ウマ娘の沼にドップリ漬かってしまったせいで、ただでさえエロゲ進捗遅れていたのにとどめを刺す格好になってしまいましたが、今更ながらにGIKEIの感想、書いていきたいと思います。
非常に史実に忠実、それでいながら複数の逸話を上手く換骨奪胎して新たな可能性、未知を見出す構成力が光るインレの歴史絵巻、果たして今回は如何なる出来栄えだったか、サラッとになりますが見ていきましょう。
★超私的採点・一言コメント
・シナリオ(23/30)
面白いけどもうワンパンチ欲しかったかも
・キャラ(20/20)
攻略ヒロイン少ないのはアレだが、個性は本当に魅力的
・CG(17/20)
無難に可愛くカッコいい
・BGM(17/20)
過去作よりは少し質量ともに落ちるかも
・システム(9/10)
演出ももっとやれる感はなくはない、システムは無難
・総合(86/100)
歴史の尊重と、そこからの踏み出し方は秀逸だが……
★テキスト・ルート構成
テキストはいつもの感じで、テンポよく進む部分と、蘊蓄が炸裂する場面のバランスの取り方が丁寧かなと。
根本的にある程度源平争乱の基礎知識がないと辛い部分もあるかも、とは思うけど、個人的にはそこは問題ないし、勿論知らない事も色々組み込まれていて知的探求心を満たしてくれるのは素敵な要素です。
それでいて小難しい一辺倒ではないコミカルさの打ち出し方が上手なので、やはり読みやすいなと私は感じますかね。
ルート構成は、まさかの選択肢なしの完全一本道、読み物として特化していますね。
まぁこの構成で分岐作るならバッドエンドくらいしか、というのはわかるし、ヒロイン絞ってしまった時点で仕方ないんだけど、物足りなさが出るのは読み手としては致し方ないところですな。
★シナリオ
・全体構成と、歴史との親和性
基本的に3部構成で、紫都香が静御前をなぞらえた悲劇のヒロインとなって、ほぼ伝わる史実通りの義経の在り方を踏襲する第1部、楼子と義経北行伝説をなぞる第2部、そしてこの歴史の裏側に隠されていた真実と、その根本の問題を解決する第3部、という形になります。
総合的に見ると、この流れを逐一コントロールしていたのはクマこと水分さん、って事になるわけで、要所にラストに繋がる伏線をちりばめつつ、現代人ならではの知識を逆手にとっての導きは中々味なものがありましたね。
まずシンプルに読み物として、義経の歴史をそのまま辿るだけでも充分にドラマチックで面白い、というのはあります。
特に奇跡と呼ばれたみっつの平家との決戦を、それぞれにその奇跡の再現の仕方に現代的な知識を少しだけトッピングしてより劇的に、ってのが良かったと思うし、そこからの悲劇への転落のありようも、本来の未来に帰る、という目的の中で、それぞれの立場から整合性が出来ていくのが面白いところですね。
特に1部などは、暗示なども含めてのコントロールの中で、主人公達が本気で歴史の矯正力を信じて抗えない、と思わせる仕掛けと、史実通りの過酷な状況が見事に投影されていて。
だからこその万感こめての「ごめんなさい」だったとは思うけど、このへん水分さんも心痛めていたろうなぁとは思うし、けどそうしないとボスを倒すのは難しい、という冷徹な判断も含めて巧みな構成ではあります。
もっともその根源である神仏の加護を得て、というあたりは、明確な根拠があるのか、って部分でちょっと私の知識も追いつかないし、元々の神社関連の三人だから、といってそれで成り立つのかはやや強引な気もします。
まぁ神社の成り立ちと、そこに封じ込めた存在がいずれこういう形での復活を遂げる、という可能性があるならば、その抑止力として、それこそ歴史の修正力の一員としての三人、という見立ては出来るのですけどね。
結果論的に言えば、加納神社は鬼一を封じて鎮めるための装置ではあったのだけど、「誰を」という部分で正しく祀られてはいなかったわけで。
水分ちゃんの一族が、本来の大元の歴史の中でご先祖の義経が鬼一を封じた時に、その正体が将門、という名乗りを受けて把握していたかは、読み落としたかもだけどちゃんとわかってなかったはずで(わかってたら最初から鬼一の時点で弱点狙いしてるはずだし)、ただよしんばそれがわかっていたとしても、実は興世王でした、というオチだからどちらにせよ正確ではなく。
その辺りの構図は下でもう少し体系的に分析するけど、どうあれ現状の不完全な祀りでは、いつかは破綻するというのは必定だったとは言えます。
その破綻が歴史そのものの改変と破壊をもたらす可能性が強かったから、それを阻止する存在が生まれたという解釈は妥当なところなのかな、というイメージですね。
とにかく、きちんとした正史的ルートを経て、異譚的ルートの北行伝説に入って、ただこちらもただの義経北行伝説ではなく、平家側の異説も一緒くたにまとめて、上手く主人公達の本来の目的に沿った形で融合させているな、という感覚です。
最終的には源氏も平家も、武士も貴族も関係なく、一丸となって怨霊に対峙しないとならない、という歴史が待っている中での準備としては丁寧な段取りだと思いますし、帝ちゃんが可愛いのでこのルートも楽しいですよね。
また特にこのルートでは、結局諸々がより古い時代、それこそ神話の時代から繋がる伏線があるのだ、というのも丁寧に構築しており、本当に歴史に対する造詣とリスペクト、そしてそれを上手くこじつけての、説得力ある構成には頭が下がりますね。
勿論こういう難しさを内包しているからこそのボリュームでもあり、結果的に余分な分岐とか作ってる余地がなかったというのは痛し痒しですけれど。。。
しかし、性的に結ばれる事で加護の力を循環させるとか眷属化かよ、というツッコミは出てきてしまいますな(笑)。
まぁそのあたりは多少ご都合主義なのは仕方ないとは思うし、それをきちんとドラマチックに生かしてはいるのでいいんですけどね。
でも一々世話焼きおばさん化している水分さんマジ使命に忠実。。。きっとどのルートでも悶々とはしてたんだろうなぁと思うと、色々妄想が捗るところはあるけれど(笑)。
最後のルートも、この時代の全ての力を結集して、一度は敗北した強大な敵を修行の果てに打ち負かす王道パターンで面白かったのは事実です。
ただ敵方の方が結果的に少し大物感に欠けた面はあったり、最後のオロチ退治にしても、色々偶奇的な部分はあったりするので、私が読み解き切れていないのはあるかもだけど、もうちょっと説得性とインパクトは欲しかったのかな、とは感じますね。
ただ次項で解説する、怨霊信仰をベースにしたテーマ性を投影する、という面では筋が通っているとも言えます。
トータルで言えば、素晴らしく面白かったけど、水分さん攻略したかった、に尽きるのですけどね。。。
・怨霊信仰の在り方と、そこから外れた怨み
日本の怨霊信仰というのは、怨みを背負って死んだ相手を、丁寧に祀り上げてあげないと必ず怨霊となって災いを引き起こす、というもので。
水に流す、という言葉もあるように、祀りそのものが水とリンクしている部分も強いので、その点で今作はそのあたりを統合的に上手く組み込み、水を起点とした世界像の変化、というのを組み込んでいるのは中々面白い発想だったなと感じます。
史実の義経が、あれだけ正史的な有り様では不幸な最期を遂げているのに、きちんと祀られた形跡がない、という点からの逆算として、今回の物語の軸に据えているのも見事ですし、そこは非常に説得力があったんじゃないかなと感じます。
勿論その点、貴族と武士の在り方は違う、という反論も出来るのですけど、頼朝の性格からすれば、という蓋然性は確かにありますし、同時に正しく祀る、という事の難しさも浮き彫りにしています。
名は体を表す、というように、怨霊を鎮める上で、その正しい名を知り、正しく祀る必要があるのは絶対的要因で。
だからこそこのタイトルでの祀りは、長く維持してきたにせよ最後には破綻し、それを司る一族の、主人公の兄が犠牲になっている、というキーイベントを構成しているのですよね。
ただし、本来の歴史の中で鬼一の正体が明らかになっていたとしても、それが祀られていたかどうか、というのは出てきます。
これが将門なら間違いなく祀られるのですよね。あくまでも怨霊とは不遇の道を歩んだものに対してで、裏を返せばそれを断罪した側に後ろめたさがあるかどうか、というのが、日本の怨霊信仰のひとつの鍵でもあります。
要するに、興世王みたいな太鼓持ちの自業自得と思われる野心家タイプの恨みつらみは、基本スルーされるわけです。
日本ならスルーされるだけで済みますけど、仮に中国とかだと、こういう英雄を唆してダメにした悪人タイプは、わざわざ未来永劫に渡って貶されるために、逆の意味で祀られたりします。
岳飛を陥れた秦檜とかがその代表例ですね。
ただ、あくまでも生理的な問題として考えるなら、怨みって主観的な感情であるのは間違いないんですよね。
周りの人間が、さぞあんな仕打ちをして怨まれているに違いない、と戦慄しても、実際本人がどう感じていたか、というのは別物ですし、畢竟怨霊信仰ってのは後ろめたさが呼ぶ恐怖の幻影、とも言えて、その辺りの解釈は難しいところです。
つまり逆に言えば、周りの人間が自業自得と見做して、後ろめたさを覚えないような死に様であろうと、本人が強い怨みを抱いていれば怨霊になり得る可能性はある、とは言えます。
もっとも怨霊とは、神仏と一緒でそれを信じるものが多いほど力を得る、という点はあるので、だからこそ鬼一も、死して尚将門の虎の威を借る事で力を増そうと姑息に企んでいた、とは考えられるでしょう。
なんだかんだ、こういう小物タイプの逆恨みも、現実問題としては馬鹿にならないという教訓的な要素が、今回は怨霊譚に絡めて提示されているのかな、と思いました。
源行家なんて、それこそ興世王と同じ、虎の威を借る狐ですし、はたから見ればどう見ても本人に問題があるのに、本人だけは周りが悪いと決めつけて生きていける、そういうクソ迷惑なタイプに敢えて仕立てているのは、興世王とオーバーラップさせるためでもあるのかな、と。
その意味で、怨霊信仰をトレースした人間の愛憎ドラマ、という部分での面白みも出しているのかなと感じます。
事実泰衡謀反の要因も、女体化を上手く利用しての愛憎劇に転嫁していましたし、そういう根源的な感情に起因するものはどうにもならない、という面があります。
そう考えると、安易にハーレムものにしなかった理由も透けて見えると同時に、でも同時に結局現代に戻れば二人の愛憎で板挟みでもあるのだから、どうあれ歴史は大小関わらず、人の愛憎で紡がれる、と表現しても過言ではないのかもしれませんね。
★キャラ・CG
キャラ的には本当にそれぞれある程度史実に忠実なキャラ付けをしつつ、そこからもう一段良くも悪くもパワーアップしたつくりになっているのかなと思います。
裏を返すと酷いキャラは本当に酷い、というのもありますが、それも含めて歴史ですし、源平の戦いをシンプルに敵味方で区分けせずに統合していく流れも面白かったと思いますね。
まぁヒロイン二人も普通に好きなんですけど、それにしてもやっぱり水分さんだけは攻略したかったなぁ、というロリコニアの嘆きが。。。
実際コーディネーターとして一番苦労してるのは間違いないですし、現代人なのに武士の向こうを張って地力で戦えるとか地味に凄い子ですよね。
まぁ巻き込んだ負い目から、例え淡い恋心があったとしても踏み込めないってのはわかるし、結ばれるとしたらラストルートで失敗しての逃避行で贖罪的にとか、バッドエンドの香りしかしないのはあるのだけど。。。
あと帝ちゃん可愛い。為朝とはいい酒が飲めそうだ(笑)。
CGは全部で96枚、まぁ値段相応ではあるかなと思いますね。
素材的にやや衣装の幅が狭いのはあるけど、その分表情差分などは多彩だし、出来も安定していて悪くないとは思います。
★BGM・システム
BGMはボーカル2曲、BGMが25曲なので、過去作との比較で言うとやや物足りないかな、という感じ。
ある程度和テイスト強めで統一されて、完成度は高いけど、OPED共に個人的にそこまでガツンとはこなかったので標準的評価、というところで。
システムも特に不便なところはないんだけど、やっぱりここまで長くて選択肢もないとなると、シナリオチャートとか欲しくはなるね。
一々セーブするのも忘れがちだし、こういう感想書く時に、あそこちょっと見たいかも、って思ってスッと出せないのは、ってのはぜいたくな悩みですけれど。
★総括
総プレイ時間が、細切れになり過ぎてイマイチ把握しきれてないけど、多分27~8時間じゃないかなと。
最初の壇ノ浦までで10時間くらい、そこから1~2部は5時間ずつ、3部が8時間弱くらいのイメージで、やはりボリュームは文句なしに素晴らしいものがありましたね。
これだけ長ければルート選択肢やifを作る余力がないのも頷けるのはありますけど……それを物足りないと思ってしまうのはまぁ仕方ないでしょう。
改めて歴史好きにはたまらない出来栄えの作品ではあります。
ただ過去作以上に歴史に造詣がないと面白さが完全に伝わらないという面はありますし、人は選びますかね。個人的には概ね満足できる仕上がりだったと思います。
FD的なもので水分さん攻略できるルートは諦めてないのでヨロ〜!!