスラ読んで、後からビックリ!でも普通に楽しいバランスに仕上げているのが、この人らしい凄味ですね。

 時代性も加味しての風流な言い回しなども多く、個人的には純粋に文章を追いかけるだけでも楽しい作品でした。
 まあ設定上仕方ないとはいえ、ややインテリ感はあるので、そこで好き嫌いは出てくるかもしれませんけどね。特に文学的素養はあって困らないタイトルだと思います。

★ルート構成

 それなりに選択肢はあるものの、シナリオ自体はほぼ一本道、と見ていいでしょう。
 あまりゲーム性、という面では評価はし難いタイトルではあります。

 攻略できるヒロインの順番も決まっているので、その自由度の低さは不満材料になるかもしれません。
 特に序盤は、まだ不明瞭な部分が多い中で、手探りのシナリオ、というのもあり、盛り上がりに欠ける面も見受けられます。

 ただ、そういう恣意的な構造にしているだけあり、基本的には加速度的に先に進むにつれて面白くなっていきます。
 全てのルートでのピースを集めていく事で、より美しい未来に辿り着く構造にはなっていて、そのあたりの構築力は流石の一言です。



 まあメタ的に言えば、この作品、ルート(枝)を選んでいるのはアララギ、ではありますからね。
 主人公自身が複数の世界を行き来するわけではない=知識を蓄積していくわけではないので、その制約がありつつここまで面白くするのは凄いな、と思います。

 でもその分逆に、見えにくいものは最後まで見えにくい、という欠点もあります。
 アララギにとっての自明が、主人公達やプレイヤーにはそうではない、という匙加減をどう捉えるかは、このタイトルに対する評価のポイントになるでしょう。


★シナリオ総合所感・設定考察

@上質なミステリー・個性的なキャラの味わい
 この作品は、大正時代となる1920年を舞台にしています。
 ただ、その背景には虚実が織り交ざっていて、次項でも考察しますが、厳密に言えばプレイヤーである我々が認識する大正時代とは少しだけ位相の違う、あくまでも物語、としての設定になっています。

 つまり、舞台背景そのものがまず、ミステリーのトリック、ミスリードを牽引する役割を果たしている、という事ですね。
 大枠の部分で大きな謎を抱え込みつつ、探偵ものらしい細かな事件もあれこれ舞い込んできて、それらが全て有機的に伏線として繋がっているのも流石の構図です。



 もっとも、アララギが後に述懐するような、チェリィ探偵事務所が歪みの震央、という点は、主人公の存在のみに依拠したつくりではあります。
 時の歪みはある意味強制的にアララギがもたらしたものですし、歴史の歪みは主人公本人に加え、加藤が振り撒いているものです。

 その二つのベクトルが必然として交わるからこその震央であり、それは意図的に選ばれたものでしょう。
 端的に言えば、歪みの拡大に伴う世界線の逸脱を狙う加藤に対しての、アララギに出来る範囲での防ぎの一手、となるでしょうか。

 アララギ自身にあれこれ制約がある中で、なぜ歪みを正す役割を与えられたのが主人公だったのか?も一つの謎ではあります。
 その辺は後々考察するとしても、レベッカ自身も後々の歴史のキーキャラである、という要素とセットで、このタイミングで歪みに立ち向かうことそのものが大切だった事は間違いありません。



 ともあれ、舞台を整えれば必然として役者は舞い降りる、という構図は、歴史の矯正力そのものが関わってくるのでしょう。
 だから、どうしてそのタイミングでそんな事件ばかりポンポン起きるのか?という無粋な問いにも、探偵もののお約束だから、というだけでなく、設定的な説得性を有しているとは言えます。

 その土壌の上で展開されるミステリーも、大小さまざまある中で、どれも味わい深い面白いものに仕上がっています。
 巨視的に言うと、一番探偵ものっぽく調査&推理をしているのは、メリッサが深く関わるエピソードになっています。

 それは、最終的にメリッサというヒロインが、この状況を解決するための唯一無二のジョーカーである事と無関係ではないでしょう。
 そも、メリッサの様な「本物」がいる、という時点で、読み手の我々が認識する「正史」とはズレている事は明白です。

 けれど、そのズレをギリギリまで悟らせないために、いかにもオカルトチックな事件を用意し、けどその背景はしっかり科学的要素や推理で反証できる、というのを敢えて見せているように思えます。
 このライターさんの十八番は、こういう認識のさりげない誘導、ミスリードの手腕にあると思いますし、今回もそれは随所で炸裂していました。

 その中でもインパクトがあったのは、メリッサの秘密が開示されるシーンと、主人公の出自の謎が解明されるシーンになるでしょうか。
 常識を疑うのは難しい、という思考の死角を絶妙のタイミングで抉ってくる事で、単純に設定だけで見れば突拍子もない事象を、きちんと読み手に納得させてしまう剛腕は健在でしたね。

 ただ、やはりこの作品は「ミステリー」が主軸なのも間違いなく、その結果として、背景の重要な要素であるSFに対するアプローチは薄い、と言わざるを得ません。
 特に最後のレベッカルートでの加藤との対決と、その結果の歴史の展開は、SFとしての解釈をはっきりさせないと、筋道そのものが見えにくい構造になっています。

 個人的には、それは気に入りませんでしたね。
 確かに情報をある程度小出しにする事で、最後の対決での大逆転に繋げる驚きは紡げていた、とは思います。

 でもその下地が、それまでより軽佻に感じられましたし、その分その展開のインパクトよりも、え?どうしてそうなる?という疑問符の方が強くなってしまうきらいはあったと感じます。
 特にアララギの設定や、加藤の存在を理由なく絶対悪的に貶めている感は、あまりスッキリするものではありませんでした。



 キャラの造型に関しては、ミステリーらしく精緻な配役になっていて、当然ながら無駄なキャラ、存在感の薄いキャラは皆無と言っていいです。
 誰しもが状況によって多彩な顔を持ち、そしてそれは決して善一辺倒ではない、という色合いは、この作品の深みに大きく貢献していると感じます。

 ただ、ヒロインを攻略する恋愛ADVとしては、やはりバランスとしてもう一歩足りない面もあります。
 勿論キャラデザが可愛いですし、充分に萌えも味わえるのですけど、そういう楽しみ方が出来るシーンがすごく限定的、というのは出てきますね。

 特に遠子と蓮に関しては、自分のルートで中盤以降一気呵成に、という色合いは強く、それ以外のシーンでの存在感はやや薄めです。
 メインヒロインのレベッカと、ジョーカーたるメリッサはそれなりですが、逆にシナリオの本流にいる分、集中してイチャイチャ、というのが少ない、とも言えます。

 この辺りは贅沢を言っても始まらないのですが、脱落型の構造の中でどうしても温度差は出てしまいますし、その辺りのフォローはもう少し丁寧でも、と思いました。
 畢竟、最後のルートが全体的に駆け足過ぎるというか、詰め込み過ぎなんですよね。

 個人的には、アララギルート、とまではいかずとも、外伝の部分をもう少しきちんと肉付けして欲しかったです。
 アララギから見た世界像と、主人公達への想いや、他ヒロインの多彩な表情などを、最後の解決編に行く前にもう少し深掘りし、ワンクッション置いて進めていれば、より印象的・説得的だったと思うのですけどね。



 大体全体像としての所感はこんな感じでしょうか。
 簡潔に言えば、ミステリーとしては「優」、SFとしては「可」、キャラゲーとしては「良」、くらいのイメージです。

 ミステリーが主軸である事は別に全く文句なく、その出来も素晴らしかったと思っています。
 ただその良さが突出していて、それを下支えする要素の部分が少しおざなりになっている事で、全体のバランスと堅実な説得性を最後に少し欠いたかな、というのが率直な感覚です。

 採点も迷ったのですが、名作ラインにギリギリ乗せなかったのは、やはり結末の性急さが最大の要因となるでしょう。
 ストロングポイントが強烈であるだけに、そこは本当に惜しいな、と思いますね。

A時代設定考察〜思考の死角を突く手際〜
 上でも少し触れましたけど、この作品の大正時代は、現実依拠に見せかけて細かいところで位相が違っています。
 その根拠として目立ってわかりやすいのは、以下の三点になります。

  1. メリッサの様な超能力者が実存する
  2. 読み手が認識する時期と、事件の発生タイミングが違う
  3. この世界の歴史そのものは一本線で繋がっている 

 @の要素はシンプルですね。
 もっともこれは、主人公自身が認識していない歴史の死角でもあり、だからこそ扱いが難しかったと言えます。

 Aに関しては、わかりやすいのは主人公が介入していた、三大テロ事件になるでしょう。
 これらは、主人公がはっきり発生タイミングを見切れているところからも、決して歴史の歪みの影響で起きたものではなく、この世界線の未来における「正史」と見做す事が出来ます。

 そしてこの設定自体、テロそのものが形が違っていたり、発生時期が我々読み手の認識するタイミングとは違っています。
 明快なのが原敬暗殺事件で、作中では未遂に終わっていますが(最後のルート以外ではわかりませんけど)、本来は時期も暗殺者もちょっと違います。

 この設定は絶妙な匙加減に仕上がっています。
 というのも、かなりの歴史マニアでないと、大正時代の細かいテロ事件なんて普通はきっちり覚えていません。

 だから、序盤の話の雰囲気で、なんとなくこの時代は現実依拠なのかな?とミスリードされている中では、その事件そのものが歪みの影響なのか、「正史」的なものなのかの判断が非常につけにくいのです。
 一番明快な原敬暗殺を三大のラストに位置付けているあたり、誤用的な確信犯である事は間違いないですね。

 加えて恐るべきことに、本当に歴史に精通している人が、あれ?この年にこんな事件あったか?と思っても、なるほどこれも歴史の歪みか、と誤解しやすい構図にもなっているのですよね。

 冷静に考えれば、主人公の秘密解明編でレベッカが看破したように、歪まされた事象を主人公がピンポイントで先回りできるはずはないのです。
 でもその矛盾は、世界像そのものの仕掛けと、主人公の意図がはっきり見えていないと、中々紐づけて疑義を覚えるのが難しいのです。

 いわば世界の秘密と主人公の秘密は、連関して有機的な作用し、二重のミスリードとなっているのですよね。
 このつくりは本当に感心しますし、私もすっかり騙されていたので脱帽するしかありませんでした。



 Bに関しては、正直数少ない証言をもとに立てている仮説的なものなので、私も絶対の自信はありません。
 根拠として挙げられるのは、以下の三つです。

  1. 加藤が精通している歴史観に対して、基本的に主人公の否定がない
  2. 特にはっきり、第三次世界大戦についての言及がある
  3. アララギの「送る」行為は、世界線を飛び越えられるものではない   

 細かい考察は次項以降に譲りますが、この辺りの要素から、未来人含めての世界線そのものは一本で経由できるもの、と考えています。

 まずそもそもとして、この大正の時点で、この世界像は読み手がイメージする大正とはズレています。
 その原因がどこにあるかは明確ではなく、これはでも、あくまでフィクションとしての設定、で片づけられる部分です。

 また、この1920年時点での歴史の実像が、基本的には未来で知るものとまだ致命的にズレていないのも確かです。
 上で考察したように、三代テロ事件が我々が知る「正史」通りであり、それが歪みによってズレたのであれば、超能力者ならぬ主人公の先回りは不可能だからです。

 後藤新平事件のように、歴史の流れを意図的に、かつ効果的に歪める為に、加藤が介在したものと、そうでないもの。
 その腑分けが中々難しい作品でしたけど、そこを丹念に紐解いていけばこういう解釈に辿り着くのですね。



 アララギに関しては、作中でその機能に制約がある事は繰り返し告げられるものの、それを実証的に示した部分はほとんどありません。
 だからここに関してはかなり推論に推論を重ねる事にはなってしまいます。もっと明快に根拠を提示して欲しい、と思った最たる部分です。

 枝の理論から想定できる世界像も曖昧なものにならざるを得ませんし、一番解釈に苦心する点だと思います。
 でもアララギの枝渡りの試行回数に限界がある事、加藤の「この枝の先には行けまい」という台詞などからも、大きな世界の分岐を飛び越えての跳躍は不可能、というのはほぼ確実だと見ています。

 それを踏まえれば、より制約の大きい人間の過去跳躍が、アララギ自身の機能より幅広く活用できる可能性は低いでしょう。
 その細かい部分は次項で考えますけど、ここで定義しておきたいのは、あくまでもアララギが介入できるのは、「同一世界線上」の「過去」に限定される、という点です。



 まとめますと、歪みが介入しない時点での、この世界の歴史の流れは以下のようになります。

大正(偽)⇒昭和・平永⇒桜雲⇒タイムマシンが実用化された22世紀

 それに対して、歪みが介入する事でどう世界線が変化するか、と言えば、以下の通りです。

大正(偽)⇒1920年代にタイムマシンがある世界線【加藤の念願成就】
or
大正(偽)⇒昭和・平成(?)⇒令和(偽)【加藤の野望阻止・タイムマシンのない世界線】

 あくまで私の解釈ですから、これが正しいかは読者の方々の判断に任せます。

 少なくとも私の認識として、そもそもの大正時代が似て非なるフィクションであり、現実依拠ではない、となります。
 一見するとこの作品の時間軸は、元々の現実依拠の大正が加藤によって歪められ、それを正したことで令和に続く道に戻った、と見做せてしまいます。

 でも少なくとも主人公の自己認識は桜雲の時代にあり、そして歴史解釈も実際的なものとはズレがあります。
 それに、もしも桜雲が加藤の介入の結果歪んだ歴史とするなら、世界線の違う場所からアララギが主人公を連れてこられるはずがないんですよね。

 その辺りも色々解釈の余地はあるのでしょうし、本当に難しいところですけど、私としては時代設定をこのように考えています。
 この先はその仮説を補強するための考察と、果たしてその結末が主人公にとって本当に救いなのか?という部分を見ていきます。


Bタイムマシン・アララギ考察と、加藤大尉のワイダニット
 アララギというタイムマシンは、この手の設定としては群を抜いて不自由さの大きいつくりをしているな、と思います。
 その機能の限定性を列記すれば、以下のようになるでしょうか。

  1. 過去にしか飛ばせない
  2. 同一地点にしか飛ばせない
  3. おそらく飛ばせる時間のスパンにも制約がある
  4. 歴史の修正力に依拠した引き戻し機能の調整が出来ない
  5. 世界線そのものの超越は出来ない
  6. 同一世界線の枝でも、運べるものは限定される
  7. 自身が歴史の歪みとなるような介入の仕方は基本許されない
  8. あくまで未来人が紡いだ「歴史の歪み」の修正のみが課せられた使命・機能である

 つらつらと列挙してみても、なんでこんな不自由なタイムマシンしか作れなかった?という感はありますよね。
 特に過去には飛べても、歴史の修正力に対して中和機能がないのでは、実質過去転移する事の価値がない、とも言えます。

 結局これは、万斎の一族が、彼ほど万能でも天才でもなかった故に、その閃きを十全に生かせるものを作れなかった、とはなるのでしょう。
 少なくとも加藤=弁慶自身も、はっきり優れた科学者、というわけではなさそうで、理論はわかっていても、そこから飛躍させるにはこの時代の万斎の力を借りるしかなかった、というのがそれを証明しています。



 アララギの機能として示唆的に記載されているのは、「送る」「贈る」ものと、「渡る」「運ぶ」「渡す」というものに限られています。
 この語彙に含まれるニュアンスの解釈も難しさはあるのですが、確実に言えるのは、重ね合わせの世界線上の枝の中の同一人物からのメッセージを託すことだけは許されている、という事です。

 もっとも、それがどうして機能として搭載されているのか?というのも難しいところです。
 この機能は基本的に、過去改変に対するカウンターアタックとしての要素が強いのは間違いなく、それは恣意的と言えば恣意的です。

 勿論タイムマシンが悪用されないように、安全弁をつけておくのは発明としては大切です。
 ただ肝心のタイムマシンとしての機能が十全ではなく、なのに安全弁だけそこそこ充実している、というのもバランス悪いなぁ、とは思うのですよね。



 主人公が選ばれた理由も、ある程度条件の絞り込みはあったのでしょうが、決して彼でなくてはならない、というニュアンスではありませんでした。
 その条件として仮定出来る要素としてはこんな感じです。

  1. 歴史の歪みが極大化し、アララギが看過できなくなるターニングポイントが1920年だった
  2. 跳躍は100年単位の、自己存在矛盾パラドックスを無視できる期間でないと、揺り戻しの例外に押し込む時間が足りない
  3. 単純に飛躍できるスパンそのものの設定も大雑把っぽい
  4. そもそも桜の樹の下に来てくれないと跳躍条件を満たさない
  5. 軍人として、違う時代にいきなり放り込まれても逞しく生きていけそうなしたたかさと知能がある
  6. 係累を失っている
  7. 出来れば歴史改変に共感する余地が少ない方が望ましい

 アララギにとって主人公は都合のいい人材だったでしょうが、万全の素材というわけでもなかったでしょう。
 実際彼は桜雲という時代を心から嫌悪していましたし、この時代でヒロインと出会い、骨を埋める選択をする場合も多かったです。

 その場合はどう足掻いても、加藤の野望成就の世界線に移行はしてしまったのでしょう。
 その内実がどうあれ、アララギ視点でのミッションは失敗、という事になります。

 ここで重要なのは、あくまでその世界改変は、アララギの使命・機能にとっての致命的事象であって、主人公達にとってはどうだったかわからない、という所です。
 まあ加藤の支配する世界が伸び伸びしてなさそうなのは確かですけど、でも逆に第二次大戦などの致命的な人災を回避できた可能性もなくはありません。

 方法論として世界の定理に反しているのはあれ、加藤の信念が、震災の時の貧民救済に見えるように、決して悪辣一辺倒とは限りません。
 その本意を明快にせず、自己愛に兆した利己的なものだった、という一方的な断罪で割り切っていいものか?というのは、このタイトルの評価において癌になる部分です。



 あくまでアララギの、限定的な機能がもたらす使命の範疇において、過去改変と歴史の歪みは許容できない「悪」です。
 ただその使命に対する解決方法としても、全てをなかった事にするような、歴史の修正力を磐石に振るえるようなものではありません。

 よくタイムトラベルものだと、歴史の改変に合わせて記憶も改竄されてしまうことが多いですよね。
 それで、正しい歴史を選ぶか、大切な思い出を選ぶか、なんて苦悩するのは、この手の作品のお約束ですが、今作は少なくとも記憶の部分においての影響力はほぼない、と言っていいでしょう。

 だから正直、歴史の歪み、と一口に言っても、実体的な影響が主体で、思想的な影響に関しては看過されているのが実情です。
 主人公が関わる歪みの影響を強く帯びているのが、仕事が増えてこの地に留まる事になったレベッカと、事件解決に一役買って、昇進と言う具体的な変化があった柳楽、というのもそれを象徴していますね。

 そして同時に、それくらいの介入であれば、アララギの判定では、大元たる主人公が未来に戻るのであれば「許容範囲」になってしまうわけです。
 あくまでも歪みの根源は未来人そのもので、この二人が残した思想的影響が、後々に世界線を大きく変化させる事になっても、それ自体は職責の外、アララギにとっては関知しない要件となるのでしょう。

 疑似人格はあっても、明確に感情があるわけでなく、あくまで使命を果たす事が最優先事項。
 そういう杓子定規で限定的な在り方が、機械的機能が上位規定されているからこそ、ヒロイン的な関わり方が出来ないのは納得、ではあります。
 まあキャラデザくっそ可愛いのでものっそい勿体ないし、純粋に攻略出来なくても、もう少しエピソードは見たかったですけどね。。。



 その上で、結局加藤の本質的な動機、という部分が完全にスルーされているのが問題です。
 作中では、ワイダニットが震災を人為的に起こすことそのものだ!なんてドヤ顔で看破した風でしたけど、正直ワイダニットって、もっと根源的な要素を含みません?とは思ってしまうのですよね。

 なぜ未来の加藤が、この時代に跳躍し、日本を作りかえるという大それた野望を抱いたのか?
 そもそもタイムマシンは何のために継続的に研究されていたのか?
 ここまで制約の多い過去跳躍機能でも、その仕組みの隙間を縫って敢行するほど状況が切羽詰まっていたのか?
 それとも、あくまでも自身の野望と知的好奇心に裏付けされた、表層的な博愛主義に酔った変人・狂人でしかないのか?

 このあたりは、加藤の言動からも推察する事は出来ませんし、強いて言えばあの変わり者の万斎の子孫、というくらいしかヒントがないです。
 結果的に過去改変を「悪」と断罪するとしても、その選択に至った経緯を無視するのはフェアではないですし、そこはアララギの回想、みたいな形でもいいので、もう少し補って欲しかったですね。

 なんか最後のルートで、主人公が、自分が加藤の思想に共鳴する世界線もあったかも、なんて述懐していて。
 それは結構的を射ていると思いますし、加藤の目的が言葉通り恒久的な世界平和の維持にあるならば尚更、とは思います。

 だから本当は、そういう側面を持ったルートが、レベッカの前にあった方が良かったです。
 その上で、「それでも」を突き付ける事、それが物語の説得性には必要だったと思います。

 どうにもミステリー主軸で、SF要素の突き詰めを曖昧にしたせいで、付随してその辺りの思想性まですっ飛ばされてしまったのは、本当に勿体ない部分に感じました。
 それにかこつけて、アララギルートがあってもいいじゃないか!という魂の叫びを正当化したいのもありますが。。。

C結末から見る世界像〜令和は歪みの産物か?〜
 この作品の世界線、という考え方を定義する上で、補助線として援用できるのは、SFを扱ったADVとして不朽の名作であるシュタインズ・ゲートの世界線解釈ですね。
 プレイした事があれば話は早いですが、そうでない人もいると思うので、軽く説明しましょう。

 これは端的に言えば、歴史は基本的に、一本の大きな流れに収束していく、という考え方です。
 個々の行動や些細な変化で、歴史そのものはほぼ無限大に分岐はしますが、それは殆どの場合、歴史の修正力によって元の大きな流れに糾合・吸収されていく、という事ですね。



 加藤との対話で、桜の樹の枝分かれのように、世界には可能性が広がっている、とは述べられていました。
 けど、もしもその枝分かれが本当に無限であるならば、アララギの枝跳躍に限界がある、という事と矛盾します。

 まあこれに関しては、単純にアララギがタイムマシンとしてポンコツだから限界がある、とも考えうるので、どうしてもある程度は恣意的な解釈にはなります。
 ただ少なくとも、アララギが提示した枝の数がそんなに多くなかった事からも、歴史の変化に可能性を与えるほどの大きな枝分かれはそれしかなく、もっと些細な変化は即座に収束して、そこから変化を派生させるのが難しい、と私は考えています。

 つまり、歴史にはそのものに修正力があり、大きな流れそのものを動かすのは非常に難しい。
 けれどそれが不可能、というわけではなく、巨視的に見れば、凄く大きな流れがいくつかあって、余程の衝撃があれば、その世界線を超越していく事も可能だ、というのが、作品の流れから見ても妥当な落としどころではないか、と感じます。



 その「余程」がなにか?というところで、作中では人為的な震災がそれにあたる、とされています。
 ただ個人的にはそれ以上に、タイムマシンの成立とその年代の違いが、世界線の跳躍に関係している気はしますね。

 つまりこの世界線は、大きく見れば、アララギ、という不完全なタイムマシンが未来に存在するもので。
 そしてその世界線の幅の範疇に収まるなら、途中で分岐しているように見える、最終的には一本に糾合される全ての道を、アララギ自身は辿る事が可能なのでしょう。

 ただ、加藤の野望を指をくわえて見ていると、この1920年で派生する枝の全ては、世界線の壁を突き破って、この時代に真なるタイムマシンが存在する世界線に移行してしまうわけです。
 それはアララギの存在理由と完全に反する状況ですし、だからこそアララギにとって、なりふり構わず解決しなくてはならない事件だったと言えます。

 ただ、そんな世界線移動など認識せずに生きる普通の人にとって、それが本当に悪い事なのか?は難しいところなんです。
 震災が人為的に起こされると言っても、あれは放置しておいても必ずいつかは起きるもので、むしろ管理された状況の方が被害は少なくなるとも言えます。

 その後の人為的に管理された歴史も、ただ生かされているだけで自由がない!なんて考えもあるでしょうが、それが平和で豊かな社会をもたらすなら決して許容できない話ではありません。
 それに実際のところ、主人公達が残した思想的影響が滾々と波及した結果、最後のルートの世界線はいずれ変動して、令和に繋がる道に至るわけですから、それが人為的な変化ではないのか?という疑問も出てきます。



 少なくともアララギの問題解決には、未来における影響、という視座が欠けているのは間違いないです。
 あくまでも現状の歪みを全て是正し、本来の送り返し、歴史の修正機能を補助できるあるべき姿に戻れれば、それで良し、なのですね。

 でも、加藤を消して、万斎の意識からタイムマシンに対する興味を消して、その結果この世界はこの時点で大きな分岐の萌芽を抱えています。
 それでもまだこのタイミングであれば、それは明確に歴史に「事象」として影響を及ぼしていないわけです。

 けれど、アララギが送り返せるのは、あくまでも繋がった世界線の先、になります。
 そういう限定的で不便、かつ杓子定規な機能が前提となって初めて、主人公が桜雲⇒大正⇒令和という時代の転移を、記憶を留めたままに成し得た、というのが私の解釈になります。

 時代考察で触れたように、この作品は、私達読者が想定する本来の大正⇒令和の流れを、歪みを排除して取り戻した、という構成ではありません。
 あくまでも最初から一定悪い方向に歪んでいたであろう大正から、個々の努力によって流れが少しずつ改善され、その美しい方向の歪みによって、令和、という平和な時代が現出した、と考えていますし、その辺りのミスリードが巧み過ぎるので本当に難しいです。



 だから、主人公にとっての令和は完全に未知の世界ではあります。
 自分の血を引くマリィという特異点があり、母も存命で、ぶっちゃけこの時代で主人公が早死にした時、マリィの存在がどう規定されるのか?なんて疑問も出てきます。

 ただ少なくとも、自分が生きてきた流れの中で、その未来像が幸せの形を紡いでいるのは間違いないでしょう。
 影響は残してしまったとはいえ、その想いが波及して、あくまでもそれぞれの時代を生きる人々の力で世界線が変動したのであれば、それはきっと歪みではなく、祝福なのだと私は思います。

 なので、この作品のSF要素は、あくまでもアララギの機能が及ぶミクロな範疇でのSF、と考えておいた方が無難です。
 より巨視的に見ると、万斎から続く加藤の一族を消したことで、そもそもアララギという存在が成立するのか?ともなりますし、一度確定した未来はそのまま残るのか、それとも世界線ごと消滅するのか、そのあたりも曖昧です。

 おそらくエピローグの万斎のコメントからしても、令和からの流れで未来にタイムマシンは作られない感じはします。
 ならば少なくとも、この世界線はこれ以上恣意的な変動はしない、とも見做せますし、過去の面々の努力と想いを知るほどに、主人公もまたこの時代を更に良くしていく努力は怠らないでしょう。

 あくまでも自由意思の中で、平和な世界を希求するーーーーその在り方が大切なのは間違いなく。
 そのかけがえのなさを相対的に高める上でも、加藤の紡ぐ理想の世界と、そこに欠けているものの看破、なんてシーンは欲しかったですね。

 結局、ミクロなSFだから、その設定がファジーでもいい、と言うことはなく。
 その欠落が、このタイトルを文句なしの名作に押し上げるだけの決定打を持ち得なかった、という要因にもなっている、というのが私の結論です。

★個別ルート感想

@個別総合評価・遠子ルート
 前置きが長くなったので、個別以下はサクサクっと済ませましょう。
 個別評価としては、レベッカ=メリッサ>>蓮>遠子くらいです。

 作品の構造上、後に行けば行くほど使える伏線も増え、キャラも生かせるという要因はやはり大きく評価に影響を及ぼしています。
 どうしても遠子と蓮は前座感は拭えませんが、それは仕方ないとは言えるでしょう。

 メリッサからは舞台設定の特異性もあり、加速度的に面白くなるものの、レベッカで最後の詰めを欠いた、という感じです。
 上でも散々触れましたが、レベッカの前にアララギの外伝をもっと膨らませて、アララギの作られた経緯とか、加藤の過去とかには少しでも触れて欲しかったですね。



 遠子ルートは、一周目のラストからの流れである程度ネタバレしていましたし、それを隠して飄々と振舞う悲しみ、という部分をどのくらい評価するか、でしょうか。
 少なくともミステリーとしてはかなり難易度の低いルートですし、そのワンイシューの関わりだけで、主人公が遠子に傾倒する、というのも、流れとしてあまり自然には感じませんでした。

 ヒロインとして結ばれる事が、選択肢などの主体的な要素なく紡がれていくので、その点もマイナスになりますけど、それでも他のヒロインに比べて、遠子が一番軽く感じたのは確かです。
 まあ、この世界で生きていく、という密かな願望がある主人公としては、ある意味最初から距離が近く、チョロいヒロインだったかもですけど。。。

 このルートは犯人も最初から選択の幅が狭いですし、その過去の関わりが一番の見所にはなるでしょうか。
 過去を一定清算して、想いを新たにイチャラブするぞー!って所からの怒濤のエロスラッシュもバランスがいいとは言えませんし、伏線もハセクラネタ程度なので、もう少しなにか盛り上げるイベントを組み込んであげても、とは思いましたね。

 ただ遠子さんてばとってもエロエロで可愛いのですよね。。。
 純真なお嬢様が、今まで知らなかった快楽にのめり込んでメロメロになっていく構図は、時代不変で実にいいものです(笑)。

A蓮ルート・メリッサルート
 蓮ルートは、基本的に大筋に大きく関わる問題は少なく、逆に小さい伏線を三つ並べて、それを適宜クリアしていく流れの中で、蓮との関係性もじわじわ深めていく形になっています。
 状況そのものは、歪みの影響があるとはいえ選択的ですけれど、その中で蓮を頼る、という形は自然ですし、惹かれ合う過程の段階の置き方も、遠子よりは断然丁寧でした。

 ある意味一番、時代のしがらみ関係なくボーイミーツガールの甘酸っぱい恋愛をしているルート、とも言えますね。
 個々の依頼にまつわる謎もそこまで大きなものではないですし、一番恋愛ADVっぽい話だと思います。

 唯一共通の流れの中で、主人公の過去を知らないヒロインでもあって。
 その告白も含めての互いの葛藤、どこまで踏み込んでいいのかの匙加減がとても良かったと感じました。

 だからこそ、いざ付き合い出してからの豹変が!豹変が〜〜〜!!!
 いや、決して悪い方に変わったわけではないですけど、まさか蓮見たいなキャラでドSエロエロ射精管理モードをやるとは思わなかったぜ。。。

 これはこれで可愛かったのは認めますけど、やっぱり私、もあんまり女の子主体での管理系エロスは好きじゃないのですよねー。
 遠子がその点ではかなり満足したので楽しみにしていただけに、なんか肩透かしを食らわされた気分ではあります。



 メリッサルートは、共通の流れに続き、かなり重厚なミステリー仕立てになっていますね。
 この列車イベントは、元々準備はされていて、柳楽さんに主人公は未来が見えている?というのを疑わせてはじめて起きる形にはなっています。

 その意味では、遅かれ早かれどのルートでも招待状はきそうなものですけど、一周目は断った、なんて記述がありましたね。
 正直あの賞金にレベッカが釣られないで済む世界線ってあるのか?なんて穿ってしまいますけど(笑)。

 このルートでのミステリーは本当に複雑に絡み合っていて、それを一歩ずつ解き明かしていく醍醐味が最高に面白かったです。
 その流れの中での遠子とメリッサの確執もしっかり伏線になっていますし、その結果として主人公と共に在り、想いを深めつつ、さりげなく手助けをしていく、という構図は、すごくメリッサらしい、控えめだけど優しい色付けでしたね。

 それにしても、メリッサ=カヤノという構図における、イベントCGでのさり気無いヒントの出し方は、うわぁ、やられた!って感じでしたね。
 違う意味で思考の死角を突いたと言うか、普通えちぃシーンのCGにそんな伏線突っ込まれているとか考えないよ!って所で、本当にこれは発想と原画力の勝利と言っていいでしょう。

 流石に列車に乗っている内は、ミステリーとしての色が強かったですけど、きちんとその後にイチャイチャするイベントもそれなりには用意されていて、その点もバランスはとれていたと思います。
 その上であの最後の告白からのラストルートですから、それはまあ印象深いルートになって当然ですね。

 メリッサ自身も今作で一番お気に入りヒロインになりましたし、ミステリーと恋愛要素を綺麗に融合させ、どちらも満足のいくラインに仕上げている、というだけでも希有な出来のルートだと思います。


B所長ルート・まとめ
 レベッカに関しては、元々の恩義もあり、関係性としてもかなり近しいのだから、そういう関係になる説得性自体は高いのですよね。
 そういう前提がありつつ、レベッカの主人公に対する引っ掛かりを、少しずつ繁忙な日々の中で紐解いていっての、あの解決編シーンはやはりこの作品の白眉、と言っていいでしょう。

 勿論誰だって、あの右手の運動が伏線なのはわかっていたと思います。
 ただその内実がどういうものか、まで想定できた人はかなり少ないと思いますし、それは上で考察した、時代背景のギミックとミスリードが本当に抜群だった事に起因します。

 探偵と助手、という関係が最初に確立していたからこそ、解かねば決して前に進めない謎。
 そういう色付けが本当に明快でしたし、ある意味では主人公が唯一、後ろ向きでない感情で向き合い、結ばれたヒロインにもなるので、その点やはりメインヒロインの面目躍如、と言えるでしょう。



 ただし、このルートは色々全てのルートの展開を焼き直したりと、かなり煩雑な上に、要所に入ってからの飛躍が大きいのは欠点です。
 レベッカの師匠の伏線なんかも、ぐぬぬそういや20年前くらいに二銭銅貨は読んだことあるのにまるっきり忘れてたー!と歯噛みしたものですが(笑)、そもそもなんで本名知ってるの?ってあたりから雑ではあります。

 状況が差し迫っていたとはいえ、一元的に加藤の思想を悪と断じる短絡さも、正直探偵ものとしては物足りないですね。
 仮にも安楽椅子探偵を模するなら、もう少し背景に対する洞察や仮説はあっていいと思いますし、それをアララギにぶつけるような展開はあってもいいと思います。

 少なくともアララギは、答えられる問いには素直に答えてくれるはずです。
 その辺も踏まえると、最初の電報ドーン(ナイスパンツ!)、後は最後にお手紙ぽーい!だけで活躍を終わらせてしまうのは勿体ない話でした。

 どうしても最後の展開は、伏線の裏づけが薄いので、それを連発して覆しても、驚きより疑問符の方が強かったですしね。
 まあ支倉とハセクラの響きに、当初から婚約の話が出ていたので、その辺繋がりありそうだな、とは思ってましたし、むしろそういう方向の妨害を想定していない加藤の方が間抜けには見えてしまいます。

 人情を介さないからダメだ、みたいなレベッカの説破がありましたけど、だったらそういう人格を裏付ける彩りを、もっと過去(未来)に至って垣間見せてくれ、とは思いますよね。
 少なくともレベッカの、人はあるべき時代で生きるべき、という清潔な思想は正しいと思いますが、それをより光らせる為にも、その説破に具体的な要素は欲しかったです。

 あとレベッカって、ヒロインではあるけどどことなく相棒っぽさが強いので、その点もう少しイチャイチャの濃度を上げてもいいのよ?って感じはなくもなく。
 明快な解決編でラストルートなんだから、もう少し全体で尺を使っても、重厚に、名残惜しいくらいの密度で進めてくれれば申し分なかったのですけど、グランド、として見ると少し軽い気はしてしまうのが残念でした。



 総合的には、どのルートも一定以上の面白さはあり、高いレベルでまとまっています。
 特にメリッサ絡みはすこぶる満足いく内容でしたが、反面最後のレベッカがもう一歩で、些か竜頭蛇尾、というイメージになってしまったので、かなり悩んだのですけど、評価としては名作ライン一歩手前で留めた形ですね。

★キャラ

 ヒロイン含めて、単純に善良に生きているだけではいられない、という深みと奥行きを感じましたし、しっかり地に足のついた存在感が全てのキャラにありました。
 その上できちんとヒロインはみんな可愛かったですし、特にメリッサが魅力的だったので満足です。

 まあキャラデザだけで言えば一番好きなのアララギなので、立場上純粋なイチャラブエロスは無理でも、もう少し彼女の本質に迫るイベントは欲しかったなぁと歯噛みしますけどねぐぬぬ。

★CG

 通常CGが80枚に、小物系が15枚と、値段を考えるともう一歩欲しかった気はしますね。
 ヒロインとしてのイベントは、レベッカ以外はこんなものかなとも思いますし、やはりレベッカと、後はアララギ関連で上積みが欲しいところです。

 出来そのものは相変わらず非常に可愛らしく、それでいて蠱惑的な雰囲気も良く出ていて、時代性ともフィットしていたなと思います。
 立ち絵や一枚絵は遠子が一番好みだったかな。時点でメリッサ。アララギはいかんせん数が少なすぎるので……。

 背景も豪華絢爛で、ロマンあふれる時代性を上手く投影していましたし、かなり魅力的でした。

★BGM

 ボーカル3曲にBGM20曲。こちらも値段踏まえるとBGMは特にちょっと足りない感じではあります。

 ボーカル曲はどれも時代性と作風に噛み合った、味わい深い曲が揃っていますね。
 特に雨露とビードロがお気に入り。流れるシーンが強いのもあるけど、悲しみの中に潜む前向きさが凄く鮮烈で、サビがめっちゃ好きです。

 BGMも上手く和洋折衷、という感じで丁寧に仕上がってはいますし、悪くはないです。
 ただそれほどガツンとくる曲もなかったですし、もう少し幅は欲しかったかもですね。

★システム

 演出に関しては、全体的に良好だと思います。
 立ち絵もそれなりには動くけど、やはり魅力はミステリーと絡めての画面演出、インパクトの引き出し方で、そのあたりは非常に巧いな、と思いました。

 ムービーの出来も非常に良く、スピード感がありつつしっかりと情緒が味わえて、作風も視覚的にパッとつかめる感じなのが素敵です。

 システムは逆にイマイチ。基本このランプ仕様って操作性が重いんですよねー。
 特に一々、変更するたびに確認が出るのが鬱陶しい。大抵はこの確認モードあるなしが設定できるし、早急に改善求む、ですな。

★総括

 総プレイ時間22時間くらい。
 一周目が6時間、その後の個別が遠子と蓮が3時間、メリッサが4,5時間、外伝とレベッカで5時間ちょい、という感じです。

 推理もの、という側面もあって、あれこれ考えながらのプレイでもあったので、その辺無視してサクサク進めていれば、文章量的にはもう少し軽いかもしれません。
 まあフルプライスとして文句のない尺ではありますし、なにより作品全体に仕掛けられたギミックの素晴らしさは特筆ものでした。

 期待していた部分は十全に応えてくれたものの、それに付随するSF部分の突き詰めが甘かったのが残念ですね。
 もう一息頑張ってアレコレ肉付けしていれば、文句なく名作になったと思いますし、それを差し引いても意欲的な傑作ではあるのでお勧めです。


posted by クローバー at 07:04| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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