2018年01月11日

幕末尽忠報国烈士伝 −MIBURO−

 基本的にこのメーカーの歴史ものは外れないので楽しみに待っていました。

シナリオ(26/30)

 激動の時代を貫く忠義。

★概要・あらすじ

 この作品は幕末という激動の時代を血生臭く彩った新選組の栄枯盛衰にスポットを当てた物語です。
 基本的に史実を丹念に再現しつつ、許される範囲でその解釈を新選組にとって最も大切な忠義心に連ねており、また過去作chushingura関連の世界観ともリンクして、非常に緻密で濃密な内容を紡いでいます。
 過去作をプレイしていなければ楽しめない、というほどではないですが、プレイしていないと裏設定が理解しにくかったりと、大体8割くらいの理解度になってしまうとは思うので、忠臣蔵関連の2作をプレイ済みであることが望ましいとは思います。

 あらすじとしては、郷里から今日に出てきて妹の鞘と二人暮らしをしていた主人公が、ある日押し入り強盗の最中に生まれて初めて人を斬り、そしてそこに駆け付けた新選組の面々に才能を見出されて入隊、新選組が京で結成されてから、戊辰戦争の最期に至るまでを丁寧に追いかけていき、この時代の複雑な情勢や不条理の横行に苦悩する中で、それぞれの信念を、忠義を全うしていく愚直で美しい様を目にしていく、という事になります。

 どうしても新選組は人斬り集団ではあり、その理念も時代の変化に追随出来なかったという面で評価が低くみられる向きもありますが、最新の研究までしっかり網羅した上で、出来る限り新選組にとって義の精神が生きるように解釈する、物語性と構成力が光る作品になりますね。

★テキスト

 全体的に時代背景を意識した語彙の選択と、ADVゲームらしい軽妙で快活なやり取りとのバランスの取り方がとても上手く、また実際の登場人物の女人化、という中でもそれぞれの本質はしっかり残しつつ、その上でカッコよくも可愛い、というバランスを読み口の中からしっかり滲み出るように紡げているのは好感が持てますね。
 解釈が難しい部分などは豆知識等でのフォローも入りますし、歴史的な面でも語句的な部分でも勉強になるので個人的にはこういうのはすごく歓迎ですねー。

★ルート構成

 基本的にはものすごく長い共通の後に、メインの4人のルートが脱落式の選択肢で出てきて、それを全てクリアするとアナザーストーリー3本が解放、その後最後にトゥルーエンドが解放される仕掛けです。
 ゲーム性という点ではほぼ皆無で、あくまでも史実を大きく逸脱せず、その上で個々のヒロインの魅力と生き様をしっかり貫く、という感じですが、新選組の物語としては当然ながら最後まで戦い続ける歳三がメインと言えばメインなので、素直に脱落順に選んでいく方が無難かな、とは思いますね。

★シナリオ

 予想以上に史実に忠実で、本当に細かな動きまで目を凝らし、様々な情勢と擦り合わせて、その都度の選択を極力残忍さから遠ざけ、信念を貫くために止む無く、という色合いを無理筋にならない範囲で描き出すという、非常に発想力と構成力が問われるつくりに挑戦しているなと思います。
 
 ただその枠組み自体が元々自縄自縛というか、過去作での設定に依拠してどうにもゆるがせにできない部分、というのがある故の選択、という見方も出来るのが特徴的ですね。
 忠臣蔵のネタばれにはなりますが、あの物語は現代と赤穂浪士の時代をタイムリープで繋いで、未来からの干渉で本来の歴史よりも更に壮大なスペクタクルを紡いでおり、そのFDではそれによって発生した歴史の歪みを矯正するために、幕末の歴史の流れに彼らが介入する、という物語を既に書いています。

 それ故に長州に対するありようはその中の流れに依拠せざるを得ない上、この時代はこのメーカー的世界観の一貫性を保つ上では、むしろ史実そのものは決してゆるがせにしてはいけない、という制約がかかっていて。
 結果的にその分、新選組を善寄りに見せるために薩摩と甲子太郎が必要以上に悪役を担わされているなぁ、というイメージはありますし、ちなみにこの作品で西郷隆盛の姿を出してこなかったのは、大河に対する配慮だったりするのかしら?なんて思ったりもします。

 加えて新選組自身も、死ぬべき運命にある人は、少なくとも公的な記録では死んだ、という事が証明できないと、ifルートを紡げないという厄介な制約が付きまとう事にはなります。
 個人的にプレイ前は、忠臣蔵と同様に最初は正史を見せて、その上でもしもあの時こうなっていれば、或いはこの人物が死ななければ、的な壮大なifの展開、ラストキャバリエ的な物語を見せてくれるのかなと思っていたのですが、その点はよくよく考えれば無理なのは、体験版の時点で忠臣蔵勢の介入を示唆してる以上当然ではありましたね。

 だから物語のダイナミズムや意外性、という視座では忠臣蔵には及ばない、という見立ては出来ますが、その一方でその制約を掻い潜って、ささやかでもそれぞれの信念・忠義が報われる物語を構築し、それに対する単純な反駁をさせない程度の説得性を綿密に紡げているのは本当に素晴らしかったと思います。
 基本的には歴史の敗者ではある面々を、それでもその生き方は間違いではなかったと思わせるように描くのは本当に難しかったと思いますし、勝者が紡ぐ歴史だけでなく、しっかり土着の細やかな史伝や伝承まで拾い上げて、或いはこういう可能性もあったのかも、と問題提起に留めつつ見せていく手法に誠実さを感じましたね。

 物語そのものは、実際の新選組が歩んだ歴史の凄みと面白さがある以上、それを丹念に追いかけていれば非常にメリハリと奥行きのある読み物に仕上がるのは当然ですし、相変わらず妙に最初から主人公がヒロインズにモテモテな設定そのものは眉唾ですけれど、そういうゲーム的な面も、歴史的な面もどちらも蔑ろにせず、その分大ボリュームにならざるを得ないのがわかっていてもきっちりと書く、という点で充分に名作の評価を出せます。
 PCゲームでも新選組を取り扱ったものはそれなりに出ているとは思いますが、この作品ほどに実際の史実に丁寧に依拠し、細部も見逃さずにしっかり描けているものはないと断言してもいいですし、純粋に歴史を学ぶ、という観点でだけでもプレイする価値のある作品ですね。
 当然幕末史にそれなりの知識があったほうがより楽しめるのは間違いないですが、こういう作品は歴史ものの敷居を低くしてくれると思えます。

 個別の物語としては、それぞれに味が合って面白いと思いますが、特に勇と山南さんの話が好みかなぁと。
 勇の場合はそれ自身というより、物語全体を通しての容保との関わりが凄く好き、というのはあって、歴史の実相としてここまで綺麗だったかはともかく、それを最大限に引き立てる書き方をしてくれていたのが、容保贔屓の私としては満足度が高かった点ですね。
 その上での個別のあのラストシーンは本当に、あぁいいなぁ、と思える終わり方でしたし、そのあたりは忠臣蔵勢と触れ合って、本来あるべき武士道の精神を託されたところから連綿と続くイメージを持たせつつ、本当の意味で武士の時代の終わりを象徴するシーンになっていたと思います。

 山南さんの場合はどうしてもその足跡として影に徹しないとならない面が強いですが、それを逆手にとって新徴組の物語と連関させてきたあたりが心憎いなぁと。
 幕末の史伝としては地味な部類に入る物語ですが、元々一つの組織から生まれた表裏的な存在であるだけに、派手さこそなくともその活躍を広く知らしめる機会をこういうところで得られたのは本当に素敵だと思いましたし、その流儀にしっかり生き様を噛み合わせての物語はすごく染み入るものがありましたね。

 過去作の流れで関わってくる不思議要素にしても、それが歴史の実相に与える影響を最低限に抑えつつ、けれどその力はしっかり継承されていかないと、という部分に力点を置いて、最終的には結構なウルトラCとはいえそれを紡いできています。
 そこまでいくと中々にスケール感があり過ぎるというか、夢が広がり過ぎる部分もありますし、ああいう終わり方でもしかすると次回作に繋げる想いもある?なんて感触もありますが、その点含めてあくまでも事前の制約には抵触しない、バランスの取れた、それでいて一定のカタルシスと納得を与えてくれるラストシーンではあったと言えるでしょう。

 総合的に見て図抜けて素晴らしい、と言い切れるほどではないにせよ、非常に丁寧に史実を追いかけつつ、そこに付随する心理描写の盛り上げ方がとても上手くて、最初から最後まで没頭できる作品に仕上げていると思います。
 その分謎の解釈とか掘り下げとか、そういう部分には向かない作品でもありますけれど、歴史好きなら手にして絶対に損はしない内容ですし、評価としてもこのくらいはつけておきたいですね。
 あくまで個人的には、忠臣蔵のようにスペクタクルが過ぎて少し飲み込みにくい方向性よりは、必然としてそうするしかなかったとはいえ、こういう堅実で王道的な作品の方が心打つものがあったと言えますし、期待通りの面白さでした。


キャラ(20/20)

★全体評価

 非常に個性と躍動感があり、その時代背景と生まれ育ちにも目配りしつつ、ADVヒロインとしての魅力もしっかり紡ぎ出していて文句なしですね。
 あまり一辺倒にならずに人間性に幅を作れているのもいい感じですし、誰もがしっかり存在感を誇示していて面白かったと思います。

★NO,1!イチオシ!

 全体で言うと実は山南さんが一番魅力的に感じましたかねー。
 彼女の死によって新選組の歯車が大きくずれていった、と評されるくらい、人望に厚く武力も知力も兼ね備えていて、懐の深い印象を与えますし、一方で完全無欠なイメージを覆すお茶目な性格も取り入れていたりと、全体の中でもバランス良く美味しい立ち位置にいたなぁと。

 アナザーでのありようも素敵だったと思いますし、彼女の生き方が報われるイメージを強く打ち出せていたのも含めて印象深いです。

★NO,2〜

 当然個性が強烈、という意味で歳三は光っていましたし、嫌われ役として徹する影での細かい配慮や心根の脆さまで上手くバランスが取れていて素敵でした。
 勇もその大らかさと真摯さ、一途な献身ぶりは非常に大将の器として魅力的に映りましたし、上下どちらとの関係性も温かくて良かったですね。

 総司一のコンビもそれぞれに愛嬌と強さが上手く噛み合っていて魅力的でしたし、その他も含めてひとりひとり見ていくと切りがないくらい誰もが存在感ある素敵なキャラに仕上がっていました。
 強いて言うと攻略ヒロインがボインに偏っているのが個人的には不満で、河合ちゃんとか大鳥さんとかめっちゃ攻略してみたかったなー、と思う次第。あのキャラデザは卑怯なくらい可愛いでしょ。

 新撰組以外でも容保様など本当に人品清らかで誠実で心優しくも強く、素敵なキャラ造型になっていましたし、敵役もそれぞれに味が合って良かったと思います。小五郎が出てこなかったのはぶち残念ですけどねー。


CG(18/20)

★全体評価

 いつも通りに安定して可愛くもカッコよく、露出も派手だけど下品過ぎない鮮やかなバランスが素敵でしたね。
 質量ともに高い水準にありますし、満足度は高い仕上がりだと思います。

★立ち絵

 かなり人数がいるのでポーズや服飾などはそこまで幅がなく、ではありますが、感情豊かなイメージをしっかり打ち出すアイコンや細かなアイテムの多用で非常にコミカルな雰囲気は出ていますし、悪くないですね。
 特にいいなと思うのは歳三の洋装正面立ち絵に河合ちゃんかなぁ。益次郎のキャラ付けと衣装も結構好き。あと容保様も気品ある立ち姿で、軍装と和装のギャップも含めて良かったですね。

★1枚絵

 全部で129枚と大ボリューム、出来も迫力ある安定した出来で、綺麗でカッコよく、時には可愛く、場面場面に合わせてのインパクトをしっかり彩りの差で描けているのが見事ですね。

 特にお気に入りは新選組4人組登場、容保様上洛、井上さんの最期、泣き崩れる新八あたりでしょうか。


BGM(17/20)

★全体評価

 楽曲的には過去作ほど派手さはなく、時代性を意識したクラシックの持ち込みなど面白い工夫もありつつ、そこまでインパクトが強くはなかったかな、とは思います。
 質量ともにそこまで秀でてもおらず、ボーカル的にもそこまでガツンと来なかったので、総合的にはこのくらいの数字に落ち着きますかね。

★ボーカル曲

 全部で2曲。
 OPの『艶麗ブラックアウト』は疾走感と迫力があり、カッコよさが前面に押し出されたらしい曲で、こぶしの効いたボーカルもいい感じではありますけれど、個人的にはイマイチサビがピンとこなかったんですよねぇ。
 Bメロなんかは結構好きなんですけど、仇華クラスを期待していたのもあるのでちょっと物足りなかったというのもあります。

 EDの『空燃ゆ先へ −天明−』も、静やかで澄みやかな、殺伐とした世界を走り切ってようやく訪れた安らぎ、というイメージを丁寧に醸した優しい曲ですけど、メロディラインなどであまり好みに訴えてくるものがなかったんですよね。サビのメロディなんかはそんなに悪くないんですけど、もう少し心に響くなにかが個人的には足りなかった感じです。

★BGM

 全部で23曲と、フルプライスとしてはやや控えめな数ですし、クラシックなどを用いているので実質的な新規としてはかなり物足りなくはあります。
 無論数を絞った分それぞれの仕上がりと、作風にマッチした寂寥感や緊迫感、それと日常のほのぼのドタバタのギャップの醸し方など悪くはないですが、突き抜けて素晴らしい、というほどでもなく評価に悩みますね。

 特にお気に入りは『一陣の風』、この透明感と閑寂な雰囲気、哀しみを乗り越えて前に進む為の喪の気配を醸すメロディラインはかなり好きです。


システム(9/10)

★演出

 日常のコミカルで賑やかな演出は健在ですし、要所での情感演出なども様々な方向での演出を上手く噛み合わせて綺麗に、迫力あるつくりになっていると思います。
 今回はモーションムービーがなくなったのは勿体ないな、とは思いますが、それでもこの躍動感はなかなかお目にかかれない出来ですし、ムービーの質も高く安定していい仕事しているといえるでしょう。

★システム

 こちらも基本的なプレイ感としてはさほど問題なく、ですかね。
 強いて言えば最初の選択肢まで凄く長いですし、いざあのシーンが見たい、と思っても振り返りが難しいので、フローチャート的な要素を組み込んでおくとより便利で良かったかもとは思いますが、そう思わせるだけのボリューム感があればこその贅沢な悩みですね。


総合(90/100)

  総プレイ時間36時間くらい。共通が20時間、どこから個別と考えるかは難しいところですが、ともかくそれぞれ個別に入ってから平均して2時間×8ルートくらいのイメージで、ボリューム感という視座では文句のつけようも無い大作です。
 かつそれを、非常に密度の濃い幕末史と丁寧に連動させてバランス良く組み立てているので、どの地点を取っても弛んだイメージはなく、ハラハラドキドキしながら最後まで楽しめる希有な作品と言えるでしょう。

 流石に幕末史の知識皆無で楽しみ切れるか、と言われるとそれは違う、となりますし、過去作との連関性も予想以上に強いので、その点でやや敷居が高い部分はありますが、その点をクリアできているなら文句なく楽しめる素晴らしい仕上がりですね。
 スペクタクルを期待すると少し肩透かしの面もあるかもですが、その分非常に繊細に組み立てたそれぞれの史実に沿ったストーリーの重厚さ、生き様の素晴らしさは天晴れの一言で、歴史に対して誠実なライターさんの姿勢がこれ以上なく感じ取れる意欲作、名作だと思います。
posted by クローバー at 14:16| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年01月09日

月に寄り添う乙女の作法2,2 A×L+SA

 まあ2,1もやってるし、ルミネとアトレはそれなりに楽しみだったので。

シナリオ(15/30)

 その入り口からだとねぇ…………。

★概要

 この作品は、2014年2月発売の月に寄り添う乙女の作法2のFDで、2017年5月発売の月に寄り添う乙女の作法2.1 E×S×PARの姉妹編ともなります。

 コンテンツとしては、本編ヒロインの残り二人、ルミネと朔莉にスポットを当てた後日談と、本編で非攻略キャラだった実妹のアトレルート、それとおまけで過去のHP企画を小編として再録しています。その起動の為だけに2,1のディスク認証がいるとかくそめんどい仕様ですが。。。

★テキスト

 基本的にはいつもの釣り乙シリーズの雰囲気と言えますが、朔莉以外のヒロインは基本的に真面目なタイプですし、シナリオの展開上みんなと和気藹々に、という方向性が他の二人に比べると薄いな、ってのはあるので、その分ギャグのキレも控えめに感じました。
 加えて、今回はそれなりに重い展開もあるのだけど、1の主人公と違ってこっちの主人公視点で重い話になると、中々空気感の面で辛さがより強く出てしまう、ってのはあるなぁって、そのあたりはもうちょっと工夫があっても、とは感じましたかね。

★ルート構成

 一応アトレルートだけ分岐選択肢がありますが、派生エンドも非常にサラッとしたものですし、どうせならガッツリ他のヒロイン浮気エンドもやってくれればいいのにー、とか碌でもない事を考える私。
 つかあの展開ならいいじゃん、そのまま九千代に靡いてしまえよー、と思ってしまうのですけどね、ぐぬぬぐぬぬ。

★シナリオ

 前回と同じように、大枠的に語れる要素は少ないので個別にサラッと。

 朔莉シナリオは、本編で彼女の大願を達成して、その後の目標を見失う中での二人の道行き、というそれなりにシリアスな要素を扱いつつも、基本おふざけキャラではある朔莉がもたらす空気感と慈愛、そして自身の経験からくる大人びた有り様と恋愛との折り合いのつけ方など、色んな意味で主人公は殻を破った上で更に甘え、救われているイメージは強いですね。
 このルートだと主人公の秘密が開示されているのが、って部分で制約はあるし、結果的に阻害されているキャラも多いのでその辺はアレですけれど、エストとルミネが手を携えて作戦会議、なんてノリは中々珍しくもあり面白かったです。

 朔莉も奇矯なキャラではありますが、その親愛と乙女チックな部分をちらほら以上に垣間見せてくれるようになっての可愛さはありましたし、基本的にはすごく一途で真っ直ぐですからね、それでも譲れないものはあるけれど、そのラインさえしっかり踏み越えてくれるなら相手に合わせる度量と余裕を持っている、という点で、一番主人公にとっては寄りかかりやすいヒロインではあったのかなと感じます。

 一方でルミネの場合は、本編でもそうだったけど甘える事で甘えさせる、という双方向の依存的な面は強いですし、世界性も内向きだったのがどう出るかな、と思っていましたけれど、一応はこの二人なりにそこからの脱却と、未来像を描いて進んでいく在り方が見えて良かったですね。
 ルミネにしたって本編の時は相当に融通が利かず、それは今でも名残はあるけれど、それを少しずつ打破して、かつ自分の気持ちに正直に、という面が出てきているのは好印象ですし、猫可愛がり的な態度も含めて実にルミネらしい、とは言えるのかなと思います。

 ただアレですよ、ただでさえシーン数少ないのにこっちは寸切れ的な部分も多いし、折角貴重な黒ストヒロインなのにそれを生かすつもりがさらさらない、ってのがむがー、ってね。いや、そもそもこのシリーズにエロスを求めるな、って話ではあるでしょうけど、にしたって朔莉との対比でも削られ気味ってのはいただけないなぁと。

 そんでこの作品の肝というか、評価の上で肝心要のアトレシナリオですが…………うーん、正直なんというべきか感想に困る内容ではありましたよねこれ。
 流れから言えば、本編の正体バレバッドエンドから、坂道を転がり落ちるように周囲の信頼を失っていって、その焦りがより心理的に主人公を追い詰めていって、それが最後には根源的な欲求、トラウマとも言える観念を刺激して制御できなくしていく、って事になるのですけど、正直この辺はリアルに重いです。

 元々この主人公って、1の時とは違って逆境に頗る弱いというか、基本的に虚勢を張って生きている部分があって、それを本編ではヒロインとの恋愛と服飾の絡みで克服していく過程があったわけで、その克服がないままに弱さに直面して擦り減っていくと、こんな愚かな選択すら取ってしまう、という視座での説得性はあったと思います。
 元々妹に対する想いは劣等感と倒錯的な性観念による弊害的なものではあるし、妹側の献身もある意味では同じように罪悪感が根底にあるとなれば、方向性としてはこうなるしかなかったのか、って話ですけれど、もう少しスタート地点を工夫するなりでマイルドに出来なかったかなぁとは感じます。

 対比的なシナリオとしては、やっぱり1のりそなシナリオは考えなくちゃ、ってなりますけれど、まずあの時代は家族が一枚岩ではなく、その派閥争いの渦中で利用され、翻弄される二人が、それでも二人なりの方法論と真っ直ぐな信念で絆を紡いでいく過程そのものに重きを置いていました。
 そういう積み立てがあればこそ、ある程度禁忌である兄妹での恋愛も、その家族の絆の連結と分かちがたいものに昇華させて説得的に出来た、と言えますし、また一応は異母兄妹、という部分でも多少なりハードルは低かったと言えます。

 一方でこちらは完全に実の妹で、そして家の問題は基本的に解決している、かつその結びつきが二人にとって幸せをもたらすようには、常識的な意味でも精神的な意味でも見えない、って部分で諸々マイナス要素が積み重なっており、そんな血の袋小路をもたらす行為に対して衣遠が否定的なスタンスを取らざるを得ないのも当然とは言えるでしょう。
 やはりそういう面でのハードルの高さがあるに加えて、後ろ向きな観念からその過ちの関係がスタートしてしまったというのは印象として宜しくないですし、そもそもその倒錯観念の起因が二親にあるとはいえ、それを読み手が実感的に捉えられるか、となると、それも難しい部分ではありますからね。

 まあ結果的に、批判され、否定されればこそ燃え上がる思い、的な方向からより絆が強固になり、それを暗黙でも周りに認めさせるために必要な才能を自力で開花させた、という点では似通っていますが、どうしてもこういう重いシナリオは、主人公がネアカならともかくネクラだとより厳しいなー、ってのはありますよね。
 アトレにしても自分の存在意義を元から軽く見做しがち、というラインはあるし、けれどそれを除けばごく普通の女の子、という九千代の説明からも、その関係性を強い信念で貫き切るだけの裏付けを感じにくいのはあって、如何にりそなの内々の応援があったとしてもうーん、って気はしますけどね。

 まあ単純にイチャイチャしてる時のアトレ自身の可愛さは中々でしたけど、その土台の部分にどうしても悲愴感が入り混じっているから、そこに読み手も没入し辛い、っていう面はでてくると思います。
 才能の開花に関しても他のルートに比べて一足飛びな印象は強いですし、正直作り込みとしてはかなり雑だなー、ってイメージで、まあこの一族の話でとなると仕方ない面はあるけど、色々物足りなさは募りましたね。
 そして九千代を攻略できないのは何故なんだぐぬぬぐぬぬ(しつこい)。

 全体的に見ても、エスパルの方がエッジの効いた面白さは強かったですし、評価としてもあれ以上には出来ないな、って感じで、特にアトレルートはもうちょっとどうにかならんかったか、って気はしますねぇ。


キャラ(19/20)

★全体評価など

 基本的にはいつものノリ、と言えばそうですけれど、全体的にマイナスの要素が色濃く出やすい設計になっていましたし、その中でのヒロインズのプラスアルファ的な魅力が際立っていたか、と言われると微妙な感じではありましたかね。
 その点でもエスパルの方が面白かったかなぁ、ってのはあるし、少し割り引いておきたいところです。


CG(18/20)

★全体評価など

 通常絵は全部で48枚と、エスパルとほぼ同等ですが、しかしルミねぇだけ差別されてるのは気に入らんぞぐぬぬ。
 出来そのものは安定して可愛いですし、特にアトレ関連はかなり絵の面だけで言えば良かったと思うのですけれど、総合的にはこの辺が無難なラインではあるかと。

 ルミネの椅子座り猫可愛がりに、アトレの騎乗位、頬添えあたりは超好きです。


BGM(15/20)

★全体評価など

 新規ボーカル1曲にBGM4曲と追加分は少なめ、そしてボーカル曲も珍しくかなりしっとりしんみりした雰囲気に仕上がっていて、ある意味で今回のシナリオの方向性にマッチしてはいますが、曲としてガツンと来るところは少なかったなぁと。
 どうしても未だに最初のDesireを超える曲が出てこないシリーズではあります。鑑賞画面のイントロ聴くだけで結構心が揺れるくらいにはあれは好きなんでねぇ。


システム(9/10)

★全体評価など

 基本的にエスパル準拠で、いつも通りに軽快でメリハリの効いた演出は楽しかったです。


総合(76/100)

 総プレイ時間8時間。朔莉とルミネが2時間ちょいでアトレが3時間弱、おまけが20分程度ですね。
 やはり値段相応、と言えるほどの尺ではありませんし、内容的にもエスパルの方が面白かったなー、というのが正直なところ。全体的に陰性ヒロインがこっちに揃っていた部分もあるけれど、結局この2のシリーズはエストが全力で光り輝いてないと、主人公の陰性を上手くフォローしてくれない感じはあるんですよねぇ。
 特にその弱さを受け入れてしまう方の身内になると、ってのはあったし、その辺で酌量の余地はあったと思うけど、ちょっと出来としては残念でした。感想文量的にもさっぱりやる気ないのが見え見えですしね(笑)。
posted by クローバー at 11:50| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年01月05日

眠れぬ羊と孤独な狼

 基本的に手を伸ばさないタイプの作品なんですが、これはタイトル出た時から結構気になっていて、体験版も普通に面白かったので、折角だから買ってみよう、という感じで。

シナリオ(20/30)

 宿業の坩堝にあればこそ。

★あらすじ

 主人公は歌舞伎町をねぐらに、ヤクザに雇われる殺し屋。
 かつてのトラウマから長く不眠症を患い、誰かを殺す力が自身に備わっている事=誰かを殺す事以外に束の間の安眠を貪る特効薬を持たないが故、それより他の生業に鞍替えする事も出来ずに、社会の裏側の深淵で今日も今日とて人知れず手を汚していました。

 しかし彼の運命は、とある相手との邂逅で大きく変転していきます。
 パトロンから久しぶりの殺しの依頼があり、久方ぶりに安眠出来ると安堵した夜、ねぐらにしているラブホの室内で猟奇的な殺人が行われ、そしてその始末と犯人捜しをパトロンに押し付けられて、殺しの高揚が消え去りまた眠れぬ夜を過ごして。
 依頼されただけではなく、その殺人者を自分の手で葬らないと安息は訪れない、という自覚から、些細な手がかりを基に調査を進めていくと、比較的直ぐにその殺人鬼に出会うことが出来て。

 しかしその姿は予想していたものとはかけ離れたうら若き少女のもので、けどその愛らしい外見とは裏腹に、無造作に繰り出される常軌を逸した身体能力での殺人スキルは凄まじく、対峙した主人公も名うての手練れでありつつ、それでも防戦一方にならざるを得なくて。

 そしていよいよ身体も極まった、という時に、主人公は半ばやけっぱちに起死回生の手段を見出します。
 それは、この殺人鬼の少女を性的に蹂躙するというもので、これまでセックスを殺人に誘う手段としてしか用いてこなかった少女は、自分の殺意を前にしてなお自分を女として見据える眼前の男に、突発的な恋情を抱いて。
 一方の主人公も、彼女を性的に殺す=エクスタシーに押し上げる事で、代替的に安息の眠りを手にする事に気付いて、あざみと名乗ったその少女を無碍に突き離す事も出来なくなります。

 けれどその少女はパトロンが探している殺人鬼でもあり、そのまま匿っているのは自殺行為でもあって。
 また同時に、歌舞伎町に様々な不穏な噂がばらまかれ、それはかつての抗争に明け暮れた時代の歌舞伎町の残滓を刺激するに充分なものであり、錯綜する思惑の中で誰が味方で誰が敵かもわからない混沌と化していきます。

 修羅の顔を浮かび上がらせた退廃の街・歌舞伎町の中で、主人公達は如何なる形で身を凌ぎ、生存本能の赴くままに突き進んでいくのか?
 これは惨憺たる宿業の渦に巻き込まれた、行き止まりの渦の中で足掻く愚かな男達と、それでも愛や希望を夢見る浅はかな女達が繰り広げる濃密で凄惨なヒューマンドラマです。

★テキスト

 基本的にはハードボイルとのイメージが強く、繰り返しや強い言葉の多用と、冷徹なほどに研ぎ澄まされた現実認識の様を淡々と叙述する事で、熱量の緩急をうまくコントロールしつつ、シニカルな世界観を巧みに構成しているなと感じますね。

 言葉の選択なども世界観に合わせた品性と力強さがあり、比較的意図がはっきり伝わりやすく、内容的に生産で救いがない理念なのは別として、それを読み手に伝える語彙の選択や文章構成の面では中々の手腕だなぁと思います。
 いい意味でどういう方向にも容赦がないので、そのあたりまで全面的に好みと言えるかは、個人的には微妙なラインではありますが、少なくとも語りたい理念や状況展開の裏側などは読み解きやすいですし、安定したテキストでしたね。

★ルート構成

 基本的には最初の選択肢で大きくルート分岐して、それぞれのルートでバッドとかシーン回収などの
派生はあるけれど、大きく言えばふたつのエンディングが用意されています。
 その上でタイトル画面からトゥルーエンド的なルートが解放されて、それでコンプリートと比較的コンパクトな構成にはなっていますね。

 難易度的には特に問題なく、こういう類のゲームですから一つの選択が命取り、運命を大きく変えてしまうという突飛さも受け入れやすく、取り立てて問題はないと思います。

★シナリオ(大枠)

 基本的には徹頭徹尾殺伐としていますし、生き馬の目を抜くような生存争いの中で、それぞれが身の丈に合わない栄華の夢を見つつ邁進する様はいっそ滑稽とすら言えます。
 その一方で、そんな風に強者をより強い力へと駆り立てる人間原理の根本を主人公の体験知から究極的に掘り返し、その極北に至っていればこその恋愛模様を付随させて展開していく様は中々にルナティックではあり、けれどその地平だからこそ剥き出しになる人間性と、それでも失われない愛の凄みが見え隠れしていて、色んな意味で平凡な世界観では決して投影できない理念がくっきり浮き彫りになっているなぁ、と感じます。

 ただ一方で、ゲーム性として見た時に、それぞれのルートで敵役がコロコロ入れ替わったりするダイナミズムの必然性を、果たしてその主人公の選択だけで担保出来ているのか?という疑問は付き纏いますし、特にラストルートなどは、前の二つでその方面の蹂躙が発生しなかった理由を見出しにくい点でも判断に困るところです。
 それぞれのルートがタイトルとリンクする形で『眠れぬ羊』『孤独な狼』『眠れぬ羊と孤独な狼』となっているあたりからも、そのテーマ性ありきの構成、という色合いは強く、主人公がこうしたから先にそちらが触発されて、的な、因果関係をゲーム性の中で紡いでいく面での面白さはあまりない、とは言えますね。

 ただその分、一見それぞれに交わることのなさそうな立場のキャラが、精神的な側面や血統的な部分、或いは信義に愛といった、本来この世界では胡散臭くて振り捨てられそうなものなどで薄く広く繋がっていて、その関係性が露呈するたびに哀切が深まる状況に変転していく、という面での構成力は素晴らしいものがあったと思います。
 弱肉強食の論理が残忍に働いている分だけ、凌辱的なシーンも呼吸をするように平然と混ざり込んできますし、けれど少なくとも登場人物の現状においては、好き好んでその修羅に首を突っ込んでいる面はあるので、そのあたりの人の業のどうしようもなさと噛み合わせで緊迫感と意外性をしっかり担保しているとも言えるでしょう。

 その上で、法や倫理、秩序のお題目の影に隠れた、原初的に人を縛るルールである暴力、その発現の理不尽さを、主人公やメインヒロインであるあざみの体験から綿密に定義し、それらに為すがままに蹂躙された二人が行き着いた答えが非常に冷徹でありながらも説得性は高いものになっていて。
 かつ、そういう極北の原理原則を骨身に染みて理解し、それに抗う事が生き方に沁みついている二人だからこその、一般的なそれとは位相の違う恋愛の在り方にもしっかり理路が通っていて、様々なものを踏み台にしつつもそれを貫き通す部分では純度の高い物語とも言えます。

 個人的な解釈では、眠れぬ羊という在り方と、孤独な狼の在り方は表裏一体ではあり、けれど最初の二つの個別においてはより優位性が強い方が決定づけられて、完全に融和、高い次元での理解に至らないままに、それでも必要だから傍にいる、という色合いが強く出ていると思います。
 それを二人の過去の因縁や、状況の変化によって引き出されたより根源的な本能の在り方などから高みに昇華し、結果としてああいう形で愛を実証し寄り添い続ける、というのはいかにもな結末ではありましたね。

 多分タイトル画面が変わった選択が求められるトゥルーだと思うのですが、普通に考えた時にはそれってすごくビターなエンドですけれど、でも結局、どちらかが犠牲になって相手を極北から、辛うじて日常の地平に下ろしたとしても、やっぱりそれは幸せとは程遠い終わり方の気はします。
 いわばこの世界に存在してはいけない愛し方を、ほとんど唯一無二の相手に真っ直ぐぶつけ合う事で、それを押しとおした後の眠りの静けさ、満足感は傍目で見る以上に二人にとっては大きかっただろうと思えますし、この二人の到達点として納得のいくところはありましたね。

 ただ、そういう理念的な面ではかなり面白かったですが、それの土台になる抗争や、それに伴う人間関係の奥深さはちょっと足りなかったかな、とは思うのと、後純粋にフルプライスとしては尺がちぃとも足りんだろ、って感覚は付き纏いますね。
 このメーカーの他の作品やってないのでその辺がどうなのか、ってのは気になりますが、少なくともゲーム内時計のプレイ時間で12時間ちょっとで終わってしまったのはうーん、って感じで、完成度そのものは高いと思うんですけれど、だったらもう少しお安くしません事?とは言いたくなりますね。

 なんだかんだでプレイ中はかなり楽しめましたし、ペシミスティックな世界観の中で紡がれる独特の理念の下支えの読み解きも興味深かったですが、点数としてはこのくらいが限界かなー、というイメージです。


キャラ(19/20)

★全体評価

 誰もかもが自身の欲と感情に忠実なイメージの中で、それは個性の彩りを強くするという意味では成功ですけれど、単純に好きになれるか、という部分では難しいところもあるわけで、ここは評価に迷うところですね。
 勿論その表の顔だけでない、内面に秘めた切なる想いや存在理由に感じ入るところもありましたが、総合的には救いがない面が強く、それにやっぱり純粋に可愛いヒロインが皆無に近いってのはねぇ、ってなるかなぁ。。。

★NO,1!イチオシ!

 ……………と言えるほどかはなんともですけど、流石にここはメインヒロインのあざみを挙げるべきでしょうか。
 彼女の境遇だけで言えば本当に主人公以上に不憫そのものですし、それだけの仕打ちを受けた結果としてああいう歪み方、壊れ方をしてしまったのは致し方ないだろう、というのはまず当然あります。

 けれどそうであっても、どれだけ人の業、特に男の強欲さや浅ましさを目にし続けても、心のどこかで乙女的な観念は持ち続けていたのは面白いところで、そのあたりは兄の影響も多少ありそうですけれど、結果的に大切なものを守る為ならいくらでも殺人を厭わない、という狂気的な在り方の中でもヒロインらしい魅力を醸せる、というバランス感が凄いなぁと感じました。
 素直に甘えたりはしゃいだり、身体を求めてくる様なんかは普通に可愛かったですし、そしてそれを失うまいと足掻く悲哀まで含めて、メインヒロインとしての風格はあったと思います。

★その他

 見た目的には美玲が当然一番好きなんだけども、彼女も敢えて危険に首突っ込んで陶酔してるような危ない子ではあるし、ルートによってはその報いをこれ以上なく味わう事にもなるからなんともなぁ、って。
 ああいう背伸びや火遊びの誘惑に呑まれる様も人の業と言えばそうだし、なまじ怜悧で頭もいいからこそ過信する、なんて部分も含め、個性的な部分ではあまり好きになれなかったのが残念。

 想い、という部分ではダルマ女さんがやっぱりあまりに一途な壊れ方で感じ入りましたねぇ。
 余りにも理不尽な男の不器用さを真っ直ぐに受け止め過ぎた、ってのもあるし、それでいての狂言回しの立ち位置は本当に随所で光っていて、それだけに最後のルートで、少しでも心が通い直すシーンがあったのは救われたとは思います。無論その後が酷いんだけどね。。。

 男キャラだとやっぱり東儀の信念の重さと強さ、隠し持った熱情の迸りに関しては面白いものがありましたね。
 ただせめてもう少し抵抗させてやれ、って気はするし、そのあたりのなんつーか男の敗残の美学?的なものを一顧だにせず、あまりにも殺戮の現実に即して淡々とこなしてしまったのは、エンタメとしてはもうちょいどうにかならんかったん?って気はしますけどね。


CG(16/20)

★全体評価など

 基本的に好みの絵柄ではないのと、立ち絵以上に1枚絵がピンとこない、ってところはあって、一方で作風に合わせた雰囲気面ではかなりしっくれくるところがあったので、そのあたりの折り合いでこのあたりですね。
 量的にもフルプライスとしては褒められたものではなく、立ち絵もかなり差分が少ないつくり、1枚絵も74枚とそこまで多くなく、もう少し遊びが欲しいとは感じましたかね。


BGM(16/20)

★全体評価など

 鑑賞画面にBGMがないという時点で評価が難しいのですけど、プレイ中に耳にした限りでは全体の出来は悪くなかったと思います。
 雑駁とした雰囲気と重圧感、神経がちりつくような気配を醸しつつの、どこかシュールで気怠さを残す曲のイメージは作品にマッチしていました。

 ボーカルも1曲だけと少ないですが、OPの『Dance of Wolf』はかなりいい曲で、ハードボイルドな雰囲気を強く押し出しつつ、悲嘆と残酷の中でそれでも運命を切り拓く強さをメロディラインとボーカルの強さで上手く表現しており、特にサビのメロディは結構気に入ってます。


システム(8/10)

★演出

 日常演出はあってなき、ですが、その分殺伐とした部分の雰囲気作りはとても上手く、これはこれで特色と言えるのでしょうね。
 ムービーも伽藍の上に築かれた人の業の様を上手く色使いなどで投影していて印象深いですし、全体的には悪くない出来だと思います。

★システム

 こちらもやや独特のシステムではありますが、必要最低限はしっかり完備していますし、特に問題はなく、プラス要素も特になくですね。


総合(79/100)

 総プレイ時間12時間。共通4時間ちょいに、各ルート2,5〜3時間くらいのイメージですね。
 短い分だけ密度は高く、中弛みなどない緊迫感は評価出来ますが、やっぱり値段から踏まえても尺が短いのはかなり致命的かなあとは感じます。
 素材投入量の面でも覚束ないですし、物語の発想や作り込み、理念の部分で一定の評価は出来ますが、基本的にこういうダークネスな雰囲気の作品が大好き、って人種でもないので、トータルするとこの辺りに落ち着きますかね。

 過去作やってないので何とも言えないですが、それなり以上に評価されているのを思えば多分これの方が外れ色は強かったかな?と思いますし、いずれ気が向けばその辺も手を出してみるかも、と、そう思えるくらいには惹かれるポイントもありましたけど、コスパの面では満足度はかなり低いので、ここからこのメーカーに入る、というのはあまりお勧めしない感じではありますね。
posted by クローバー at 06:30| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年01月02日

金色ラブリッチェ

 ヒロイン全員金髪という斬新なコンセプトも面白かったですし、絵やキャラ、シナリオにCVなどそれぞれの部分で期待値を高く持てるゴージャスな布陣だったので迷わずに購入。

シナリオ(27/30)

 巡り巡る、ゴールデンタイム。

★あらすじ

 主人公は幼い頃から曲がった事が苦手で、常に真っ直ぐカッコよくありたいと思っていました。
 しかしその正義感を発揮した結果、元々の学園の仲間たちに迷惑をかけ、その上なにひとつ物事がいい方向に進まなかったという現実に打ちひしがれ、逃げるように学園を退学して、先の当てもないままブラブラと日々を無為に過ごしていて。

 そんなある日の昼、目の前で豪奢な服を着た見るからにお姫様らしい少女と、幾人もの黒服が言い争っている場面に遭遇します。
 丁度その直前に更に気分を挫かせる事態があったからか、半ば自暴自棄に近い精神性の中でその争いに割って入り、あろうことかそのお姫様らしい少女を抱きかかえて町中を逃亡する、という暴挙に出ます。

 幸いにもお姫様自身はそれを面白がってくれて、彼女の目的地である学園に送り届けたところで御用になり、その処遇で喧々諤々しているのを、友達同士の悪ふざけ、という形で穏便に取りまとめてくれて。
 ただしその少女・シルヴィは正真正銘の王女様であり、そのまま無罪放免としても国の面子やらが関わり主人公はただでは済まない、という話になって、彼女が通うノーブル学園に主人公も共に通ってほとぼりを覚ます、という事になります。

 しかしその成り行きを面白く思わない面々は多く、シルヴィの傍にいる御付きのエルや友達の玲奈などそこそこ穏当に歓迎してくれる相手もいるものの、基本的には庶民・珍獣扱いで、しかも今はほぼ女子寮として機能している学園寮に住むという事で、ますます警戒され、忌避される事となります。
 特に同じクラスの委員長の絢華の、ギリギリの嫌味な言動にくるまれたあからさまな軽蔑と嫌がらせは主人公を萎えされるものでしたが、それでも他に行き場もない主人公は、少しずつでもこの学園に足場を作るべく努力して。
 その流れで明るく闊達な後輩の茜や、隣のゲストルームに住む、喫煙で停学を食らうような金髪の不良である理亜と仲よくなり、元々の人間関係も含めて色々と足掛かりにして、ちょっとした事件を契機にようやく領内に蔓延る誤解や不満を払拭する事に成功します。

 またその過程で、自分によくしてくれる相手、特にシルヴィが自分と過去に出会って仲よく遊んだ幼馴染なのではないか、という想いは強くなっていって、果たしてそれを究明していく事で、シルヴィのみならず理亜もその当時出会ってよく遊んでいた相手と気付いて、主人公は自身の記憶の朧さを不甲斐無く思いつつも、一先ず一定の関係性が確立した事で落ち着きを得て。
 そんな日常の中で、とりわけ自身の周りにいる面々が、この年でしっかり将来のビジョンを持ち、自分を磨いてカッコつけて生きているのに気づき、対して前の学園の諸々でその芯を失い漂流している自身の置き所のなさを情けなく感じます。
 理亜がたびたび口にするゴールデンタイム、世界が一番輝いている瞬間を大切にすべきだという心情にも触発され、せめて特に気になる相手に相応しいくらいの自分の在り方を見出したいと考えるようになっていくのでした。

 これは、外向きにもカッコをつけ、かつ自分自身にも嘘をつかないカッコいい生き方を体得し、永遠に続く金色の時間を謳歌するために走り続ける、愛と絆と勇気の在り方を体現した青春物語です。

★テキスト

 全体的に非常にバランスに優れた、テンポよくそれでいて情緒深い味わいのあるテキストだなと思いますね。
 それぞれのキャラの個性が、髪の色という部分で差別化できないのを踏まえてかより喋りに鮮明に表れていて、その差異とノリの良さだけでもかなり面白く、それが融合しての関係性の進化も踏まえて、非常に掛け合いに魅力のあるテキストにはなっています。
 その内容的にも非常に卑近な部分から高尚なところまで幅広くカバーし、その中でのお嬢様と庶民のカルチャーギャップ的なものを、決して嫌味にならない程度に面白おかしく綴っているのが特徴的かな、と感じます。

 その上で要所要所にそこそこ小難しい哲学的な会話も織り交ぜてきて、このあたりは基本的にエリートしか通えない学園だからこその知的水準を思わせつつ、それを決して言葉遊びに終わらせずに、日常の中に
実践的に落としこんでくるのが上手だな、と。
 特別ハラハラ感が大きい物語ではないですが、それでも全くダレることなくスラスラと読み進められますし、ささやかなところからの蓄積による緻密な重厚感、伏線の説得性も充分に保持していて、最後まで楽しく
読み進めることが出来ましたね。

★ルート構成

 基本的に共通で好感度を蓄積して、というパターンとは違い、ある程度平均的に好感を紡いだ段階でキャラ選択があり、そこから特定のヒロインに対して改めて恋愛に至るまでの感情を育んでいく、という、プレイヤーの恣意的な選択性がより強く裏打ちされるつくりではあります。
 かつ最初にクリアできるのはシルヴィ・玲奈・エルの三人だけで、このうち一人クリアするとサブの茜に進めるようになり、そして全員クリアするとグランドルートの理亜が開陳されるという、見せたい構造がはっきりと明示化された構成になっていますね。

 どうしてもこのつくりですと、どうしてその子に傾倒する事になったか、という主人公側の動機がちと弱く感じる、という弱点は出てくるのですけれど、その分共通をかなり長くて、誰に傾斜しても最低限の担保は感じられるように配慮はされていますし、構成面での意義がより強い仕組みの作風ですからまあこれはこれで、という感じです。

 最初の4人はどういう順序で攻略しても構わないとは思いますが、強いて言えばシルヴィはいっとう最初か、理亜の直前のどちらかがおススメかな、と感じます。
 シルヴィルートは基本的な伏線を全て網羅していますので、その驚きを最大限に楽しみたいなら最初が良いですが、そうするとエルと玲奈ルートは少し焼き直し感が強くなるかな、ってのはあって、最後にすれば驚きは薄いけど全てが綺麗に収束していく在り方になるほどお姫様特権パワーえぐい、って納得は出来るので、そのあたりは好き好きでしょうね。

★シナリオ(大枠)

 ざっくり見た時に、この作品の大切なイシューは「カッコつけ」と「バランス」になってくるのかなと思います。
 恋愛模様としてはそれぞれのヒロインの気質に沿う形で主人公も自身を寄せていって、その上で様々な形で追いかけてくる過去や、それに付随しての柵に苦慮・葛藤しつつも、最後には自分なりのカッコよさと、それを貫くために必要な立ち位置をしっかり見出していく、という流れになっていて、特別に派手な要素や不思議要素はほぼ一切ない分だけ、非常に地に足がついた説得性の高い内容になっているといえるでしょう。

 誰しもが外側に見せている、俯瞰的に見た時の自分と、自分だけが知っていると思いがちな本当の自分との乖離に悩んだことはある筈で、物語的にそのあたりが扱われるときに、どうしてもそれが一元的な視野でしか語られないことが多くなりがちですが、この作品はそのあたりのバランスが秀逸です。
 結局のところそれはどちらも大切な自己を司る要因であり、その外向きにカッコつける事と、自分が自分を恥じずにいられる、カッコよくある事、それが全く同一である必要はなく、どうやって折り合いをつけていくか、かつ刻々とそれが移り変わっていく中で、如何に中庸を見極め維持し続けていけるか。
 そしてそういう生き方が出来れば、人生は常に光り輝くものとなる、という思想性を、それぞれのヒロインの尺度で語っているのが非常に面白い部分だなと感じました。

 基本的に主人公は元々、その表向きのカッコつけと内向きのカッコよさがほとんど乖離していない、真っ直ぐ淳良な精神性があったと考えられます。
 それ故に過去のシルヴィや理亜との、それぞれに全く違うベクトルで特別な、その乖離を余儀なくされる二人に強烈な印象と影響を与えたと言えますし、ただしそれは、この学園に来た時はその直前の失敗が尾を引いて、自信を失いぐらついている状態と見て取れるでしょう。

 その自信をある程度共通の中で取り戻しかけて、かつそこで自分より先に進んでいる、と感じさせるヒロインズに触発されて、という構図故にこそ、その本質をある程度説明的に順々に置いていっても不自然さがないのが見事な構成であり、そしてその到達点において象徴的なのは、どのルートでも必ず開催されるクリスマスパーティーのシーンでしょうか。
 あのシーンは大袈裟でもなくシルヴィの理亜の悲願達成の場面ではあるわけで、そこにどのくらい主人公の想いが介在していたか、というのは、それぞれのルートの着地点、中庸の在り処を暗示的に示していると思えましたし、更にはヒロイン側の精神性の乖離の様を類比的に示しているとも言えますね。

 そういう部分での納得はしっかり用意して、かつ各ルートの内容としても、一部怪しい展開はあるものの、ある程度は内的動因で進んでいく形になっています。
 エルルートのSNS問題とか、シルヴィの似非婚約者とか、あのあたりは主人公が介在していなければ国歌権力パワーでなんとかしたんだろうな、とは思えるし、逆に上でも触れたパーティーの件の様な、内的動因で絶対的なものはゆるがせにせずきっちり組み込んでいる、そのあたりの、シナリオとしての盛り上がりと全体の整合性への気遣いのバランスもしっかり取れていました。

 その分全体的に奇を衒う部分や、急激なアップダウンなどは少なく、非常に王道的で筋道も予想し易い作品ではあると思いますし、その上で掲げたテーマ性に対する答えを敢えて一つに固定しない柔軟さもあって、精密に組み立ててありつつも最後は読み手の解釈に託す、という思い切りまで含めて、本当にバランスを意識しているのかな、と思わせますね。
 それはグランドルートの理亜シナリオの内容にも存分に波及していますし、総合的にどうしても永遠ではあれない一瞬の煌きの儚さを感じさせつつ、それでも、という力強さを滲ませた素敵な物語に仕上がっていたと思います。

★(シナリオ・個別ネタバレ)

 基本的な個別評価としては、理亜>>シルヴィ>エル=玲奈>茜くらいで、これはそのまま上で語ったヒロインの乖離度に比例しているイメージです。

 元々彼女達はそれぞれの立場で、カッコつける為の外面と、自分に嘘をつかない、裏切らないカッコよさに対し、その乖離度の差はあれしっかり折り合いをつけて生きてきた、と言えます。
 それが主人公の介在と、それに伴う状況の変化で大きく揺らぐ事となり、恋愛要素も絡んで改めて着地点を見出すまでふらついてしまう様が描写され、それを感得した主人公にしても、自身がどういう立場にあれば其の一番の支えになれるのか、というのを見出していく事になるので、その点のスケール度がシナリオの面白さにも率直に反映している気はします。

 なので、元々の主人公と同様に乖離度がゼロに近い茜ルートはいかにもサブらしくあっさりした恋愛模様と、支えの道の見出し方になっていると思いますし、社会的ステータスでは一番近しいところにいる玲奈も、その精神性の面での乖離があればこそ多少なり恋愛そのもののハードルが高くなっているとはいえ、結ばれる事でより高いステージを求められる構造ではありません。
 そして社会的な面、精神的な面でのハードルがそれぞれ相応に高いエル、精神的にはややベクトルの違うところで難しく、社会的にはより難しいシルヴィあたりになると、その外面的な矜持を支えるべく主人公の奮起と、より覚悟を決めた踏み込みが必要になってきて。

 逆に理亜に対しては社会的な要素は皆無に等しいけれど、将来性の部分、そしてなにより精神的な部分でのハードルが大きく聳え立っていて、それらを総合して一緒くたに乖離度、という言葉でまとめてしまうのは乱暴かもしれませんが、便宜的に整頓しやすいのでそれを物差しに細かく見ていこうと思いますね。

 まず茜に関しては本当にシンプルなボーイミーツガールというか、茜らしい思いこんだら猪突猛進で引くことを知らない求愛に絆されて、という面が強いですし、ある意味主人公が何もしなくても勝手に引っ張られていく話と定義できます。
 無論その中での茜の魅力は、どちらかと言うと恋愛面では煮え切らない部分を見せる割合の高いこの作品においては清涼剤的な役割を果たしていますし、これはこれでの良さがありますが、主人公が過去にはっきり向き合わなくてもいい、という部分も含めてやはりおまけ的な要素は強いと言えるでしょう。

 玲奈シナリオは、仲良くなるまでのハードルが低い分だけ、その居心地の良さに先に進むのが難しい、という、いかにもバランサー同時の臆病さが露骨に表面化した部分はあり、それを超越していく契機として
あんな飛び道具を用いてくるのはかなり変化球とは言えますね。
 絢華も含めて、身体の方から結びついて、その既成事実に心を追いつかせていく形は純粋な恋愛譚として綺麗とは言い難いところですが、ある程度等身大の、庶民的ななあなあさ、という意味では、手法はともかく頷けるところもありますし、その点できちんと差異化を図っているのかな、というイメージです。

 またこのルートでは、主人公の直近の過去、この学園に来ることになった根源的な原因の部分に対してのアプローチが丁寧に描写されており、シルヴィルートでのネタバレを上手く糊塗しつつ、この方面での支えならば、というやっぱり身の丈に合った物語にはなっていると言えます。
 ぶっちゃけシルヴィルートあたりになると、この点の問題はシルヴィが全力お姫様パワーで力づくでなんとかしちゃうわけで(笑)、流石にそれに情緒は薄めですし、こうしてしっかり過去に向き合って、今の自分の居場所がそこにはない、と納得して、新たな中庸的立場へと軸足を置き換えていく、その点は高く評価出来る内容でした。

 玲奈自体も庶民的な明け透けさ、気安さはありつつも、それでもヒロインとしての可愛げや愛らしさはしっかり完備していて、その上で主人公を支えてくれる精神的な強さと優しさが透けて見えるところに魅力がたんまりとあったと思います。
 他のルートでも存在感のあるヒロインでしたし、この子のバランサーぶりがあればこその架け橋、という部分、けれどバランサー故の弱点も応分にあると、そのあたりの配慮が行き届いたシナリオでしたね。

 エルに関しては一連のSNS騒ぎが他ルートであったとして耳に入らなかったの?的な違和感は少々ありますが、総合的にはそれを契機に彼女の内面に踏み込んでいく、という流れを上手に組み込めていたと思います。
 彼女の場合は社会的な立場もそうですが、どちらかと言えばかつての妹であるシルヴィへの負い目による、精神的な自己規定の窮屈さをどう解していくかが課題になっていますね。
 本当は違う本音を押し殺して、外面に無理やり合わせて生きようとするのを、シルヴィと二人掛かりで緩和させ、本当の自分を認めた上で、それでも当然大きな比重を占めるシルヴィとの関係にどう折り合いをつけていくか、その葛藤が一番はっきり見えてくる話ではあります。

 エル自身の立場としては、フェンシングの選手としての未来をどうするかという部分がファクターになると同時に、主人公もまた今の自分から脱皮して、彼女を近くで支えられる立場にならなければ、と奮起する要素になりますし、それは必然的にシルヴィとの距離も縮まることを意味していて。
 上でも触れたように、クリスマスパーティーでのシルヴィとマリアの共演に際し、その裏側をどこまで知り得ていたのか、という部分は、主人公の社会的立場の着地点の高さ(無論実証的に、ではなく、その時点で思い描く高み、という意味合いになりますが)と比例するのかなと思っています。
 当然それに見合う外面との折り合いをつけるのも難易度は高めであり、ただそれを、一旦覚悟を決めれば真っ直ぐ立ち向かっていけるひたむきさと淳良さがあるのは、やはりこの主人公らしい美点で、それでもまだあの二人の絆と、約束の影にある思いを知るに足りない、という作品的な割り切り方も好きです。

 実際このエルルートでは、まだ前もってマリアの正体を知る、というラインまでは至っていませんし、色んな意味でこの三人のルートに入った時の理亜の心情は複雑だったろうなぁ、と。
 好きな相手が幸せであってくれればいい、という健気な想いはあっても、その相手がシルヴィの時ほど純粋な祝福や、未練を残さずにもいられないでしょうし、そもそも主人公が理亜の性質を全く気付いてないから、平気で隣の部屋に彼女連れ込んでイチャエロイチャエロしてるわけで(笑)、その辺は本当に不憫だと思わざるを得ないですねー。

 シルヴィシナリオの場合は、ここまでのルートのトピックや伏線を全て糾合して、非常に綺麗に並列させて矛盾を要さない、というゴージャスなつくりにはなっていて、かつそれ以上の秘密の開示にも繋がるところに、表向きのメインヒロインならではの完成度の高さと魅力を感じさせてくれました。
 ルート構成で書いたように、このルートを理亜の前に持ってくると、大抵の謎はある程度解決済みでそれを別のアクションで解決しつつ、他ではそこまで踏み込めなかった三人の過去についてがメインになっていく、という感じで、驚きを最大限に得たいなら最初でもいいですが、筋道を追うならラス前がベストなのかなとは思います。

 あと恋愛面で、社会的なハードルの高さを一々示唆しつつも実際はそこに重みは薄く、互いの立場と想いを誤解してのすれ違いを強めに打ちだしてきたのはちょっとだけ間延び感はあり、無論その過程で開陳できる様々な伏線もあるので悪くはないのですが、恋愛ものとしては意外性は薄かったと言えそうです。
 ただ、元々示唆されるハードルの高さに怖気づかずに、それに見合う自分になる前向きな努力をする主人公と、それを眩しく眺めつつ全力で応援する理亜、という構図は、その想いの源泉を思えばやはり痺れるものはありますし、そこまでいくと玲奈の立ち位置では無理な、位相の違うバランサーとしての理亜の存在感が際立っていましたね。

 また当然ながらこのルートでは理亜の真実までは踏み込まずに、二人の将来を明るく見据える形で終わっていくので、この時点での盛り上がりそのものはそこまででもないのかな、とは言えます。その分だけ、理亜ルート攻略後の追加イベントの切なさと愛しさの破壊力は中々でしたが。
 こういうきめ細かい仕掛けは非常に印象的ですし、同時に避けえない一抹の哀愁も孕んでいて、かつ或いは理亜ルートの最終的な着地点もここにあるのかもしれないなぁ、と思わせるのが素晴らしい複層性、解釈の幅を生み出していて気に入ってます。
 敢えて言えば、このルートは理亜と対になって初めて真価を発揮するシナリオとも言えますし、個人的な解釈ではシルヴィの存在とその支えの示し方こそが、理亜をここまで生かしてきた最大の原動力とは思うので、その意味でも互いにその点に遠慮はない、という意味でスッキリ清々しさはあるのかなと思いますね。

 んでグランドルートの理亜に関しては、まずすぐ上で書いた理亜が生存するための原動力の部分の補足から
入りましょう。
 単純に見れば、理亜があの時点から10年生きてこられたのは、あの時点で空っぽに近かった自己を形成した主人公への恋心と、シルヴィとの友情&約束ではあったと言えます。
 そしてその比重がどうだったのか、と考える時、恋心の方に重きを置きたくなるところですが、私はむしろこれはシルヴィとの約束の方が、本人も明言しているように重かったと考えます。

 というのも、恋は恋として大切ながら、その時点で自身の境遇を嫌というほどわかっていた理亜にとって、恋とは成就して愛となるものとは信じられなかったでしょうし、それ故にその想いそのものは純粋で強くとも、どこか諦観があり、それを認めた上でシルヴィなら一番嬉しい、と自分の気持ちに蓋をしていた部分はずっとずっとあったわけで。
 かつそういう気持ちは、10年全く出会えない相手に対してどこまで鮮明に、色褪せることなく抱き続けられるのか、という部分でも担保がなくて、けれどシルヴィとの関係性にはそれを瑞々しいままで保つだけの仕掛け、すなわちシルヴィがくれた金髪のかつらの存在があります。
 理亜にしてみれば、毎朝それを目の当たりにする中で、常に新たな気持ちで約束を思い返す事になったでしょうし、当然それに付随して恋心も色褪せなかったでしょうが、やっぱりそれは従、ではあると思うんですよね。

 更に言えるのは、理亜が実際のところはすごく心優しく、周りの人間を傷つけないように自分なりの配慮を強く払う性質である、という部分です。
 父親の死と、それに伴う母親との決別は、確かに本人が口にするようにグレる契機にはなっているでしょうが、でも結局彼女のグレ方って、自分に近寄って傷つく人をこれ以上増やしたくない、という想いが源泉にあるとは思うんですよね。
 シルヴィと中々会おうとしない根源もそこにあるといえばそうですし、まして深い関係になればいずれ強く悲しませるとわかっていて、それと矛盾する恋という感情だけでここまで生きる力にしてこられた、というのは難しいかな、と感じます。

 そもそもシルヴィに至っては、ボケボケの主人公と違って当時の理亜の状況をきちんと受け止めて、ですから、その上で約束を果たす程度は今以上に相手を傷つける恐怖は薄くて済みますし、諸々の状況証拠からしても理亜を生かしてきたのはシルヴィとの関係性、より具象的にはその一部である金髪のかつらの存在に依拠するのかなと思います。
 同時にその想いの純度を守るために、外向きの顔と内面の乖離が一番大きいのも理亜、という事にはなっていて、その虚勢を張る必要をなくすためには主人公からの積極的に過ぎるくらいのアプローチが必要ではあった、という点で、社会的な壁とはまた質の違う飛躍が問われていると言えますね。

 理亜が理亜でいられるようにカッコよくあり続ける事――――それは間近に迫る死の匂いに向き合い続ける事と同義ではあり、非常に強い覚悟を問われるものではあるわけで、しかもその介在があればこそ、余計に理亜の心身に負担をかけた、とう面は確実にあります。
 身も蓋もなく言えば、どのルートでも近い内に理亜は死んでしまうのでしょうけど、少なくとも他のルートではクリスマスパーティーの歌が完全にラスト、と明言しない程度には余力は残していますし、このルートで本来報われるはずのない恋心と対峙する事で、より生命の炎を太く激しく燃やしたのは確かでしょう。

 ただこのルートの面白いところは、例えば共通で二人が見た映画のように、死の意味により価値を大きくフォーカスした物語ではなく、あくまでも生と死は対等な位置関係で、死ぬまで生きる、その刹那にして永遠の輝きの比類なき価値をより強調している点にあると思います。
 この場合の生きる、という定義は、自分に嘘をつかずカッコよく生きることが出来ている前提でのもので、そうあれる限りは世界は常に輝いている、けれどそれは決して永遠ではない、という儚さとの対比で語られているのでしょう。

 死をより強く印象付けるなら、最初のダンスの時点でという構造になってくるのを、敢えてそこからごくささやかな、ドラマ性の薄い幸せな暮らしを挟んでくるところにバランス感覚を感じますし、その上でそこで紡がれた幸せをきちんと継承していって欲しい、という想いもしっかり反映されているのが素敵なところです。
 それまでの関係性があればこそ、あのシーンでのシルヴィの求婚自体には全く違和感を感じませんし、理亜の為にもいつかはその死を思い出に昇華して、新たな幸せを目指していかねばならない、という点、そして伝承的に語られる永遠の相に対する複層的な解釈を可能とする見せ方など、敢えて明示的な結論、解釈を提示しないことでその死を美化し過ぎないことに心を砕いているわけですね。

 上でも触れたように、シルヴィルートの追加エピソードは、或いは理亜ルートからの派生でも成り立つように仕組まれていますし、更にはそこからエクストラに入った時のあの結婚式の一枚絵、あれだって或いはあり得たかもしれない可能性を、それこそ循環構造の中で示唆しているとも言えて(さりげなく普段のかつらより長くなっているのがより感じ入りますよねぇ)、こういうどっちつかずさが落ち着かない、という人もいるかもですが、個人的にはこのつくりはほとほと感心しましたね。
 どうあれ基本的にはビターエンドなのは確かですが、その中で死を重く捉え過ぎない事で独特の余韻を感じさせますし、なにより理亜が全力で生き切った、と言えるだけの納得を、様々な角度から照射してくれているのが良かったと思います。

 全体的にあまり急転直下の驚きなどはなく、普通に読み進めていけば着地点が見えやすい王道的な内容ですが、それを説得的に見せる為の思想的・状況的肉付けは充分に出来ていますし、名作と呼んでいいだけの仕上がりだったと思います。



キャラ(20/20)

★全体評価

 まあ序盤の学園生の主人公への風当たりとか、生々しいいやらしさも応分に含んだキャラ性ではありますが、それぞれの立場、視界の高さにおいての率直な人間性を丁寧に追いかけている、という意味では説得力自体はありますし、それをフォローしてくれる側のヒロインズの魅力を裏打ちしてくれる、という点では効果的でもありました。
 それも含めてキャラの内面をすごく丁寧に掬い取るつくりになっていますし、それぞれの個性の裏側にある純粋な優しさや高潔さ、一途さがすごく綺麗で、印象深い面々だったなと思います。

★NO,1!イチオシ!

 まあそりゃあ当然理亜にはなりますねー。
 基本的に個性そのものがネタバレってくらいの子なのであんまり深くは語れませんが、つっけんどんで人を寄せ付けない見た目の雰囲気の裏側に隠し持った思いやりの深さと芯の強さ、健気さやいじらしさなどは本当に素晴らしいもので、心情を切実に吐露するシーンや、仮面を打ち捨てて真っ直ぐに甘えられるようになってからの破壊力は凄まじいものがありました。

 元々見た目的にもCV的にもドンピシャすぎましたし、文句なしに2017年の殿堂入りヒロインと言えるでしょう。
 強いて言えば、スタンス的に仕方ないとはいえ、もうちょっとイチャエロなシーンあっても良かったのよ?

★NO,2〜

 ここもやはりシルヴィにはなりますね。この二人はどうあれこの作品の二枚甲板ですし、それに相応しいだけの魅力を存分に備えていました。
 シルヴィの場合は本質的に、立場として求められる上品さや朗らかさ、優しさも応分に持ち合わせていますが、けれどいざという時に顔を出す果敢さや真っ直ぐや、誠実さの部分の魅力が本当に素敵で、理亜ルートラストの屋上のアレとか本当に痺れましたよねぇ。
 ある意味で理亜をいちばん支え続けてきたのは、って考えてもその存在感は偉大ですし、純粋に何にでも好奇心を持って楽しく笑っていてくれるその空気感だけでも素晴らしく話を盛り上げてくれていましたし、メインヒロインとして非の打ちどころのない魅力を備えていたと思います。

 最終的にはそこまで届かなかったにしても、ミナの可愛さも心惹かれましたねー。
 色々複雑な立場ながらも心から姉を慕い、その共にも誠実に接して、その心映えの綺麗さと高貴さ、一方で見せる年相応の無邪気さと愛らしさも含めて物凄く好きでした。おにいちゃん、が可愛過ぎる。。。

 玲奈もすごく気さくで距離感に苦労しない、気の置けない間柄を一番早い段階で築けていて、間違いなくこの作品序盤の癒しではありましたね。
 その圧倒的なコミュ力でどの場面でも存在感がありましたし、ネアカな雰囲気とCV力もばっちり噛み合っていて、戸別のウダウダ感を除けば大概気に入っている子です。

 エルも苦労人、という感じながら、純粋にシルヴィの事を大切にしていて、その中で見せる様々な顔の魅力と、そこから離れての女の子としてのギャップの可愛さは中々でしたね。
 あと千恵華も可愛いんですよねぇー。ミナとの関係性で垣間見せるおにいちゃん顛末など含めて、コロッと騙された部分はありつつ、むしろこの点では主人公の贅沢ぶりに憤慨せざるを得ない。。。
 茜もストレートなバーニングガール、って感じで、他の子がどうしても立ち位置的に外面と内面に乖離を作らざるを得ないところはある中での、この屈託ない率直さは清涼剤ではあったのかなと思います。


CG(19/20)

★全体評価

 今回はやや全体の完成度にブレを感じる向きもなくはなかったですが、本質的に大好きな絵柄ではありますし、要所での破壊力は流石の一言で、質量ともに満足度はそれなりに高いですね。

★立ち絵

 ポーズはヒロインで2種類+α、サブで1種類とそこまで多くはないですかね。衣装面含めてこの点はもうちょいバリエーションあっても、とは思いますが、それぞれの個性はしっかり感じさせる可愛らしい出来ではあると思います。
 お気に入りは理亜正面、シルヴィ正面、玲奈正面、ミナ正面、茜正面やや斜めあたりでしょうか。

 服飾はヒロインで3〜4種類、サブも2〜4種類で、なぜかミナが一番服飾が多いというね。。。まあ一応シナリオの内容の中での必要最低限は完備していますし、デザインそのものはいつもながらに洗練されていて可愛らしく見事だったと思います。髪型が服に合わせて変わるのもやっぱり嬉しいですね。
 お気に入りは理亜私服、シルヴィ制服、私服、玲奈外出着、ミナ私服、メイド服、エル私服、マリアドレス、茜運動着あたりですね。

 表情差分もそれなりには完備されていて、それぞれに個性は感じさせて可愛かったと思います。遊びも多いですしコロコロ表情が変わるのは本当に素敵ですね。
 お気に入りは理亜笑顔、ふてくされ、怒り、ウインク、照れ焦り、ジト目、シルヴィウインク、笑顔、ふくれっ面、思案気、哀しみ、玲奈笑顔、苦笑、照れ笑い、><、ミナ笑顔、困惑、上目遣い、ドヤ顔、エル笑顔、真剣、眉顰め、茜笑顔、怯え、照れ困りあたりですね。

★1枚絵

 通常90枚にSD22枚、量的には充分水準はクリアしていますし、シナリオの長さの割にはしっかり必要な部分には用意されている感じで、この辺りもバランス良く感じました。
 出来も多少安定感を欠く印象はありましたが、その分インパクトの大きいものもそれなりにありましたし満足度は高いですね。

 特にお気に入りは8枚、かな。
 1枚目はシルヴィとお茶会、ここでのシルヴィの多彩な表情、特ににっこりと照れ困りの破壊力が凄いですね。
 2枚目はロリシルヴィ、もうこれは問答無用で愛らし過ぎて最高ですわ。
 3枚目はシルヴィ理亜の梳り、このシーンに秘められた二人の想いの深みと合わせて本当に染み入る美しさがあります。
 4枚目はロリマリア膝枕、この暖かで幸せな空気感と、ロリマリアの可愛さが珠玉。

 5枚目はシルヴィ屋上の語らい、このシーンの清冽な美しさは本当にインパクトがありました。
 6枚目は玲奈とお買い物、このシーンの玲奈の活き活きした雰囲気と笑顔の綺麗さはインパクトありますねー。
 7枚目は理亜水面に浮かんで、この心象風景の透明感と静謐な美しさは印象的です。
 8枚目は理亜とドレス、虚飾を剥ぎ取ってひたすらに儚い美しさを醸している理亜が素敵すぎます。


BGM(18/20)

★全体評価

 作品のテーマとしてもカッコよさが問われているように、楽曲も少しそのイメージが強く出た、いつもよりスタイリッシュなつくりにシフトしている感はあります。
 無論全体のバランスは整っていますし、安定して高い出来、量的にも充分ですが、情緒的なシーンでのガツンと破壊的な威力を秘めた曲は今回はあまり見うけられなかったのがちと残念、というところ。

★ボーカル曲

 全部で3曲。
 OPの『Golden Mission』はとても疾走感と迫力があり、ロックとジャズっぽさが融合したような雰囲気の中で気高く生きる様を激しく投影している素敵な曲ですね。
 メロディラインも中々完成度が高く、特にBメロが好きなんですが、しかしこれものすっごい早口の上にタイミング掴み辛くて、せっかくフルバージョンあるから完璧に覚えたいけど大変そうだ。。。

 EDの『shining!our life』は、理亜以外のEDですが、こちらはそれぞれのルートで手にした幸せの形を噛み締めつつ、それでも立ち止まらずに前に進んでいく、程よいスピード感とカッコよさ、一抹の哀愁が印象的ですね。 
 ただ曲としてはそこまで印象深くはなくて、淡々と流したまま終わってしまう感覚はあります。

 グランドEDの『あの輝きを忘れない』は、イントロが鮮烈なピアノ独奏で、まあそれだけでも感慨深いものはありますが、トータル的には一番この作品の中でしんみりしっとりした曲で、いかにも理亜というヒロインの在り方に寄り添ったイメージの曲にはなっていると思います。
 でもこちらも曲としての破壊力そのものはそこまででもないなぁ、ってのはあって、ちょっと曲として素直過ぎるイメージはありますね。

★BGM

 インスト込みで32曲とまず水準クラス、それぞれにスタイリッシュな雰囲気と高貴な印象が適度に敷衍されていて、それでいて明るく跳ねやかな点も強く打ち出せていて、作風にマッチしたバランスの良い配置だと思います。

 特にお気に入りは『Maria bishop』かなぁやっぱり。コーラス付きのBGM、といい意味でも味わい深くて好きですけど、やっぱりその背景、その歌声の輝きの意味まで考えて耳を傾けると心奮わせるものが大きいというか、とても気に入ってます。


システム(9/10)

★演出

 全体的な総合力も高いですし、かつ要所での情感演出、盛り上げ方が凄く丁寧で美しく素敵でしたね。
 日常のコミカルなドタバタもすごく躍動感があって面白いですし、対してしんみりとしたシーン、屋上の落日の演出を筆頭に、しっかり心情を汲み取っての光の遣い方、音のイメージ、絵の見せ方など計算し尽くされた雰囲気でとても好きです。

 ムービーもとても愛らしく細やかに動いて楽しいですし、曲の勢いに負けていないところが凄いですね。これはかなりお気に入りです。ちびダンス可愛い。

★システム

 なんかこの時代になるとこの元々の解像度だと物足りなく感じるってのは贅沢なんですが、それはともかくとしてさしあたり不備はない、けど特段に素晴らしさもない、ってのはあるかなと。
 一応サイドバーとか、ボイスセーブとか細かい部分で有難い要素もありますし、使い勝手そのものはそんなにスムーズさがないのはご愛嬌ですが総合して普通、というしかないかなぁ。


総合(93/100)

 総プレイ時間24時間くらい。
 共通が6時間とそこそこ長く、個別も茜は1,5時間くらいと短いですが、玲奈、エルで3,5〜4時間くらい、シルヴィと理亜は4〜4.5時間くらいあり、その他に色々回収プレイなど加味するとこのくらいにはなるかな、と。

 共通序盤のいたたまれなさこそネックではありますが、そこさえクリアしてしまえば後はすごく雰囲気のいい世界観の中での味わい深い物語を堪能できますし、色々可能性を示唆しつつも最終的には不思議要素はほぼ介入してこない、王道的なつくりに終始しつつも、その中で独自の思想性や色を出せているのはポイントが高いと思います。
 ガツンと刺さる、というより、自分の中でリフレインしているとじわじわ来るタイプの作品とは思いますし、そこまで緩急は激しくないのでもどかしさもあるかもですが、個人的にはこれはかなり好きな部類のシナリオでしたね。

 ヒロインの魅力も高いですし、よっぽどのハッピーエンド至上主義者でもない限りはまぁ受け入れられるシナリオとも思うので、好みの子がいるなら素直にプレイしてみてもいいんじゃないか、とは思いますね。
posted by クローバー at 10:13| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年12月28日

景の海のアペイリア 〜カサブランカの騎士〜

 本編は今年のダークホース的な素晴らしい面白さでしたし、まさかそのFDが同一年にプレイできるとは思っていなかったので嬉々として購入。

シナリオ(22/30)

 な ぜ ハ ー レ ム シ ー ン を 書 か な い ! ?

★概要・あらすじ

 この作品は、2017年7月に発売された景の海のアペイリアのFD、というよりは追加エピソード、くらいの方がニュアンスとしてはしっくりきますね。
 コンテンツとしては、本編ヒロインとのイチャラブ自体は実に、実に残念なことに一切なく、本編後の仮想現実の世界で生きる、本編でも中々に味のあるサブヒロインだった七海と沙羅の百合百合コンビとの物語が展開されます。

 あらすじとしては、現実で生きるようになった主人公が、どこかハーレムに気後れして誰にも決定的には手出しが出来ずにいる中で、七海達の誘いでセカンドで発生したちょっとした事件を追いかけていく内に、元々のヒロイン達の事を忘却し、仮想現実の中に閉じ込められてさぁ大変、という、本編のデスゲーム要素を軽めに踏襲した格好になっています。

★テキスト

 本編同様に非常に会話の構成が独特かつ軽妙、そして下ネタ度合いが非常に強い。。。
 全体的な仕掛けとしては本編ほど深く語る要素は少ない事もあり、本編以上に会話文の比重が高かった気もしますが、そこでのやり取りはいかにもこの作品、という雰囲気を十二分に味わわせてくれるものではあり、その点はかなり満足できましたね。
 無論ここでも、冒頭のちょっとしたシーン以外本編ヒロインとの絡みが取っても少ないのは明快な不満として出てきちゃいますが。

★ルート構成

 本編同様全体がループ仕立てになっていて、その中に七海とのエピソード、沙羅とのエピソードが練り込まれている形式です。
 選択肢も一か所だけと攻略的にはまるで難度はなく、本編もそうでしたがそれぞれの話の中で、構造のヒントを探り蓄積していくという側面を持たせつつのイチャエロ、というバランスですね。

★シナリオ

 この二人を主役に据えた物語、としての完成度は中々に高く、その点は面白かったと思います。
 ちょっと本編のネタバレにもなりますが、あんまりゴテゴテ書くほどでもないのでその辺サラッと出してしまうと、基本的に本編のテーマとしては、シンギュラリティが起こったAIでも人と寄り添える可能性を示唆したものだと私は捉えています。
 アペイリアというインターフェースが体現したように、最初に学んだ人の善性や、他者に対する高潔な心配りなどが明快に認識されて、人の汚い部分を初期段階で学ばずにいられれば、それは結論的に人を滅ぼす方向にはいかずに共存するためのバランスを取る方向にシフトしてくれるし、なんなら恋すらできてしまうんだぜ、っていう夢と希望のある話なわけですね。

 前提として生まれたての強いAIは無垢で淳良で綺麗なもの、という概念を本編で確立されている中で、じゃあもしもそのAIが、一番最初に人の弱さを学ぶところからスタートしたらどうなるのか?っていうのがその作品の肝であり、それを体現するヒロインとして適格だったのがあの二人と、そして今の主人公、という構図になっているわけですね。
 図らずもまたデスゲーム化したりするのは、そもそも人の死、という概念をAIが明確に理解は出来ないというところから生じてしまう齟齬ではあり、その表面的な怖さに惑わされずにその真意を突き詰めていく、その流れの積み立てと合間の冒険譚の面白さは今回も流石だったと思います。

 キャラの配置としても最終的になるほど、と思わせるところでした。
 基本的に社会人でありつつもゲーム廃人で百合百合趣味な二人は、端的に言って社会不適合者ではあり、マイノリティではあるわけで、そしてそうなるだけの重い過去は持っている、というのは実につけたしても不自然さがない概念です。
 その辺は私なんかも自分の身に引き寄せて皮膚感覚的に納得できてしまう悲しさはありつつ(笑)、加えて主人公もまた、ハーレムという社会的には認められない立場に立たされ、色々と板挟みになっていく中での葛藤が膨れ上がって、そうした後ろめたさや、目を逸らしてしまう諸々の有り様を克服しなくては、本当の意味での幸せには辿り着けないのではないか、という部分にはなるほど、と思いました。

 人の幸せというか、生き方そのものは、ある意味では忘却があればこそ成り立つ部分はそれなりにあるのだと思います。
 記憶のメカニズムはまだまだ全てが解明されたものではないですが、それでも忘却があればこその人らしさ、という点は事実で、けれどそれを意図的に選択できることが、特に外的要因でそれを判別して、というのが正しいのか、というのはまた別の話にはなってくるわけで。

 それに結局忘却とはいえ、一度経験したことはしっかり脳には刻み込まれ、ただ厳重に蓋をされて取り出せなくなっているだけ、というのも確かで、記憶する媒体としての在り方はそれこそAI、機械知性と何が違うのか?と問われてしまえば明瞭には答えづらいところです。
 ただ少なくとも人の脳は無意識的に記憶の重さに優先順位を振り分けるのは間違いないですし、そして時間の経過、という特効薬を併用する事で、直ぐには直面出来ない痛々しい記憶にも立ち向かえる時が来る、と考えれば、究極的な意味でいつかは克服しなくてはいけない課題を誰しもが多かれ少なかれ抱えて生きている、とも言えるのでしょう。

 そして世界がこういう形になって、よりはっきりとこれからの自分を幸せに導くにあたって、過去の傷や葛藤と向き合う必要性に駆られた面々があの世界に取り込まれていった、という意味付けなのでしょうし、その具現の形や、克服の見出し方など実にこの作品らしいアプローチで面白かったですね。
 無論そこに至るまでの回り道のあれやこれやも、相変わらずバカ真面目な発想連発で、主人公のデザイアなんかも無駄にパワーアップしていて腹を抱えるほど笑いましたね。特にブラックホールのくだりは最高でした。。。

 その面での不満は特にはないのですが、しかし全体構成としては、本編ヒロインがまるっきり絡まずに解決してしまうスケール感、そして本編後の物語というのに、本編ヒロインとイチャラブするシーンがまるごとオミットされているというのはやっぱり物足りなさが募ります。
 ああいう形になってしまった以上一人一人とは、とならないのは致し方なくても、せめて一回くらい、現実でなくファーストやセカンド内ででもいいから6人のハーレムHは実装すべきではなかったでしょうかと声を大にして言いたい。そういう時の為の絶剣仕様でしょうが!

 全体尺的にも、投入素材量的にも、値段相応か、と問われるとやっぱりちょっと、いやかなり物足りない、コスパ自体はかなり低いとは思ってしまうのですよね。まあ本編から五ヶ月ですから仕方ない面もあるのでしょうけど、うーん、ここまでアペイリアの出番が少ないとは思わなかったぜ。そのあたり事前情報もちょっと曖昧な感じだったように思うし、その辺は確実にマイナス要素です。
 つー感じで、普通のFDと期待して、本編ヒロインが好きだから買うぜー、となるとはっきり肩透かしを食らうのですが、本編の物語性が好きだー、また考察したいしたい、って人種にはそれなりに楽しめる内容だったと思います。

 勿論新規ヒロインの二人も魅力的には書かれていますし、楽しめた部分は沢山ありましたが、それでも点数的にはここが限界かなー、と。せめてハーレムHが一回でもあればあと2点くらいプラスしたんですけどね(即物的。。。)。


★キャラ(20/20)

★全体評価など

 本編ヒロインの出番の絶対量が足りん!という視座では減点してもいいくらいですけれど、一応七海と沙羅自体は本編の時よりもより深くそれぞれの個性がはっきりしていて、本編ヒロインと同じくらいに掛け合いの独特な間合いが面白くて楽しめた、というのはあるので勘弁してやるぜー(上から目線)。

 キャラとしては七海の方が好きではありますね。
 色々おどけたりからかったりしつつ、その裏で他者との距離感を慎重に見極めて、場を乱さないように泳いでいく、そういう有り方に疲れているからこそゲームにばかり耽溺してしまうという面を解していく様は非常に楽しく愛らしかったですし、立場としては大人なんだけど、いい意味で二人とも大人になり切れていない、大人として生きていくには欠けているものがある、って部分が可愛さになっているのが上手です。
 沙羅もからかわれている時にこそ輝きを放って素敵ではありましたし、こういう女の子らしさの欠如に苦悩するヒロインを、かわいい責めで翻弄してその気にさせていくのは中々にくるものがありますよね(笑)。


CG(15/20)

★全体評価など

 実のところ完全新規CGは15枚ちょっとしかなくて、本編のCGで回想は水増しされている微妙な仕様です。
 一人頭3シーンはあるけれどどれもCG1枚ずつだったり、ボリューム感は皆無に等しく出来自体も本編と遜色はないけど、図抜けていいわけでもないので、単純に値段から考えるとコスパはかなり悪く、点数としても厳しめにしないとならんな、ってところです。

 立ち絵もヒロイン二人の仕事着が追加されたくらいですかね?個人的にアペイリアの○×立ち絵がほとんど見られなかったのが切なくて、つい本編の方を起動してしまったし。。。
 1枚絵は基本立ち絵に比べて面長になりやすい傾向があって、立ち絵で丸顔に設定されている程違和感が出やすいってのは継承しています。その意味で沙羅の方が安定して可愛かったとは思います。


BGM(15/20)

★全体評価など

 こちらもBGMは全て本編からの流用で、ボーカル曲2曲だけが新規素材になります。

 OPの『カサブランカ』は軽快な出だしから中盤で世界観に噛み合う玄妙な雰囲気に切り替わっていくところは結構好きで、イントロ含めて結構好きな曲ではありますね。Aメロのどこかシニカルなメロディラインが特に好きです。
 EDの『limitless』は本編のED同様に、どこか夜明けをイメージしたような静やかな明るさと澄みやかさが印象的ですが、曲としては完成度・好み共にOPには届かないですかね。


システム(8/10)

★演出・システム

 基本的に本編を踏襲で、特に新機軸などもないのでそのまま評価横流しですね。


総合(80/100)

 総プレイ時間8時間くらい。
 ミドルプライスよりちょっと安い、くらいの値段ですので、尺としての満足度も微妙なラインですし、なによりやっぱりハーレムシーンがないのはこの作品としては片手落ちだろうぐぬぬ、と言わざるを得ません。

 本編より、とまでは流石に言えないにせよ、物語の骨格部分が実にらしさ全開で面白いのは間違いないですが、ちょっとつくりとしては割り切り過ぎている面もありますし、人を選ぶ部分は強く出ているでしょう。
 上でも触れたように、本編ヒロインとの後日談を期待するなら肩透かしで、七海と沙羅が大好きだー、って言える人、本編のしちめんどくさいSF設定をあれこれ咀嚼して考えるのが楽しかったー、って人ならそんなに損した気分にはならないかもですけど、値段を鑑みるとお勧め度としてはちょっとね、とはなっちゃうでしょうか。
posted by クローバー at 13:02| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする