2017年03月24日

フィリスアフタークエスト <封印の先には…………研究室!?過去の遺産を精査しよう!>

イルメリア
「…………準備はいい?」
フィリス
「うんっ、仕掛けは上々、後は結果を御覧じろ、ってね♪リア姉、ソフィー先生達も、もちょっと離れててくださいねー」
ソフィー
「ほいほーい。うーん、一体壁の向こうに何があるんだろうねー、うーわー、ワックワクするなぁー!」
プラフタ
「…………どうでしょうね?私は正直、あまりいい予感がしないのですが…………」
リアーネ
「どちらにしても、その結界?とやらをどうにかしないと話が進まないわけですし。本当に今回の地震に関係があるのかも含めて、流石に見過ごすわけにはいきません」

 後ろ足に下がりながら、憂い顔のリア姉が使命感を燃やすように呟く。
 そのあたりの気持ちはやっぱりリア姉と一番通じるものがあるし、わたしも気合を入れて最後のセッティングを慎重に済ませ――――。

イルメリア
「…………じゃあ、火を点けるわよ」
フィリス
「うんっ、イルちゃんも気をつけてね」

 昔ながらの導火線を採用したのは、着火後に離れる時間を稼ぐため。
 基本的には幻覚作用、結界の構造に錬金的に高い効果をもたらすように調整してはあるけれど、純粋な爆発力も出来る限りは詰め込んだ、私達二人の傑作、ミスティックボム(うぅー、結局こっちが採用されちゃったよぉ…………)。

 いざ結界を貫いた後の基盤が想像より脆かった場合も含めて、色々と防護措置を整えるのに時間がかかってしまい、結果的に採掘場そのものの再開も遅らせてもらっているので、ここで失敗は許されない。

イルメリア
「…………やっ!」

 ボゥッ、とイルちゃんがかざした杖の先から、微かな火の玉が着火点に飛来していく。
 首尾よく点火を果たした導火線は、ジリジリと焼け焦げ、道中で二つに分岐し、両端に備え付けた爆弾に到達する。

 ――――バシュゥゥゥゥッッ!!!

ソフィー
「っっ!?」
プラフタ
「これ、は…………」
リアーネ
「これが、結界…………?」

 指向性と収束性を与え、極限まで密度を高めた白い焔が、結界の中心と思しき場所を激しく穿つ。
 するとその衝撃に堪えかねるように、不可思議な共鳴音が響き渡り、そして寄せては返す波のようにゆらゆらと、幻想の向こう側に隠された実体が、錬金術で作られた人工的な壁の姿が浮かび上がる。
 その明滅を繰り返すたびに、どんどんその実在感は強くなり――――。

フィリス
「うん、うんっ、そのまま、そのまま…………っ」
イルメリア
「よし、いけぇっ!」

 爆弾内部で時間差で炸裂した、より強く幻の消滅に寄与する効力を持った赤光が、白の軌跡を塗り替えるように殺到する。
 すると、まるで薄い氷を踏み割ったかのように、バリン、と現実の空間からも認知できる罅が入り、それは徐々に大きく広がっていって――――。

 ――――パリィィンッ!

フィリス
「っっ!!よしっ、穿ったっ!」

 刹那揺らぎが停止し、長年異次元の向こう側でなにかを守り続けてきた壁が、現実と地続きになる。
 予想通りその結界そのものには自己修復機能が備わっているようで、罅はすぐに外側から復元されていくけど、でもその一瞬で充分っ!

 ――――ドドォォォンンンッッ!!

イルメリア
「きゃっ!?」

 須臾の隙間を縫って到達した破壊の熱は、今度こそ錬金壁を粉微塵に打ち砕き、それと同時に結界の修復機能も吹き飛ばして見せた。
 激しい爆風がわたし達の元まで届き、隣に立つイルちゃんが口元を覆って、それでも僅かなり異変を見逃すまいと、鋭い視線を立ち昇った靄と煙の向こう側に飛ばしている。

 その流石の集中力に感銘を受けつつ、わたしは役割分担通りに周囲の被害に目を凝らす。
 けれど色々と事前に対策を練ったことで、幸いにも元の坑道の外壁には目立った亀裂や破壊の余波は及んでおらず、ホッと胸を撫で下ろしたところでようやく視界が鮮明に広がっていき――――。

ソフィー
「わっ!こっ、これってっ!?」
プラフタ
「研究室、でしょうか?わざわざこんな場所に、どうして…………」
リアーネ
「し、信じられない…………本当にこんなものが、ずっとずっと昔から隠され続けていたなんて…………」

 背後のみんなが三者三様に息を呑む。
 クリアになった眼前に浮かんできたのは、岩肌をお玉で刳り抜いて作ったような、円柱型の建造物。
 その造形はいかにもアトリエらしい空気感を纏っていて、けど、それ以上に――――。

イルメリア
「ふ、ふふっ、やった、やったわっ、私達の爆弾、ちゃんと狙い通りの威力、発揮してくれたっ!」
フィリス
「……………………」
イルメリア
「って、ちょっとフィリスっ、なにボーッとしてんのよっ、こういう時に必要以上にはしゃくのはあんたの専売特許でしょうがっ!」
フィリス
「えっ!?あっ、そ、そうだねっ、上手くいって良かったねっ、特に坑道にダメージもないみたいだしっ!」

 イルちゃんに呆れ交じりにつつかれて、ようやく成功の実感がじわりと湧いてくる。
 けれどその前に、この胸に去来したあの感情は。
 どうしようもなく迫ってきた「懐かしい」という想い、それとは裏腹の緊張感は一体――――。

ソフィー
「と、とにかくっ、あの建物の中を調べてみようよっ!これだけ厳重に隠されていたんだもん、きっとすんごいお宝とか知識が埋まってるに違いないんだからさっ!」
プラフタ
「あっこらっ、ソフィーあなた、最初は功労者の二人に譲ってあげないとっ!」
ソフィー
「わかってるよー、ただ気分がウキウキし過ぎて、ちょっとでも近くで見てみたいなって思っただけ――――ひゃうんっ!?」
イルメリア
「えっ!?」
フィリス
「ソ、ソフィー先生っ!?」

 くるくると踊るように両手をかざしながら、後ろ向きにその建物に近づいていった先生が、突然何かに弾かれたように前向きにつんのめり、無様に地面にヘッドスライディングを決める。

プラフタ
「…………なにをしているんですか、あなたは」
リアーネ
「えっ、で、でも今、別に転んだとかではない、ですよね?むしろなにか、見えない壁に弾かれたような…………」
フィリス
「だ、大丈夫ですかぁっ!?」
ソフィー
「い、いたひ…………う、うぅーっ、なんなのぉ…………っ」

 慌てて駆け寄って手を差し伸べると、涙目でむくりと起き上がる。
 咄嗟に直撃を回避する余裕もなかったのか、綺麗に鼻の頭や頬にギザギザの擦り傷が刻まれ、それが綺麗な文様を描いているようで…………。

フィリス
「…………プッ、あは、あははっ!せっ、せんせっ、それっ、その顔っ!」
イルメリア
「こ、こらっ、あんたそこで笑うとか失礼過ぎっ!」
フィリス
「だっ、だってぇっ、なんかこんなのコントみたいで…………っ!」
ソフィー
「え、えぇーっ?ちょ、ちょっと待って待って、今のあたし一体全体どんな顔してんのぉっ!?」
プラフタ
「見てみますか?」

 近づいてきたプラフタさんがアームを召喚し、その反射面を近づけてきて。
 それを泣きそうな顔で覗き込んだソフィー先生の口の傍がピキッ、と引き攣る。

リアーネ
「…………確かに、ここまでくっきりバランスよく傷つくとか、奇跡的な確率かも」
ソフィー
「う、うわぁぁんっ!!見ちゃダメぇっ、こんなおかめなあたしは記憶から消してぇっ!!」

 普段はどこか飄然とした余裕を保ち続けているソフィー先生がひたすらに狼狽し、遠くに駆け去って後ろ向きに即効性の回復薬を使っている様子は、なんとも微笑ましい。
 そのおかげで、それまでに感じていた気負いや怯えがプシュウッ、と抜けて、元々の高揚感と期待感が蘇ってきたのもあり、体を張ってくれた先生には悪いけど感謝感激雨あられだ。

プラフタ
「…………コホン、しばらくソフィーは放っておいてあげましょう。それよりも…………」

 仕切り直すように、プラフタさんがその建物に怜悧な視線を向ける。
 そして、召喚したままのアームを、先程先生が弾かれたように見えた地点までゆっくり動かすと――――。

プラフタ
「…………やはり、ここにも見えない結界が存在するようですね」
イルメリア
「…………ええ、そうみたいですね。どうやら、喜ぶのはちょっと早かったみたい」

 続けてイルちゃんも、扉をノックするようにコンコン、と見えない空間を叩く。
 その反動でほんの僅か、時空に波紋が広がるように見えるけれど、その向こう側には一向に変化の兆しは見当たらない。

リアーネ
「…………やはりこれも、先程と同じような組成なんでしょうか?」
プラフタ
「おそらくは。厄介ですね、一枚だけなら力技の突破も良し、でしたが、この先幾重にも似たような封印が施されていると考えると、やはり根本的に解除する仕組みを見出さないと厳しいやもしれません」
イルメリア
「確かに、あの爆弾を作るのに、どれだけ険峻な採取地を巡ってこなきゃならないか、って考えると、費用対効果の面で難しいものがありますね…………」
フィリス
「うぐぐ…………確かにあの爆弾、希少材料を湯水の如く消費する上に、ちょっとでも配合の手順や効力の引き出し方間違えるとおじゃん、だもんなぁ…………うー、でもぉ…………」

 沈滞した空気が漂う中、わたしは諦め切れずに、自分でも確かめてみようとその見えない壁に手を伸ばし――――。

フィリス
「…………あれぇっ!?」

 呆気なくわたしの腕はその壁をすり抜け、その勢いでたたらを踏み、全身が向こう側に躍り出る。
 その瞬間、ぽぅっ、とその見えない壁が、人の耳に届くギリギリの音を奏でて、その効力を消し去ったように感じられて――――。

ソフィー
「よーしふっかーつっ!さぁー、それじゃ次の壁を壊す算段を…………ってあれぇっ!?フィリスちゃんがもうあっちにいるっ!?」
プラフタ
「…………ソフィー、今日のあなたは徹底的に狂言回しが板についてますね。ですが、今のは一体…………」
イルメリア
「でも、確かに今まで感じていた圧迫感というか、忌避感がスッと消えた感じはありました、よね…………?」
リアーネ
「え、えっと、フィリスちゃんにはなんともない、のよね?」
フィリス
「う、うん。ほら、リア姉もこっち来てごらんよ」

 誘うように手を伸ばせば、おずおずと近づいてきて。
 そして難なく、先程まで確かにあった峻厳な境界線を踏み越えて、わたしの手はリア姉の温もりに包まれる。
 そこから微かな震えが伝わってきて、リア姉の安堵と畏怖が手に取るように感じられる。

 わたしもまた、一番最初に感じた郷愁が、リア姉の手を取る事で再び舞い戻ってくるような感覚に陥って――――。

プラフタ
「…………生体認証、でしょうか。確証はないですが、きっとこの場所を作ったのはフィリス達の直接の祖先で、そしてその血脈が封印を取り払う鍵だった…………」
イルメリア
「で、でもっ、最初の壁はあの子が触れても特に変化はなかったですよ?」
ソフィー
「最初、だからなんじゃないかな?やっぱり普通封印って、一番手前を厳重に、その存在自体が気付かれないように紡ぐのが常道、だと思うし…………あとは、子孫に対する試練とか」
リアーネ
「試練、ですか?」
ソフィー
「うんっ、このくらいの初歩的なものを突破できなくちゃ、その先に隠された錬金術の深奥を覗き込む資格はないぞがはははー!みたいなノリで」
イルメリア
「が、がははって、なんでそんなお師匠様的なノリなんですか…………」
フィリス
「というか、これで初歩的ぃ?あんなに真剣にイルちゃんと二人で知恵を振り絞ったのにっ!」

 確かにわたしたちがまだ駆け出しに毛が生えた程度なのは認めるけれど。
 それでもこの力がまだまだ入り口に過ぎない、と思えば、背筋を冷たいものが走るようで。

プラフタ
「…………まさか…………ですが、いえ…………」

 そしてもう一人、ソフィー先生の示唆を受けて何かの可能性に思い当たったかのように、ただでさえ白い顔が透けて見えるくらいの深刻さで考え込むのは――――。

フィリス
「あ、あの、プラフタさん?なにか思い当たる節でも…………?」
プラフタ
「っっ、失礼しました、いえ、杞憂に終わればいい、と思うのですが…………。ともあれ、フィリスがいるならこの建物の中にも入れるでしょう。話はそれからでも良いと思います」
ソフィー
「そだねー、大冒険の果てに手にしたお宝がしょっぱい!なんて、結構良くある事だし」
イルメリア
「ここまで大事にして、単なる徒労でした、ってのは切ない話だけど」

 唇を軽く尖らせて肩を竦めるイルちゃんに、ポン、と背中を押されて。
 わたしは至ってシンプルな樫の扉の取っ手に手を伸ばす。
 そこに触れた時にも、さっきと同じような解除の気配が漂って、すぐに何事もなかったように沈静する。

フィリス
「…………よしっ!」

 ガチャリ、とノブを回して扉を開けば、深閑とした闇が広がって。
 恐る恐るそこに首を差し込むと、まず鼻をついたのは、古い、饐えた紙の匂い。
 そして――――。

ソフィー
「わぁっ、すごいっ!」
イルメリア
「…………随分と凝った、神秘的な仕掛けね」

 ポッ、ポッ、ポッと、天井近くの灯りが、わたしの存在を感知したのを契機に次々と灯って、室内に光と影を形作る。
 それはまるで啓蒙主義の絵図面のように、その足下に広がる知識の泉を皓々と照らし、披瀝していく。

 嗅覚が捉えた予想に違わず、そこに広がっていたのは円状の壁一面に並ぶ本、本、本――――。

プラフタ
「…………やはりここは、錬金術士の研究室で間違いないようですね。実践の場、というよりは、誰にも邪魔されない思索の間、という雰囲気ですが」
リアーネ
「そう、ですね。確かに釜も見当たりませんし…………」

 冗談ではなく、本以外のなにもが意味を持たないような部屋だった。
 他にある調度は、中央に設えられた一脚の椅子と簡素な机のみ。
 そして部屋の一番奥に、更に奥に続くであろう扉がひとつあるだけの、所有者の清貧ぶりを偲ばせる佇まいは、でもやはりどこか胸の奥の深い部分で懐かしさを想起させる。

 なんなんだろう、この気持ち?わたしは、この場所と、どういう関係があるんだろう――――?

イルメリア
「…………ここに蒐集されている本、全部古代語で書かれているみたいね」
リアーネ
「あらイルメリアさん、わかるの?私にはいくら背表紙を見てもちんぷんかんぷんだったけど…………」
イルメリア
「一応、齧った程度ですが。ソフィーさん達は?」
ソフィー
「あ、あははー、あ、あたしはこーゆーのはあんまりー…………」
フィリス
「ちょ、ちょっとぉっ、どーしてわたしには訊こうともしてくれないのかなっ!?」
イルメリア
「だって、訊くだけ時間の無駄じゃない」
フィリス
「し、しどい…………」
ソフィー
「でもだいじょぶっ!あたしにはこういう時のつよーい味方、プラフタがいるもんっ!ねっプラフタっ!…………プラフタ?」

 先生が水を向けても、返ってくるのは沈黙ばかりで。
 釣られてそちらを向くと、かつて見たこともないほどに険しく唇を引き結んだプラフタさんが、ほとんど睨みつけるように書棚に陳列された書物の背表紙を追いかけていた。

ソフィー
「…………っっ、プラフタ、もしかして、ここって…………」 

 その深刻さに思い当たる節があったのか、普段より重い声で問いかける先生に、プラフタさんは苦渋を飲み下すように頷く。

プラフタ
「…………お察しの通りです。ここに残されているのは、今ではほとんど失われてしまった、古い時代の錬金術について綴られた書物が大半、のようですね…………」
イルメリア
「古い時代の!?そ、それって、今より遥かに技術が進歩していたと言われている…………も、もしかしてこれって、歴史的な大発見だったりするんじゃ…………!」
フィリス
「へっ、そうなの?」
イルメリア
「あーもぅっ、ほんっと能天気ねあんたはぁっ!あんだだって幼い頃におとぎ話のひとつやふたつ、読んだことはあるでしょうっ!?」
フィリス
「う、うん、そりゃーあるけど…………」
イルメリア
「全部が全部、とは言わないけれど。ああいう幻想的で壮大なお話の基になっているのは、古錬金術がもたらした奇跡の発現だ、ってのは、歴史学の上でもほぼ定説じゃないっ!」
フィリス
「ええっ!例えば竜を召喚して暴れ回らせたー、とか、町をひとつ丸々空に浮かべてしまったー、とか、そういう荒唐無稽なお話が全部下敷きがあるってことぉっ!?」
イルメリア
「…………あんたねぇ、脳みそスポンジも大概にしなさいよ。実際につい最近、私達はかつての錬金術の秘儀によって空に浮かんだ島を踏破したばかりじゃない」
フィリス
「あっ、あー…………そ、そっか、そう言われれば…………」

 滅多にないくらいに興奮しているイルちゃんのテンションにたじたじになりながらも、ようやくここに並んでいるものの価値が、重みが理解できた気がして、けどそれは高揚よりも先に戦慄を呼び起こす。

 そんな大それたものが、なぜここまで雁首揃えてこの場所に隠されていたのか?
 どうしてわたしの胸には、幼い頃に初めて猟に出掛けたリア姉を見送った時に似た、寂寥と不安が綯い交ぜになった想いが沸き立ってくるのか――――?

ソフィー
「…………プラフタ的には、どうしたいの、かな?」
プラフタ
「…………正直に言わせてもらえば、全てを破棄すべき、とは思います」
イルメリア
「どっ、どうしてですかっ!?こんな貴重な資料、もう世界のどこにも残っていないかもしれないのに…………?」
プラフタ
「だからこそ、ですよ。この中には確かに錬金術の清水が籠められていますが…………中には人道を外れた禁忌の術も多く秘められているのです。もし生半可な力を持った錬金術士が、それを悪戯に濫用しようとしたら、世界に悪い影響を与えかねません」
リアーネ
「…………それは、かつて実際にそういう事があった、ということなんですか?」
プラフタ
「…………っっ、ええ、その通りです」
ソフィー
「プラフタ…………」

 その言葉を放った時のプラフタさんは、後悔と共になにか重たいものを飲み込んだような雰囲気がして。
 気遣うように寄り添う先生の様を見ている限り、それはあまり根掘り葉掘り尋ねない方がいい事に思える。
 
 ただ、それはそれとして――――。

フィリス
「…………それでも、全部捨てちゃうのはイヤ、だよ」
イルメリア
「フィリス?」
フィリス
「その…………うまく言葉に出来ないけど、わたしここを最初に見た時から、不思議なくらい懐かしいっていうか、ここを手放しちゃいけないような感覚があって…………きっとここを残した人も、孤独に苛まれながら、良かれと思ってこうしてくれたんだって気持ちが伝わってくるみたいで…………」
リアーネ
「フィリスちゃん…………」
フィリス
「え、えへへ、自分でも要領を得ないし、そもそもこんなの貰ってもぜんっぜん読めないからどうしよー、って話なんですけど、ね…………」

 我ながら説得力のない、曖昧模糊とした想いを語り終えると、プラフタさんは小さく眉を歪めながら俯き、高速で頭を回転させているようで。
 やがて何某かの結論が出たのか、真っ直ぐに澄んだ瞳をわたしにぶつけてくる。

プラフタ
「…………フィリス、貴女はこの場所を守りたい、と、そう感じているのですね」
フィリス
「…………はい。プラフタさんの危惧もわかりますけど、でもだからって、この場所を破却すればそれでいい、って事にはならないと思うし、やっぱり町の問題だから。有耶無耶なままにはしたくない、です」
プラフタ
「…………でしたら先に、いくつか試させてください。フィリス、まず現状で、あの奥の扉を開くことが出来ますか?」
フィリス
「奥の?は、はい、やってみますね」

 突然の指示に戸惑いながらも、てくてくと部屋を縦断して奥の扉の前に立ち、先程と同じように気軽にノブを回そうとする。
 けどそれは全く触れている認識を伴わずに、ただ中空を掻き混ぜただけに終わってしまって――――。

フィリス
「あ、あれっ!?開かない…………というか、触れない?」
プラフタ
「なるほど…………ソフィーも試しにやってみてください」
ソフィー
「あいよー、どれどれぇ…………わっ、なにこれっ!?ここに見えるのにここにはない、そんな感じで空回りするんだけどっ!」

 幾度もノブを回す手つきを繰り返しながら先生が呆然とし、徐々に興味津々の気配を醸し出す。
 確かに、これは一体どういう仕組みになっているのか…………?

プラフタ
「…………ふむ、どうやらここできちんと勉強を進めてからでないと、その先に進むことはなりません、と言っているようですね。…………もうひとつ、皆さん一度外に出ましょう」
イルメリア
「わ、わかりました」
ソフィー
「あっ、待って待ってー」

 言うなり率先して踵を返したプラフタさんをみんなで追い掛ける。
 最後にわたしが部屋から足を踏み出すと、途端に今まで皓々と室内を照らしていた灯りがフッと掻き消える。

イルメリア
「…………この、自動認識の機構だけでも桁違いの技術よね」
フィリス
「うん、あれだね、お部屋で勉強してる時に、ついうとうとってしちゃったら、気を利かせて勝手にランプが消えてくれたりすると便利そう!」
イルメリア
「…………なんでそんな怠惰な発想がいの一番に浮かんでくるのよ」
フィリス
「でへへ、だって実際にそういうの、多いんだもん」
プラフタ
「フィリス、イルメリア。無駄口は後にして、こちらまで来てください」

 入り口近くで喧喧囂囂と戯れるわたしたちを、嗜めるような硬質な声が促す。
 見れば三人は、元々の結界の境界線の向こう側あたりまで下がっていて、慌ててわたしたちも小走りでそこまで駆け寄ると――――。

ソフィー
「えっ!?」
リアーネ
「…………あら、まぁ…………」
プラフタ
「…………なるほど。大したものです」

 途端に背後に生まれる圧迫感。
 どうやら私が外に出たことで、再び結界が起動したようだ。
 つまるところ、これは――――。

プラフタ
「ソフィー」
ソフィー
「えー、またあたしに試させるの?仕方ないなぁ…………」

 さっきの顛末があるからか、怖々と傍に近寄った先生が手を伸ばせば、やはりというべきか、それは中途で阻まれる。
 杖をかざして二度三度、最後はかなり強めに叩いても、暖簾に腕押しとばかりにその結界はびくともしない。

イルメリア
「な、なによこれ…………。つまり、ここに入るにはフィリスがいないと無理、ってこと?」
プラフタ
「ええ、そういう事でしょう。そしてそれならば、一先ずは濫りに知識が流出する心配もない、という事です。もっとも、フィリスになら中の書物の持ち出しも可能かもしれませんが…………」
リアーネ
「と、ともかく、どうあれまずはこの中の書物を紐解いて、色々と調べていかないとダメ、ってことになります、よね…………?」
プラフタ
「でしょうね。とはいえ、当の本人たるフィリスは全く古代文字に造詣がないようですし…………イルメリアは?」
イルメリア
「すみません、私も初歩的なところまでしか…………」
プラフタ
「…………となると私一人で読み進める…………それだと時間がかかり過ぎますね。ここは信頼出来る相手に助力を願うべきでしょうか」
ソフィー
「信頼出来る相手?本絡みで、ってなると…………」
フィリス
「カルドさんと…………あとアンネリースさん!この二人ならきっと、未知の本があるよって言えば喜んで協力してくれると思うっ!」
リアーネ
「確かに、あの二人は方向性こそ違えど本の虫、って感じですものね」

 私のその提案に、まだ苦渋の気持ちはあるのか、不承不承にプラフタさんが頷いて。

フィリス
「よしっ、だったら早速二人に声をかけて…………って、あれ?もしかするとこれ、わたしもしばらくここに缶詰め?」
イルメリア
「ま、あんたがいないと開かないんじゃどうにもならないわよね。いいじゃない、この機会に古代語を勉強、してみれば?」
フィリス
「えーっ!?い、いいよっ、ただでさえ勉強しなきゃいけないこと一杯あるんだしっ!ほらっ、餅は餅屋というかねっ、わたしは翻訳してもらったのを読むだけで充分かな、って。あはは、あははは…………っ!」
ソフィー
「あははっ、わかるわかる。興味ない事を学ぼうとしても、ぜんっぜん頭に入ってこないよねぇ!」
プラフタ
「笑い事ではありません。一角の錬金術士たらんとするものがそんなことで…………ぶつぶつ…………」
リアーネ
「まぁまぁ。でも確かに、フィリスちゃんがいないと出入りできないのは、今後を考えると少し不便ですね」
イルメリア
「…………試しに形代の人形でも作ってみたら?生体認識って事は、そこにフィリスがいるって錯覚させればいいんだと思うし、多分そういう発想が出来るかも含めてのこの場所、って気がする」
フィリス
「わっ、イルちゃん冴えてるっ!」
プラフタ
「形代、ですか…………安易に出入りの可能性を増やすのも考え物ですが…………ですが私が直に管理するならまだ…………」
ソフィー
「もー、プラフタはうじうじ後ろ向きな事考えすぎだって!あたしもそれ、試してみるのは賛成だなぁ。なんか面白そうじゃない?」
フィリス
「ですねっ!となると…………やっぱり人形作りとなったら、ドロッセルさんとフリッツさんにも話を聞きに行くべきかなぁ?」
イルメリア
「そうね、あの二人なら適切なアドバイスをくれそう」
リアーネ
「ええっと、そうしたらまず形代の人形作りの目途を立てて、それから二人に協力を仰いで本格的に書物を調べる、こういう方針でいいのかしら?」

 リア姉がそうまとめると、誰からも異存は出てこない。
 やることが決まった途端、未知のものに挑む高揚感がわたしの中に充溢してくる。

リアーネ
「…………ち、ちなみにフィリスちゃん?そのお人形って、ちょっと多めに作れたりしないかしら?もし良ければ私も欲しいなぁ、なんて…………」
フィリス
「リ、リア姉〜…………そこで我欲丸出しとかどうなのさぁ」
イルメリア
「ふふっ、でも気持ちはわかるし、リアーネさんが肌身離さず持っていてくれるならむしろ安心なんじゃない?」

 イルちゃんの茶化しで、さざ波のように笑いが広がる。
 うん、どうあれまずは、目先の事をひとつずつしっかりと、だねっ!
 
posted by クローバー at 03:05| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年03月23日

滑り込みセーフ

 桜花裁きの感想をアップしました。
 結果的にようやく、というか、本当に言い訳ばっかりで申し訳ないんですけど最近忙しくって、まともにあれこれ書いてる余裕が作れないんですよね。結局ギリギリ新作直前になってしまう体たらくです。
 
 ただ時間を置いた分内容的にはしっかりと踏み込んで…………と言いたいのですが、全体的に色々詰め込み過ぎていて、どこを深めに切り取るべきか難しさもある内容なので、結果的に全体を少しずつ削ぎ取るようなまとまりのない感想になってしまったような気がします。反省。
 まあ一応基本的に触れたいことは書けましたし、粗さはあってもそれ以上に構成と勢いで上手く盛り上げてくれていて、キャラも含めてすごくいい作品だったとは思っています。小梅可愛いよ小梅。

 フェアリーテイルシリーズは、アンコールとシンフォニーをクリアしてシリーズコンプリートです。
 アンコールはどういう形なのかと思えば、なるほど前日談という手があったか、というところで、本編での心境や立場を反映しての約束された悲劇を、それでも抒情的に丁寧に綴っていてすごく面白かったですし、ドロシーも可愛かったですね。
 そしてシンフォニーに関しては、ある意味トリック的というか、イフに近い内容ではありますし、いざそうなったら確かにこれくらい快刀乱麻、って感じで進んでいくのかな、と思うところもあり痛快でしたね。
 実際にそうまで殊勝なのか、って部分の是非はともかく、発想として面白かったですし、この流れでのゲルダも非常に可愛かった、かつ悲嘆に巻き込まれずにいられたので中々に満足です。

 とりあえずこちらは旧作なので、三作まとめて一本の感想に仕立てようと思います。
 多分書けるのは火曜日ですね。まあ結果的にすごく理路の整った綺麗な話なので、すっと書けるでしょうし、これは本当に買ってみて良かったと思える素敵な物語でした。

 さて、明日からはもう三月の新作ですね。
 とりあえず最初は当然ながらはるるみなもに!になります。水緒里のうん、知ってる。が楽しみで楽しみで。。。
 …………まーホント色々積み残しがあって、かつ七本も買っちゃう罪深さに打ち震えるしかないのですが、ご、五週間あるからきっと平気だし!を免罪符にコツコツ頑張りますですはい。
posted by クローバー at 18:49| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

桜花裁き

 初見から面白い要素てんこ盛りだなぁ、と思っていたし、CVが出た時点で買い確定にはなりましたね。。。
 体験版自体はやや掴みどころのない雰囲気でしたが、面白い方に転んでくれると期待して購入です。

シナリオ(25/30)

 正しさだけでは生きていけない。

★あらすじ

 時は封建文化真っ盛り、その中でも一際の反映を誇る桜花町において、主人公は町の治安を司る奉行所の新設に伴い、北町、南町に続く中町の奉行に若くして抜擢されました。
 冷徹なる北町、人情の南町と称され、その均衡によって町の平穏や不穏分子の抑え込みをなんとかこなしている状況において、南町の大岡の血を引く主人公の赴任は、そのバランスを崩す可能性を秘めており、それ故か北町からも奉行の娘の桜が監視役兼補佐役として出張ってきて。
 その他にも幼馴染で発明家、そしてこの度は岡っ引きの役目も引き受けてくれた理夢や、幕府組織とは別の理念で動く自治的な治安組織の進撰組の面々に支えられる形で、主人公の奉行生活ははじまります。

 しかし、内部統制もままならない、知識も経験もない段階で、早々と町で発生する殺人事件。
 その現場で返り血を浴びているのを見とがめられ、犯人として突き出された小梅は、か細い声で自身の無罪を主張し、主人公も目撃証言だけを鵜呑みにすることなく綿密に事件現場の調査や聞き込みなどで真実を白日の下に浮かび上がらせていって。
 そうした努力の甲斐あり、幕府上層の嫌がらせなども受けつつ、なんとかはじめての白州での裁きを正しく導くことが出来たものの、一連の動きを通じてまだまだ自身の未熟を痛感する事ばかり。

 その事件の結果として、寄る辺がないという小梅を奉行所の書記として引き取り、まだ少なからぬ軋轢を残し、文字通り内憂外患の門出ながらも必死で頑張って食らいついていこうと考えたその刹那。
 改めて父の仕事の重みを知り、その助言を貰おうと訪れた山間の神社、その夜闇の中で、他ならぬ現役奉行の父が血の海に倒れているのを発見します。
 狼狽する主人公に対し、今際の際にこれが因果だと諭し、軽率に事件の裏側を探ってはならないと戒めて事切れ、主人公はその遺言となった忠言を心に刻み、日々の仕事に忙殺される中で、迷宮入りとなったその事件について追いかけるのを留保します。

 かのように、華やかさの裏側で様々な思惑、思想が跋扈暗躍し、無辜の民の生活迄もを陥れようとする不穏な空気を孕んだ桜花町。
 果たして主人公は、父から受け継いだ人情裁きの理念を胸に、社会を正しく導くことが、そしてそれを脅かす陰謀を打ち破り、平和を取り戻すことが出来るのか?
 その陰謀の背景にある想いとは、この社会の歪みとは何なのか?
 これはそんな、社会正義のありようと、その歪の中で圧殺されてしまった嘆き、挽歌を拾い上げて慰撫しつつ、罪は罪として真っ直ぐ向き合っていく強さを、それを得るために必要なものを育んでいく物語です。

★テキスト

 舞台は明らかに江戸時代半ばくらいを想定していますが、語り口や語彙のチョイスとしては極端に時代性を加味せず、ある程度わかりやすさと勢いを重視した格好になっていると思います。
 風俗的な面については暗々裏に江戸時代のそれを踏襲している感があるので、そこでやや齟齬や違和感が生じたりはなくもないですが、四角四面であるよりはいいのかな、と思います。
 正邪の切り分けがやや雑駁なのも時代背景に基づく部分があり、むしろその混在が精神性として、この世界像においては稀有と言える人権に対する配慮、優しいまなざしを持つ主人公側の想いに必然的に依拠できる土壌を紡いでいる、とも言えるかなと感じますね。

 読み口自体は極端に笑いやシリアスに振れ過ぎる事はなくバランスは取れていますし、基本的には読み易くシンプルに構成されているなと。
 あと蛇足的ですが、やっぱり個人的には縦書きの方が文章の内容って頭に入ってきやすいな、と思う部分はあります。
 当然これは作風を加味しての処置で、全てのADVにマッチするやり方ではないので特に加点要素になるわけでもないですが、雅趣を凝らした文章になればなるほど横書きだと読みにくくなりますからね、これは正解だと感じました。

★ルート構成

 一応恋愛ADVを銘打つ作品としては、中々に異端的で大胆な構成になっていると思います。
 勿論体験版の時点で、奉行仕事とそれに連なる大きな事件の解明が本筋になるなら、恋愛要素はおまけというか、脱落式みたいな構成になるのかな、という予感はありました。
 ただその予想をいい意味で覆したというか、この作品では完全に本筋とその後の恋愛模様を切り分けて二部構成にしてしまっています。

 本編においても一応のルート分岐はありますが、基本的には一本道、かつその分岐はヒロイン云々でなく自身の社会に対する思想性のありようを問うものであって、まずはそちらわじっくり堪能してください、という作り手の意思をヒシヒシと感じる構成になっています。
 そうして大枠の事件が解決してはじめて、後日談やおまけif的な形で個々のヒロインルートに進める形になっていて、かつそうやって切り分けたつくりの割にヒロインルートの尺もしっかり取れているという、中々に意欲に満ちたつくりになっているなと感じましたね。

 少なくともこの本編の展開や個々人の思想、立場を鑑みれば、そこに同時に恋愛をねじ込むのは相当の力技がいるし、より違和感も生じさせるだろう、というところで、これはこれでひとつの正解だと思います。
 なので、小難しい奉行パートとかシリアスは別にいらん、さっさとヒロインとイチャエロさせろー!という人には忍耐が強いられるとも言えますが、まあ流石にこの作品を手に取る人でそういう層は少数派だと思いますしね、ターゲットを絞り込んだ上で受け入れられるだろうという試算がしっかり感じられる部分でもあります。

 ヒロインルートの分岐は一箇所だけ、そもそもそれまでの仕事の同僚として培った信頼があるので、その辺はまあざっくりでも仕方ないと思いますし、私としても道中やきもきはしたけど結果的にはこれで良かった、と感じるつくりでした。

★シナリオ(本筋)

 この作品の場合、本筋と後日談ではかなり毛色が違うものはありますし、ここで強く提示されたテーマ性や想いの余波や残滓が個別に流れ込むところはあれ、更に深く掘り下げたりとかそういう事はないので、分類としてはこういう分け方で語っていこうと思います。

 大枠としては、主人公が奉行になった事も含めて、実際的には出来事の全てが伏線、真犯人の思惑の想定内にある中で、日々発生する事件から、その影を少しずつ垣間見て、最終的に全てを糾合させて真実を暴き出す、という流れになっていきます。
 時代性としては江戸がモデル、と上で書きましたが、物語としては歴史もの的ではなく時代もの的、かつ様々な要素を混在させているので、そのあたりは恣意的に、この話の中で伝えたいことをより鮮烈に抽出するための舞台装置を整えた、といっていいでしょう。

 実際、作中での登場人物はそれぞれに隠された立場とか思想を抱いている事が多いですが、それもまあなんというか、時代劇に親しんでいる人ならなんとなくそうなんじゃないかなー、と想像のつくありようになっています。松平健とか松方弘樹とか、ああいう感じの(笑)。(ちなみに超余談ですけれど、私景元さんに関しては西郷輝彦の方が好きです。なぁにぃをぉ〜、今日は求めて生ぃきたぁ〜♪)。
 そんな感じの伏線や実際的な思想性が錯綜する中で、主人公自身は大岡の血脈としての人情裁き、という理念を第一に掲げ、それを社会正義に適性に落とし込む匙加減を実地の中で滾々と学んでいく、という事になり、しかし結果的にそういう主人公の煩悶や苦慮、血の滲む努力や研鑽を引き出している、そういう方向に知らず導いているのも、というあたりが中々に凄みのある構成ではあったなと感じます。
 
 そして、この作品を読み解く上で大切なのは、あくまで世界像そのものは江戸時代の制度を踏襲している、という点です。
 つまり簡便に言えば、封建制度、身分制度は確かにあるし、それ故の理不尽、絶対的貧困なども当然のように跋扈していて、けどそれを配慮するような特権階級はレアものである、という観点がまずあります。
 ここには法の下の平等とかはまだ成立しておらず、だからこそ北と南で治安維持の方法論がガラッと変わってしまうような状況も罷り通るし、また当然上層部としては北的な冷徹な処置を良しとする風潮はあるのでしょう。

 この本筋の序盤から中盤には、わかりやすくめんどくさい御偉方が出てきて、主人公を目の敵に色々理不尽に引っ掻き回していってくれるわけですが、それも考えようによっては統治のバランスが人情寄りにシフトしていくことによる弊害を鑑みての事とも言えます。
 無論それはあくまで自分が甘い蜜を吸い続ける仕組みを堅持するという矮小な理念ではありますが、思想の枠組みとしてそもそも人権、自然権という観念がないという前提であれば、むしろそれを若い頃から皮膚感覚で知っている主人公の方が異端なんだろうなと思いますし、翻ってその父親の教育方針の源がどこにあったのか、その辺までは触れられていなかったので気にはなりますね。
 北町にしてもやり方は酷であれ、それを指嗾する立場の人間は面従腹背というか、敢えて上の逆鱗に触れないようにバランスを取る役目を自ら負っている感もあり、その意味では北南ともに、名奉行と称えられるだけの在り方、時代劇的なスタンスを踏襲はしていると見立てていいのでしょう。

 ただし、そういう多義的な統治のやりようは、よりその裁きの質に対する理不尽さを強く感じさせる土壌にもなってしまっています。
 情状酌量、なんて理念が言語化も、慣習化もされていない中では、それは被害者として見れば依怙贔屓的に見える余地も当然あるし、罪を憎んで人を憎まず、という理念も形而上の美学、自己陶酔的なものに思われてしまう可能性も必然的に孕んでいて、この作品の根底的なテーマもそのあたりに置かれています。

 そういう曖昧さは、当然奉行としてのお仕事の在り方にも影響を及ぼしてきます。
 私も例外ではなく思った事ですが、まずあまり深く考えずにこの作品の調査パートや白州での裁きの流れを読んでいて、情理を尽くしてはいても明確な決め手には欠けるし、徹底的に反駁されたらどうするんだろう?って感じる部分はあったと思います。
 ただそれは、主人公達の観念や、あと文章的な部分で現代的素養が自然に織り込まれている事による弊害というか齟齬というかで、基本的に白州での裁きってのは最終的には心を挫くところに主眼を置いたシステムなんだろう、とは思いました。

 どうしたって科学的根拠とか、人の目以外の目撃証言、アリバイ証明が出来ない以上、なにを信じ、なにを疑うかは奉行の心ひとつ、という怖さがあり、それを白日化したのが三章の桜編でもあって。
 故にこそその職責、捌きひとつひとつに対する重さは現代の裁判官の比ではないものがあったろうし、もっともふつうの奉行は庶民の人権を強く顧慮しないでしょうから成り立っていた形式、とも言えて、主人公のような思想を抱いていればそれは恐怖を覚えるし、立ち止まる事もある、その果てに自己犠牲を良しとしてしまうような精神性に辿り着く可能性も内包しているのだろうと思います。

 結論的にこの作品のテーゼは、草の根的な社会変革、制度の厳格化の訴えであり、必定として人の作る仕組みの限界を示唆するものでもあったと思います。
 それでも、その中でもまだ悪くない形を常に模索して、変わり続けていかなくてはいけない、というのが、その変革を志向する側の思惑が成功裏に終わったエンドの矯激さ、息苦しさに端的に現れていて面白かったですね。

 畢竟、人は正しさだけでは生きていけない弱い生き物であり、緩衝となるなにかが社会の仕組みの中に存在しないとどうしたって破綻する、というのは歴史的に証明されてもいるところです。
 不条理に対し、物理的に無理だったことを差し引いても、それを社会の歪みの是正に繋げていくあたり、根っこの部分では善良過ぎるという色合いを孕みつつも、社会の仕組みを壊すことは当然に大きな罪となるし、その拘泥こそがバランスを欠いた危険な思想になり得るわけで。
 為政者にはこの矛盾を飲み込みながら、少しでも世界を良くし続ける努力が必要であり、その為には自己の理念や悲嘆に埋没しない、横の繋がり、助け合い、支え合いこそが最良の武器なのだと示すところは、如何にも物語的な閉じ方だったと思います。

★シナリオ(個別)

 個別に関しては、メイン三人は本筋を引き継いで、自分の道を踏みしめて進む中でより強く寄り添って生きていきたい相手の選択、という延長線上にあり、サブ二人は立場的にも、社会の歪みに翻弄されてもがく哀しみ、心の欠損的な部分を強く打ち出した味わいになっています。

 物語性という意味ではサブ二人の方がむしろ抒情的で、弱者故にこそ身につけざるを得なかった強さの悲哀など美しく綴られている形で、これはこれで中々に味わい深く面白かったなと思いますね。
 特に彩花ルートはベタな展開ではあれ、様々な状況に支えられた重みがあり、悲嘆の中で紡いだ絆の重み、切なさを非常に強く感じさせるもので、ラストの紫乃とのやり取りのシーンが凄く鮮烈だったと思います。

 紫乃もまぁ、それまでの立場や依存を見るにつけ、あんな風になってしまう可能性を秘めていたのを主人公の介在、お節介が後押しした、という形にはなっていて。
 他ではその決定的なシーンを目撃していない、という差異化によって、あそこまで慨嘆の海に沈む必然性を排除していると思えば一応筋道は通っていますし、基本的にはそうならない、紀風ルートを通過して後日談へ、という迂路もきちんとしている、かつそこでこっそり拾いそこねた伏線を確保していたりと抜け目ないつくりになっていたなと思いますね。

 メイン三人に関しては、本筋の中で自分の生き方を見直し、新たな決意を胸に前に進むだけの土壌は出来上がっているので、後はそれをどう発展させていくか、誰の手を取っていくか、という問題ではあり、なので主人公が介在しなくても、緩やかにはその方向に進んでいくのだろうという安心感はあります。
 それ故にここではその辺の配慮は最低限で、あくまでも恋愛模様を重点的に描いていて、立場などを踏まえためんどくささも、サラッと社会そのものが変わっていく中でのモデルケース的な理由をつけて軽々と回避、しっかり濃密なイチャラブを展開してくれています。

 正直こういう本筋メインのつくりだと、ヒロインルートはおざなり、おまけ程度に縮小されてしまう場合が多いのですが、これは後日談でも酌はそれなりにしっかり、シーン数も恋人らしいイベントもそれなりに確保していて満足度は高いですね。
 理夢の真っ直ぐさや桜の気高さ故の葛藤も可愛いんですが、やはり私的には小梅の、自分の在り方をなにもかも踏まえた上でのひたむきな思慕、甘えが圧倒的な破壊力で迫ってきて楽しかったです。

★シナリオ(ネタバレ白抜き)

 この作品の本筋って、小梅の立場、或いは近藤の立場で流れを見返していくと、色々と面白い発見があるだろうな、それだけの為にリプレイする価値がありそうだな、とは思うのですが、流石に時間がありませんでそこまでは出来ず、ゆえに現状で語れるざっくりした外観を少しだけ触れるにとどめようと思います。

 まず近藤の立場から見ていくと、まず自身の不幸と不条理に直面した事で、それでも純粋な恨みつらみに走らず、ある程度善性を持っていたが故の正義感の暴走で、社会制度の改革という遠い道を選択して、ある程度それを察しつつ主人公の父親は黙認していたのはあるのでしょう。
 ただ、結局の所多少幕府の政策に関与できる組織を作ったとはいえ、厳然として身分の壁はある限り簡単には事は進まず、二人の奉行や名君である小梅の父の存在があっても、それは近藤の目にはあくまでも手ぬるい体制内改革に映っていたのでしょう。

 それに業を煮やしたのか、小梅の父の暗殺に関してはなんとも短絡的な感はありますが、あの時点ではこうして幕政を牛耳る立場に奉行二人を押し上げる、というような目論見があったのやもしれません。
 でも結果的にそれは、兼ねてより血判状にて将軍の弟を傀儡にし幕政を牛耳るという謀反じみた魂胆を練っていた永井一派を利する結果に終わってしまい、改革を進めるどころか、より腐敗を拡大する結果になってしまって。
 けれど一方で、主人公という錦の御旗の存在を覚知して、そこで方針を切り替え、こちらはこちらで傀儡を仕立て上げる、それに従って主人公の思想を育て上げる、という事になり、それが主人公の奉行抜擢に繋がっていくわけですね。

 その意味で、最初の事件に小梅が巻き込まれたのが必然なのか偶然なのかは不明ですが、その窮鳥を自身の懐に匿いつつ、主人公の器を試すという一石二鳥がそこに顕現していて、しれっとその後も奉行所の一因として留めたのも大きな布石であり、永井一派に対する牽制でもあったと言えますね。
 それだけに、その策謀で主人公が一時的に昏倒に陥った事件は、まかり間違えば大元の目論見を粉微塵にしてしまう危うさを秘めていたわけで、なんとなくその後の桜に対する当たりのきつさも、無論理屈としてこの場で永井一派を一網打尽にする算段の一環、というのもありつつ、地味に八つ当たり的な色合いもあったのでは、と勘繰りたくなります。

 小梅は小梅で、最初の収監の時点でも、いざとなれば身分を明かしてしまえばいい、という切り札はあるので完全に取り乱さずにいられた、というのはあるでしょうし、そして一連の解決を見て、この面々になら社会正義の実現に対する期待を寄せてもいい、という計算は働いたところはあると思います。
 それでも本質的に人恋しく善良でもあるから、桜編あたりでも背景に一抹の疑いは抱きつつ寄り添うしか出来なかったし、その流れの中で自身に火の粉が飛んでくることも半ば覚悟していた雰囲気はあって、半端に背景を見知る故の煩悶は重かったろうなぁ、と感じますね。

 そして永井一派の影響力を幕閣から排除した事で、いよいよ真の目的を達するための具体的な方策に着手する事が出来るようになったわけですが、その動きは逐一北町に補足され、嫌疑の目を向けられていたわけで、その辺はもう長年の因縁というか、おそらく主人公の父が惨殺された時点で、その犯人はわかってたんだろうなぁ、と。
 それでも、こんな性急な形で、かつ主人公の思想性を完全に自分達の側に寄せるだけの挫きを紡がぬままに為さざるを得なかったのは、前回の失敗を踏まえ、また掌中の珠の重さを知り尽くす故に、今しかないという乾坤一擲を感じさせるものですね。
 なので、全体として設定的に甘いようで、しっかり因果と必然は担保されている事になりますし、小梅が生半可に動けない理由づけも、思想と状況の両面で積み上げているのが印象的で、その部分での整合性に曖昧さはないのが強みになっていると思います。

 ともあれ、将軍である小梅と、改革の先導者である近藤、ついでに言えば景元の理念や考えを、その折々に比較しながら見ていくと物語の複層性と、思想性の差異、それぞれの正しさと虚しさが透けて見えてきて面白いと思います。
 ただ結局のところ、近藤にしても完全な革命ではなく、主人公という錦旗を押し立てての体制内改革に留まっている部分はあり、社会の歪みがその制度を保ったままで改善に導けるか、という点は難題で、いくら将軍がそこに問題意識を持っていて、町を統括する奉行が緩衝的なありようを体現したとしても、それを全てに波及させることが出来るのか、そのあたりは封建制度の限界を示しているようでもあり、中々に示唆的です。

 でも結局、制度を生かすも殺すも人であり、じゃあ翻って今の時代はそのあたりの欠点を補って完璧なのか、理不尽はただ直截的に命のあるなしに関わらないだけで、構造としては同じなのではないか、という問いかけも孕んでいて、結果的に処方箋は人の繋がりしかない、というところに結実するのがいかにも、ですね。


★シナリオ総括

 ちょっと感想的にもあちこち話が飛躍した部分はありますが、作風としても様々なものを恣意的な舞台設定に仮託して盛り込んでいると思いますし、その全てを拾い上げるのは中々大変で、思った以上に歯ごたえのある作品だったなと思います。
 随所に触れたように、仕組みの中での限界があるからこその粗さは見え隠れするものの、それも含めて意図的な色合いは強いですし、全体構成としても野心的なもので、それを全て中途半端にさせずに完結させたのは大したものだと感じますね。
 その分だけ尺も中々ですし、突き抜けて面白いか、というとそうでもないですが、総合的に見て名作レベルの出来にはあったのではないでしょうか。


キャラ(20/20) 

★全体評価

 登場人物も多彩に渡る中、様々な事件を通じてそれぞれの思想や生き様をしっかり掘り下げていると言えますし、そこに決定的な錯誤はなく、ただ社会と折り合いがつくか、正義の体現として許されるか、という視座を根底に置いて描いている分、基本的に嫌味はなく真っ直ぐで清廉な人柄がより明確に打ち出されている作り込みだと思います。
 社会性の中での異端として主人公達を置くことで、読み手の共感がそこに必然として依り易い形式になっていたのもプラスですし、それぞれの信念がぶつかり合う様は美しかったと思いますね。

★No,1!イチオシ!

 まあ元々一番好きでしたけど、プレイを終えてみれば更にぶっちぎりで小梅になりますよねー、と。
 色々謎が多そうな子だなぁ、とは思っていたけれど、まさかそういうスタンスかい!って驚きはありましたし、その癖にどうしてあんなに真っ直ぐで献身的で優しくも強い子に育っているのか、むしろ主人公含めてその生育環境の突飛さに意外性が強く滲んでいるというべきか、変革の萌芽はその上の世代に既にあったと見做す証拠とでもいうべきか。

 ともあれどこまでも一途で健気で、それでも自分の立場は見失わずに両立させようと願う様はいじらしく、なんとしてでも支えてあげたい、そのささやかな志望を、夢をかなえてあげたいと思わせる儚さがありましたね。
 だけに個別に入っての割り切ってからの真っ直ぐさは超可愛かったですし、他ルートでの恋に恋するモードも良かったですけどやはり一線を画した可愛さだったと思います。無邪気に甘えていつつも、時にひっそり蠱惑的な気配を偲ばせる手練手管といい、もうメロメロにさせられましたね。ホント絶品に可愛かったですし、シナリオ補正込みで考えれば殿堂ラインに乗って来るんじゃないかなと思います。

★NO,2〜3

 理夢も思った以上に気風が良く爽快で愛らしい素敵なキャラでしたね。
 途中の事件に置いて自分の追いかけていく夢の形の難しさと悲しみを理解しつつ、それでもと胸を張って歩む様は素敵でしたし、立場的には本来一番臆して引っ込んでなきゃいけない立場なのに、ここ一番で上の立場の人間の遠慮をサラッと取っ払う人懐っこさ、人間的魅力の発現がとても目立っていましたし、本筋終盤で主人公を喝破、叱咤するシーンとか痺れましたね。
 恋愛面でもいざ障害がなくなれば猪突猛進、ってのがいかにもでしたし、それでいて家庭的で甲斐甲斐しいところも、女の子らしい愛らしさも存分に備えているのだから中々に卑怯な可愛さだったと思います。

 桜も当然好きではありますが、どうしても序盤のツンドラぶりがあるから上二人には届かないかなって。
 でも三章での苦悩と変転は素敵でしたし、あと個人的に主人公との絡みというより、小梅との関係性が凄く素敵だなあと思っていて、立場を超えた、なんつーか乙女の園のシスター的な繋がり、信頼の形がすごく気に入ってます。
 勿論恋愛モードに入っての乙女感、隠し持っていた可愛さの炸裂も素晴らしかったですし、基本的には満足していますね。三章とか明らかに桜が悪いにしても、そんな虐めないでー、ってこっち側で見ていられる匙加減にはなってましたしねー。

★その他

 紫乃も普通に可愛かったですよね、どうしても気持ちの上での絶対、があるだけに、中々依拠するところはなかったにせよ、きちんと仲間と認めた相手に対する誠実さと真っ直ぐさは美しいものがありました。

 男キャラだと紀風の存在感、そこにいるだけでの信頼感はいいものがありましたし、誰もが腹に一物抱えてる世界観の中で燦然と輝いていたとは思います。
 景元なんかも色々抱えつつの複雑な人格のありようは面白かったですし、基本的に憎めないキャラばかりしかいないのでその点では痛々しさはありつつも楽しめるところだと思います。


CG(18/20)

★全体評価

 とりあえず素材量としては圧倒的、なんですよね。
 質としてはかなりばらつきや偏りがあって、純粋に絵柄としても好みど真ん中か、って言われるとそうでもないので評価が難しいのですが、しっかり作品の雰囲気を引き出すのに必要な部分に出し惜しみなくリソースを注ぎ込んでいる姿勢は評価したいですし、このあたりが妥当な落としどころかなと。

★立ち絵

 ポーズは正確に数えてないんですが、特にヒロイン格にはかなり多彩なポーズパターンが用意されています。腕差分なんかまで含めるとメイン3人は10パターンくらいあったんじゃないでしょうかね。その分だけ躍動感や感情の迸りが鮮烈だったのはありますし、ここは良かった点ですね。
 特にお気に入りは小梅の前屈み祈り、この正面からの照れ顔とか破壊力有り過ぎて大好きです。
 その他お気に入りは、小梅は大体全部、理夢正面、前かがみ、躍動、桜正面、呆れ、紫乃正面などですかね。

 一方服飾は、時代性も加味してかかなり控えめ。
 ヒロイン格の三人でもおまけ下着まで入れて3〜4種類で、サブも1〜2種類、まあこの辺は登場キャラがやたらと多いので仕方ない面もありますし、ポーズが多彩なだけでこれで水準レベルとは思いますがね。
 デザインも和を基調としつつハイカラなイメージも付与して、折衷した可愛らしさが出ていると思います。
 お気に入りは小梅普段着、寝間着、十二単、下着、理夢普段着、寝間着、下着、桜普段着、紫乃寝間着あたりですね。

 表情差分もかなり多彩ではあり、遊びの要素も多く散りばめられていて目に楽しく映りましたね。質的には結構荒れて感じるところもありましたが、基本的には愛らしくいい出来だと思います。
 お気に入りは小梅はまあ全部でいいや、理夢笑顔、きょとん、呆れ、叱り、照れ笑い、苦笑、哀しみ、膨れ、桜笑顔、照れ焦り、睨み、怒り、苦笑、紫乃惚け、照れ拗ね、微笑、怒りあたりですね。

★1枚絵

 墨絵やSD、カットイン的なのも全部一括してコミコミですが、総量225枚という大ボリュームには圧倒されます。
 墨絵は幽玄な雰囲気、SDは愛らしさなど、絵柄で場面の使い分けがかなり明確に為されていて、その点でインパクトはありましたし、質もばらつきはあって決して素晴らしい、とは言いづらいのですが、この物量だと致し方ないかな、と思う向きもありますね。

 特にお気に入りは、小梅のあんみつあーん。この極限的な可愛さはもう私を殺しにかかってるとしか思えません。。。
 その他お気に入りはざっとになりますが、暴走理夢、縋る小梅、小梅なでなで、父の死、お風呂覗き、桜剣舞、縁側の理夢、花火、小梅と資料の山、その正体は、牢獄での語らい、信じています、目覚め、感極まって、紫乃と紀風、小梅と夜桜、理夢の糾弾、理夢絡繰りつくり、腕組みデート、キス、寄り添い、愛撫、正常位、屈曲位、晩酌、朝這い、騎乗位、対面座位、桜手繋ぎ、巨大パフェ、キス、愛撫、酔いどれ、添い寝、背中合わせ、小梅膝座り、本を前に、想い通じて、膝枕、手淫、フェラ、正常位、まんぐり返し、添い寝、酔っぱらい、背面座位、抱きつき、バック、辞世、紫乃愛撫、正常位、キス、立ちバック、夜酒、すず、墓、対峙、正常位あたりですね。


BGM(18/20)

★全体評価

 おそらく意図的な、この作品の楽曲面での大きな特色はボーカル曲なし、になりますね。
 無論それは単純にはマイナス、ではあるのですけれど、それを補うだけの楽曲は用意されているのと、あとOPEDにしても曲ではなく、それぞれの述懐などを差し挟むという特殊な演出を組み込んでくる中で、その情感を従的なスタンスで支えるには曲のみの方が適している、という判断なのだと思います。
 流石にこれだけボリュームのある意欲作で、そこだけ資金的に都合がつきませんでした、なんてオチはまずないでしょうしね。。。

★BGM

 全部で41曲と、水準は余裕でクリアしていますし、全体的に和の印象でまとめつつも折衷的な良さも織り交ぜ、それでいてタイトルは硬骨的に四文字熟語で統一するなど、端々にこだわりを感じさせる作りですね。
 純粋に四文字に収めているだけでなく、漢詩などからの引用も多いから、その背景にある雰囲気との調和も含めて印象深いですし、曲そのものとしても総合的に質は高く、流石にこれだけでこれ以上の点はつけにくいですが、BGMとしては最大級に高く評価しています。

 特にお気に入りは2曲。
 『真実一路』は非常に勇壮で壮大で、曲がらぬ意志の強さと、それを支える想いの温もりをバランスよく紡いだ素晴らしい一曲になっていると思います。
 『快刀乱麻』は、裁きでの一騎打ちなどでよく耳にした分印象深いですし、この壮麗で疾走感と切迫感のあるメロディライン、管楽器の旋律の奥行きが素晴らしく、とても好きです。

 その他お気に入りは『桜花繚乱』『無事息災』『実践躬行』『嚆矢濫觴』『察言観色』『一触即発』『安平穏々』『至誠一貫』『鳩首凝議』『推理考察』『永遠偉大』『春愁秋思』『不不安穏』『万死一生』『春和景明』『抜山蓋世』『清風明月』『朝雲暮雨』あたりですね。


システム(9/10)

★演出

 1枚絵にだいぶ依拠してはいますが、基本的には情感演出の積み上げ方が上手く、要所では更にそれを奥深く積み上げていて、しっかり物語に引き込む力があったと思いますね。
 日常もポーズ差分の多彩さやSDが主力ではあったものの、コミカルさ、軽快さ、愛らしさをしっかり引き出せていたとは思いますし楽しくプレイできました。
 OPはしっかり作品全体像のイメージを投影した堅牢なつくりになっていますし、ボーカルがない分だけより鮮明に愚直にそれを打ち出せていて印象深いものはありましたね。

★システム

 足回りなどはちょっと不便さはありましたね。スキップの停止とか、ジャンプ搭載なしとか、結構こまめにセーブしておかないと後々面倒なことになる、ってところはありました。
 縦書きや可変ウィンドウは作風にマッチしていて良かったと思いますし、シナリオチャート的なのも用意されていて、それが一応ジャンプ不可の代替的な役割になっていますが、分岐地点くらいは明示できる形にしておいた方が親切かな、と。
 なにせ奉行パートを何遍もやるのは大変ですし、そもそも最後のほうとか一度クリアしただけで全部の正解なんて覚えられる量でもないですしね。。。

 操作パートや奉行パートの作り込みもシンプルでわかりやすくはあったので良かったと思います。


総合(90/100)

 総プレイ時間32時間くらいですかね。本編が20時間を超えるくらい、ヒロインルートはメイン3人は2,5時間、彩花と紫乃は1,5時間くらいで、後はバッド回収やおまけシナリオなどなど。
 完全に二部構成になっているので、物語が錯綜して中弛みしたりという部分はほぼなく、むしろ本編は話の進みが早過ぎるくらい次々怒涛の展開になっていく上、きちんと最後には伏線が綺麗に収束するので見事な出来で、奉行パートがそれなりに難しいのはあれ一気にプレイできました。

 実際奉行パートは間違えてもおまけの勲功がもらえないだけではあるので、最悪総当たりでもなんとかなりますし、ちゃんと理路を踏まえて考えれば読み解ける、ひっかけなどは特にないものなので、その点でも楽しめる余地は充分にありますね。
 ただし探偵ものとは違い、より精密な実証とかを求めだすとあれ?ってなるので、あくまで舞台背景を認識しての、この時代性を加味した裁きのありようだというのは頭に置いておくべきでしょう。

 本編だけでも普通にフルプライス級のボリュームがある上、そこからの後日談としてのヒロインシナリオも、流石に純粋恋愛ADVの個別ほどではないとはいえ、かなりしっかり濃厚に仕上がっているので、そちらが目当てでも肩透かし、という事はありませんし、色々と癖はありますけどしっかりした意欲と方向性が感じ取れる作品ですので、ピンとくるものがあったなら是非に手に取ってもらいたいですね。とても面白かったです。
posted by クローバー at 04:09| Comment(0) | 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年03月22日

どこまでも殉じて

 フェアリーテイル・レクイエムはゲルダ、レクイエムとクリアして無事にコンプリートです。
 やー、面白かったぁー。そしてきっとゲルダが本丸に違いないと見込んだ私、えらいっ!これは本当にいい順番でクリア出来たんじゃないかなと思いますね。

 ゲルダシナリオ自体は、やはり他のルートよりも懐疑的な視座の中で、現実の影がちらつくのが早い、その中での二人の想いが重なりそうで重ならないもどかしさと、主人公が抱える苦悩の深さ、複雑さを感じさせるものでしたね。
 自己の認識そのものに絶対の信頼を置けない状況下でも、必死で大切なものを手放さないように心を強く戒め、その上でその唯一絶対の目的に対して、状況にそぐう形での殉じ方を見せてくれる辺りは、この後のレクイエム編での諸々も含めて実にメインヒロイン感満載だなぁ、だけど不憫に過ぎるなぁとしみじみ思うものでしたねー。

 その上でのグランドルートたるレクイエムは、流石というべき伏線の回収力と密度、そして僅かなり不思議要素も絡めつつ、実質的にはしっかり現実に向き合う強さを、手に手を取って紡いでいく輝きと価値を示していて、非常によくまとまった綺麗なおとぎ話の完結だったなと感じます。
 まあこの場所に関してはやっぱそうなのかー、ってのと、改めてのルート分岐と同じ画面での罪人探しはドキッとするものがありますよね。まあ論理的に考えるとこの子しかいないだろう、とは思ってても、絶対間違えるとドンマイな結末になるんだろうなー、って思ったので冷や冷やでしたが、一応初見でミスらず進めたので、その点ではきちんと読み解けていたと安堵する次第。

 ただ結果的に、実は先に間違えていた方がより思い入れは強くなったんじゃない?って観点はあったりもして、どうあれ本当にゲルダちゃん超メインヒロインですわー、超好きだわー。
 まあこちらのバッドもこれはこれで、現実の上でもおとぎ話を再構築する、という観点でのひとつの皮肉な結末であり、かつ実情を踏まえると説得的な展開でもあるのですが、その分だけゲルダのあの悲しい誓いが胸に響く響く。やっぱり先にこっち見て、その上でトゥルーでも良かったなとは思うけれど、でもわざわざ間違えとわかってる指摘を突き付ける気はなかったので仕方なし。

 しかしこの流れでアンコールって、どういう形式のストーリーになるのかも読めないしそれはそれで楽しみですね。時間ないので今夜もサクサク進められるだけ進めます。
posted by クローバー at 17:57| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年03月21日

なにが罪か

 レクイエムはオデット&オディールをクリアしました。
 他のルートに比べても一段と雅趣の効いたテキストに、双子の方向性の異なる神秘性、謎の要素が加わって面白かったですし、その背景にある想いの深みに関しても考えさせられるものはありましたね。

 結果的にこの場所に辿り着く分水嶺となっている原因がどこにあるのか、って見た時に、そうするしか守れなかった、という悔恨があるようには感じられて。
 勿論最大の罪人は、ってのはあるにせよ、そうするしかなかった罪悪感と、ただひたすらに無垢純良である事の罪深さ、その両面を切なく味わえる素敵なお話だったと思います。

 なのでどちらのルートがより凄惨か、という中での救いは確かにあったのだろうし、根本的なものではなくてもそれが必要ではある、という観念は今までの中でも一番強いかな、と思いましたね。しかしそれにしてもこの病院まがいの施設はなんなんでしょうね、って話ですけれど。
 あとこの二人のルートは、二人のテーマ曲が凄く出来が良くて、その哀切がより一層物語の美しさを引き立てていたと思います。まあ曲数自体は見てみてオイ、って思ったけれどね。。。
 次はジルダですね。この子のルートがある意味では一番現実に近いところで展開しそうですし楽しみです。
posted by クローバー at 19:37| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする