2020年06月02日

月の彼方で逢いましょう SweetSummerRainbow

 月かな本編は全体的にハイレベルな作品でしたけど、その中での頭一つ抜けて評価していた雨音にフィーチャーしたFDという事で、お値段も手頃ですしこれは買うしかない!でしたね。

シナリオ(23/30)

 繰り返されて、癒されるもの。


★あらすじ

 この作品は、月かな本編の雨音ルートの、それぞれスクール編とアフター編の更にその後を補完したFDになります。
 当然ですが本編をプレイしている事前提で、一応これ単体でも雨音ルートダイジェストは搭載されているので、最低限「雨音」の物語としては楽しめますが、やはりこのルートはエンデュミオンの謎やその力の部分を多角的に作品全体で示した蓄積があってこそ、なので、私としては断然本編からのプレイを推奨します。


★テキスト・ルート構成

 テキストは本編雨音ルートと当然ながら同一のライターさんで、非常に細やかな感情の機微を丁寧にバランス良く掬い取ってきているな、と改めて思いますし、スピード感、という点ではややもどかしさはあるかもですが、じっくり楽しみたい人には親和性の高い読み口に仕上がっていると思います。

 ルート構成としては、いくらか選択肢は出てきますけどその後の展開が少し変化するくらいで、大枠の流れは当たり前ですが一本道です。あくまでもゲーム性の部分はおまけ程度で考えておきましょう。


★シナリオ

 大枠で見れば本編の焼き直し、補強ですが、そういう細かな段階と、切所での踏ん切り、前を向くための活力と勇気を得る、という意味で、雨音というヒロインにはそういう過程が必要なのだ、というのをきちんと理解してあげることが必要であり、それがわかっていればこのシナリオの価値も大きく感じられるでしょう。

 前提として、雨音の中二病は現実からの逃避であると同時に今の自分を守る殻でもあって、それはなまじ幸せな家族の形を知っていて、けれど突如それが奪われた滑落の経験がもたらすトラウマ、恐怖の裏返しでもあります。
 一度植え付けられた傷は、どうしても瘡蓋になっては剥がれ、また瘡蓋になって、という段階的な治癒を必要としますし、雨音にとってのそれは、どれだけ主人公が献身的に支えていても、畢竟過去の親子関係に依存してしまうのは止むを得ないところです。

 まあそういう視座で言うと雨音はとっっってもめんどくさいヒロインではあるのですが、普段の奇矯な振る舞いと愛らしさがそれを綺麗に糊塗していますし、主人公もことさらそれを意識せず、自然体でその傷に寄り添っているのずこの作品の魅力です。
 それは当然ながら、出会いからラストまでそれこそ15年近くの歳月を共にして、という蓄積を前提に出来るからのやり方で、故に無駄にめんどくささアピールする必要がない、というのもありますね。
 ただやっぱり雨音は、いざ幸せが手に入っている中で、常に自分の立ち位置を確認し、踏み固めてからでないと前に進めない臆病さは見せていますし、そのくせ生きる事に生真面目だから、所々で感情がねじれてしまうわけです。

 スクールアフター編での中二卒業?のくだりとかは、ある意味幸せを手にした自立した存在のテンプレとしての当たり前と、自己の自然が錯綜した中での困惑、苦衷であったと言えますし、だからあそこで、雨音はそれでいい、と主人公がまるごと認めた事が後々に向けての大きな支えになっているのは間違いありません。
 まあその分いつまでも稚気が抜けないと言うか、子供が出来てアラサーになっても、はにゃっ!?とか可愛さ満載の反応が持続しているのは苦笑いにはなりますけれど、それは裏返せば、家族関連でまだ凡ての棘が抜けていない証左、でもあるのですよね。

 このルートにおいては、主人公の小説家としての才能そのものはそこまでマルチなものではなく、あくまでも強い想いを抱いたものを投影する、という形でのみ開花する様相を見せています。
 それはある意味、雨音と人生を寄り添って生きてきたからこそ獲得した特質で、実際この作品では苦労するイメージは薄いのですけど、本義的にはこういう愛着がやや不安定なパートナーを支えていく、というのは大変な事のはずなのですよね。

 主人公にはそれを支えうるだけの愛着の強固な土台があったのは確かですし、逆に言えばその渇望の薄さが小説家としての真っ当な形での体制を妨げていた、と見做す事も出来ます。
 まあうぐいすルートの立場と相反する事にはなるので、軽々には断定できませんけれど、あのルートにしても、うぐいすというヒロインが醸し出す無常観に触発されて、という色付けは出来ますし、どうあれ雨音ルートの世界線に置ける主人公は、いわば雨音の想いに少しずつ寄り添う事で、自分が当たり前に享受していた幸せの本当の価値を一歩ずつ噛み締めて成長していった、と言えるでしょうね。

 物事には時間が解決する、或いは時間の経過が痛みを風化させる、という効能が確実にありますし、この作品のスタイルは、その時間の幅を目一杯有効に使って、決して想いの一本槍で力任せに解決に導いていない、そういう優しい手触りとバランス感が魅力ではあります。
 そしてその中でもその武器を一番有益に組み込めていたのが元々の雨音ルートではあり、それをきっちり更に細分化・段階化する事で、何かを間違えると踏み外してしまう雨音の幸せを着実に手繰り寄せています。
 そういう視座で言えば、展開としては焼き直しであっても、それは雨音にとって全てが必要な過程だったとなるわけで、この話は雨音の境遇や回避的な思想性に親和度が高い読み手ほど、うんうんと頷きながら共感して読み進められるのではないか、と感じますね。

 ついでに言えば、きちんとこの家族の幸せが、丁寧に蓄積され膨らんでいく事で、周りの人間にもいい影響を与えていく、というのは理想的な形ですし、それをある程度しっかり組み込めているのも素敵です。
 まあ既存のヒロインは、政治的配慮からどうしても自身の夢を叶える、という部分はさておき、女性としての幸せはぼやかされてしまうのですけど(笑)、この手の作品で男の親友キャラのその後までしっかり補填しているのは珍しいですよね。
 それは二人が他ならぬこの道を、堅実な歩みと苦難の克服を選んだからだ、というのも本編アフターラストのifが示していて、その延長線で更に、と見せてくれるのはやはり流石の丁寧な仕事でした。個人的に、栞菜が楽しそうに漫画を描けているのは嬉しい光景でしたねー。

 外殻的なシナリオ解釈としてはこんなところで、それはそれとしてのストレートな家族の幸せ、雨音とつきこの可愛さ堪能ゲーとしてもやはり中々の性能です。
 尺自体も結構ありますし、シーン数も特にスクールアフター寄りでポリューミーに織り込んでくれたのは、ロリィコンシャスたる私としてはGJ!と褒め称えるべきところです。。。まあアラサー制服コスプレもそれはそれでアリですが(笑)。
 総じて、雨音のやや癖のあるキャラが気にならず、本編のシナリオのテンポが趣味に合った、というならば、今作も最大限に楽しめると思いますし、満足度の高いFDに仕上がっていますね。


キャラ(20/20)


★全体評価など

 基本的に雨音ちゃん大好きー!なので、そのFDで減点があろうはずはないですね。
 むしろ本編より更に甘々度に磨きがかかって、途方もなく可愛い雨音を存分に堪能できましたし、娘のつきこの愛らしさ、素直な可愛らしさも抜群で、一粒で二度おいしい!という感じでした。

 本当にいつまでも若々しくある雨音ちゃんであって欲しいですし、それでいて仕事ではきっちりキャリアウーマンという面も素敵で、強いて言えば今回はそっちの顔が薄かったので、もっとAI絡みの頑張りは見てみたかった気もしますけどね。
 脇を支えるキャラもやはりみんな魅力的で、優しい世界観の中でとてもゆったり楽しめたなと思います。


CG(17/20)


★全体評価など

 完全新規はCG23枚にSD5枚なのでまあ値段相応、立ち絵は服飾が少し目新しいくらいですし、追加要素としては最低限なのではないかと思います。
 勿論それはそれで悪くはないですし、基本可愛いのですけど、しかしアラサーにもなってその猫パジャマかよ!とは突っ込みたかった。。。
 一枚絵も、存外シーン数が多いのでそっちに結構枠を取られていて、もう少し家族の団らんとかプッシュしてもいいのよ?とは思ったけど、妥当なラインではあるでしょう。出来も先ず先ず安定していますしね。闇姫様コスHが大変エッチでよろしい。


BGM(17/20)


★全体評価など

 新規はボーカル曲が3曲のみで、BGMの追加はないようですね。
 ボーカルはどれも本編より少し明るさが増して、よりつく強い未来像を投影した前向きなものになっているかな、と思いますし、その意味で個人的にさほど奥行きを感じなかった面もあるのですけれど、どれも悪くない出来だと思います。
 敢えて選ぶなら挿入歌が一番良かったかな。元々の楽曲がいいので上手くバランスは取れていましたしね。


システム(9/10)

 
★全体評価など

 演出・システム共にほぼ本編準拠で、丁寧で情感が画面からじわじわと溢れてくる素敵な彩りを提供してくれたと思います。


総合(86/100)

 総プレイ時間8時間くらいですね。
 スクールアフターの方がチョイ長くて4,5時間くらい、アフターアフターが3,5時間くらいのイメージでしょうか。
 ダイジェストもそれぞれ1時間くらいあるので、全て網羅すると10時間くらいで、値段の割に尺自体は結構しっかりしている、このシリーズらしい丁寧さが魅力ではあります。
 逆にダイナミズムとかは薄いのですけど、それは本編の流れを踏まえれば当然ですし、雨音のFDとしては十全に近い出来だったと評価していいのではないでしょうか。益々可愛さを増していく雨音ちゃんをたっぷり堪能出来て大満足です。

posted by クローバー at 06:36| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年05月09日

シルヴァリオラグナロク

 母体のlightが紆余曲折あって、中々リリースに漕ぎ着けられなかったシルヴァリオシリーズの第三弾ですけれど、ようやく発売したからにはやはり買わない選択肢はないですよね。


シナリオ(25/30)

 公正⇒強制⇒盲従。


★あらすじ

 シルヴァリオシリーズの第三弾は、これまでも名前は俎上に上がっていたカンタベリー聖教国を舞台にした復讐劇です。
 この国は、新暦が始まって以来の1000年間、ずっと不老不死の神祖による、宗教を基盤とした統治が続いていました。
 それはこの国の住人にとって、非常に安定した微睡みをもたらすものではありましたが、けれどそれでも人が暮らす社会である限り不満はそれなりに噴出し、神祖はそれを上手く懐柔しつつ、陰で彼ら自身の野望を果たすべく、この国を巨大な実験装置として機能させ続けてきたのです。

 主人公とその半身のような存在であるミサキは、その実験によって非業を背負い、それ以来神祖滅殺を合言葉に生きてきました。
 空のアマテラスと直結しているため、通常の手段では滅ぼせない神祖ですが、それを可能にする力を二人は備えており、その牙が届くようになるまで数年の鍛錬という至福を経て、更にはセシルとアンジェリカという心強い同胞を得て、カンタベリーの地に舞い戻ってきたのです。

 それは紛れもない復讐ではありますが、同時に彼らはその空虚さにも、危うさにも気が付いており、その為に神祖を殺害した後に起きる混乱を、動乱を最小限にとどめるべく準備もしてきました。
 復讐の先に花開く笑顔もある、その美しい世界を夢見て、強大な力を持つ神祖に果敢に立ち向かっていくのです。

 そして神祖の側もまた、長年の宿願を、この10年で一気に進化していった星辰光の研究の中で見出し、いざ実行に移そうと画策していて。
 双方の思惑が緻密に絡み合う中で、果たして主人公達はその神祖達の野望を挫き、人としての倫を大きく外れてしまった彼らに復讐の鉄槌を下す事が出来るのでしょうか?


★テキスト

 このシリーズらしい華美絢爛で重厚、時にまだるっこしいくらいに切々と理念と観念を説いて、というパターンは完全に踏襲していますね。
 いきなりこの熱量と密度に飛び込むとクラクラするかもですけど、まあシリーズ愛読者なら苦笑いしつつものめりこんでいけるでしょうし、読み応えのあるテキストなのはいつも通り間違いないです。


★ルート構成

 これもシリーズの流れを踏まえて、最初に攻略できるのはセシルかアンジェリカ、二人クリアすると本丸のミサキルートがプレイできる、という仕様です。
 ゲーム性は求めても仕方ないですし、普通に好きな順番でプレイすればいいかなと思います。


★シナリオ

 まあ内容としてはこのシリーズの普遍的パターンを踏襲しているというか、今回は敵方がより経験値豊富で強大なだけに、余計にねちっこくなっている、という感覚はありましたかね。
 基本線としてすごくざっくりまとめてしまえば、まだまだぁ!⇒それは知ってた⇒まだまだぁぁぁ!!!⇒それも知ってるのさ⇒うぉぉぉまだまだまだぁぁぁぁ!!!!!⇒なんだって!?と、相手が知らない所まで光の殉教者としての覚醒を続けて打破する、に尽きます(笑)。
 今までのシリーズよりその克服の過程がより大仰、という点で、それをきちんと段階的に、かつ不自然でない程度に分散させつつ構築するのは厄介だったろうなぁ、とその労苦はねぎらいつつ、流石に画一的、かつしつこい、と感じる向きもあったりなかったり、ではありますね。

 なので、そういう部分の熱血度はいつも通りの面白さでした、と定義してしまって、その上でこの作品におけるテーマを簡単にまとめるなら、人の尊厳を取り戻すための報復、という事になるでしょうか。

 カンタベリーは宗教国家であり、そして神祖が1000年の経験値を基に、傍目には非常に公正で穏当な統治を続けているので、国民はそれに慣れ過ぎて、あくまで難しい事は神祖の思うがままに、神の御心のままに、と思考停止してしまっている面が目立ちます。
 それはアドラーの在り方とはかなりかけ離れた、安寧という名の停滞を感じさせるもので、それは畢竟、神祖がいつまでも現役バリバリで働き続け、自身を高めていく努力をこの期に及んでも怠らずにることに起因しています。

 じゃあ神祖たちがなぜそこまでするか、と言えば、彼らが元々暮らしていた旧暦の世界に対する執着に他なりません。
 新暦が、かつての世界より科学的な面で言えば相当に退化した世界なのは間違いなく、その不便を解消するためには、今のアマテラスの在り方を変えねばならないというのが彼らの意向で、その芯があればこそ長年弛まずに、実験装置としての国を守り続けてきたわけです。
 ただいつしか、その統治には純粋に人の想いに寄り添う、という色が薄まってしまっていて、それは生体的にどうしようもなかった必然なのかもですが、結果として平然と、大を活かすために小を殺す、政治の普遍ではあれど意図的に用いていいわけではない方法論を、算術的な観念でしれっとやってのける人外の怪物になり果てていたのですね。

 その被害に遭った事で、神祖の歪みに気付いた主人公達は、当然復讐心が一番強いとはいえ、同時にこのままでは致命的にカンタベリーという国の在り方がおかしくなると直観していて、名もなき民の報復、という尺度で神祖を打倒する、けれどその先の未来もきちんと考える、というスタンスが取れています。
 それは総じて言えば、政治を人の手に取り戻す、という事に尽きていて、想いを受け継ぐことが人としての正しさであればこそ、どれだけ理屈が綺麗に聞こえても、一切自身たちの望みを人民に開陳せず、自分達の手だけで達成しようとする神祖の在り方は間違っていると突き付けていくわけですね。

 結局このシリーズって、先に進むほどに敵方の歪みが大きくなっていて、勿論そうであればこそ敵がより強く、バトル面におけるインフレと盛り上がりはレベルアップしていく面はあるのですけど、一方で敵方の魅力はどんどん減じていく面は否めないですよね。
 そういう意味で、本当にヴァルゼライドというのは良く出来た英雄だったのだと思うし、だからこそその意思を真っ直ぐに継いで戦うオーバードライブみたいな存在が生まれるわけで、人の意思と可能性を蹂躙しないほどの良さが必要、という話になるでしょう。

 トリニティの光狂いみたいに、力づくで自分達の信念に染めていこうとするのも性質が悪かったですが、神祖の場合はそもそもそういう選択がある、という観念から根こそぎ奪い取って隠蔽してしまう悪辣さが目立っていて、けれどそれは彼らが信じる幸福の為には必要な犠牲だと、正義感の名の下に4人の中で正当化されてしまうわけで。
 だからこそ、折々に話し合いでの解決を求めるなど、一見公正に見えるものの、けどその実態は、思考停止して神の恩寵を招くための手駒になれ、という事だからこそ、とりわけ強い信念を抱くものにとっては、生理的な嫌悪と拒絶を覚える存在になり果ててしまっているといえますね。

 そもそも論として、元々旧暦はエネルギー問題で致命的な状況にあったわけで、それが新暦になって、星辰光の存在により解消された面がある以上、旧暦の世界法則の奪還がある程度ゴールとして設定されている神祖の願いも危うさは尽きない所で。
 勿論彼らとしては、そうした上で星辰光の力も維持できるように、いいとこ取りを目指して努力はしていくのでしょうけど、どうあれ今を生きる人が世界の方向性を一切決められない、家畜的世界である事は疑いなく、それはどう取り繕っても人の尊厳を無視したやり口なのは確かでしょう。
 そこから更に一歩先を考えていたグレンファルトにしても、行き着く先は究極の馴致であり、望む世界を好きなだけ与えてやるから、世界の在り方には一切容喙するな、という傲慢さが色濃く出ているわけで、結局それが、本来の寿命を逸脱して生きた人の限界、どうしようもない人からの変貌なのだろうなと思います。

 そういう意味で、ヴェンデッタの時は敵方の信念にも共鳴出来るところは多々ある、けれど、という観念的な複層性と盛り上がりがあったのが、トリニティではかなりそれが縮小され、今回は本当に鬱陶しいだけ、というラインに至ってしまって。
 それは敵方の行き過ぎ、インフレを踏まえれば仕方ない帰結なのかもですけど、やっぱり敵方に魅力を覚えない、というのは、作品そのものの評価にも直結はしますよね。
 唯一シュウとリサの在り方、その戦いの様は面白かったですけれど、結局見ている地平が違うと戦いそのものもベクトルの違うイデオロギーの衝突にしかならず、という面はあるのでしょう。
 なので今回は、当然充分に面白かったですけれど、総合評価としては名作、ではあるけれど過去2作、特に最初のヴェンデッタには及ばないという位置づけにしたいかな、と思っています。


キャラ(20/20)


★全体評価など

 上で書いたように、敵方にほとんど魅力を感じなかったという残念さはあるものの、それでも味方側の魅力は流石でしたし、割り引くほどの部分はなかったですかね。

 ヒロインではアンジェリカが一番好きかなー。
 立ち位置的にヒロインとしては一段弱いのはあるけれど、彼女の抱える業と嫌悪は、本来この国に生きるものなら気付きにくいものだし、それを理解して尚立ち向かえる強さと高潔さ、不器用ながらの友情の厚さには微笑ましく可愛らしいものがありました。
 ミサキもセシルも普通に可愛いし、それぞれに味わいがあっていいですね。

 パティもウザキャラと思わせて、要所では非常に素敵な、人としての清廉さをまざまざと見せつける活躍をしてくれますし、とっても可愛かったですね。
 攻略出来ないのが残念、と思うくらいだけど、いつかこの子リチャードとくっつくのかな?とは思わなくもない。

 リチャードも本当に、人の弱さと清潔さをこれでもか、と浮き彫りにしてくるいいキャラで、だからこそ主人公の側も戦うことに強い覚悟と、託す思いがなければならなかったという意味で、すごく目立つ存在ではありました。
 結局この作品って、神祖の手駒にされて、思うままに在れない自己に対する悲嘆や鬱屈が色濃く出る使徒とのバトルの方が面白い、という矛盾は出てしまうので、その点をリチャードの存在は上手く補強していたのかなと思います。まあ立場としては本当に不憫に尽きるのですけどね。。。


CG(18/20)


★全体評価など

 CG登録としては150枚超え、勿論似通った構図やカットインなど厳密に分類すれば100枚くらいでしょうけど、物量としては充分ですし、質も中々良かったですね。
 基本的に立ち絵もバランス良く個性が出ていて魅力的でしたし、一枚絵も安定していて、このシリーズにしてはHシーンの出来が良かったのも意外だったけと嬉しいところ。
 特にアンジェリカ関連は好みの構図が多くてすごく楽しかったですね。パロスペシャルがやたら可愛い。。。


BGM(18/20)


★全体評価など

 ボーカル曲2曲にBGMは32曲+インストで、出来はいつも通り安定して高いレベルを保っていますね。
 ボーカル2曲は正直そこまで刺さらなかったのですけど、BGMはかなりいいものが多くて、5、12、19、24、27、32番あたりはかなりお気に入りです。


システム(9/10)


★全体評価など

 演出はいつものように多角的な要素を組み合わせて、非常にメリハリのついた迫力のあるものに仕上がっていますし、バトルの臨場感、戦場のひりつくような空気感まで綺麗に投影されていて流石でしたね。

 システム的にも特に不便なところはないですし、安定した内容だと思います。


総合(90/100)

 総プレイ時間24時間くらいですね。
 共通が6時間、アンジェリカとセシルが5時間、ミサキが8時間くらいで、ルート毎の尺の差は流石にメインとそれ以外、という所で差はありますけれど、何処を切り取っても非常に密度が高く、息つく暇も与えられない素晴らしい出来である事は間違いありません。
 ただ上で触れたように、敵側の信念や目的に対する共鳴が届きにくい、という面はあって、その点もう少し工夫の余地というか、方向性含めてここまで人から逸脱した存在として紡がなくても、という感覚はありました。

 まあそれ自体が、あくまで歴史は人と人の想いがぶつかり合って紡がれるべきものだ、という観念が投影されているからこそ、とも言えますし、そのへん好き好きは出てくるのでしょうけど、トータルで見るとやっぱりヴェンデッタが、スケール感という意味では一番控えめであろうと、一番面白かった気はしますね。
 ただシリーズ総括としての位置づけはきちんと出来ていて、過去2作の要素も上手く取り込みつつ破綻させなかった手腕は流石で、シリーズファンならプレイして損はしない作品でしょう。
 裏返すと、過去2作プレイしていないとチンプンカンプンでもあるので、そこは注意が必要ですけどね。

posted by クローバー at 07:24| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年05月02日

電子処女 が 現れた! コマンド!?

 正直コスパ的にどうか、とも思ったけど、シンプルにヒロインのカナタが多角的に好みだったので購入。


シナリオ(17/30)

 色々都合は良過ぎて。


★あらすじ

 主人公は一人暮らしの学生にしてプロゲーマー。
 思春期に女子に対するトラウマがあって、基本的には二次元しか愛せない自己を確立しており、プロとなって有名になり、それなりにモテモテでありながらも一顧だにしない、回避的な生き方を貫いてきました。

 そんな彼の最近の推しが、Etuberの遥カナタで、彼女の配信を見ている時間が最近の一番の癒しであり、時にはそのまま画面から飛び出してきてくれないか、なんて青臭い妄想も抱いていたり。
 そしてなんと、ある日その夢が突如叶ってしまいます。
 画面の中から出てきたカナタは、様々な媒体を通じてずっと主人公の事を好意的に見ていた事、そして自身が電子生命体、平たく言えば宇宙人であり、人間との共存モデルの為に地球に滞在していて、主人公と一緒に暮らす事を望んでくれたのです。

 底抜けに明るく無垢なカナタとの、いきなり訪れた同棲生活。
 二人の想いはここからいかなる形に変化していくのか、そして辿り着くみらいの形はどんなものとなるのでしょうか?


★テキスト

 特に可もなく不可もなく、エロゲらしいリズムとスピード感のあるやり取りをそれなりに楽しめるイメージですね。
 文章として華や艶があるとは言い難く、カナタという天衣無縫なヒロインの勢いを最大の武器にして、ひたすらノリで押し切る感もなくはないですが、文章そのものに目立つ粗や癖があるわけでもないので、純粋萌えイチャゲーとしてはこんなものでしょう、というところです。


★ルート構成

 選択肢なしの一本道ですね。
 正直設定からするともう幾分か話を面白おかしく膨らませる余地はあったと思いますし、基本ただイチャエロするだけの作品であるよりは、そういう方向性と、ちょっと違う、共存モデルとしての未来を見据えた展開もあって良かったんじゃ、とは思うので、そのあたりも含めて選択肢なしの構成は物足りないです。
 勿論ゲイルートはいらないですけど(笑)、ゲーマーとしての在り方を通じての変化、というのはあって良かったと思うのですけどね。


★シナリオ

 ルート構成でも触れた通り、基本的にこれイチャエロ特化で、カナタの特異な設定を、ただ単に二次元マイスターの果てなき夢の実現装置(すなわち、画面の中に飛び込んで二次元ヒロインとイチャエロしたい、或いは現実に二次元ヒロインが飛び出してきてお世話されたい、みたいな)以外にはほぼほぼ利用してないんですよね。
 ついでに言えば、主人公がプロゲーマーである理由もさほどなく、平たく言えば二次元趣味のプレイヤーに受けが良さそうな記号的要素を強引に結び付けて展開しているだけで、それが連関してプラスアルファをもたらしたり、将来の発展においてのキーになったり、そういう色合いは正直薄いのが、シナリオ、としては素直に不満となります。

 そもそもこの設定の場合、カナタが女の子である必然は、それを主人公が求めたから、としかならないですし、電子生命体としての宇宙人のより総体的な在り方などは完全スルーなので、ご都合主義の極み、とはなってしまいます。
 勿論それでいい、難しい事を考えずただひたすらにイチャエロ出来れば満足だ、というファン層もいるでしょうし、私としてもその点でのキャラ的魅力を否定する気は毛頭ないのですが、あまりにもそれだけに特化し過ぎているのは、折角面白い設定なのに勿体ない、とは感じてしまうのですよね。

 その派生で言えば、この二人の恋愛感という面でも、色々言葉が足りないというのはあります。
 そもそも人間の持つ恋という感情そのものが未知であるカナタと、過去の傷から三次元でのそれを否定している主人公という組み合わせですから、無意識的な恋の萌芽があっても、それが中々具象化しない、というスタンスそのものは別に間違っていないとは思います。
 が、実際のところその辺りの機微をしっかり補足するだけの内面の掘り下げ、踏み込みは全く足りていないですし、状況としてとっつきやすい火遊びから、ただなんとなく流されて、いつの間にか大好きになっていました、というのも、うーん、とは思ってしまいます。

 カナタの好意そのものは本物でしょうし、最後の選択も綺麗と言えばそうなのでしょうが、けれどそれは彼女を取り巻く状況、種族の総意として汎用的に受け止められるものなのか、二人よがりの我が儘な選択ではないのか?という部分には、出来ればもう少しちゃんとした答えが欲しいところです。
 なぜなら、いくら経済的に自立して、ただの人と人、として二人で生きていきたいと願っても、それを覆すだけの科学的優位性をカナタの種族が備えているのが明白だからで、そういう周りの見えない選択が全て、となってしまうのは、この二人に対する印象としてもあまりプラスにはなっていない気はするのですよね。

 また、プロゲーマーとしての切磋琢磨でそれなりに取り込まれている、相手の思惑を読み、先回りしていく、という部分は、シンプルに人間関係の機微を掬い取る、という側面も持つでしょう。
 なので個人的に言えば、その決戦の時点までに、どれだけカナタの本心と言うか、人の一般的感性とズレている部分を感得して、それを受け入れていけるか、という選択肢的積み重ねとリンクさせての分岐、なんてのはアリだったろうに、と思います。
 無論ただひたすらに高潔であれ、とか、そこまで極端な話ではないですけど、カナタが今の生き方に対してどういう想いを抱き、それは本来の役割に対してどういう意味を持っているのか、そのあたりを思惟し、忖度する姿勢が、より多角的な視座を主人公に与え、刹那の局面での選択に幅を作る、というのは面白いはずなんですけどね。

 だから正直、この作品の終わり方は、この二人の関係性を大団円にする、という意味では片手落ち、どちらかと言えば目先の恋と快楽に流されてのノーマルエンド的な感覚を持ってしまうのです。
 そういう流れでひたすら面倒なことは考えずイチャエロするのは、それはそれで構わないわけですし、けどそれとは別個に、もう少し関係性を自制しつつ、より巨視的なスパンでカナタと後顧の憂いなく結ばれるパターンも作って欲しかったなぁ、と思いますね。
 それはシンプルに言えば、カナタが個として、だけではなく、その種族全体として地球人と共存するためのモデルプランを提供する、という所に帰結しますし、それ自体は既にカナタが体現している、虚構と現実を渡り歩く事で、一種の理想を提供する、という部分のブラッシュアップで事足りるはずです。

 お値段的に言っても、せめて3000円までならワンイシューでも仕方ないかな、と思えるのですが、4000円まで行くとミドルプライスラインに片足を引っかけてますし、それならなんらかのシナリオ的、或いはゲーム的工夫が欲しいな、とは感じてしまいますかね。
 最近だとアイコトバなんか、同じ値段でしたけどその辺の工夫、最低限の多様性は打ち出せていたわけで、シーン数自体はある程度分散すれば問題ないですし、やっぱり総じて勿体ない、カナタという良ヒロインを活かし切れていない作品に思えました。
 なによりねぇ、これでゆきいろより割高、ってなると、あっちがえぐすぎるとはいえ、純粋にコスパとして評価しにくいのはわかっていただけるのではないか、とね。。。


キャラ(20/20)


★全体評価など

 基本的にはカナタが可愛いと思えるかどうかが全て、ではありますし、その点では特に文句はないです。
 とにかく明るくて無邪気で、それでいて献身的で素直で愛らしく、真っ直ぐに思慕を向けてくれる眩しさも、コロコロと移り変わる感情の温かさもとっても素敵でしたね。
 こういうテンション系のヒロインに対するCVマッチングの破壊力も磐石でしたし、本当に可愛かったです。強いて言えばもう少し、デート服着てるシーンが沢山あって欲しかったりはしましたけど。


CG(18/20)


★全体評価など

 基本的な絵柄はかなり好みでしたし、キャラデザや服飾センスも良かったと思います。
 立ち絵は文句なくめっちゃ可愛くて、コミカルなデフォルメ顔も含めて本当に多彩で幅の広いカナタの感情を真っ直ぐ堪能させてくれましたね。
 個人的には目逸らし困り顔がいっちゃん好きで、勿論キラキラ笑顔や悪戯っぽい顔もいいですし、本当にただカナタの表情変化を見ているだけで飽きずに楽しめる、という面はあったと思います。

 一枚絵は全部で25枚なので、値段を考えるとギリギリ水準か、少し物足りないか、ってラインですね。
 シーン数自体は13あるので、それは充分過ぎるくらい、と言えるのですけど、理想を言えばあと数枚、日常やシナリオ寄りのものが欲しかったですし、それは上でも書いたように、シナリオ面での方向性とも合わせてもう少し頑張って欲しかったところです。


BGM(15/20)


★全体評価など

 この作品、実はOP含めてボーカル曲がないっぽいんですよね。
 その点では正直手抜きですし、値段を考えると流石に看過できない部分で、BGMも全部で12曲とそこまでではなく、質も取り立てて目立つものはないので、採点としてもそれなりに辛口にならざるを得ないかな、という所です。


システム(8/10)


★全体評価など

 演出に関しては、カナタの縦横無尽なコミカルな動きを楽しめるだけでもそれなりには、と思うのですが、それ以外の部分では色々食い足りない面もありますし、少なくとも手の込んだ丁寧なつくり、というイメージは持てませんでした。
 ムービーも見落としでなければ多分ないですし、EDもめっちゃ簡素なので、正直若干手抜き感は否めませんね。

 システム的にも目立って不便はないですけど、洗練されて使いやすい、という事はないです。


総合(78/100)

 総プレイ時間6時間くらいですね。
 基本的に完全な一本道ですし、盛り上がりと言えばプロゲーマーとのライバル対決くらいで、それ以外はひたすらカナタとの和気藹々とした日常とエロスを楽しむ、という構図にはなっています。
 これはこれで悪くはないけど、これだけの要素で出すならちょっとお値段との釣り合いは悪いな、という感じですし、カナタが好みなら買って損はしないでしょうけど、後に残るなにかもない、その場限りの楽しみ、というイメージの作品ですね。

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2020年04月29日

9-nine-ゆきいろゆきはなゆきのあと

 ずっと追いかけてきたナインシリーズの最終作ですし、まあ買わない選択肢は皆無ですね、と。


シナリオ(28/30)

 世界を超えて、届く愛。


★あらすじ

 この作品は2017年4月から年1作ペースでリリースがはじまったナインシリーズの最終作、最後のヒロインである希亜に重点的にスポットを当てつつ、全ての枝における大団円を目指した作品となります。
 前作まででアーティファクトの全容や敵の正体などがほぼ明確になり、その脅威を真の意味で討滅するために、全ての枝での経験と、そこで得たあらゆる力を駆使して、強大過ぎる敵に立ち向かっていく上で、未だ謎に包まれていた希亜の力とその源泉、想いに強く触れていく構成になっています。

 果たして希亜がこれまで強く拘りを見せてきた「正義」の在り方とは?
 その根源にある想いと、それに応えて彼女の元にやってきた力の正体とは?
 共鳴した正義と絆がもたらす新たな枝、その可能性の先に、平和で幸せな未来はあるのか?

 シリーズ最終作に相応しいボリュームと内容で綴られる、ナインの世界観の全てをご堪能あれ。


★テキスト

 今回もテキストは非常にキレッキレで大変に楽しいですね。
 今作は希亜と早い段階で親しくなり、信頼を得る構図の為、仲間の集合も、打ち解けていくのも早いので、そういう仲間同士の繋がり、絆と、そこから育まれる素朴で遠慮のないやり取りがやっぱりとても楽しいな、と思えます。
 その過程で少しずつ膨らんでいく素の希亜の魅力も非常に丁寧に紡がれていますし、シリアスとのメリハリのつけ方、山谷の振り切り方なども流石の思い切りと迫力で、とても熱中度の高い文章に仕上がっていますね。


★ルート構成

 ある程度選択肢とかプレイヤーが恣意的に選ぶ場面はあるのですけど、まあそれ自体がある意味物語のありようとリンクした設定ではあり、実質的にはほぼ一本道ですね。
 これは少なくとも2作目以降のオーバーロードの覚醒とリンクして避けようのない要素ですし、そもそも1作目にしたって最初の流れは強制Badなので、シリーズ全体としてゲーム性、というものは本質的にはなかったとは言えるでしょうか。
 ただそういう構成であろうと、きちんと読み手が意思を反映させた、と錯覚させるだけの熱量と仕掛けは用意されているので、特にその点をマイナスには思わない、というのは強みかなぁと感じます。


★シナリオ(大枠)

 正にシリーズ最終作・総決算に相応しい波乱万丈の展開、山谷の落差も今まで以上に大きく、そこからの逆転劇のカタルシスと一握の切なさも含めて、素晴らしい完成度と伏線回収度だった、と絶賛できる内容でした。

 本気でイーリスを討滅するためには、希亜の切り札としての活躍がどうしても必須、という中で、限られた時間を最大限に有効に使って関係性を深めていく、というのは必然の選択ではあり、そしてその必要に駆られての行動が、希亜というヒロインが持つ正義に彩られたファンタジーへの憧憬を抜群に触発した、というのも、非常に納得のいくつくりです。
 これまでのシリーズでは孤高を気取っていた、とはいえ、それがポースである事は少なからず見えていた中で、ヒロインとしてのチョロさは春風といい勝負、というかやっぱりこのシリーズ、まともな感性の女の子って都しかいないよね(笑)。
 そういう視座で言うと、恋愛過程そのものが他のヒロイン以上にチートではあるのですが、どうしてもある程度以上は本命であるイーリス討滅の仲間としての活動が優先されるので、そこのバランスの取り方は仕方ないのかな、というイメージにはなります。

 また希亜自身は、春風とは違いあまり恋愛に対する幻想が強くないのと、自分が一般的観念としては、女性としての身体的魅力にやや欠けている、という認識がある事、主人公の側もそれどころではない、という部分とも相俟って、インビジブルに互いの恋愛感が強まっていっても、それが明確に露呈するまでに時間が掛かる、というのは面白い関係性だな、と感じました。
 逆にそれが明白になってしまえば、そこから転がり落ちるのは一瞬、というのも、それぞれの状況と立場を踏まえれば、ですし、まあそれにしてもつくづくオーバーロードの自由度と言うか、都合の良さはありますね。
 その辺は後でネタバレでもうちょっと詳述するつもりですけど、記憶をインストール、と言ってもそれは結構取捨選択されたもので、特に恋愛にまつわる感情は切り離しておけるというのも、恋愛感情が力を強くするキーになる、という想定を差し置いても恣意的ではある、とは感じます。

 ただこの作品は、そういう恣意的、かつ物語的な理由を説得的に説明しにくい部分を、シンプルに分作によるプレイヤーの実時間の経過、という部分で上手く誤魔化すのが上手なんですよね。
 与一の在り方もそうですけど、物語ではともかく、現実ではそういう事はあり得る、可能性は無限だ、という示唆を、作品を重ねるたびに丁寧に刷り込んでいく事で、それをこの世界観の中での必然に昇華させる努力がしっかり為されています。
 でもそれは、例えばこの作品が普通にフルプライスで、間髪置かず立て続けに提示されたらやっぱりかなり都合がいい、と感じてしまうはずですし、ついでに言えば、1年ごとにしか先の流れを読み取れない、という事そのものが、オーバーロードの自由度の限界、不便さを読み手に無意識でも感じさせている、というのはあるのだろうなと思います。

 更に言うと、この作品はトータルでも一本道で、ヒロインを重ねるごとに物語の真相に肉薄していき、相乗効果的に面白くなっていく、という構図なので、一作で作るとどうしたってヒロイン格差が強く出てしまいます。
 それを分作にする事で、多少はマイルドにしていると言うか、ヒロイン一人クリアするごとに読み手の側がその魅力を咀嚼する強制的な時間が生まれ、また次の作品、となった時にそれを想起する機会が得られる、という、記憶のメカニズムで言えば長期記憶を醸成しやすい構造にする事で、序盤のヒロインに対する思い入れを色褪せないものにしてくれている、という面はあるでしょう。
 正直これ、一気呵成にプレイしたら絶対都の印象はかなり薄くなってしまうと思いますし、その点で分作である事に強い意味が込められている、価値が生まれている、非常に希有な作品である、とは言えると思います。

 勿論制作工程とかそういう部分での問題もあるのでしょうが、この作品は最初から分作である事が全体の価値を引き上げるように精緻にグランドデザインされた作品なのは間違いなく、それは1作目も含めて、様々に散りばめられた伏線が綺麗に最後に回収されている所でも判断出来ます。
 いわば、シナリオ面での必要性・必然性が、このスパンでの発売である事を余儀なくしている、とも言えるのですが、それで生まれる時間的猶予をしっかりクオリティ強化に繋げている、というのが素晴らしいところでしょう。
 本当にシリーズ通じて総合力が抜群に高く、シナリオ・キャラ・CG・音楽・演出のどこを切り取っても弱点のない、総合芸術としてのエロゲのひとつの理想像を構築出来ているのではないでしょうか。


★シナリオ(ネタバレ)

 このシナリオを通じて思うのは、正義を貫く事の難しさと、それ故に背負わねばならない悲しみの重さですね。
 ちょうどこれからプレイするシルヴァリオラグナロクでも語られていたけれど、あらゆる物事は積み上げるより崩す方が万倍も簡単で、そこに倫理的・道徳的制約が効かない、という条件が加味されれば、正義とは常に後手にならざるを得ない圧倒的な不利な立場にならざるを得ないわけで。

 希亜シナリオで主人公が犯した致命的な失策は、イーリスにオーバーロードの実在を早い段階で察知されてしまった事、それに対処する時間を与えてしまった事に尽きるわけですが、でもそれは、繰り返しの中で起こるとわかっている惨劇をどうしても食い止めたい、という正義感が発端になっています。
 それは、希亜というヒロインの信頼を、心を掴むにあたっても必要不可欠な要素ではあり、例えば石化事件が起こるのを知っていて、けれどそれでこちらの手の内を晒すのを嫌い看過したとしたら、その流れの中で主人公の行動は常に嘘と罪悪感が付き纏う事となり、それはきっと希亜をいずれ失望させてしまうものになったでしょう。

 また他のルートでも明らかなように、希亜はかなり早い段階でジ・オーダーの力を得て、その意味を自分なりに定義するまでが早いので、事件が起きる前のあのタイミングでなければ虚を突けず、それがもたらすときめきや、無条件の信頼を得るのは難しいわけで。
 かつ希亜の力だけがイーリスを完全に討滅できる、という、絶対的な切り札としての価値は最後の最後まで揺らがなかったという点を含め、主人公の煩悶や葛藤がどうあろうと、最終的にはこの流れに、艱難辛苦に向き合わねばならなかった、という見立ては出来ますね。
 そしてそういう部分に一々悩み、苦しむ主人公を見ていればこそ、最終的に巨悪と対峙するにおいて、自身の倫理観・正義の在り方を曲げてでも根絶させる、と決意した主人公の在り方に、心の底から共鳴できたのは確かだろうと思います。
 それは同時に、妹の死がもたらしたトラウマの克服、檻からの解放も意味していて、そのタイミングでないと希亜のアーティファクトの魂との混在化が進行しないのは説得力のあるつくりです。

 結局のところ、オーバーロードという手札が互いの手元にあり、それ以外の要素で圧倒できるほどの総合力の差がないとすれば、当然そこでは倫理感が降り切れている側の方が強い、と言う事にはなります。
 なので少なくとも、どの枝に置いても一度は仲間が殲滅されてしまうのを防げない=その屍を超えての可能性しか見出せない必然が完成してしまっていて、それはどうしたって、喪失の悲しみからの復讐の鬼と化す枝を剪定は出来ないわけで。
 それが存在する事を踏まえて、全てが大団円、と呼んでいいのかは議論の余地はありそうですけれど、ただそこまでしないと与一とイーリスが倒せなかったのも間違いないのですよね。

 その鍵となっているのが眷属化、特に相互眷属化にあるのは見ての通りで、都シナリオのラストシーンがその伏線だったとは、中々遠大な話でしたね。
 定義としてはアーティファクトを体内に取り込む、或いは魂と混在化まで進行させた相手と体液接触する、感染する、という事で、乃亜以外のヒロインとの相互眷属化が完了する時間軸を待っていた事、その能力の増幅性と主人公の才能を持って、オーバーロード以外の総合力で相手を圧倒するだけの手札を揃えたというのは、犠牲を前提にするならばそれ以上ない作戦だったと思います。
 でもそれを前提にしたくないから、ボロボロになるまで足掻いてしまう主人公の人間性と弱さもまた鮮烈ですし、故にこの枝に残る悲しみは本当に辛いものですね。
 或いは未来イーリスの影響を排除した事で、スタートの4.17からやり直せば、全滅エンドは避けられるのか?という感覚もなくはないのですけど、そのあたり確信は持てないですし、どうあれ心の傷そのものが消えることはないですからねぇ。

 少なくとも他の枝では、状況の差異はあれイーリスが討滅されて最大の危機は去り、程度の差はあれ与一がまだ魔眼を保持している故の危険性はあっても、それはオーバーロードでどうにでも出来ると思えば、個々のルートなりの平和、幸せは確立できたと言えるでしょう。
 最後の最後で、一番最初の、都が石化させられてしまうルートに対するフォローもしっかり入っていましたし、こうなると個人的には、それぞれのルートのその後を描いた後日談FDみたいなのも欲しいなー、なんて思ってしまいますね。
 なんなら討滅ルート巻き戻しからの、みんなで傷ついた主人公の心を支えるハーレムルートあってもいいのよ(笑)。ついでにレナルートもあっていいのよ。。。

 ともあれ、感情的な面での説得性は完璧に近い構成でしたけど、あくまで粗を探すとするなら、やっぱり理屈の上でのオーバーロードの都合の良さはありますよね。
 そもそもアーティファクトの成り立ちとして、魔術の模倣からスタートして、とある中で、果たしてこれだけ強大な魔術があったのか、或いは偶然の産物として生成されてしまったのか、どうあれあまりにもバランスブレイカーではあり、イーリスがそれを作り上げるのに数百年を要した、というのも鑑みて、奇跡的な存在である事は間違いありません。
 アーティファクト自身が持ち主を選ぶ、という特性も最初から設定されているとはいえ、次元の壁を超えてもう一人の主人公=プレイヤーにその力が付与された、という流れも恣意的なのは間違いなく、一応主人公が世界の眼の破片を取り込んでしまった事が影響しているのでしょうけど、力技であるのは間違いないですね。

 あと地味に、アーティファクトに対する適性部分での主人公補正めっちゃ強いよね、とは。
 ほかのヒロインが自分のそれを完全に制御するのですら四苦八苦という状況の中で、複数同時にとか、応用的な使い方をいくらでも、なんていうのは中々に恣意的ですし、その前提も、オーバーロードの在り方や与一の精神性と同様に、そういうものだ、で押し切ってはいるので、その点を細かく論う事は出来るかな、というイメージです。
 そのあたり、もう少し向こうの世界の現状とか、魔術の状況、その適性の本質なども掘り下げてもよかったのかな、とは思いますし、この世界観でまだまだいくらでもスピンオフ的な物語は紡げる余地は残っているなぁ、という印象はありますね。

 といって現時点で強く不足がある、というわけではなく、ある程度想像で補完すべき部分も多いとはいえ、きっちり表面化していた全ては解決していて、どのルートでもそれぞれの幸せが得られている、と確信を持てるのは素晴らしい構図です。
 今作は希亜メインなので、その後を語られるのが希亜だけだったというのは止むを得ないところですが、本当にこれFD出してくれないかなぁ。もう一回みゃーこちゃんとイチャラブしたいんですけどー!!



キャラ(20/20)


★全体評価など

 シリーズ最終作だけあり、それぞれのヒロインの魅力は惜しみなく投入されていて素晴らしかったですね。
 希亜も当然ながら、今までにない魅力を沢山見せてくれていましたし、まあこの子も厨二傾向はそれなりに強いのですが、あくまでもそれは意図的なポーズ、強い自分を演じる為の要素であるという自己認識ははっきりしているので、全般的に言えば都の次にまともな女の子はしていたと思います(笑)。
 この子の場合、妹関連のアレコレから自分を律する部分が強く、それが解き放たれる部分で露呈するのが、今まで我慢していた子供的な部分、という、見た目の愛らしさとマッチした面であるのもポイント高いですし、それでいて女の子としての破壊力も存分に保持しているのが素敵でしたねー。

 敢えて言えば、他のルートに比べても恋人的なイチャラブがやや凝縮、かつ一元的な構図になっているのはあって、それは状況から止むを得ないところはあるのでしょうけど、もっともっとイチャラブしてるところは見たかったですねー。ぜひFDで猫カフェイベントをやって欲しい。今作でも、あの猫シーンはいくら見てもほっこりしまくって最高だもんねぇ。

 他のヒロインも、それぞれに見せ場と意思の反映がしっかり描写されていて、バランス良く存在感をみせてくれていたと思いますし、立ち絵も今回で全員分バージョンアップして揃っているから、その点でも感情の投影がよりスムーズに、丁寧に組み上げられていて良かったなぁと思いますね。
 きちんとステップを踏んできた事もあり、ヒロインそれぞれに思い入れはありますし、今作の希亜もとっても素敵だったけど、それでも私のナインシリーズヒロインイチオシは最後まで都とさせていただきましょう。ホントみゃーこちゃん好き好きー。


CG(19/20)


★全体評価など

 物量的にはいつもとそこまで変わらずですけど、流石に最後だけあってちょっとだけは多いし、質的にはより気合入っている感じですね。
 結構今回は凄惨なシーンも多いから、その点での迫力も含めてかなり良かったと思いますし、満足度は高いです。

 とりあえず希亜の正面向きの偉そうな立ち絵はドヤ可愛いですし、ヒロインの中で一番ちっちゃいはずなのにやたらと存在感強いよねぇ、と。
 一枚絵だと猫シーンは最強、あと添い寝と制服バックも良かったですな。


BGM(19/20)


★全体評価など

 追加分はボーカル3曲にBGMも3曲ですかね。
OPEDもかなり質の高い素敵な曲なんですが、個人的な感性にジャストフィットして最高だったのは挿入歌のSquallで、まあこれは流れるシーンが反則的なのもあるけれど、本当に透徹した悲しみと意思、哀切が満ち溢れていて滅茶苦茶好きです。この曲だけで満点にしちゃおうかちょっと悩むくらいには好みですね。
 BGMもmile likelihoodがいかにもラスボス戦、って感じの迫力と切迫感、完成度で相当に好みでしたし、元々の出来も素晴らしいのでこの位の評価はしてもいいのかな、という所です。


システム(10/10)


★全体評価など

 いつもながらに演出は抜群の出来で、今回は特に重いシーン、情感あふれるシーンが山盛りの中で、シナリオの迫力に負けない絵図をしっかり紡げていたと思います。
 キャラの動きの自由度やコミカルさもいつも通り健在で、ムービーの出来も全て素晴らしい完成度とカッコよさであり、特に文句つける部分は見当たらなかったですね。

 システム的にも特にネックになるところはないですし、抜群に使いやすいとまでは言わないですけど問題はないです。
 あれだね、超理想を言うなら、オーバーロードの枝で過去作のシーンも見られるようになってればよかったですけど、それやっちゃうと誰も過去作買わなくなるからダメか、と(笑)。ならせめて、過去3作のセーブデータ残してあれば、それを媒介に見られるようにするとか……まあインスト容量の関係もあるから難しいのかもだけど。


総合(96/100)

 総プレイ時間11時間くらいですね。
 シリーズの総決算に相応しいボリュームと盛り上がりでしたし、本当に2作目からの加速度的な面白さ、その勢いを最後まで維持して突き抜けてきたのは大絶賛に値します。
 またこのシリーズの価値は、最終的に露見する世界像との関連で、分作である事に大きな意味を持たせ、その必然を説得性として落とし込めている所にある、と言えるでしょうか。

 結果としてそれは、このお手軽なお値段でこれだけのハイクオリティな作品を作り続けられた点にも繋がってきますし、少なくともこの物語を、一作でまとめて一本道で堪能してしまうと、色々作品の魅力を取り落としてしまうし、説得性、という部分でも少し違った想いを抱く事になるのではないでしょうか?
 その意味でこのシリーズは、きちんと発売日ごとに追いかけてきた熱心なコアユーザーに最大限に報いるつくりになっていたと思いますし、私としても大満足の一作になりましたね。

 勿論完結した今だから一気に、というのも是非にお勧めしたいところではあります。
 ただですね、これは本当にこの作品としては不運としか言いようがない面がちょっとあって、都の出自とか、あと最後の決め手になる眷属化の理論とか、否応なく嫌な現実を想起させてしまう構成でもある、というのがね。。。
 正直これは最初から設定されていたことだから、文字通り貰い事故みたいな話ではあるのですけど、シリーズを追いかけてきて、その辺りが偶然だとわかってるプレイヤーならともかく、今からはじめる、という人にとって、面白いけど所々で現実を想起させられて没頭しきれなかった、なんて可能性がなくもなさそうなのは一応付言しておきます。



posted by クローバー at 06:37| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年04月13日

俺の姿が透明に!?不可避の薬と数奇な運命

 なんだかんだで絵柄が好きだし、設定もまずまず面白そうだったので購入。


シナリオ(18/30)

 必然性は不可避に出来ない。


★あらすじ

 主人公は幼い頃に両親と死別し、更に自身も幼い頃の事故で胸に傷を負い、今でもまともに運動などできない不自由な身体。
 しかしそういう境遇を吹き飛ばすように、エンジョイ&エキサイティングを信条に、周りをとことん楽しませる生き方を頑張って貫いています。
 そんなある日、最近の推しであるバーチャルアイドルのチトセの配信を見ていると、突然画面の中から話しかけられたような感覚に陥り、そしてそれは錯覚ではなく、いきなり自分の家にその画面の中の人であるチトセが押しかけてきて。
 そして主人公に、もっと楽しい事したくない?と、一定の条件で自身が透明になれるという不思議な薬を手渡してきたのです。

 その突飛のなさにやや面食らうところはあったものの、据え膳食わぬは男の恥、とばかりに、主人公はその薬を使って楽しい覗き生活をスタートします。
 まずは同居している従姉妹の亜芽にはじまり、所属している生徒会メンバーの七夕莉や冬羽、クラスメイトの琥珀や紫緒のあられもない姿を堪能する事で、今までにない彼女達の魅力を再発見していきます。
 その想いはやがて色合いを変えていって、けれど同時に、薬の副作用も順調に主人公の身体を蝕んでいって。
 これはそんな、透明化の薬がもたらす恋と危難、その上でトラウマを乗り越えていく勇気と覚悟を得る、絆と成長の物語です。


★テキスト

 全体的に軽いノリで、会話のテンポがとてもスピーディーで心地よく楽しめる、昨今のエロゲっぽいエロゲテキストですね。
 若干ルートによっては、キャラの個性や喋りの癖が徹底されていなかったり、ブレていたりするのはありますし、どうせシャープにするならもっと色々削げるよね?と感じる部分はそれなりにはあるのだけど、全体としてはそんなに悪くはないですし、普通に楽しめました。


★ルート構成

 基本的には好感度を稼いでいくオーソドックスな形で、その為のルートガイドはあるので、ゲーム性を敢えて楽しみたい人にも、ストレートにシナリオを楽しむ人にもわかりやすいつくりではあります。まあそれが必要なほど難しい選択肢はないですけど。。。
 最初に攻略できるのはチトセ以外のメイン4人で、それを全員攻略するとチトセルートが解禁、最後におまけのハーレムルートが搭載されます。個別ルートと呼べるような尺ではないにせよ、紫緒や霧姉さんともイチャエロ出来るので、そこは嬉しいですね。


★シナリオ

 全体的に結構壮大な設定があって、それに準じて個々の個別も意識的な作り込みになっている、とは思うのですが、正直徹底が足りない感じですね。八割減出来てないです。。。

 全体を通してまず言えるのは、所与の条件に対する根底の説得性の薄さ、根拠のなさが目立つところでしょうか。
 透明化の薬の出所や、個々のヒロインの持つ個性・特性などは、やはり物語である以上ある程度明快な理由づけ・説得性があって欲しいところで、そのあたりがおざなりになっているので、全体としての耐震強度が弱い、ロジックに揺さぶりをかけるとグラグラ屋台骨が軋んでしまうイメージです。

 亜芽や琥珀あたりは、主人公のトラウマとリンクしての個性・特性を有しているので、そのあたりわかりやすくていいのですけど、七夕莉の才能や、冬羽の後ろ向きな内面性などはもう少しなにかそうなる契機や必然を投入してよ、と思いますし、それができないならせめて共通からそういう素振り、伏線を引いておけ、という話にはなります。
 テーマとしてはそれぞれのトラウマの克服がメインになってくるわけですけど、どうしても方向性の違いや温度差は出さないと、という中で、シナリオとしてもかなり出来不出来の差が激しいのと、肝心要のチトセルートの作り込みがもうひとつ甘いのが、作品全体の評価を微妙なラインに押し留めているかな、と思います。

 ある程度ネタバレしちゃうかもですが気にせず個別評価すると、大体チトセ=亜芽>琥珀>七夕莉>>>冬羽くらいのイメージですね。

 冬羽ルートは正直、他のルートが程度の差はあれ全体の方向性として意識している設定をかなり逸脱している上に、このルートでしか出てこない設定・展開など恣意的に使いまくっていて、完成度、という視座でははっきり癌です。
 それでも例えばヒロインがとびきり可愛い、とかならまだ許せるのですが、普通に冬羽というヒロインの魅力を変な方向に捻じ曲げてダメにしていて、正直弁護したい部分がないシナリオです。

 そもそもこんな外見で、実はオタク気質のゲーマーで、心の底では自分に全く自信がなくて後ろ向きとか、どっから出てきた設定なんだ、って話ですよね。
 似たようなタイプでサノバウイッチのめぐるを思い出すのですけど、彼女の場合そういうイメチェン失敗からの、ある程度等身大の自分に戻って楽が出来る居場所を作るまでをかなり丁寧に共通で追いかけていました。
 しかし冬羽の場合、共通でそういう素振りを少しでも見せたか?と言えばノーと言っていいですし、見た目の派手さも含めて、突如そんな設定が出てきても違和感しかない、というのが本音です。
 主人公にしたって、いつからそんなゲームやってた?って唐突さですしね。

 そして、その設定を弄んだ結果として、中身の希釈されたどうしようもないつかず離れずの恋愛模様が延々と読み手をイライラさせ、しかも全体的にこのルートだけキャラ崩壊してるから、七夕莉とか特に誰だお前状態になっていて困ってしまいます。
 挙句、全体で共有すべきもっとも大切な設定である、透明化薬の本質に関してすらも解釈がズレていて、少なくとも他のルートが正しいとするのであれば、気持ちが上向きになったシーンでいきなり症状が悪化するとか噴飯もの以外の何物でもない、という感覚にはなります。
 そこからの解決にしても、やっぱり透明化の本質を無視して、全員が普通に覚えていたり、理由づけが一切ない冬羽のトラウマ克服を、しょーもない形で見せたら終わり、と、土台の説得力が皆無なのにそれで良かったねー、となるかいっ!って感じです。

 しかもそれでエピローグは、チトセと仲良くなって大団円みたいな雰囲気出してるけど、チトセが見えるって事はどういう事なのか、その辺全く配慮してないわけで。
 まあシンプルに見た目だけなら、チトセも比較的幸せそうで良かったね、と言えるのかもですけど、それ結果的に誰のトラウマもまともに克服してないんじゃない?って話ではあり、色んな意味でダメダメだと思いました。

 七夕莉は、全体で共有すべき、人間の存在定義における、自己認識の強固さと、他者認識の重ね合わせという複層的な概念の中で、ほぼ他者認識側に特化したアプローチになっていますね。
 七夕莉自身の特異性と、それに連なる経験則、更に主人公に対する恩義から、七夕莉が恋愛においてもああいうスタンスしか取れないというのは、前提の才能部分が眉唾とは言え、流石に冬羽よりはよほどまともに説明出来ています。
 それ故の献身的・かつ蠱惑的なアプローチはとっても可愛かったですし、七夕莉らしさ、という魅力は存分に味わえるうえで、きちんとトラウマの解決に際しても、自身の能力をフルに生かしてのアプローチが出来ているので、筋道としてはしっかりしている話だと感じます。
 ただこのルートは、主人公自身のトラウマとはあまりリンクしないで解決に繋がっていくので、二人の絆で、という色合いがやや薄いのはあるのと、他ヒロインとの関係性が強くない、二人の世界、という面が強いのはちょっと勿体なかったかな、というイメージですね。

 琥珀は逆に、自己認識側のトラウマに特化した形で、故に他ルートとは違う自体の変遷を紡げているのは、設定として得をしていると思いますし、それをきちんと活かして、琥珀の魅力と彼女自身のトラウマとの重ね合わせでの解決に導けているのが良かった点かな、と。
 主人公のトラウマが、単純に事故の痛みのみにあらず、それに付随した後悔が纏わりついている、というのは雰囲気で汲み取れていましたけど、その部分を綺麗に埋めてくれているルートだとは思いますし、同時に主人公がそういう境遇になった結果として、琥珀にも傷が紡がれていた、という設定は、都合はいいですけど筋道は通っていると思います。

 そういう部分があればこそ、主人公に対する無意識下の関心、とも言うべきなにかは琥珀にあった感じですね。
 自身への強迫観念や後悔の気持ちが、他者との深い関係を紡ぐことを及び腰にさせている、というのは、生徒会への正式な参画を躊躇したり、他の男子の告白をそもそも告白とも思わずにスルーしている、というパーソナリティに浮き彫りになっています。
 けれどそれでも主人公には一定の関心を持ち続けていた、というイメージですし、だからこそある意味で一番まともに、主人公に対してだけならきちんと恋愛が出来る、という特有のヒロイン感を出せていて、外面的にクールなのに中身はとても乙女で可愛いという素敵な魅力を存分に引き出せていたのは嬉しかったところです。

 正直もう少し過去の経緯とか、関係性とかは深掘りしてくれても良かったと思うのですが、他ルートとの兼ね合いもありますし、その中ではまずまず丁寧に出来ている方でしょう。
 このルートの場合は、主人公も琥珀と向き合い、その魅力がトラウマの傷を上回っていく流れの中で、透明化に頼らず、むしろ前向きに生きる力を獲得していく、という色付けがきちんと出来ていますし、その場合チトセは不憫ではあるけれど、それも含めて設定に忠実、琥珀というヒロインとの絆を紡ぐ、という視座では充分に合格点を上げられるルートだったと思います。

 亜芽は、その存在定義の両面をいいとこ取りというか、どちらもバランス良く搭載しつつ、独自のアプローチで解決を目指すという、非常にめんどくさい土壌の中でのルートになっていて、それを獲っ散らかる事なく、丁寧に筋道立てて綺麗に収束されているのは、流石の職人芸だなぁ、という感覚でした。
 正直亜芽自身の贖罪意識の重さはちょっとめんどくさいレベルではあり、ただでさえ兄に対してはツンツンしてしまうのがそれに拍車をかけているのですけど、それに誠実に向き合うことが、自分と亜芽のトラウマの解決に一歩ずつでも近づいていく、という、正攻法のアプローチになっていたなと思います。

 また、そのアプローチを実践するための必要悪として透明化の薬に頼った結果、臨界点を超えてしまって、というつくりは、同じ幸福の絶頂から突き落とされる、という形でも、全くそこに理路がない冬羽ルートと違う必然性がありますし、そうなってしまった時はどうしても横の繋がり、他者認識の重ね合わせによる存在強化が必要となってくるわけで。
 そこでの取っ掛かりとして、外的要因としての七夕莉の特性を一定利用しつつも、最終的には亜芽ならではのアプローチで解決に繋げていくというあたり、他ルートとは違いを産まなくてはならない部分で苦慮もあったでしょうが、まず無難にまとめていたと思いますね。
 爆発的に面白いわけではないですけど、実にらしい堅実さで、安心して楽しめるルートだったと言えそうです。

 チトセに関しては、そもそもなぜこのタイミングで主人公に薬を?というのは前提としてあるのですよね。
 正直この時点でのチトセの本心としては、主人公を自分と同じ境遇に陥れて、二人きりの世界で生きていく、という感じですし、でもそれだと、過去の主人公との関わり、それで前向きになって、バーチャルアイドルとしてなら他者と接する事が出来るようになった、という流れとあまり一貫しないと思うのですよ。
 それまで主人公のその後を確かめようとしていなかった、というのも不思議なところですし、バーチャルアイドルとして再会して嬉しくなって、気持ちが抑えられなくなった、というのはあるにしても、それでもやっぱりメインヒロインとして、そそういう後ろ向きな境涯に巻き込もうとした、というのは少なくないマイナスポイントにはなってしまうのですよね。

 だから出来ればここは、今の主人公を知って、それを観察した中で、主人公が一見楽しそうだけど、実はきちんと生きていない、自分の命を大切にしていない、という実感を得て、そういう悲しい生き方をこれ以上させたくなかった!みたいな、チトセなりの正当な理由づけは、明快に読み手に伝わる形で提示すべきでした。
 繰り返しになりますけど、やっぱり物語って大前提の部分の説得性が弱いと、それだけ他の部分も脆くなってしまいますし、その点でこの物語はやや失敗している、とは感じています。

 まあそれはそれとして、チトセルートそのものは基本的に悪くはない出来です。
 彼女の秘密を知って、関係を深めていって、その境遇から脱するための手段を模索していくというのは王道的ですし、その過程で横の繋がり、他のヒロインの特殊性も上手く活用しての展開を意識しているのは、グランドルートとしては必然的な構図と言えるでしょう。

 ただ勿体ないのは、その活用度が徹底されていない、多角的な視座を投入出来ていない部分でしょうか。
 人間の存在強度が、自己認識の強固さと前向きさ、そして他者認識の重ね合わせで成り立つというイメージを敷衍するのであれば、このルートでの解決はチトセ自身が恋心を抱く事を自身に許すという自己認識の塗り替えはかなりちゃんと出来てるのですけど、他者認識の枠組みが狭い部分、ほぼ主人公と亜芽たけで完結してしまっているのは勿体なかったですね。

 特に、簡単に補完できる部分としては、チトセの過去の所業の正否があります。
 薬の影響で存在は抹消されても、その存在が過去に残した足跡そのものはなかった事にならない、というのは、主に七夕莉ルートで実証されているわけで、チトセが皇帝でなくなり、違う皇帝という存在がその世界に誕生したとして、その国の方向性や、チトセの成してきた事は消えていないはずです。

 だからこそ、その時は人民に恨まれていようと、結果的には民を救う正しい選択が出来ていたのだ、という経緯を、おそらく意図的にチトセが目を背けていた歴史の中から拾ってくる事は出来たと思いますし、そういうのは七夕莉や琥珀あたりが得意にしてそうですからね。
 要するに、今のチトセだけでなく、過去のチトセも肯定されていたんだ、というのを、最後の説得シーンで材料のひとつとして投入出来れば、もっとその心変わりに説得性が付与できたと思うのです。
 増して、チトセのトラウマの根幹は今よりも過去に比重が重く置かれているのですから、より必要性は高かったとも言えますし、だからそれがなかったのは勿体なかった、片手落ちだった、という見立てです。

 ハーレムに関してはまあおまけなので、シナリオとして語ることはないですが、紫緒の騎乗位が大変エロ可愛かったとだけは記載しておきましょう。。。
 総合的にも、もう少し冬羽ルートはなんとかならんかったか?というのと、全体の土台をもう少し強靭に出来なかったか?というあたりで物足りなさはあり、グランドルートがさほど突き抜けられなかったのも含めて、点数としては平均程度に落ち着いてしまう感じですね。


キャラ(19/20)
 

★全体評価など

 んー、迷うところはあるんですけど、やっぱりそこかしこで、キャラの見せ方や、魅力の引き出し方にあれっ?って思う所があったし、それを糊塗して余りあるほど魅力的なヒロインもいなかった、という点で割り引いておくべきかなーとは。
 特に冬羽が全般的にキャラとして活きてないのが勿体無いですよねぇ。メインのチトセももうちょい見せ方を工夫して、負の要素を打ち消す事が出来ていれば、とは感じます。

 一番好きなのは最初の印象通りに琥珀。
 立ち位置的にかなり恵まれていたとは思いますけど、その中でちゃんと有利な土台をそのまま堅実に使って、この子ならではの魅力をししっかり引き出せていましたし、立ち絵もCVも超可愛くてとっても良かったです。
 次いでは七夕莉、この子も年上キャラながら妖艶さと可愛らしさが見事に同居していて、気風のいい性格も、立ち絵の愛らしさもかなり好みでしたね。もうちょっと他ヒロインのシナリオでも活躍する余地があったと思うだけにそこは残念。

 更に次だと亜芽か、実は紫緒になってしまうかもなぁ。
 亜芽は無難ではあるけれど、その想いの重さとベクトルが中々素直になれない、というあたりで損はしていると思うし、紫緒はシンプルに超可愛いけどいかんせん出番が少ない。
 チトセも、のじゃロリレベルの立ち位置の割に初々しくてよわっちくて可愛いのだけど、それでもやってることを全て許せる、ってレベルで痛々しさとか見えてこないし、そこからの頑張りやフォローも今一歩なのでねぇ。
 冬羽も見た目はとっても可愛いのにねぇ……。


CG(18/20)


★全体評価など

 好きな絵柄だし、今回もツボに嵌った部分は多いのだけど、ただ質量的にいつもより微妙と言うか、特に一枚絵の少なさと崩れが目立ったのは残念でしたかね。
 立ち絵は逆にポーズも多彩、服飾も超豪華で、表情差分なども含めてかなり良かったですし、特に琥珀と紫緒、七夕莉あたりはかなりお気に入りでした。

 一枚絵は全部で72枚なので、ヒロインがこれだけいる、と考えてもちょっと少ないですし、展開がどうしても一定画一的になる中で、絵の力で差異を作る、というあたりももう少し頑張れたんじゃないかなぁ、とは。
 めっちゃツボだったのは琥珀の立ちバックと紫緒の騎乗位くらいで、ちょっとバランスが崩れてるなぁ、ってのも目立ったし、好きなだけに採点は甘いけど正直総合的にはイマイチですね。


BGM(16/20)


★全体評価など

 ボーカル2曲にBGM24曲と、量的にはまずまずなんですが、思いの外音楽的にはガツンと来るものがなかったと言うか、むしろちょっと微妙、ってのも珍しくあったり。
 ボーカルはOPEDともに可もなく不可もなく位のイメージで、まだEDの伸びやかさの方が味わいがあるけど、あまりピンとこなかったです。
 BGMも全体的にそこまで響いてこなくて、そこそこ良かったのは琥珀のテーマくらい、あとトラブルの時の消失が、やや仰々し過ぎて耳になじまなかったなぁ、とは思います。


システム(8/10)


★全体評価など

 演出は悪くはないけど目立った部分もなく、もう少し頑張れたんじゃないかなぁ、とは。
 キャラのコミカルさはそれなりに担保されているけど、情感演出が全体的に弱めで、シナリオのメリハリや山谷に対してあまりインパクトを付与できていなかった気がしますね。
 ムービーも当たり障りない出来、って感じであまり印象には残らず。

 システム的には、神様のような君へ、と同じエンジンなので、こっちもまともにフルスクリーン出来ずに地味に厄介だったりね。。。
 まあ勿論それ以外の使い勝手という意味では特に文句ないですし、アクティベーションの紐づけも昔よりは簡易化してるから、その辺はいいのですけどね。


総合(79/100)

 総プレイ時間18時間くらい。
 共通が4時間、ヒロイン個別が2,5〜3時間くらいで、ハーレムは30分あるかないかくらいですね。
 全体として説明不足と、肉付けが足りない所はそこそこ目立ちますし、それがないせいで話の折り目がきっちりしていない、土台がグラグラしている、という部分も大きいので、その点はもうちょっと頑張ろうよ、という感じです。
 それに、ある程度ゆるやかに、とはいえ、全体の統制は取れているように思えて、冬羽ルートだけ野放図になっているのはうーん、ですし、そもそもの骨格の作り込みももう少し丁寧に出来たろう、という感はあるので、やっぱりイマイチの出来かなぁ、とは思います。
 普段は売りになる絵柄の魅力とCV力も、悪くはないけど強みにはなってない感じで、そこまでお勧めできる感じではないですね。

posted by クローバー at 07:05| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする